レイヴンの交戦記・飛翔 〜信念と執念と〜 〜第2話 共にある事〜 その後明確なポジションを定め、どのような状態でも戦えるよう作戦を打ち立てた。 どんな軍隊やチームでも統率が優れなければ強くはない。また核となるリーダーもしっかり していなければ全員を牽引できない。 またリーダーという存在は必要だが、それ以上にお互い個人個人の力が必要だ。己が抱く 強い信念と執念が定まっていれば不動の心構えが生まれる。 団結を優先に。過去の大戦でアマギ達に口煩く言い聞かせていった。大きな目標に一同一丸 となって目指す。根底にその一念が定まっていれば、未来永劫負ける事は決してない。 そして各々鍛錬も欠かさずに、である。団結優れたりとも個人個人が強くなければ意味が ない。休む事も必要だが、止まる事はしてはならない。それこそ停滞し、己の成長を止めて しまう事になる。 シェガーヴァ(常々日々に強き給え、少しでも外れる事あれば悪の道に堕落する) シェガーヴァの言葉が脳裏に過ぎる。何時の時代か、これは古人の言葉だ。俺も彼も、辛い 現実を目の当たりにした時に言い合っている。 作戦会議を終え、一同各々の行動に移り出す。襲撃が何時になるか分からない以上、備えは しておかなければならない。 また万全な状態を維持しつつも、己の鍛錬を忘れてもいない。各自アリーナドームへと赴き 修行に明け暮れた。 マルデュリア「50機の機体調整、全て完了しました。」 シェガーヴァ「分かった。ジュリフィル、そちらはどうだ?」 ジュリフィル「こちらは後14機体です、もう暫くお待ちを。」 ガーヴェルス「マスターレイシェム。89番機のロジックに多少誤差があります、直ぐに修正を。」 レイシェム「了解、直ぐやるわ。」 シェガーヴァとレイシェムの補佐を行ってくれている3姉妹。人工知能ヴァスタール・コア から代表して生まれた人工生命体。故に2人と同じくプログラミング系の作業はお手の物。 機体整備から仲間の人工知能の調整と、多岐に渡って作業を行ってくれている。 製作者のシェガーヴァ・レイシェムの2名も更に多岐に渡る作業をこなしている。人間では 不可能な複数の行動も、2人にとっては朝飯前だ。 ウィン「3人が参入して作業効率が上がったみたい。」 ユキヤ「いくら経験が浅くても、ベースは2人と同じだしな。」 イレギュラーに位置付けされている俺は子供達の面倒が役目だ。ウィンも手伝ってくれて おり、幾分は負担が軽くなっている。 ウィン「・・・さっきはごめんね、言うつもりはなかったんだけど・・・。」 ユキヤ「いや、俺も悪かった。やはり彼らには嘘は通用しない。」 ウィンは恐縮じみているが事の発端は俺達にある。やはりどんな時代にせよ、嘘は隠し通せる ものじゃないな。約300年近く生きて来た中でも再度確認させられる。 ウィン「ターリュちゃんとミュックちゃんが一番レイヴンに近いわねぇ。」 ユキヤ「アリッシュもそれに感付いていた。下手をすれば自分も抜かれると。」 ウィン「案外いいタッグが組めたりしてね。」 ユキヤ「フフッ、違いない。」 俺はよく思う。どんな時代どんな戦術戦略を持つものも、誰かしらの影響を受けている。 それは紛れもなく師匠と弟子という関係であろう。 師匠は弟子に持てる全ての力を伝授し、弟子はそれを受け継ぎ師匠を超えようとする。年代 は同じであれ、アリッシュの弟子はターリュやミュックとなるだろう。またユウ達の師匠も アリッシュであろう。 ナイラが言っていた。一時期エリシェに育ててもらった事は師と弟子の間柄だと。戦術の 大多数はエリシェからの受け継ぎだ。それはナイラの戦術を見ればエリシェに似ている事が 何よりの証であろう。まあエリシェに基礎戦術を教えたのは俺ではあるがな。 ユキヤ「そういえば、俺は独学でレイヴンとしての技術力を学んだんだな。」 ウィン「あれ、以前お父様から学んだと言ってませんでしたか?」 ユキヤ「全くACの操作方法を知らなかった時、基礎操作法は伝授して貰ったよ。何分親父も実際は レイヴンじゃないんだから。俺のレベルアップを見つつ、コアに操作方法をインプットして いったんだ。」 ウィン「となると、起源はユキヤなんだ。」 ユキヤ「まだまだ未熟な起源だけどね。」 俺は今の今まで自分が強いとは一切思っていない。むしろ未熟であり、まだまだ学ぶべき事 は沢山ある。 技術力の向上には上限がない。己自身が限界と判断しない限り、無限大まで伸び続ける。 俺も己の限界という概念を拭い去り、今も修行に明け暮れている。 ライアに伝授した形になるイメージトレーニング方法を欠かさず行い、実際に機体に乗り 戦闘を行う。大破壊後からのこの約300年はこれの繰り返しである。 ユキヤ「お前さん、何時レイヴンになったんだ?」 ウィン「あれ・・・そういえば何時だろ・・・。」 ユキヤ「以前の戦闘記録を見る限り、かなり経験が深いのは分かる。だが俺が知っている限りでは、 まだレイヴンではないはずだったようだが。」 ウィンは頭を捻る。自分でも何時なったかという事が分からないようだ。 シェガーヴァ「ああ、ウィンは転生した時に私のベースロジックを与えられたようだ。動き方が昔の 私に酷使している。おそらくは生身の人間だったため、シェンヴェルンがロジックを 追加したんだろう。」 作業を行いつつ、シェガーヴァが応対してくる。そしてその内容は実に驚愕するものだ。 ウィン「となると・・・私って強化人間じゃん・・・。」 シェガーヴァ「いや、お前は人間だよ。それに、実は追加は可能なのだよ。」 ユキヤ「大凡俺らと同じか。遺伝子操作で外見の年齢を固定するのと同じように。」 シェガーヴァ「ああ。記憶や経験自体がデータ化できるという事は、膨大な数になるが探し当てる事 も可能だ。それを別の筐体に移せばいいだけの事。」 ウィン「お父様のロジックが私の基礎なのですね。」 凡人からすればイレギュラーであろう。人間の生命そのものを操作する事になる。 クローン生命体は先刻彼が語ったのと同じ。未練があったため今世に舞い戻る。それもどう いった原理かは俺には理解できない。 だが現にこうやって転生している事やウィンの基礎操作を見れば、それは実在するという事 になる。論理や理屈で語るものではない、現にそうなのだから。 深く考えれば永遠の悩みになるだろう。人間だった彼が語った“イレギュラーに尽きる”で 済ませた方が気が楽だ。 シェガーヴァ「言うまでもないが、私の師匠はユキヤだ。私は基礎知識のみ与えただけ。後の修行で 会得していった技術力などは、全てユキヤが発展し成長させていった。」 ユキヤ「そう考えると凄いよな。無様な修行をやってたら、皆に笑われるわな。」 苦笑いを浮かべそう語る。シェガーヴァもウィンも小さく笑っていた。 シェガーヴァ「お前には色々な面で感謝している。言葉に表すと膨大だな。」 ウィン「だね。」 俺の原点回帰は過去や今を生きるロストナンバーレイヴンズの全員の中に生きている。だから マイアが悪を許せないという意味も理解できた。 しかし俺はそうは思わない。マイアや皆は個人だ。意思が異なる独立した生命体。理は心中 にあったとしても、それからどう動いていくかはその人に委ねられている。 これこそが人間というものだろうな。 その後シェガーヴァ達はヴァスタール隊のロジック調整、ウィンは子供達の面倒を行う。 俺は休憩も兼ねて、大食堂へと向かった。修行もいいが、息抜きも大切な事である。 レイス姉「お隣、よろしいですか?」 ユキヤ「ああ。」 軽食を取り一服をしている所に、レイス姉が現れた。物思いに耽っている姿が暗く感じ取れ たようで、心配そうにこちらの様子を窺っている。 レイス姉「何かお悩みでも?」 ユキヤ「いや、何も悩んではいないさ。昔から息抜きをする姿はそう見えちまうのよ。」 レイス姉「フフッ、貴方らしい。」 原点回帰を成したレイス姉、悩みは全く窺えない。また心中の悩みも感じ取れず、すっかり 過去の漆黒の魔女に戻っていた。 レイス姉「・・・覚えていらっしゃいますか。私をお連れになって外食に行ったのを。」 ユキヤ「・・・あ・・ああ、懐かしいな。」 暫くして珍しい発言をする彼女。無心で物思いに耽る時は無防備になりやすく、直ぐに応対 できない。暫くしてからの対応であった。 ユキヤ「行き付けのレストランだった。ハンバーグステーキとフレンチサラダを頼んだな。」 レイス姉「おいしかったですね。」 今となっては懐かしい思い出だ。彼女も当時の様子が鮮明に浮かんでいる事だろう。 ユキヤ「・・・不思議だな。お前は当時から成長した姿でいる。傷付いた身体だが、その傷こそ今 までの経験を物語る。俺はどうだ、肉体の年齢だけは当時から全く変わらない。精神体のみ 老いていくのは辛いものだ。」 レイス姉「それは私も同じです。肉体の云々なくとも、精神は貴方と同じですよ。」 ユキヤ「・・・ごめんな。色々と迷惑ばかり掛けちまって。」 レイス姉「と・・とんでもない。私こそ大変な迷惑を掛けてしまった事を・・・それに・・・?!」 悪かったとばかりに彼女の唇に人差し指を当てて会話を止めた。その後首を左右に振る。 ユキヤ「俺が悪かった、お前にはもう思い出させる事もしたくない。それ以上は言いなさんな。」 レイス姉「で・・でも・・・。」 ユキヤ「大丈夫・・・もう大丈夫だから・・・。」 俺は彼女の頭を撫でた、詫びの一念も込めて。そして安心しなという意味もあった。 レイス姉「・・・分かりました、ごめんなさい。」 どうやら落ち着いてもらったようだ。やはり過剰反応を示す所を見ると、心中ではまだ悩みは あるようである。 彼女の肩を軽く叩き、椅子に寄り掛かる。その後徐に目蓋を閉じた。レイス姉も同じく椅子 に寄り掛かり、静かに目蓋を閉じる。 どれぐらいそうしていただろう。俺もレイス姉も目を閉じたまま、不動で沈黙していた。 レイス姉「・・・貴方と共にいられて幸せです。」 ふとレイス姉が口を開いた。俺に対する一念の現れだが、別の意味では不安でもある。 ユキヤ「ありがとな。だがお前は既に人妻だ、俺への一念の強さはあまり表に出すなよ。」 レイス姉「昔は昔、今は今です。原因の根源は私にありますが、既に未亡人ですし。それに貴方を 愛している、これは昔も今も変わりません。」 ユキヤ「ハハッ、ありがとな・・・。」 流石ラフィナの孫、そしてライアの祖母だ。意固地で一度決めた事は微動だにもしない。この 信念の強さには真恐れ入る。 だからこそ今も心身共に強くいられるのだろうな。実に羨ましい限りだ。 アリッシュ「あ、いたいた。兄貴、修行の相手になってよ。」 何時見てもアリッシュの明るさは羨ましい限りだ。不安などを一瞬で吹き飛ばしてくれる。 どうやらシェガーヴァに居場所を聞いたようで、ここに駆け付けて来たようである。 ユキヤ「おし、やるか。」 レイス姉「私もご一緒しましょう。過去にエリシェ様の修行にお付き合いした経験もありますし。」 アリッシュ「うぉ〜、やるじぇ〜!!!」 我先にとアリッシュがガレージへと向かっていく。若さパワーは何時見てもいい。 俺とレイス姉は後から彼女の後を追ってガレージへと向かっていった。その最中彼女は俺の 右腕に自分の左腕を絡ませてくる。 母親になっても恋心多き乙女、それはライアを見れば明らか。レイス姉も新たな人生を過ご しているのだ。 黙って彼女のしたいがままに見を任せた。俺ができる精一杯の応対である。 その後アリッシュを修行すべく、俺とレイス姉は動いた。彼女の潜在能力は凄まじいもので あり、以前修行をした時よりも格段に強くなっている。 またアリッシュだけでは可哀想と思ったのか、レイス姉が他の5人も参戦させた。5人も アリッシュだけ強くなるのは気に食わないようで、凄まじいほどの気迫で追い付こうと努力を しだした。 先ほども述べたが、彼女達の潜在能力は高い。エリシェ達も同じく潜在能力が高かった。 流石遺伝というものだろう。負けじ根性が更にそれを加速させている。 それに更に驚く事があった。前回の大戦前にレイス姉の実力を窺っていたが、その時以上に 力を増している。心のモヤが薄らいだ事により、純粋に身になっているようである。 力を増す事に己の心の弱さにも気付きだしているようで、常日頃から精神修行も行いだして いる。過去の時代に存在した、格闘家と修道僧を併せ持つモンクという形になろう。 彼らを含めた全ての人物が誰かと共にある事を願いだしてから、眠っていた潜在能力を開花 させだしている。 何度も言うようだが、人間は1人では生きてはいけない。レイヴンという職業でも、戦闘力 となるACパーツ群は全て人が作り出している。 無論精密機器の集合体である故に、人間の手での製造は限界がある。しかし自動化を行うも 最終決定は人間だ、人工知能でもそれまでは不可能である。 食事もそう、衣類も住居も。全て人間が作り出しているものだ。自給自足の時代であった 原始時代などとは全く異なる。 俺はこの約300年生き続けて、それを嫌というほど思い知った。というか経験であろう。 それらを否定し我が道に突き進んだ忘恩の輩の末路、これも何度となくこの眼で見てきた。 俺の眼に映る人々で誤った道に進もうとしている人がいれば、命を掛けて救おう。それが 俺にできる最低限の行動だ。そしてそれも後の世に伝えていく。 彼らと共に生活できて、本当に感謝している。そしてこれからも世話をし、世話になろう。 心中でそう決意しつつ、俺は6人の娘達の修行を繰り返し続けた。 第3話へ続く |
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