レイヴンの日記帳・再来 〜希望を得る者達への道標〜 〜第2話 修行と依頼と〜 元からコンコードなどに目を付けられていないアリッシュ達。俺は異名を使う事で彼女達を 簡単にレイヴンにする事ができた。 祖母達が健在の頃。レイヴンではない彼女達は祖母達の計らいで、既にACやMTを簡潔に 操作していたようである。レイヴン試験は全く無傷で攻略し、当の推進者を驚かせていた。 しかも彼女達はまだ10歳前後の少女達だ。火星の騒乱時は5歳前後。それ以前にレイヴン としての修行を行っていたという。 ターリュやミュックといい勝負ができそうだ。まあ、それが実現できるのはあと5年前後は 必要ではあるが。 それぞれの愛機を調整する天使達。どれも見定めた機体構成であり、流石はエリシェ達の 孫であろう。俺は簡単なアドバイスしかしておらず、後の全ては彼女達の発展系の応用がもの をいっていよう。 スラム街から巣立って早2週間が経過。幼い天使達はいっぱしのレイヴンとして成長しつつ ある。 アリッシュ「それほど難しくないね。」 リンル「おばあさんにACを操作してみろと言われた時は、正直驚きましたが・・・。」 ユキヤ「全ては慣れだよ。」 メンテナンスを終えた6人。その後初陣を飾るものは何にするかを決めだす。 本来ならユウト達に出向いてもらい、直接修行相手になってもらうのがいい。しかし彼らは 別の戦いがある。今は本命の戦いに集中してもらい、俺がサポートする形がいいだろう。 ユキヤ「さて、何の依頼を受ける?」 基本を心得ている彼女達。アリーナバトルは己の腕の向上に繋がるが、やはり本命は依頼を 遂行してこそ技術力向上だろう。それを理解し、有無を言わずミッション修行を選んだ。 コンピューターに関してかなりの知識を持つエリヒナ。彼女が代表してナーヴ上の依頼を 探して回る。その手際の良さは幼い頃に訓練していたのか、かなりの腕を持っていた。 エリヒナ「アリーナ出場もありますが、祖母はミッションで経験を積めと言っていました。」 ネイラ「私達のレベルがコンコードにも伝わっているようだからさ、高レベルな依頼は来ないと思う けど。」 コンピューター画面に映し出された文字列を見て、6人は首を捻り思考を巡らしている。 「輸送部隊追撃」・「航空機護衛」・「地下施設破壊」・「海上施設襲撃」。この4つの ミッションしか表示されていない。初陣である6人にとって初歩的なものだろう。 しかし内容によってはどれも高度なレベルであり、レイヴンとしての腕が問われるものだ。 一同を代表してエリヒナがそれらの内容を読み上げ、5人はそれに耳を傾ける。 エリヒナ「・・・以上です。」 ユキヤ「お前達のレベルからすると、航空機護衛辺りが無難だが。しかしどれも敵側企業に同業者が 雇われている可能性がある。レイヴンがいるかいないかで難易度はかなり異なるぞ。」 相手側の戦力にレイヴンがいれば難易度は大きく変わる。特にそのレイヴンがトップランカー クラスなら、初陣の6人にとって強敵となり負ける可能性が出てくる。 アリッシュ「・・・請けましょう、航空機護衛を。」 決断は一同のリーダー格であるアリッシュが下した。他の5人はそれに反対する素振りは全く 見せず静かに頷いていた。 ユキヤ「俺も同行しよう。もしレイヴンが雇われていたら、俺が代わりに相手をする。お前達は他の 敵勢力を撃破するんだ。」 6人「了解。」 エリヒナ操作の下、クライアントに受諾のサインを送る。これで6人は航空機護衛の依頼を 遂行する事になった。 初陣ともあり、機体構成はそれぞれが最初に決めたものでの出撃。どれも個人の個性が出て いる。 ミッションによって機体構成を変更するのはレイヴンの欠かせない作業工程だ。しかし敵側 が把握できない今回の依頼は、とりあえず出撃だけ試みるという形になる。バリエーションに 富む6人故に、情況対処が取りやすいと言えるだろう。 今後彼女達が6人1組で活動し欠点を補い続けるのなら、おそらくミッションに関しては 恐ろしい猛者となるだろう。 エンリェム「護衛対象の航空機は何でしたっけ?」 アキラ「確か・・・爆撃機だったような。」 エリヒナ「詳細な情報までは載せていませんが、おそらく爆撃機だと思います。」 一路依頼場所であるセントラルオブアース北東の空港まで向かう。7機のACを移動させる 車両はクライアント側から提供される筈もなく、俺がナイラにオファーをして大型の輸送車両 をチャーターしてもらった。 この車両はACなら軽く10機以上搭載可能で、狭いがメンテナンスブースもあり長距離 移動に適した車両と言える。外装は武装を施さないものだが、ガルウイング形式のコンテナ ブース故に直ぐにACの発進が可能である。緊急事はガルウイング自体を吹き飛ばす形状を しており、急発進を可能として生存率を高めていた。 ユキヤ「この車両は今後のお前達の活動足として使いな。」 リンル「構わないのですか?」 ユキヤ「お前達の祖母の弟子的存在であるナイラがダメだと言うか?」 アリッシュ「フフッ、言いませんね。」 かつてエリシェ達が平西財閥に勤務していた時、幼いナイラを修行していた時期があった。 それ故に恩返しとばかりに、天使達には最大限の支援を行っている。 本来ならレイヴン試験を通った直後は資金もなく、初期機体でのミッションやアリーナ参加 が当たり前だ。しかしナイラは彼女達に自分の愛機をシミュレーションで組ませると、それら パーツを購入し初陣祝いとしてプレゼントしたのだ。 大企業の社長令嬢故に成せる技だが、別の意味合いでは恩返しも含まれているのが感じ取れる だろう。 エリヒナ「私達にそれぞれの機体を組ませて頂き、尚かつ軍資金として50000コームも渡して くれました。」 アキラ「50000コームあれば暫くは活動できそうです。」 リンル「後でお礼を言わないと・・・。」 ユキヤ「お礼は行動で返す、エリシェ達はそう言ってなかったか?」 アリッシュ「ですね。」 これも俺がエリシェ達に告げた礼の返し方だ。言葉で礼を述べるよりも行動で述べた方が断然 誠意感がある。また義理返しもレイヴンなら直接行動に出した方がハッキリしていて簡単だ。 依頼を冷徹なまでに遂行し、貰った恩の返しも行わない。これでは更にレイヴンという自体 無責任やら冷めた者の集まりなど言われ続けるだろう。 それを変革するために、過去にアマギ達にも厳しく言い続けてきたのだ。言わばこの恩返しは ロストナンバーレイヴンズの誠意の行動でもあろう。 もっとも、恩返しを期待して恩を売るような馬鹿げた真似はするなとも厳しく告げてある。 過大な期待などを受け過ぎ、愚者に堕ちないようにという警告だ。 まあアマギ達の後継者達はそんな事など諭す必要もない。各々が何をすべきかをしっかりと 見定めている人物達ばかりだ。それこそ愚問というやつだろうな。 リンル「ここがそうみたいです。」 輸送車両は大型空港へと到着。セントラルオブアースでは複数空港を所有しており、これは その中で一番小さいものだ。しかし小さいといえどその規模はネオ・アイザック宇宙港を軽く 凌駕するものであり、流石は地球政府が管轄するだけあると思う。 これでネオ・アイザック同様の宇宙港を所有すれば更に発展するのだが、今だにそういった 行動を起こしていない。 まあ政府は企業ではない故に、財力を持たないというのが実状だろう。今の世界での最大の力 を保有しているのは企業以外にないからな。 空港の外側に輸送車両を待機させ、俺達は愛機に搭乗し空港内部へと入っていった。目の前 に待機中のサンクチュアリ級の爆撃機が護衛対称だろうか。 オペレーター「・・・以上が作戦の内容です。敵はどこから現れるか分かりません。万全な状態で 待機して下さい。」 エリヒナ「了解。」 コクピット内部で通信をするエリヒナ。6人の中でコンピューター関連に博識なのはご存じの 通りで、一同を代表してオペレーター役を買って出たのである。 エリヒナ「この爆撃機5機を補給が完了するまで守るのが仕事のようです。」 アキラ「どのぐらい?」 エリヒナ「連絡が入り次第離陸するという事です。」 ネイラ「何か簡単だね。」 依頼内容を聞いた6人は安心している様子。だが不測の事態が付きものなのがミッション、 この安心感では気が緩み失敗を招きやすい。 “レイヴン”として成り立ての頃、俺も同じ境遇になり苦い思いをした。まあそれがある からこそ今の俺がいるんだが。 まあレイヴンとして活躍する前から半世紀以上、ACで戦闘訓練はしてきた。だがそれは レイヴンとなる前だ。死闘の戦闘訓練から簡潔なミッションに移った事により、惰性が生じた のだろう。 人間、最初の戦場が厳しい場所から優しい場所に移ると気が抜ける。これは十分注意しなけれ ばならない。 オペレーター「レーダーに反応、距離35000。機影は1です。」 安心して待機している6人は案の定驚きの表情を浮かべているだろう。俺から向かって北西 から何かが向かってくるのが分かる。 エリヒナ「皆さん散開して下さい。護衛対称から敵を遠ざけましょう。」 5人「了解。」 天使達は散開し、爆撃機の前方へと進み出る。そして肉眼で確認できた機影に武器を向けた。 対称が機影が1つとなるとレイヴンの可能性がある。俺も彼女達に紛れて前へと進み、相手の 動向を窺った。 しかし直後意外な人物の音声が内部スピーカーから聞こえてきた。 レイヴン「ありゃ、旦那じゃないっすか。」 ユキヤ「その声はサーベンか。」 何と敵レイヴンと思っていたのはサーベンだったのだ。機体全てにマシンガン系列を搭載した 重装甲ACクウェイナイトアルオーン。その姿は確かに敵勢力側に雇われたレイヴンと思って しまっても仕方がないだろう。 ユキヤ「爆撃機の破壊が依頼か?」 サーベン「そうなんでさ。昨日依頼を受けて今日の襲撃になったんだけどもよ。でも流石に旦那を敵 に回したくはないわ。この依頼はキャンセルしておくよ。」 ユキヤ「悪いな。」 そう語るとクウェイナイトアルオーンは反転し、その場から去って行こうとする。だが直後 サーベンを含める8体のACに内部通信が流れてきた。 レイヴン「活躍しているそうだな。」 全く聞き覚えのない人物だ。俺以外のメンツは何がなんだか分からない様子で辺りを見回す。 それにオペレーターから敵出現という通信が入らない。サーベンの時と違い、どこから通信を 入れてきたのか分からなかった。 エリヒナ「オペレーターさん、レーダーに反応は?」 オペレーター「レーダーには今現れたAC以外に反応はありません。」 サーベン「気味の悪い野郎だな、姿を表せやこらっ!」 戦闘態勢に移行するサーベン。この行動を見る限り他の面々にはサーベンが絡んでいるとは 思えないだろう。熱血漢故に嘘は付けないのがサーベンのいい所である。 レイヴン「今はまだやめておこう。いずれ対峙する時が来る、それまで腕を磨いておくんだな。」 ユキヤ「・・・貴様がグライドルクか。」 グライドルク「・・・流石は風の剣士という事か。いずれ対決できる時を楽しみにしておくよ。また 会おう。」 その言葉を最後に、グライドルクからの通信は途絶えた。どうやらこちらの動向を窺っている ようだ。 サーベン「旦那、野郎もデアどもと同類の輩で?」 ユキヤ「娘達の因縁の相手だ。お前さん達には直接は関係しないが、いずれ総出で対決する事になる だろう。」 サーベンは武装を解除し、グライドルクに関しての質問をしてくる。デア達と対戦した後だ、 イレギュラー要素の存在に心なしか落ち付かない様子である。 サーベン「了解、対戦できる時を楽しみにしておきまさ。」 そう語るとその場から動き出すサーベン。クウェイナイトアルオーンはブースターダッシュを 行い、空港から去っていった。 サーベン「ああ、そうだ旦那。嬢ちゃん達の事は見なかった事にしておくよ。あと嬢ちゃん達もさ、 今後辛い思いをするだろうけど挫けちゃダメだぜ。」 去っていく中、内部通信で俺が思っている事を理解していたサーベン。また彼なりに6人の 事情を理解したようで、激励しながらの撤退であった。 エンリェム「何か熱血漢の男って感じがする。」 ユキヤ「あいつは嘘は付けない性質でな、曲がった事が大嫌い。何でもかんでも猪突猛進で突き進む が、無謀ではなくしっかりと見定めているやり手だよ。」 アリッシュ「あの人にも後でお礼を言わないと。」 襲撃が依頼だったのにそれをせず帰還したサーベン。6人は事情はどうあれ、今は彼に感謝 しているようだった。 その後補給が完了した5機の爆撃機は離陸を開始。サーベン撤退後から目立った出来事は なく護衛は完了した。 クライアント側からはサーベンを撤退させた意味合いを込めて追加報酬が支払われ、意外な形 のオマケとなったようだ。 リンル「でも修行とは言えないかな・・・。」 リンルが輸送車両を運転し、一路セントラルオブアースへと帰還する俺達。彼女は最短で 車両系の運転技術を身に付けたようで、6人の中で一番運転が得意だった。 その運転最中にリンルが小さくぼやく。確かに戦闘を行わなかったこのミッションでは、機体 の操作技術の向上は図れなかった。 ネイラ「まぁまぁ。」 アリッシュ「あいつの事が分かっただけでいいかもよ。」 俺はエリシェ達がどういった経緯で殺害されたのか、それを6人に正確に述べた。 火星の騒乱の最中にテロで殺害されたと思われるが、それはグライドルク等が手を下したに 過ぎなかった。 私利私欲に駆られ快楽のために破壊や殺害を繰り返したグライドルク・ヴィルグラーガ、 そしてシェンヴェルン。デヴィル等が動き出すより前に、既に動き出していたのだ。 ユキヤ「もう少し早く気付いていればな、エリシェ達を殺されずには済んだのだが。」 アキラ「兄貴それは言わない約束っしょ。」 もう振りかえるなという意味合いを込めて、アキラが代表して一言述べる。幼いながらも心は 見定まっており、改めて彼女達の凄さを思い知った。 ユキヤ「そうだな、悪かった。」 俺も一言そう述べて、座席に寄りかかった。運転中のリンル以外の5人も疲れた表情で座席に 座っている。戦闘がなかった初陣だが、戦闘マシンのACに乗り込んだだけで精神力を使った ようである。 サーベン(今後辛い思いをするだろうけど挫けちゃダメだぜ) サーベンが言っていた言葉が脳裏を過ぎる。 彼はこれを予測して告げたのであろう。今後の戦いで経験する血生臭い職業であるレイヴンと いう一面を。保護者はいるが、あくまで主役は6人だ。その場の戦闘などは全て彼女達に降り 掛かる。 まあ常に正しい事を見定めて生きていたエリシェ達の孫である。そのぐらいでは挫折しない とも確信している。これもまた愚問というやつかも知れないな。 第3話へ続く |
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