レイヴンの日記帳・再来 〜希望を得る者達への道標〜 〜第3話 空中戦闘〜 グライドルクからの予告とも言える発言を聞いてから早3週間が経過。その間数々の依頼を 遂行したり、アリーナに出場したりと動き回った天使達。 血は争えず短時間でかなりの腕を身に付けた。エリシェ達も短期間で技術力を習得し、俺達を 驚かせていたのが懐かしい思い出だ。 俺は専らメカニックとしての立場で6人のサポートに回っている。最近では依頼でレイヴン と対峙する事はなく、また彼女達のレベルアップに基づいて護衛での参加は行っていない。 今彼女達は依頼先でレイヴンと遭遇しても、そのコンビネーションで撃破ができると思う。 財閥の面々が見ても、彼女達の連携は凄まじく統率が取れていた。 ここまで団体で動く所を見ると、単独でミッション遂行が厳しいと判断する事であろう。 しかし最近は各々が単独で依頼を遂行するケースも増えてきており、単独だろうが連携だろう が戦闘力は変わらない。 彼女達の目覚ましい成長振りに、俺はただただ圧倒されると同時に嬉しかった。 エリヒナ「今度のミッションは全員で。」 エンリェム「これは確かに・・・。」 エリヒナを中心に依頼の内容を確認する5人。ざわめく6人を見て俺もその内容を窺った。 「空中給油機護衛」。以前請けた依頼で護衛した爆撃機の空中給油を護衛するというものだ。 内乱や戦闘が小さく起こっているこの地球。レイヴンも戦力だが長時間飛行が可能な爆撃機も 重要な戦力だった。しかし長時間飛行する事は不可能であり、どこかで給油を行わないと墜落 してしまう。 この依頼はその給油機に搭乗し、給油の間の護衛を行うというものだ。しかしこのような 高度で敵が現れるというのも不思議で仕方がない。 考えられるのはそれと同じ給油機クラスの戦闘兵器か、それとも空中投下によるACでの直接 戦闘か。どちらにせよ6人には更に難易度が高いミッションであろう。 ユキヤ「1人頭70000コーム、それだけ難易度が高いという事か。大丈夫なのか?」 アリッシュ「既に受諾のサインはしちゃったよ。」 ユキヤ「ありゃ、お早い事で。」 思い立ったら吉日、彼女達は迷う事なくこのミッションを選んでいた。内心ハラハラする俺を 尻目に、きゃいきゃい騒ぐ天使達。若いというのは無謀に近いが明るく活発で羨ましいな。 今こうして6人がライア達と騒いでいるのを見ると、あのミッションは遂行できると確信 して選んだのだろう。そうでなければ難易度の高い依頼など請ける筈がない。 本当に若いというのは羨ましい限りだ。 今度の目的地はコルナートベイシティ。そこの潜水艦ドッグを直接爆撃する機体の補給の ようである。以前ユウトが潜水艦を破壊する依頼を請けた事があったようだが、今度はそれを 爆撃で破壊する事になるとはな。潜水艦を簡単に建造できる企業の財政力には真恐れ入る。 今回も輸送車両で移動し目的地に向かう。車両での旅路には慣れたようであり、天使達は 落ち着いた様子で到着を待った。今回は俺も参戦し、不測の事態に対しての対処を行う。 輸送車両に揺られる事数時間、依頼先のオールド・アヴァロンに到着した。ここの空港から 給油機に搭乗し、給油ポイントまで向かうという形になるようだ。 車両から愛機を下車させ、給油機の元へと向かう。搭乗するその給油機を見て俺達は驚いた。 通常輸送機ともなればAC運搬などの目的で用いられるが、内部には最大で2機前後しか 積載できない。大型ヘリでもそれは当てはまり、最大で3機までしかAC運搬はできない。 しかしこの給油機は特別だった。特にその規模である。俺達が移動で使っている輸送車両 より巨大であり、給油対象になるサンクチュアリ級の爆撃機より5倍近い規模を誇る。 AC運搬を可能とし、そして補給をも可能とする。それには給油機自体を巨大化する必要が あったようで、更に同機の護衛となるAC搭載も考慮したようだ。 言い換えれば補給輸送機だろう。しかもメンテナンスブースをも備える動く要塞である。 アキラ「これはまた・・・。」 エンリェム「滅多な事では撃墜されないような気がするけど。」 ユキヤ「ACと違ってジェネレーター起動じゃないからな。燃料を燃やして動く航空機やシャトルは 事実危ないものだ。特に給油機は大量の燃料を搭載するから、それ自体が動く爆弾みたいな ものだからな。」 エリヒナ「敵がACの場合はまず給油機の護衛が最優先ですね。」 改めて報酬金額の高さの意味を知った6人。だが別の意味ではこの給油機は広範囲に渡って 活動が可能な砦となる。もしこれが使用可能であれば、今の移動車両よりも断然有利になる とも思っているようである。 まあ今の彼女達を見る限りでは、この給油機はその場での憧れの念でしかない。ライア達と きゃいきゃい騒ぐ6人は、この場が一番楽しいのは言うまでもないだろう。 それに彼女達の祖母が同じ行動をしていたのだ、彼女達も同じ行動に進んでいっても決して おかしくはない。 愛機を給油機に搭乗させハンガーに待機させると、給油機はゆっくりと離陸を開始。この 巨体だ、離陸は簡単には不可能であろう。これはグレイクラウドを見れば分かる通り、巨大な 機体ほど起動する時間が必要で離陸にも更に掛かる。 ACをハンガーにセットした時点から殆ど休憩となり、後は護衛場所まで待つしかなかった。 離陸した給油機は、一路空中給油ポイントまで向かって行った。 簡易ガレージでは6人が依頼内容の再確認をしている。今回の空中戦闘ともなれば、落下は 命取りに近くなる。以前請けていた依頼以上に真剣な表情が、このミッションの難易度を指し 示しているだろう。 今回のミッションに同行するに当たって、俺の機体はパーツの変更を行った。以前ユウト達 がデア達と戦った時に用いた機体構成。グレイクラウドを一刀両断したものだ。 空中戦闘ともなれば落下が予測されるため、高出力高容量ジェネレーターは必須である。 例の各両肩に球形のパーツを搭載し、大胆な外見をしていた。 大体からしてHOY−B1000パーツを各3機ずつ、機体メインも含め合計7機という 構成はイレギュラーそのものだろう。2足最大積載量パーツを用いなければ、右腕左腕の武装 も併せた機体荷重を維持できるはずがない。 レーザーライフルは元より重量があり、レーザーブレードは従来のブレードの10倍出力と いうイレギュラー仕様だ。 まあ前回より異なったといえば、その両肩ジェネレーターバックパックの仕様だろうな。 前回はその容量を並列に列べ、1機がレッドゾーンに突入したら別のジェネレーターに移行 する形式だった。それにより出力も並列と化し、従来の機体全体のエネルギー消費量を差し 引いた余剰分が回復速度に比例していた。 しかし今回は別の形式にも対応できるように施した。つまりは全ジェネレーターを並列に 列べるのではなく、直列で列べるのである。つまりは7機のジェネレーター全体で1機という 仕様であり、出力は機体全体消費エネルギーを差し引いた以外に6機分の出力が追加された。 HOY−B1000の7倍の出力と容量を誇るジェネレーターなど他にはない。それこそ グレイクラウドやセラフといったカスタム仕様の機体に使われる特殊タイプと言えよう。 こんなパーツを簡単に企画し作成してしまうシェガーヴァとレイシェムには恐れ入る。 オペレーター「そろそろ目的地です。有事に備えて下さい。」 作戦会議も終わり、トランプゲームで遊んでいる6人。まったく、この余裕はどこから出て くるのか不思議でならない。俺はその間に愛機や彼女達の機体も調整しているというのに、 そのぐらい機転を利かせてやって欲しいものだ。 そんな中、同機搭乗のオペレーターから連絡が入る。どうやら目的地へと近付いたようで ある。 メンテナンスを終え、彼女達に搭乗を促す。俺も愛機に搭乗し、後は不測の事態である有事に 備えた。 どうやら今、複数のサンクチュアリ級爆撃機に空中給油を行っているようだ。表を窺い知る 事はできないが、機体の外部マイクがポンプレッサーの起動音を拾っている。音が聞こえる ぐらいであるから、相当の大きさを誇っているようである。 オペレーター「・・・未確認の機影を確認、数は・・・50です。直ちに出撃し迎撃して下さい。」 不測の事態は起きたようだ。ポンプレッサーの音が段々と静かになっていく最中、突然と オペレーターが敵襲を告げる。ハンガーからACを解放させると、俺達は即座に機体を発進 させた。 機内ガレージには外部へと出るハッチはなく、機体後方に設置されているエレベーターを 用いての外部への出撃だった。エレベーターは3基あり、天使達はそれぞれの機体を昇降台に 載せて表へと出ていく。俺は殿を担当し、彼女達全員が表に出てから機体を昇降台に載せた。 簡単な迎撃機銃を搭載している給油機。各銃座が敵を迎撃している。しかし決め手となる 攻撃ではなく、相手の進攻を抑えるぐらいしかできないようだ。俺達は給油機の上部へと移動 して迎撃を開始した。 敵はファイヤーワークとなっているが、これらは改良を施されているようだ。通常のこれは 巡航速度が極端に遅く、ACの格好の獲物となっている。しかし今攻めて来ているこれらは 明らかに速度が異なる。その速度はフロートAC巡航クラスであり、捕捉するのがやっとと いうぐらいだ。 天使達は愛機の各武装を用いて迎撃を開始する。しかしどれも命中率は5分5分であり、 命中させるのは困難を極めていた。かく言う俺も必中はさせるが、二次ロックを踏まえた時間 修正でコンスタントに射撃が繰り出せていない。 相手の移動も直進や左右ジグザグなどトリッキーな部分があり、命中率を悪くさせている原因 でもあった。 アリッシュ「これは厄介ね。」 ネイラ「敵側の機銃掃射も馬鹿にはできないし。かといって極端な回避行動を取っては落下する危険 が高いし。」 アキラ「とにかくやるっきゃないっしょ。」 それでも天使達は攻撃を止めない。徐々に相手の動きを読めてきたのか、的確に目標を撃破 していく。流石はレイヴンというところだな。 俺はこまめに撃破しつつ、レーダーを目視し辺りの様子を窺った。 悪い予感は的中した。それは突然起こった。 突然上空から爆雷が大量に散布され、それらが給油機に着弾する。運良く直撃を免れた天使達 だが、給油機の機体上部に直撃したため爆炎が辺りに立ち込める。 これが補給前であったら燃料に引火し、大爆発を巻き起こしていただろう。時間的に救われた のかも知れない。 しかし悪い予感はまだ続いている。その大量の爆雷は何によって投下されたかだ。 これほどの投下数からすれば爆撃機からの空中投下が該当するが、そのどれもが明らかに的確 すぎる。これはACによるインサイドパーツの爆雷投下しか考えられなかった。 銃弾が俺の愛機を襲う。直上から右腕のマシンガンを連射しながらACが降下してくる。 この高度からの空中投下は、更に高々度からの輸送機による空中投下しかない。 ユキヤ「ACだ、各機落ちないよう散開して間合いを取れ!」 俺は天使達に間合いを取るように促がし、目標を俺だけに絞った。他の6機のACは散開し、 それぞれの間合いを保つ。しかし相手は俺を狙っているようであり、弾丸を回避する俺に容赦 なく追撃してきた。 銃弾が止むと轟音を響かせて給油機の上へと降り立つAC。その機体は標準2足をベースに どれもが軽量パーツで構成させている。武装はマシンガンとミサイルランチャーのみ。また 爆雷散布を考えると、インサイドには爆雷投下パーツが装備されているようだ。 AC「・・・モクヒョウヲカクニン・・・ハイジョスル・・・。」 合成音声が辺りに響く。どうやらこのACには人間は搭乗しておらず、人工知能を用いた無人 機体のようだ。にしては爆雷投下の精密度は高すぎる、これには何か裏がありそうだ。 ユキヤ「高火力武器は一切使うなよ。誤射で給油機に当たったりしたら一大事だ。」 ヒット&アウェイで間合いを取りつつ、敵ACとの距離を維持する。相手側も無人ACに しては行動が適確で、俺の背後に回ろうと躍起になっている。 レーザーライフルを射撃しつつある程度相手の行動パターンを把握。しかし人間とは異なり、 無人故に行動にランダム性が出ており完全には読み辛い。 リンル「兄貴、全ての航空機を撃破完了。」 どのぐらい対峙を繰り返しただろう。リンルの内部通信により、既に戦闘から20分が経過 していた。 この極度な戦闘状況でいい加減疲れが見え始めている。だが相手は運悪く人工知能搭載型AC だ。つまりは疲れを知らないという事。クローンではあるが生身の肉体である俺には相手が 厳しすぎた。 アリッシュ「兄貴、後は任せて。」 アキラ「さっきオペレーターから連絡があって、残りの燃料は時間稼ぎの間に破棄したそうです。 今は帰還に必要な燃料しか搭載されていません。」 ネイラ「思いっ切りやれるじぇ。」 無人ACを両サイドから挟み撃ちにして攻撃を開始する天使達。俺達7機は無人ACを中心 に円を描くように散開し、誤射がないよう適確に攻撃を開始する。 相手AC側は天使達に攻撃をされても、なおも俺に目標を定めてくる。どうやら終始俺だけに 目標を限定するロジックを組んできたようだ。 それぞれのACから放たれる弾丸やミサイル・レーザー弾などは必中とも言えるほど正確に 無人ACに着弾している。さきほどのファイヤーワーク改の戦闘でロック技術を磨いたのか、 疲れを知らない凄まじい射撃が繰り広げられている。ある意味俺より適確だ。 疲れを知らない無人ACだが、さしものこれも7体のACから範囲に渡り攻撃をされては ひとたまりもない。機体各所を撃ち抜き破壊され、ついにはジェネレーターの誘爆により爆発 し粉々に飛散した。 エンリェム「疲れを知らないってのは参るねぇ・・・。」 エリヒナ「でも人間搭乗ACよりはワンパターンですよ。戦場が戦場なだけに気が滅入りますが。」 ユキヤ「とにかく・・・休もうぜ、流石に疲れた・・・。」 俺の珍しい弱気な発言に、6人は小さく悲鳴をあげる。まったくこの美丈夫達には参る。 そしてつくづくこうも思う。やんちゃ振りはエリシェ達と全く同じだと。 その後敵がいなくなったのを確認し、俺達は給油機のガレージへと撤退した。同機もその間 に帰路へとついており、再び束の間の休息時間が訪れた。 相変わらず一難去ったら気が抜けるこの6人の態度には恐れ入る。まあこれだからこそ、いざ となった時に真価を発揮するのかも知れないな。 シェガーヴァ(送られてきたデータから推測すると、シェンヴェルンが組み上げたもののようだ。) ユキヤ(俺だけに的を絞ったのがどうもな・・・。) ガレージの椅子に腰をかけ、物思いに耽っている様子でシェガーヴァと通信を行う。念波に よる意識での会話方法だ。 シェガーヴァ(おおよそシェンヴェルンの事だ。天使達を強化する上での投入なのだろう。奴が本気 を出せば簡単に殺す事も可能な筈。それをしない所は強くなってから殺す主義のよう だな。) ユキヤ(皮肉だが頷ける。) シェガーヴァ(とりあえず一段落付いたら戻って来い。そろそろシュイルやエリディムが動き出す頃 だろう。6人もそろそろ独り立ちをする時期だからな。) ユキヤ(ああ、分かった。) シェガーヴァとの通信を終えると、俺は懐から煙草を取り出し一服する。6人は大騒ぎで一時 を過ごしていた。そんな6人を見つめると微笑ましい気持ちになるのは言うまでもない。 シュイルが動き出したのはそれから2日後。デュウバ妹が専属でパートナーを務め、後方 からバックアップを行っている。 更にシュイルが動き出す直前、同じく動き出したエリディム。ライアが決戦時に撮影した 動画を閲覧して立ち上がった様子で、彼より出遅れる形だが確実に一歩前へと進み出した。 そして2人よりも先に動き出した天使達。まだまだ荒削りな技術力だが、直間と洞察力は 祖母譲り。凄まじい勢いで技術力を習得していっている。 決戦は近い。それは各々が無意識に感じ取っているようだ。 ブリーフィングルームで騒ぐ一同。約2年前とは全く異なる。天使達も既に一流のレイヴン としての技術力を習得。約2年の月日が彼女達を外面や内面を大きく成長させた。 そしてあの時も思ったように、決戦は刻一刻と近付いている。それはここにいる誰もが感じ 取っているようで、笑顔ながらもどこか緊張感が感じられる。 しかしそれでも騒ぐ一同。これこそが彼らを突き動かす原動力なのかも知れない。 第4話へ続く |
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