レイヴンの日記帳・再来 〜希望を得る者達への道標〜 〜第5話 人工生命体〜 決戦が近づいた。恒例の如く、相手側から攻め入る時間などを通達してきた。今回も地球と 火星、同時決戦である。 家族ぐるみの会話をしてから早5日後、決戦を明日に控えて一同は作戦会議を行っていた。 シェガーヴァ(一同はSTAIが出されるとは思ってないようだ。) ユキヤ(かえって好都合だな。主力メンバーを火星へと派遣し、俺達は地球を担当としよう。) ウィン(火星側は任せて、そちらはお願い。) レイシェム(了解です。お父様と私でSTAIまでの護衛と武装各所を排除しますね。) 念波による意識での会話方法で、俺達は今後の作戦を練る。この会話をしつつも、ウィンには 火星側派遣部隊の総括をして貰っている。 俺とシェガーヴァ・レイシェムを抜いた、ウィンを含める51人のレイヴンも念入りに作戦 を練っていた。 ナイラ「地球側は問題なさそうですね。今回は全兵力を火星本社側に終結させます。地球本社側には ヴァスタール部隊で。」 シェガーヴァ「指揮はウインドとレイシェムと私とが執ろう。もっとも、殆ど戦闘せずに終わりそう な気配だがな。」 クローンファイターズの出撃は認めない、シェガーヴァが断言した作戦。それにはアマギや デュウバ姉妹・レイス姉妹は含まれていない。イレギュラー要素が色濃い俺やシェガーヴァ・ レイシェムが該当する。 故に捨て駒に近い量産型ダークネスがメインとされる地球側に俺達が配置される事に、50 人の誰もが疑いの念を抱く事はなかった。 この心中作戦がイレギュラーな俺達がいる事により掻き消されている。実に皮肉な話だな。 早速移動を開始する一同。地球と火星の財閥の全て社員達は同社の大深度に新たに作られた シェルターへと避難して貰っている。当然財閥運営が不可能である故に、一同には軽い休暇を 取らせてもいる。 社員達にも俺が心中する事は一切感知されていない。その根回しはシェガーヴァに行って 貰っている。 ターリュやミュック達は母親達が移動した火星本社には移動していない。大激闘となる火星 に連れ込んでは命の危険にさらされる。 財閥のアイドル的存在になりつつある6人。戦闘の間の世話は社員達全員が見てくれると名乗 りを挙げてくれた。 普段やんちゃ振りを発揮し騒ぎまくっている6人だが、この時は気持ちが悪いぐらい大人し くしている。俺的解釈だが、俺の死に間際の心中を察しっているのかも知れない。 シェガーヴァ「・・・上手く騙せたな。」 レイシェム「皆さんには悪いですが・・・。」 イレギュラー要素で組み上げたセラフ13体は俺達以外にウィンしか知られておらず、また 社員達にも極秘に製造した。 今回は本当に周りを騙しての行動だな、実にこの上なく後味が悪い。だがそれも完全にバレな ければ問題ない。 ユキヤ「生身で動かせるかねぇ・・・。」 目の前に待機中のナインボール=セラフ。他の機体と何ら変わらない外見だが、以前同様 ブースター火力を3倍に上げたカスタム仕様。更に火力も量産型ダークネスなら一撃で葬れる よう、内蔵デュアルレーザーブレードを5倍仕様に施してある。 シェガーヴァ「私とレイシェムは生身で動かして気絶だったが、普段から戦闘訓練を行っているお前 なら問題ないだろう。」 ユキヤ「テスト動作はぶっつけ本番でいいか。下手に動いているのを見られたらマズいしな。」 一応コクピット内部に座り感触を確かめる。愛機と異なり多少違和感あるが、反応が異なるの はレイス姉やライアが駆っているのを見て確認済だ。 レイシェム「ヴァスタール部隊は最高峰ロジックを積んだものを150体。量産型ダークネスがどの ぐらい投入されるか分かりませんが、戦闘力はこちらの方が遥かに高いと思います。」 ユキヤ「何たって生命体として目覚めたコアだもんな。これほど心強い人工知能は他にはいない。」 シェガーヴァ「壊すのが惜しいが、これも仕方がないのだろうな。」 産みの親として子供が死ぬのは何よりも苦しい。それが人工知能だとしても、生命体として 目覚めたロジックを持つなら尚更だ。 ヴァスタール2「ご心配には及びません。我々はその為に生まれて来たのですから。」 ヴァスタール3「あの時同様、皆様と戦えて光栄です。」 更に人間味を増したヴァスタール・コア。以前はぎこちない会話だったようだが、今は俺らと 何ら変わらない言動を繰り返している。 しかし完全に独立して動き出すのは困るとして、最終判断はシェガーヴァやレイシェムに委ね られるが。 ユキヤ「ますます人間味溢れるな。」 ヴァスタール1「恐れ入ります。」 戦闘補助コンピューターとして、俺が搭乗するセラフにもヴァスタール・コアは搭載されて いる。言うなればACに同化したパートナーだ。 簡単な機体チェックを行う俺を最大限サポートしてくれている。意志を持っている故にその 効率は凄まじいものがある。 人工知能や機械には自殺は行えない。それは生命体として目覚めたヴァスタール・コアにも 該当する。 自殺は意思が通った人間だけが行う業苦。純粋に生きる事を優先としている動物には、理解 できない思考であり絶対真似もできない。 故にヴァスタール単体がSTAIと心中するという行動は不可能。己の身・己の命を呈して 守り通すという命令は可能だが、心中=自殺と解釈する人工知能や機械にとっては不可能だ。 リュウジやウィン妹がSTAIと心中した時は別で、それは主が行う行動に同席しただけ。 結果的には破壊=死亡という内容に繋がる事ではあるが、“己の命を投げ打ってでも守護”と “己の命を投げ打ってでも心中”とでは全く解釈理念が異なる。 人命優先を何よりも守る人工知能であれば、この限りではないと思われるが。 セラフのコクピット内部の感触を確かめ、俺は機体から降りた。その最中敵側に捨て駒同然 に扱われている量産型ダークネスが哀れに思った。 ユキヤ「量産型ダークネスも、生まれる場所さえ違えばヴァスタールと同じだっただろうに。」 シェガーヴァ「まあベースとなるものは私が考案したものだが。それをどう成長させるかは、それを 扱う人による。ダークネスは主を誤った為に生まれた、悲しい人工知能だ。」 悲しそうに語るシェガーヴァ。メカをこの上なく愛する彼にとって、この現実は非常に辛い。 だからこそ自分がしっかりせねばとも決意もしている。それは言動を見れば明らかだ。 レイシェム「私達みたいな筐体にヴァスタール・コアを移植すれば、単独で動く事も可能ですね。」 シェガーヴァ「やったらやったで後が辛くなる。」 ユキヤ「それはないと思う。誕生して幸せか不幸か、その最終判断はヴァスタール自身が決める事。 それが生命体というものだ。」 シェガーヴァ「・・・やってみるかな。」 シェガーヴァの瞳が変わった。有言実行、これが彼の行動理念。まあそれは俺にも受け継がれ ている訳で。血は通っていなくとも、流石は俺の父親だ。 自分達の筐体を作るのはACなどを組み上げるより楽な様子。もっとも規模が異なるため、 時間も掛かるのは言うまでもない。僅か2時間前後で彼らと同じ筐体を3体完成させた。 これらに一旦起動を停止したヴァスタール・コア3体を搭載し、再度起動を試みる。 シェガーヴァ「・・・気分はどうだ?」 起動はしている様子だが、全く筐体に反応がない。どうやらいきなり新しい筐体を与えられ、 それに順応していないようである。リュウジやウィン妹が生身の身体に転生した時も、この ように身体が思うように動かなかった事が新しい。 徐に3体のヴァスタールは動き出す。ぎこちない動作だが、歩行に関するバランスは完璧な ほど安定している。流石ACを動かすだけの事はあるな。正直な話、めっさ感動している。 ヴァスタール1「はい、マスター。何だか不思議な気分です。」 ヴァスタール2「機体操作を行うより繊細で、二足歩行が難しい事を改めて実感させられます。」 ヴァスタール3「反応が早いです。機体操作までには若干のタイムラグが発生していますが、こちら では思った事が直ぐに実行できます。」 ホンモノだ・・・。完全に生命体として誕生したと言える。こればかりは流石に脱帽する。 小十分程度の筐体とのリンクを確認し、次の瞬間から人間と殆ど変わらないように動き出す。 こんなものを作っちまうリュウジは、正しく神そのものかも知れない。 ユキヤ「初めまして、かな。」 どんな者でも俺は挨拶を忘れない。初対面の者にはそういった行動をしてきた。それが今し 方誕生した人工知能だとしてもだ。 ヴァスタール1「ご丁寧にありがとうございます。よろしくお願い致しますマスターウインド。」 3人を代表して俺の臨時愛機となっているセラフに搭載されていたヴァスタールが応対する。 シェガーヴァやレイシェム同様、合成音声ではあるが人間味溢れる返答だ。 ユキヤ「何か大破壊前に見た映画の人物みたいだな。」 シェガーヴァ「主は全てマスターで統一させているからな。過去に見た映画の師弟関係にも使われて いたものと同じだな。」 レイシェム「あれですか。念力によって物を動かしたり、レーザーブレードで戦ったりと。」 ユキヤ「念力は架空のものだが、レーザーブレードによる対決はACにもあるしな。案外同じなの かも知れない。」 これも大破壊以前に生きていた者にしか分からない事柄だろう。まあ師弟関係は何時の時代 でも存在する大切な絆であるがな。 ユキヤ「ああ、親父。当然ながら明日、3人は連れて行けないぞ。周辺の残党掃討には構わないが、 俺と死ぬ意味はない。」 完全ではないが、人間として近しい存在の3人を死なせる訳にはいかない。かといって他の コアなら構わないという訳ではない。ただ単に俺と心中するなという意味だ。 ヴァスタール1「ですがマスター、私はマスターの補佐を命じられております。マスターを最後まで 補佐するのが私の存在理由。」 ユキヤ「ではそのマスターが新たな命令・・・というか使命をお前に下そう。他の2人・・、いや 姉妹というべきかな。彼女達と一緒にシェガーヴァとレイシェムの護衛を頼む。当然己の身 も守りつつな。」 ヴァスタール1「了解しました。ですがあくまでも私のマスターは貴方、それはお忘れなきよう。」 ユキヤ「分かった。決戦が終わって転生したら、一緒にターリュ達の面倒を見よう。」 ヴァスタール1「了解です。」 この3人は産まれたばかりの赤子そのもの。意識や知力などは大人であるが、経験や記憶は まだ子供だ。かつてレイシェムが人間として過ごす前と同じである。 まあ人間の子供と違って駄々っ子にならない分、まだ楽ではあるかも知れないが。 ユキヤ「う〜む、そうか。名前を付けないといけないな。」 その後機体の再確認をしている最中に、脳裏に3人の識別をしないと困る事に気が付く。 ヴァスタール・コアの中から代表して生まれた人工生命体。それが生命体のなら名前を持って もおかしくはない。 シェガーヴァ「命名はお前に任せるよ。本来3人はお前の近辺警護を任せようと思っていた。言う なれば3人・・・違った、3姉妹はお前の娘になる。親としての命名という責任は しっかりやってくれよ。」 ユキヤ「娘・・か。俺にもいてもおかしくないな・・・。」 レイシェム「年代は私やお姉様と同じ18という設定です。」 ユキヤ「押し掛け姉妹だな。」 俺の発言に2人は笑う。いきなり娘が誕生するという事は有り得ない。だがそれが人工生命体 なら話は別だ。起動を開始した時からが生誕となるからだ。 3人とも全く同じ表情だが、時間が経つにつれて多少なりとも個性が出始める。それが命名 の切っ掛けとなろう。 ユキヤ「デフォルト名は何だっけ?」 シェガーヴァ「ああ、悪い。外見が機械の筐体では判別不可能だったな。人工皮膚と人間としての 行動が出来るロジックを組むよ。小1時間ほど待ってくれ。」 レイシェム「私は3人が分かり易いような服を用意してきますね。ユキヤ様はそれまでにお名前を 考えておいて下さい。」 言うか早いか、シェガーヴァとレイシェムは行動を開始しだす。 シェガーヴァは人工皮膚と人間の行動が出来るようにするロジックを3人に与えていく。 その手際のよさは既に自分達に施した経験から、凄まじいほどの効率がある。 レイシェムは財閥の衣服倉庫へと足を運び、3人が判別しやすいような服を選び出した。 女として目覚めた彼女の事、コーディネイトなどの知識は女性陣から学び取得済みである。 その間の俺というと、近くの椅子に腰を掛け一服中だ。名前は既に考えており、後は作業が 終了するのを待つのみである。 シェガーヴァ「完成したぞ。」 レイシェム「こちらもOKです。」 人間ロジックを搭載し、外装に人工皮膚を被せる。そして個性が出るような服を身に纏った 3姉妹が2人によって紹介される。 金属体だった粗末な外見だった前とは裏腹に、何ともまあ美しい美丈夫が出来上がった。 音声さえ気にしなければ、それは人間と全く変わらない。 ヴァスタール3「何だか不思議な気分です。鏡を拝見した時、これが私なのかと疑いました。」 ヴァスタール2「人工物な私ですが、このような配慮をして下さり感無量です。」 ヴァスタール1「マスターシェガーヴァ、マスターレイシェム。本当にありがとうございます。」 深々と頭を下げる3姉妹。彼女達はもう立派な人間そのものだ。どこをどう見ても人工知能 だとは思えない。 ユキヤ「初めてレイシェムが誕生した時と同じだな。となると今ではレイシェムは3人の姉になる のかな。」 レイシェム「姉とは恐れ多い。まだまだ未熟者です。」 畏まる点が3人と似ている。やはりレイシェムを含めた4人は姉妹同然だろう。 ユキヤ「さて、親としての初めての使命を果たそう。ヴァスタール・ナンバー1だったな。お前さん はジュリフィル。ヴァスタール・ナンバー2はマルデュリア。ヴァスタール・ナンバー3は ガーヴェルス。おめでとう、この瞬間からお前達は人間そのものだ。」 ジュリフィル・マルデュリア・ガーヴェルスと命名されたヴァスタール3姉妹。胸中にはどの ような思いが巡っている事だろう。 ふと脳裏にメルアやライアが子供達の名前を考え、命名していたであろう風景が過ぎる。 これが親として歩み出す第一歩なのだろう。 ガーヴェルス「ガーヴェルス、これが私の名前。ありがとうございますマスター。」 マルデュリア「マスターから授かったこのマルデュリアという名前。マスターの意思に恥じない一生 を全うします。」 ジュリフィル「ジュリフィルという名前、本当に感激です。ありがとうございますマスター。」 命名された事を嬉しがっている3人を見て、今まで生きてきた中で一番嬉しく思う。これが 親の生まれてきた子供に触れた瞬間の喜びなのだろうな。 ユキヤ「・・・親父、ありがとう。」 俺は無意識に涙を流していた。明日死ぬ前にこのような経験をさせてくれたリュウジに、心の そこから感謝した。 シェガーヴァ「フフッ、お安いご用だ。何たって私の息子なのだからな。」 涙が止まらない。生きて来た中で一番嬉しい。そしてこの世界に誕生して今を生きている事に 感謝し続けた。 と同時に決意が漲ってくる。明日の死は死ではない、旅立ちそのものだ。苦しくとも悲しく とも思う必要は全くない。死という現実の記憶は焼き付くが、今まで以上に生命の貴さや大切 さが身に染みて分かる。 俺という生命体が命を爆発させて突破口を開く。これ以上の歓喜は他にあるだろうか。今の 今までを生きて来た事がここに証明される。 結果的には家族を騙したというものになるが、それでも俺は構わない。家族に同じ思いを させるのであれば、俺が代わりにその役を行う。憎まれ恨まれようが、皆を死なせるよりは 遥かにマシだ。 これこそが俺が動き続ける原点回帰。転生後も貫いていく信念であり執念でもある。 ユキヤ「明日よろしくな。俺は皆が生きる為の突破口を開いてくる。」 シェガーヴァ「任せな。皮肉だが、死んでも死ねない魂なのだ。むしろ思う存分暴れて来い。」 レイシェム「ですね。明日の戦闘を終えて、再び戻って来て下さい。」 俺は2人と堅い握手を交わす。その後近くにいる娘達にも同じく握手を交わした。 死へのカウントダウンが近付いている最中、俺は人間としての恐さが心を支配した。しかし 今はそんなものは一切ない。シェガーヴァやレイシェムがそれらを払拭してくれた。 またジュリフィル・マルデュリア・ガーヴェルスという娘達が、陰ながら俺を支えてくれて いる。子供という存在も恐怖心を払拭してくれた。 やるべき事はただ一つ、STAIを己の命を起爆剤として屠る。心中ではない、俺のこの手 で破壊するだけの事だ。何も迷う必要などない。 俺という生き様、俺という命の爆発。グライドルク・ヴィルクラーガ・シェンヴェルンに ぶつけて叩きのめす。 明日のSTAIの破壊が、俺の新しい死闘への開戦の狼煙だ。 第6話へ続く |
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