レイヴンの日記帳・再来 〜希望を得る者達への道標〜
    〜第6話 知られぬ決戦〜
    翌朝、決戦の時は来た。

    時間差での撃滅を図ったらしく、火星側では既に戦闘が開始されているようである。自分達
   が出撃準備を開始しだす前から戦闘が始まり、早いもので2時間が経過しているようだ。

    ウィンからの情報によると、遺産が大多数を締めているらしい。
   ナインボール・ナインボール=セラフ・グレイクラウド・デヴァステイター・ヴィクセン・
   ファンタズマ・M−9。
    量産型ダークネスは一切見られず、シェガーヴァが予測した通り地球側に配置されている
   様子である。

レイシェム「大丈夫でしょうか・・・。」
シェガーヴァ「心配しなさんな。クローンファイターズや猛者がいるんだ。それに財閥の援護射撃も
       ヴァスタール・コアでのロジックで用意されている。」
ユキヤ「STAIは既に動いているのか?」
シェガーヴァ「以前同様の巨大シグナルがこちらに向かっている。周辺には多数の高速移動物体が
       映っている。その下側には併進している大多数の移動物体。空中護衛にはセラフが
       メイン、地上には夥しい量産型ダークネスのようだ。」
    俺は普段着用しているパイロットスーツとは異なるものを着ている。セラフ改の高速移動に
   よる重力発生を軽減させる効果があるようだ。
    生身でセラフに搭乗し戦闘を行ったリュウジとウィン妹。セラフとまではいかないが、AC
   の高速戦闘で身体に掛かる負荷を軽くしようという試みだ。
    もっとも、これを考案したのは昨日。つまりは俺が試験体という事になる。

ユキヤ「財閥の護衛はお前達に任せる。身命を通して警護してくれ。まあ、死なない程度にな。」
ジュリフィル「了解です。こちらの事はお任せ下さい。」
    娘達に財閥の警護を任せると、俺はセラフ改に搭乗する。その際俺はウインドブレイドを
   一瞥した。今生の別れではないが、何か悲しいものが込みあげてくる。
    既にシェガーヴァとレイシェムは別のセラフ改に搭乗し、遠隔操作で合計10機のセラフ改
   を動かしている。先発した10機は変形後、財閥の空を目まぐるしく移動している。どうやら
   テスト動作も兼ねているようである。

    俺もトリガーを握り、セラフ改を動かす。その反応速度はウインドブレイドの比ではない。
   また着用の特殊スーツがセラフ改との一体感を助けてくれており、微妙な操作でも自分の思い
   描くように動かせた。
    一旦財閥のガレージから表に出て、軽い歩行テストと変形テストを行う。どの行動に移るも
   その反応速度は凄まじい。
    俺の操作を見守っていたシェガーヴァとレイシェムは、ウインドブレイド以上の動きをして
   いる事に驚愕しているようである。
ユキヤ「これはまた、凄まじい機体だ。それに思ったのより重力を感じない。この特殊スーツのお陰
    かな。」
シェガーヴァ「それは違うぞ。その特殊スーツは機体との一体感を促進させるもの。微妙ではあるが
       重力操作も行っている。だが極端な動きに対しては対処できない。そこまで万能な
       物を作るなら時間が必要だ。」
レイシェム「ユキヤ様の操作技術でしょう。レイス様やライア様が操作された時もかなりの動きを
      していました。貴方はお2人より段違いの力をお持ちです。それ故に反映される力の
      規模も拡大しているのですよ。」
ユキヤ「鼠算式か。」
    ウインドブレイドでも自分の身体に重力が頻繁に掛かっていた。それも切り返しを行う度に
   内臓が圧迫されるほどである。
   だがその違和感はACに乗った最初の頃だけだ、今は全く何ともない。むしろ機体性能が自分
   自分の力量に追随できていないようで、偶に思った動きが出来ない時もある。
ユキヤ「レイスやライアが挙って乗りたがる訳だ。これほどの名機は他にないだろう。イレギュラー
    という言葉が一番似合っている。」
シェガーヴァ「今のお前なら無敵だろうな。正しくイレギュラーそのものだ。」
   僅か数分の動作テストで機体の操作感覚を掴んでしまった。それほどまでにこのセラフ改は
   高性能である。
    そして更に痛感する事があった。やはり愛機での修行こそが、己の力量を高めるには最高の
   環境であるという事に。
   まあ今回は愛機は待機で構わないだろう。これがあればシェガーヴァやレイシェム・娘達の
   負担を軽く出来るからな。
    当然ながら力が余りあるこの機体に目移りする事など論外だ。今必要だから使うまでの事。
   それに俺の機体は終始、ウインドブレイドが性に合う。

    財閥の警護を娘達とヴァスタール150機に任せ、俺達は一路こちらに侵攻中のSTAIに
   向かっていった。13機のセラフ改が変形し、編隊を組んで飛行する様はイレギュラーだな。
シェガーヴァ「おいおい、お前の力量は底なしか。」
レイシェム「私達よりも反応が機敏です。」
ユキヤ「仕方がないだろ、思い浮かべる行動が瞬時に実行できるのだから。」
   身体に掛かる重量も全く苦にならない。むしろ愛機での戦闘中の方が苦しいぐらいだ。この
   セラフ改は本当に化け物機体だな。
ユキヤ「実際に戦闘しだして効率が出るようなら、1つ頼まれて欲しい事がある。STAIの破壊は
    俺1人に任せてくれ。」
シェガーヴァ「フッ、そう言うと思ったよ。了解だ、ある程度撃破したら財閥の方へと戻る。むしろ
       今は地上の量産型ダークネスの方が気掛かりなのが実状だ。」
    シェガーヴァの発言には意味がある。それは今自分達が飛行してきた直下には、まるで蟻の
   大群が獲物に向かう如くである。セラフが20体以上だとしても、地上の量産型ダークネスの
   方が遥かに数が凌ぐ。
   財閥の警護を依頼した娘達やヴァスタール部隊でも多勢に無勢だ。いくらなんでも厳し過ぎで
   あろう。
レイシェム「ざっと数を計算した所、2000体は軽く超えています。ロジックが弱くても、数で
      攻められてはひとたまりもありません。」
シェガーヴァ「何故遺産を増やさずに量産型ダークネスを大量生産したのか。私には全く考えられ
       ない。」
   いつもは戦略に富むシェガーヴァやレイシェム。だがこの決戦の真の意味が掴めずにいる。
   それは普段の俺も同じ事ではあったが、今なら奴等の思考が手に取るように理解できた。
ユキヤ「簡単な話だ。今回の決戦は本命ではないという事だ。大凡奴等も足止め程度としか考えて
    いないのだろう。」
シェガーヴァ「馬鹿な、それで2000体も作るか?」
レイシェム「切り札となるSTAIも導入して、これが本命の決戦ではないと?」
ユキヤ「おいおい、普段の切れるお前さん達はどこいったんだ。」
    俺は小さく呆れた。普段の切れのあるシェガーヴァやレイシェムはどこへやら。まあ6日前
   の時と同じく、人間化した2人に切れが欠けだしているという事か。
   まあ時間が経てば回復するだろう。それも今まで以上に切れのある発言が飛び出す事は間違い
   ない。俺はそう確信している。
ユキヤ「ウィンからも今だにグライドルク達が現れたと連絡がない。それにこの軍勢を見る限り、
    人間は一人もいないだろう。駒だけに戦いを押し付け、自分達は更なる駒の製造。そして
    過去の破壊神のクローンの復活。それらが全て完成した時、STAIを超える大軍勢が完成
    するのだろうよ。」
   俺自身も驚いている。何故こんなにまで切れのある発言が出来るのか。考えられるとすれば、
   一時的な死の概念を払拭した事による覚醒であろう。
   端から見れば俺も十分すぎるほどの強化人間と言えるな。
ユキヤ「皮肉だね。完全な時間稼ぎの駒にお前達や俺は命をぶつける。敵の思う壺にハマっているの
    は目に見えている。」
シェガーヴァ「・・・しかし屈する事は絶対しない、だろ。」
ユキヤ「その通り、戻ってきたじゃないか。」
   どうやら2人は俺の死という現実に、少なからず不快感を感じていた。それにより普段から
   切れのある言動が出来ていたのが抑制されていたようだ。
    だがこれはこれで嬉しい限りだ。まがりなりにも俺の事を思ってくれている証拠である。
   これほど嬉しい事は他にはない。

ユキヤ「おいでなさったようだ。」
    厚い雲を抜けると突如として目の前にSTAIの巨体が現れた。
   今までは量産型ダークネスに発見されないよう、雲の中を飛行し続けていた。当然視界状況は
   最悪だが、人工知能にとってはイレギュラー要素。危ない橋は渡らないに限るを貫いている。
    人間であるだからこそ成せる技であり、それこそ欠点が見当たらない人工知能への絶大な
   特効薬となる。
    STAIに取り巻くセラフ達も自分達に気付き、迎撃を開始しだしてきた。その数は予想
   していた数よりも多く、何と倍以上の50体。
   低レベルなロジックだとしても遺産には変わりない。油断するとやられる可能性もある。

ユキヤ「さ〜て、最初で最後の実戦テストと参りましょうか。」
    俺はブースター出力を一気に最大まで引き上げ、怒濤の如く突進を開始した。今まで以上に
   強力な重力が俺を襲うが、それでも愛機での戦闘に比べると大した差はなかった。
    迫り来る敵側セラフの間に入り込む瞬間、俺は変形時に格納されていた両腕を若干動かし
   内蔵レーザーブレードを放出。それもホンの一瞬である。
   繰り出されたブレードは高速で移動中のセラフ改からは一撃必殺であり、左右にいたセラフを
   バターを裂くが如く切り裂いた。真っ二つに切断されたセラフ2機はその場で爆発飛散する。
    間を抜けると同時にコアの内蔵マシンガンを更に迫り来るセラフに射撃。凄まじい速度での
   射撃で撃ち出された弾丸は高圧縮レーザー弾と同じに、一瞬で目の前のセラフを蜂の巣へと
   変えた。
    撃ち抜かれたセラフ複数の間を通り抜けた直後、それらは大爆発し飛散。短時間の空中戦で
   僚機を失った他のセラフ達は、体勢を立て直そうと目まぐるしくフォーメーションを変更。
    だがそれは今の情況下では命取りに等しい。こちらに撃破して下さいと言っているような
   ものである。
    旋回しつつコア内蔵マシンガンとブースターと同様に後方へ向けている両腕内蔵マシンガン
   を駆使し、弾丸を雨あられと放った。慣性に乗った弾丸はどれも先ほどのの弾丸と同じく、
   編隊を組み直そうとしているセラフを意図も簡単に貫いていった。
    大爆発が立て続けに起きるのを尻目に、今まで以上に目まぐるしく編隊を組み直そうとする
   セラフ達。もう彼らに勝機はない。

    STAIに着艦する13機のセラフ改。護衛のセラフ部隊は僅か数分で撃滅した。しかも俺
   の護衛として同行したシェガーヴァやレイシェムが手を下す暇などない程にである。
   この行動に2人は空いた口が塞がらないらしく、何も言いだせないまま着艦をしていった。
シェガーヴァ&レイシェム「・・・・・。」
ユキヤ「何だよ。」
シェガーヴァ「お前の戦術的戦闘力は凄まじいな。普段の標準機体でもあの戦闘力だからか。この
       遺産を用いれば、正真正銘の一騎当千か。」
レイシェム「ユキヤ様のお力が羨ましい。私などまだまだ未熟です・・・。」
   案の定この調子だ。そもそもその修行の切っ掛けを作ってくれたのは、他ならぬこの2人だ。
   俺は2人に応えるべく死に物狂いで修行を繰り返した。その結果がこの現実だ。
ユキヤ「お前達に追いつこうと、期待に応えようと修行を繰り返した。その結果がこれだ。むしろ
    切っ掛けを作ってくれた2人に感謝しているよ。」
    例の如く出撃前に俺の意識をコードに移し、それを2人に託した。俺の死後、直ぐに転生を
   行って貰うためだ。時間差的にこの戦闘の記憶が受け継がれないのが残念ではあるが。
   まあこの戦闘自体イレギュラーそのもの。封印されてもおかしくはない。
シェガーヴァ「内部を探索したが、これといって目立ったシグナルは感知されていない。前回同様、
       護衛は何も配備されていないようだ。」
レイシェム「外部の護衛砲塔がまだ生きていますが、それは私達が離脱前に破壊しておきます。」
   財閥側に向かった夥しい量産型ダークネスを迎撃しに行くため、シェガーヴァとレイシェムは
   セラフ改を発進させる。飛行形態に変形し、護衛の10機のセラフ改と共にSTAIの護衛
   砲塔を破壊に移っていった。

    その最中に俺は2人にこの肉体での最後の通信を入れる。それは一種の遺言でもあろう。
ユキヤ「何時も我が侭な俺を面倒見てくれてありがとな。転生後の俺は今の俺じゃなくなるが、その
    俺自身をよろしく頼むよ。」
シェガーヴァ「任せな。後の事は全てやっておく。お前は使命を全うしてくれ。それとお前が突入後
       30分間は爆発は待ってくれ。その間に護衛砲塔と離脱を速やかに行う。」
レイシェム「正直・・・止めたいですが、これも宿命ですね。後の事はお任せを。」
   そう語ると2人は最大戦力で護衛砲塔の排除に力を入れる。セラフ改と一体化している2人に
   とって効率は目覚ましく、戦略要素は俺以上の効果を発揮していた。
    そんな2人を一瞥し、俺はSTAIの炉心制御室へと向かって行った。

    既にマッピングはシェガーヴァやレイシェムに助けて貰っているお陰で、僅か数十分で到着
   した。この時間帯なら脱出も容易いかと思うが、それを絶望させる仕組みが備わっている。
    これ程の巨体を維持する大型ジェネレーターやラジエーター。それらの電力供給などを司る
   パイプが至る各所に配置されている。どの区画で事故が起きた場合でも対処しやすいように。
    そのためには、破損区画を一旦遮断する必要がある。これには不測の事態の爆発などを想定
   し、それも並大抵の爆発では吹き飛ばないような強固な扉が必要になる訳だ。
    例のリュウジやウィン妹がスーサイダーと格闘を繰り広げた際、障害となった財閥及び別館
   のアリーナ闘技場の外壁扉。この5倍出力のレーザーブレードを突き立てても穴を空ける事は
   不可能。その外壁扉と同じものを、この区画扉に使っているのだ。
    それに大型ジェネレーターの破損ではSTAI全ての区画を閉鎖し、仮に爆発した場合の
   規模を軽減させる意味もある。
   リュウジとウィン妹がSTAIを屠った時の爆発規模が以外にも小さかったのはこのためだ。

    STAIの破壊。それは外部からのジャミング操作や、遠隔操作による自爆ができないから
   ではなかった。爆発を想定としその規模を小さくさせる工夫が、脱出不可能という意味を指し
   示していたのだ。
    心中作戦を選ぶ必要がある事がお分かり頂けたと思うだろう。

ユキヤ「これか・・・。」
    俺は今STAIの炉心制御室にいる。機内にまで伝わる熱気、これはその数10機に及ぶ
   ジェネレーターの火力が物語っていた。
ユキヤ「突入してまだ20分か、後10分程度待つか・・・。」
   外部通信が一切使えず、外部からの音も振動もここには伝わらない。だた聞こえるのは、この
   化け物ジェネレーター群の呻り音である。

    俺はコクピット内部で最後の一服をする。今まで吸ってきた中で一番不味い喫煙だ。

    その後俺は10分後のアラーム音を待ち、閑かに瞳を閉じた。脳裏に今までの出来事が、
   死期を向かえる際に出現する走馬灯の如く浮かび上がる。

    リュウジとの出会い。そしてウィンとの出会いと彼女の死。

    リュウジに殺される瞬間と、その後の半世紀以上に及ぶ修行の日々。

    アマギ達との出会い、そしてゼラエル達との決戦。

    レイスとの日々、そして破壊の魔女への堕天。その後の彼女の殺害。

    ユウト達との出会い、そして今に至るまで。

    無意識に涙が出てくる。悲しくはないのに不思議なものだ。むしろ俺は死に行くのが楽しく
   て仕方がない。無論それは変な意味合いではない。
    俺という生命体が愚者に強烈な大打撃を与える。それが捨て駒であろうがお構いなしだ。
   愚者には徹底して攻め切る、ウインドブレイドに乗り出した時からそう決意した。
    結果的には皆を騙した形になるが、一同の突き進む決意を胸に俺はこいつを破壊する。昨日
   も話したが、このSTAIは俺の新しい死闘への開戦の狼煙だ。

    アラーム音がコクピット内部に響き渡る。
ユキヤ「・・・時間だ。」
   俺はゆっくりと瞳を開け、セラフ改のトリガーを握る。この身体での最後の機体操作だ。
ユキヤ「・・・親父・ウィン、そしてみんな。後の俺をよろしくな。」
   そう呟くと両腕からレーザーブレードを発生させる。その後俺は目の前の大型ジェネレーター
   にブレードを一閃させた。
    5倍出力レーザーブレードはセラフ同様、バターを切るような呆気なさでジェネレーターを
   切り裂く。誘爆をする前に片っ端から斬撃を加えていった。
    ジェネレーター群の中央まで進み出た俺は、そこでジェネレーターの誘爆に巻き込まれた。
   リュウジやウィン妹が体感した熱死ではない。周り全てのジェネレーターの誘爆で一瞬にして
   セラフ改は木っ端微塵に吹き飛んだ。当然俺も痛みを感じる事なく瞬殺である。
    リュウジやウィン妹が大型ジェネレーターを破壊した時は、同室内の遠方からの射撃による
   ものだ。他のジェネレーター群の誘爆はその後になる。
    だが俺は大多数のジェネレーターを瞬間的に斬撃で切り裂き、その後全てのジェネレーター
   の誘爆が同室内を襲った。これはSTAIの爆発を変える意味を指し示す。

    既に護衛砲塔を全滅させ財閥へと帰還していた2人。爆発を目の当たりにしたのは迫り来る
   量産型ダークネスを撃破している最中だった。
    STAI本体各所から炎が噴き出す。リュウジとウィン妹が爆発させた時と同様、大音響と
   共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
レイシェム「ユキヤ様・・・。」
    レイシェムは爆発を目撃し、心中で哀悼の意を表した。シェガーヴァも同様である。
   しかし攻める事を忘れない。財閥へと攻撃を仕掛けようとする量産型ダークネスを一撃で破壊
   していく。
シェガーヴァ「あいつの分も戦わないとな。」
レイシェム「ですね。」
   一騎当千の如く量産型ダークネスを撃破していく。娘達も機体とのリンクが高いお陰で、2人
   と大差ない戦闘力を繰り広げていた。
    僅か5名のレイヴンが160機のヴァスタール隊を率いて、10倍以上の量産型ダークネス
   と壮絶な死闘を繰り返していく。これも前回の決戦同様、大破壊に等しいであろう。

    それから数時間後。

    あれだけいた大量の量産型ダークネスは、現形を留めないほどに破壊され尽くしていた。
   連携を知らずに行動していたそれらは為す術なく破壊されていた。
    対するシェガーヴァ達は連携を最大限まで高め、壮絶なる攻防を繰り広げた。娘達を含めた
   ヴァスタール隊は殆ど無傷であり、ここが連携を用いた結果であろう。

    その後それら残骸に混じってセラフ改12機を爆破解体する。証拠隠滅を図った形だった。
   もっとも、この2000体に及ぶ残骸の数々だ。12機のセラフ改が混じっていても、判別は
   困難を極めるだろう。

    火星での決戦を終えたウィン達が帰還してくるまで時間がない。
   その間にシェガーヴァは決戦前のコードを元に俺のクローン体を精製。僅か数時間の間の不在
   だったが、新たな俺が転生を果たした。
レイシェム「お帰りなさい。」
シェガーヴァ「気分はどうだ?」
ユキヤ「不思議な気分だ、今さっき死んだばかりなのに。死ぬ瞬間の意識もしっかりと記憶に残って
    いるよ。爆発に巻き込まれ一瞬にして死んだ。」
シェガーヴァ「私達の時と同じく、魂は時間や空間という概念を超えるよな。」
レイシェム「不思議なものですね。」
   生前の衣服を身に纏い、決戦前と何ら変わらない容姿に戻す。また催促するようだが、娘達や
   2人にも俺の死などは伝えないように促した。

ライア「ふぃ〜、ただいまぁ〜。」
    それから更に数時間後、火星に赴いていたウィン達が帰還してきた。各自機体をケージに
   待機させ、コクピットから降りてくる。
   どの面々も清々しい表情を浮かべている。戦い切ったという現れであろう。
ジュリフィル「お疲れ様でした。」
ライア「あれ〜。なになに、新しい仲間?」
ユキヤ「覚醒したヴァスタール3体だ。俺の娘達でもある。」
ライア「うわぁ〜お、よろしくね〜。」
    最近のライアは再び女の子へと戻りつつある。母親の時は毅然とした態度を、それ以外では
   こういった幼さが溢れる言動をしている。
   これだからライアは強いのだろうな。青春真っ盛りの女性はパワフルだからな。
メルア「何か凄い事になってますねぇ・・・。」
    普段着に着替えたメルアが財閥の外を窺う。2000体に及ぶ量産型ダークネスの残骸が
   辺り一面を覆っている。その中にさりげなく12機のセラフ改の残骸があるのはご愛敬。
ナイラ「よく持ち堪えましたね。」
シェガーヴァ「遺産と異なり、普通のACのバリエーションタイプだ。それにロジックもそちらとは
       異なり、ただ数で攻めて来たというだけらしい。」
マイア「確かにお父様方でしたら、こんなの敵じゃありませんね。」

    どのレイヴンも息抜きをしだした。それも前回と異なり、肩の荷が下りた事による安堵から
   凄まじいまでに熱気盛んだ。

    ライディル・サーベン・チェブレは腕相撲よろしく、他の面々の煽りを受けながら激闘を
   演じだしている。

    別の場所では、ほぼ無敗を誇るユウトを筆頭に若手面々がポーカーをしだしている。周りは
   一矢報いようと躍起になっているのが微笑ましい。

    更にはガレージ内部に設置されているスピーカーを使い、何と歌を歌いだす者も現れた。
   もうこうなれば何でもござれだ。若いパワーには本当に脱帽する。

ウィン「身体の方は大丈夫?」
ユキヤ「すこぶる快調だ。ありがとな、心配してくれて。」
    殺伐とした財閥外。ウィンに誘われ、俺は彼女と表で一服をしている。
   前回の決戦前から、何とウィンも喫煙を始めだしている。年齢的には何ら問題ないが、健康面
   からしてあまり吸ってほしいものではないが。
    偶に咽せて咳き込む場面もあり、俺が初めて喫煙した頃を思い浮かばせられる。
ユキヤ「身体に毒だぞ。」
ウィン「何言ってるのよ、貴方も吸ってるじゃない。」
ユキヤ「まあそれを言われては何も言えんがな。」
ウィン「私が吸いたいから吸っているの。ちゃちゃ入れない。」
ユキヤ「はいはい。」
   お互いに煙草を吸う場面は様になる。特にウィンはその行動から更に色っぽく見える。お嬢様
   からお嬢さんとなった感じだろう。
ウィン「今後、STAIは出現しないよね?」
ユキヤ「今回も敵さんの時間稼ぎらしい。本命の軍勢は過去に屠ってきた破壊神のクローン軍団。
    それに今まで以上のロジックを誇る遺産や量産型ダークネスを率いる事だろう。」
ウィン「もう貴方が死ぬのはご免だからね。」
ユキヤ「かといってお前を死なせる訳にはいかない。仮に同じ場面になっても、俺は同じ行動を行う
    までだ。」
ウィン「・・・フフッ、貴方らしい。分かったわ、貴方の思う通りにして。その間のサポートは、私
    が身命を通してやるわ。」
ユキヤ「ありがとな。」
   俺はウィンの肩を軽く叩く。そんな俺に微笑み掛けるウィン。彼女がいるからこそ、俺は戦場
   へ赴けるのだ。レイス達やデュウバ達も永遠のパートナーだが、彼女こそ真のパートナーで
   あろうな。
   一服を終えた俺達はガレージへと戻る。相変わらず活気な雰囲気は心を明るくさせる。

    作業としつつも一連の後始末を忘れないシェガーヴァ。平西財閥地球本社に侵攻してきた
   STAIなどの監視データなどは全て抹消。その他の証拠隠滅を全て図った。
    表の残骸は息抜き中の彼らを動員する事なく行っている。150機のヴァスタールを遠隔
   操作し、娘達が一斉掃除を行ってくれていた。
   再び決戦が近付いているため、ヴァスタール隊の解体は行わない。後片付けなども含めての、
   全てにおけるサポートに活躍して貰っている。

    そうそう、先ほど一服中に面白い話を聞けた。

    主役であるアリッシュ達も他の面々と同様、比べものにならない成長振りを発揮している。
   ウィンの話によると、何と6人連携で大多数の遺産を葬ったらしい。しかも他の面々すら攻撃
   させる暇を与えないぐらいにだ。
    これには一同を驚かせるには十分で、なおかつ彼らのレイヴン魂に火を灯したらしい。若手
   には負けられないと躍起に戦ったそうだ。

    そもそもアリッシュ達は財閥レイヴンの中で最年少のディーレアヌよりも若い。その6人が
   自分達以上に動いているのだ。躍起になるのは言うまでもないだろう。
    まあ2年前に共に戦った時から感じ取っていた事ではあるが、彼女達の今後が楽しみでも
   ある。
アリッシュ「兄貴も一緒に遊ぼうよ!」
エリヒナ「お姉さんも一緒に。」
   俺の姿を見るなりこれである。若さパワーには毎回驚かされるばかりだ。ウィン共々彼女達に
   手を引かれながら、一同の輪の中へと入っていった。

    更なる決戦が近付いている。だが今度は総力戦だろうとも、今回ほどの死闘にはならないで
   あろう。STAIがない分、気が楽というもの。それに今度こそ本当に戦えるというものだ。

    ・・・もしかしたらシェンヴェルンはこれを画策していたのかも知れない。

    今までが時間稼ぎだったにせよ、それは紛れもない修行期間だ。本当にこちらを潰しに掛か
   るのであれば、もっと大規模でなおかつ用意周到に殺しに掛かる筈だ。

    皮肉なものだな。破壊神達との決戦を繰り返す事が、俺達の修行場という事に。破壊神と
   位置付ける奴等ではあるが、言い返せば今後を生き抜く力を付けろを言っている気がする。
    また一度死を向かえてから、今までより大きく見方が変わった。これは素直に感謝すべきで
   あろう。

    ある意味、奴等こそがロストナンバーレイヴンズなのかも知れない。まあそんなものを本心
   からは望んではいないであろうが、少なからず俺はそう思う。いや、そう思いたい。
                                        完

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