〜第2部 9人の決戦〜
   〜第1話 憧れ1〜
シュイル「これでよろしいのですか?」
デュウバ「そうですね。」
    ウインドはシュイルの事を一早く気づき、彼の元へデュウバを向かわせた。当然それは陰
   からのサポート役である。
    戦いに関しては手練れのシュイル。しかしコンピューター関係の操作やマイマネージャーと
   いった行動は全く慣れていなかった。
    その点デュウバはマネージャー役や相談役なら得意分野である。当然ながらシュイルは有無
   を言わず、彼女を快く受け入れる。
    まあデュウバ自体伝説のレイヴンの1人だ。その彼女が更に伝説のレイヴンであるウインド
   の使命を受け、自分の元に駆け付けてきてくれたのだから。これ以上の幸せがあるだろうか。
   シュイルはデュウバ指導の元、コンピューター操作方法を教えて貰っている。デュウバが彼の
   元に現れてから、ほぼ毎日こうやったワンツーマンの生活が続いた。
シュイル「う〜ん・・・、ACのメンテナンスの方が楽ですよ。」
デュウバ「ですがシュイル様、あれ程の精密機器をメンテナンス出来るのですから。こちらもすぐに
     慣れますよ。」
シュイル「分かりました。トライします。」
   隣では彼以上の操作で雑務をこなすデュウバ。そのブラインドタッチの早さにシュイルは目が
   釘付けだ。

シュイル「しかし・・・よく自分の居場所がお分かりになられましたね。」
デュウバ「私ではありませんよ。私の師匠的人物、ウインドさんが貴方を探し出してくれました。」
シュイル「ウインド・・・。」
    新米レイヴンのシュイルにとって、伝説のレイヴンであるウインドの事は憧れと超えるべき
   壁なのであろう。
   その言葉を聞いた直後、彼は険しい表情と驚きの表情をする。デュウバはその意味が直ぐに
   理解でき、彼が少なからずウインドに対して感情を抱いているという事が分かった。
    これは彼女が長年ウインドと共に戦っている事から身に付いたもので、ある意味修行の成果
   でもある。
   つまりは彼女自身もウインドに匹敵するほどの能力を持ちつつあるという事になろう。
シュイル「お会いしてみたいです。ウインドさんに。」
デュウバ「すぐに会えますよ。ウインドさんもシュイル様の事を心配なされていましたから。」
シュイル「了解です、待ち遠しいですね。」

    会話をしながらトレーニングを続けるシュイルとデュウバ。
   そこに見知らぬ人物が歩み寄って来た。それに気づいたデュウバは、相手と対面する。
   相手はシュイルより細めな身体の女性。パイロットスーツを身につけている事から、レイヴン
   だという事がすぐに理解できよう。
デュウバ「何のご用でしょうか?」
女性レイヴン「あ・・・あの・・・そちらの方にご用が・・・。」
デュウバ「シュイル様にですか?」
女性レイヴン「は・・はい・・・。」
    モジモジした言動から、デュウバは相手の行動がすぐに理解できる。この女性はシュイルに
   対して憧れまたは好意を抱いている事が分かった。
   デュウバもウインド同様長年色々な人間と接してきて、相手の言動を見ればすぐに心境が
   理解できるまでになった。
    その場での話も何だと思ったデュウバは、2人を近くの飲食店へと招く。
   この機転あふれる行動は以前デュウバがウインドに相談事があった時に、行ってくれたもので
   あった。デュウバは意外な行動をしたウインドに深く感銘し、その後後輩の指導や相談など
   にはこのような行動を取るようになった。
    そしてこの時の相談事の対する応対や行動などで彼女の彼に対する見方が変わる。それは
   絶対にタブーでもある恋愛感情へと発展してしまったのである。
   ウインドも相手の心境がすぐに理解できたようで、これといってダメだとは言わなかった。
   デュウバ自身もレイスの存在が彼に対する思いをさせまいとするものがあったが、その感情
   にもレイスは素早く察知し別に構わないと話したのだ。
    それからデュウバは色々な面で強くなった。先輩として・女性として・母として・・・。
   恋愛感情を持つ事によってこれほどまで強くなれる事に、デュウバは心の底から驚いたのだ。
   故にユリコ・ライア・メルアという女性陣が強い理由が、彼女はやっと理解できたのである。

    シュイルと女性レイヴンはテーブルを挟み、上がり気味で俯いている。その側にはデュウバ
   が微笑ましい視線で2人を見つめていた。まるでお見合いでもしているかのようである。
デュウバ「まずは自己紹介からですね。私はデュウバ=ドゥヴァリーファガ。シュイル様のサポート
     係を担っております。こちらはシュイル=フォース様。」
シュイル「シュイルです。よろしくお願いします。」
女性レイヴン「アリナス=ナークリェントと申します。不束な者ですがよろしくお願い致します。」
   本当にお見合いそのものだ。
   しかしアリナス自身が何らかの悩みを抱えている事に、シュイルとデュウバは素早く察知。
   またそれとは別の感情があるようだが、あえて触れなかった。
シュイル「ところで私に用とは一体何ですか?」
アリナス「集団戦闘を行うメンバーを探していました。先ほど依頼が入りまして、何でも相手側は
     複数のレイヴンが相手だとか。」
デュウバ「依頼内容はどのようなものですか?」
アリナス「襲撃部隊強襲です。トーベナス社という企業が敵レイヴンに狙われているというもので、
     そちらに来る前に迎撃してくれという内容です。」
デュウバ「依頼主は?」
アリナス「ライア=トーベナスという、やり手の女性レイヴンからです。」
    不思議な巡り合わせだなと、デュウバは心中でそう呟く。
   ライアは今まで共に戦った同志で、今は個人での行動に移っている。デア達破壊神軍団と決着
   が付いた後、ユウトと共に財閥の運営を行っていた。

    約1年前の破壊神軍団決戦の後、ユウトとライアは結婚する事になった。それは彼女のお腹
   の中に2人の子供がいるからだ。何でも決戦前夜に事の原因があり、それが今に至ったのだ。
   しかも凄い事に後に生まれてくる子供は双子で、それは2人を大人へと成長させるものでも
   あった。
   決戦前までは子供であったユウトとライア。今はすっかり仮の父親と母親になったのである。
    当然周りの人間は驚きの連続であった。一番幼そうなユウトとライアが一番に大人へと成長
   したのだ。特に身内のマイアや父親当然のガードックが一番驚いている。
    ライアとマイアが出会った時、どう見てもマイアの方が大人びて見えていた。しかし現実は
   大きく変わり、先に大人へと成長してしまったライア。
   嬉しいやら悲しいやら、マイアはそういった心境で彼女の世話をしている。
    母親になるという事でライアは激しい動きを自重し、今はレイヴンの活動を休止している。
   代わりにマイアがユウトのサポート役になり、トーベナス社の運営や今も襲撃してくる輩を
   排除する役を担っている。
   そんな中ライアが財閥を護衛してくれという依頼を出したのが、今シュイル・デュウバと対談
   しているアリナスなのである。

シュイル「了解しました、お引き受けしましょう。」
アリナス「ありがとうございますシュイル様。」
シュイル「様は止して下さい。別にそんな偉くはありませんから。」
    何かを思ってか、アリナスが俯く。それ見たデュウバは今思っている一念が、アリナスを
   動かす要因になっていると直感した。
アリナス「・・・覚えていらっしゃいませんか、私をお助けになられた事を。」
シュイル「そんな事がありましたか?」
アリナス「約3ヶ月前の市街地救援のミッションで、私をお助けになられたではありませんか。」
   それを聞いた直後、シュイルは彼女を見る目が変わった。懐かしい表情へと変わりながら、
   徐に話しだす。
シュイル「・・・よくぞご無事で。大丈夫でしたか、どこも怪我してはいませんか?」
アリナス「お陰様で何ともありません。あの時身を挺して庇って頂いたので、怪我はおろかこの通り
     ピンピンしています。」
シュイル「よかった・・・。もうあのような悲惨な出来事を繰り返したくはないですから・・・。」
アリナス「悲惨・・・といいますと?」
シュイル「自分がレイヴンになる前、テロリストの襲撃で付き合っていた女の子を殺されました。
     相手側は無差別テロを決行し、大勢の罪もない人々を殺しました。自分もその時殺され
     かかったのですが、あるレイヴンに助けて頂いたのです。」
デュウバ「ユウト様ですね。」
シュイル「そうです。偶々通りかかったユウトさんが殺されかけていた自分達を庇ってくれ、相手の
     テロリストを全滅させたのです。その手早い動きが凄まじかったのを、今も鮮明に覚えて
     います。」
   目の前にあるコーヒーを飲みながら、シュイルは話を続ける。それを真剣に聞き入るアリナス
   であった。
シュイル「アリナスさんが殺されかけていた時、あの時の模様が鮮明に浮かびました。この人を絶対
     に殺させてはいけない、その一心で動きました。本当によかったです、貴女が無事で。」
アリナス「シュイル様・・・。」
   デュウバはアリナスのシュイルに対する一念が理解できた。
   命の恩人であると同時に、親しい恋人を失った彼を癒したいという現れなのであろうと。
   それにシュイル自身もアリナスを見る目が違う。もしかしたら死んだ愛する人に似ているの
   かも知れない。
デュウバ「さて、参りましょうか。トーベナス社へ。」
    相変わらず見つめ合っているシュイルとアリナスに水を差し、依頼場所へ向かおうと促す。
   いきなり話しかけられた事により、2人は慌てふためく。どうやらデュウバがいる事すら分か
   らないほどに自分達の世界へと入っていたようである。
   そんな若いカップルを見つめ、デュウバは色々な意味でのため息をつくのだった。
    その後アリナスは愛機ホワイトローズを取りに行き、シュイルとデュウバはガレージに待機
   中である愛機に乗り込む。ACを起動させるとそのまま彼女の到着を待った。
    しかしデュウバの心中では、何らかの違和感を感じ始めていた。それはこれからの決戦の
   予感でもあった。
                               第1話 2へ続く

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