第3部 9人の勇士 36人の猛将
   〜第1話 生きる価値2〜
    アリーナで連戦を続ける1人の男性、ミュリナル=シェイド。
   2日前に一般客からレイヴンとしての依頼を受け、それを受けるかどうか悩んでいた。
    「エリディム・アニーの2名のレイヴンを消せ」
   それが彼に言い渡された依頼内容だった。
    酒場の常連客のミュリナル。当然エリディムとアニーの存在はよく知っている。心が安まり
   活気が湧いてくる2人のダンス。何度となく勇気付けられた事か。
   その2人を殺せという依頼を目の当たりにした彼は、戦いにおいて答えを出そうとしていた。
   それがバネとなり、僅か2日で中ランククラスまで登り詰めた。皮肉にも望まない依頼が己を
   強くさせていたのだ。

女性レイヴン「まあ貴方次第ね。私は仕事というのなら引き受けるわ。」
    ウェイリン=アオヤ。ミュリナルのライバルでウイングマン担当。
   高飛車で手が付けられない程のお転婆だが、心中では彼に対する思いもある。
   また彼が2日前に受けた依頼により、ここまで悩み苦しむ姿を見るのは初めてであった。
ミュリナル「依頼を受けるかどうかの答えを出すのは今日まで。明日までにケジメを付けないと。」
ウェイリン「貴方が望まないのなら受けなくてもいいんじゃない?」
ミュリナル「それはそうなんだが・・・。」
   ミュリナルはこの方一度も依頼を拒否した事はなかった。それ故に悩んでいたのである。
   だが内容は望まぬ事、それは彼自身がよく理解している。
ウェイリン「依頼としては受けるけど、殺人は趣味じゃないからね。」
ミュリナル「分かってるさ・・・。」
   徐に自室のコンピューターを起動させ、クライアントに依頼の承諾を受け返した。
   彼は残酷にも、依頼としてのミッション選択をしてしまうのであった。

デュウバ妹「誰かからは知らないけど、2人のレイヴンが貴女達を殺しに来るそうよ。」
    当然依頼を察知したウインドは、デュウバ妹に2人の護衛をするように連絡する。
   彼に新たに銀の踊り子と異名を付けて貰ったデュウバ妹は、新米の踊り子レイヴン2人を護衛
   する形になった。
アニー「また何でですか?!」
エリディム「そう怒こらないの。いつかは来ると思っていたけど、とうとう来たようね。」
デュウバ妹「誰かが殺しに来ると分かっていたの?」
エリディム「何となくです・・・。踊り子として過ごしている時にとあるトラブルがありまして、
      そのツケが今回ってきたようです。」
アニー「ふざけんじゃないわよ、奴等から姉さんにふっかけて来たんじゃないのよ。」
デュウバ妹「まあそう慌てなくてもいいわよ。この為に私がいるのだから。貴女達2人を絶対に死な
      せはしないわ。」
   その自信溢れる発言に2人はどこか安心感を覚える。しかし自分達が狙われている事を既に
   知っていたという事が、今の自分達にとっては納得がいかなかった。
デュウバ妹「生きる意味、それは人それぞれ。だが降りかかる火の粉は払い除けてこそ正しい生き方
      だわ。どんな理由にせよ私は貴女達を絶対に死なせない。それは命に掛けて守るわ。」
   この瞬間2人はデュウバ妹の体内からオーラが発せられるのを感じた。それは闘気とも言え、
   目の前の敵と対峙する際の獅子の殺気に似たものでもあった。
    2人は長い踊り子生活により、相手の心境を察知する洞察力が優れている。それが彼女の
   体内から発せられる闘気を敏感に察知したのであろう。
デュウバ妹「襲撃といえば踊りの最中とも思えるけど、一番相手が実力を発揮でいる場所での戦いが
      予想されると思う。お2人さん、次のアリーナでのタッグバトルは何時?」
エリディム「午後4時丁度です。相手はアカネ=マキシタ・ユウジ=シューフという2名ですね。」
アニー「この2人が怪しくない?」
デュウバ妹「未知数ね。最悪追加2名の4人と対戦しなければいけなくなるかも。もし乱戦になる
      ようだったら、前に携帯端末に一報お願い。直ぐ様ACに乗って乱入するわ。」
アニー「え・・・デューさんってレイヴンだったのですか?」
デュウバ妹「何よ今更といった発言ね。」
   アニーの呆気に取られる発言にデュウバ妹は苦笑した。まあ外見からしてみれば華の剣士の
   クローンとは見えないだろう。
    デュウバ姉は独特な雰囲気を持っているが、デュウバ妹にはそれが感じられない。自然体で
   誰とでも接しやすいという特徴を持っている。
   これこそが彼女の最大の武器であったのだ。故に彼女を2人の護衛に回したのは、それをよく
   知っていたウインドが計らったもの。
   ウインドの何故自分が護衛に回されたのかという理由が、2人の反応によりようやく理解が
   出来たのである。
    デュウバ妹の自然体とも言える雰囲気は、クローンファイターズの誰もができない技だ。
   どの人物も独特の雰囲気を持っており、それにより行動が制限される場面も多々あった。
    特にウインドとなると殺気や不思議・安心感という複雑な感情を持ち合わせている。
   これはどの様な人物でも察知するぐらい強力で、彼自身が動けないという理由にも繋がって
   いる。
    レイス姉妹は威圧感・アマギは不安感・デュウバ姉は圧迫感、そしてシェガーヴァや彼の
   娘であるウィンやレイシェムは恐怖感。
   どれをとっても常人では耐えられない程のもので、特に初対面の人物はこれがよく感じ取れる
   という。
エリディム「レイヴンという威圧感が全く感じられません・・・。」
   この一言でデュウバ妹の自然体とも言うべき安心感が理解できるだろう。特に本人は意識は
   してないものの、勝手にそうなってしまうという。
   ユウやアイを抱きあげた時も自然体という言動を取っていた。
    そしてデュウバ妹はこの瞬間、己の使命を確信した。
   初対面となる人物に最初に接触し話しかけ和ませる。この役は自分にしかできないという事。
   それこそが己のクローン転生の真の意味であると理解したのだ。
ウインド(お前といると気が楽になるよ)
   初対面のウインドが発した自分への言葉。この意味がこれだったと理解した。そしてそれを
   いち早く理解した彼は、正しく人を見定める強い千里眼を持っていると確信もした。
デュウバ妹「腕の方はまあ・・・実践をお楽しみにね。」
   ユーモラスも忘れないという点もクローンファイターズに見受ける性格であった。まあそれが
   相手をリラックスさせる発言でもあるが。
   デュウバ妹の実力までは理解できないエリディムとアニーだったが、とりあえずは2時間後に
   迫る戦いに心強い味方が現れたと心中で思った。

    自分への生きる活力を与えてくれた恩人。その恩人を皮肉にも殺害しようとしている。
   その真の理由を理解できないまま、ミュリナルとウェイリンは愛機を進ませた。
    一路エリディムとアニーが戦闘中のネオ・アイザック近郊のアリーナ施設。そこに強襲を
   かけ2人を殺害しようとする計画だった。

    エリディムとアニーはアカネ・ユウジの2名とタッグバトルを展開中。
   ネオ・アイザック近郊から少し離れた地下にあるの仮設闘技場で、4機によるACバトルを
   行っていた。開始からまだ5分足らずの時間であった。
アカネ「うわ・・・まるでこの動きは・・・。」
ユウジ「踊っているかのように動いていますね。」
    アカネとユウジの2名は、相手レイヴンの戦闘行動を見て驚愕した。どれも紙一重に回避を
   繰り返し、全く被弾をしないエリディムとアニーであったのだ。
   この時点でエリディムチームの勝敗はほぼ決まっているように見えた。

    だが突如大轟音と共にガレージへと向かう大型ハッチが大爆発。中から2機のACが出現。
   エリディムとアニーに対峙する。
ウェイリン「貴様がエリディムとアニーか。」
ミュリナル「悪いが依頼により死んでもらう・・・。」
   突如起きた出来事に対処できないアカネとユウジ。しかし自分達の試合を邪魔され、レイヴン
   として怒りを隠す事は出来なかった。
アカネ「何なのよあんたらはっ!」
ユウジ「今は対戦中です。悪いですが邪魔はしないで下さい。」
ウェイリン「依頼内容は目標と目標に荷担するもの全てだったわよね。」
ミュリナル「ああ・・・。」
ウェイリン「なら纏めて消すまでだ。」
   一触即発の情況下、3組のレイヴン達は動けずにいた。
   それもその筈。相手の戦力が分からない状態だ、最悪敵を増やす可能性もある。
    乱入に激怒したアカネとユウジだったが、心中は恐怖に駆られていた。全く予想しなかった
   現実に、どう対処したらいいか分からないからだ。
    また敵側のミュリナルも心中に迷いがあり、この事態を推し進めているのはウェイリンのみ
   であった。
    エリディムとアニーは既に襲撃をデュウバ妹から聞かされており、大して驚いた素振りは
   していない。だが最大で4体ものACを敵に回すとなると厄介だなと、心中で悩んではいた。

デュウバ妹「はいはい、タイムオーバー。お2人さん、武装解除しなさいな。詳しく話を聞くわよ。
      それとも3対4・もしくは3対2で対戦するつもりかしら?」
    ミュリナルとウェイリンの背後に現れたデュウバ妹。その殺気ある発言に6人は恐怖した。
   今までは普通に接していた彼女が、まるで別人のように変わっている。
    デュウバ妹が搭乗するアシュレイムヴィーアの右腕武器がウェイリンを、そして左肩武器が
   ミュリナルの背後から正確にコクピットを狙っていた。
ウェイリン「増援がいたのか・・・。」
デュウバ妹「お節介焼きよ。2人は絶対に殺させないと約束したのでね。貴方達の行動次第では、
      無益な戦闘はしなくて済むわよ。話だけならいいんじゃない?」
ミュリナル「・・・了解した。武装解除して投降する。」
ウェイリン「ミュリナルっ!」
ミュリナル「初っぱなから嫌な依頼だった。しかし依頼は依頼、俺はレイヴンとして請け負った。
      だが・・・やはり間違ってる。俺は2人を殺したくはないっ!」
   熱い胸の内を叫び、ミュリナルの真の心を伝える。それを聞いたエリディム達やアカネ達は
   これが殺意があって行っている事ではないという事が理解できた。
   ミュリナルとウェイリンは武装解除し、投降する姿勢を見せた。
    だが今度はミュリナル・ウェイリンが出てきた入り口の北側が大爆発と共に飛散。
   内部から見知らぬACが7体出現した。そのバリエーションにデュウバ妹は見覚えがあり、
   あの約1年前に対戦した量産型ダークネスであったのだ。
エリディム「今度は何なのです?!」
デュウバ妹「量産型ダークネス・・・、まさか裏で襲撃を企てたのはデヴィルなのか・・・。」
   デュウバ妹のデヴィルと量産型ダークネスという言葉を聞き、エリディムとアニーは驚愕の
   表情をする。
   自分達がレイヴンとして憧れた戦い、それが約1年前の平西財閥での戦闘。あの当時の戦闘を
   見たためであった。
    ライアはこの出来事を広く知って貰う為、全ての戦闘記録を録画していた。そのデータを
   ナーヴズ・コンコードと同じように配信。殆どのレイヴンに戦闘記録を配布したのである。
    だがライア達が指名手配になっている以上、それらデータを持つだけで自分らも巻き込ま
   れると勘違いした。
   それ故に殆どのレイヴンはデータを削除。見ず仕舞いで終わっていたのだ。
    だがエリディムとアニーはレイヴンではなかったが、アリーナの通信モニターにてその戦闘
   画像を視聴する。それが2人のレイヴンとしての道へと繋がったのである。
   それ故にデュウバ妹がそれら関連の事を述べたのだ、驚愕せざろう得ない。目の前にいる人物
   は紛れもなくあの決戦を戦ったレイヴンであるのだからだ。
ミュリナル「なんなんだこいつらは?!」
デュウバ妹「私達の共通する相手よ、こいつらこそが真の敵。対戦するべきは私達じゃなく、新たに
      現れた機械人形7体。」
    ミュリナルとウェイリンの間に堂々と進み出たアシュレイムヴィーア。迷いなくオーバード
   ブーストを発動。デュウバ妹は7体の量産型ダークネスへと突撃した。
    その姿を見たエリディムも同じく愛機を反転、ブースターを咆吼させ突撃していく。
エリディム「求めていた方達にやっとお会いする事ができた。今日という日をどれだけ待ったか。
      私もロストナンバーレイヴンズの一員として戦いますっ!!!」
   エリディムの発言にデュウバ妹はコクピット内部でニヤリと微笑む。
   またエリディムの発言でアニー以外の4人も驚愕、それはロストナンバーレイヴンズという事
   を聞いたからである。

    一足先に突撃したアシュレイムヴィーア。
   一番手前側にいる4足型のダークネスに左肩武器のロンググレネードランチャーを放った。
   オーバードブーストの火力を纏いつつ放った火球が通常の速度以上に相手に直撃する。
    砲弾は4足ACの頭部パーツとコア上部・両肩武器を吹き飛ばす。この一撃で4足ACは
   完全に沈黙する。
    予想しない相手の動きにダークネスはたじろぎ、フォーメーションを組めずにいた。そこに
   容赦なく攻撃が加わる。
   デュウバ妹は相手の戦略の弱さを見抜くと、手前側の機体から攻撃を開始した。
    次の手前にいる機体は標準2足型ダークネス。最初の一撃後空中に離脱、その後自由落下で
   標準2足ACの前に降り立つ。
   その際レーザーブレードを繰り出し、相手の頭上へブレードを突き刺した。
    ヘッドパーツとコアパーツを貫通したブレードはジェネレーターを直撃。アシュレイム
   ヴィーアが離脱後大爆発を巻き起こし飛散した。
    間を空けずに両サイドにいる重装2足型ダークネス2機に、ブースターを巧みに使った旋回
   斬撃を繰り出す。
   相手の装甲から完全には切り裂けないものの、ヘッドアイを見事に斬り付け視界を奪う。
    それを待っていたかのようにエリディムの愛機シューディンヴが接近し、向かって左側の
   重装2足ACに高火力レーザーブレードを突き刺す。
    繰り出されたブレードはコクピットを貫き、そのまま真上へと薙ぎ払った。
   更に右側で視界を奪われた同じ重装2足ACのコクピットにレーザーライフルを突き付け、
   ゼロ距離射撃を見舞った。
    放たれた光弾はコクピットを貫きコアパーツに大穴を空ける。
   デュウバ妹とエリディムが離脱すると、2機の重装2足ACはジェネレーターの爆発と共に
   粉々に吹き飛んだ。

デュウバ妹「やるじゃないエリディム。」
エリディム「まだまだこれからですよ〜。」
    一瞬とも思える出来事に5人は唖然として見つめているだけであった。
   エリディムの機転の良さはクローンファイターズに匹敵し、デュウバ妹と凄まじい連携が取れ
   ている。お互いの望む行動を瞬時に理解し、全く追撃の手を緩めない。
    ただ動くだけのフロート型ダークネス2機を、まるで踊ってるかの如く斬撃を見舞い一撃の
   下に破壊。
    最後の軽装2足型ダークネスと逆関節型ダークネスをそれぞれの主力武器で攻撃すると、
   同じく乱舞のような斬撃を見舞い一撃の下に破壊した。
    一方的とも思える戦闘にアリーナを観戦する者達は、今までの一連の戦闘や行動を催し物と
   して大感激。拍手喝采の嵐でアリーナは大興奮の渦で幕を下ろした。

ウィン「そうでしたか、刺客を送り付けて来たとは。」
    その後アリーナにいては大変な騒ぎになってしまうと考えたデュウバ妹。6人を平西財閥へ
   連れて行き、現地にて詳しく事情を話した。
デュウバ姉「戦闘記録を見たけど、なかなかの腕前じゃない。」
デュウバ妹「姉さんほどじゃないけどね。私が出来る範囲で動いてみたわ。」
   今だに呆気に取られているヤングレイヴンズ。だが無意識にも2人の行動に歓喜している面々
   であった。
レイシェム「お姉様、皆様はどちらに連れて行ったらよろしいでしょうか?」
ウィン「そうですね、皆さんをライア様にお会いさせましょう。今後の方針を決めないといけません
    から。」
   ウィン達はエリディム達をライアがいる病室へと案内した。彼女は出産間近のため、前回同様
   療養中である。
デュウバ妹「姉さん、ウインド兄は?」
デュウバ姉「レイス姉と何だか相談しているそうよ。まあ大凡は検討付くけど。」
デュウバ妹「なるほ、了解。」
   姉が話した発言で妹は即座に理解する。またそれが禁じられた行為であるという事もだ。
   しかしそれ以上聞かないし問い詰めるもしなかった。それだけレイス姉が苦しんでいる姿を
   目の当たりにしているという事であろう。
   自分達と同じクローン生命体。そして重い罪を背負って転生した自分達。苦しみや痛さは共感
   できた。

ライア「このような姿故、無様な格好で申し訳ありません。」
    病室では一段と腹部が膨れ上がったライアが一同を迎え入れた。その応対は日に日にお淑
   やかさを増しており、先輩であるレイス・デュウバ・ウィン達よりもしっかり見えている。
   また同じ母親であるメルアをも驚かせるその出で立ち、ライアは母親という現実をしっかり
   克服して前進しているという事が分かるだろう。
エリディム「あの・・・ライア殿、私達はこれからどうすれば・・・?」
ライア「決戦の時は近いです。それまではお互い修行を繰り返して下さい。私も本当は戦いたいので
    すが、この身なりではそれも叶わず・・・。」
アニー「任せて下さいな。お腹の子供達の為にも、今は療養して下さい。」
ライア「恩に切ります。」
   女性陣はライアの姿を見ると胸の高鳴りを覚えた。それは自分達が辿り着くであろう、未来の
   姿を指し示しているからか。
   または同じ性別であるにもかかわらず、男みたいなしっかりとした性格も影響されているので
   あろう。
   初対面であるライアとはすぐに打ち解けた新米レイヴン達であった。

ウインド「気が済んだか?」
レイス姉「まだ・・・何とも言えません。ただ・・・再び罪を犯してしまった事だけは、絶対に消え
     ない事実ですが・・・。」
    レイス姉の望みを叶えたウインド。レイス妹やデュウバ姉と同じように、それは禁じられた
   行い。それを一番理解しているのは他ならぬレイス姉であった。
レイス姉「最近よく思います・・・、私は何のために生きているのかと・・・。」
ウインド「何を今更、自分自身への罪滅ぼしなんだろ。それとも今いるのは偽りで、ただ単に周りを
     困らせるだけにいるのか?」
レイス姉「そうではありませんが・・・。」
ウインド「お前の罪をも背負い、今ビィルナは戦っている。デュウバもシュヴも同じだ。何度も言う
     ようだが、今のお前は現実から逃げるにすぎない。」
   レイス姉は何も言い返せなかった。
   自分が現実から逃げているのは事実。彼はそれを正してくれようとしている。だが今はそれ
   さえも疎ましく思う自分があった。
ウインド「一時期は乗り越えたと思ったが、あの時に逆戻りに近いな。だが今回はお前を生かした
     まま修正してやるよ。みんなもいる事だしな。」
   レイス姉の頭を優しく撫でるウインド。レイス姉はそれに精一杯の笑顔で応える。だがお互い
   にまだすぐには解決できないという事だけは理解していた。
    ウインドはやはり複雑な心境で彼女を思う。
   かつては自分より気丈で強かった彼女が、今では正反対なぐらいにまで弱くなっている。
   それは彼女自身の問題でもあるが、助言や助けなかった自分自身にも責任があると痛感して
   いる。
   所詮人間は一人では生きていく事などできないのだ。
   ウインドもレイス姉もそれが痛いほど分かった。
                               第2話へ続く

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