〜第1部 18人の決断〜
   〜第2話 平西財閥1〜
    ライア達と一緒に行動するようになったユウト達。あれから2週間が経過した。
   彼が護衛レイヴンとして活躍するようになって以降、トーベナス社の業績は日に日に増して
   いった。また駆け引きの面でもキュービヌの天性ともいえる行動で、トーベナス社は更にその
   力を強めていった。
   だが逆に彼等を支持するユーザーは数多くいたとしても、他企業からは目の敵にされ孤立無援
   に近かった。
   ユウトは企業面でサポートしてもらえる存在を探し出すのである。

ライア「ユウトさん、コーヒーお持ちしましたよ。」
ユウト「ありがとうライアさん。」
    ユウトはトーベナス社の自室でコンピューターを操作、支援企業を探している最中である。
   そこにライアがコーヒーを持ち入室してくる。ライアはすっかりユウトと打ち解け、まるで
   兄妹のような関係になりつつあった。
ライア「どうですか、見つかりましたか?」
ユウト「現実は厳しいですよ。」
   椅子から立ち上がり、ユウトは大きく背伸びをする。その後ライアが持ってきたコーヒーを
   飲み、ホッと溜め息をつく。
ライア「孤立無援・・・ですね。」
ユウト「大丈夫ですよ、皆さんは俺が守ります。でも複数の企業からの差し向けには、さすがに参り
    ますが・・・。」
   ライアは思った。この所ユウト一人が差し向けられるレイヴンを撃破している。もしユウトが
   いなかったら、トーベナス社は間違いなく壊滅しているだろう。
   ライアは感謝の気持ちで一杯であった。
ライア「ありがとうございます・・・私達を守っていただいて・・・。」
ユウト「気にしないきにしない、当然の事ですから。祖父も言っていました、世界を救う行動は何
    よりも率先する事だ。最初は辛くても、必ず理解者が現れる。自分はそうやって行動して
    来た、と。」
ライア「素晴らしいお方ですね、アマギ様は。」
ユウト「だから孫の俺が頑張らないといけないのですよ。父も母も祖父の言う事を先占して行い、
    困っている人々を助けてきました。そう・・・ロストナンバーレイヴンズと言われた他の
    お仲間方と一緒に。」
   その言葉を聞いたライアは、何かを閃いた表情をする。ユウトはその事にすぐ気付いた。
ライア「・・・アマギ様と一緒に戦ったロストナンバーレイヴンズの方々・・・。その子孫の方々が
    今もいるのでは?」
ユウト「その人達の力を借りれば・・・、こちら側の戦力を増やす事が可能ですよ。」
ライア「でも・・・一体何処でその方達の事を探せば・・・。」
   落ち込むライア、またどうしたらいいのかという考えを頭の中で巡らせてもいた。
ユウト「ありますよ、打って付けの所が。」
   ユウトが間隔空けずに話し出す。ライアは興味津々とユウトの次の言葉を待った。
ライア「それは?」
ユウト「アリーナです。」

    火星での事件後、一時期アリーナは凍結状態に陥った。火星社会を復興すべく、アリーナの
   運営までには手が回らない状態であったからだ。
    だが約5年以上経った今、アリーナは火星と地球双方で行われている。
   火星の方がアリーナのレベルが高いとされていたが、今は地球のアリーナの方が高くなりつつ
   ある。それは地球が大破壊前の住みやすい星へと再生しつつあるからだ。
    火星へと渡ったレイヴンは、その殆どが地球人である。火星生まれの人間は生まれた星が
   住みやすいと語るが、今でも地球が住みやすい星なのは変わってはいない。
   つまり一度地球を離れた地球人が火星で復興を待ち、再び舞い戻って来ているのである。
   しかし長年住み続けて火星こそが住みやすい星と語る人間もいるのも事実ではあるが。

    ユウトとライアは愛機を駆り、ネオ・アイザックシティまで向かった。ここで催されている
   アリーナに参加するためだ。
    ユウトは火星にてナインブレイカーの称号を獲得していた。それ故にアリーナの事は人一倍
   よく知っている。また地球でのアリーナでもナインブレイカーになり、事実上地球と火星の
   アリーナを制覇したレイヴンである。
   しかも史上最年少。これは彼の祖父であるアマギでさえ行った事がない事であった。
ライア「アリーナか〜、一度も来た事はありませんね。」
ユウト「デスマッチじゃないので、安心して戦えますよ。ただ偶に不慮の事故という例外も無くは
    ないですが。」
ライア「運も実力のうち、と言う事ですね。」
ユウト「まあそんなところです。」
    ユウトはアリーナに来る前に、機体構成及びカラーリングを変更して来た。それはユウトが
   ナインブレイカーであるからだ。
   ナインブレイカーたる彼がアリーナに現れたとなっては、他のレイヴンから何をされるか分か
   らない。再戦・挑戦・復讐・興味などなど・・・。
   今の世界人間を簡単に殺す時代。それなりの備えをしない者は生きる資格がないと言って過言
   ではない。

ライア「ユウトさん、そのサングラスとブロンドのカツラ・・・。どうにかなりませんか?」
    アリーナ専用ガレージに愛機を待機させた2人は、アリーナ受付登録所まで向かう。
   ユウトは身形を本人と分からないように変装もしていた。だがその身形はかえって人の目を
   集める事になっていた。
   しかし今の世の中、他人とは干渉しないというルールがある。だがそのルールも、問われれば
   問い返すといった問答形式はしっかりと弁えている。これはアマギ達が友情を深めるという
   行動がこうさせたと言った方がいいだろう。
   現に干渉しないというルールはあるものの助け合う場面もよくある。アマギ達が過去に行った
   行動が、どれだけ今の世界に影響しているか。
   ユウトはそれを振り返ると、自分の立場がどれだけ凄いものなのかが痛いほど分かった。
ユウト「まあ・・・備えあれば憂いなし、ってやつですよ。」
ライア「フフッ、ユウトさんらしい。」
    この2週間でライアはすっかりユウトを気に入ってしまった。レイヴンとしての彼を、男性
   としての彼を。
   初対面では曲がりなりにも殺そうとしたユウトである。今の世界のの人間なら絶対に信用は
   しないだろう。
   だがユウトは凡人以上に一途である。そんな所がライアにとっては気に入る要素になったので
   あろう。

    2人はアリーナ内を散策し、力になってもらえる人物を探した。レイヴン1人でもかなりの
   戦力アップになる。それだけレイヴンが一騎当千に近いという証であった。
    散策を繰り返していると、何やらアリーナ登録所が騒がしくなる。2人は何事かとその場へ
   と駆け付ける。
   そしてその理由がアリーナ登録所の先頭にいる女性レイヴンを見ている事だと気づいた。
   更にユウトはその人物を見て驚いたのだった。
ライア「女性レイヴンですね。」
ユウト「・・・蒼い鷹・・・。」
ライア「えっ?」
ユウト「・・・アリーナ第2位の名うて女性レイヴン、平西奈衣羅。その戦闘での上空から相手を
    射撃する姿から、蒼い鷹と呼ばれている猛者です。」
ライア「アリーナ第2位と言いましたよね、ユウトさんは戦った事があるのでは?」
ユウト「ナイラさんが現れたのは、俺がナインブレイカーになった後です。アリーナに現れた後は
    急激にランクアップをしていったそうで、以前戦闘を見たら事実だと確信しました。」
ライア「ナイラさんほどのレイヴンが味方についてくれれば・・・。」
   ユウトとライアは遠目でナイラを見つめた。彼女から発せられるオーラは何とも言い難いもの
   であり、自然と見入ってしまうのは仕方がなかった。
    そんな2人の心中を察してか、ナイラ本人が登録を済ませると彼等の元へと歩み寄る。
ナイラ「何か御用ですか?」
ライア「え・・・え〜と・・・。」
ユウト「暫くお時間を頂けますか、ミス・ナイラ。」
ナイラ「え・ええ・・いいですけど。」
   ユウトとライアはナイラをガレージへと誘う。そこの方が詳しく話しやすいからだ。
   ナイラ本人は見知らぬ相手であったため、警戒気味に2人の後を付いていく。

    ガレージに到着した3人。ユウトは自販機で缶入りの紅茶を3本購入し、ライアとナイラに
   手渡した。
ナイラ「ありがとうございます。ところで・・・ご用は何なのですか?」
   まだ警戒気味に応対するナイラ。ユウトはベンチに座り、事の経緯を話し出した。
   だがその前にユウトはブロンドのカツラとサングラスを外し、ありのままでナイラと接する。
ユウト「これは変装です、色々とありまして。まずは自己紹介から、自分は小松崎優斗と言います。
    こちらはライア=トーベナスアイグさん。」
ライア「ライア=トーベナスアイグです。」
   ユウトの本名を聞いた瞬間、ナイラは疑いの表情が一気に活気溢れる表情へと変わる。
ナイラ「あ・・貴方が小松崎優斗様・・・、こ・これはとんだご無礼を!」
   ナイラはその場に立ち頭を下げる。ユウトはその行動に呆気を取られ、一体何なのかと彼女に
   問い質した。
ユウト「どうなさったのですか、別に失礼な事はしていませんよ。」
ナイラ「いえ・・・強盗かと思いまして。」
   ナイラの発言を聞いたライアは小さく微笑む。
ライア「フフッ、ある意味ユウトさんはナンパしそうな面影もありますからね。」
ユウト「どういう事ですか〜ライアさん・・・。」
   2人の会話を見てナイラの硬い表情が柔らかい表情へと変わっていった。
   雰囲気に馴染めないナイラの表情を和らげるために、ライアは狙ってこれを話したのかも知れ
   ない。そしてそれを薄々感じ取るユウトであった。
ナイラ「フフッ、お2人は仲がよろしいのですね。」
ライア「べ・・・別にそんな仲ではありませんっ!」
   赤面し、大きく否定するライア。それを見たユウトが今度は小さく微笑んだ。
ユウト「ありがとうございますナイラさん。」
   この感謝の意に2人は意味が分からなかった。2人の仲を知って話したのか、それとも別の
   意味で話したのかと。

ユウト「ところでナイラさん、折り入ってお願いがあるのですが。」
ナイラ「内容にもよりますが、貴男様の出来る限りの事は致します。」
ライア「出来る限り・・・そこまで信用していいのですか?」
    ライアは疑問に思った。いくらユウトを知っていても、こちらは初対面の人間である。
   そう容易く相手を信じると、痛い目を見る事は今の人間誰しも知っている。
ナイラ「祖母のユキナ様の願いなのです。ロストナンバーレイヴンズのリーダー吉倉天城様の縁の方
    にお会いしたら、必ずお力になるようにと。その為に私は半世紀前に活躍していた企業の
    吉倉財閥を受け継ぎ、今の世界で活躍できるように運営しているのですから。」
   ナイラの発言を聞き、ライアは驚きの表情をした。そして徐に彼女に対して話し出す。
ライア「ちょっと待って下さい。もしかして地球と火星での最強の企業、平西財閥とは・・・まさか
    ナイラさんが運営していらっしゃるのですか?!」
ナイラ「そうです。地球と火星に住む人々を幸せにする為に、ユキナ様が財閥の運営をして下された
    のです。」
   ライアは開いた口が塞がらない。一企業人として活躍する者なら、誰もが聞いた事があるもの
   である。それを間近で語られたのだ、驚かない方がおかしいだろう。
   しかしユウトはユキナという言葉が気になっていた。
ユウト「・・・ユキナさんって、ユウジさんの後継者の方ですよね?」
ナイラ「はい。ユウジ様から吉倉財閥を受け継いだと聞いております。」
ライア「ユウトさん、ユウジさんとは?」
ユウト「祖父の従兄弟です。ロストナンバーレイヴンズの一員で、吉倉財閥という財閥の力で祖父を
    バックアップしてくれたそうです。何でも・・・不治の病になってしまったそうで。死期を
    悟ったユウジさんは、ユキナさんを後継者に選び全てを任せたそうです。ユウジさん死後は
    ユキナさんが財閥を運営、今に至っているという訳です。しかしその後クローンファイター
    として舞い戻ったとか。詳しい事はよく分かりません。」
   ナイラは祖母や母に聞いた事のある話を聞き、驚きながらライアと共に真剣にユウトの話を
   聞き入る。それに気付いたユウトは更に話を続けた。
ユウト「確かユキナさんには娘さんがいて・・・、平西舞華さんでしたか・・・。その方が吉倉財閥
    を火星へ進出させたのですよ。その機転のある行動や住人を第一とする企業の方針は火星に
    住む人々の絶賛を浴び、地球と同じく火星でも全企業のトップへと上り詰めたんです。若く
    して社長になったというナイラさんの情報を聞いた時、流石だなと思いました。」
ナイラ「・・・さすがユウト様、全てご存知だったのですね。私の母、平西舞華の事もご存知とは
    感無量です。」
ユウト「祖父が言っていましたよ。今日からユキナさんが妹になったと。義理の妹ですが、嬉しい事
    だとも言っていました。」
ナイラ「・・・ありがとうございます、ユウト様。」
   徐に涙ぐむナイラ。自分の家族をこれほど褒め称えた人物は他にいなかったからだである。
   それにその発言をした人物は、自分が憧れる吉倉天城の孫であるユウト。更には自分より年下
   である彼だ。弟みたいなユウトが自分より物事をよく知っている。
   これほど嬉しい事は他にはない、ナイラはそう心中で思った。

ナイラ「先程のお願い事は重々承知しております。この為に私は生きてきたのですから。この私と
    平西財閥全社、ユウト様とナイラ様にお預けします!」
    自分の使命を確認するように、ナイラは力強く発言する。ユウトはその場に立ち、ナイラに
   深々と頭を下げた。
ユウト「ありがとうございます姉さん。」
ナイラ「そんな・・・姉なんて、勿体無いお言葉です。」
ライア「・・・羨ましいなぁ〜、そこまでお互いを信頼できるなんて。それにユウトさんとナイラ
    さんを見ていると、まるで姉弟みたいに見えますよ。」
   2人の仲を見つめ、ライアは羨ましそうにそう話す。それは姉弟という観点を懐かしいものと
   感じていた。
   それをいち早く見抜き、ナイラは意外な発言をした。
ナイラ「そんな事ありませんよライア様。実は貴女のお母上ミキ=トーベナスアイグ様は私の祖母の
    娘、つまり私の母の妹なのですよ。」
ライア「本当なのですか?!」
ナイラ「母から聞きました、弟と妹がテロリストに殺されたと。また貴女には妹がいましたよね。
    その方とは生き別れになってしまったと聞いています。大丈夫ですよライア様、必ず妹様の
    マイア=トーベナスアイグ様は見つかります。私が保証しますよ。」
   感無量で泣き出すライア。ナイラもまた自分の事を一番心配しているのだと気付いたからだ。
   それにナイラは従姉妹、余計に感動してしまったのである。
    ユウトはベストのポケットからハンカチを取り出し、そそくさげにライアへ手渡した。
ライア「ありがとう・・・。」
ユウト「よかったですねライアさん。驚きましたよ、生き別れの妹がいるとは。また達成するべき
    目標が見つかりました、ライアさんの妹さんを見つけるという目標が。」
ライア「・・・ユウトさん。」
   ライアはユウトの右手を両手で掴み、胸へと誘う。胸に右手を抱くと、暫くそのまま動かなく
   なった。
   ユウトは赤面するがライアの心境が右手を通して感じ取り、そのままにしてあげた。

    一瞬の沈黙の後、携帯端末のアラームが鳴り響く。これはナイラが所持する携帯端末からで
   ある。
   ナイラは携帯端末を手に取り、内容を確認した。
ナイラ「あの〜・・・いいムード中すみませんが、アリーナ登録所から通信が入りました。そろそろ
    試合があるので。」
   ライアは徐にユウトの右腕を解放し、先程手渡されたハンカチで涙を拭った。
ライア「ありがとうございましたユウトさん。」
   ライアは涙を拭うと、ハンカチをユウトに返した。そして徐に立ち、大きく背伸びをする。
ライア「よ〜しっ、試合頑張るぞぉ〜!」
ユウト「フフッ、その意気ですよライアさん。」
ナイラ「戻りましょうユウト様ライア様。」
ユウト・ライア「了解姉さんっ。」
   ユウトとライアに姉と言われ赤面するナイラ。だがその表情は笑顔に満ち溢れていた。
   3人はガレージを後にし、アリーナ登録場へと向かう。
                               第2話・2へ続く

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