〜第2部 9人の決戦〜
   〜第2話 意外な襲撃者1〜
    翌朝、遅れながら大食堂にレイスとデュウバが入室する。そこにはターリュとミュックに
   食事を与えるウインドとマイアの姿があった。

    デア達との決戦の後、マイアは一度故郷の火星へと帰る。だが悲惨な結末が彼女を襲った。
   家族同様のメカニック達が何者かによって殺害されていたのである。
   相手は不明であったが、デア達との事が脳裏を過ぎる。永遠の指名手配になっている彼女の事
   である、親しい者達も殺されたのであろう。
    帰る場所がなくなったマイアは、直ぐ様ライアの元に駆け付けた。身ごもっている姉の事が
   心配になったのだ。
   しかしライアはユウトやキュービヌに守られ、なおかつ伝説のレイヴン達に守護されている。
   絶対的安全な中にいる事に気づき、ホッと胸を撫で下ろす。
    だがウインドは彼女の身に何が起きたのか直ぐに理解した。それを告げると彼女は大泣きを
   する。全く関係のない赤の他人のウインドが、一番自分の事を気にかけていたのだ。
   そして自分がいる場所は、姉や恩人のいる周りしかないと確信した。
    今ではライアの代役を務め財閥内の雑務などに明け暮れている。また周りも彼女を快く受け
   入れ、彼女も再び帰るべき場所を持てたのである。

レイス・デュウバ「おはようございます。」
マイア「おはようございますお姉様。」
    ウインドの娘的存在だったオリジナルレイス、その姉的存在のデュウバと彼女のクローン体
   であるレイス。オリジナルレイスの孫であるライアとマイアにとって、ウインド・ビィルナ・
   デュウバは家族そのものである。
   そのためあの事件以来、マイアは2人の事を姉と呼ぶようになった。
マイア「お疲れではありませんか?」
デュウバ「な・・何が・ですか。」
マイア「求め合ったのでしょう、2世紀以上の。お疲れになるはずです。」
   ウインドが大食堂に駆け付けて来た時、マイアは朝食当番であった。
   2人と一つになってから彼はある程度気さくな性格になり、あまり話さない事まで語ったので
   ある。まあマイア自身を信頼しているからこそではあるが。
レイス「ウインドっ!」
デュウバ「どうして言うのっ!」
ウインド「別に恥ずかしい事でも何でもないじゃないか。堂々としていなよ。」
   呼びつけで語っているのだから、2人は相当恥ずかしいのであろう。だが相手のウインドは
   軽く受け流し、マイアはごちそうさまと微笑ましい視線で見つめている。
    マイアもユウトとライアの一件で、完全に彼に対しての好意が吹っ切れた。まあそれは恋愛
   感情に関してである。
   その後そういった事に関してユーモアになり、逆にそういう事に関して会話をしだすように
   なった。
   言わば同様の性格を有しているキュービヌと同じであり、その手の相談役が2人になったのと
   同じであった。
   ユウトとライアが行動に出た事によって、マイアもまた前とは見違えるほどまでに成長したの
   である。
マイア「女は恋をする事によって強くなれる。私がお2人の立場だったら、もっと行動しますけど。
    それが禁断であってもです。」
   そう話すとウインドを見つめる。それに気づいた彼は苦笑いを浮かべながら、そのまま2人の
   子供に食事を食べさせ続けた。
レイス「・・・マイアさん変わられましたね。」
デュウバ「キュービヌ様そっくりです。」
マイア「変革は己の変わりたいという強い一念によって変わる。そうでしたよねお父さん?」
ウインド「そうだな。」
   ウインドはこう思った。ナイラにも似てきだしたと。お淑やかな部分は多少弱いが、確信ある
   発言をするのは彼女と同じである。
マイア「お楽しみになるのはいいですけど、あんまりお父さんを疲れさせないで下さいね。女は凄い
    力を持っているけど、男はそのような力は持っていないのだから。」
   意外な発言に2人は驚きかつ軽い激怒をし、彼女に八つ当たりをする。だが心中ではここまで
   成長した事に嬉しさで一杯であった。

シュイル「来ませんね・・・。」
レイス「油断はできません、注して下さい。」
    朝食を終えた6人はマイアにターリュとミュックを託し、その他の3人は既に起床している
   シュイルとアリナスと共に襲撃者の迎撃に移った。
   昨日送られてきたメール記載の襲撃予告時間が、間近に迫ったからである。
   表は突風が強く、外部の音は殆ど聞こえない状態である。つまりは直視とレーダーによる索敵
   でしか、相手を発見できない状態であった。
アリナス「やり手でしょうか。」
デュウバ「分かりません。ですがこちらを潰すつもりで来るでしょう。今まで来た連中は、全て破壊
     を目的に来ていますから。」
シュイル「了解です。」
    今回はウインドはガレージにてオペレーターの役に付いた。レイスとデュウバが進んで、
   彼と同じ行動を取りたいと言ってきたのだ。
   それにウインドは嬉しくなり、全てを2人に任せた。女性版、風の剣士といった所だろうか。
    またメカニックチーフにはキュービヌが抜擢されているが、専属技術顧問にはシェガーヴァ
   とレイシェムが選ばれている。人工知能であるため、機械の事なら何でも知り尽くしている。
    かつての彼はその表情を見れば人工知能だとすぐに分かった。だが今の彼とレイシェムの
   外見には、人工皮膚を被せている。
   外見は普通の人間と何ら変わらない。だが表情自体が固定されているので、ぎこちないもの
   ではあるが。
オペレーター「レーダーに反応、距離約3000。機影は1です。」
シュイル「了解。」
   戦闘態勢に入る4人。財閥の周りは崖となっており、来るとしたら崖の上からであろう。
アリナス「戦術はどうしますか?」
デュウバ「当然、貴方達が主役ですので。苦戦するようでしたら、助けに入ります。」
アリナス「うぇ〜っ、厳しいですね・・・。」
レイス「お2人の為でもあるのですよ。私達が戦ったのでは、何の意味もない。可愛い我が子には
    旅をさせろといいますし。」
   アリナスはどこか不安げだが、シュイルはその意味を理解している。それはユウト自身からも
   告げられた事であり、自分自身の成長に繋がる事だと理解してもいる。
   流石はユウトが見定めた人物であった。

    自分達のACレーダーにも点が映り、臨戦状態になる。だがその時、財閥の影から突如と
   攻撃を受ける4人。
   直後前方の崖から黒色のACが姿を見せる。その黒色ACは囮だったのだ。
レイヴン1「周りを取り囲め。相手の機動力を封じるんだ。」
    男性と思われる人物の発言が自分達のAC内部にも聞こえ、その後4人の後方に出現した
   6機のACが散開する。
アリナス「何よこれ!」
シュイル「オペレーターさん、長距離レーダーには反応がなかったんですか?!」
レイシェム「相手側はステルス仕様の輸送車両を使用したと思われます。6機の機体が出現後、財閥
      後方に輸送車両と思われる機影が確認できます。本日は突風が強く、外部音声が殆ど
      拾えません。相手側の戦術に、見事に引っかかってしまったようです。」
    オペレーターに代わり、レイシェムがナビゲーターを務める。お淑やか風の発言だが、一言
   ひとことが正確さを帯びていた。
    シュイルとアリナスは散開し、目の前に接近してくる機体から迎撃をしだす。
   だが相手側は黒色ACから的確な指示を受けるためか、こちらの行動を殆ど殺され思うように
   動けない。

    シュイルとアリナスでは厳しいと判断したレイスとデュウバ。不動を決めていた2人も動き
   だし、強化人間特有の空中からの攻撃で2人を護衛した。
レイヴン1「相手は強化人間がいる。チームに分かれろ。」
    しかし黒色ACレイヴンはやり手だった。相手が強化人間だと見極めると、直ぐ様6体いた
   メンバーを半分に分ける。
   そして防御面に長ける部隊をレイスとデュウバに当たらせ、近接戦闘ができる部隊をシュイル
   とアリナスにぶつけた。
   戦闘状況と相手ACの火力を見極めた、非常に効率がいい作戦だった。
   相手の的確な行動に為す術がない4人。機体損傷も激しく、やられるのも時間の問題である。

    4人の状況が厳しいと判断したウインドは、シェガーヴァ・レイシェム・アマギ・マイア・
   キュービヌを引き連れて財閥外へと出た。
ウインド「やり手がいるものだな。」
シェガーヴァ「ウインドは黒色ACを。レイシェム・アマギ・マイア・キュービヌはその他の面々を
       撃破するぞ。」
4人「了解。」
   黒色ACレイヴンにとって、6人の増援が出たのはイレギュラーだった。
   それに相手側の力量を見切ったらしく、ウインドやシェガーヴァなどのやり手レイヴンがいる
   事と直ぐに察知したようだ。
   攻めに徹していた相手側は、守りへと変わっていく。

ウインド「襲撃者か。そのようなやり手なら、別の生き方もあろう。何故正義を消そうとする。」
レイヴン1「それがレイヴンだからだ。合法非合法な依頼を請け負い、冷徹までに依頼をこなす。
      それこそが真のレイヴンだ。」
アリナス「あんた馬鹿じゃないの。合法非合法はいいとして、実際に社会に貢献しているここを破壊
     しようとしてるのは紛れもない悪人よ。いい大人がレイヴンの真意だなんか語って、恥ず
     かしくないの?」
シュイル「真のレイヴンは人を助けてこそ成り立つ。破壊や殺戮だけが能じゃない。その強大すぎる
     力を人を助けるという正しい事に使う事こそが、尊い生き方なんですよ。」
   ユウト以上に物事を見定めていたシュイルとアリナス。そのレイヴンの常識を覆すような発言
   を聞いた相手側7人は、生まれて初めて心の底から感銘した。
レイヴン1「・・・何ができるというのだ、破壊しか知らない愚かなレイヴンに。」
アリナス「それはあんた自身が考えるんだね。大人なんだろ。何が正しくて何が悪いのか、しっかり
     見定めなさい。」
   猪突猛進な性格で応対していたアリナス。だが心にはしっかり物事を見定めるものがあった。
   ここまで言い切る事は、そうなかなかできる事ではない。
レイヴン1「・・・若いな。」
アリナス「当たり前よ!」
レイヴン1「だからそこまで熱くなれるのか・・・。・・・信じてみよう、貴女の発言を。その一途
      な尊い信念を。」
    その後黒色ACレイヴンは6人に武装解除を命じた。6人もそれに応じ、交戦中であった
   のを直ぐ様中止する。
   意外な初心者風なアリナスの発言で、7人のレイヴンを説得してしまったのであった。

    財閥内の大型ガレージ。ここに先ほど戦闘した7人の機体が待機している。
   搭乗していた7人はシュイル・アリナス・マイアに連れられライアの自室へと向かった。
   その後方には、普通に付いてくるウインドの姿があった。
   ウインドには分かっていた。この7人が今後の戦乱に立ち向かう同志になる事を。
マイア「お入り下さい。」
    マイアがライアの自室の扉を開き7人を招き入れる。入室した7人はそこで意外な人物を
   見た。
   先ほど社長に会わせたいとマイアが言い、7人を彼女の自室まで連れて行った。その社長が
   若い女性であった事に驚いたのである。
   また若いのにそのお腹は大きく膨れあがっている。つまりは女社長で妊婦である事に、7人は
   意外なほどに驚きを露わにしていた。
ライア「初めまして。ここトーベナス社の社長を務めております、ライア=トーベナスアイグと申し
    ます。」
   とてもその幼い容姿のライアが発言する言葉ではないと、7人は再び驚いた。
ライア「いきなりで申し訳ありませんが、1つご質問がございます。それは誰にこの襲撃依頼を依頼
    されたのか。よろしかったらお教え願えませんか?」
   普通に襲撃依頼者を話せと言っても、他人と干渉しない普通のレイヴンにとって答えるはずが
   ない。しかしその気丈溢れるライアの応対に、7人は不思議と相手の詳しい詳細を話しだす。
レイヴン1「エルディルという女性レイヴンからです。何でも世界の秩序を乱す輩が巣くう根城を
      破壊しろと。」
レイヴン5「報酬が魅力だったのです。私達の普段稼げる額の5倍近いものでした。」
   その女性レイヴンの発言を聞いたライアは、この7人が資金面で困って依頼を受けたのだと
   直感した。またライアの直感と同じく、マイアとウインドも同じく直感してもいた。
ライア「了解致しました。代わりに私からその報酬の2倍の金額をお支払い致します。ですが条件も
    ございます。今後このような依頼を絶対に受けないで欲しいという事。これは貴方様方の
    命も危険にさらしてしまいます。命あっての今のご時世、間違った事に走らない事をお願い
    致します。」
    半年前からここに襲撃してくるレイヴンを捕まえては、このような応対をしている。だが
   彼らのような訳ありの者ではない好戦者や破壊者は、問答無用で叩き潰している。
   困っている人々を助けるのがウインド並びにその弟子たる彼らの信念。どのような者でもそう
   やって救いの手を差しのべているのである。
   ある意味偽善者で無謀、そして損な生き方である。
    だがウインドはライアのこのプランに大きく賛同している。不幸な人を無くす事こそが、
   人を助ける道の近道であるのだ。
   だがこのプランに賛同しているのはウインドが一目置く者達のみで、財閥社員のその殆どの
   者は好ましく思っていなかった。
   その資金などの力があるのであれば、自分達の生活を豊かにしてほしいと思っているのだ。
   唯一社員から関係者の全てが賛同しているのが、ナイラが運営する平西財閥のみである。

レイヴン1「・・・本当に嬉しい提案です。しかしそれは偽善者ぶっているのではないのですか?」
    7人は快く受け入れられなかった。
   美味しい話には裏がある。今の世界、簡単に騙し騙されるこのご時世。この者達はライアの
   行動に不安感を感じていた。
ライア「そう思われる事は正論です。ですが私がそうしたいのですから、快く受け取って下さい。」
   しかしライアは行動を一切変えなかった。
   一度決めた事は絶対に押し通す。それは無理難題や無謀な事は行わない。ライア自身が身に
   つけた、自分なりの人を救う行動だった。端から見れば異常者に見えもするが・・・。

    その後も直ぐに返事を返さない7人。
   ライアは諦め俯こうとしかけた時、その心中を察知してウインドが別の提案を切り出す。
ウインド「ならこうしよう。お前達全員が俺と戦って、全力で戦ったら資金を提供する。いわゆる
     擬似アリーナというものだ。どんな手を使ってもいい、全力で戦いな。これなら俺の娯楽
     だから、文句はあるまい。」
レイヴン1「俺達を相手にか?」
   7人は相手を見下した視線で、壁に寄り掛かるウインドを見つめる。当然だろう。娯楽で自分
   達の不幸を測られるのは、非常に腹が立つ行為だ。
   それにウインドの容姿から、とてもやり手のレイヴンだとは到底思えなかった。
   7人という集団が1人と戦うのだ。凡人のレイヴンならその戦力に勝敗は目に見えている。
    勝敗が目に見え、心中でニヤケ顔になろうとしている7人。だが今度は逆に見下した発言で
   挑発をするウインド。
ウインド「それとも・・・こんな優男に全力が出せないのか。あれほどまで効率のいい戦闘を行って
     いるにも関わらず、俺のような優男1人では相手にならないのかな?」
レイヴン1「・・・いいだろう、その提案呑むとしよう。」
   ウインドの悪役を演じた挑発、これに見事に引っ掛かり7人は怒りで一杯であった。
   完全に自分達を見下されたのだ、腹が立つのは当たり前であろう。

    その後7人はライアの自室を後にすると、ガレージへと向かう。
   ガレージにて待機中の自分達の愛機に乗り、財閥の外でウインドが来るのを待った。
   その前にキュービヌがウインドの計らいで7体のACを修理を済ませている。それは7人が
   知らぬ間にである。
   使ったはずの弾薬などが元に戻っている事に、コクピット内で気づいたのであった。
マイア「大丈夫ですか?」
ウインド「ああでも言わないと、本気になってくれない。堅物のレイヴンはそれ以上の力を持つ者に
     敗れれば、その真意が分かるだろうよ。」
ライア「すみません。私の無謀な提案を話したばっかりに。」
ウインド「いや、いつもそれを押し通しな。必ず理解してくれる時が来る。」
   マイアに支えられ、ライアが反省気味にそう話す。だが間隔空けずに間違ってはいないと、
   ウインドは彼女にそう告げる。
ライア「お気を付けて。」
ウインド「おうよ。」
   ライアの肩を軽く叩き、その後社長室を後にする。
    ウインドは遅れてガレージへと向かい、待機中の愛機ウインドブレイドに搭乗する。
   既にレイシェムによって機体は機動状態にあり、完璧な状態でウインドは財閥外へと出た。
                               第2話 2へ続く

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