第3部 9人の勇士 36人の猛将 〜第2話 地球と火星と1〜 火星修行に赴いているレイヴンズの招集を行うため、シュイルとバレヴは火星へと向かって いた。 マイアの故郷、第2の地球。しかしレオス=クラインの騒動以降、再び地球以上に荒廃し きってしまった。 そんな中でできる限りの人助けを行おうと考えたのが、ユウトと共に死闘を演じた面々だ。 ライアの母としての死闘などを見ていくうちに自分達も何かできるのではと問いかけてきた。 それが実現したのが無法地帯に巣くう悪の一斉掃除である。 シュイル達最終決戦後、バレヴはよくシュイルと行動を共にするようになる。 どうやら決戦時に命を懸けてまで己の悪と対戦したシュイル。その時から彼を特別な視線で 見るようになっていた。 バレヴ「シュイルさん、火星には来られた事が?」 シュイル「ずっと地球でした。全く未知の領域ですよ。バレヴさんは?」 バレヴ「これで何度目でしょうか。よく来ていますよ。」 バレヴの彼に対する思いを察知したアリナスは、自分も彼を思う気持ちを止めた。それだけ バレヴの思いが強かったのである。 周りも何故彼女があそこまで献身的になれるのか、とても不思議で仕方がなかった。 その後彼女は何かを決断したのか、地球平西財閥本社にいるシェガーヴァに通信を入れる。 シェガーヴァ「どうした、トラブルか?」 バレヴ「いえ・・・。実はあの事をシュイルさんとアリナスさんにお話ししたいのですが・・・。」 シェガーヴァ「ふむ・・・、構わないが混乱させないようにな。」 二言返事でシェガーヴァは許可をする。 その後彼が応対する端末にアリナスを呼び、バレヴは2人に徐に話し出した。 バレヴ「・・・私はある人物から転生しています。クローン技術での試作品で、シェンヴェルンが 私を転生させました。前世の名前は・・・バレヴィリム=カウシャール。」 その名前を聞いたシュイルは驚愕する。そう彼女こそシュイルが過去に付き合っていた恋人で あるからだ。 アリナスはシュイルから当時の事を詳しく聞いた事があり、名前を聞くと同じく驚愕した。 シュイル「そ・・そんな・・・、レリムなのか・・・?」 バレヴ「私だけじゃありません。もう1人のある人物も移植して転生してあります。アリナスさん、 貴女の亡き姉です。」 端末の前で驚愕しているのであろう、バレヴはそう感じ取った。 しかしシュイルにアリナスはどうしても納得がいかなかった。それは何故失われた人々を転生 させたのか。それが一番謎であった。 バレヴ「何故私達が転生させられたのかは分かりません。それはシェガーヴァ様でも不明だと仰って いました。しかし私達に共通する事、それは一度強化人間の実験材料にされた事があると いう点です。おそらくはシェンヴェルン自身がそのデータを元に試験体として私を作ったの でしょう。」 シェガーヴァ「理由はどうあれ、バレヴはシュイルの恋人でもありアリナスの姉でもある。それは 紛れもない事実だ。」 複雑な心境なシュイルとアリナス。目の前の現実は不可解なものばかりである。 バレヴ「身を引く事はないのですよアリナスさん。私は既に死んでいる身。生きている方こそがその 役に相応しい。私がシュイルさんに付いているのは元恋人としてではありません。私の大切 な妹の相手を殺させないためです。」 アリナスは自分が恥ずかしくなった。 一時期は彼女に対して猛烈に嫉妬心を抱いた事もある。しかしそれは別のもので、自分を思う 気持ち故に付き従っていたのである。 またそれを見抜けなかったシュイルも心中で反省していた。 バレヴ「再び頂いた命。この命はお2人の為に捧げます。お2人のお好きなようにお使い下さい。 それこそが私の生まれてきた宿命。」 シェガーヴァ「まあそれもそうだが、あまり堅くなり過ぎるなよ。宿命以前にお前自身も一生命体。 私と違い赤い血が流れる人間なのだからな。」 恋人を思う気持ちと妹を思う気持ち、それらを兼ね備えたバレヴ。そんな彼女の応対に2人は 深く感謝した。 その後2人は火星平西財閥本社へと到着。 ナイラは地球本社の臨時社長にメルアを抜擢し、今は火星本社でレイヴンズの強化を行って いた。 それと元火星政府本社ビル跡地に不穏な集団が目撃されているという情報があり、そちらも 兼ねて火星へと訪れているのである。 シュイルとバレヴは平西財閥火星本社内の大型ガレージに愛機を待機。出迎えの社員に案内 され、ナイラがいる社長室へと向かった。 ナイラ「ようこそ火星本社へ。」 ナイラも日を増すごとに綺麗になりだし、今ではマイアと大した差はなくなってきている。 特にレイヴンの腕をお互いで競い合い、今では地球と火星のアリーナの頂点に君臨している。 双方の惑星でのマスターオブアリーナにはユウトがいたが、ライアが身篭もった時点で それを破棄。今は一介のレイヴンとして過ごしている。 当然頂点がいなくなったのだから、第2位のナイラとマイアがマスターオブアリーナに進出。 その後彼女達に挑戦する者が多くなり、その度に青い鷹と紅の魔女は対戦を受けている。 だが結果は彼女達の圧勝で、もう2人に挑戦するレイヴンはいなくなっていた。 シュイル「よろしくお願いします。」 バレヴ「私もシュイルさんも分からないのですが、こちらに全員集結済みとお聞きしましたが?」 ナイラ「ええ。でももう暫く待ってもらえますか。」 バレヴ「というと?」 ナイラ「最近火星全土や地球全土で不穏な輩が動いている気配があるのです。目的が分かればいいの ですが、デヴィルの事もありますし・・・。」 シュイル「そうなると火星にもレイヴンを置いていた方がいいかも知れませんね。」 ナイラ「丁度半分ずつ。戦力的に問題はないと思います。こちらにもアマギ様やビィルナ様もいらっ しゃいますし。」 バレヴ「戦力不足でしたら私をお使い下さい。皆様・・・特にシュイルさんやアリナスさんの手駒に なれれば幸いですから。」 言えなかった心の内を話したバレヴは精神的な束縛から解放、メルア級の人物へとなった。 それ故に己の命をも捧げる覚悟で戦っているのである。 ナイラ「で・では・・3人ほど地球から派遣して頂けませんか。これから元火星政府本社跡地を探索 しようと思いますので。」 バレヴ「打って付けの人物がいます。3・4時間ほどお待ち下さい。」 そう言うと上着のポケットから携帯端末を取り出し、シェガーヴァに補充人員催促の通信を 入れる。その間にシュイルは他のレイヴン達を挨拶をしにいった。 ブリーフィングルームにはアキナとクレスしかおらず、他の面々はアリーナで戦闘中だ。 シュイル「初めまして先輩方。シュイル=フォースといいます。」 アキナ「白木明菜と申します。」 クレス「秋坂クレスです、よろしく。」 殆ど毎日が本社の警護にアリーナでの修行。しかし誰一人として音を上げる者はいなかった。 むしろライアの一件以来一同勢いが増し、猛烈な勢いで突き進んでいた。それだけライアが 身を以て行動した事が大きかったのであろう。 シュイルはアキナとクレスに修行相手になってもらうように話す。2人は快く引き受け、彼の 相手になる事にした。 アリナス「こんにちはナイラさん。」 約1時間半後、地球からアリナスが火星へと来た。バレヴは増員メンバーをアリナスにし、 その事をシェガーヴァに告げたのである。 ナイラ「お久し振りです、元気でしたか?」 アリナス「この通りピンピンしてますよ。」 バレヴの一件が誤解で終わった事により、アリナスは再び恋心を抱く女となった。それにより 今まで以上に明るく活発となっている。応対にもそれが感じ取れるだろう。 アリナス「姉さん、シュイルさんは?」 バレヴ「今アキナさんとクレスさんとアリーナで修行中です。もう始めて1時間ぐらい経つのにまだ 戦っていますよ。」 アリナス「ナイラさん、出発までまだ時間はありますか?」 ナイラ「先方探索に向かっている面々があと1時間後に帰還するそうです。その後合流して再度探索 に向かいたいと思います。」 アリナス「軽くウォーミングアップにいってきます。腕を慣らさなきゃ〜。」 両腕をぶんぶん振り回し社長室を後にするアリナス。そんな妹を見つめバレヴは何が何でも 2人を守らねばと心中で決意した。 平西財閥地球本社ではシェガーヴァとマイアが人工知能ACを完成、起動実験をしている。 またレイス姉もウインドと一つになる事により多少なりとも前向きな姿勢へと戻る。そして 自分で決意したライアと子供達の面倒を見ていた。 ウインド「こらっ・・・暴れるなっての・・・。」 ウインドはユウのオムツを取り替えている。彼の背中にぶら下がろうとしているターリュと ミュック。それに膝の上ではアイが大泣きをしていた。別の意味での死闘である。 メルア「大丈夫ですか?」 ウインド「パワフルすぎて参るよ。」 アリナスが火星へと向かった後、ミナはメルアに変わり地球本社の臨時社長を務めだした。 そしてメルアは子供達の面倒を見だしたのである。 だがミナもメルアと連携を取り、子供達の面倒を交代で見る事にした。 しかし殆どウインドが面倒を見ており、完全な保父となっていた。 メルア「本当に貴方には頭が上がりません。」 ウインド「気にしないきにしない。俺が進んでやってんだから。」 ユウのオムツ取り替えが終わると今度はアイのオムツ取り替えをする。大人しくなったユウを メルアがそっと抱きかかえる。 メルア「この子達もレイヴンとなって戦うのでしょうね。」 ウインド「親が親だから確実だろうな。だから尚更面倒見なくちゃと思ってな。」 メルア「フフッ、立派なお父さんですね。」 ウインド「よせよ、メルアの方が年上だぜ。」 メルア「実年齢では祖父ですがね。」 お互いに苦笑いをする。 母と子でもあるが、父と子でもある。そんな2人が子供をあやす姿は何とも言い切れない。 ウインド「さあ終わったぜ。」 アイのオムツ取り替えを終えると彼女をそっと抱きかかえる。彼の膝を枕代わりにターリュ とミュックは寝息を立てて寝ている。 遊んで疲れては寝る、それが子供の特権。今は明日への成長をゆっくりと待つだけである。 ウインド「ライアのお腹の子供、また双子だそうだな。」 メルア「はい。今回は女の子と男の子だそうです。一番末っ子に跡継ぎができてユウト様にライア様 は喜んでいましたよ。」 ウインド「6人か。こりゃ大変な事になるな・・・。」 跡継ぎが生まれてこの上なく嬉しがっていたユウトとライア。 それ以前に一男三女という子供を短期間で産むというライアの意気込みも凄い。 女性陣はとにかくライアに脱帽であった。 メルア「全員レイヴンの道に進んだりして・・・。」 ウインド「・・・ありうるな。」 すっかり寝てしまった4人の子供を見つめ、ウインドとメルアは溜め息をつく。 このやんちゃぶりがそのまま将来に受け継がれた場合、相当苦労するという現れだった。 しかし我が子やその他の新しい命を見つめるメルアの視線、これは実に優しいものである。 ウインドもそれを理解しており、流石母親だと心中で脱帽していた。 シュイル達の修行が終わり、また先方の調査隊が帰還した。 ナイラは一同を社長室に集め、元火星政府本社跡地に向かう作戦を決めていた。 シュイル「目的は不穏な輩を探索するというものでしたよね?」 ナイラ「そうです。地球でも同じ動きがあります。それが何を指し示すのかは分かりませんが、事前 に対処した方が後々楽ですし。」 アリナス「全部隊を派遣するわけではありませんよね?」 ナイラ「ここには約10人残って頂きます。当然アマギ様が中心としてです。よろしいですか?」 アマギ「任せて下さい。」 ナイラ「メンバーは私・シュイルさん・アリナスさん・バレヴさん・クレスさん・アキナさん・ ジェインさん・ガルバードさん・サーベンさんの9人です。他の方々は本社の警護及び、 近隣のパトロールをお願いします。」 レイヴンズ「了解。」 ナイラ達は動き出した、不穏な輩の正体を探るべく。9人は万全な状態で探索できるように 3チームにメンバーを分ける。 また補給も必要と判断したため、それぞれ3倍近い弾薬補給車両を動員する事にした。 同じくして地球でも9人のメンバーを抜擢、ミナを中心とするメンバーは不穏な輩が動いて いるというロストフィールドへと向かった。 当然補給もナイラの陣営と同じものを用意してである。 シェガーヴァ「通信感度は良好。敵の出方が不明だ、十分に気を付けろよ。また衛星で逐一そちらの 動きを監視する。何か別の動きがあれば連絡する。」 ナイラ一同・ミナ一同「了解。」 最近はデヴィル一味の動きが全く読めない。それだけにシェガーヴァは最大限のサポートと いう形で安全性を確保した。 これまでに究極とも言えるサポートをした事はないと、彼自身心中で思っていた。それだけ 今回の不穏な動きが未知数であると言える。 レイス姉「大丈夫でしょうか・・・。」 レイス妹「大丈夫よ。なんたってアースマスターオブアリーナやウインドさんの後継者とも言える 人物がリーダーなのよ。それにお祖父さんも付いている事だし。」 デュウバ姉「恐れこそが最大の敵。それこそが己を悪へと陥れる第一歩。レイス、注意しなさい。」 レイス姉「ですが・・・何かこう・・・胸騒ぎがするのです。」 ウインド「俺も同じだ。シェガーヴァもそう思ってる。一体地球と火星とで何を企んでいるのか。 洞察力が強い俺でも流石に読めない・・・。」 ウインドと一つになる事でレイス姉は直感と洞察力が今まで以上に高まった。それは彼女 自身が元から持っていたもので、それを引き出す行為でもあったようである。 しかし相変わらず3人の姉妹より内気な性格のレイス姉、言動が弱腰になっている。 その姿を見て姉妹達は苛立ちを隠せなかった。 デュウバ妹「レイスさん、もう少し気丈でいて下さい。日に日に弱々しくなっているのがよく分かり ます。見ていて非常に辛いです。」 デュウバ姉「そうね。最近の貴女おかしいわ。」 ウィン「まあま、そう言わずに。」 祖母であるウィンが割って入る。今はそのような口論をしている時ではない。 またそれはレイス姉にとって一番悩んでいる事である。一番辛いのは彼女自身であるからだ。 それを祖母としていち早く察知したウィン。それ以上発展させないように凄みを見せた表情 で一同を見つめる。それを見て子供達は引いていた。 レイス姉「・・・少し外します。」 だがレイス姉本人は全く引かなかった。それどころではないのが実情であろう。その場から 重い足取りで通信室から去っていった。 涙が止まらない。こんな嫌な自分などなくなってしまえばいい、レイス姉は思っていた。 しかし過去に大切な人に迷惑を掛けた罪は消えていない。それを行えば更に罪を増大させて しまう。 己との葛藤、そして己との激闘。レイスの心中では善と悪が凄まじい戦いを繰り広げていた。 メルア「あら、どうなされたのですか?」 ふと気づくとメルアの自室へと足を運んでいた。 泣き崩れた表情はメルアを心配させたが、そこはデェルダの後継者とも言える彼女。毅然と した態度で彼女を迎え入れた。 レイス姉を近くの椅子に座らせると、メルアは紅茶を入れ差し出した。 どんな状況でも相手を敬う。デェルダがしてきた行動と同じであった。 レイス姉「ありがとうございます・・・。」 メルア「まだ悩んでおいでですか。過去の罪へ対しての自分への嫌気、それらに今だに縛られ続ける 己を恥じる心中の苛立ち。」 メルアはレイス姉の心中を鋭く見抜いていた。流石は母親役であろう。 レイス姉「・・・もうどうしたらいいか・・・分かりません・・・。」 メルア「なら分からないままでいいじゃないですか。無理に考え込まないで今やるべき事を考えて。 特に今は大事な時。母親になった人物としては貴女を含め3人しかいません。一同皆家族、 母親が落ち込んでいては子供達は迷って泣きますよ。」 全身に電気が走り我に返るレイス姉。 確かに過去にとある事で悩んでいた時、夫と子供に心配掛けさせた時があった。 今の自分は当時と同じ事をしている。そして家族同然の仲間達に迷惑を掛けている。 この時の解決法が、悩みも抱きつつ我武者羅に突き進むというものであった。 そうライアが今その心境であるのだ。 自分の会社が敵に乗っ取られた。子供を産んだはいいが、しっかりと成長させる事はできる であろうか。親として・社長として、考え・悩み・苦しむ。 しかし止まっていては、全く意味がない。目の前の壁を越えてこそ先に進める。そして己 自身の成長へと繋がる。 レイスはライアを見ると胸が苦しくなる。 それはその幸せの姿を見ると、彼女の家族を殺した過去の自分の行いを今も後悔しているから ではない。 自分がするべき・行うべき事を毅然として実践している彼女を見て、自分がそれを出来るのに やらない苛立ちから辛くなるのだ。 答えは出ている。我武者羅に突き進む。壁にぶち当たったら再び悩み、解決法を考えつつも 再度動き出す。人間とはそれの繰り返しである。 レイス姉「・・・・・何か途方もない事で悩んでいたようです・・・。」 メルア「でしょう。私も夫と結婚するまでは悩みの連続でしたよ。しかしその悩みを凌駕する程の ものが目の前に現れ、悩む事すらできなくなった。そうしているいちにいつの間にかこう やって気丈になれました。」 レイス姉「進みます、我武者羅に。進んで進んで進みまくって、壁にぶつかったら悩んでまた進み ます。」 メルア「そうその意気です。私もこうやって毅然として応対してますが、本当は怖くて仕方がない ですよ。しかし止まっていては意味がない。だから怖いながらも進むと決意したのです。」 メルアに深く感謝するレイス姉。 同じ母親で同じ悩みを持っていたからこそ相談する事ができた。 レイス姉が無意識にメルアの自室に向かったのは、既に解決方法を知っている彼女へ確かめ に行ったのであった。そう、レイス姉は既に答えを知っていたのである。 長きに渡って自問自答を繰り返してきたレイス姉。その心中から完全ではないが悩みという 濃い霧が振り払われ、光明が輝かしく燦々と降り注いだ。 今まで内気でいた自分が嘘であるかのようで、全ての悩みをもしっかりと受け入れていた。 過去の罪から目を背け、今まで己に嘘偽りの姿を演じさせていた。 心中に悩みはあるが、立ち止まる概念を一切捨て去ったレイス姉。 この瞬間メルアと同じ人物へとなったのである。 サポートに徹するシェガーヴァ、レイス妹・デュウバ姉妹も不安な顔色を隠しきれない。 重苦しい雰囲気の通信室、それを難なく耐えているのはシェガーヴァだけである。 どれだけ時間が経過しただろうか。 通信室のドアが開き、パイロットスーツをキリッと身に纏ったレイス姉が現れる。 今まで肩にかかるまで伸び切っていたロングヘアーがショートカットヘアーになっている。 それを見た女性陣は驚きの表情をした。 デュウバ姉「ど・・どうしたの?」 レイス姉「自分も動きます。孫の面倒もありますから火星へはいけませんが、ミナ様達の護衛には 出撃できます。」 さっきまでのレイス姉が嘘のようである、そう一同は思った。何よりの証拠はそのショート カットヘアーであろう。 女性が髪を切る場合、何かしらの新しい決意に立つ時だ。 どんより曇り気味の黒い瞳は、ウインド同様曇りない晴れ渡る黒色の瞳になっている。 今のレイス姉には悩みはない。いや、あったとしてもそれを表に出していない。今までの姿 とは全く違い、全盛期の漆黒の魔女を彷彿させる。 レイス姉「父に仰っておいて下さい。動けない分は自分が皆さんの護衛に回りますと。」 そう告げるとその場を去っていく。 レイス姉は大型ガレージへと向かい、愛機へと乗り込み目的地へと向かった。 追って一連の行動中にシェガーヴァから目的地の詳細なデータをアップロードしてもらい、 それらを確認しながら今後の作戦を練る。 メルア「我武者羅に動いてますね。」 暫くしてメルアがシェガーヴァ達の元へ訪れた。 レイス姉がその場にいない事を見ると、行動に出た事を察知した。 レイス妹「メルアさん、姉さんに何か助言でも?」 メルア「いいえ、私は何も言ってませんよ。彼女は既に答えを知っていましたし。私はその答えへの 道を一言だけ言っただけです。我武者羅に動け、とね。」 眼鏡を外し、メルアは天を仰ぐ。今まではコンタクトレンズであったが、何故か眼鏡へと元に 戻した。 メルア「尊敬します、南村レイスさんを。あの方こそ敏田デェルダさんの再来と言うべきでしょう。 皆さんは私が母親やレイヴンとして生きている事に敬意を表されますが、自分はそうは思い ません。私以前に母親とレイヴンの道を歩み・一度挫折し・再度立ち直ったレイスさんこそ 敬意を表します。私など足下にも及ばないぐらい悩み苦しみ生き続ける女傑です。」 この無敵にも思えるレイス姉が悩み苦しんでいたのだ。それを考えるとレイス妹・デュウバ 姉妹はもし同じ立場に自分がなったとしたら、まず間違いなく立ち直れないだろうと思った。 いやそれ以前に最悪の破壊の魔女に堕ち続け、二度と女傑へと戻る事はないだろう。 デヴィルなどの輩と同じ破壊者となる事は目に見える。 レイス姉はそれを実演したのであろうか。 自分という生命体を実験台とし、こうなるまいと周りに諭す存在に自らなったのであろうか。 南村レイス。彼女こそ真の女傑にして、真の悩みを克服した人物であろう。 第2話 2へ続く |
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