〜第2部 9人の決戦〜 〜第3話 伝説の者達1〜 ガレージに大破した7体の機体が収容されていく。 その最中ウインドはジャイアントハンドのコクピット内部に入り、ミナの安否を気遣った。 先程の戦闘でミナが気絶していた事に、既に気付いていたのである。 朦朧とするミナを抱きかかえ、そのままガレージのソファーに寝かしつける。 ウインド「大丈夫か?」 ミナ「はい・・・。」 相手の意外な行動にミナは心を躍らせた。自分が気絶している事にいち早く気付いてくれた 事に、また優しい対応をしてくれた事に心から感謝するミナであった。 ウインド「みんなも大丈夫か、怪我はないか?」 アミ「どこも怪我はありませんよ。」 フィヴ「ミナだけです、気絶までしていたのは。それ以外のメンツはピンピンしていますよ。」 7人の対応が戦う前とは全く違っていた。そうウインドはこれを狙っていたのだ。 対話で納得がいかないのであれば、その正義の強さで相手を理解する。自分達とは全く違う レベルの彼に、7人は興奮気味に彼と応対した。 マイア「凄かったですねお父さん。7体1を見事勝ったのですから。」 ライア「それはそうですよ。何たって伝説の風の剣士なのですよ。私達の師匠であるウインド様が そのような力の持ち主であって当たり前です。」 ライアの発言に7人は驚愕した。 今自分達を負かした優男は、伝説のレイヴンのウインドである事に今気づいたのである。 そして自分達がウインドに暴言がまいの発言をした事に、心中では恐怖に震えた。 自分達が束になっても敵わない、逆に殺されるのではと思ったのである。 ミナ「ま・・・まさか・・・、あの風の剣士・・・なのですか?」 ウインド「さっきはエアーとかエアーブレードとか言ったがそれは偽名。それに過去に辛いものを 持っているのに、挑発してしまってすまない。」 恐縮気味に話すウインド。だが逆にそれは恐怖感を抱かせるには十分であった。 アリナス「だからこそ分かって貰う為に戦ったのよ。ここまで貴方達を理解してくれる人なんて滅多 にいないわ。感謝しなさいね。」 だがアリナスがウインドの話したい事を補足して代理に話す。しかしそれが彼自身の口から 直接話されなかった事により、逆に7人は恐怖が脳裏を過ぎった。 ウインドには何もされないかも知れないが、他の者達に彼の侮辱に対する当て付けをされる のではと思ってしまった。 ウインド「戦ってお前達から熱い闘志ものを感じたぞ。それだけの固い信念があれば、どんな奴ら にも負けはしない。自信を持って生きていきな。」 ウインドの偉大さに7人は感銘した。そして殺されるのではないかと、間違った思いをして しまった自身を心から恥じた。 その後ディーンはライアの元に歩み寄り、その場に跪く。そして彼女に詫びをしだした。 ディーン「ライアさん。先ほどは暴言がまいな事を話してしまい、申し訳ありませんでした。」 ライア「気になさらないで下さいディーン様。」 ライアも身重な体でその場に座り、ディーンの肩を優しく触れる。この状況でも決して敬いの 心を崩さない。 その行動にディーンは心中で決めていた事に、揺るぎない決意で固めた。 ディーン「ライアさん。よろしかったら私も・・・いや私達も共に戦わせて下さい。貴女のような 考え方をする高貴な方は、今の世界には貴重です。私の今までの人生の根本的な考え方を 覆して下された。貴女にこの身・この命を捧げます。共に困っている方々を助け、悪を 滅しましょう!」 ディーンの発言にライアは徐に涙を流す。 自分が苦しくても貫き通した生き方に感銘してくれた人間が現れた事に、心から感動したので ある。 ユウト&アマギ(世界を救う行動は何よりも率先する事だ。最初は辛くても、必ず理解者が現れる。 自分はそうやって行動して来た) ユウトが最初に語り、その後アマギやウインドが語り行動で実践した。この言葉が脳裏に深く 思い浮かんだ。 ライア「ありがとう・・・ありがとう・・・。」 感謝の意を表した直後から、ライアは大泣きをする。心の蓋が外れた時、ライアはこのような 行動を取る。以前デア達に言いたい放題に言われた時の後のようである。 そんな彼女を抱き寄せ、その大きな胸の中で泣かせてあげた。 流石は大人の男性だ。その場の慰めなど相手が一瞬でも望んでいる行動に素早く応対した。 キュービヌ「さ〜て、修理しがいがあるわね〜。」 その場の雰囲気を変えようと、キュービヌが7人の機体修理に取りかかる。既に大まかな 作業はシェガーヴァとレイシェムが行っている。細かい指示などを行うだけではあるが。 ライア「申し訳ありません。お恥ずかしいところをお見せしてしまって。」 ディーン「いいえ。貴女の行動で全てが正義だと確信しました。また私のような者でも役に立つ事が 分かりましたから。」 その発言を聞き、ライアは苦笑いを浮かべる。だがディーンを信頼できる人間だと、同じく 確信ができた。だがウインドは既に7人が同志になる事を直感してはいたが。 ウインド「あんた達はどうするんだ?」 アミ「ディーンさんがお手伝いするのであれば、私も喜んで致します。」 ユウタ「あのさ・・・あんたの事誤解していた。生意気そうな奴だと思っていたけど、信念は俺より 凄まじい決意で固まっている。」 フィヴ「私も同じです。それに妹の事を心から気遣って頂きました。私も戦います。」 ナミ「ここまで私達以上に苦労している方々がいらっしゃる事に気付きませんでした。お力になれる だけで嬉しいです。」 シュリヌ「私も・・・力になります・・・。」 ミナ「同じく・・・。」 ウインド「了解した。よろしくな、小さき勇者達。」 ウインドは7人と握手を交わした。それには色々な意味が込められている。先輩としての、 父親としてのである。 ミナ「ところで・・・貴女のお名前は?」 マイア「私?」 ミナ「はい・・・。」 ミナがマイアの名前を知りたがる。自己紹介ではライアのみしか聞いていなかったためだ。 一瞬間が開いたマイアをフォローし、ライアが彼女の自己紹介を代理する。 ライア「私の妹で、マイアといいます。私よりしっかりした頼もしい妹ですよ。」 マイア「もう・・・お世辞はいいわよ姉さん。」 話し方からして姉妹だなと、7人はつくづく思った。だが年齢がそう変わらない2人だが、 姉の方は身ごもっている事に再び驚きを示す。 マイア「それで何か質問があるんじゃないの?」 ミナ「あ・はい。先ほどウインド様にお・・お父さんと言っておられましたが・・・。ウインド様は 既婚なのですか?」 ウインド「質問する相手が違うんじゃないのか。」 彼女の質問にウインドが直接答え返してきた。それに気づいたミナは赤面し小さく頷く。 面々は思った。ミナはウインドに一目惚れをしたと。 だがそれを知ったレイスとデュウバは、ミナが可哀想になった。自分達と同じ叶わぬ恋である 事にである。 その後ウインドが自分の事やマイアが自分を父と呼ぶ事を詳しく話しだした。 それを聞いた7人は驚愕する。どう考えても普通の人間ではあり得ない事であったからだ。 ユウタ「自分より年上だったのですか?!」 ナミ「て・・てっきり年下かと・・・。」 重苦しい雰囲気の中、ユウタとナミは別の意味で驚いていた。だがそれはそれでウインドが 大笑いし、2人の意見に納得できると頷いた。 ウインド「実年齢は200を超えている。何歳だったか・・・、正確な所は覚えていない。」 シェガーヴァ「267歳だ。私より20歳若い。」 年齢を思い浮かべ、悩みだすウインド。そこにシェガーヴァが駆け付け彼の補足をする。 実際問題ウインドだけでは詳しい過去の内容を話せないので、それに気付いた彼が進んで歩み 寄ってきたのである。 レイス「ちょ・・・ちょっと待って下さい・・・。」 デュウバ「地球歴より古いではありませんか!」 それなりに2人の過去を知っているレイスとデュウバが大声を上げて驚いた。 2人が窺い知っていたのは、200歳前後で大破壊前に生きていたという事であった。 だが実際に告げられたのは別であった。 ウインドとシェガーヴァが大破壊前以前の今の地球歴が定まらない時代の人間であった事。 これに7人より2人をよく知るもの達の方が驚愕していた。 シェガーヴァ「地球歴が新年号に替わる頃、ウインドは生まれた。私はその時20歳。既に企業に 選ばれ、プログラマーとして活躍していた。その後ウインドが19歳になった時、 私と出会った。」 ウインド「覚えているよ。極度の近眼で、分厚い黒縁眼鏡をかけていた。よく面倒を見て貰った。 入社した頃、何も分からなかったからな。」 遠い目で語り合う2人。これには今いる人物はとても想像が付かなかった。 彼らより後に生まれた自分達だ。窺い知る事など不可能である。 シェガーヴァ「良きパートナーだった。私も生前は内気な方でな。ウインドやウィン嬢と同じ性格 だった。だが2人と全く違かったのは、極度に人間を信じられなかった事。だがら 良き友を求めて、人工知能開発に没頭した。」 ウインド「それがネストやコンコードの原型ともなったんだよな。」 レイヴンズ・ネスト時代を知るクローンファイターズ。再度聞いたこの事実に驚かされた。 やはり2人の存在は常識の範囲を超えていると。 シェガーヴァ「ああ、それが発端だった。その後悪の道に走った自分を止めるべく、ウインドは全力 で私を止めた。だが私はウインドを殺した。」 ウインド「その後、シェガーヴァは開発したプログラムと共に姿を消した。」 ウインドが既に亡き者だという事に、一同は再度思い知った。クローンファイターの第一人者 であり、イレギュラーそのものであると。 レイス「ちょっと待って、その後大破壊が起きたと聞いているけど・・・。」 デュウバ「そうですよ。」 どうも納得がいかないと、レイスとデュウバが質問を繰り返す。 確かに過去に話したのは、ウインドがシェガーヴァに殺された後に大破壊が起きたと言って いた。そうなると地球歴は100年前となるのである。 シェガーヴァ「当時実際に創り出したプログラムはまだ未完成だよ。完成はそれから1世紀半も後に なる。それが106年、大破壊が起きた年だ。」 ウインド「過ちに気が付いたシェガーヴァは、俺をクローンとして転生させた。俺が死んだ後、俺の 母体となるサンプルを取っておいてくれたんだ。その後まだ非公開であったMTの技術を 応用したプロトタイプACを使い、死に物狂いで修行し続けた。人類が地下へと移住し、 ネストが世界を支配しようとする日まで。」 永遠の闘争、一同はそう思わざろう得ない。大破壊後からレイヴンが栄えだした頃までは軽く 半世紀を越えている。その間休んだであろうが、殆ど修行の日々を過ごしていたのだと。 ウインド「そう言えば、俺を殺した後はまだ人間だったよな。転生してもらった後か、サイボーグに 転生したのは。それに大破壊以後だよな、俺が戻ったのは。」 シェガーヴァ「当時企業から逃げるので精一杯だったからな。約3年近くは生身の身体で生活し、 その合間を見計らって人格を移植していった。お前を転生させたのは大破壊後直ぐ。 そう、荒廃しきった地上に唯一残った失われた大地だ。今でいうロストフィールド、 ここが出発点だ。」 ウインドが不思議そうに考え込む。どうも合点がいかない部分があるようだ。 ウインド「ふむ・・・大破壊前にサイボーグに人格を移植していって完成したとする。となると、 生身の身体は何時死期を迎えたんだ?」 シェガーヴァ「ああ。それは追っ手から逃げ切る為、全人格を移植した後に出頭した。だが相手側の 考えは読めていた。大体がその技術力取得の為、鎖を付けて監禁状態にするのがな。 出頭した後、不本意ながらも自殺をしたよ。しかも身体が残らないようにね。」 シェガーヴァの生前の死を知ったウインドとその一同。当然好奇心がある一同はその経緯まで 知りたかった。 だが流石はシェガーヴァ。彼らの一念を直ぐ様察知する。 シェガーヴァ「死に様か。全くの死亡扱いで身体・・特に脳を消す意味があったため、移動にヘリを 用い廃棄物処理の溶鉱炉に飛び込んだ。」 辛い表情を浮かばせず、平然と死に様を語るシェガーヴァ。 おそらくは痛みを感じる事すらなかったのであろう。そう・・・一瞬で消滅したのであろう。 ウインド以上に不幸な結末を辿ったシェガーヴァに、一同は哀れみの念を浮かべる。 だが再び何故自殺を選んだ理由も、詳細に述べだした。 シェガーヴァ「フフッ、辛くなどないさ。この手でウインド・・・いやユキヤを殺害し、ウィンを 見殺しにしたのだ。それにな、大破壊を起こした切っ掛けを作ったのは紛れもない この私だ。これらに比べればまだ受け足りぬ罪だ。」 苦笑いを浮かべるシェガーヴァ。表情は鋼鉄で本当の素顔は窺い知る事は出来ないが、心中 では恐らく人一倍辛いだろう。それはその話を聞けば自ずと理解せざろう得なくなる。 しかし話題を切り替えるといった機転のよさは持ち合わせている。今一同が思っている事を 瞬時に行う。 シェガーヴァ「ああ、本題に戻ろう。ウインドのレイヴン歴は274年だな。修行期間と実際に現役 で戦った時を含めて。」 ユウト「と・・・となると、シェガーヴァさんは・・何年位なのですか?」 震える声で質問するユウト。その他の面々も心の底から驚愕した表情で答えを待つ。 シェガーヴァ「皮肉なものだ。自分が12の時、企業にプログラマーとして選ばれた。当時では画期 的なシミュレーションのプログラムを作ったんだ。丁度ACを操作している感覚と 同じのゲームと一緒だ。だから280年前後となる。」 デュウバ「ウインド様とほぼ同じ・・・。」 会話のどれもが驚愕の連続だった。 ゲームのプログラムともいえるもの。これが今のACの原型ともなっていたのであった。 また2人の年齢にも驚かされている。約3世紀以上も生きている事になるのだから。 ウインド「とにかく、膨大な時間を生きているという事だ。そう理解して貰えればいい。」 理解できそうもないと、その場にいる面々は思った。また表に出さないように努力しようにも 身体が無意識に表している。 人間は極限の非現実を目の当たりにすれば、無意識にこうなるはずである。 だがレイスとデュウバは別の答えを語り出した。 レイス「信じます。いや・・・理解できます。あの悪夢で怯える貴男は・・・尋常じゃなかった。」 デュウバ「今まで見た事がない行動でした。あの行動を肌で触れて味わえば、否が応でも理解ができ ます。」 ウインド「ありがとな。」 レイスとデュウバはウインドと一つになる事や悪夢と共に戦った事で、彼の心の苦しみや 過去から膨大な時間を生きている事を知れた。 ある意味2人はウインドの分身であり、苦しみを分かち合ったパートナーなのである。 言い換えれば未婚でも夫婦と同じである。 アマギ「兄や自分の戦友や家族の皆さんが師匠と心から慕った方です。私も心から信じます。」 後から駆け付けたアマギがそう答え返す。 彼自身も戦乱を生き抜いた伝説のレイヴンの分身である。年齢は浅くとも、レイスやデュウバ と同じく戦闘やウインドの言動を多く見てきた人物である。 それに2人が娘同然であれば、彼も息子同然である。 レイシェム「私も同じです。お姉様やお兄様・お父様の意思が受け継がれているこの体。レイス様の オリジナルの方の意思もです。それにウィン様も。」 ウインド「今の時代を守るのはお前達、若き活発な勇者達だ。だがその子供達やこれから生まれて くる子孫達を守るのは、俺達ロストナンバーレイヴンズの役目だ。一時期オリジナルの アマギがそれを誠心誠意尽くしたのと同じだ。今のリーダーはユウトとライア。厳しい 道だが、貫き通せよ。」 ユウト・ライア「心得ています。」 2人同時に声ハッキリと言い切るユウトとライア。それを聞いた一同は彼らの背中にどれだけ 巨大な使命の重みが乗っているかと痛感できた。 そして自分達も現実と真っ向から戦う決意を、頑なに決断したのである。 それはシュイル・アリナス・ディーン・シュリヌ・ナミ・ユウタ・アミ・ミナ・フィヴの9人 にとって、辛い現実との決戦の火蓋が切って落とされたのと同じである。 苦しい現実が待ち構えているにもかかわらず、9人の心中は晴れ渡る気分であった。 第3話 2へ続く |
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