〜第2部 9人の決戦〜 〜第3話 伝説の者達2〜 ブリーフィングルームでターリュとミュックと遊んでいるウインド。 今しがた7人のレイヴンとの戦闘を圧倒的な戦闘力で勝利したとは、とても想像がつかない。 その姿は普通の青年であった。 ミナ「こちらにいらしたのですか。」 そこにミナが駆け付ける。 彼女は一瞬でウインドに一目惚れした人物だ。その言動から、相当なまでに惚れ込んでいる事 が伺える。 ウインド「フフッ、相変わらずだな。ほら、お姉さん達が遊びに来てくれたぞ。」 遊んでいたターリュとミュックを彼女に預ける。ミナはあたふたしながらも、その可愛らしさ に自然と優しい気持ちになった。 ミナ「こちらのお2人はどなたのお子さんなのですか?」 ウインド「同じく同志のトーマスとメルアの子供だ。2人とも平西財閥の方へ派遣で行っている。 その間の子守役を買って出た。」 ミナ「フフッ、子供好きなのですね。」 ターリュとミュックはミナに直ぐに懐く。それは2人が彼女を認めたという事になる。 慣れない人物が2人と接しても決して心を許そうとはしない。直ぐに懐く者は正義溢れる者。 2人が財閥に来てから、既にそれが実証されていた。 だが気になる事があった。それは財閥の社員全員に、ターリュとミュックが懐かない事だ。 それをユウトとライア、ウインド達は不安に思っている。 だがウインドやシェガーヴァは良からぬ行動を起こすと直感していた。 シュイル「あ、いたいた。ウインドさん、お客様ですよ。」 とそこにシュイルがウインドの来客と共に駆け付けてきた。それは約1年前に共に戦った、 平西奈衣羅であった。 ナイラ「お久し振りです小父様。」 ウインド「よう。」 あれから1年が経過し、ナイラも見違えるほどに美しくなった。またレイヴンとしての腕も 確実に上がっており、今では伝説のレイヴンやユウトと互角に近い。 ナイラは今までの身の回りの事などを詳しく話しだす。ナイラも予感していた。トーベナス 社員全員が自分達の行動を好ましく思っていない事に。 ナイラ「気を付けた方がよろしいです。一番の強敵は己の周りにいる人物に他ありませんから。」 ウインド「そうだな。ライア・ターリュ・ミュックをお前の財閥に移した方がいいだろう。3人には 悪いが、戦闘になったら一番足手纏いになる。」 ナイラ「了解しました。私が責任もってお連れします。」 会話後ナイラはターリュとミュックを抱きかかえ、ブリーフィングルームを後にする。その後 ユウトに事の事情を話し、ライアを連れて平西財閥本社へと向かっていった。 ミナ「何か良からぬ事でも起こるのですか?」 ウインド「備えあれば憂いなし。もしかしたらお前達もここには居られなくなるかも知れない。その 時は平西財閥の方へ移動しよう。」 シュイル「分かりました。」 その後3人はブリーフィングルームを後にし、ガレージへと向かう。 ガレージではトーベナス社にいる全レイヴンが集まっており、彼らは既にシェガーヴァから 事情を聞かされていた。 ユウタ「クーデターですか・・・。」 ユウト「そうなります。既に行動に移っていると思われます。」 ジャンクパーツをレイヴン総出で修理するという名目で、財閥の地下でに作戦会議を行う 一同。ある意味彼らの方が怪しく見えるが。 シュリヌ「でもさ、何だってそこまでしなくちゃいけないのよ。」 ユウト「財閥としての力は企業間のトップに近くなっていますが、社員に払う給料などはそれ以下 です。臨時に雇った社員達は、どうやら反対勢力の差し金だったようです。」 キュービヌ「それが他の社員にまでコネを回し、社員全員を味方にした。今こちらに理解を示して いる者はいません。」 その後ディーンが徐に話しだす。首謀者が脳裏に浮かんだからであった。 ディーン「・・・首謀者はエルディルですか?」 ウインド「ああ。後で調べたら奴の名前が浮かび上がった。」 シェガーヴァ「純粋にデアの意思を受け継ぐ破壊者だ。過去の遺物を掘り起こし、我々を消そうと 企てた。奴自身デアの弟子に近く、配下には2人のやり手レイヴンがいるらしい。」 ウインド「相手が破壊者や好戦者なら容赦なくぶっ潰せるが、今相手になりそうなのは敵とはいえ 一般人だ。殺す事が俺達の信念じゃないからな。」 殺して解決する事はデアの意思を受け継ぐエルディル達の専売特許。 だがウインド達は相手を生かす戦いを行っている。殺しが手っ取り早い解決法だと分かって いても、彼らには絶対悪の道にしか考えられなかったのである。 アミ「先ほどいらっしゃれたナイラさんと一緒にライアさんが出発されましたが、どちらに向かわれ たのですか?」 ウインド「平西財閥本社、地球と火星の最強の企業。あそこはユウトの母の叔父が、今の基礎を育て 上げた。かつては吉倉財閥といっていたが、後継者の平西幸奈に受け継がせた後社名を 変えた。それが今の平西財閥だ。」 ディーン「・・・地球と火星の最大規模の企業が、貴方達のスポンサーだったとは。」 ウインド「俺の思想を受け継ぐ同志でもある。無理難題以外の相談事なら、何でも聞いてくれる。 もしあんたらが困った事があったら、何でも相談しな。俺の名を言えば、必ず力になって くれる。」 ウインドの名を話しただけで、最強の企業が力を貸してくれる。彼らにとっては頼りがいの あるスポンサーだ。 だが逆を言い返せば、ウインドを知らない者は見捨てろという事になりかねない。 まだまだ平西財閥の信用問題には大きな壁が生じている。 レイシェム「皆様の機体にはパスワードを入力しないと起動しないように設定してあります。もし 部外者が動かそうとしても、本人の肉声がなければ動きません。」 シェガーヴァ「奴らはおそらく明日の早朝に動き出す。レイヴンでも強者でも、寝に入っている所は 最大の弱点だ。そこを突いてくるだろう。」 シュリヌ「それまでは何をしているの?」 ウインド「身体を休めているといい。明日は下手をしたら俺と戦った時以上に厄介になるぞ。」 ウインドは明日の早朝が勝負だと告げた。7体1の戦いを行ったものより過酷になるのだと。 だがシュイルとアリナスを含む9人は、自然と落ち着いた応対をしていた。 ウインドの実力を見せ付けられたのは、相手に理解してもらうのといざとなったら助けてやる という意味が込められていた。 自分達の無力さを感じずにはいられなかったが、今は我慢する9人であった。 ウインド「まだ寝ていなかったのか。」 マイア「考え事があって・・・。」 それから数時間が経過、今は午前2時半。 他の面々は就寝に入ったが、マイアだけがなぜか寝付けなかった。ブリーフィングルームで 黙って考えている彼の元に、彼女が駆け付けてきた。 ウインドは相変わらず寝ていなかった。明日の作戦などイレギュラー要素が発生した時の事 までも考え、無事全員が脱出する事を考えているのだ。 ウインド「何か気になる事でもあるのか?」 マイア「先ほど来られたナイラさん。どうもご本人とは違うような気がします。どこか違和感が感じ られました。」 ウインド「・・・今回の相手、エルディル。奴らの中に変装が得意な奴がいるのだろうか。だがどの ような変装をしても、悪人が発する悪のオーラは感じ取れるはずだ。それも感じ取れな かったのか?」 マイア「ご本人そのものだったような気がします。」 ウインド「となると・・・洗脳が考えられるが、ナイラを洗脳するにはかなり厄介だろう。あれだけ しっかり現実を見定めている人物だ。悪を感じたら問答無用で叩き潰すだろう。」 マイア「考え過ぎだったらいいのですが・・・。」 ウインドは小さな彼女の肩を軽く叩き、安心しなと行動で告げた。 だが最近ではナイラに匹敵しつつあるマイアが、このような発言をしたのだ。ウインドは 不測の事態を想定し、彼女と2人だけの作戦を練りだした。 ナイラ自身がトーベナス社に訪れた時、ターリュ・ミュック・ライアを連れて行った。 もし彼女が偽物であった場合、3人が人質に取られる可能性が高い。その時に上手く救出可能 に運べるように、2人はとんでもない行動を考え出した。 お互いを変装させ、ウインドはマイア・マイアはウインドに仕立てるものであった。 丁度マイアの背丈はウインドと同じぐらい。唯一違うのは女性ならではの身体であろう。 それらは彼専用のパイロットスーツを着こなし、体型をウインドそっくりにする事であった。 また女装になるウインドは彼女のパイロットスーツを着こなし、体型をマイアそっくりに させるものであった。 無理難題に近いこの行動だが、イレギュラー要素にはどんな人間でも対処がし辛いものだ。 それをあえて実行する。自分達でイレギュラー要素を作ってしまうというのであった。 マイア「キツイですよこれ・・・。」 ウインド「そう言うな。俺だって無理しているんだからよ。」 スペアのパイロットスーツを交換し、着こなしていく。 当然女性のマイアが男性用を着用したのだから、そのサイズの小ささに悲鳴を上げる。また 胸板が薄くなっているため、幾分胸が大きいマイアにとって苦しい要因になっている。 女性用パイロットスーツを着用したウインドは、逆に恥ずかしさが込み上げてくる。それは 仕方がない事であろう。 だがもしイレギュラーが発生した場合、この対応策は必ず成功すると2人は確信していた。 最大の問題は肉声であるが、それはウインド自身が過去に使用したボイスチェンジャーを 用いる。 今の世界にも今だに男女差別がある。それらを改善させようと考えられた簡易策が、肉声を 変えてしまおうというものである。 何の問題解決にもなっていないが、世間から差別される女性陣にとって簡単かつ低コストで 実現できたのである。 かつて実在したユウトの祖母、斉藤由利子。また彼女の戦友でもあった敏田ミリナ。 2人は社会から差別される女性の問題を一時期に解決するべく、男装を用いた事があった。 またパイロットスーツを男性用のを着こなせば、相手と会った時に正体が知られずに済む。 当然化粧も必要になるが、それは別の問題である。 マイア(ウインド)「これでよしっと。」 ウインド(マイア)「何だか変な気分だな。自分の声が聞こえてくる。」 マイア(ウインド)「マイア、話し方を変えな。もし知られたら大変な事になるから。」 すっかりウインドと成り切っているマイア。ボイスチェンジャーもあり、完璧に仕上がって いる。 逆のマイアに成り切ろうとするウインドだが、どこかぎこちない。 ウインド(マイア)「・・・了解っすお父さん。」 それを聞いたマイアは大笑いする。だがその声はウインドのものではあるが。 ウインド(マイア)「とにかく、明日の全員脱出まではこのままでいよう。機体も俺の愛機を使え。 俺はお前のを乗らせてもらう。」 マイア(ウインド)「分かりました。」 変装したマイアことウインドは、そのまま作戦を練りだす。また臨時の救出役として、平西 財閥にいるメルアを抜擢した。 彼女はあの対戦の後自分の無力さを知ってか、レイヴンになる事を決意する。 その直感と洞察力が功をそうしてか、短時間でキュービヌと互角となる。まあ修行相手として 彼女を抜擢したのだからそうではあるが。 今ではその闘志ではウインドにも勝るとも劣らないぐらいにまで成長し、ナイラやライアを 影ながら手助けをしている。 ウインドことマイアはその後先に就寝に入る。 今まで眠いながらも考え事をしていたので、直ぐにでも寝そうな雰囲気である。 しかし問題点が一つあった。それは彼女はウインドではないという事。だが外見はウインド であり、行動や就寝場所も彼と同じくしなくてはならなかったのだ。 一番の問題点が同室にはレイスとデュウバが既に就寝している事であろう。 マイアはその後の進展が心配であったようだ。 マイア(ウインド)「お父さん・・・。」 暫くして再びウインドことマイアがブリーフィングルームに駆け付けて来た。 だが今の彼女はボイスチェンジャーを使用していないので、肉声は本人のものである。 ウインド(マイア)「どうした?」 マイア(ウインド)「自室には行けません。レイスさんとデュウバさんには考え事があると言って 来ました。」 ウインド(マイア)「そうか。」 まるで2人のマイアが会話をしているみたいである。 ウインドことマイアはボイスチェンジャーを使っている。しかし先程の述べた通り、マイア ことウインドは肉声のままである。 つまりは同じ声での対話をなっていた。 ウインド(マイア)「寝たかったらここでもいいぞ。ただし声は変えておくように。」 マイア(ウインド)「すみません、お言葉に甘えさせて。」 ウインドの隣に座ると直ぐ様寝息を立てて眠るマイア。相当眠たかったようである。 そんな彼女の行動に気づくと、着用していた上着を彼女に掛けてあげる。 その後もウインドは明日の事で1人黙々と作戦を練っていた。 エルディル「奴らには気づかれたか?」 レイヴン1「いいえ。大丈夫でした。証拠に人質を捕まえられましたし。」 トーベナス社後方の崖の上。そこにはステルス仕様の装甲車が待機している。 中でエルディルと部下の2人が密談をしていた。その後ろには薬で眠らせられたライア・ ターリュ・ミュックがいる。 マイアが気になっていた事が現実のものとなっていたのである。 エルディル「まだ殺すなよバレヴ・チェブレ。有効活用しないとな。」 バレヴ「分かりました。」 チェブレ「明日が面白くなりそうだ。」 バレヴ=ウォイウォレイト。 変装が得意な女性レイヴン。殺人や殺戮は好ましく思っていないが、自分を見下した社会を 見返してやろうとする執念が強い。 チェブレ=オグエア。 破壊が趣味という最悪のレイヴン。だが人の命までは奪おうとは思っていないらしく、ただ単 に破壊が好きという異常者である。 そしてエルディル=デスヴェイグ。 ユウト達が対戦したデア達の思想を受け継ぐレイヴン。 彼ら3人はデアの元で修行したレイヴンで、その実力は彼らより高い。しかし相変わらず、 信念とする思想は間違ったものであった。 しかし彼ら3人はデア達ほどな好戦者や破壊者ではなかった。 社会に認められない自分達に苛立ち、今回の行動に至ってしまったのである。デアが師匠と あるがただ単に上司と部下の関係であり、完全に思想を受け継ぐといったものはなかった。 だが彼らが動き出した事によって、更に厄介なイレギュラーが発生する事になる。 それは歴史の生き証人であるウインドとシェガーヴァしか、また知る者はいなかった。 第4話へ続く |
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