〜第2部 9人の決戦〜 〜第4話 新しい命1〜 早朝、ウインド扮するマイアは大食堂で食事を取っている。マイア扮するウインドは既に 朝食を終え、ガレージにて待機していた。 いつもよりどこか明るいウインドことマイア。普段のマイア以上に物静かなウインド。 不思議な光景である。 レイス「おはようございます。」 レイスに話しかけられ、ウインドことマイアは飛び上がらんばかりに驚き慌てふためく。 当然であろう。いくら変装しても、素体となる人物はマイア自身なのだから。 マイア(ウインド)「お・・おはよう、レイスさん。」 レイス「・・・どうなされたのですか、いつもは呼びつけでいらしているのに。」 マイア(ウインド)「そ・・そう呼びたかったから言った。気にするな。」 流石彼の永遠のパートナーレイス。今朝のウインドはどこか違うなと直感した。だがこれも 何かの作戦なのだろうと、態と気づかない振りをした。 ウインド(マイア)「おはようレイス。」 とそこにマイアことウインドが駆け付けてくる。自分が変装してしかも声まで変えている事 を忘れているようで、先輩格のレイスを呼び捨てで呼んでいる。 レイス「マイアさ〜ん、いつから私を呼び捨てで呼べるようになったんですかぁ〜。」 ウインド(マイア)「あ・・う、す・・すみません。以後気を付けます。」 再びレイスは思った。普段のマイアとは違い、話の切れがあると。だがこちらもあえて触れ なかった。 マイア(ウインド)「マイア、いつでも出撃できるようになっているか?」 ウインド(マイア)「大丈夫ですよ。しっかり万全な状態で待機中です。」 レイス「やはりクーデターは起こるんですね。」 ウインド(マイア)「そうなります。皆さんでここから脱出し、平西財閥へ向かいましょう。」 マイア(ウインド)「そうですね。」 普通ならウインドが答えるはずの質問内容に、マイアが顕然と答え返す。それにレイスは 驚き声を失った。 また普段からキツイ発言をするウインドなのに、どこか柔らかい発言で返している。 直後レイスの今までの直感と洞察力をフル稼働して考えた結果、2人が入れ替わっている事に 気づいたのである。 レイス「・・・ちょっとお2人さん、よろしいですか。」 その後事の真意を聞き出すために、レイスは2人を自室まで連れて行く。 そこにはまだ寝に入っているデュウバがいたが、強引にも彼女を起こし事情を聞き出すので あった。 ウインドとマイアは別に隠していたわけでもなかったので、2人に詳しい詳細を語る。 レイス「そうだったのですか。」 ウインド(マイア)「3人が拉致された場合を考え、俺とマイアを入れ替えた。敵側は俺を重視する だろうし、マイアには悪いが軽視しているだろう。」 マイア(ウインド)「問題は姉さんの身が心配です。そろそろお子さんが生まれる頃ですから。」 2人の作戦が他人に知られては困るので、ウインドとマイアはボイスチェンジャーを使用 しながらの会話である。 切れのある発言をするマイアことウインド、柔らかい発言をするウインドことマイア。 これにレイスとデュウバは呆気に取られている。 デュウバ「大丈夫だとは思いますが・・・。漆黒の女傑は妊婦の時でもそのままですから・・・。」 頭を手で押さえながら、デュウバが大丈夫だろうと発言する。 彼女は低血圧で朝に弱く、起床は仲間内で一番遅い。これが彼女の唯一の弱点でもある。 ウインド(マイア)「とにかくこの事は内密にな。奥の手の作戦として取っておきたいから。」 レイス「了解です。」 デュウバ「しかし・・・似合いませんね。」 ウインドの女装にデュウバは苦笑する。正体が彼であると気付くと、全く似合わないのが実情 であった。 しかし美形の表情に化粧をすれば、それなりに女性に見える。不本意ではあるが、過去に 何度か女装した事があるとウインドは語っている。 ウインド(マイア)「女性が男装するのは似合っているが、男性が女装するのは似合わないケースが 多い。」 マイア(ウインド)「お父さんのは似合っていますよ。」 発言が双方と正反対な点が不思議だと、レイスとデュウバは心中でそう呟く。 しかし自分達より綺麗な彼の表情を見て、3人は心中でやきもちを焼く。まあそれこそが女性 という証であるが、相手が男性だという事にやきもち気分になるのだろう。 デュウバ「ところでマイアさん。先ほどライアさんのお子さんが生まれると言っていましたが。」 マイア(ウインド)「はい。子供が出来てから約1年。そろそろ生まれてもおかしくない時期です。 相手側の強いショックで陣痛が始まってしまったら、一大事ですから。」 実際の所子供が生まれてくる時期はもっと早い。ライアの場合は既に妊娠から7ヶ月は過ぎて いる。つまりはいつ生まれてもおかしくない状態であるのだ。 ウインド(マイア)「ターリュとミュックが大きければな、子供を受け止める事ができるんだが。 流石にあいつらじゃ無理か。」 レイス「というか情けないですが、出産は全く見た事がありません。私達の中で一番博識なのは、 メルアさんでしょうか・・・。」 ウインド(マイア)「もし無事助けられてしっかりした場所で出産する事ができれば、レイスは絶対 に立ち会え。それとデュウバ・マイアも。」 マイア(ウインド)「どうしてですか?」 不思議そうと3人は理由を問い質した。異性であるウインドがこのような事をまるで重要だと 言わんばかりに勧めているからだ。 ウインド(マイア)「生命の誕生の瞬間。女だったら絶対に見ておくべきだ。たとえ子供を作らなく ても、これだけは行ってほしい。生命に対する見方が絶対に変わる。」 3人は直感した。彼自身が何度も出産に立ち会っている事に。それに彼の言動などを聞けば、 生命の偉大さをこれでもかと言うぐらいに大切に思っている。それだけ凄いものなのだと、 未経験かつ未体験の3人は思った。 また不思議と見てみたいという心境になりつつある3人。これは女性の性であるのだろうと、 3人は確信した。 ウインド(マイア)「フフッ。レイスはおばあさんで、マイアはおばさんだな。」 レイス・マイア「な・・何を言い出されるのですか・・・。」 ウインド(マイア)「ライアはレイスにとって孫同然だ。マイアはライアの妹だ。彼女の子供達は お前の甥になる。」 ウインドは会話中に朝に大分慣れてきたデュウバが入れてくれた、インスタントコーヒーを 飲む。その後徐に話しだす。 ウインド(マイア)「デュウバもそうだ。レイス同様おばあさんだ。これはある意味凄い事だが、 お前達2人が伝説のレイヴンと血縁関係になる。ライアがユウトと結婚した 事で、ユウトはレイス・デュウバにとって孫になる。またマイアは兄になる。 過去にアマギが言っていた。孤独な人生は虚しい。義理でも家族がいる事が どれだけ素晴らしい事か、そう何度も言っていたよ。」 ウインドが生前のアマギ達から聞いていた話がある。それはアマギと家族になりたいと。 ユウトがライアと結ばれた事により、3人はアマギとも家族関係になった。 しかし実際は彼と血縁会計に当たるのは、妻のユリコ・娘のアキ・アキの夫ツルギだけ。 デュウバ自身も実際には血縁関係はなく、義姉となるだけである。 当然全く関係のないウインドもそうである。 しかし彼らは家族というものを心から望んでいた。 今の世界家族すらも平気で殺してしまう。ウインドは実際に体感してきたものがある。 兄弟レイヴンの依頼中やアリーナでの異例の殺し合い。 姉妹がお互いを妬み、家族を巻き込んでの殺戮を巻き起こす。 家族・友人・恋人・夫婦といった関係でも、いとも簡単に相手を殺す。その人がどれだけ大切 な使命を持って今世に生まれて来たかも知らずに。 ロストナンバーレイヴンズが今の世界での異例の集団生活をしだしたには、こういった意味 が込められていたのである。 義理でも家族という人物がどれだけ大切なのか、それをアマギ達は半世紀以上前や常日頃 から訴えかけていたのであった。 ウインドがそういった発言をするには、こういった訳があったのである。 アマギ達の願い、そしてそれを今世に語り継ぐウインド。彼の話を聞き、3人は黙ったまま 何も話さなくなる。 ウインドはコーヒーを飲み、その後徐に語り出す。 ウインド(マイア)「俺は幼い頃の記憶がない。両親やいたであろうか兄弟や姉妹といったものを 全く感じた事がない。しかし、自分が親になる事は出来る。実際の血縁では ないが、心の支えや相談役などにはなれる。俺はそうしながら、お前達全員を 見ているよ。」 その後ジャケットの胸ポケットから煙草とライターを取り出す。煙草を1本口にくわえ、 徐にライターで火を付ける。 ウインド自身、酒は飲むが煙草は吸わない主義だった。しかし大破壊以後、彼は煙草を吸う ようになった。 以前にも吸った事があったが、ユウトとライアの一件以降、煙草だけはよく吸うようになる。 もっとも外見では20歳前後である彼だが、実際年齢は267歳である。全くもって未成年者 ではない。 口から煙を吐くその姿、更には女装もあってか非常に大人びた女性に見える。3人はどこか 胸を高鳴らせた。それは相手が異性ではなく、同性の観点からである。 ウインド(マイア)「・・・相変わらず不味いな。」 その発言に3人は大笑いする。 顔に似合わず全く意味もない発言をする彼を見て、一瞬で心のモヤモヤが晴れたのだ。また彼 の声は今もマイアのもの。つまりはマイアが煙草を吸っているように感じられるのである。 レイス「フフフッ、だったら吸わないの。」 デュウバ「そうよ。外見から見れば、未成年者でしょ。」 マイア(ウインド)「言えてますね〜。」 だがウインドは煙草を吸い続けた。それを見た3人は呆れつつも、明るくなる思いだった。 レイシェム「お父様。未確認機影が3つ、こちらに向かってきます。」 マイア(ウインド)「了解。直ぐにガレージに向かう。」 直後レイシェムから敵が攻めて来たという連絡が入った。待機中であった4人は、直ぐ様 ガレージへと向かう。 その最中ウインドは3人に普段と同じ対応をしろと言った。当然変装中のマイアもウインドを 演じろと、マイアを演じているウインドから言われた。 エルディル「来ましたね。」 財閥の外では3体のACが待機していた。 中央にいる機体が首謀者のエルディルらしく、ACの左手にはライア・ターリュ・ミュックが いる。 マイア(ウインド)「3人には何もしていないだろうな?」 チェブレ「あたぼうよ。俺様は破壊が全て。相手の命を奪う事なんざどうでもいい。伝説のレイヴン と謳われた、お前さん達の機体をこの手で破壊したいだけだ。」 バレヴ「企業など所詮目に映らない弱者までは助けられない。私はそういったやり方が嫌いなだけ です。」 エルディル「3人は一旦薬で眠らせたが、それは害のないものだ。実際妊婦の女性には何も手を出し ていない。私らの目的は、トーベナス社を葬るだけ。」 3人の発言を聞いた熟練のレイヴンはこう直感する。 彼らは絶対悪ではない。ただ単に間違った行動をしている人間なのだと。 だが彼らの動く理由がこれほど他愛のないものなのかと、心中で疑問を抱かざろう得ない。 レイス「それだけなのですか。トーベナス社を乗っ取り、クーデターを画策しているのではないの ですか?」 チェブレ「馬鹿言っちゃいけねぇお嬢さん。俺様達は依頼を受けただけだ。」 バレヴ「トーベナス社を壊滅するというものです。」 シュイルを始め、他のレイヴンは不思議な顔をする。また当事者であるエルディル・バレヴ・ チェブレも不思議な顔を浮かべる。 ウインド(マイア)「・・・事の次第は全て飲み込めた、茶番は終わりにしよう。」 ウインドがボイスチェンジャーを付けたまま、役割を終える発言をする。それを聞いた彼と マイアの入れ替わりを知らない者達は、何が何だか分からないと思った。 ウインド(マイア)「お前達に依頼した首謀者が分かった。デヴィル=オグオルとシェンヴェルン、 そうだな?」 女性の声だが男性のような切れのある発言と内容に、シェガーヴァ以外のレイヴンは驚いた。 エルディル「ど・・・どうしてそれを・・・。」 ウインド(マイア)「デヴィルはかつて実在した完全なる破壊者、ゼラエル=バルグの遺伝子を持つ クローン。シェンヴェルンは悪のシェガーヴァの憎悪などを受け継ぐ、人工 知能。2人とは俺と連れの因縁の相手だ。」 驚愕する発言であった。特にゼラエルや悪のシェガーヴァを知るレイス達にとって、彼らの 復活は驚愕せざろう得なかったのである。 ウインド(マイア)「あんた達と会った時、心中には正義の心がある事に気づいた。師匠が悪である デア達だが、弟子は同じ意志を継ぐとは限らない。それに真の悪はデヴィルや シェンヴェルンだ。」 シェガーヴァ「このまま戦いを退くのなら見逃そう。お前達が悪人でない事には変わりない。しかし 我々の邪魔をするのであれば、その時は容赦なく叩き潰す。」 2人の伝説のレイヴンの意見に、3人は何も言い出せなかった。 真の敵が定まった今、その者達が敵である。仮に襲撃予告を出しライア達を誘拐したが、真の 悪人はないエルディル達。 そして3人の心中では、人を困らせる奴は容赦しないという堅い信念があった。彼らの発言を 聞き、3人も今の行動が間違ったものだという事に気が付いたのだ。 ライア「・・・よく考えて下さい。貴方達には間違った事が許せないという、断固たる信念がある はずです。・・・初めてお会いした時そう感じました。・・・もしよろしかったら、私達と 一緒に戦ってくれませんか?」 どこか息切れをしているライア。 この息苦しそうな発言を聞いたウインドは、直ぐ様エルディルのACにマイアから借りた ブロークンブレイダーを隣接させる。 そしてコクピットから出ると、彼女の安否を気にかけた。 ウインド(マイア)「まずいな、陣痛を起こしかけている。エルディル・バレヴ・チェブレ、詳しい 話は後だ。先にライアを安静な場所に連れて行き、出産準備に取りかかる。」 エルディルにそのままの状態で平西財閥に向かうよう指示を出すウインド。 直後トーベナス社から発砲などがあり、クーデターが起こりだした。 他のレイヴン達は全員財閥外に出ており、相手の攻撃に反撃を開始する。だがそれはウインド から告げられた作戦通り、破壊しない程度であった。 ウインド(マイア)「シェガーヴァ、マイアの機体を頼む。俺はこのまま平西財閥に向かう。」 シェガーヴァ「了解した。護衛はレイス・デュウバ・マイアが付くんだ。エルディル達も彼らと一緒 に行ってくれ。その間の時間稼ぎは私達が行う。」 訳の分からない3人であったが、目の前のライアが苦しむ姿を見て我に返る。今はとにかく 彼らに従おうと、3人は決意した。 それにこうなってしまっては彼らに付いて行くしかないと思わざろう得ない。 エルディルの機体を守りつつ、他の面々は急ぎ平西財閥へと向かっていった。 第4話 2へ続く |
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