第3部 9人の勇士 36人の猛将 〜第4話 起動する駒3〜 ファンタズマ改2機のメンテナンスが終わった。 時刻は朝の5時を回った頃。表は相変わらず小雨が降り続いている。 夜通しで作業に明け暮れたシェガーヴァは疲れた表情をせず、別の機体のメンテナンスを 開始しだす。 生身の身体では間違いなく負担が掛かる作業だが、流石はサイボーグであろう。 同じくレイシェムも作業をしており、こちらはヴァスタールのマスターコアを量産している 最中である。 レイシェム「指定されたマスターコア、全てアップロード完了しました。」 シェガーヴァ「これで火星のヴァスタール部隊はほぼ完璧だな。」 レイシェム「地球側にも何機か配置しますか?」 シェガーヴァ「そうだな。とりあえずは50機。今日の模擬戦闘に20機投入するつもりだ。それに ロジックに強弱付けられるものを搭載してくれ。」 レイシェム「了解です。」 再び作業に入るレイシェム。 今までの決戦では殆どシェガーヴァ1人が請け負っていた。だがレイシェムが参戦した事に より負担が半分になった。 疲れを知らない2人ではあったが、筐体を休ませねばオーバーヒートを起こしてしまう。 特に筐体は小型携帯原子炉を搭載したもの。通常の起動なら問題はないが、過度の負荷が炉心 に掛かると非常に危険だ。 そこは役割を決め、休みながら動くしかない。 レイシェム「お父様。やはり平均体温が40度を超えています。」 シェガーヴァ「私も平均40度だ。36度前後に押さえないと、日常に支障を来すな。」 レイシェム「お子様達を抱けませんし。」 シェガーヴァ「フフッ、その通りだな。液体窒素量を増やし、4度前後下げられるようにしよう。」 レイシェム「新しい冷却システムを考案しますね。」 プログラム関連はお手の物。脳裏に構成が浮かぶと直ぐに実行できるほどのもの。流石全身 サイボーグであり、頭脳は現存のスーパーコンピューターを超えていよう。 まあそれも当たり前であろう。 現存のコンピューターは意志を持たない。それに自我があるコンピューターなど有り得ない。 やはり一番の差は元人間であったという点だ。2人は意志を持つコンピューターといえる。 本命の作業をしつつ、自分達筐体の冷却構成を考える。複数の行動が実行可能な点もまた、 コンピューター特有の成せる技なのであろう。 デュウバ妹「おはよう父さん。」 朝に弱いデュウバ妹。デュウバ姉も朝に弱く、起床後数時間経たないと動けない。 彼女とも関係を持ったウインド、心中は罪悪感が渦巻いていた。しかし相手は今までにない 表情をしている。 ウインド「あいつらには何て言えばいいやら・・・。」 デュウバ妹「理解して頂けますよ。」 流石姉妹、お互い心中には通じるものがあった。そして求めているものは5人とも同じだ。 5人はまるで1人の人間が5つに分かれたように見える。 デュウバ妹「今後我が侭は言いません。」 ウインド「一度関係を持つと再び再熱するものだ、何れ分かる。そのどうしようもない気持ちにただ ただ先走る。」 デュウバ妹「でも心の底から望んでいるのです。」 ウインド「ああ、そうだな。悪かったよ。」 デュウバ妹の頭を優しく撫でるウインド。4人と違い彼女は笑顔を絶やさない。それが自然体 であり、彼女の本来の姿である。 既に真の戦士へ覚醒していたデュウバ妹だが、更に優しさを兼ね備えた女傑へと進化した。 過去の世界ではタブーとされる複数の女性との関係。皮肉にもそれが彼女達を覚醒させる事に 繋がったのである。 メルア「信じられない・・・。」 メルアは今、有り得ない現実を目の当たりにしている。 まだ2歳前後の自分の娘、ターリュとミュック。その2人がシミュレーターでACを動かし 出した。 以前ウィンが同席した時は滅茶苦茶に動かしているだけであった。 あれから数日。2人は攻撃こそできないが、殆ど普通のレイヴンと変わらないほどに機体を 動かしている。 その非現実的なものにメルアは開いた口が塞がらない。今まで生きてきた中で一番驚いている 瞬間であろう。 トーマス「こりゃまぁ・・・、何と言ったらいいのか・・・。」 ウィン「両親ともレイヴン。その血筋をしっかり受け継いでいる証拠でしょう。」 シェガーヴァ「アマギも1歳前後で喋りだし、4歳頃にはMTを動かしていたと聞いている。彼とは 違うが、これも同じと言えるだろう。」 こちらも有り得ない状況から話している。 シェガーヴァの身体はその上半身と下半身が分断しており、レイシェムがその筐体に冷却 機能を搭載していた。 原子炉の方は安全の為停止しており、上半身には無数の電源ケーブルがコンピューターへと 繋がっている。 ライア「こっちは凄い非現実だけど・・・。」 マイア「人体実験みたい・・・。」 シェガーヴァ「まあそういうな。」 大変なその作業を見て人間陣は簡単に修理できるサイボーグを羨ましく思う。 しかしそんな一同の心中を見透かし、シェガーヴァは諭すように話しだす。 シェガーヴァ「間違ってもこうなるなよ。これは自分自身に対する戒めだ。好きでこのような姿を する筈がない。生前の方が自由に動けたし、ありとあらゆる苦痛なども感じ取れた。 咳き込んだり・風邪を引いたり・病気したり。全て苦痛だが人間にしかないものだ。 いや生命体自体に本来備わるもの。人の方が羨ましいよ。」 冷却機能が搭載され、分断されていた身体を戻す。再び人型の筐体へと戻った。 今度はレイシェムの身体を同じく分解し、冷却機能を搭載しだした。 シェガーヴァ「クローンではあるが、人間には変わりない。痛みを知る事が出来る。私も何度か人に 戻ろうかと思った時期もある。その度に己の姿を見つめ、自分に戒めた。そもそも 私がこのような姿にならなければいけなくなったのか。原点に振り返るんだ。」 テストを兼ねて行っていたレイシェムの行動とは違い、一連の行動を見ていたシェガーヴァ。 彼女が行う動作をものの数分で済ませてしまった。 その後自分達の筐体の冷却機能を再確認し起動を開始。その後小型携帯原子炉も起動する。 起動には時間が掛かり、その際に続きの会話をしだした。 シェガーヴァ「機械関係・プログラム関係なら、私とレイシェムに不可能はない。工学系はほぼ完璧 に近い。だが不可能なものが1つだけある。人間に関する事だ。」 小型携帯原子炉が起動し、冷却機能も起動した。2人の体温は予定通り36度前後に保たれ、 これで子供が抱けるようになる。 シェガーヴァ「ユウトが大火傷を被った時などの人工皮膚の例や、別の何らかで切断してしまった 身体のパーツがあったとする。それらを手術を用いて再び元に戻す事は可能だ。 しかしリハビリが必要で、完治するまでには相当の時間が掛かる。機械のように破損 部分を破棄して新しいものに付け替え、元に戻す事など不可能だ。」 冷却システムが搭載され、2人の筐体に人工皮膚を被せだす。それにより元の人間の外見に 戻った。 シェガーヴァ「更に不可能が事がある。死者を生き返らせる事。クローン体としての培養は可能だ。 だがオリジナルの者を生き返らせるのは不可能。クローン生命体でも真の生命体の 生死の領域には遠く及ばない。」 レイシェム「一度限りの人生を大切に、ですよね。」 シェガーヴァ「ああ、その通りだ。」 普段通りに私服を着用するシェガーヴァとレイシェム。今までの作業が嘘のようで、2人の 外見は普通の人間に戻ってしまった。 シェガーヴァ「しかし例外はある。私やウインドみたいに罪深き人間がクローン生命体として罪滅 ぼしを行う。永遠に生き続けるという業。これほど苦しい事はない。だがそれでも 救われる者がいれば、私は心血注いで誠心誠意尽くそう。それこそが罪滅ぼし。」 マイアに自分を触れてもらう。火傷しないか、または寒くないかどうか。 赤ん坊の皮膚は敏感であり、些細な刺激で体調を崩す。長年生き続けてきたシェガーヴァで あるからこそ、そういった配慮までできるのだ。 マイア「大丈夫ですね。」 レイシェム「表面温度は36度に保たれてます。」 シェガーヴァ「これで完璧だな。」 ライア「ほらレイア、お祖父ちゃんだよ。」 胸にレイアを抱き、ライアが歩み寄る。そのレイアをシェガーヴァに託す。 シェガーヴァは完璧とは言ったが、恐る恐る赤ん坊を抱こうとする仕草から心配はしている 様子。サイボーグであってもその仕草を見れば人間だと一目瞭然だろう。 シェガーヴァ「む・・・大丈夫・・・そうだな、よかった。」 小さな欠伸をし、レイアはシェガーヴァの胸の中で眠る。彼女のその行動が大丈夫という現れ であろう。 優しくレイアを見つめる彼を見て、ライアはある事が脳裏を過ぎる。 ライア「・・・人間であれば何不自由なく抱ける、ですか?」 シェガーヴァ「フフッ、見抜かれたか。」 血は繋がっていないにせよ、レイアは自分の子孫である。 生身の肉体で孫を抱きたくなるのは親の定めである。どんな親であろうとも必ずそう思う。 だが彼の罪深き戒めも理解しており、それは叶わぬものだと痛感している。 しかし蟠りを今だ捨てきれずにいる彼を見て、マイアはいてもたってもいられなくなった。 マイア「・・・私が何度かお話ししていますよね。それに母も何度か言っていました。下らぬ蟠りを 捨て、素直に生きろと。お祖父様が母に言っていた言葉じゃないですか。まさかお忘れに なられたのではありませんよね?」 シェガーヴァ「むう・・・。」 シェガーヴァの事だ、忘れるわけがない。そしてマイアが言っている事は正しい。 自分のこの鋼鉄の肉体は戒めと語っているが、それは人間に戻る事が怖い現れでもある。 それは殆どの者が気づいてはいる。 しかし彼の罪の重さも十分理解している。 大勢の命を犠牲にし、今の世界にしてしまった。許されざる大罪である。 だがそれらは全て宿命でもあり、彼一個人が絶対悪と決め付けるのは間違ってはいる。 己の責任でもあるがそれらを許してしまい、行動させた環境にも責任はあるはずだ。 それらをも全て抱え込み、己を絶対悪と定めているシェガーヴァ。その心中の苦しみや深い 悲しみは、レイヴンズなら誰もが理解していた。いや、言動を見れば理解せざろうを得ない。 珍しく黙り込んでしまったシェガーヴァ。彼が沈黙する事は滅多にない事。マイアに心中の 痛みを突かれ、何も言い出せなくなってしまった。 ウインド「本来の姿に戻ってもいいんじゃないか。」 沈黙を破ったのはウインドだった。いつの間にかデュウバ妹と共にガレージへ現れている。 そしてウインドもシェガーヴァに己を許してもいいのでは諭す。 ウインド「大破壊によって失われた命は沢山ある。その後の大深度戦争、火星の争乱。今に至るまで 大勢の命が消えていった。しかし生まれる命もある。新しい生命を救う事こそが、深い 罪滅ぼしに繋がるのではないか。」 その発言を聞き、忘れていた記憶が甦る。シェガーヴァはこの言葉を以前聞いた事があった。 それを間隔空けずにウインドが代弁する。 ウインド「俺がお前を止められなかった事を悔やみ苦しんでいる時。そう言って俺を励ましてくれた よな。その言葉を今のお前に返すよ。」 シェガーヴァ「・・・子供を抱く為だけで構わないか?」 ウインド「お前自身が決めるんだ。お前の意志の強さはよく知っている。しかし偶には生き抜きも いいものだよ。」 落ち込んでいたシェガーヴァの目つきが一変する。 徐にレイアをライアに戻し、コンピューターに何らかの操作をする。 シェガーヴァ「一時的、シェガーヴァ=レイヴァイトネールを封印する。1時間後に平間柳司という 1人の人間として現れよう。」 マイア「当然レイシェムさんも一緒にね。」 マイアの催促にシェガーヴァはニヤリと微笑み、レイシェムもそれに頷き同意する。 何れ本来の姿に戻る事が来るであろうと思っていたらしく、遠隔操作で一同が見た事がない 小さな施設が出来上がりつつある。 シェガーヴァもレイシェムもコンピューターに接続されたヘッドバンドを身につけ、何やら 行動を開始する。 ウインドは一同にブリーフィングルームに向かうように促す。 一連の行動はあまり見られたくないのは、クローンファイターズの誰もが知っている。 監視カメラも停止するように促し、大型ガレージは何が行われているのか分からない状態と なった。 どれぐらい時間が経っただろうか。1時間とも2時間とも過ぎた気がする。 ブリーフィングルームにいる一同は黙って待ち続けた。 何本となく吸い続けた葉巻が灰皿に散乱する。ウインド・ライディル・キュービヌの3人は 煙草を吸いながら待ち続けている。 ユウ・アイ・レイア・リュムに煙草の煙は毒であるため、殆ど部屋の隅にて換気しながら 喫煙を繰り返している。しかも換気扇により無理矢理表に空気を排出してるため、室内は俄か ではあるが寒かった。 しかし彼らの心境を理解できる一同であったため、誰もそれを責めたりはしなかった。 徐にドアが開いた。一同は入出してきた人物を見て驚く。 同室にウィンがいるのにも関わらず、現れたのはウィン瓜二つの女性。そして背後からは今 まで見た事のない男性がいた。 リュウジ「2世紀振りかな、生身の肉体を纏うのは。」 非現実でイレギュラーな2人を見つめ、開いた口が塞がらない一同。ウインドとウィンのみ 平然としている。 レイシェムは殆どウィンと変わらない容姿、いや瓜二つといっていいだろう。正しくウィン そのものになっている。 シェガーヴァも体格は対して変わらず、普段と何ら違和感はない。だが一番変わったのは その表情だ。それは両者ともである。 今までは人工皮膚を被せ人間に見せていた。笑顔もどこか作り物であった。しかし今の彼は 普通に笑うし普通に悲しむ事が出来る。 これこそ生前のリュウジその人であった。 リュウジの側に歩みより、ウィンは軽い会釈をする。その意味がウインド以外には理解が できなかった。 ウィン「お久し振りですお父様。」 リュウジ「久し振り・・か、まあ確かにな。」 苦笑いするシェガーヴァことリュウジ。その苦笑いはサイボーグのものではない。 生身の彼が本当に表したもの。表情を作り人間として演じていたシェガーヴァ時のものより、 断然優しさが込められているのは言うまでもない。 ウインド「少し背を高くしたのか?」 リュウジ「大して変わらんよ。」 ライディルよりは体躯は大きくはない。だが彼より痩せているため長身に見える。無精ヒゲが オヤジという雰囲気を出しているのは、彼が元研究者という現れであろう。 その後リュウジはライアの側に歩み寄り、腕の中で眠るレイアの頬を生身の素手で触る。 リュウジ「・・・暖かい。これが孫の温もりか・・・。」 不意に頬に涙が流れる。これも人間である何よりの証だ。 約2世紀もの間サイボーグであったため、人間の体温を感じ取る事は全くできなかった。 サイボーグの外部温度センサーが相手の体温を感じる事はできても、それは本当の体感的な ものではない。この涙は歓喜の涙と言っていいだろう。 ライアはレイアを再び彼に託し、その温もりを体感させてあげた。腕の中でレイアが不思議 そうにリュウジを見つめている。 リュウジ「・・・人間は素晴らしいな・・・。」 一同は何も言い出せなかった。彼の苦しみが少しではあるが解放されたのは理解した。 しかしその温もりが再び罪に囚われるのにも理解している。 ウィン妹「この感覚が人間なのですね。」 自分の手で頬を撫でるレイシェム。 ウィンとレイス姉の人格を移植してはいるものの、人間としての活動は初めてである。 シェガーヴァが彼女も人間に転生させたのは、その温もりを覚えてもらうためでもあった。 こうすれば人間の考えが理解できるようになるからである。 マイア「・・・前にも兄さんと姉さんに言った事があります。人間って身勝手だと。その邪なエゴが 戦乱を続ける。一番汚いのはそれを持つ人間自身。そして浄化すべきは人の心、と。」 ライア「お祖父様が絶対悪ではないと思います。お祖父様が人工知能を造り上げた時、既に何らかの 手招きがあったはずです。そして大破壊へと繋がった。」 マイア「一人で抱え込み苦しむ必要はありませんよ。」 リュウジは心中で脱帽していた。 ライアとマイアは自分の心中を悟っている。全てを悟れないとしても、人としての苦しみなど は十分理解している。 涙が止まらない。まるで2世紀分の涙が溢れ出てくるようであった。 リュウジ「・・・・・ありがとう。」 ただただ泣き続けるリュウジを、2人の孫はそっと抱きしめる。今はそうしていたい、自分達 は今はそれがせめてものの慰めだと思う。 リュウジ=シェガーヴァは決意した。 ウインド同様死ぬ事のない戦士として戦い続けようと。それこそが己の罪滅ぼしだと。 過去の罪に囚われ続けていた彼が少なからず解放された事は、この瞬間を見れば一目瞭然で あった。 ガレージにてまた不可解な現実を目の当たりにする。 目の前の小さな施設みたいな場所に、シェガーヴァとレイシェムの筐体が沈黙していた。 リュウジとウィン妹として暫しの活動を始めた事により、休む事なく動き続けていた2体の サイボーグは休みを取っている。 リュウジ「約2世紀か。ユキヤに倒された後、再び再来してから休む事がなかった。私は久方振りの 束の間の休息を取っているようだな。」 己のサイボーグ筐体を見つめ、何とも言えない気持ちになる。レイシェムことウィン妹も 同じ考えであった。 ライア「むう・・・これはあまり聞かない方がいいような・・・。しかし心に引っ掛かっていると、 後々悩みに繋がるかも知れません・・・。」 おそらくここにいる一同、ライアと同じ考えであろう。クローンファイターズは少なからず、 その考えが何だかは感じていた。 ライア「お祖父様、クローン培養はどうやって行われるのですか?」 リュウジ「遠い昔、とある映画があってな。その内容はクローンを作り出すというもので、やり方は 意識か何かをコードとして残す。それを既に培養済みの人型筐体に移す事により、同じ 姿になるという。それに似たものだが、実際問題未知数な部分が多い。」 ライア「母体の体内で胎児として生み出されるものではないのですか。」 リュウジ「そのクローン培養も実際にはある。しかしだ、20歳の人物のコピーを誕生させようと する。生きてきた20年間を同じ月日を掛けて育てるのは実に効率が悪いだろう。遺伝子 操作を用いれば成長速度を速められるが、身体に掛かる負担は非常に大きい。まあ今の ウインドやアマギはこういった遺伝子操作を用いてはいるがな。」 ライア「だからクローン筐体をベースに、完全なコピーを作るという事ですか。」 リュウジ「そうだな。その方がクローンを作るのは実に早い。だが1つだけ問題がある。今だ解決 できていないものだが、おそらく解決する事はまず不可能だろう。」 ライア「・・・人の魂がクローン体として定着するかどうか、ですか。」 リュウジ「ああ。同じ意識を持つ者として作るのはまず不可能だ。魂の定着はまず不可能。遠い昔に ファンタジー小説として錬金術を用いた人体精製という事があった。しかしまず無理だ。 人の命の操作はクローンでも何ら問題はないが、同じ・・・そう全く同じ魂を定着させる 事は不可能。」 マイア「でもさ・・・不可能不可能って・・・、実際に元に戻ってるじゃん・・・。」 リュウジの話には非常に矛盾が生じていると、一同思わざろう得ない。 実際にクローンとして誕生しているファイターズの事が言い表せない。存在そのものが否定に なる。 リュウジ「レイスもデュウバもウィンも・・・そしてユキヤも、オリジナルの人格ではない。」 ライア「で・・では別の人物と・・・?」 リュウジ「ああ。私もレイシェムもオリジナルの人格から多少変わった。」 マイア「もうさ〜・・・何が何だか分からないよ・・・。」 頭を掻きむしるマイア。魂の定着が不可能だと聞かされた時点で、クローンファイターズの 存在は否定される。 同じでないにしろ、クローン筐体に魂が定着して人として成り立つ。魂がない人間は植物 人間同様、生命維持装置を使わなければ生きる事は無理だ。 魂があって初めて生命活動が行われる。そして時が人格を生成し、一生命体として活動を 開始する。それこそが人間や生命体の持って生まれた奇跡である。 リュウジ「確かにな、私も何が何だか。だが遺伝子操作と人間の脳が電気信号に近いものという点が クローンを可能にしたんだ。人間の脳は言うなればスーパーコンピューター。電子頭脳と いう事なら、複製が可能という事になる。膨大な数のデータになるが、遺伝子の配列と 同じ列に変換すると縮小する事が可能だった。それらを電気信号としてコンピューターに 取り込み、クローン筐体へと移す。成長速度や老化現象などを操作すれば、殆ど同じ者が 誕生する。」 マイア「・・・後は魂の定着。」 リュウジ「その魂の一念だ。現世に未練があるなら戻るべき場所を取り戻し、再び舞い戻る。未練が ない魂も戻る事が可能だとされるが、体感した事がないから何とも言えない。」 ライア「では・・・先輩方は、過去において未練があって死んだという事で?」 リュウジ「私達が未練がないと思う表情をしているか?」 クローンファイターズの表情。明るく振る舞ってはいるものの、真の笑顔ではない。 成すべき事が出来ず成仏できない魂が彼等をクローンファイターズとして復活させるに至って いるのだ。 マイア「何かこれこそファンタジーじゃない。どう考えても非現実、非実行なものばかり・・・。」 リュウジ「だからそれらを踏まえて、今の時代はイレギュラーと呼ぶのだ。考えれば考えるほど、 蟻地獄で藻掻く蟻の如く。簡単に言い表すのがイレギュラー、今はそれで通る。」 マイア「・・・何かいい加減な締め括り・・・。」 リュウジ「確かにな。」 苦笑いするリュウジ。クローン培養を実際行っている彼でも、今行っている行動全てが未知数 であった。それは苦笑いする彼が一番理解していよう。 人は何故生まれるのか。宿命があるからと位置づける事、これで誕生するのには少なからず 理解できる。しかしクローンの場合はタブーな行動。どう考えても不可能だ。 それが行えているシェガーヴァは、過去に心の拠として崇められていた神という存在と言える のだろうか。 未練があり達成するべき執念があるから戻るという説も、正しいかどうかは分からない。 だが実際にクローンとして舞い戻った者がいる。それが紛れもない事実。 理論で解決するクラスの物事ではない、彼等の存在を位置付ける唯一の答えであろう。 シェガーヴァ(今の命を大切にな) シェガーヴァが一同によく話している言葉。それが脳裏を過ぎる一同。 自分の命、自分の魂。自分の存在をクローンファイターズを通して、どれだけ貴重で尊い 存在なのかが痛いほど理解できた。 故にそれらを消そうとしているデヴィル達には、何が何でも負けられないと心中で堅く決意 する。 第4話 4へ続く |
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