〜第1部 18人の決断〜 〜第4話 トーナメント戦1〜 ウインドと出会ってからユウト達は火星から地球へと帰還した。 ガードックは到着後のマイアと再開すると大泣きして喜ぶ。幼い頃のマイアの姿が、今では ライアと変わらないほどの容姿になっている。 かつて育てた事があるガードックからしたら、育て子の成長は嬉しいものであろう。 それから3日かが過ぎ、一同はトーベナス社で生活していた。今ここには12人のレイヴン が待機している。 かつてはライアとガードックしかいなかったトーベナス社が、その6倍ものレイヴンを抱える ようなる。つまりは絶大な戦闘力を手に入れたといっていい。 平西財閥のバックアップもあり、住民の支持率は第2位まで上り詰めるのであった。これは 例を見ない偉業で、当然目の敵ともなるのである。 だがライア自身が成長した事もあり、今のトーベナス社は怖いものがなかった。 深夜、緊急の依頼が入り出撃。帰還したのは午前5時だった。その後仮眠を取り、朝まで 時間を過ごす。 今し方目が覚め、着替えを済ますと朝食までベッドに横になる。その最中今後の行動を思い 巡らせていた。 デア以外にゴリアッグという人物が出現したのだ。戦略を誤れば敗北しかねない。いくら猛者 といえる人物が集まろうとも、統率が優れなければ勝敗は明らかである。 やはり今の面々が一致団結し、迫り来る輩を排除していくしかないと決意していた。 ディーレアヌ「おっはようございま〜すっ!」 暫くすると、勢いよくディーレアヌが入室。大声で挨拶をする。その声にユウトは驚き、 勢いでベッドから落ちてしまった。 ディーレアヌのパワフルさは今のメンバー内で一番強く、明るさだけは誰にも負けない。 ディーレアヌ「だ・・大丈夫ですか?!」 ユウト「平気へいき、気にしないで・・・。」 ユウトの身を確認すると、明るく話しだす。彼女のウリはこの明るさだ。 ディーレアヌ「朝食ができましたので予備にきました〜。」 ユウト「分かりました。すぐ行きます。」 ディーレアヌはユウトが帰ってくるなり、彼にべったりとなつくようになった。レイヴンと しての格の強さもあるが、一番の理由はユウトが美男子であるからだ。 今社内で女性に人気のある男性はユウトである。彼に目をつけているのはディーレアヌ・ クレスの2名。表には出さないが、気にしているのはライアとマイア。恋愛感情とは無縁と 普通に過ごしている女性はナイラ・キュービヌ・アキナの3人だけであった。 まあナイラは大人の女性で、キュービヌも同じである。そう考えると4人はまだまだ子供なの かも知れない。 クレス「兄貴おはようっす。」 ユウト「おはようございますクレスさん。」 女性陣に話し掛けられ、ユウトはどうしたらいいかと悩んでいた。まあユウト自身は異性が 苦手ではなく好きな方である。だがこう連続で話し掛けられれば、誰だって困るのは当たり 前であろう。 しかもインシェアとノルムは社外警備や依頼遂行などで忙しく、ガードック・ライアンは財閥 の経営で大忙し。大食堂にはユウトしかいなかった。 同じ大食堂ではライアとマイアが調査資料などを纏めている。そして彼の朝食を担当している クレス・ディーレアヌはベッタリ奉仕している。正しくハーレム状態であった。 ユウト「・・・・・。」 ユウトが朝食を取っている所をクレス・ディーレアヌが見続けている。この行動に赤面する ユウトであった。 ユウト「・・・あの〜、気が散るんですけど・・・。」 クレス「そう言わずにさ〜。」 ディーレアヌ「あたい達をいないと思えばいいよ。」 その姿を見たライアは溜め息を付く。ライアが大人っぽくなったといっても、恋路の行動は 彼女達の方が強かった。大ざっぱな行動ができればいいなと心中で思うライアであった。 ディーレアヌ「ねぇねぇ、ユウちゃんって恋人とかいるの?」 ディーレアヌの発言を聞き、ユウトは大赤面をする。その行動を見て、3人はいないのだと 直感した。 ユウト「い・・いません・・・。」 クレス「じゃあ〜恋人に立候補します〜。」 ディーレアヌ「あたいも〜。」 とんでもない事を言い出したなと、ライアは内心ハラハラしていた。そして自分もユウトが 好きなのだと心の底から思った。 ガードック「はいはいお嬢さん方、お遊びはそれ位にして仕事しごと。」 ガードックが紅茶を貰いに大食堂へ訪れてきた。それを見たユウトはこれ幸いと、彼に何か する事がないかと話しだした。 ユウト「ガードックさん、何かする事はありませんか?」 ガードック「そうですね〜・・・。オールド・アヴァロンで何か催されているようです、息抜きに 行ってみてはどうでしょうか。」 女性陣には仕事と話していながら、ユウトには息抜きと話すガードック。これには彼なりの 思いやりなのであろう。 ユウト「了解しました。早速行ってきます。」 そそくさげに大食堂を後にするユウト。その後を同じくそそくさげに追うライアであった。 その他の女性陣はガードックがそれを許さず、雑用へと回されてしまった。 もっともユウトが帰って来て以来、彼女達は遊んでばかりの日々を過ごしていた。それには 彼も怒らざろうえない。 唯一ライア・マイア・ナイラ・アキナ・キュービヌだけが雑用や仕事などをこなしている。 特にユウトを心から好いているライアが、その感情を押し殺してまで行動をしていたのだ。 ここが大きな点であろう。 ライア「大変でしたね・・・。」 ユウト「ええ。ですが明るくいい人達です。」 ガレージまでの通路を歩くユウトとライア。2人の間には気まずい雰囲気が流れる。 ライア「・・・ユウトさんは本当に好きな人がいないのですか?」 思い切ってそう切り出すライア。それを聞いたユウトは赤面せず、自然と応対しだした。 ユウト「う〜ん・・・、そう考えるといませんね。気になっているとすれば・・・貴女でしょう。 1人で一度も訪れた事のない火星まで、僕に会いに訪れたのですから。嬉しい限りです。」 ライア「あ・・ありがとう・・・。」 軽い気持ちで異性を好くとはできない。それなりの誠意があってこそ、恋愛は成立するもの。 ライアの会いたいという一途な一念がそれを物語っている。今2人は青春真っ只中にあった。 ユウト「そういった感情にはうといですけど・・・、ライアさんの気持ちは十分理解しています。 その好意には貴女を守るという行動でお応えしますよ。」 ライア「・・・ありがとうございます。」 涙ぐむライア。ユウトの一途さにはライアも脱帽であった。 ライアは徐に右側にいる彼の左手を右手で掴む。お互い鼓動が高まり、紡ぎ合っている手から 心拍が聞こえてくる。 両者とも赤面しながらも、これほどまでに相手を思い合える事に驚いていた。そして何が何 でも互いを助け合っていこうと、心中で同時に決意するのであった。 その後ガレージへと到着したユウトとライアはトーベナス社を出発する。ガードックから 指摘があったオールド・アヴァロンに向かった。 オールド・アヴァロン。古いドームが立ち並ぶ旧市街地であり、アリーナの戦場にはうって つけであろう。当然アリーナ戦闘エリアでもあり、ここで数々の試合が毎日行われている。 ライア「広い所ですね〜・・・。」 ユウト「以前謎の旧型ACが現れた場所です。祖父の資料を探ってみた所、ナインボールというAC だったそうです。」 ライア「ナインボール・・・。確か大破壊後に実在したレイヴン統括組織、レイヴンズ・ネストが 製作した無人ACだったと思いますが。」 お馴染みの手帳を見つつ、ライアが答え返す。この仕草は教授と助手の間柄に見える。 ユウト「そうです。一時期はハスラー・ワンという最強のレイヴンが駆っていると噂されました。 しかしそれは単なる虚像。ハスラー・ワンというのは高性能人工知能パーツの名前で、実在 の人物ではなかったようです。」 手帳を見つつ、ライアは彼から詳しい事を聞き出しメモをしていく。 ライア「以前交戦した事があるようですね。」 ユウト「ええ。火星の騒乱の後、地球に戻った時に依頼を受けている最中、緊急の依頼が入り対戦 した事があります。」 ライア「それとマイアから聞いたのですが、あの火星の騒乱を静めたのはユウトさんなのですか?」 ユウト「ですね。自分が12の時です。」 ライア「物凄い年齢・・・。」 普通の一般レイヴンを見ると18歳から30歳前後から、高齢レイヴンでは60歳から70歳 前後がいる。しかし12歳という年齢で活躍していた彼の存在は、ある意味憧れでもあろう。 ユウト「あんまり化け物を見るような目で見ないで下さい。」 苦笑いを浮かべるユウト。その仕草にライアは小さく笑った。 ライア「ウインドさんも旧型ACを所持しているのでしょうか。」 ユウト「新型ACだと思いますよ。でもあれだけの行動ができるのですから、旧型ACでも一騎当千 だと思います。」 ライア「またお会いしたいですね。」 ユウト「自分も同感です。」 その後オールド・アヴァロンのアリーナ場を見て回るユウトとライア。どこも試合中などの 掲示が掲げており、流石アリーナ専用都市でもあった。 2人は一通り見学すると、ACが待機してあるガレージへと戻った。当然だが、ユウトは恒例 である変装をしての見回りである。 ガレージに戻った2人は、見知らぬ男女が自分達のACを見つめている事に気が付いた。 どちらも熱心に愛機を見上げ、うんうん唸っている。 ライア「あの〜何のご用でしょうか?」 男性「あ・・・すみません。いい機体構成なのでつい見とれてしまいました。」 女性「今度トーナメント戦を行うんです。その時の参考にしようかと思いまして。」 男性は初対面だが、女性の肉声を聞いた直後ある人物の顔が思い浮かぶ。それは2人同時で あった。 ユウト「も・・・もしかしてアキナさんですか?」 女性「?!・・・姉をご存知なのですか?!」 アキナという言葉を聞いた女性は血相を変えて2人に話し掛ける。そして2人は直感した、 彼女はアキナの妹なのだと。 ユウト「はい。それよりまずは自己紹介を。自分は小松崎優斗です、彼女はライア=トーベナス。」 ライア「よろしくお願いします。」 女性「白木明菜の妹の白木亜麗菜です。」 男性「トーマス=シェイレイックです。」 お互いに握手を交わす4人。この一連の行動を見て、ユウトとライアはこうやって人脈を築き 上げていくのだなと痛感した。 その後ガレージ隅にあるベンチに移動し、ユウトは詳しい事情を語りだす。 アレナ「そうですか。姉はライア様の企業にいると。」 トーマス「生き別れの姉を探していると、アリーナ場でウロウロしている所を見つけ話し掛けたの です。詳しい事情を聞くと手伝ってあげたいと思いまして。」 ライア「頼れる人ですね、トーマスさんって。まるでお兄さんみたいです。」 トーマス「実はこう見えて2児の父親なんですよ。」 それを聞いた3人は驚きの表情を浮かべる。どう考えてもトーマスは16・7歳にしか見え ない。それに彼の話し方を聞くと幼く見えてしまう。 アレナ「お父さんだったのですか?!」 ユウト「全然そうには見えませんよ。」 トーマス「よく言われます。」 恐縮気味にトーマスは語る。しかし父であるからか、応対は自分達よりしっかりしている。 ライア「奥さんと子供さんはどこで暮らしていらっしゃるのですか?」 トーマス「オールド・アヴァロン郊外の廃棄住宅地です。自分ACを購入するのに借金してしまい まして、このような生活で我慢してもらっています。」 それを聞いたライアは人事ではないと思った。特に幼い子供2人を不衛生な環境で過ごさせる のは、今後を考えても非常によろしくない。 彼女は彼等家族を社へと誘うと心中で決意するが、その事を先に察知したユウトが相談を切り 出して来た。 ユウト「ライアさん、トーマスさんやご家族の方を社内へお誘いしてはどうでしょうか。」 ライア「フフッ、私も同じ事を考えていました。どうですかトーマスさん、無事お住まいが持てる その日まで暮らしてみては。」 トーマス「・・・それは構わないのですが・・・。」 トーマスの決断の遅さに、ユウトは彼の悩みを得意の洞察力で見抜く。それは気にするなと 話しだした。 ユウト「別に家賃までもを払えと言っている訳ではありませんよ。お2人のお子さんの事を心配して お誘いしているのです。」 ライア「今の世界、子供さんは未来の大切な人材です。そういった困っている人々を助けるのが、 私達の使命なんです。」 2人が自分より若いながらも、明確な目標を持っている。そして相手を敬う行為にトーマスは 感無量であった。 深々と頭を下げながら、承諾のサインを送る。 トーマス「願ったり叶ったりです、よろしくお願い致します。」 ライア「アレナさんもどうですか?」 アレナ「では私もお言葉に甘えさせて頂きます。その代わり雑用などの仕事があれば仰って下さい。 何でも致しますから。」 トーマス「アレナさんと同じです。自分も何でもします。」 ライア「そのご厚意だけで充分ですよ。あまり気になさらないで下さい。」 ライアの応対を見て、ユウトはこういった事も成長したなと嬉しくなった。彼女と出会った 頃は応対もできなかったが、今はしっかり者の若女社長である。 そう遠くない日、ナイラ以上にやり手の社長になるだろうと想像がつく。 ユウト「ところで、先程トーナメント戦がどうとか言っていましたよね。」 アレナ「ええ。ここで今流行なのがトーナメント戦だそうです。賞金が通常のシングルバトルの3倍 らしく、参加する方が後を絶たないとか。それにこれはペアを組まないと勝利できません。 ここでは単独のレイヴンの方が珍しいですよ。」 ユウトは心中で思った。 本来レイヴンは一匹狼の職業であり、裏切り裏切られの悲しき性分。昨日の敵は今日の友で あり、また今日の友は明日の敵になりかねない。 だがアマギ達ロストナンバーレイヴンズが他人との関わり合いを持つようになってから、その 束縛はなくなりつつあると言えよう。 現にペアを組んで対戦するレイヴンがいるのが何よりの証ではあるまいか。 アマギ達の偉業がどれだけのものか、ここで改めて思い知るのである。 ライア「ユウトさん、出場してみましょうよ。」 ユウト「そのトーナメント戦は2対2なのですか?」 トーマス「いえ違いますよ。勝ち続ければ賞金が上がる設定で、人数の方は最大で4人までです。」 ライア「じゃあ決まりですね。私達4人で勝ち抜き、トーマスさんのマイホームを買う資金を稼ぎま しょう。」 トーマス「お心遣いありがとうございます。」 偶然にもここに4人のレイヴンがチームを組んだ。まるで導かれているかのように。 ユウトとライアは互いの戦術を理解しているが、トーマスとアレナは彼等の戦術を知らない。 2人は自分達の戦術を詳細に語り、逆に相手の戦術を聞き出す。 その後トーナメント戦闘の戦術を練りだした。 その最中トーマスとアレナはユウトとライアの器の大きさに驚いた。ここまでしっかりした 青年はいないと、心中でそう思うのである。 そして自分達も何か力になれないかと、心で固く決意するのであった。 第4話・2へ続く |
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