〜第1部 18人の決断〜
   〜第5話 ウインドブレイド1〜
    ユウト達がガレージから出発して約4時間。この間ウインドが2人を指導していた。
   ガレージ内部では彼がACの操作技術や修理技術などを教えている。2人は疲れるぐらいに
   肩を張り、真剣に彼の言葉に耳を傾けていた。
   そこにユウト達が彼から紹介されたライディルを連れて戻ってくる。
    ライディルは炭鉱でACパーツ等に使用する鋼鉄やアルミニウムといった鉱物を発掘して
   いる。殆どが企業の作業機器を使用するが、彼はACなどを使用して行っている。ある意味
   変わり者であろう。
   ユウトのACを先導に、トーマス・アレナ・ライディルとガレージに帰還してきた。

ユウト「連れて来ましたよ。」
    ACから降りてきたユウトがライディルを招く。ユウトからウインドの存在を話されては
   いたが、実際に出会ったライディルはやはり驚いた表情をする。
ライディル「は・・初めまして、ライディル=クルヴェイアと申します。」
ウインド「噂は聞いている。トムの後継者、そしてリバース・デンジャラスガンナーともな。」
   体格が今いる面々の中で一番大きいライディル。そのライディルが優男のウインドに畏まって
   いる風景が何ともいえない。
    ライディルの威圧感はトム譲りで、荒くれ者といった雰囲気を大きくかもし出している。
   当然オヤジ風の雰囲気も混ざっていた。
    だがウインドは普通の青年風だが、雰囲気は威圧感・恐怖感・安心感といったものを全て
   含んでいる。これには初対面の者は驚くのが当たり前だろう。
ライディル「お褒めの言葉、恐縮です。」
ウインド「さて、メンツは揃った。作戦会議といこう。」
   一同はブリーフィングルームへ移動。そこでトーマスの家族救出作戦を練りだした。ウインド
   は一同から遠目で見守り、会議の中心者からは離れる。

ユウト「チーム分けをしましょう。デアを含む敵部隊迎撃隊と、爆弾解除部隊。そしてトーマスさん
    のご家族救出隊。救出に関してトラップなどが考えられますが、ウインドさんが仰られた
    相手の苦しむ姿を好むのであれば・・・まず有り得ないと考えていいでしょう。」
ライア「救出メンバーはトーマスさんが中心になって下さい。それとナイラさんがサポート役として
    同行をお願いします。爆弾解除部隊はライディルさんとアレナさんが行って下さい。それ
    以外の私を含むメンバーはデア達の相手をしましょう。」
一同「了解。」
    彼らを見つめ、ウインドは小さく微笑む。自分の弟子達が活躍する姿を見る師匠は、当然の
   行動であろう。
ライア「よろしいですね、ウインドさん?」
ウインド「俺に聞くな。お前達の決めた事だ、俺はただ黙って見守るだけだ。唯一言わせてもらうと
     すれば、後悔はするなという事だな。」
ユウト「心得ていますよ先輩。」
   一同が笑顔でウインドを見つめる。ウインドはそんな若々しい彼らを羨ましく思った。

    その後詳しい作戦時間を決め、各々ACのチェックに取り掛かった。
   そんな中ウインドは彼らの側から離れ、一人行動に出た。
   アリーナガレージが個別に所有している長距離輸送用ヘリコプターを管理者に借りる。その後
   それを使いその場を飛び立った。
   目指した場所はネオ・アイザック宇宙港の廃棄工場跡地。当然ながらユウト達の作戦行動前
   には戻るつもりでいた。
ウインド「・・・動き出す時は今か・・・。」
   徐にそう呟き、操縦席にてヘリを操作するウインドであった。

    ACのチェックを行うユウト達。
   ユウトとライアは一通りのメンテナンス技術をキュービヌなどに教えて貰っている。トーマス
   やアレナは独自でのメンテナンス技術だ。
   しかしメンテナンスにかけて一流のライディルが補足をしながら指導しているため、その効率
   はかなり上がっていた。
   普段は考えもしなかった愛機の構造などに、一同は再度ACの難しさを学んでいった。
    そこに先程対戦をしたジェイン・ガルバード・サーベンが現れた。
   3人に気付いたユウトは、作業を中断し彼らの元へ駆け付ける。
ジェイン「あの〜すみません。」
ユウト「何でしょうか?」
   何やら悩んでいる表情をしていた。それを鋭く見抜いたユウトである。
   メンテナンスをライディルに任せると3人と近くのベンチに座り、詳しい事情を聞きだした。

ジェイン「改めて、ジェイン=ガードウェインです。」
ガルバード「ガルバード=ガイゲルとも申します。」
サーベン「サーベン=ドゥグドゥールです、よろしく。」
ユウト「ご丁寧にどうも。自分は小松崎優斗です。」
    その後ユウトは彼らの悩みを聞きだす。
   それは先程の対戦で賞金が稼げなかった事で、彼ら個々の借金が返済できなくなったのだと
   いう。
   ユウトに話し掛けてきた理由は、自分達を専属の傭兵として雇わないかという事であった。
ユウト「そうでしたか、すみませんでした。」
ガルバード「いえ、ユウトさんの責任ではないのですから・・・。」
ユウト「私の独断はできませんが、彼女に聞いてみるといいでしょう。」
    ユウトは作業中のライアを呼び、彼らの素性や悩みを話した。それを聞いたライアは即座に
   承諾する。
   それは困っている人々を助ける信念に合わさっており、なおかつ戦力の増強になるからだ。
   これほどおいしい話はないといっていいだろう。
ライア「了解です。私の社の護衛レイヴンとして雇いましょう。よろしくお願い致します。」
   丁寧に頭を下げるライア。それを見た3人は慌てて頭を上げさせる。
   当然であろう、お願いをしたのは自分達である。だがお願いした人物が丁寧に礼をするのだ、
   慌てるのが普通である。
   その後メンテナンスを行っている他の面々も呼び寄せ、一通りの挨拶を行う。
   ここで一番目立つのがライディルとサーベンだ。体格が一同の中でかなり大きく、まるで今も
   娯楽の1つで楽しまれているプロレスリングのレスラーのようだ。

サーベン「それにしても・・・このようなお嬢さんが社長を務めているとは・・・。」
ナイラ「あら、私は地球と火星の大企業の社長を務めていますよ。」
    ライアを見つめ、サーベンが彼女の行動を褒める。そこにナイラが自分もそうだと告げた。
   しかも地球と火星のである。
ジェイン「ま・・まさか・・・ナイラさんは・・・青い鷹の平西奈衣羅さん?!」
ナイラ「そうです。」
ライア「私の妹は、火星での紅の魔女ですよ。」
ガルバード「く・・・紅の魔女・・・。あの身も凍る行動をすると言われる・・・最年少で2位に
      上り詰めた女傑・・・。」
   3人は恐ろしい事を聞いたように、身を震わせてその恐さを表す。その対応にライアは驚く。
ライア「マイアはそう呼ばれているのですか、初めて知りました。」
ユウト「マイアさんの噂はナイラさんが現れる前から聞いています。たった独りでアリーナに登場。
    その女性とは思えない行動で勝ち進んでいったのだと。」
ライア「そうだったのですか・・・。」
   マイアの過去を知り、ライアはコミュニケーション不足を悔しく思った。自分のたった一人の
   家族である。もっとお互いを知るべきだと痛感した。
ユウト「ま・・・何はともあれ、今はこの作戦を成功させる事に集中しましょう。ジェインさん・
    ガルバードさん・サーベンさんもよろしくお願いします。」
ガルバード「お任せ下さい。」
サーベン「お〜し、いっちょ暴れてやるかぁ!」
ライア「ハメを外し過ぎないように。」
サーベン「言えてますな。」
   サーベンを火種に一同大笑いする。ユウトは思う、3人はムードメーカー的存在なのだと。
   そして今の自分達には必要な人材でもある事も。
    その後ジェイン達のACもガレージ入りをし、同じくメンテナンスに取り掛かる。
   3人のACは先程の戦闘によりパーツを新規に購入し、組み替えての機体であった。故に破壊
   及び破損したパーツのみ真新しい。
   作戦開始まであと30分弱。軽い緊張を胸に一同は作業を続けた。

    メンテナンスが終了した一同、作戦時間まであと僅かである。
   その間ガレージにあるテーブルでポーカーをやりだす。束の間の娯楽であった。
    そこにウインドがさり気なく帰還してきた。彼に気付いたナイラは足早に近付いていく。
ナイラ「お帰りなさい。」
ウインド「ただいま。・・・柄でもないよな、このような会話は。」
ナイラ「いいえ、そのような事はありませんよ。」
   苦笑いを浮かべるウインド。それを見たナイラは小さく微笑む。

    その後ナイラは珍しく彼を誘い、ガレージの外へと出ていった。
ナイラ「祖母が話していました。ウインドさんは強い方だと。どんな困難にも立ち向かい、決して
    諦めないその姿勢に何度となく勇気付けられたと。」
ウインド「ユキナは最初は引っ込み思案な性格だったとアマギから聞いている。彼が彼女にレイヴン
     の道を薦めたとも言っていた。内気な彼女だったが、ユウジの死を発端に変わった。今の
     お前と同じ、お淑やかで他人思いにな。」
ナイラ「そうだったのですか・・・。」
ウインド「アマギの第1クローンとは古い付き合いで、彼女の永遠の守護神とも言える。命を懸けて
     守ると誓っていた。その役目は今も続いている。」
   ライアが調べていた内容をすらすらと語るウインド。ナイラはやはり彼が今の時代の人間では
   ないと痛感した。
ナイラ「あと、祖母からお聞きしたのです。華の剣士といわれる人物がいたといいますが。」
ウインド「レイスの義姉、デュウバ=ドゥヴァリーファガだな。レイス以上に一途でお淑やか。それ
     故に悩んでしまう一面もある。その点で過去に氷の魔剣士へ変貌した時があった。そう、
     レイスが破壊の魔女になったように・・・。」
   やはり辛そうな表情を浮かべ、会話を中断する。そんな彼を見つめ、自分に何かできないのか
   と問い質す。だが出てくる答えは何もなかった。
   せめてもの慰めだと思い、彼の手を優しく握りしめる。
ナイラ「げ・元気を出して下さい、落ち込んでいる姿など見せず・・・あ・明るくいきましょう。」
ウインド「フフッ、本当に姉妹なんだな。ライアも同じ事をしてくれたよ。」
   その場に立ち止まり、ウインドはナイラを見つめる。ナイラは精一杯の笑顔を作り、彼を
   見つめ返した。
ウインド「・・・立ち止まっていては何も生まれない。それがかえって罪を重ねる場合もある。立ち
     上がるべき時は今なのかもな。」
   ナイラが彼の手を握るのを止めると、ウインドは暫く空を見つめる。それにナイラは黙って
   付き合っていた。

ウインド「さっきガレージを後にしたのが何だったか分かるか?」
    沈黙を破り、ウインドが話しかける。いきなり話しかけられたので、ナイラは心中で驚く。
ナイラ「う・う〜ん・・・、何かお探しに行ったのでは?」
ウインド「俺の愛機を取りに行った。表向きの行動はしないが、これからはウインドブレイドと共に
     戦おう。レイスもそれを望んでいるからな。」
   ウインドが指差す方向には、長距離輸送用ヘリコプターの近くにナイラと同じ機体があった。
   武装などは全く違うが、その機体フォルムはトゥルース・ロードと同型である。
ナイラ「あ・・・あれが・・・ウインドブレイド・・・。」
ウインド「世紀を超えて受け継がれる、俺の真実でもある。」
ナイラ「感じます・・・その力が・・・。」
ウインド「風の剣とも言われているが、実の所は風の女神の由来を持つ。レイヴンになる前に世話に
     なった女性を指してな。」
ナイラ「そうですか。」
   同じ機体構成なのに、こうまで風格が違うとナイラは思う。それは伝説のレイヴンが扱う機体
   だと無意識に思っているのであろうか。
    彼も自分と同じく赤き血潮が流れる人間である。それがたとえクローン生命体だとしても。
   やはり長年生き続けてきた知識と風格が、彼を伝説のレイヴンと位置づけているのであろう。
   ナイラは再度、彼の凄さに脱帽していた。
ウインド「さて、そろそろ時間だ。気を付けて行ってきな。」
ナイラ「了解です。」
   ナイラはガレージへと戻っていく。その後ろ姿を温かく見守るウインド。
    暫くしてガレージの大型ハッチが開きだし、そこから一同のACが次々と出現。ウインドは
   その場に立ち、彼らの出陣を見守った。

    一同が見えなくなるまで見守ると、彼も愛機の前に向かう。そして己の分身である鋼鉄の
   巨人を見上げる。
   遠隔操作でコクピット部分から降りてきたハンガーに足を掛け、ぶら下がりながらコクピット
   へと上がっていった。
   そして外部操作によりコクピットハッチが開き、内部を確認しつつ搭乗した。

ウインド「・・・ただいま。」
    ウインドはメインシステムを起動すると、ジェネレーターが動き出す。かすかな振動と共に
   ラジエーターも起動しだした。コンソールのランプが点滅していき、ウインドブレイドは完全
   に起動した。
   ウインドはベストのポケットからマッチ箱風の小物を取り出し、コンソール下部の挿入口に
   差し込む。
    直後コンソールに文字がこう表示された、「おかえりなさい」と。
   ウインドがアマギ達と共に開発した人工知能を、彼なりにアレンジし1個のシステムに作り
   かえた。
   そこにはウインドブレイドの原型となった人物・レイスの人格が移植されており、彼女達は
   機械となって今の彼をサポートしている。シェガーヴァと同じ人工知能として。

    ウインドはトリガーを握り、愛機を徐に動かしだした。
   ユウト達がブースターダッシュで移動していった後の、送れた出撃であった。
                               第5話・2へ続く

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