第3部 9人の勇士 36人の猛将
   〜第6話 決戦を控えて1〜
    一同ブリーフィングルームにて待機中。あれだけの消耗戦の後だ、どの面々も緊張が完全に
   取れ切れていない。
    だが驚いた事にあれだけの猛攻があったにもかかわらず、幼い子供達6人は驚くどころか
   全く動じなかった。これには親や周りの人物を驚かすには十分だった。

ウインド「久し振りだね。」
レイヴン1「兄貴も元気そうで何よりで。」
    妖精達と挨拶をするウインド。リュウジとウィン妹を救った英雄でもあり、一同が戦える
   までの時間稼ぎをしてくれた人物達である。
レイス姉「フフッ、あの子達と同じみたいね。」
ウインド「そうだな。」
    ウインドが2世紀前に救った6人の娘達。
   三島エリシェ・諏川テュルム・岩佐ルディス・西川ミュナ・岡崎ティム・高野リュミナ。
    6人とも財閥の社長令嬢であり、ネストによって排除対象になっていた。それをウインドが
   助け、妹のように育てたのである。
レイヴン1「初めまして。アリッシュ=ミルアです。」
レイヴン2「リンル=シューヴといいます。よろしく。」
レイヴン6「エリヒナ=マクアレスです。よろしくお願いします。」
レイヴン4「リンルの妹、ネイラ=シューヴといいます。」
レイヴン3「アキラ=アカイシです。よろしく。」
レイヴン5「エンリェム=アカイシです。姉共々よろしくお願いします。」
   それぞれ自己紹介をする6人の少女。どの人物も48人のレイヴンズの中で一番最年少である
   ディーレアヌより若い。だが芯がしっかりとしているからか、彼女より年上に見える。
リュウジ「フフッ、エリシェ達と同じだな。」
ウインド「6人とも中小企業の社長令嬢だ。どの企業も破産し路頭に迷っている所を助けた。今じゃ
     立派なレイヴンだ。」
   恐縮気味にする少女達。しかし闘志は既に自分達に近いと、歴戦のレイヴン達は思った。
リュウジ「これで54人か。アマギの時は55人。やはり宿命でここに集ったという訳だ。」
   自分を含めた面々を見つめるリュウジ。年齢層は様々ではあるが、どの人物も信念は一点に
   定められていた。
リュウジ「さて、破損した機体を修復するかな。それに何時攻めて来るか分からん。万全の体制には
     しておいた方がいい。」
   そう語ると、リュウジはブリーフィングルームを退室。大型ガレージの方へ向かって行った。
   ようやく意識が戻ったウィン妹も一緒に向かって行く。
ウインド「よし、お前達の実力を見させて貰うぞ。」
   ウインドも行動を開始。6人の少女の実力を見極めるため、彼女達を引き連れてガレージへと
   向かって行った。
   他の面々も行動を開始。アリーナドームにて修行を開始する者、財閥の周辺を警護する者と。
   一同は決戦に向けて動き出した。

デヴィル「蝿の襲来では効果が薄かったようだな。」
シェンヴェルン「焦る必要はなかろう。これらが完成すればそれで済む事だ。」
    ロストフィールド地下。STAIが完成を控え、遺産も大量に製造が完了した。またその他
   の駒であるダークネスも続々と完成し、デヴィル側の戦力は整いつつあった。
デヴィル「火星のあれは手に入れたのか?」
シェンヴェルン「ああ。既に起動実験済みだ。だが他の手駒はダークネスしか使えない。遺産は地球
        に終結させた方が無難だろう。」
デヴィル「分かった。楽しみだな・・・。」
   完成間近のSTAIを見つめ、不気味に微笑むデヴィル。人工知能を搭載し終えたダークネス
   や遺産も出撃準備を整え、何時でも動ける状態にあった。
    またウインドやシェガーヴァが予測した通り、火星の騒乱で用いられたオリジナルSTAI
   も手に入れたようである。それは以前シュイル達がディソーダー群と交戦した、火星政府本社
   跡地の地下に待機中であった。
    そう、シュイル達がディソーダーと交戦したのは時間稼ぎであったのだ。地下に出撃を待つ
   オリジナルSTAIに気付かれないように、態と大量のディソーダー群を出現させたのだ。
    ミナ達がファンタズマタイプ群と交戦したのも時間稼ぎであった。地下ではダークネスや
   遺産、そしてアレンジのSTAIが製造されていたのである。
    そして今し方平西財閥地球本社に夥しい襲来をしたスーサイダーも、彼らの行動を遅らせる
   時間稼ぎに過ぎなかった。
   確実に開戦の色が濃くなる両者。決戦の火蓋は今にも切って落とされそうであった。

リュウジ(予測した通りになったな。STAI2機が奴等の奥の手らしい。)
ウインド(まあ今に始まった事じゃない。遺産やダークネスもアマギ達の時と変わらないさ。)
    ウインドもリュウジも左耳に小さな小型通信機を取り付け、会話ではなく意識の会話方法で
   通信を行っていた。ウィン妹にも同じ通信機を使わせ、会話のみ聞いてもらっていた。
    この装置もロストテクノロジーの一部とされているが、リュウジが生前に開発を促がした
   代物でもある。
    ウインドはアリッシュ達とアリーナドームで修行中。彼だけでは厳しいと判断したのか、
   レイス姉妹やデュウバ姉妹が相手役に名乗りを挙げる。他の面々も別のアリーナドーム内部
   にて修行を行っていた。
    財閥外では残骸を掃除する別のレイヴン達。しかし何れここが再び戦場になる事を予測し、
   残骸の撤去のみにしたのである。
   以前のような自然に溢れた大地に戻すのは、決戦が終わった後の事である。
リュウジ(STAIの破壊方法だが、最悪の場合自爆が考えられる。炉心が完全に中心にあり、遠隔
     操作の起爆が不可能だ。人の手により直接自爆させるしかない。)
ウインド(・・・いくらクローン体であっても、あまり死はお勧めできないな。)
リュウジ(まあそのために転生したようなものだ。その後の事は任せるぞ。)
ウインド(・・・分かった。親父がそういうのなら、な。)
リュウジ「・・・すまない。」
   最後の会話のみ、意識会話と通常会話をしてしまうリュウジ。その言葉に気付き、近くにいた
   キュービヌが不思議そうに問い質した。
キュービヌ「どうなされました?」
リュウジ「あ・いや、何でもない。」
ウィン妹「私の応対に間違ってしまった詫びですよ。」
    疑いの念を抱くキュービヌに、ウィン妹が直ぐ様フォローを入れる。流石は自分の娘だと、
   リュウジは心中で彼女に礼を述べた。
    また要らぬ詮索も無用だとも理解しているキュービヌ。多少疑いはあったが、2人に追求は
   しなかった。

    両腕を破壊されたウィン妹のヴィクセン改。その失った腕は既に復元され、武装も元通りに
   なっている。リュウジのヴィクセン改もヘッドパーツが修復され、元通りに戻っていた。
    また臨時で使用したナインボール=セラフもメンテナンスされ、通常通り不測の事態に備え
   つつ沈黙を続ける。
キュービヌ「しかしこうも遺産を修復してると、全く違和感が感じられないわ。」
リュウジ「そうだな。イレギュラー的な戦闘力を有している兵器だが、生き残る為には苦肉の策なの
     だろう。」
キュービヌ「だねぇ。」
    あれだけ苦戦していた遺産であるヴィクセンやセラフを何度も見つつ、いつの間にかそれが
   当たり前のように思うようになった。
リュウジ「・・・悲しいよな。遺産だから役割が済めば破壊する。物とはそういうものじゃない。
     生命体ではないが、それだけ愛情を注げばそれなりに応じてくれる。それを破壊するのは
     何とも言い難い。」
   修復が完了したヴィクセン2機を見上げ、リュウジは悲しそうに物の定めを語る。
    所詮遺産でもACでも駒に過ぎない。扱う者次第で善にもなり悪にもなり、そして人助けも
   行い平気で殺人も犯すのだ。
マイア(人間って身勝手。その邪なエゴが戦乱を続ける。一番汚いのはそれを持つ人間自身。そして
    浄化すべきは人の心。)
   マイアの言葉が脳裏に過ぎる。正しくその通りだと、リュウジは苦痛に襲われた。
キュービヌ「旦那。その扱う者がしっかりすればいいだけの事よ。深く考えても意味がないわ。」
リュウジ「・・・フフッ、そうだな。」
   徐に煙草を吸い出す。そして天井を見つめ、大きく溜め息を付くリュウジ。
    サイボーグ筐体時では思っても心に深く苦痛とならなかった。しかし今は普通に心が痛む。
   これが人間に備わったものなのだと、リュウジは改めて振り返った。

ウィン姉「夜空が綺麗・・・。」
    先日まで雨が降り続いてたのが嘘のようであった。
   その夜は今までにないほど美しい星空が広がり、済んだ空気が辺りを覆っていた。
    ウィン姉は財閥外へと出て、内部から持ってきた椅子に腰を下ろす。その側には他の面々も
   同じく外に出ており、ゆっくりと一時を過ごしていた。
リュウジ「肉眼で星を見るのは久し振りだな。」
ウィン妹「そうですね。」
    転生後での夜空を見つめるのは今回が初めて。リュウジもウィン妹も空に頭を上げ見入って
   いる。

ユウタ「がぁ〜、また負けた〜・・・。」
ユウト「甘いぞユウタ君。こう見えてもポーカーは負けた事がない。」
ユウタ「も・・もう一勝負っ!」
ユウト「いいぞいいぞ。」
    別の場所ではテーブルを持ち出し、そこでポーカーを行うユウト達。ユウタを始め若者達が
   熱中していた。
ライア「フフッ、ユウトさんったら。」
    子供達を世話しつつ、遠目で彼らを見つめるライア。マイアも同じく子供達を世話している
   が、こちらは悪戦苦闘しているようだ。

ライディル「ぐぅぉぉぉぉぉっ!!!」
サーベン「んなくそぉぉぉぉぉっ!!!」
    こちらはテーブルの上で腕相撲を行っている。ライディルとサーベンの2人が他の面々の
   煽りを受けながら、己の肉体で勝負を繰り広げていた。周りでは2人に飲み物を懸けて、勝敗
   を期待する若手面々もいた。
エルディル「いい大人が・・・まったく。」
    遠目ではエルディルが呆れ顔で見つめる。すっかりライディルのパートナーとなった彼女
   だが、その肉体を駆使した格闘にはどうも引き気味のようである。

    そんな一同を見つめ、リュウジは小さく笑っている。人間が持つ力には、改めて驚かされ
   続けている。それは一時的に人間となった彼の姿を見れば一目瞭然だろう。
ウインド「今の時を大切に、だな。」
リュウジ「そうだな。」
    両者とも煙草を吸いながらそう語り合う。
   自分達が2世紀以上心身ともに守り抜いてきたもの。それが今のこの現実である。彼らの喜び
   笑い合う姿を見つめ、戦ってきてよかったと心中で喜んだ。
    そして再び決意する。次の世代のため、何が何でも戦い抜くと心中に不動の決意を固める。
   その姿は本当の親子のようであった。
                               第6話 2へ続く

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