第3部 9人の勇士 36人の猛将
   〜第6話 決戦を控えて2〜
    その時は来た。今し方デヴィル側からメールが届き、翌日の早朝に攻めてくるという内容で
   あった。
   一同は心中で新たに決意する。明日の決戦を何が何でも戦い抜くと。

ウインド「今回の決戦は地球と火星で同時に行われる筈だ。レイヴンズを分散させるのはまだ決めて
     いないが、もし火星側が重苦しい状況になったらチーム別に分ける。」
    一同ブリーフィングルームにて今後の作戦を決める。ウインドやリュウジを中心に、52人
   のレイヴン達は緊張した表情で聞き入っている。
リュウジ「敵の戦力は遺産とダークネス群だと思われる。どのぐらいの数かまでは不明だが、こちら
     のヴァスタール隊を合わせれば乗り越えられる。」
ウインド「不測の事態のチーム分けについては明日までに決めておく。それぞれは万全の体制で明日
     の決戦に挑んで欲しい。」
   一同頷く。今はそれしか思い付かなかった。敵側の戦力が未知数である事から、相当の激戦が
   予測される。それは決戦を迎えた事がない新米レイヴンでも理解できていた。

    その後一同は一旦解散した。翌日まで時間がまだある。その間各々の自由行動をするように
   と、リュウジから促がされた。
    ある者はまだ己の力量を高めるべく、アリーナにて修行を開始する。またある者は完全に
   息抜きを取って休んでいた。
    今回は戦闘参加ができると張り切っているライア。我勇んで修行を繰り返している。その
   相手は同じくブランク気味のユウトであった。
   その間の子供の面倒は日々修行に明け暮れていたマイアが買って出て、2人に思う存分行動を
   させてあげている。

    相手の戦力が未知数でありこの決戦を体感した事がない者にとって、この死闘は恐怖以外の
   何ものでもなかった。
   だが誰一人として弱音を上げる事なく時を過ごした。それは他の面々がお互いを支え合い、
   補い合っているからである。これこそ彼らの真の強さでもあり、究極の武器でもあった。

ウインド「・・・やはり死ぬ気なんだな。」
リュウジ「・・・ああ。」
    財閥の外にて2人が話し合っている。他の面々には構わないでくれと促がし、殆ど密談に
   近い状態での対話であった。
リュウジ「STAIは構造上、外部からのジャミングを全く受け付けない。言い換えれば遠隔操作に
     よる自爆は不可能だ。それに炉心部は前も述べた通り、本体の中央部に位置している。
     どんなに足軽の機体でも、あの大都市に匹敵する巨体から脱出するには30分以上の時間
     が掛かる。」
   重苦しい雰囲気が流れる。つまりはSTAIの自爆は心中を意味している事に繋がるからだ。
リュウジ「炉心部までの経路を詳細に知る者は、あれのデータを保持している私やレイシェムしか
     いない。ユウトがレオス=クラインとの決戦で乗り込んだ時も、あれは炉心部ではなく
     短時間で向かえる中央制御室だ。それに彼を向かわせたとして、ライアも一緒に行く事に
     なるだろう。若い命を落とすには惜しい。それにあれに若い命を使う必要もない。同じ命
     を使うなら、私やレイシェムが適任だろう。」
   煙草を吸い、徐に空を仰ぐ。快晴とまではいかないが、晴れ渡る晴天であった。
リュウジ「フフッ。お前が人間に戻りなよと言ってくれた意味、私はこれをSTAIが完全に出ると
     予測しなかった時まで分からなかった。だが今ならしっかりと理解できる。タブーの転生
     がこれに繋がるとは、実に皮肉なものだな。」
ウインド「・・・親父がそう言うのなら、俺はもう止めない。いや、俺が親父と同じ立場なら・・・
     進んで同じ事をするだろうな・・・。」
リュウジ「・・・ありがとう。」
   その小さな肩を軽く叩くリュウジ。ユキヤは小さく笑みを浮かべるも、無意識に涙を流して
   いた。
    いくらクローン転生が可能でありサイボーグ筐体への転生も可能であってもだ、人間が死ぬ
   のは耐え難い苦痛である。それが義父であり大切な人なら尚更の事。この感情はウィンが死ぬ
   間際と同じであった。
    そしてリュウジは理解した。ユキヤがウィンの死を見取った際の悲しい感情。今のこの瞬間
   と同じであると。それは人間になったリュウジであるから尚更感じ取れたのである。
    リュウジは小さく泣き続けるユキヤの肩に置いた手に、小さく力を込め軽く叩く。それが
   今の自分に可能な慰めであった。

ウインド「・・・お前も構わないんだな?」
ウィン妹「ええ、その為に転生したようなものです。」
    念を押し、レイシェムにも決意を訊ねるウインド。だがリュウジ同様、心中では決意が堅く
   固められていた。
ウインド「・・・分かった。本来は俺が行いたいんだがな、これも宿命だな・・・。」
   リュウジの時と同様、薄っすらと涙目になるウインド。その姿を見てウィン妹は自分の中で
   何かを感じた。
ウィン妹「・・・何だろう、この胸の痛み・・・。」
ウインド「それが悲しみというものだ。人間が必ず有するもの。そしてそれは親しい人なら尚更その
     感情が高まる。お前も人間である何よりの証だ。」
   悲しみを初めて生身で体感するウィン妹。だがそれ以外にも別の感情が出ているようである。
   それを薄々感じ取るウインド。
ウインド「フフッ、お前も立派な女性だ。悲しみ以外に別の感情があるのなら、それは俺に対する
     一念だろう。真ウィンとそっくりだ。」
ウィン妹「・・・何だか怖い・・・。死ぬ事が怖いのではないです。何か・・・別の恐怖が・・・
     心の奥底から噴き出て来るような・・・、そんな感じがします・・・。」
ウインド「不安・恐怖、これらは人間に備わるもの。それが出るのは当たり前。人間誰だって死ぬ事
     は辛く怖い。それは避け難い生命体の終着点だからな。」
   徐に身体が震えだすウィン妹。今度はウインドが彼女の肩に手を置き軽く叩いた。今の彼女は
   約2年前のライアの時のように怯えていたのである。
ウィン妹「・・・震えが止まらない。」
ウインド「・・・すまない。本当は俺が行うべき役割なのにな。」
ウィン妹「いえ・・・。大切な貴方を死なせるぐらいなら、この命を投げ打ってでも遂行します。」
ウインド「・・・ごめんね。」
   ウインドは自分より幾分か大きなウィン妹の身体を抱き寄せる。抱き寄せるとその頭を優しく
   撫でてあげた。彼女も彼が行う行動に全てを任せた。
    鋼鉄の体躯では味わえなかった相手の鼓動や温もり。それが今はハッキリと感じ取る事が
   できる。そしてどれだけ心配しているかという事が完全に理解できたのである。
    今までは相手が自分に対して心配する面は伺えても、その本当の心が理解できずに過ごして
   いた。しかし今の彼女はそれが痛いほど理解できたのである。そしてこれこそが人間の持って
   生まれたものだと、ウィン妹はこの時初めて理解したのであった。

    ふと頬に涙が流れる、その行動に自分で驚くウィン妹。このような局面に達して、人間と
   しての喜怒哀楽を体感したのであった。
   慌ててその涙を拭おうと顔を上げるが、その先にはウインドの顔があった。お互いの目線が
   交わり、暫くそのまま見つめ合う。
    ウィン妹は無意識なはずなのに、自然と徐に顔を近づける。ウインドも今彼女が何を求めて
   いるのかを瞬時に理解し、同じく顔を近づけた。そしてお互いに軽く唇を重ねる。
   人間になる事で自分では封印していたと思っていた恋心が、自然と前面へと出たのである。

    どのぐらい口付けをしたのだろう。ウィン妹にとってそれは一瞬の出来事のようであり、
   はたまた長い間のようであった。
   お互い徐に唇を離す。そして自分が無意識に行った行動に、ウィン妹は小さく詫びた。
ウィン妹「・・・ごめんなさい。」
ウインド「別に謝る必要なんかないよ。お前の行った行動は人間として当たり前のもの。周りがどう
     見ようが、お前が行った行動に俺は賛同する。俺のもう1人の大切な人なんだから。」
ウィン妹「・・・ありがとう。」
   小さく笑うウィン妹。それにウインドも小さく笑い返す。人間としての行動を行えている彼女
   は、今までにない歓喜が沸いていたのであった。
    その後再び彼の胸に頭を寄せ抱擁を味わうウィン妹。ウインドもその頭を優しく撫で、彼女
   のしたいがままに身体を任せた。

    大型ガレージで椅子に座り、煙草を吸うリュウジ。今し方のウインドとの会話で、本来の
   人間としての言動が行えた事に歓喜していた。
    また人間としての行動が行えたレイシェムことウィン妹の姿を知り、心中誰よりも嬉しい
   気持ちになっていた。
マイア「お1人ですか?」
リュウジ「まあな。」
   メンテナンスを終えたマイアが彼の隣に座る。パイロットスーツに着替えている彼女と研究者
   風の服装のリュウジ。全く似合わない組み合わせである。
マイア「・・・おじいさん。」
リュウジ「どした?」
マイア「・・・明日死ぬ気なのでしょ・・・。」
リュウジ「・・・お前には嘘は付けないよな。」
   天井を見つめるリュウジとその言動から心中を理解するマイア。彼女自身彼が人間として転生
   した時から、その後どうするかという事を薄々感じてはいたようである。
マイア「・・・・・止めても・・・無駄ですよね・・・。」
リュウジ「・・・私がこうしている事自体ありえない話。ガレージの片隅で沈黙している筐体が、私
     の本来の姿。この決戦で元の筐体に戻るだけの事だ。別に悲しむ必要などない。」
マイア「・・・もう、何故そうやって回りくどい解釈するの・・・。・・・・・素直に無駄とか・・
    言えばいいじゃないっ!」
   泣きながらそう叫ぶマイア。短時間ではあるが本当の父親として接していた彼女にとって、
   彼の死は今まで以上の苦痛であった。
   リュウジは泣き続けるマイアをそっと抱き寄せ、その胸で泣かせてあげた。小さな頭を優しく
   撫で、徐に話しだす。
リュウジ「・・・不器用・・だからな。」
   今自分が言える最大限の慰めの言葉。彼はウインド以上に不器用な男であったのである。
   マイアもシェガーヴァ時から彼の不器用さは気付いていた。己の罪を決して許さず全てを抱え
   込み、苦悩していた面を見れば否が応でも伺えよう。
リュウジ「・・・私は親として失格だな。」
マイア「・・・十分すぎるほど・・。でも・・・そんなおじいさんが・・好きですよ・・・。」
リュウジ「・・・ありがとう。」
   リュウジは感謝した。人間として過ごせるこの瞬間を。そしてその機会を与えてくれたマイア
   にも。
    そして改めて決意する。この命を投げ打ってでも一同を守り通すのだと。そして再び鋼鉄の
   筐体に戻っても、今まで以上に一同を守り通すとも決意した。
    そんな寄り添い合い続ける2人を見つめ、一部始終を見ていた他の面々。祖父と孫、親と
   子供。その意が十分感じられると見るもの全てに理解させた。

ウィン姉「この子はこれが初めて?」
ライア「ですね。」
    ウィン姉とライアは大浴場にてレイアとリュムの身体を洗ってあげている。ユウとアイは
   同室内でレイス姉妹が、ターリュとミュックはデュウバ姉妹が身体を洗っていた。
ライア「初めての子は殆ど嫌がると聞いてますけど、そのような素振りは見せてませんし。」
ウィン姉「肝っ玉が据わってるからね、並大抵じゃ嫌がる事なんかしないと思うわよ。」
    室内を裸で駆け回るターリュとミュック。それを追いかけ捕まえようとするデュウバ姉妹。
   その姿を見たユウとアイも同じくはしゃぎ回り、レイス姉妹を困らせていた。当然その余波は
   レイアとリュムも刺激し、大人しかった2人が突然暴れだした。
ライア「こらぁ〜、お母さんに迷惑掛けるんじゃない〜っ。」
   怒鳴ろうがお構いなしにはしゃぐ6人。全くもって子供とは大変だなと、6人のやり手の女傑
   は心中で苦笑していた。

    何とか6人の入浴を済ませた一同。はしゃぎ疲れたのか着替えが終わった後に寝てしまう。
   着替えを持って来てくれたユウトに6人の部屋への移動を任せると、今度は女傑陣が入浴を
   した。先程の格闘とも言える6人の騒ぎで着ていた服が濡れてしまい、このままでは風邪を
   引いてしまうからだった。
    生まれたままの姿になった6人は、安堵の表情を浮かべ浴槽で身体を温めた。6人ともこう
   やって揃って入浴した事は今回が初めてであった。
デュウバ妹「何か・・・癒されるって感じがする。」
レイス妹「だねぇ・・・。」
ライア「あの子達はある意味、どの敵よりも手強いですから。」
   苦笑いをし、そう話すライア。それにうんうんと頷く一同。今まで戦ってきた相手よりも厄介
   であり、全く予測不可能な行動をする。
   これがレイヴンになった事を想像し、6人は自然と苦笑いを浮かべてしまう。だがそれもまた
   自分達に与えられた宿命なのかと、改めて彼らの存在が大切なものだと痛感した。

ウィン姉「レイス様、その身体中の傷は強化人間のものですか?」
    ウィン姉がレイス姉の身体中にある無数の傷を見てそう語る。その傷は目を覆いたくなる
   ようなものばかりであった。
    強化人間に改造された時に外傷がないのは、まず有り得ないと言っていいだろう。
   脳に埋め込む特殊レーダー、内蔵や神経などを人工物に置き換える。これらにはナノマシンの
   力を用いる場合が多いが、大多数は人間や機械によっての手術が挙げられる。
   耐え難い苦痛を乗り越えて、初めてイレギュラーとされる強化人間の力を手にするのである。
    しかしレイス姉の身体の傷は余りにも酷すぎた。全身至る所に切り傷や縫い傷、それも大小
   合わせて数え切れないほどのものである。
   女性の命ともいえる胸にも無数の傷がある。それは同性からして目を覆いたくなるものである
   と同時に、それらを行った者に対して怒りが湧き上がるのである。
レイス姉「そうですね。最初の改造時に受けたもの・2回目に受けたもの、そして破壊の魔女へと
     なった時に受けたもの。」
デュウバ姉「それって転生する時に消さないの?」
レイス姉「私が残してくれと願ったのです。まあ願うも何も破壊の魔女になってから死を迎えた後で
     願う事は不可能ですが。それでも最初の傷などは消そうと思えば消せましたが、これらは
     消して済むものではありませんし。」
    デュウバ姉妹やレイス妹が転生した際、過去の外傷は消している。遺伝子操作によりそれは
   可能である。
   しかしレイス姉はそれを拒み続けた。傷付けた身体の傷は己の過ち。それを消す事は過去を
   否定してしまうと彼女は思っていたのである。
ライア「まあレイス様がそう仰るのならそれでいいかと。貴女の決意は絶対に揺らぎませんし。」
レイス妹「姉さんの意固地な性格は相変わらずだしねぇ。ウィンさんの孫なのに全く似てないし。」
ウィン姉「確かに皆さんは私の孫に当たりますが、本当の孫ではありません。私の妹の孫であって、
     私からは甥っ子になりますね。」
ライア「ウィン様の妹様・・・ですか。」
   ライアの心中が手に取るように理解できるウィン姉。それは自分の本当の祖母の事を知りたい
   という一念である。それはレイス姉妹やデュウバ姉妹も同様であった。
    ウィン姉は徐に自分の妹に関しての事を話しだした。これは以前ウインドに話した時以来で
   ある。

ウィン姉「私のお母様は2人の子供をお産みになられました。1人は私で、もう1人はラフィナと
     いいます。生後病弱に近かった母は2人同時には育てられず、母の両親にラフィナを託し
     ました。その後私は16歳で死にましたが、彼女は私より健康で大破壊前までは過ごして
     いたそうです。その後お子さんを出産されたと聞きますが、詳細は父しか知りません。」
レイス姉「以前リュウジさんが自殺したと聞いた時、その追っ手が祖母に及ぶ事はなかったかと思い
     ましたが。そのお話を聞く所によると、全く問題はなさそうですね。」
    リュウジがその能力を使われるのを恐れ自殺した例を挙げ、祖母ラフィナにもその影響が
   及ばなかった事に孫のレイス姉は安心した。
   まあそれは過去の話であり、今こうして自分達が生きている自体が生き延びたという証でも
   あった。
ウィン姉「大破壊後、サイボーグとなられたお父様が妹の家族を捜し助けたそうです。その時は妹の
     娘さんが生存しており、二児の母親になっていたそうです。」
デュウバ妹「その二児が私達の母親なのですね。」
ウィン姉「そうです。あと皆さんのお母様がお生まれになられた数年後に、デェルダ様を助けたそう
     です。その時ラフィナの子孫の方は、デェルダ様を助けると同時に死亡したとも聞いて
     います。年齢は40歳前後、デェルダ様は10歳前後だったようです。」
    以前も思った事ではあるが、デェルダの自分達に対しての守る決意。それは彼女の子供達で
   あるミリナやミウリスよりも優先して助けていた。それは自分の命を犠牲にしてまで救って
   くれたラフィナの子孫への感謝の表れであったようである。
   ウィン姉からその事を知らされて、事の次第をハッキリと理解したのであった。
ウィン姉「何か情けなくもなります。私が早死にし、妹が苦労した事に。」
ライア「そうでもないのでは。ウィン様が早死にされた事により、ラフィナ様が貴女の分まで生きな
    ければと思った筈。それで大破壊を乗り越える子孫を、私達の祖母を生んで下されたのです
    から。」
デュウバ姉「ラフィナさんの子孫の方が命を捨ててまで救ってくれたデェルダさんがいたからこそ、
      今の私達がいる筈ですよ。母親としての生き様をラフィナさんからデェルダさんへと
      受け継ぎ、そして私達へと受け継がせてくれたのです。」
レイス姉「その切っ掛けを作って下されたのは紛れもないウィン様、貴女自身ですよ。」
ウィン姉「・・・そう言って下さると嬉しいです。」
   湯に浸かりながら小さく頷くウィン姉。自分の甥っ子達に彼女は深い感謝を抱いた。

ウィン姉「今でもレイス様を見ていると、ラフィナを思い出します。私より気が強く、曲がった事が
     大嫌いでした。長い間一緒には過ごしていませんが、時々会う度に強くなっていったのが
     よく分かりました。特に一番目立ったのは、馬鹿にする人や冗談を言う人を平気で殴り
     飛ばすのです。リュウジ様も冗談半分で彼女をからかった時、ぶん殴られた所を見た事が
     ありますよ。」
    恋人でも殴り飛ばす。過去にレイス姉やライアが行った事である。その起源がお淑やかな
   ウィンにあるのかと、行動を起こしていた2人は思っていた。
    だがその起源は本当の祖母であるラフィナにあったと分かった。その度合いが自分達よりも
   過激であり、何とリュウジすら殴っていた事に驚いている。
ライア「何か・・・本当に私達の祖母・ですね。」
レイス姉「本当にそう思います。」
ウィン姉「私がお淑やかとも言っていますが、実際にはそうではありませんよ。特にユキヤの前では
     結構怒鳴ったりしてますし。」
   以前ウインドに女性に対しての難癖を付けられた時、ウィンは軽く激怒した場面があった。
   それは彼女自身無意識で行っており、ただ単に恋仲ではないものだとも思っていた。
レイス妹「ウィンさんのお母さんはどうだったのですか?」
ウィン姉「お母様は・・・純粋すぎるほどお淑やかでしたね。お父様もペースを合わせるのが大変
     だった記憶があります。」
デュウバ妹「そうなると・・・起源はリュウジさん?」
   一同リュウジことシェガーヴァの言動を振り返る。だが滅多な事では激怒する事はなく、過去
   激怒したのはユウトがゴリアッグに殺されかけた時である。
   しかし祖母が物凄いお淑やかだと聞いたのだから、祖父辺りにその性格があってもおかしく
   なかった。
ウィン姉「あ・・・そうでもなかったような・・・。確か自分の身体が弱いという事を心配していた
     お父様が、それでは甘えかすからやめろと怒鳴っていたのを憶えています。それに妹を
     祖父母に預ける際、自分の身体の弱さを物凄い嘆きヒステリックになっていた時期もあり
     ましたよ。」
   起源は母親にあり、一同そう思わざろうえない。自分達の祖母である。その過激さは正に嵐の
   如くであっただろう。それに合わせていたリュウジに6人は敬意を表した。
ウィン姉「私達の性格などは個人のものがありますが、やはり両親や祖父母などが影響しますね。」
ライア「正にその通りですね。」
   シェガーヴァことリュウジありて自分達がいる。自分達を産む切っ掛けを作ってくれた父親。
   ウィン姉の過去話などを聞き、改めてリュウジに感謝の念を抱かずにはいられなかった。

    それぞれ入浴を済ませ、脱衣所で私服に着替える6人。その後大浴場から退室し、一服を
   しようと大食堂へと足を運んだ。
   その最中自分の唇を指で撫でながら歩くウィン妹の姿を目撃した。6人はどうしたのかと彼女
   に事の次第を問い質した。
ライア「レイシェム様、どうなされたのですか?」
ウィン妹「あ・・い・・、いや・・・罪悪感・・ですよね。」
   普段決して見せる事のない女の一面を顕わにしているウィン妹。立ち話も何だと、一同は彼女
   を連れて大食堂へと向かった。

デュウバ妹「ぷぅはぁ〜・・・入浴の後の一杯は最高だわぁ〜。」
    アイスコーヒーをオーダーし、それを一気に飲み干すデュウバ妹。まるで年輩のオッサン風
   な出で立ちである。まあこれが彼女の自然体でもある訳ではあるが。
レイス姉「それで、罪悪感とは?」
   熱いコーヒーをオーダーし、冷ましながら飲むレイス姉。その間にウィン妹に先程話していた
   事に関して詳しく聞きだす。
ウィン妹「・・・その・・・、恋愛とかタブーといっていたのですが・・・。ウインド様と・・・
     その・・・く・・口付けを・・・。」
   その言葉を聞いた6人は逆に声を立てて嬉しがった。その真意にウィン妹は全く理解できずに
   いる。
レイス妹「やったじゃん、女らしい一面を出したようで。」
レイス姉「それは罪悪感とは違いますよ。それこそ恋心というものです。」
ウィン妹「そ・・そうなのですか・・・。」
   普段何があろうとも気丈な態度を貫き通しているウィン妹ことレイシェム。その彼女が自分達
   と同じようにあたふたしている。
    人間で過ごす事により、体感できなかった女性としての一面を経験したのである。それに
   6人は本来ならヤキモチを焼くのであろうが、諸手を挙げて喜び合った。これは同性だから
   できる事なのであろう。
ライア「今のうちですよ、人らしく過ごせるのは。思い切って一夜を過ごしてみてはどうですか?」
ウィン妹「わ・・わ・わたしが・・・ユキヤ様と・・・、そ・・そ・そんな・・お・・恐れ多い事
     など・・・出来る筈がありませんっ!」
   自分達が赤面して言い返すよりも激しい言動で言い返すウィン妹。その初めて見る一面に一同
   呆気に取られる。
   この時ウィン妹ことレイシェムは完全に一生命体として生きているのだと痛感した。
    レイシェムは生前のウィン姉と全盛期のレイス姉の人格を継承して誕生したサイボーグ体。
   それ故にどこかオリジナルの本人の言動が見え隠れしているように思えていた。
    だがこの言動を聞いた6人は全く異なると理解できた。彼女はオリジナルの人格を継承して
   はいるものの、サイボーグとして過ごす事により全く新しい人格が芽ばえたのである。
    それが完全に開花したのが人間への転生。己はオリジナルのコピーだからという概念を捨て
   一生命体として生まれたに等しい。
   故に彼女は人工知能という概念ではなく、完全に人間生命体として生まれ変わったのである。
    そして自分達以上に一途で純粋。本当に好きな者の為なら己を投げ打ってでも助けるという
   一念が沸くのも頷けた。それは正しく愛する者の為であろう。
ウィン姉「そうですね。一度しかない人間筐体での生活、それも必要だと思う。私が許します。今夜
     ユキヤと一晩過ごしなさい。これはオリジナルの命令よ。」
レイス姉「そこまで女として目覚めかかっているのです。この際本当に目覚めて覚醒しましょう。
     私が貴女と同じ立場なら、悩みつつも動きますよ。それこそ結果に繋がりますし。」
    タブーであるクローン体での他者との関わり合い。その蟠りを捨て去り関わった5人。それ
   故に目覚めかけているレイシェムには経験して欲しいと、一同は彼女に一歩前に出る勇気を
   与え続けた。
    タブーではなく関わり合いを経験したライアもそれに賛同し、5人同様レイシェムに一歩前
   に出る行動を勧めた。
ウィン妹「・・・・・この重苦しさ、・・・これは後々響く事になりますよね・・・。」
デュウバ妹「気にしないきにしない。好きだから行うだけであって、別に罪悪感なんか微塵も持つ事
      なんかないわ。」
ライア「そうですよ。実際に好きになったら周りがどうこうではなく、自分がしたいがままに動く。
    それこそ人間であり、恋多き乙女たる女の特権ですよ。」
デュウバ姉「彼も渋ると思うけど、貴女が強く願うのなら応じてくれる。最後は貴女次第よ。」
ウィン妹「・・・・・分かりました。」
    徐に立ち上がり、足どり重く大食堂を後にしようとする。それに見かねたウィン姉が彼女の
   背中を平手打ちする。ビックリするウィン妹だが続いてざまに両肩を軽く叩くウィン姉。
   それに小さく頷くと。普通の足どりでその場から去って行った。

ウィン姉「ふうっ・・・、世話の掛かる妹だ事・・・。」
レイス姉「そんな彼女が好き、ですよね。」
ウィン姉「ですね。」
    心配そうにするウィン姉を諭すレイス姉。自分達が通ってきた道を、今レイシェムが歩み
   だしている。自分達も一度は思った罪悪感も、時が経てば自然と薄らぐもの。今の自分達が
   そうであるように。
デュウバ妹「何かレイシェムさん、ラフィナさんに似てるかも。」
ウィン姉「負けず嫌いな性格が生真面目すぎる純粋なお淑やかになったと言っていいですね。本当に
     生前の別の生き様の妹を見ているようです。」
デュウバ姉「問題はないでしょう。今以上にしっかりと見定める性格になると思いますよ。」
   デュウバ姉の発言に一同頷く。これは体験したものしか理解できない頷きであった。
    その後6人はレイシェムの人間としての覚醒を祝い、何と酒を飲みだした。それだけ6人に
   とって彼女の成長は嬉しく思えていた。
    普段どこか一歩距離を置いて接している感じが窺えたレイシェム。そんな彼女を心配して
   陰から見守っていた5人。またライアも女性としてでは年輩のレイシェムより経験は上だ。
   それ故に6人からしてレイシェムは本当の妹のように思えていた。
   そんな彼女が成長しているのだ、これほど嬉しい事は他にないであろう。
    感極まって大量に飲み続ける6人。レイシェムの新たな門出を祝して、飲み明かそうと決意
   していた。当然それは明日の決戦に支障がない程度ではあるが。
                               第6話 3へ続く

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