〜第1部 18人の決断〜
   〜第6話 守護神1〜
    デア達との対決から早1週間が過ぎ、ユウト達は毎日のように修行を繰り返していた。
   それはあれだけの罵声を浴びせられれば、誰だって悔しい思いをするのは当たり前である。
    今の世界、強さだけが唯一の真実でもある。強い者が全てを制す、これは今の世界の当たり
   前であった。そして大きな力を持った者は、確実に悪になると言ってもよい。
    特に突然巨大な力が手に入った瞬間、人間は裏を返したように愚者になる可能性が高い。
   全てがこうではないにしろ、人間という種族はこの愚者の道を歩む業を持ってるのである。

    ユウト達が活躍し続けられるのは、その強さに他者を敬う日々の心構えがあるからである。
   これが失われた時、ユウト達でさえ悪になるのは目に見えている。
   しかしそれを正す人物がいるのは心強く、そして恵まれていると言えよう。
    本来イレギュラーであるウインドが彼らに味方している事は、皆を精神的に支えていると
   同じであった。
ライア「これで戦力は確実にアップしましたね。」
ユウト「ライディルさんを含めると18人ですよ。祖父の時代も18人が終結したと聞きますが、
    それと同じ人数が集うのは・・・運命としか言いようがありません。」
    社長室で全レイヴンの戦力データを分析中のライア。特に全員が臨時専属レイヴンになって
   くれただけに、それなりの報酬もしっかりと考えなければならなかった。
   向かえ側の机ではユウトがトーマスとメルアの娘達の面倒を見ている。それを見たライアは、
   微笑ましい視線で彼らを見つめた。
ライア「フフッ、お似合ですよユウトさん。」
ユウト「ありがとう。」
   ここ一週間でライアは確実に強くなった。レイヴンとしての腕前、社長としての心構えが。
   そしてユウトに対する思いもまた強くなったのである。

ライア「・・・ユウトさんは父親になろうとは思いませんか?」
    彼女のいきなりの発言にどう答えたらいいか迷うユウト。まあこれは当然であろう。
ユウト「う・う〜ん・・・まだ若いですからね。姉さんぐらいの年齢になったら分かりませんが。」
ライア「あと5年後か・・・。そうなると・・・私は21歳ですね・・・。」
   一人で何やら模索するライア。それを聞いたユウトは呆れつつも心中で驚く。彼女の模索は
   当然自分を当てはめた事であるからだ。
ユウト「あの〜・・・事務の方は・・・。」
ライア「あ・・ごめんなさい、変な考えをしてしまって・・・。」
   赤面しながらそう答えるライア。ユウトの思考が見事当たった。
   だが初めて会った時の彼女と今の彼女とは、別人のように美しい。その赤く染まった頬が彼女
   を大人の女性に変身させる。
   今度はユウトが赤面し、顔を背けた。男なら当然の行動であろう。
ユウト「ガレージに行ってきます。」
ライア「気を付けてね。」
   ユウトは2人を抱きかかえると、そのまま社長室を後にした。

キュービヌ「今のヘッドパーツは外して、同じパーツと交換して。」
メカニック「了解。」
    キュービヌ指揮の下、メカニック5人がエアーファントムをメンテナンスしていた。今回の
   メンテナンスは完全な機体分解、そして細部に渡るまでの清掃である。
   そこにユウトと2人の子供が現れる。そう、ユウトが修行できない理由はこれにあった。
ユウト「姉さん、メンテは終わりましたか?」
キュービヌ「見ての通りよ、まだまだ時間がかかるわ。それにパーツ全体がかなり損傷している部分
      が多くてね、他のパーツと交換しながら修理しているわ。」
ユウト「火星から帰ってきてから、メンテを一度もしませんでしたからね。」
   指導しながら、2人の子供の頬を撫でるキュービヌ。
    彼女も子供好きな方である。だが仕事柄その手で抱きしめる時間がない。そろそろいい年で
   ある彼女だが、メカニック長としての役職がそれを束縛していた。
   しかしこれだけが理由ではなさそうだと、ユウトは薄々感じ取っていた。
キュービヌ「そういえば・・・この子達の名前って何だっけ?」
ユウト「こちらの頬が赤い子がターリュさん、こちらの髪の毛が短めの子がミュックさんです。」
キュービヌ「双子だからどっちがどっちだか分からなくなるわ。」
   苦笑いを浮かべるキュービヌ。それを見たユウトも同じく苦笑いを浮かべていた。

    修行ができないユウトは2人を抱きかかえ、ガレージの外へと出ていく。
   その最中ユウトの頬や髪の毛を引っ張るターリュとミュック。父親がどれほど大変な事なのか
   を身をもって知るのであった。
ユウト「この子達が安心して住める世界を作らないと・・・、それが僕の使命・・・。」
   大型ハッチ付近に腰を下ろし、2人をあやしだすユウト。
   どちらも両親譲りのキリッとした目元が印象強い。そして天使のような可愛さも特徴である。
   彼女達を見つめこの子供が住みやすい世界にするのだと、ユウトは改めて心中で固く決意する
   のであった。

ライア「ここにいらっしゃったのですか。」
    社長室で事務作業をしていたライアが、ユウトの元へと駆けつけてきた。当然彼は大丈夫
   なのかと問い質す。
ユウト「事務の方は大丈夫なのですか?」
ライア「メルアさんが代わってくれました。ユウトさんと一緒に子供達の世話をするようにと。」
   彼女らしいとユウトはそう思った。それに母親であるメルア自身が子供達を自分に任せている
   のである。ここが彼女のユウトに対する信頼の厚さなのであろう。
   ユウトの隣に座り、双子の一人であるミュックをその胸に抱くライア。その姿は若くとも母親
   に見える。
ライア「子供はいいですよね。何も考えず生きているのですから。」
ユウト「生まれた後だけですね。その後は遊びたい年頃になりますし。」
ライア「私は両親が亡くなるまでは、普通に過ごしていましたね。両親の死後、私はガードックさん
    と一緒に財閥の経営の方へ回りました。」
ユウト「自分は物心付いた時はレイヴンでしたね。両親の指導の下、幼い頃から特訓の毎日。ですが
    僕は後悔はしていません。今の自分があるのは、両親の厳しい特訓のおかげですから。」
   ライアは思った。ユウトは幼少時代を遊んで過ごした事がない事を。
    自分は短い間だけでも遊んだ記憶が残っている。だが彼はそれがない。いずれ来る世界を
   救うという大きな使命を生まれた時から持ち、その為に生きてきたのだと思うのであった。
   そして自分の幼少時代に遊びの少なさ、これに苛立ちを感じた時を振り返る。そして情けなく
   なるのであった。
ライア「ユウトさんは素晴らしいです。その一生を世界の人々の為に捧げるのは・・・。」
ユウト「それが使命ですから。当然投げ出したりはしませんよ。」
   笑顔でそう話すユウト。それを見たライアは胸の高鳴りを感じた。やはり自分はこの男性を
   心から愛している、そう思わざろうえなかった。
ライア「・・・ユウトさんのお手伝いをしたい。一生涯貴方を陰ながら支えたいです。」
ユウト「・・・ありがとうライア。」
   今2人は青春真っ直中である。それは彼等の言動を見れば一目瞭然であろう。

    いいムードになった矢先、ライアの妹のマイアが登場。2人は当然ながら慌てふためく。
マイア「あれ・・・こんな所で何をしているんですか?」
ライア「あ・・マイア、な・・なんでもないのよ・・・。」
ユウト「そ・そうですよ・・。」
   満更でもないと、マイアは苦笑いを浮かべる。しかし心中では彼に対する思いがあり、複雑な
   心境であった。
   徐にその場に座り、2人を見つめるマイア。
マイア「・・・いいですよねお2人さんは。本当に心から愛し合っている。私はそういった恋心が
    よく分からない・・・。」
   溜め息混じりのマイアの発言、これを聞いたユウトは直感した。
   彼女が今まで独りで生きてきた事が、そういった感情を体内に封じ込めているのだと。また
   心の底から相手を信頼できていない事も気付いた。
ライア「そうだったんだ・・・。」
ユウト「でもマイアさんはライアさんと同じに可愛いですから、絶対もてますよ。」
マイア「・・・ありがとうユウトさん。」
   素振りから何からライアと同じ行動をするマイア。
    ライアとの年の差は2歳しか離れていない。だが独りで生きてきたためか、マイアの方が
   彼女より大人っぽく見える。厳しい現実に触れた時間長かった事が物語っているだろう。
   それにマイアはユウトと出会うその日まで、自分は天涯孤独だと思って生き続けてきたのだ。
   血を分けた姉妹が、育った環境でここまで変わる。
   ユウトはこの環境で人格が変わるという事実を痛いほど知ったのである。

    そんな彼女の寂しさを察知してかユウトに抱かれていたターリュがマイアに近付きたがる。
   マイアは彼女を受け取るとその胸に抱いた。ターリュは小さな両手で彼女の頬を触る。
マイア「フフッ、可愛いねターリュちゃんは。もちろんミュックちゃんも。」
   今までに見せた事のない笑顔でターリュをあやすマイア。それを見たユウトとライアは心が
   暖かくなるのを感じた。
ユウト「マイアさんも立派なお母さんになりますよ。その笑顔を忘れないで下さいね。」
   初めて自分を褒められ、マイアは頬を赤く染めて俯く。まあ褒めてくれたのは異性のユウトで
   あり、少なからず好意を抱いている相手である。当然の反応であろう。
ユウト「さて、そろそろ戻りましょう。」
   3人は徐に立ち上がり、ガレージ内へと戻っていった。
   子供がいるだけでこれほど明るくなる財閥内。これには一同が一番驚いている。そしてユウト
   同様、子供たちが安心して住める世界を作るべく戦う事を改めて固く決意するのであった。

    今だメンテナンスが終わらないユウトは、ライア・マイアと共にオペレーティングルームへ
   向かう。
   端から見れば夫婦と妹、そして双子の娘の5人である。初対面の人間が見れば誰もがそう思う
   だろう。
    5人がオペレーティングルームへ入室した時、まるで待っていたかのようにメールが届く。
シスオペ「ライア様、変なメールが届きました。」
ライア「変・・・、どういう事ですか?」
シスオペ「それが依頼メールのようですが、何も書かれていないのです。唯一書かれている文は、
     「オルコット海の西に位置する廃棄施設まで来い」との事。」
   3人は罠だと直感した。しかしこれには何らかの別の意味が含まれている事に気付いた。
   ライアはユウト了承の下、依頼承諾のメールを送り返し相手の行動を待った。

シスオペ「返ってきました。待っているだそうです。」
ユウト「行きましょうか、廃棄施設に。」
    ユウトの掛け声にライアとマイアは頷く。
   3人はオペレーティングルームを後にし、ガレージへと向かった。
   だがユウトのACはメンテナンス中。同じくライアとマイアのACも細かく分解され、出撃は
   できなかった。それ故に雑務や育児などを行っていたのである。
マイア「どうしましょうか・・・。」
ユウト「余っているパーツでACを組み、それで出撃しましょう。」
   3人はキュービヌに依頼の事を詳しく話し、余っているパーツでACを組み上げようとした。
   だがパーツは3体のAC分はなく、1体分しか組み上げられなかった。
キュービヌ「う〜ん・・・。そうだ、3人で1体のACに乗ってみる?」
ユウト「可能なのですか?」
キュービヌ「オーバードブースト装置を外せば、最大で5人ぐらいは乗れるわよ。ただし機動力は
      落ちるけどね。」
ユウト「ではそれでお願いします。それと脚部はフロートタイプで。」
   ユウトオーダーの下、キュービヌは凄い速さでコンピューターを操作。あっという間に予備の
   パーツでACを組み上げてしまった。
    レッグはスカート型のフロートパーツ・コアは曲線型の重装甲パーツ・アームは標準重装甲
   パーツ・ヘッドはユウトのACに使用されているパーツと同型。
   武装はレーザーブレード・ショットガン・2連装ミサイルポッド・中範囲レーダー・デコイ・
   ミサイル迎撃装置である。

キュービヌ「こんなものでいいかな?」
ユウト「充分ですよ。」
キュービヌ「じゃあ後はオーバードブースト装置を外すわね。」
    本来オーバードブースト装置はコアユニットからは取り外せない仕様になっている。だが
   キュービヌは以前この装置を外した事があり、しかも元通りに戻す事もできるのだ。
   ACが組み上がったのより早い時間で換装が完了した。

キュービヌ「今の世界で活躍するAC。オーバードブーストがない機体は在り得ないよね。何だか
      心配になってきたわよ。」
ユウト「大丈夫ですよ姉さん。自分はともかく、紅の魔女と漆黒の女傑がいるんだから。」
    ライアのこの所の活躍を見続け、ユウトは彼女の肩書きを考えていた。
   妹マイアは紅の魔女、それよりは弱いが見所がある姉ライア。彼は彼女の異名を漆黒の女傑と
   定めるのである。
ライア「漆黒の女傑・・ですか。」
マイア「似合っていますよ。この所の姉さんの活躍、それに当てはまっています。」
   満更でもないと、マイアはその肩書きに賛同した。火星第2位の実力者が言ったのだから、
   ライアは納得するのであった。
ライア「ありがとうユウトさん。」
ユウト「いえいえ。」
   その後組み上がった簡易AC、3人は名前をブルーラインと名付けた。
   機体色が全て青色系、それ故のストレートなネーミングである。全くもってガレージで余って
   いるパーツで組み上げたとは思えない。

    3人はブルーラインに乗り込み、それぞれの役割を決める。
   操縦者はユウトが行う。レーダー及び火器管制にはマイア。そして通信役はライアに決まる。
   操縦者ユウトは分かるが、マイアが火器管制に回ったのはその直感である。
   彼女の臨機応変な行動はかなり凄いらしいと、姉のライアが言うのだ。これには黙認せざろう
   えない。
    ブルーラインはガレージの外へ出撃し、表にて軽く操作を繰り返す。
   オーバードブースト装置が搭載されていない分、弱体化した瞬発力と機動力は己の技量で補う
   しかない。
    一通り動作に慣れた3人は、一路オルコット海の西にあるという廃棄施設に向かった。
   その間のターリュとミュックの世話は、キュービヌが名乗りを挙げた。2人は嫌がる素振りは
   せず、自然に彼女に懐くのである。

    大破壊後の地上世界は人類が住める環境ではなかった。
   荒廃した大地・放射能で汚染される地域・酸性雨が止まずに降り続ける場所。
   また大地が汚染されれば、その影響は地下へと侵食する。これは当たり前の事であった。
    それでもそれらはまだ被害は少ない方である。
   一番被害が大きかったのは、地球の大半を占めている生物の母なる源である海だった。
   放射能等が大海の殆どを汚染し、魚介類やプランクトンなどが大量に死滅した。

    だがあれから228年、海は元の穏やかな姿に戻りつつある。
   汚染地域は大分減り、魚介類等が生息しだしたのである。水の色も灰色から徐々にではあるが
   青色を取り戻しつつある。
    これはアマギ達の活躍が大きかった。
   彼らは多大な金額を使用し、水浄化装置を世界の至る所に建造した。そして汚染された大海を
   浄化しだしたのだ。
   これは地上を復興する事よりも大変な時間が必要であり、今も海の浄化作業は続いている。
   この経営はナイラを中心に平西財閥が率先して行っている。それはユキナの第1の願いでも
   あったからだ。

    海上を進むブルーライン。コクピットハッチを開き、その上にライアとマイアが海を眺めて
   いる。
   ユウトは相手に指定された廃棄施設までをコンピューターに入力し、ACを目的地まで自動
   操縦で進ませた。
マイア「綺麗ね・・・。」
ライア「そうですね。」
    蒼に染まった海を見つめ、2人の姉妹が見惚れている。その言葉に気付いたユウトは、徐に
   過去を振り返りだした。
ユウト「・・・祖父が言っていました。かつての海はこれほど綺麗ではなかったと。大破壊が影響し
    生物も住めなくなった、地球で一番被害が多い場所と。祖父はユキナさんと一緒に地球規模
    の大浄化を開始し、長年海を元の綺麗な姿に戻していたそうです。その作業はナイラさんに
    受け継がれ、今も続いています。」
マイア「・・・人間って身勝手よね。その邪なエゴがこんな事をするんだから。一番汚いのはそう
    いったものを持つ人間自身よ。そして浄化すべきは人間の心・・・。」
   髪を風になびかせながら、マイアは熱弁する。彼女の言っている事は実に正しいと、ユウトと
   ライアは思った。
   だが自分達も同じ人間なのだと、深く思うのである。そして正しい道へ進む事が何よりも大事
   だと、心に深く刻み込んだ。

ライア「私達のしている事は・・・正しい事なのでしょうか・・・。」
    ふとライアがぼやいた。この発言に間隔空けずにユウトとマイアが答え返す。
マイア「今更何言っているの姉さん。デア達を見てよ、あいつ等は正しい事をしていると思うの?」
ユウト「あいつらは人の命を平気で奪う破壊神そのものです。ウインドさんが仰っていた、絶対悪
    とはこの事ですよ。」
   無論正論だとライアは頷く。しかしライアが話した真の意味は、これではなかった。
ライア「そうではないのです。私達が行動している事や、また運営する企業など。これらは本当に
    困っている人々を助けているのでしょうか。自分達の事だけしか考えていないような気が
    します。もっと困っている人々は沢山います。その人達を助けてこそ、真の正義ではないの
    でしょうか。」
   ライアの発言には一理あると2人は思った。
    企業の力を使用しての正しい事は、逆手に取ると困る人々もいるのは確かだ。
   企業の力とて絶対ではない。地球や火星に住む全ての人々まで手に負えないのが実情である。
   これは悲しい現実でもあった。
マイア「でも・・・ここまで元に戻りつつある世界を、再び壊してはいけない。その行動をあいつ等
    は平気でやろうとしている。全てはあいつ等を消してこそ始まるんじゃないかな。」
ユウト「そうですね。」
ライア「・・・今はデア達を倒す事だけを考えるしかありませんね。」
   改めて自分達が今何をすべきなのかを振り返り、心に固く決意する3人であった。

音声「来たか。」
    その後ACが海上を進む中、突如内部通信から聞き覚えのない声が流れてきた。
   そして不思議に思う。この声は普段人の音声を聞いている限り、人間が発した発言ではない
   ものだと。
   しかし相手が分からない以上、3人は敵ではと神経を尖らせる。
マイア「誰だ貴様は!」
   同じく内部通信を使い、マイアが叫び返す。ユウトはいつでも戦闘ができるように、ACを
   臨戦状態にする。
音声「威勢がいいな。少なくとも、お前達の敵ではない。それに、私はお前達を待っていた。」
   意味不明な発言を繰り返す相手側。しかしどこか暖かみが帯びている発言に3人は気付いた。
   ユウトはその直感と洞察力を最大限に働かせ、相手が誰なのかが見えてきたのだった。
ユウト「・・・もしかして、守護神・・・ですか?」
   ユウトは以前、ウインドからある情報を聞いていた。
   もし待っていると告げる者がいれば、その者に対して守護神と話してみろと。それが合って
   いれば、相手はウインドと親しい間柄の人物であると彼は話している。
音声「・・・なるほど。お前が吉倉天城の後継者、小松崎優斗か。」
   この言葉を聞いて、ユウトは相手が誰だかを知った。
   ウインドと同じく世界を正しき道へと導き守護するために、今の世界に生き続ける守護神。
ユウト「・・・シェガーヴァ・・さんですか?」
シェガーヴァ「その通りだ。詳しい話は着いてからにしよう。」
   発言の内容に3人は驚く。
    ウインドの時と同じく相手は伝説のレイヴンの1人、シェガーヴァ=レイヴァイトネールで
   あるからだ。
   そしてかつて実在したレイヴン統括組織、レイヴンズ・ネストのマスターシステムを作り出し
   た人物。
   そうMTやACを根底から創り上げた人物であった。

    彼の声が止むと、目の前には廃棄施設らしき建物が見えてくる。
   ここは船舶やフロートACでなければ来る事ができない程の距離に位置している。正に無人島
   に近い。
   これではどんなレイヴンや企業の人物であろうが、彼の場所を伺い知る事はできないだろう。

    近くの海岸にACを止めると、シェガーヴァの待つ廃棄施設に侵入した。
   かつては実験場として使われていたのであろうか、所々に潮風で錆び付いた重機が放置して
   ある。殆どが完全に朽ちており、緑の草木が所狭しと茂っていた。
   3人は慎重に内部を進む。だが不思議と心が安らぐ気持ちであった。

    3人は最下層のコンピュータールームに到着。そして恐る恐る内部へと入る。
   そこには漆黒に塗られた2足ACが彼らを出迎え、その足元には人らしい姿が見えた。
シェガーヴァ「初めまして、小さき勇者達よ。私はシェガーヴァ。」
   ウインド同様、一見優男に見えるその人物がシェガーヴァその人であった。
   そしてその顔を見て驚きの表情を浮かべる3人。彼の顔には皮膚はなく、鉄の塊であった。
   つまりはサイボーグである。
ユウト「あ・・貴男がシェガーヴァさん?」
シェガーヴァ「そうだ。ウインドが動きだしたので、私も動き始めた。」
   顔もそうだが、声にも驚きの表情を浮かべる3人。
   先ほどの通信でも気づいてはいたが、その発せられる声は合成音。サイボーグ特有のもので
   ある。だがその口調は人間のと同じであった。
マイア「あ・・あの・・・先程の暴言、申し訳ありませんでした・・・。」
シェガーヴァ「気にするな。いきなり話し掛ければ、誰だって警戒はする。お前のその行動は実に
       正しい。」
   シェガーヴァは近くのテーブルに3人を招き、それぞれを座らせる。ウインド程ではないが、
   彼の威圧感は強かった。

ライア「シェガーヴァさん、私達をここに招いたのは一体?」
シェガーヴァ「うむ。ウインドが述べていた通り、私もお前達の力になる時が来た。本来は今の世に
       存在しない私だ。だが過去に犯した罪は多大なるもの。困る人々を助けるのが唯一の
       罪滅ぼしでもある。」
    彼は本物のシェガーヴァだと3人は心の底から思った。生き様は全く異なるが、その行動
   理念はウインドと同じもの。
ユウト「了解しました。是非ともお力をお貸し願います。ですが・・・。」
シェガーヴァ「表立って行動はしないように・・・だろ。」
   ユウトの発言内容を察知し、先に話すシェガーヴァ。それを聞いた3人は驚きつつも小さく
   笑うのであった。
ライア「フフッ、シェガーヴァさんって面白い方ですね。」
マイア「こう言ってはウインドさんには失礼ですが、ユーモラスがあります。」
シェガーヴァ「アマギ達が口々に言っていたよ、笑顔を忘れずにとな。聞いた当時は全く共感できな
       かったが、今は彼等の私に対する思いやりがよく理解できる。今度は私からお前達に
       教える番だな。」
ユウト「言えていますよ。今の財閥内は笑顔がありませんでした。ですがトーマスさんの娘さん方が
    いらっしゃってから、明るくなりました。」
   ターリュとミュックの存在。今はもうなくてはならない存在になってる。ユウトの発言を伺え
   ば一目瞭然であろう。
シェガーヴァ「子供は実にいい。子供は未来の大切な人材だ。彼らが住みやすい世界を作るのが、
       我々の最優先事項。それを教えたかった。」
   シェガーヴァの言葉に3人は強く頷く。ここに来るまで悩み考えていた事であったからだ。
   そして未来に視点を見定めるその決意。これはウインドと全く変わらない。
   ユウト達は別の形にて伝説のレイヴン・シェガーヴァに今後の導きを諭して貰った。

シェガーヴァ「さて、決戦まであと僅か。デア達がトーベナス社に攻めてくるのは近い。私も共に
       戦うとしよう。ウインドも再び社の方に来ている頃だ。別の2人も同伴にな。」
ユウト「2人とは?」
シェガーヴァ「実際にあってみるといい。」
    シェガーヴァは徐に立ち上がり、近くの端末へ向かう。そこへ何かしらの作業をすると、
   突如薄暗かった部屋の天井が開きだす。
   その後部屋の複数からアームが伸びだし、彼のACを掴み外へと出していく。
シェガーヴァ「施設外にAC運搬用のヘリがある。それでトーベナス社へ向かおう。お前達が使って
       いるACも一緒にな。」
   遠隔操作をリモートモードにすると、シェガーヴァは3人と一緒に外へと出る。

    先程屋内に待機していたシェガーヴァのACが、ブルーラインの隣に待機している。その
   すぐ脇には長距離輸送用のヘリコプターがあった。
マイア「シェガーヴァさん。貴方のACは何て言うのですか?」
シェガーヴァ「以前はヘル・キャットと呼んでいた。だが今は違う、ゴースト・キャットだな。」
   ヘル・キャット、地獄の猫。その名前を聞いた時、3人は改めて彼が敵であったのだと思う。
   だが今の名はゴースト・キャット、幽霊の猫。彼の心変わりがよく分かる。
   しかし幽霊の猫、そのネーミングセンスはいかがなものかと、3人は心中でぼやいた。
シェガーヴァ「好きで名前を付けたのだから、要らぬ思考は無用だ。」
   案の定彼に心中を見透かされ、3人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
シェガーヴァ「ウインドは一生涯ウインドブレイドで通すつもりらしい。実に彼らしいな。」
ライア「ご本人からお聞きになさったのですか?」
シェガーヴァ「ああ。今世に転生した時にそう聞いたよ。私の罪も深いが、彼は私も擁護した形で
       全ての罪を背負っている。並大抵の人間であったら、その重圧に押し潰される。」
ユウト「・・・ウインドさんの偉大さがよく分かります。そしてシェガーヴァさん、陰ながらあの人
    を支えている貴方もですよ。」
シェガーヴァ「ありがとう。」
   ACを輸送ヘリに搭載しながら、シェガーヴァは彼らに礼を述べる。
   シェガーヴァは思った。自分より今の彼らの方が立派だと。

    ACの搭載が完了した輸送ヘリに、4人は乗り込んだ。
   当然シェガーヴァがいた廃棄施設はその全システムを停止させ、完全な廃棄施設へとした。
   ユウト操縦の下、輸送ヘリは一路トーベナス社へと戻っていった。
                               第6話・2へ続く

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