〜第1部 18人の決断〜 〜第6話 守護神2〜 ユウト達がシェガーヴァと共に廃棄施設から飛び立った頃、トーベナス社に再びウインドが 訪れた。今度は彼の愛機ウインドブレイドと一緒にである。 彼の伝説の機体とも言うべきACを見て、キュービヌが歓喜の表情を顕にしていた。 ウインド「ユウト達はまだ来ていないのか。」 愛機を降りながら、ウインドが呟く。彼に気付いたナイラが愛機のメンテナンスを止め、 彼の元へと駆け付ける。 ナイラ「ウインドさん。」 ウインド「元気そうだな。」 ナイラもウインドを見る目が変わりつつある。レイヴンとしての格の差もあるが、なによりは 相手が自分好みの美形だからであろう。そこに恐る恐るキュービヌが歩み寄ってきた。 キュービヌ「あ・・・あの〜・・・。」 ウインド「ナイラ、こちらの方は?」 ナイラ「ユウトさんの義姉、キュービヌ=レイヴュさんです。」 ウインド「あんたがキュービヌか、噂は聞いている。ライディルの弟子の一人で、メンテナンスに かけては彼も一目を置いている。やり手の女傑といった事か。」 キュービヌ「あ・・ありがとうございます・・・。」 キュービヌは頬を赤く染めその場に俯く。そんな彼女の意外な一面をナイラは初めて見た。 まあ相手が伝説のレイヴンともなれば、尚更そういった行動をするだろう。 ウインド「そうそう、表に連れが2人いるんだが。ここに招いてもいいか?」 キュービヌ「ど・どうぞ、お好きなように・・・。お前達、いまやっている作業は後回しだっ!」 張り切るキュービヌ。それを見たウインドとナイラは小さく微笑んだ。 その後キュービヌ直々の操作で、ガレージの大型ハッチが開きだす。そこへ黒色のACが 徐に入ってきた。その側には一人の女性が歩いている。 指定の位置へ黒色のACが待機すると、内部からウインドと同世代の若い青年が現れる。 ウインド「俺達の方が早かったようだ。」 男性「そうみたいですね。」 女性「あとはシェガーヴァさんを待つだけですね。」 ウインドの側に男性と女性が合流する。 ナイラは男性と女性の素顔を見ると、驚きの表情を浮かべる。祖母がよく見せてくれた写真に 載っていた、ある人物と同じであったからだ。 ナイラ「・・・も・・・もしかして・・・、アマギ・・・さん・・・?」 ナイラの発言に、男性は彼女を見つめる。つまりは彼がアマギだという事であった。 男性「何でしょうか、平西奈衣羅さん。」 女性「この方がナイラさん?」 ウインド「紹介するが、あまり驚くなよ。男性の方は吉倉天城の第2クローン、アマギ=シャドウ。 女性の方は南村レイスのクローン、レイス=ビィルナだ。」 アマギ「初めましてナイラさんキュービヌさん、アマギ=シャドウです。」 レイス「レイス=ビィルナです。よろしくお願い致します。」 ウインドの発言に、案の定ナイラとキュービヌは驚きの表情を浮かべる。 それもそうだろう、彼らはイレギュラー的存在なのだから。それに伝説のレイヴンでもある。 ナイラ「え・・・レ・・レイスさん・・・?」 キュービヌ「・・・アマギ様に瓜二つ・・・。」 ウインド「俺の娘のレイスとは違うが、彼女もしっかりとした人物だ。また彼もオリジナルアマギと まではいかないが、その優しさは彼以上のものを持ち合わせている。相反する性格とでも 言った方がいいかな。」 声が出ないナイラとキュービヌ。ただただ2人の伝説のレイヴンに唖然としている。 ウインドでさえ伝説のレイヴンの1人、彼がいる自体が憧れに近い。そこに伝説のレイヴンの 2人が現れたのだ、レイヴンにとっては感極まりない現実であろう。 ウインド「・・・あまり驚き続けていても困るのだが・・・。」 呆然と驚き続けるナイラとキュービヌにウインドが徐に語る。その言葉に我に返る2人。 ナイラ「す・・すみませんでした・・・。」 キュービヌ「で・・でもさ・・・これって一生体験できない事じゃん!」 ナイラ「そうですね〜。」 彼らを尻目にナイラとキュービヌは会話をしだした。それは若い者だけにしか分からない、 コミュニケーションであろう。 それを見た3人は羨ましそうに彼女達を見つめた。 メルア「キュービヌさん、これが・・今度・の・・・。」 事務を終えたメルアがガレージへと訪れる。そしてアマギとレイスの姿を見た途端、同じく 驚きの表情を浮かべた。 メルア「も・もしかして・・・、アマギ様とレイス様?」 ウインド「驚きだな、メルアが彼らの事を知っているとは。」 ウインドは小さく驚く。アマギとレイスの素性を知っているメルアに改めて脱帽した。そして 彼女の姿にデェルダの姿がダブる。 アマギ「初めましてメルアさん、アマギ=シャドウといいます。」 レイス「レイス=ビィルナです。よろしくお願い致します。」 メルア「こ・・これはご丁寧に。私はメルア=シェイレイックと申します。」 ナイラとキュービヌよりは驚きもせず挨拶を交わす。そんなメルアの一面に、ウインドは逆に 驚きの表情を浮かべている。 レイス「あれ・・・メルアさんの後ろに負ぶさっているのは・・・子供さんですか?」 メルア「そうです。こちらの頬が赤い方がターリュ、髪の毛が短めの方がミュックといいます。」 メルアが2人を背負うのを止め胸に抱き、レイスは2人を受け取り徐に2人を胸に抱いた。 その姿にウインドは彼女のオリジナルである、レイス=シャドウを思い出す。 レイス「フフッ、可愛いですね。お母さんにそっくり。」 優しくあやし続けるレイスの頬を、ターリュとミュックがその小さな手で触れる。また片割れ のミュックがアマギへと行きたがり、レイスはアマギにミュックを託す。 アマギの胸の中へと移ったミュックも彼の頬を撫でている。ターリュと違い、言葉とならない 可愛らしい声を話していた。 メルアは初対面である我が子2人が、アマギとレイスにも自然と懐いた事に驚いた。 まあ初対面のユウトにも懐いたのだから、2人の相手を見抜く力が強い事がよく伺える。 ウインド「・・・レイスもそうやってライアとマイアの父親を抱いていたな。もう50年以上も前に なるのか・・・。」 レイス「姉さんがですか?」 ウインド「ああ。」 レイス「そうだったのですか・・・。」 ウインドは今世に転生した直後のレイス=ビィルナに、レイス=シャドウの行った事を全て 話した。 自分と血の繋がりがあるレイス姉、その間違った行動にレイス妹は彼に謝罪する。それは自分 と全く同じ血が流れているから、そういった行動をしたのであろう。 レイス=ビィルナはレイス=シャドウ自身でもあるのだから。 ウインド「お前は彼女の遺志を受け継いでると言ってもおかしくない。姉妹ではあるが、同じ血を 分けたクローンなのだから。」 レイス「ええ。姉はあのような行動をしてしまいました。同じ血が流れる私は、姉の分もその罪を 償わなければなりません。」 アマギ「過去において自分も深い過ちを犯しました。私が今の世に生まれたのは、その過ちを償う 事に他ありませんから。」 アマギとレイスの決意は固いものだと、ウインドは直感した。 今の彼等には罪の意識はあるものの、その後の事を考えての行動も見定めている。この点が やはり伝説のレイヴンたる器の大きさなのだろう。 ウインド「彼女はどうした?」 レイス「デュウバさんですか。もう少ししたら来るそうですよ。」 メルア「・・・もしかしてデュウバ様も一緒なのですか?!」 ウインド「彼女が望んだんだ、罪滅ぼしをしたいと。大深度戦争前の大戦時、彼女はシェガーヴァに よって転生した。その後俺達と共に深い罪滅ぼしの戦いを始めたんだ。」 レイス「その後シェガーヴァさんが、私とアマギさん・レイスさん・ウインドさんをクローンとして 今世に転生したのです。我々は言わば過去の亡霊、ですがやるべき事を成し遂げるまでは 死んでも死にきれません。」 ウインド達の決意の固さに、メルアは深く頷いた。まるで全てを知っているかのように。 ウインドは彼女がデェルダの生まれ変わりだという事が、この時点で確信が掴めた。 メルア「私はレイヴンではありませんが、貴方様方の深い悲しみや強い決意は痛いほどよく理解が できます。お力になれる事があれば何でも仰って下さい。」 ウインドはメルアの偉大さに驚きの連続であった。 ナイラ達はただただ驚くだけであるが、直ぐさまこのような返答を返せるのはそれなりの決意 がなければ不可能だ。それをメルアという女性は成し遂げている。 これこそがウインドの求める後継者たる心構えなのだろう。 ウインド「メルア・・・いや、メルアさん・・・恩に切ります。」 メルア「そんな敬語なんてよして下さい、呼びつけで構いません。」 敬意を表してか、ウインドは敬語で彼女に礼を述べる。意外な一面にメルアは構わないと首を 振った。 ウインド「貴女を見ていると、オリジナルのレイスを思い出します。気丈な娘でした。貴女ほどの 心構えがあったら・・・あのような事は決して起こらなかったでしょう・・・。」 メルア「ですがレイス様はきっと思っていらっしゃいますよ。今の貴方様方の行動をどれだけ喜んで いらっしゃるか。」 ウインドはメルアの両手を握りしめ、感謝の意を込めた。ここまで身内を思ってくれる人物は 他にはいない。彼は感無量であった。 ウインド「・・・ありがとう・・ございます。」 メルア「これからも頑張って下さいね。」 メルアが笑顔でそう答えると、ウインドは力強く頷く。 そしてレイスに抱かれている2人の供を見つめ、改めて決意を固めた。 ウインド「・・・ああ、了解した。この子達が安心して住める世界を、俺は一生涯・・・いや・・ 永遠に作り続ける。デア達みたいな悪が出ようとも・・・薙ぎ倒し進む。メルア、俺は この2人の子供に誓って約束しよう。」 この場にいる一同、彼の決意が並々ならぬものだと思った。特に彼が言った永遠にという言葉 にその決意が込められているともだ。凡人では絶対にそう言った事は返さないであろう。 シェガーヴァ「その役、私も共に行うとしよう。」 直後ウインドが持つ携帯端末から、シェガーヴァの声が流れてきた。彼は携帯端末を片手に 持ち、会話をし出す。 ウインド「久し振りだなシェガーヴァ、元気か?」 シェガーヴァ「至って順調だ。暫くしたらそちらに到着する、それまで待っていてくれ。」 ウインド「了解した。気をつけてな。」 シェガーヴァとの会話を終えたウインドは再び一同を見渡す。周りには笑顔で彼を見つめる。 ウインド「主役達やシェガーヴァが到着したら、作戦会議を開こう。おそらくデア達が痺れを切ら して出て来る頃だ。」 ナイラ「了解です。ガードックさんに知らせておきますね。」 颯爽と行動を開始するナイラ。今の彼女の闘気は凄まじいものだと歴戦のレイヴンは思った。 キュービヌ「ねぇウインドさん、貴方のACを拝見させてもらっていいかな?」 ウインド「願ったり叶ったりだ。よろしく頼む。」 アマギ「厚かましいようですが、私のもメンテナンスを行って貰えればありがたいのですが。」 キュービヌ「もちろんです、喜んでメンテしましょう。」 キュービヌは嬉しそうにそれぞれの作業に取り掛かる。 メルアも事務の作業に戻り、その間ターリュとミュックをウインドに預けるのであった。 他の当直の仕事を終えたレイヴン達は、ウインド達の姿を見て当然の如く驚く。 そんな彼らにアマギとレイスが興味を示し、彼らの相談相手になる。これはある意味一生体験 できないものであった。 ユウト達が到着するまで、ウインドはターリュとミュックと一緒に社外で遊んでいた。 彼はこういった行動は全くした事がなかったが、自然と懐く2人であった。 そこに近付く1体のAC。ウインドは相手を見つめると、ACはその場に停止する。 そしてコクピットハッチが開き、中からかつて伝説の華の剣士であったデュウバが登場した。 デュウバ「お久し振りです、ウインドさん。」 ウインド「半世紀振りかな。」 デュウバ「そうですね。」 2人の会話の内容が実に凄まじい。 半年や1年前なら分かるが、半世紀前と話している。これはまず今の人間ではありえない。 キュービヌ「来たようですね。」 ACの歩行音を聞きつけて、キュービヌがひょっこり現れる。これはメカニックでしか理解 できない特技であろう。 まああれだけの巨大ロボットが歩行するのだ。歩行音は人間のと違い、地響きに近いだろう。 ウインド「デュウバ、彼女はキュービヌ=レイヴュ。ここのメカニック長を担当している女傑だ。」 デュウバ「初めまして、デュウバ=ドゥガと申します。」 キュービヌ「こちらこそ初めまして、キュービヌ=レイヴュといいます。ここでの専属メカニックを 担当しています。」 デュウバ「まあ、では私の機体も見て頂けますか?」 キュービヌ「もちろん喜んで。こちらへどうぞ。」 キュービヌ先導の下、デュウバは愛機をガレージ内へ移動した。 その後ウインドは再び2人と遊びだす。彼は意外と子供好きなのかもしれない。 ナイラ「メンテナンス終了は約10分程度だそうです。何でもメカニック総動員で作業をしてくれて いるみたいですよ。」 ウインド「フフッ、キュービヌには頭が下がる。」 キュービヌが今までの雑務を一端止めて、財閥にいるメカニックを全員招集する。そして 伝説のレイヴンの愛機を総出でメンテナンスを行いだした。 これにはメンテナンスをして貰っている搭乗者が一番頭が下がる思いであろう。 デュウバ「何からなにまでありがとうございますナイラ様。」 ナイラ「様はよして下さい。デュウバさんの方が先輩なのですから。それに敬語も構いません。」 デュウバ「敬語・・・ですか、生前の私は敬語など話した事などなかったのですが。おそらくは御母 デェルダ様の特有のものでしょう。私にもその性格が移ってしまって。」 今のデュウバは生前時のデェルダの性格と同じであるとウインドは思った。唯一違う点はその 明るさであろう、これはデェルダ以上のものであった。 デュウバ「それにしても・・・可愛いですね。」 ウインドの胸からデュウバの胸へと移動したターリュとミュック。デュウバは今まで見せた 事のない優しさ溢れる表情で2人と接している。 彼女も普通に生きていれば、デュウバはメルアと同じ年頃の女性である。母親になっていても おかしくはない。 ナイラ「何だか想像していた方とは全然違いますね。」 デュウバ「よく言われます。ウインド様にも同じ事を言われた事がありますから。」 会話最中、ターリュがデュウバの揉み上げを引っ張る。当然ながら悲鳴をあげる彼女。 デュウバ「こら〜ターリュ様、おいたはいけませんよ〜。」 ウインド「フフッ、子供は実にいい。皆の頑なな表情を和らげるからな。ナイラも母親になるなら、 しっかりした後継者を育てろよ。」 ナイラ「もうっ・・・。」 意外な事を言われ、ナイラは赤面しながら俯く。しかし満更でもないと、ウインドは小さく 微笑んだ。 暫くしてウインドの携帯端末からキュービヌの声が聞こえてくる。 キュービヌ「ウインドさん、ユウちゃん達が帰ってくるそうですよ。」 ウインド「了解。」 携帯端末をオンフックにし、キュービヌにそう告げるウインド。と同時に空の遠く彼方からは プロペラ音が聞こえてくる。ウインド達はその場で彼らの帰還を待った。 数分後、ウインド達の上空に輸送ヘリが到着する。 デュウバは子供達を安全な社内へと移動し、彼らを出迎えた。 シェガーヴァ「先にACを下ろす。その場から離れてくれ。」 外部スピーカーでそう告げられると、ウインド達はその場から離れる。 輸送ヘリも多少遠くに移動し、その場にブルーラインとゴースト・キャットを投下する。 フロートのブルーラインは着地時の振動はなかったが、ゴースト・キャットが着地した時は 大音響と大振動が辺りに轟いた。 そして着陸態勢に移ろうとした直後、その輸送ヘリ目掛けてグレネード弾が飛来する。 それはコクピット部に直撃した。 爆炎をあげながら輸送ヘリは地面へと激突し炎上する。前後のローターが衝撃の勢いで吹き 飛び、地面へ突き刺さる。 ライア「ユウトさんっ!!!」 マイア「大丈夫ですかっ!」 ブルーラインの外部スピーカーからライアとマイアの叫びが聞こえた。 この発言を聞いたウインドはこう直感する。 ブルーラインにはライアとマイア、そしてゴースト・キャットにはシェガーヴァ。つまり輸送 ヘリを操縦していたのはユウトであったのだ。 その輸送ヘリがグレネードの直撃を受け墜落、つまりユウトが即死した可能性があった。 直後彼らの前にウィントネアーが現れる。輸送ヘリを破壊したのはゴリアッグであった。 ゴリアッグ「賑やかな事だな。」 ライア「・・・貴様ぁ!!!」 ライアは完全に激怒し、ブルーラインをウィントネアーに突撃させる。 だがウィントネアーは同じくグレネード弾を放ち、ブルーラインのヘッドユニットを粉々に 吹き飛ばした。 ゴリアッグ「無駄だよ、貴様ではこの私は殺せない。」 高笑いしながらゴリアッグはそう叫ぶ。一同には相手への殺意が明確に現れていた。 高笑いをしているゴリアッグの頬を、突然切り傷が走る。針ほどのレーザー弾がコクピット 内の彼の頬を掠った。それはウィントネアーのコクピットをいとも簡単に貫いていた。 ゴースト・キャットが放った、圧縮レーザー弾だ。 これはコンピューター制御を使用し、武器の効率を最大限まで高めたもの。シェガーヴァが もっとも得意としている荒技だ。 シェガーヴァ「私は生まれて初めて心の底から怒りというものを感じた。貴様の行いはイレギュラー の何ものでもない。イレギュラーは排除する。」 合成音声のシェガーヴァが初めて激怒した口調で話した。それを聞いた一同は驚きの表情を 浮かべる。特にウインドが一番驚いていた。 殆ど喜怒哀楽を表に出さなかった彼が、今初めて心の底から激怒している事に。 ゴリアッグ「・・・何だ貴様は?」 シェガーヴァ「一レイヴンが、私の名を忘れるとは愚の骨頂だ。よく覚えておけ、MTやAC構想を を考え造ったのは私だ。それにレイヴンという基礎も造ったのも私。これから連想 すれば、愚者の貴様とて自ずと正体が分かるだろう。」 シェガーヴァの一際トーンダウンしている発言と目の前の現実にゴリアッグは驚いた。 ゴリアッグ「?!・・・シェガーヴァ=レイヴァイトネール・・・。」 シェガーヴァ「ウインドから聞いたが、以前は逃げたらしいな。だが今度は逃がしはしない。」 悪心ではないが、今のシェガーヴァは不の感情で動いている。それはかつてのヘル・キャット を彷彿させるかのようである。 だがウインドには分かった、それは表向きなものだと。それに人であったらどう考えても怒ら ないのがおかしい。 ゴースト・キャットはレーザーライフルをウィントネアーに向け、次々と圧縮レーザー弾を 射出する。それらはウィントネアーの駆動系システムを正確に射抜く。 その正確無比な攻撃にゴリアッグは相手のレベルを目の当たりにした。 ゴリアッグ「クッ・・・こんな当てずっぽうな攻撃で、この俺様に勝てると思ってか!」 シェガーヴァ「馬鹿が、乱打などしていない。ましてやロックオンなどする筈がない。相手の動くで あろう未来位置を予測し射撃しているだけだ。」 ライア「ざまぁみろっ!」 内部通信から怒涛の発言が聞こえてきた。沈黙したブルーラインに搭乗するライアからだ。 それに気付いたゴリアッグは、愛機をブルーラインの背後に回す。そしてレーザーブレードを 発生させ、ブルーラインのコクピット部分に近づける。 ゴリアッグ「こうすれば何もできまいっ。」 シェガーヴァ「それはどうかな。」 ゴリアッグがコンソールからシェガーヴァを見つめるが、その先にはゴースト・キャットの 姿はなかった。 直後軽い衝撃がゴリアッグを襲い、コンソールにエラーを示すランプが点灯する。 この瞬間シェガーヴァはレーザーブレードによる斬撃で、ウィントネアーのレーザーブレード 発生装置を切り落としていた。 ナイラ「あ・・・あれはウインドさんのカウンター技と同じ・・・。」 ウインド「カウンター技の基礎はシェガーヴァに教わった。つまり元祖はシェガーヴァだな。」 デュウバ「やはり私達の基礎となる人物ですね。」 ゴースト・キャットは後ずさりするウィントネアーと対峙する。今のシェガーヴァの行動で、 ゴリアッグは完全に戦意を失った。 ゴリアッグ「く・・・来るな・・・。」 シェガーヴァ「それはできんな。貴様はイレギュラー、イレギュラーは・・・。」 ライア「排除するっ!!!」 シェガーヴァ以上の殺気を込めた発言を、先手してライアが言い放つ。 それが火種となり、ゴースト・キャットはレーザー弾をウィントネアーに射出した。放たれた レーザー弾は今まで放った圧縮レーザー弾とは違い、高密度に収束されたレーザー弾である。 それは相手ACのジェネレーターを一瞬にして撃ち抜いた。 直後ウィントネアーはジェネレーターの爆発と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。 それは痛みを感じる間さえない。 シェガーヴァ「痛みを感じずに死ねた事に感謝しろ。」 黒煙を上げるウィントネアーの残骸を見て、シェガーヴァはそう呟いた。 彼の行動を目の当たりにしたレイヴン達は、彼に対する恐怖が芽生える。まああれだけ冷徹 非情に行動すれば、誰だってそう思わざろうえない。 その後墜落した輸送ヘリに集まる一同。まだユウトの身の安全は確認されていない。 ライアは大泣きし、その場に座り込む。ユウトの生死は絶望かと思われた。 アマギ「いましたよ。無事です、生きています。」 残骸を散策しているアマギが、ユウトを発見した。その場に集まる一同。我先にと駆けつけた のは、やはりライアである。 今のユウトは全身が酷い火傷だらけであり、目を伏せたくなるような容姿をしていた。しかし この状況でも生きている自体、彼には強靱な生命力があると窺える。 アマギに抱きかかえられたユウトは、社内の医務室へと運ばれた。 ユウトが医務室へと運ばれ、そのまま緊急手術に移行してから4時間半が過ぎた。 一同は手術の終わるまで、ブリーフィングルームにて待機している。どの面々も重苦しい表情 を浮かべていた。 その中シェガーヴァだけは、一同の輪から離れた所にいる。近くにはウインドも俯いていた。 ライア「元気出して下さいよ・・・。」 孤独にいるシェガーヴァを気にして、ライアが話し掛ける。 ユウトの生存が確定された直後、ライアは直ぐに立ち直った。彼がこのような事で死ぬ者では ないと確信しているからだ。 シェガーヴァ「私は大丈夫だ。孤独には慣れているからな。」 ウインド「そうだな。」 ライア「でも・・・あそこまでする必要があるのでしょうか・・・。」 珍しく敵を擁護する発言をするライア。それに迷わず言い返すウインド。 ウインド「当たり前だ。お前も見ていただろう、奴の行動などを。それにユウトをこのような目に あわせた人物だ。」 シェガーヴァ「悪は絶対に滅する。これは私達の絶対的正義。」 ウインド「あのまま奴を野放しにしていたら、お前も殺されていたかも知れない。それに奴自身にも 罪を重ねて欲しくはない。最善の手段は殺すしかなかったんだ・・・。」 ウインドが辛い表情で話す。この選択はレイスを殺害する時と同じものであったからだ。 それを聞いたライアはこう思う。シェガーヴァも辛い選択だったのだと。 そこにテーブルを這いずりながら、ターリュとミュックが現れる。 メルアが2人のおむつを交換した直後、今のシェガーヴァの心の痛みを知っているかのように 彼の前まで近付いていった。 シェガーヴァはターリュとミュックをそっと胸に抱く。 シェガーヴァ「フフッ、可愛いな。」 表情から伺い知る事はできないが、音声には優しさが込められている。子供は正直だという 事は嘘ではないであろう。 メルア「そう気になさらないで下さいシェガーヴァ様。私は貴方を信じます。」 シェガーヴァ「・・・ありがとう。」 間を置いての発言をするシェガーヴァ。 今まではどんな事があろうとも、間隔空けずに発言をしていた。だが今の発言は明らかに間を 置いていた。それは機械には出来ないものである。 ユウト「お世話様でした。」 ライア「ユウトさんっ!!!」 ブリーフィングルームの扉が開き、車椅子に乗るユウトが登場した。キュービヌが車椅子を 押してくれている。 ライアはユウトまで駆け寄り、その包帯に巻かれた手を優しく触れる。 ライア「大丈夫でしたか?」 キュービヌ「大変だったわよ。今の彼の皮膚は人工物を使用しているわ。あの爆発でよく身体が無事 だったと、専門医が言っていたわ。」 身体全体に包帯を巻きつけているユウト。それが事の大きさを物語っていえよう。 トーマス「何はともあれ無事でよかった。」 ユウト「暫くは動けませんが、サポートには回れます。皆さんを陰から支えますので。」 マイア「ゴリアッグは死んだし、後はデアとルボラの2人のみ。」 ディーレアヌ「楽勝っすよ!」 明るく振る舞う一同。敵が減った事には変わりはなかった。 だが一番先輩格のウインドとシェガーヴァは黙ったままである。それがこれから何が起こる のかを物語っていた。 一旦静寂さが包むブリーフィングルーム。徐にウインドが口を開いた。 ウインド「ユウトがライアと出会う前。依頼でファンタズマと戦っただろう。」 ユウト「・・・やはりあれはファンタズマだったんですか。」 ウインド「過去の遺物だ。以前悪のシェガーヴァを倒した時、全て葬ったつもりだった。だがある 所にはあったようだ。」 シェガーヴァ「もし連中が過去の遺物を持ち出してきたら、今のお前達には苦しいかも知れない。 アマギ達なら簡単に撃破していたが、その当時は今のと全く違う。」 ウインド「デヴァステイター・ナインボール・ヴィクセン・ファンタズマ・ナインボール=セラフ。 これら5大戦力に、新たに2大戦力が加わった。ユウトが倒したと思うが、M−9と グレイクラウドだ。」 ユウト「あ・・あれが登場するのですか?!」 一同はユウトの驚愕の発言に、それがどれほどの強さを誇っているのかを窺い知る。 今のユウトでさえ苦戦したという代物だと知った彼らは、当然今の自分達には勝ち目はないと 心の底から思った。 ユウト「・・・M−9は大して戦力的には大きくはありません。ですがグレイクラウドは違います。 あれこそ今まで目にした兵器の中で、最強最悪の代物です。それにレイヴンがあれを操作 したとしたら・・・、かなり厄介になります。」 キュービヌ「ユウちゃんがファンタズマとやりあった時、機体はかなりボロボロになっていたわ。 そのファンタズマが複数で来た日には・・・。」 2人のレイヴンから発せられる声に、一同はやる気がなくなっていくのを感じる。それはどう 考えても勝ち目が無いと言ってもいい。 殆どのレイヴンが戦意喪失しかけた時、怪我人のユウトが決意ある発言をしだした。 ユウト「ですが・・・勝ち目が無いと分かっていても、自分は戦います。自分みたいな人を作らせ ないのが、自分の一番の使命です。」 ウインド「そうだな。それがリターン・トゥ・ザ・ロストナンバーレイヴンズの使命。」 シェガーヴァ「別に最後まで付き合えとまでは、無理には言わない。戦いたい奴だけ残るんだ。」 重苦しい雰囲気が辺りを包む。人間の恐怖心は増大すればするほど希望が失われる。これは 仕方がない事であった。 ナイラ「・・・暫く、時間をくれませんか。」 ウインド「よく考えな。」 その後足取り重く、一同は解散した。 一度財閥を離れるレイヴン達、ユウトは無理には引き止めはしなかった。 17人いたレイヴンの中で、13人がその場を去っていった。 その中にはナイラ・アキナといった、伝説のレイヴンの子孫もいる。社を去っていく彼らを 見送るのは、ユウト・ライア・キュービヌ・ガードックだけであった。 ガードック「行っちゃいましたね・・・。」 ライア「こればっかりは仕方がありません。生きたい人に死ねなんて言えませんから。」 17人もいたやり手のレイヴンが、今ではたった4人だけになった。これによりトーベナス社 の戦力は大きく低下する。ウインド達もいたが、彼らは別としてだ。 今の4人では、迫り来る敵勢力を撃滅するのは難しいだろう。 足取り重く4人はガレージ内へと戻っていく。 そこで目にしたものは、ウインド達が自分達の愛機をメンテナンスしている姿であった。 アマギ・レイス・デュウバ・シェガーヴァも同じくACを整備している。 トーベナス社へアマギのACに乗せて貰って登場したレイス。彼女も新たに自分の機体を 組み上げ、それを自分専用機にしている。 5人の行動を見た4人は、何故そこまでして動く理由が分からなかった。表向きは分かって いたとしても、深い意味までは理解ができていなかったのだ。 ユウト「ACのメンテナンスですか?」 ウインド「当たり前だ。敵はいつ攻めてくるか分からない。」 シェガーヴァ「彼らには時間が必要だが、我々には必要はない。」 ライア「ど・・どうしてです?」 デュウバ「負ければ死ぬからですよ。」 率直だが実に現実的な意見であった。 そう今のユウト達はウインド達の力を頼り過ぎていた。その理論を超えた彼らに圧倒され、 自分達の真の力が分からなくなっていた。 レイス「私達の未来は全て白いキャンバスです。そこに描くものは人それぞれ。しかし奴等はその 白いキャンバスを黒く塗り潰そうとしているのですよ。」 アマギ「それこそ我々の自由を奪う。レイヴンとは自由な存在、だからこそこういった輩を排除する 必要があるのです。私の兄も言っていました。絶対に諦めず前に進め。最初は辛いが、必ず 良き理解者が現れると。」 この発言はユウトがライアに話した言葉と同じであった。その発言を聞いたユウトは今までの 不安や恐怖が一気に消し飛んだ。 ユウト「・・・俺は馬鹿です。皆さんに頼り過ぎていた。あのヘリが撃墜された時も・・・皆さんが いれば大丈夫と、無意識に思っていました・・・。それではダメなんですよ。未来は自分、 いや自分達の手で勝ち取るものだと。・・・祖父母や両親が言っていた事を忘れるなんて、 大馬鹿もいいとこです。」 涙ながらに叫ぶユウト。痛々しい体躯から彼の闘志が湧きでるのをウインドは感じた。そして ユウトが覚醒した事を直感した。 それは自分達の未来の白いキャンバスを守り抜く、全ての始まりであったのだ。 ウインド「気付けばいいんだ。要はそれを忘れずに進めるかだ。今のお前なら大丈夫だな。」 そう微笑みながら、ウインドは再度愛機のメンテナンスを始めだす。 ユウトは車椅子から徐に立ち上がり、よろめきながらエアーファントムまで歩み寄る。 ユウト「負けられない。デア達に負けるより、自分自身に負けたくない。」 足元がおぼつかず、倒れそうになるユウト。その彼をライアが背後から抱きかかえる。そして 笑顔で話しだした。 ライア「そうですね、もう迷ってられません。生きるか死ぬか、ただそれだけですから。」 ライアに支えられながら、ユウトはエアーファントムのメンテナンスを開始する。 そこにキュービヌとガードックが駆けつけ、共に行動をしだした。 キュービヌ「まだ迷っているけど・・・、私も戦う。私もレイヴァーレイで戦うよ。」 ガードック「財閥がどうのとか言っていられませんね。この際経営は全て停止し、奴等を倒す事を 先決しましょう。」 4人の瞳は輝かしいものになった。 彼らを束縛する悩みはない。生と死という当たり前で過酷な決断を、見事乗り越えたのだ。 そして・・・これからが本当の戦いでもあった。 そんな小さな勇者達を、5人の伝説のレイヴンは静かに見守るのである。 第7話へ続く |
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