第3部 9人の勇士 36人の猛将 〜エピローグ 束の間の休息〜 その後一同ガレージへと引き上げ、ブリーフィングルームへと赴いている。どの面々も疲れ 切った表情を浮かべ、束の間の休息を取っていた。 デューラ「このような若者がレイヴンだったとは・・・。」 メルアやウィン姉の誘いでデューラやリリックもブリーフィングルームにいた。悪から決別 した2人にとって、これは自然の行動であろう。 そしてレイヴン達を見つめ驚きの表情を浮かべるデューラとリリック。どれも自分達より 若く幼い。だがその風格はレイヴンとして成り立っており、これこそ彼らの原動力なのだと 痛感するのであった。 ライア「まぁ、若者って言う人が全てではないけどね。」 チェブレ「それ俺様の事かよ〜っ。」 ライアの発言にチェブレは軽く激怒する。それを見たライアは小さく笑い、またそれを見た チェブレも大笑いしていた。 その隣には疲れているにもかかわらず、再び腕相撲を開始するライディルとサーベン。後に 参戦を申し出たチェブレを合わせ、3人で白熱の戦いを開始しだしたのである。 周りは戦いが終わった事で気が抜けていたが、同時に一時的にせよ背負うものがなくなった といってよい。他の面々は大賑わいで3人の戦いを歓声で応援した。 年輩の面々は流石に疲れた様子で、遠巻きに見つめ応援するものの声までは出なかった。 ナイラ「何だかあっという間に過ぎ去りましたね・・・。」 シェガーヴァ「呆気なく終わったよな・・・。」 今までの決戦より激戦になると予測されていたものだけに、この遣る瀬無い気分は何とも 言い難いものである。 ナイラは会話しつつ一時期運営をストップしていた平西財閥の行動を開始。手の平サイズの コンパクトコンピューターを操作し、地球と火星の財閥の運営を行っている。 副社長となっているライアも同じコンピューターで行動しており、本社ではなく子会社の運営 再開を促しているようである。 シェガーヴァがいつになく安堵しているのを急かすように、ウインドが今後の行動内容を 告げだした。 ウインド「もう1つ残っている事がある。」 彼が語った言葉、これを聞きシェガーヴァは思い出したように問い返す。 シェガーヴァ「ああ、悪かった。そうだったな。態と逃がしたのがどうでるか、だな。」 シェガーヴァの発言でも思い出した人物がいた、一同のリーダーを勤めていたミナである。 それは先程の大戦で取り逃がしたシェンヴェルンの事であった。 ミナ「もしかして・・・シェンヴェルンを逃がしたのは、何か意味があっての事ですか?」 ウインド「ああ。アリッシュ達の因縁も兼ねてな。」 煙草を吸いながら徐に6人の少女を見つめるウインド。その視線にアリッシュを始めとした 少女達は小さく頷く。 ウインド「まあ、そう急ぐ事もないか。暫くは様子を見よう。」 椅子に背中を押し当て、大きく背伸びをする。流石の優男もこの時ばかりは息抜きした様子で いる。 しかし大雑把な行動でバランスを崩し、そのまま床に転倒した。大丈夫かと外の面々は心配 そうに気遣う。 レイシェム「だ・大丈夫ですか?」 ウインド「ハハッ・・・、生き抜きし過ぎたな。」 その言葉で一同大笑いする。確かに今の一同、全員が気が抜けている状態である。しかし決戦 を戦い切った安心感もあり、この雰囲気も偶にはいいと誰もが思った。 ライア「シェガーヴァ様にレイシェム様、ありがとうございました。」 作業を一旦止め、改めて2人に礼を述べるライア。それを見た外の面々も一旦行動を止め、 同じく2人に頭を下げる。 分身でありクローン生命体でもあるリュウジとウィン妹。2機のSTAIの破壊は、2人の 人間の死によって成り立った。 行動意志は通ってなくとも、その行いはシェガーヴァとレイシェムが行っていたと言える。 シェガーヴァ「よせよせ、別に礼を述べてもらうために行ったんじゃない。」 レイシェム「むしろ逆に感謝したいくらいです。サイボーグという概念を越えて人間として動けたの ですから。」 やはり目立つのは2人の仕草だろう。言動はどれもサイボーグではなく、機械の体躯を纏った 人間そのものだ。 シェガーヴァ「食事が取れないのが辛いがなぁ・・・。」 レイシェム「ですね。」 サイボーグ筐体でこのような事を語るのだ、他の面々は呆気に取られるのは言うまでもない。 ライア「何だったらこんなのを作ってみてはどうです。筐体に味覚機能を搭載し、食事摂取可能と いうものを。当然栄養素は摂取できませんし、内部に入った料理は消化と言うよりは原子炉 の熱で消滅させる事になると思いますが。」 ライアの発言にサイボーグ2人は目が煌めく。どうやら予測で語ったこのプランを成功させる 事が可能のようだ。それは2人の行動を見れば明らかだろう。 シェガーヴァ「いいねそれ。携帯原子炉程のエネルギー摂取にはならないが、単純に食事を楽しむと いうのであれば可能だな。」 レイシェム「了解です。後でロジックを組んでおきますね。」 有言実行、非現実事を実力で突き通す。それが瞬時に出来る2人にライアは脱帽した。そして 流石は自分の祖父だと感心もした。 その後も束の間の休息を味わう一同。表向きは明るくしているものの、やはりどの面々も 疲れている様子である。一部の面々は机に伏せて眠ってもいた。 ウインド「・・・む、そうだ。」 天井を見つめ物思いに耽っていたウインド。突然何かに気付いた様子で呟き、近くにいた面々 を小さく驚かせる。 メルア「どうなされたのですか?」 ウインド「いや、あれだ。以前エリディムとアニーが戦い終わったら何かをやると言っていた気が したんだが・・・。」 シェガーヴァ「ああ、オリジナルダンスか。」 シェガーヴァの発言で一同ざわめく。つい最近のエリディムとアニーは一同に隠れて何かを 練習していたと気付いていた。それがダンスだと分かり、そして何のダンスなのかとも興味が 沸いてきたようである。 エリディム「あまり時間がなかったので完全じゃないですが・・・。」 アニー「いいじゃん姉さん。皆さんに見て貰えればそれだけで嬉しいわ。」 エリディム「・・・ですね、了解しました。」 アニーを先頭にエリディムが続く。そしてブリーフィングルームから一旦退室した。 ダンスを踊る以上今のここでは狭すぎるを判断した一同。並んでいたテーブルやイスを全て 片付け、2人が踊れるような特設ステージを短時間で作った。 ライア「カメラ・カメラっと。」 何かあったら時に直ぐに撮影をできるようにか、ライアは常日頃からカメラを所持していた。 それもそのカメラは本格仕様であり、遠近両用の高級なものである。 またカメラでは静止画となるため、何とコンパクトビデオカメラをも所持している彼女。この 意気込みに一同呆気に取られている。 それらを素速くセッティングすると首を左右に振り両拳を軽く鳴らす。まるで女性カメラマン である。 ライア「おーし、準備完了。いつでもいらっしゃ〜い。」 ライアがそう話すと一同小さく笑う。この美丈夫には毎回驚かされると心中で脱帽していた。 ブリーフィングルームの扉が徐に開き、2人のダンサーが入場してきた。その服装は本格な ダンサー仕様であり、男女問わず頬を赤くするような美しさである。 ウィン「そんな透ける衣裳なんだ・・・。」 アニー「ダンサーでは普通ですよ。」 エリディム「私達にとっては皆さんが着用するパイロットスーツと同じです。これを身に纏うと踊り 子としての一念が定まり、踊りに集中できるのです。」 自分達が着用したら恥ずかしさが込み上げてくるだろうと、女性陣の誰もが思った。しかし 本業がダンサーである2人は全く恥じる姿はなく、むしろ堂々としている。それは普段何げ なくいる時よりも、格段に真剣そのものの表情であった。 特設ステージに立ち、息を整えるエリディムとアニー。しかしある事に気付いたマイアは 始める前の2人を制止して内容を語りだした。 マイア「あのさ、もしかして音楽なくて踊るの?」 マイアの一言にハッと我に返る2人。どうやら緊張のあまり本命のBGMを忘れていたようで ある。しかもその表情は非常に困った顔をしていた。 マイア「まさか・・・音楽を作ってないとか・・・。」 再びマイアの発言に2人は沈黙を以て答え返す。どうやら伝説のレイヴン達に披露するという 事に集中し過ぎのあまり、本命の音楽作成を忘れていたようなのである。 他の面々は呆気に取られるものの、一方に残念そうな表情を浮かべている。2人の熱の入った 踊りを期待していたのが窺えよう。 メルア「・・・下手でいいのでしたら、バイオリンを弾けますが・・・。」 沈黙する同室内。徐にメルアが語りだす。その発言に一同は驚き、彼女の別の一面を知った のである。 トーマス「でもメルア。ターリュとミュックを育て始めてから、何年も演奏してないけど。」 メルア「未完成のダンスを演じて下されるのです。私も完全ではないですが、バイオリニストとして の形でサポートできるなら喜んでやります。」 トーマス「そうだね、分かったよ。」 足早にトーマスはブリーフィングルームから去っていく。どうやら自室にバイオリンを取りに 向かったようである。 ライア「メルアさんがバイオリニストなんて驚きました・・・。」 メルア「幼い頃に弾き出して、結婚するまで練習をしていたのです。殆ど独学ですが、一時期娯楽場 で演奏しないかともオファーもありました。完全な卵ですよ。」 趣味や実用でも気を抜かないメルア。その一途な性格に一同脱帽する。この女傑は正真正銘の やり手だとも痛感できた。 その後トーマスがバイオリンケースを持って帰ってくる。そのケースは使い古された跡が あり、彼女が中から取り出したバイオリンに至っては手持ちの部分が物凄く黒ずんでいる。 どれだけ練習すればこれほどまでに色褪せるのか、一同は彼女の練習意欲に再度脱帽した。 メルア「懐かしいわぁ・・・もう5年近く弾いてないかしら・・・。」 弦の調整をし、徐にバイオリンを弾きだすメルア。その旋律は何とも言い難いもので、一同の 心に安らぎを与える。これだけでプロ以上の実力を持っていると確信したのである。 メルア「うん、問題なさそうね。」 マイア「でも何を弾くかによって踊る内容は変わるような・・・。」 エリディム「ああ、それはご心配なく。その場の合った雰囲気でダンスをしているので、全く問題は ありませんよ。」 メルア「つまりは、私次第という事ですね。了解しました。」 いつも穏やかなメルアの表情から笑顔が消える。そのいつになく真剣な表情により、一同を 瞬時に沈黙させる。エリディムとアニーもメルアの演奏開始から踊り出す準備をしていた。 徐にバイオリンを弾きだすメルア。その繰り出された旋律でエリディムとアニーも同調し、 音階と併せて踊りを開始した。他の面々はただ黙って3人の行動を見守る。 過去に出会ったのだろう、一同の脳裏に思い出や記憶が甦る。それは懐かしくも悲しいもの で、無意識に涙を流す者や黙って瞳を閉じ聞き入っている者もいた。 ウインドとシェガーヴァも瞳を閉じ、物思いに耽っている。恐らく両者とも大破壊前に聞いて いたものを思い浮かべているのであろう。 メルアの旋律が前面へと出ているため、エリディムとアニーのダンスを見ている者は殆ど いない。しかし当の2人もメルアの旋律で過去の思い出が脳裏に浮かび、物思いに浸りながら ダンスを繰り返していた。 今はメルアの演奏こそが周りを引っ張っているのだ。それによりこの場の主役はメルアに 任せるのである。 一同は一時の癒しの時間を過ごしていった。 どれぐらい演奏を続けたのだろう。旋律が止み、一時の安らぎが終わりを向かえる。 どの面々もただ黙っており、その心中は行動を見れば一目瞭然であろう。 ウインド「・・・大破壊前、これと同じ曲を聞いた事がある。悲しくもあり切なくもある。当時の 地球の人々は安らぎを求めてこの曲を聞いていた。」 シェガーヴァ「ウィンやメアリスが死んだ時も、モニターや何かからでこの曲を聞いた事がある。 あの時ほど切ないものはない。」 同じ時代を生きていたウィンや後継者のレイシェムでさえ知らない曲である。彼らでしか理解 できないものなのであろう。 メルア「何か・・・エリディム様とアニー様のダンスを盛り立てるつもりが、私の旋律の方に集中 してしまわれたそうで・・・。」 エリディム「私もダンス中に物思いに耽っていました。この旋律は何とも言い難いものです。」 アニー「懐かしいやら何とやら・・・。とにかく今度ダンスを披露する時は、しっかり曲も作って お披露目しますよ。」 メルア「その時はバックミュージックとして私もお手伝いします。」 俄かに賑やかさを取り戻していくブリーフィングルーム内。瞬時に雰囲気が変わる点も彼らの 長所でもあろう。 ウインド「さて・・・野郎が動き出すまで修行するか。おそらく遺産を投入してくると思うが、前回 みたいに極端過ぎる数じゃない筈だ。今回は各々の愛機で戦ってほしい。」 ライア「当然今度の主役はアリッシュ様達ですね。」 ウインド「だな。」 ユウトからシュイル、そしてシュイルからエリディムへと主役が交代していく。もっとも クローンファイターの面々が前面に出ているためか、彼らの存在意義は薄らいでいた。 しかし若獅子達が今の世界の主役には変わりない。それをバックアップしてこそ、タブーと されている転生まで用いたクローンファイターの宿命でもある。 今この場に集いし若獅子48人。この誰もが明日以降の、未来の命運を分ける闘士達。 同室内に集う48人の小さな猛将を見つめ、クローンファイターの8人は暖かく見守り続ける のである。 9人の勇士・36人の猛将 完 |
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