〜第1部 18人の執念〜
   〜第1話 戦場へ1〜
   虚しい日々が続いている、そうリュウルは思った。この所くだらない依頼ばかりだけが舞い
   込んできている。特にリュウルにとって辛いのは、暗殺の依頼だ。レイヴンにとって依頼者の
   要求は絶対である。レイヴンは一傭兵、そこまでの権限は無い。だがリュウルはそれに苛立ち
   を隠し切れなかった。殺人は今の世の中当たり前なものだが絶対悪でもある。それが許される
   世界自体に、リュウルは怒りを顕にしていた。その殺人依頼でウイングマンであるレイトの
   両親を殺してしまったのだから。
   レイトを保護してから6年、リュウルが13歳の時。レイヴンになりたての彼は、誤って
   彼女の両親を殺害してしまった。それは依頼者側の早とちりなもので、彼自身に罪はない。
   だが家族を殺したのはリュウル自身。当然レイトは彼に対し復讐心を抱く。その自分に対する
   殺気を抱きながらも、リュウルは彼女を守りつつ4年間同じ時を過ごす。リュウルとて人間で
   ある。次第に落ち着きを取り戻しつつあるレイトを見る度に、彼は家族殺害の光景が脳裏に
   浮かぶようになっていった。そして彼女が12歳の時、レイヴンの道へと薦める。心中に殺意
   を抱くレイトは、当然レイヴンの道へと歩んだ。その後リュウルは彼女の元から姿を消した。
レイヴン「おいあんた。俺をウイングマンとして雇わないか?」
   アリーナのガレージでベンチに腰をかけ、リュウルは煙草を吹かしていた。彼の祖先である
   アマギ・ユウトは決して煙草を吸わなかった。だが彼は15の時から煙草を吸いだしたのだ。
   そう、それはレイトと過ごしている期間中である。言わば煙草に逃げているといってもいい
   だろう。その彼に生意気そうな青年が彼に話し掛けてきた。
リュウル「生憎だが間に合ってる。」
レイヴン「そう言わずにさぁ〜・・・。」
   口調は生意気そのものだが、腰が引けている。リュウルは相手がやり手のレイヴンではない
   事に一発で気付いた。
リュウル「・・・お前、レイヴン歴は何年だ。」
レイヴン「う・・、・・・い・・一週間。」
リュウル「お前な・・・、そういう場合はウイングマンをお願いする方だろう。」
   リュウルはレイヴン歴12年のベテラン。そう若干7歳でレイヴンになったのだ。これは祖先
   同様の成せる技であろう。
レイヴン「そ・・・そうだな・・・、悪かった。」
   詫びる所は詫びる、それを弁えているとリュウルは思った。案外いい奴なのかもなと、心中で
   そう呟く。
リュウル「フフッ、俺は沢島竜流。お前は?」
レイヴン「ミッド=レイレリアという。」
リュウル「了解ミッド、ウイングマンとして同行しよう。依頼は何だ?」
   リュウルはミッドを隣に座らせると、相手から事情を聞きだした。何でも初陣のミッションに
   彼を雇いたいというのだ。それは廃棄工場跡地に出没するMT部隊を排除する事。ルーキーの
   ミッドにとっては楽な仕事であろう。だが詳しく内容を聞くと、リュウルは彼1人では無理
   だと直感した。排除するMT部隊のリーダーは元レイヴン、しかもかなりのやり手らしい。
ミッド「最初は自分一人で行こうと思ったが、やっぱ怖くてな。誰かウイングマンがいないかと探し
    回っていたら、あんたを見つけたんだ。」
リュウル「いい判断だ。元レイヴンともなると、腕はかなりいいだろう。それがMTに乗っていても
     他の奴等とは格が違う。正に一騎当千とはこの事だな。」
ミッド「じゃあいいのかい?」
リュウル「ああ、同行しよう。お前の腰が引けた格好を直さないとな。」
   リュウルがそう話すと、ミッドは苦笑いを浮かべる。だがそれが自分に対する心配の一念とも
   彼は直感ができた。外見は不良っぽいが意外としっかり者のリュウル。生意気だがどこか幼い
   雰囲気を出しているミッド。全く相性がない2人は手を組む事となった。

リュウル「・・・お前、こんな装備でアリーナに?」
   リュウルが呆れ返った。彼のACダブルブレイダーは完全な接近戦型。やり手の剣豪レイヴン
   ならその機体性能を最大限に発揮できる所だが、ルーキーにしては余りにも無謀すぎる。
ミッド「ああ。今の所1勝3敗だ。」
リュウル「だが内部スペックはいいパーツを選んでいるな。長期戦ができるようすれば、もっと戦い
     易くなるだろう。」
ミッド「でも俺はこれを貫き通すぜ。憧れのレイヴンのスタイルを真似てるからな。」
リュウル「二刀流ともなると・・・、2丁拳銃スタイルのウォード=ボイスか。」
ミッド「うぉっ、さすがぁ〜先輩!」
   ウォード=ボイス。2丁拳銃スタイルを貫き通す、凄腕のランカーレイヴン。常に腰に下げて
   いる2丁の拳銃が、彼の独特のスタイル。両肩のトリプルロケットランチャー相手を撹乱し、
   弱った所を2丁の腕武器で仕留める。直線武器を好んで使用するので、ガンマンレイヴンその
   ものであろう。まあ完全な2丁拳銃スタイルではないが。
リュウル「彼とは以前戦った事がある。というかアリーナ上位のランカーだからな、対峙するのは
     当たり前だろう。」
   リュウルの発言を聞いたミッドは、驚きの表情を浮かべる。ウォードはレイヴンランクAの
   第2位に君臨している。その彼と戦った事があると聞いたのだ。
ミッド「・・・も・・・もしかして、ライジングサンダーと恐れられている・・・あの沢島竜流って
    ・・・あんたの事か?!」
リュウル「対戦したレイヴンからはそう言われてるな。」
   ミッドは再び驚き声を失う。アリーナ1位の強豪ライジングサンダー、それが目の前にいる
   優男のリュウルなのだ。その鬼神の如き戦闘力は、対戦相手を真の底から恐怖させる。決して
   手を抜いた戦いはせず、誠心誠意と全力を以って相手と対峙する。それがリュウルのアリーナ
   での姿である。集団戦闘型アリーナでは、低ランクのレイヴンと組む事が多い彼。それはある
   意味ルーキーを修行させている。他者から見れば世話好きなレイヴンだ。
ミッド「・・・悪かった、初っ端から溜口聞いて。」
リュウル「そこがお前のいい所じゃないか。なに振り構わず行動に出る、レイヴンなり立ての頃の
     俺とそっくりだ。だがあまりハメを外し過ぎるなよ。要らぬ反感を取られる可能性もある
     からな。」
ミッド「き・・肝に銘じときます。」
   冷や汗をかきながら、ミッドが精一杯強がった発言をする。だが声は震えており、リュウルの
   存在感に圧倒されているのであろう。
   その後リュウルは愛機ライジングストームの武装換装を行う。脚部を2足最高積載量パーツ、
   両肩にレーザーキャノンを2門装備。そして右腕武器を最高性能のレーザーライフルに交換。
   防御面は少しだけ上がったものの、火力はメインベース機体の3・4倍に上がった。
ミッド「あんたはミッションでは機体構成を変えるんだな。」
   元のペースに戻ったミッドは、リュウルのアセンブリ思考に感銘した。ミッションでは不足の
   事態は付きものだ。いついかなる事が起ころうとも、どんな状況に対応できる機体で出撃する
   のは当たり前である。もっとも普段のスタイルがいいレイヴンは、ミッションが失敗しても
   決してコンセプトは変えず貫き通す。そちらはそちらである意味やり手でもある。
リュウル「ACはアセンブルが命だ。それにAC自体の長所はこれだからな。」
ミッド「確かに。」
リュウル「さて、行くとするか。場所は知ってるな?」
ミッド「案内役は任せてくれ。俺はそっちの方が慣れているから。」
   ミッドの発言を聞き、リュウルは彼がウイングマンとして優れている事に気付いた。自分を
   誘った本人がウイングマンとなろうとは、不思議な巡り合わせだと思う。ウイングマンとして
   雇い入れる側は、大概がやり手のレイヴン。逆にウイングマンを雇いたいと申し出るのは、
   ルーキーレイヴンが多い。リュウルは祖先の日記などを調べていくうちに、過去には絶対あり
   得なかった行動だと分かった。レイヴンは裏切り裏切られの職業。昨日出会った敵は今日の
   友となり、そしてその友が明日の敵になるかも知れないのだ。それは今の世界にも十分当て
   はまっており、完全に相手を信用し切れていない何よりの証拠である。だがリュウルの祖父達
   は違った。裏切られようとも相手を信じ抜く。これが深い友情への架け橋となり、真の友人を
   得る為の最低かつ最高の行動なのだ。祖父達はそうやって悩める者達を救い、共に戦う同志と
   して育てあげていったのだ。彼らは皆伝説のレイヴンとして、今の世に語り告げられている。
   リュウルとミッドはそれぞれの愛機に乗り込み、依頼場所である廃棄工場跡地まで向かった。
   そんな彼らを見つめる1人の女性。その後徐に自分の愛機に乗り込み、彼らを追った。

   管理者という者に世界を管理されていた頃、人類は地下での生活が当たり前であった。だが
   リュウルの祖父達はそれを見抜き、後にこうなるであろうと予測してもいた。リュウルが祖父
   達の日記を見て分かった事である。管理者がいない今の世界。地上の存在を忘れ去っていた
   人類は、緑溢れる地上へと舞い戻った。1世紀以上も地上に人が居なかったので、全てが緑に
   溢れ返っている。かつて起きた災厄、大破壊。その後地上は人が住める状態ではなくなった。
   だがあれから3世紀以上、地上は人が住める元の地球へと戻ったのだ。そして交流が途絶えた
   火星とも再び交流を開始し、今では地球と火星は兄弟星とも言えるほど姿が似つつある。
   瓦礫の山を進む2体のAC、リュウルとミッドの愛機である。場所は地上ではなく、地下へと
   変わる。太陽光が地下へと注がれる中を、颯爽と突き進んだ。
ミッド「それにしても・・・、地下は虚しいな。」
リュウル「そうだな。」
ミッド「あんたは地上へは出た事はあるのかい?」
リュウル「何度かある。まだ完全に人の手が付けられていない、青々とした緑が甦っている所をな。
     今は多少人の手が加わっているが、それ程ではない。」
ミッド「俺っちは全くないぜ。地上はおろか、地下だって満足に動いた事ない。」
   つまらなそうな口調で、ミッドはぼやいた。だがリュウルは見ない方がいいと思う。それは
   要らぬものを見てしまう事を予測してだ。リュウルは悲惨さ・残酷さなどを嫌というほど
   見つめてきた。それ故に後輩には気を配っているのである。だがレイヴンという職業柄、そう
   いった現実は避けがたいもの。全ては修行の過程の出来事なのだなと、リュウルは改めて思い
   知った。
リュウル「ところでお前には家族はいるのか?」
ミッド「いないぜ。俺っちは戦災孤児で、両親の顔や面影すら覚えていない。孤児シェルターの
    おっさんが言っていた。企業間のいざこざで死んだと。」
リュウル「・・・すまない。」
ミッド「いいんだよ。俺っちは後悔していない。今この瞬間を精一杯生きているんだから。」
リュウル「フッ、お前らしい。」
   戦災孤児は今の世の中ではそう珍しくはない。戦乱にはこういった者達は普通である。企業は
   決して彼らを助けてはくれない。己が裕福であればそれでいい世界だ。だがその常識を覆した
   人物がいる。リュウルの祖先、アマギの妹的な存在の平西幸奈の子孫の3姉妹である。彼女達
   が経営する平西財閥は、戦災孤児を引き取り、孤児シェルターで育てているのだ。この他の
   企業から考えれば無駄な行動を推し進めている理由は、やはり祖先の遺言が影響している。
   平西幸奈・平西奈衣羅、そして彼女達の師匠的存在であるウインドは青年を大切にしている。
   青年こそが今の世界を切り開く原動力で、希少な人材でもあるからだ。レイヴンはどのような
   依頼で死ぬか分からない。当然子供の数も激減している。一流のレイヴンになるにはかなりの
   時間や費用がかなる。それらはグローバルコーテックスが運営しているが、平西財閥も全面的
   にバックアップしているのである。この点が実在する大企業と大きく異なり、レイヤードや
   地上の住人をどれだけ大切に思っているかが伺えるであろう。
リュウル「到着した。ここがそうらしい。」
   地下都市内を進むうちに、目的の場所へと到着する。リュウルはミッドから詳しいミッション
   資料に目を通しており、その場所がすぐさま分かった。彼らが見る先には、約20体の中古
   MTディギーが待機していた。
リュウル「あまり派手に動くなよ。それとリーダーらしきMTがいたら、俺が相手をする。」
ミッド「了解。」
   2機は散開し、ディギーに攻撃を開始した。ミッドのACダブルブレイダーは足軽に相手へ
   接近し、レーザーブレードでなぎ倒していく。リュウルのACライジングストームは肩武器の
   レーザーキャノン発射体制へ移行。ミッドを護衛する形で次々とレーザー弾を放つ。
MT操縦者「未確認AC出現、直ちに・・・。」
   味方MTに通信をうながす機体に、ダブルブレイダーは右腕の射突型ブレードを突き刺す。
   コクピット部分を貫かれたディギーは爆発を起こす。
ミッド「甘いぜ!」
   その後ダブルブレイダーは勇敢に戦い続けた。その陰にはライジングストームの援護射撃が
   あってこそであるが。先走り過ぎるミッドを護衛しつつ、リュウルは本命のMTを待った。
                               第1話 2へ続く

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