〜第1部 18人の執念〜
   〜第2話 地下に舞う風1〜
リュウル「復讐・か・・・。」
   リュウルは自室のベッドに横になり、徐に呟く。再び訪れる孤独な時間。リュウルは今まで
   こういった環境下で過ごしてきた。アマギやユウトと違い、殆ど単独行動をとっている。また
   ウイングマンとして同行する彼であったが、進んで相手と共に行動する方ではなかった。
   リュウルは怖いのだ、レイトと同じ人物を作ってしまう事を。これ以上罪を重ねたくないと、
   心中では膝を抱え震え上がっているのであった。
   沈黙が流れる自室内、コンピューターがメール着信を知らせるアラームを鳴らす。リュウルは
   徐に起き上がり、デスクの前まで向かう。コンピューターを起動すると、着信したメール内容
   を黙読する。
リュウル「・・・ウイングマンの依頼か。」
   彼がアリーナのトップになった時、その日からウイングマンの依頼が後を絶たなくなった。
   まあそのおかげで生計が立てられるのだから、リュウルは願ったり叶ったりであった。だが
   先程のミッドと同じく、その殆どがウイングマン依頼用の報酬を貰わずに請け負っている。
   つまりはタダ働きという事になり、ある意味無駄な生き方をしていると言ってよい。生きる
   為の仕事であるのに、分からない何かを求め続け報酬は貰わないのであった。
   リュウルは承諾のメールを返信すると、ガレージへと向かって行った。相手レイヴンからの
   ウイングマン依頼は今すぐ行うミッションであった。

リュウル「あんたか。ウイングマンを依頼したレイヴンは。」
   ガレージにて走行系のACをアセンブルしている女性レイヴン。メカニックに指示を出して
   いる彼女の背後から、リュウルは本人確認のサインを送った。女性レイヴンは彼に気が付き、
   後ろを振り向く。と同時に彼の顔を見るな否や嬉しそうな表情を浮かべる。
女性レイヴン「あっ、リュウルさんっ!」
リュウル「クィンツか、久し振りだな。」
   クィンツ=メキレムア。かつてとある企業に生体実験にされそうになった所を、依頼遂行中の
   リュウルに助けられた経歴がある。両頬と額・そして体中に無数の傷を持つ事から、その悲惨
   さが伺える。リュウルが彼女を助けた時、彼女は裸のまま彼に助けを求めてきた。生体実験に
   される前に、研究員の目を盗み研究室から逃亡。我武者羅に研究施設外へと逃げたのだ。その
   時丁度近くを通りかかったリュウルに、身体を張ってACを制止した。全裸であった彼女を
   見た時、リュウルは驚きの表情をした。当然であろう。辺境ともいえる地下都市内で、女性が
   素っ裸で現れたのだから。その時身体中には無数の切り傷や注射針の跡が数多くあり、出血も
   かなり酷かった。その姿を見れば今の今まで生体実験をされていたと言わんばかりである。
   そんな彼女を見たリュウルは有無を言わずすぐ助け、その研究施設から全速力で去っていった
   のであった。
   その後生計を立てるべく、リュウルはクィンツをレイヴンの道へと進ませる。いつまたあの
   研究施設に拉致されるか分からないと踏まえた彼は、レイヴンであれば多少なりと安全である
   と取ったからだ。それ以来、彼女とは一度も会っていなかったのである。
   リュウルとクィンツはガレージのベンチへ腰をかけ、依頼内容と過去の雑談をし始めた。
クィンツ「大きくなったね。あの時私より背が低かったのに、今じゃ抜かされてるわ。」
リュウル「あんたも前より綺麗になったよ。」
クィンツ「あ・・ありがと・・・。」
   顔中傷だらけのクィンツだが、それを除けばかなりの美女である。だがその外見からか、他の
   異性からは全く相手にはされていない。逆にアリーナでレベルを上げている彼女は、フェイス
   カッターという異名で恐れられている。別に相手に危害を加えている訳ではないのだが。唯一
   普通に接している人物が、リュウルと彼女の幼馴染みの人物だけである。
リュウル「さて、本題に入ろう。依頼は何だ?」
クィンツ「地下水道破壊阻止というミッションだそうよ。難易度が高そうだからね、貴方を雇おうと
     したんよ。」
リュウル「了解した。ウイングマンとして同行する。」
   間隔空けずに承諾サインを出すリュウル。ミッドの場合もそうだが、初対面のレイヴンとは
   相手の素性を知るまでは承諾はしない。だがクィンツとは知り合いであるため、すぐに承諾の
   サインを出したのであった。
クィンツ「ところでさ、依頼までは暫く時間があるんよ。出る前に食事でもどう?」
リュウル「フッ、相変わらず大食いのようだな。」
   クィンツは女性とは思えないほどの大食漢であった。普通の人間の3倍近い食事を摂取する
   彼女だが、太る傾向は見られない。ある意味凄まじいといった方がいい。クィンツと共に過ご
   していた時期、その圧倒的な摂取量にリュウルは驚きの毎日であった。
   飲食店に向かう前に、リュウルはライジングストームの機体換装を依頼する。ミッドと共に
   出撃した時と違い、両肩のレーザーキャノンをトリプルロケットランチャーに交換した。
   依頼先が地下水道ともなれば、戦闘場所は狭い場所である。それを想定し、リュウルは短期間
   で敵にダメージを与えられる武装へと換装したのだ。クィンツも愛機フォルヴァノンの武装を
   変更し、広範囲レーダーとグレネードランチャーを両肩にチェインガンを装備した。そして
   レーダー機能を追加するべく、ヘッドパーツをライジングストームと同じパーツへと換装。
   アリーナでは一定の機体で戦闘をするレイヴンが多い。だがミッションともなれば、効率を
   高めるために機体アセンブルを行うレイヴンが多い。アセンブルを制する者はミッションを
   制す。これは碇石であった。
   その後2人は飲食店へと向かう。その最中お互い話題が尽きる事はなかった。特にクィンツに
   とってリュウルは命の恩人そのもの。経歴がどうあれ、彼に対して憧れの一念を抱いている
   事には変わりはない。だがレイトと同じく、彼女と接する事が本当は怖いリュウルであった。
クィンツ「煙草はどれぐらい吸ってるん?」
リュウル「4年前からだ。色々とあってな、吸わずにはいられなくなっちまってる。」
クィンツ「そう・・・。」
   飲食店の一番奥に位置するテーブルを囲み、リュウルとクィンツは注文した食事が出来上がる
   まで雑談をして待つ。
クィンツ「今回の依頼が終わったら、また食事でもどう?」
リュウル「時間があればな。」
クィンツ「よっし、お願いね〜。」
   その明るい素振りを見る度に、リュウルは心が重たくなる。クィンツの姿がレイトとダブって
   見えているからだ。だが人とのコミュニケーションは行っている点が凄い。普通なら嫌な行動
   は徹底して行わないものなのだが、彼は逆に率先して行動している。この点はアマギ・ユウト
   同様であろう。
   暫くしてウェイトレスによって食事が運ばれてくる。リュウルは普段注文する定食を頼んだ。
   だがクィンツはこの店で一番量が多いものを頼む。しかも2人前であった。食事が運ばれて
   くると、我先にと食べ始める。それを見たリュウルは苦笑いを浮かべつつ、自分も徐に食事を
   取りだした。
   2時間後、クィンツはこれでもかというぐらいの食事を平らげた。それはリュウルの4番以上
   である。リュウルは通常の人間が摂取する定食を食べながら、ただ食い続ける彼女を見つめる
   だけであった。その後2人はACに搭乗、一路依頼指定区域へと向かいだす。大量に食事を
   摂取しながら、クィンツは苦しそうな素振りを見せない。本当に大食漢ならぬ大食女である。

   暗い地下水道内を進む2体のAC。ライジングストームとフォルヴァノンだ。以前ここに
   巨大な蜘蛛のような生体兵器が出現し、一時期騒ぎとなった。その時巨大蜘蛛を撃退したのが
   リュウルであった。つまりはこの地下水道は初めてではないという事である。
クィンツ「気味悪〜・・・。」
リュウル「地下都市内の汚水が全て流れてくる場所だからな。」
クィンツ「・・・生身では歩きなくないわ。」
   所々電灯が消えたり付いたりを繰り返している。管理されているとは思えないぐらい荒れた
   地下水道である。
クィンツ「そろそろだと思うんけど・・・。」
   フォルヴァノンが進む中、リュウルは何か言い表せない不安に襲われる。それはかつて巨大
   蜘蛛と対峙した時と同じであった。だがクィンツは全く怯える事なく進む。
クィンツ「・・・ん、レーダーに何か映ったわ。」
リュウル「・・・機影は10か、敵さんのお出ましかな。」
クィンツ「サポートお願い、纏めて相手するから。」
リュウル「了解。」
   ミッド顔負けの猪突猛進な性格のクィンツ。敵がいる場所には率先して突撃する。だが彼の
   ACより機体性能が高いフォルヴァノン。そう簡単にやられる事はないだろう。
   目の前に立ちはだかる巨大なゲートを遠隔操作で開くと、突如と弾丸の雨がフォルヴァノンを
   襲った。エピオルニスの特殊腕ガトリング砲である。しかし走行系独特の重装甲がそれらを
   弾き返す。敵の攻撃に対して防御の面が有効だと知ったクィンツは、左腕武器のエネルギー
   シールドを展開しつつ左肩のチェインガンを放ちだした。放たれた弾丸はエピオルニスを蜂の
   巣に変えていく。リュウルはクィンツが撃ちもらした機体を、右腕武器のレーザーライフルで
   狙撃していく。圧倒的な火力でエピオルニスは成す術がなく倒されていった。だが敵機体は
   どこに大量配備されていたのか分からないが、後から後から出現してくる。これでは消耗戦と
   なり、いくら装甲が厚いフォルヴァノンでも分が悪すぎる。
リュウル「クィンツ、雑魚共を相手にしていても埒があかない。敵の親玉を叩くしかないぜ。」
クィンツ「そう言われてもさ・・・この敵をどうにかしないと・・・。」
リュウル「サポートしながら調べたが、この区画には別の部屋への通路がある。そこに行って親玉を
     倒してくれ。俺は雑魚共を相手にするから。」
   詳しいデータをフォルヴァノンに転送すると、ライジングストームは彼女の前へと進み出る。
   そして両肩にそれぞれ装備されているトリプルロケットランチャーを射撃し、エピオルニスを
   一掃しだした。隙を見てクィンツは敵リーダーがいると思われる区画へ、フォルヴァノンを
   進ませる。当然立ちはだかる敵MTはチェインガンにて蜂の巣へと変えていった。
クィンツ「気を付けてね。」
   指定した区画へ侵入する前に、クィンツは彼の身を案じた。彼女なりの行動であろう。
リュウル「さて、邪魔者を排除するか。」
   フォルヴァノンがレーダー範囲から消えたのを確認すると、リュウルはライジングストームを
   区画の中央へと待機させる。そして砲台の如くエピオルニスを撃破していった。

   リュウルが指定した区画はかなり最下層にあり、フォルヴァノンはゆっくりと進撃した。丁度
   直下に敵らしい機影が確認できた。今の戦闘で両肩のチェインガンが底をつき、残りは右手の
   バズーカ砲だけになった。幸い自律型遠隔攻撃ユニットのイクシードオービットを搭載した
   重装甲コアがあるため、無力化する事はない。
クィンツ「ここね。」
   フォルヴァノンが最下層へと到着する。目の前には再び大型のゲートがあり、その先には敵
   機影がレーダーに映し出されていた。その数は10体。クィンツは楽勝だと心中で思いつつ、
   巨大ゲートを開いた。だがそこにいたものはエピオルニスではなく、ミッドが苦戦した近接
   戦闘型MTギボンである。
リーダー「来たなレイヴン。ここを爆破する作戦、邪魔はさせない。」
   ギボンは散開し、ジャンプ移動を繰り返しながらフォルヴァノンへと向かう。クィンツは
   接近するギボンをバズーカ砲で迎撃、一度に2体を撃破する。だが接近を許してしまった他の
   8体は、フォルヴァノンにブレード攻撃を繰り返す。クィンツはイクシードオービットを起動
   する。コア真上に射出された2体のビットがレーザー弾を放ち、左右から攻撃を繰り出そうと
   しているギボンを一撃の下に破壊した。
リーダー「クソッ、死角はないか。だがこれはどうだ。」
   リーダーが乗るギボンがレーザーブレードをバズーカ砲目掛けて一閃させる。繰り出された
   斬撃で真っ二つに切断される砲身、今まさに放とうとしていたバズーカ弾もろともその場で
   爆発させた。飛散したバズーカ砲の破片がヘッドパーツのカメラアイを破壊し、クィンツは
   完全に外部を窺い知る事ができなくなった。
クィンツ「しまった・・・。」
   リーダー機を除き、イクシードオービットの起動により4体を撃破した。しかし残弾が底を
   ついたため、フォルヴァノンは無力化した。一旦ビットを格納し、残弾の回復を試みる。だが
   格納されたビットを、リーダーはブレードにて破壊した。これで完全に無力化したクィンツで
   あった。
リーダー「死にな!」
   軽い衝撃が続き、その度にブレードの斬撃を受け続けるフォルヴァノン。回避行動を取るが、
   敵の機動力の前に翻弄され思うように動けない。暫くするとコクピット内部に警告音が響き、
   機体耐久力が限界に近い事を知ったクィンツ。心中では恐怖のあまり、トリガーを握る事すら
   出来ずその場に蹲る。
クィンツ「死にたくない・・・死にたくないよ・・・。」
   涙ながらに叫ぶクィンツ。だが敵の攻撃は容赦なく続いた。内部通信機器を破壊された事に
   より、リュウルに助けを求める事すらできなかった。完全に孤立したクィンツ。そして死へ
   足音が近付き始めていた時、機体の外部スピーカーが見知らぬ人物の音声を拾う。

                               第2話 2へ続く

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