〜第1部 18人の執念〜 〜第2話 地下に舞う風2〜 レイヴン「あんたを死なせはしないさ。」 全く聞き覚えのない男性レイヴンの声が、コクピット内部に響く。それを聞いたクィンツは 何が何だか分からないと思った。直後近くで爆発音が響く。この時謎のACによって1体の ギボンがレーザーブレードの斬撃で破壊される。 リーダー「誰だ貴様はっ!」 レイヴン「通りすがりのお節介焼きだ。」 再び爆発音が響く。リーダーが乗る機体が倒された。だがクィンツは見知らぬ相手に恐怖し、 ホルスターの拳銃を両手に持ちながら待った。コクピット内部から出て来ない事を知った相手 は、どうしたのだと開けて来るに違いない。クィンツはそう思ったからだ。 案の定暫くすると、コアの第1装甲版が開く音がした。次の第2装甲版が開けば、クィンツは 相手と対面する事になる。震える手で拳銃を両手に持ち、ハッチを開けるであろう人物に銃身 を向けた。 レイヴン「怪しい者ではない、銃をしまってくれ。」 突如相手は驚くべき発言をする。クィンツの取る行動を当ててしまったからだ。彼女は震える 声で相手に話しだした。 クィンツ「あ・・あなたは誰・・・、敵なの・・・。」 レイヴン「敵ならお前を助ける事はしない。相方が助けに来れないので、代わりに助けたまでだ。」 落ち着いた物言いをするレイヴン。その声を聞くと彼女はどこか安心した。拳銃を構えるのを 止めると相手に話し、直後第2装甲版が開いた。 レイヴン「大丈夫か?」 目の前にいるのはリュウルと同じか、それより体格が小さい男性がいた。クィンツは完全に 相手を信用した訳ではなく、膝に置いた拳銃に再び手を近づける。 クィンツ「・・・あなたは?」 レイヴン「通りすがりのお節介焼きだ。」 苦笑いを浮かべながら、彼女にそう答える。クィンツは疑いながらも、その後ろに待機して あるACを見て驚きの表情を浮かべる。それはエンブレムを見てであった。若い女性が大きな 大剣を持ったエンブレム。それは伝説のレイヴン、ウインドを指し示していた。レイヴンなら 誰しもが見たであろう、そのシンプルな紋章。その紋章が目の前のACに飾られている。 驚かないレイヴンがいるであろうか。 クィンツ「・・・も・もしかして・・・風の剣士?」 ウインド「ああ。リュウルの代わりにお前を助けた。礼は彼に言ってくれ。」 クィンツ「リュウルさんと・・お知り合い・・・なのですか?」 ウインド「彼の祖先の代から知っている。陰ながら見守っているという訳だ。当然大切な人材となる お前自身もな、クィンツ=メキレムア。」 自己紹介もしていないのに、自分の本名を言い当てた彼に驚きの表情を浮かべる。それが彼の 力なのかと驚愕するのであった。 クィンツ「リュウルさんは・・・無事なのですか?」 ウインド「あの後助けが来たよ。彼のパートナーのレイトと、ルーキーレイヴンのミッドだ。」 クィンツ「そうですか・・・よかった。」 ウインド「さて、依頼を終わらせよう。ここに配置されている時限爆弾を全て解除するぞ。」 ウインドは彼女に手を差し伸べ、クィンツは徐に手を重ねる。今の戦闘でフォルヴァノンは 完全に行動不能になっていた。ウインドは彼の愛機ウインドブレイドに彼女を搭乗させると、 彼女に機体を操作させる。自分が行っては意味がないと言い、クィンツ自身に爆弾解除を 行わせたのだ。慣れない機体で慎重に爆弾解除を行うクィンツ。その最中ウインドは彼女の 愛機を見ており、走行ぐらいはできるようにとメンテナンスを始めだした。 数十分後、クィンツは全ての爆弾を解除。爆弾をウインドブレイドの左手に持つと、彼の元へ 駆けつける。 クィンツ「ウインド様、終わりましたよ。」 ウインド「こっちも走行はできるように直しておいた。後はACに爆弾を積み、リュウル達の元へ 戻ろう。」 クィンツ「はいっ!」 すっかり打ち解けたクィンツとウインド。彼女が爆弾を解除している最中、彼は今時珍しい コミュニケーションを取ってきた。本当は明るい性格のクィンツ、すぐに彼と打ち解けた。 その後クィンツは爆弾をフォルヴァノンへと積み込み、そのまま愛機に搭乗する。ウインドも 愛機へと乗り込み、先に進むフォルヴァノンを護衛しながらリュウル達の元へ向かった。 レイト「あ、クィンツさん!」 先程エピオルニスと対戦していた区画へ戻る2体のAC。そこには凄まじいエピオルニスの 残骸が散らばっており、そこで行われていた戦闘がどれほど凄いものなのかを窺い知る事が できた。 クィンツ「初めましてレイトさん、クィンツ=メキレムアといいます。」 レイト「レイト=ウィンッツといいます。」 ミッド「お初っす。俺っちはミッド=レイレリアといいます。」 一通り自己紹介を済ますと、リュウルがフォルヴァノンを見て安否を気にかけてきた。安否と いっても本人は無事なのだが。 リュウル「大丈夫か?」 クィンツ「はい、ウインド様に助けて頂きました。」 クィンツの発言に3人は驚愕した。彼女の後ろにいる青色のAC、それをどこかで見た事が あるとは思っていた。それがまさか伝説のレイヴンだとは思ってもみなかったのだ。 ウインド「初めましてリュウル・レイト・ミッド、自己紹介は後でな。帰還しよう。」 リュウル「りょ・・・了解・・・。」 心中で驚きながらも、5人は地下水道を後にした。その最中ある程度ウインドと打ち解けた クィンツは普通に彼と会話をしている。それを遠目に見た3人は驚く事しかできなかった。 メカニック「これまた派手にやられたな。」 クィンツ「お世話になります。」 フォルヴァノンの機体を見つめ、メカニックが小さく驚いた。まあ今までにこれぐらいまで 大破したACを何度となく見てきたため、それほど驚いた表情ではなかった。 その後5人は再びあの飲食店へと赴く。その最中ウインドの威圧感に圧倒される4人である。 飲食店に入るとテーブルを囲み、5人はそれぞれの椅子に腰をかける。 ウインド「さて、本題に入ろう。もう知っていると思うが、ウインドという。よろしくな、小さき 勇者達。」 リュウル「沢島竜流といいます。」 レイト「レイト=ウィンッツです。」 ミッド「ミッド=レイレリアといいます・・・。」 どこか緊張している3人。クィンツはすでに軽いコミュニケーションを取っているせいか、 上がらずに接している。だが何を話していいのかと、4人はただ黙ったまま俯いていた。 ウインド「リュウル、アマギ・ユウト以上にしっかりしているな。アマギはどこか暗く、殆ど相手と 進んでコミュニケーションを取る事はしなかった。ユウトはアマギより明るく率先して 相手と接しているが、お前以上に日々の心構えはなかった。」 リュウル「・・・祖先をご存知なのですか?」 ウインド「共に戦った同志だ。」 ウインドは祖先と戦った経歴を詳しく話す。当然リュウルの祖先であるアマギとユウトは、 何世紀前の人物である。自分が今も行き続けているのは、相方がクローン転生を行ってくれて いる事も詳しく話した。そして何故行き続けている事に関しても、ウインドは詳しく話した。 レイト「そうだったのですか・・・。」 ミッド「俺っちには考えられないっすよ。」 ウインド「だかこれだけはハッキリ言える。お前達ロストナンバーレイヴンズの後継者を助ける為に 現れた。直接手を貸す事はしないが、相談役なら進んで行おう。何かあったら言いな。」 リュウル「ありがとうございます。」 その後食事を注文したクィンツは、あの大食女を発揮し食事を開始。その摂取量に驚かされる 4人であった。そんな彼らをウインドは微笑ましく見つめている。 だが勢い余って酒に手を出した4人は、徐に飲み続ける。酔うと酔わないの境に位置している ためか、普段話さない事を平気で話し出している。クィンツは今回の依頼で、あのリーダーに 殺されそうになった事を思い出し暗かった。またリュウルもレイトの家族を殺した事が後を 引き、クィンツ以上に暗くなっている。明るいのはレイトとミッド。そのはしゃぎ様は子供 さながらである。 レイト「なに落ちこんどるん?」 リュウル「・・・お前の家族を・・・殺したのは・・・俺だ。」 レイト「知ってるんよ・・・。でも何故に今も根に持ち続けとるん!」 リュウル「・・・お前、いつも素っ気ないじゃないか。まだ気にしていると思ってな・・・。」 レイト「・・・あんたが吹っ切るのを待っとるんよ、いい加減に吹っ切れなしゃい!」 リュウル「・・・殺したのは・・・事実だ、吹っ切れられない・・・。」 お互い対面すると、普段の会話と支離滅裂会話の境で話をしだすリュウルとレイト。ミッドは 酒が回り、その場に寝てしまっている。どうやら酒が入ると寝る性質のようだ。 クィンツ「・・・ウインド様ぁ〜、あの時・・・ありがとうっす!」 ウインド「気にするな、当然の事をしたまでだ。」 クィンツ「・・・優しいね。私ね・・・殆ど異性から全然話し掛けられないのよ・・・。顔に傷が あって怖いとか言って・・・。」 ウインド「傷があろうがなかろうが、お前はお前自身だ。誰が何と言おうが、決して気にするなよ。 自分の信念を絶対曲げず、貫き通して生きていきな。」 相手がどんな状況下でも、正しい事は言い切るウインド。それを知ったクィンツは、彼に対 する好意が芽生える。命の恩人はリュウルでもありウインドでもある。しかしここまで厳しく 生き方を定めてくれたのは、ウインドが初めてであった。それが芽吹く原因となったらしい。 彼の隣に座ると、クィンツはその肩に首を傾げる。丁度恋人同士が行う行動に似ていた。 クィンツ「・・・ありがとう、本当にありがとう・・・。」 ウインド「俺に惚れるなよ。」 苦笑いと冗談を含めて、ウインドはそう語る。だが時既に遅し、クィンツは彼に好意を抱いて いた。 クィンツ「もう貴方しか見えないっす。私のハートを鷲掴みで奪ったのは、貴方ですよ〜。」 ウインド「そりゃ嬉しいが、お前にも本当に思ってくれる人がいる筈だ。それまではその対象を俺に しておいてくれよ。」 ウインドは見抜いていた、クィンツの本当の心を。先程の戦闘でかなり自信を無くした彼女。 それに気付いた彼は希望を持たせるべく行動に移った。あえて自分を恋愛対象にする事で、 彼女に再び活力を持たせたのだ。良い事なら何でも行うウインド。これもその1つの行動で あろう。 クィンツ「ラジャーっす先輩!」 再びウインドの肩に持たれかかるクィンツ、その頭を優しく撫でる。それは仮の恋人しての、 そして世紀を超えて生き続けている父親としての行為であった。 飲食店のテーブルで4人が眠っている。すっかり酔ってしまい、心地よい寝息を立てている。 そこに彼らにとって見知らぬ人物が4人、徐に登場した。ウインドは彼らを隣のテーブルに 招くと、そちら側へと移動した。当然彼らが寝ている事をウェイトレスやマスターに話し、 了承を得ている。 ウインド「相変わらず若いよな・・・。レイスとデュウバも昔はああだったんだな。」 デュウバ「失敬ですね、私は殆ど飲酒はしません。以前破壊神軍団を倒した時に、多く摂取した位 です。」 レイス「フフッ、姉さんはベロベロになるまで飲んでましたね。」 世紀を超えて生きる女性レイヴン、レイス=ビィルナとデュウバ=ドゥガ。アマギやユウトの 時代より、更にお淑やかになる。今ではデェルダやオリジナルのレイス以上に美しく、そして とても強い女性でもある。 デュウバ「シェガーヴァ様とレイシェム様は飲酒はした事はありますか?」 シェガーヴァ「私は生前は一度だけ飲酒した事がある。」 レイシェム「私は誕生したばかりなので、飲酒はした事がありません。申し訳ありません、デュウバ 様。お役に立てずに・・・。」 更に世紀を超えて生き続けるサイボーグ、シェガーヴァ=レイヴァイトネール。そして再び ウインドによって転生させて貰った、ウィム=レイリヴァイトことウィンとオリジナルである レイスの人格を合わせ持つ女性型性格のサイボーグ。名はレイシェムといった。 デュウバ「そんな、謝らなくともいいのですよ。」 レイシェム「すみません。」 ウインドを思う一途さはレイトに負けるが、同志である4人を守るという決意は誰よりも強く そして固い。命を懸けて守り通す事を常に心得ているのである。彼女達をサイボーグとして 転生させたのは、今だに達成できていなかった一念を持っていた事からだ。そんな死者の魂が 考えている事を見抜ければ、ウインドは神以上の存在となる。しかしそれは今までの自分の 一念や彼女達の一念、そして今彼女達の力が必要であったからだ。それゆえに人格を移植した ボックスを解放し、シェガーヴァと同様のサイボーグとして転生させたのだ。 シェガーヴァ「知識の面ではレイシェムはかなり強い。私以上の素質を持つ。まあウィンとレイスの 人格を合わせ持っているのだからな。当然ではあるか。」 ウィム=レイリヴァイト。性格は他者とのコミュニケーションを大切にする優しき女性。その 優しさは今まででも出会った事がないと、ウインドは思っている。 南村レイス。レイス=ビィルナの原型ともなった、オリジナルのレイスその人。お淑やかで 誰でも労わる性格を持つ。唯一の欠点は逆上した場合、どんな人物だろうが殴り飛ばす。この 性格はユウトの妻、ライアに受け継がれていて彼を殴り飛ばした事もあった。 レイシェム=ウインドは、そんな2人の人格を合わせ持つ。いい所も悪い所も。だが実に極端 過ぎる性格は受け継がれてはいない。それは2人もそれを望んでいたからであろう。 レイシェム「リュウル様達は大丈夫ですか?」 レイス「何がですか?」 レイシェム「風邪を引かれたら可哀想ですから。」 ウインド「フフッ、お前らしいな。」 どんな時でも他者を労わり心配する。これがレイシェムの普段の姿。敬語でしか語らず、必ず 様を付けての発言。ある意味真のお嬢様といった所であろうか。 デュウバ「これからどうなされます?」 ウインド「一端この場を離れる。その間の護衛役はレイシェムに任せる。初めての活動だ、腕慣らし にはもってこいだ。・・・4人には悪いがな。」 レイシェム「了解ですお父様。この身に変えても皆さんをお守り致します。」 レイシェムは自分を作ってくれたウインドを、当然の如く父と呼ぶようになる。言うなれば 彼女はウィンとレイスの人格を持つ。記憶なども過去のものを継承している。しかし彼女は 生まれたての子供なのだ。過去の記憶を持つ子供。ある意味驚異ではあるが、それは彼らを サポートするべく生まれた定めである。 その後5人は酔いが回り眠っている4人を担ぎ、それぞれの部屋へと連れて行った。そして レイシェムはシェガーヴァが用意してくれた個人の部屋に待機。陰ながら4人を見守った。 ウインド達4人は他に調べる事があるらしく、その場を後にする。外は珍しく星空が輝き、 まるで彼らの行動を祝福してくれているようであった。 第3話へ続く |
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