思い出したくもない、あの出来事・・・。
   俺の最愛の妻、ディーアが殺された・・・あの日・・・。
   そう・・・憎きゼラエル=バルグに・・・。

マッシュ「今日はレイヴンとしての活動はないんだろ?」
ディーア「うん。でもACのメンテは行わないとね。」
マッシュ「ハハッ、確かにな。」
   ディーア、俺の妻。スミス=サラトガ兄貴の二女。ディーアと結婚した事により、スミスの
   兄貴は義兄となるのかな。またディーアの姉さん、リルガス。彼女は兄貴の戦友、ジェイズの
   兄貴と婚約した仲。頼もしいスミス兄貴がいて、リルガス姉さんとディーアは幸せだろう。

マッシュ「ディーアさんと結婚させて下さい!」
スミス「そ・・それは構わないが・・・。」
   俺はディーアの兄貴、スミスさんに結婚承諾のお願いをした。ディーアとはもう5年近く
   付き合っている。お互い恋も実り、結婚しようという事になった。
マッシュ「お願いしますっ!」
スミス「・・・マッシュ、ディーアを幸せにできるか?」
マッシュ「命に代えても守ります!」
スミス「そうか、分かった。ディーアの事、よろしく頼むよ。」
マッシュ「はいっ!」

   あの承諾からもう1ヶ月余り・・・。籍を入れ、結婚式を挙げる。何気ない新婚生活だった。
   だが・・・その時は来てしまった・・・。何で守ってやれなかったんだ!

   今日俺はレイヴンと対戦する。相手は名うての剣豪レイヴン、ロキ。場所は海底ドームだ。
ロキ「まさか女房を連れて来るとはな。」
マッシュ「すまねぇ。」
ロキ「ま、かっこいい所を奥さんに見せたいだろうし。」
ディーア「私もレイヴンですよ。」
ロキ「ほぉ、それはまた。今度機会があれば手合わせを。」
ディーア「いいですよ。」
   ロキという青年、気さくで誰とでも話す温厚な人物。だがACに乗れば、鬼神の如き強さを
   発揮するという。ロキは斬撃が、俺は射撃が得意。俺にとっては戦い難い相手だ。
アリーナ通信士「それでは指定の位置に待機してください。」
   俺は愛機のナイトコルベットを指定の位置に待機させる。前方にはロキのACラスト・ヘルが
   モニターを通して伺える。お互い指定の位置に待機完了し、後は対戦合図を待つのみ。
   だが・・・対戦どころではなくなってしまった・・・。
   轟音と共に、ガレージへの通路が爆破される。俺は何事かとそちらを伺う。ラスト・ヘルも
   同様に。爆炎で見えない入口が、徐々に見え出してくる。
   何かいる・・・、ACか・・・?
レイヴン「貴様らを殺しに来た。」
   相手が話した直後、強い衝撃と共に愛機が後方へ吹き飛ばされる。これはおそらく相手ACの
   エネルギーグレネードランチャーが当たったのだろう。
ロキ「誰だ貴様は?」
レイヴン「貴様等クズに、ゼラエルと名乗っておこう。」
ロキ「ではゼラエルとやら、俺とマッシュの試合を邪魔するな。」
   落ち着いた物言いだが、ロキの言い方にはかなりの怒りが込められている。彼は対戦前にこう
   言っていたな、“対戦の邪魔をする奴は容赦しない”と。俺も一応レイヴンだ、邪魔された
   からには言い返した。
マッシュ「ロキと同じだ、邪魔をすれば命の保障はない!」
ゼラエル「ほぉ・・・これを見てもそう言い張れるか?」
   相手の言い様に、俺は相手ACの画像を凝視した。・・・驚愕した、奴のACの左手には俺の
   最愛の妻ディーアがいる。なぜだ・・・なぜここにいるんだ・・・、観客席に向かった筈では
   なかったのか・・・。
ディーア「マッシュ、私の事は構わないで。こいつをやっちまって!」
   ディーアがそう意気込んだ直後、相手はACの左手に力を加える。コクピット内まで聞こえる
   ディーアの絶叫。俺は無我夢中で愛機を起こす、そして相手ACを狙撃しようとした。
ゼラエル「まさかこいつを助けようと考えているのか?」
マッシュ「当たり前だ!」
ゼラエル「フッ・・・甘いな。」
   その瞬間は起きた。ゼラエルはACの左手を強く握り締める、この瞬間指の間から凄まじい
   血飛沫が飛び散った。ディーアが・・・殺された・・・、呆気なく・・・。
マッシュ「ディーアぁぁぁぁぁっ!」
   俺はレーザーライフルを相手目掛けて射撃しようとした。だが今度はチェーンガンの弾丸が
   ナイトコルベットを直撃。レーザーライフルと脚部パーツが撃ち抜かれ、その場に転倒する。
ゼラエル「アーハッハッハッ、惨めなものだな!」
ロキ「貴様がな!」
   ゼラエルが叫んだ直後、ロキが反撃に出る。ラスト・ヘルのその速さにはゼラエル側も対処
   できず、ACの左腕がブレードにより切断される。
ロキ「ここまで非道極まりない者を・・・初めて見た・・・。貴様は生きる価値などないっ!」
ゼラエル「ほざきなっ!」
   左腕切断後のラスト・ヘルは一瞬硬直状態になる。そこにゼラエル側のカウンターが開始。
   右腕武器の拡散機関銃が火を吹き、夥しい弾丸がラスト・ヘルを襲った。その弾丸により、
   ラスト・ヘルの上半身ユニットが撃ち抜かれる。
マッシュ「ロキ!!!」
ゼラエル「なかなかやる・・・だがこの位で引き上げるとしよう。さらばだ、負け犬!」
   殆ど行動不能に近いラスト・ヘルを無視し、ゼラエルはガレージの通路先へと消えていった。
   俺はナイトコルベットを降り、ラスト・ヘルまで走る。
マッシュ「ロキ、大丈夫かっ!」
   銃撃により変形し開きそうにないコアの開閉ハッチを、俺は力の限り開けようとした。力では
   自慢できる方だからな。数秒でハッチを抉じ開け、ロキの安否を気にかけた。
マッシュ「大丈夫か?!」
ロキ「奴は残忍だが、腕は物凄くいい。こちらの電源系統だけを撃ち抜いてきやがった。」
   ロキは無事だった。と言うか全くの無傷、これもゼラエルの腕の凄さなのか。
マッシュ「よかった・・・、だが・・・ディーアは・・・。」
ロキ「・・・・・。」
   俺は切断されたゼラエルのACの左腕を見つめた。指先には大量の血痕が付着している。
   俺はロキに了承を得て、コクピットへ座る。行動不能に近いラスト・ヘルに鞭を打ち、右腕
   武器のバズーカを左腕に放つ。放たれた弾丸は左腕に着弾、爆発を起こし飛散した。
ロキ「これでよかったのか?」
マッシュ「生前彼女はこう言ってたよ。“悲惨な死に方をしたら、死体は消滅させてくれ”と。」
ロキ「・・・これからどうするんだ?」
マッシュ「決まっている、ゼラエルを殺す。ディーアと同じやり方でなっ!」
   俺は泣きながら、そう決意する。ゼラエルを殺す、今日からそれが俺の行動理念だ。

ロキ「もっと強くなりなマッシュ。」
マッシュ「ああ、あんたより強くなる。そしたらまた闘おう。」
ロキ「楽しみにしている。」
   ロキと握手を交わし、彼はディーアが死んだアリーナを去って行った。あの時対戦した人物が
   ロキ以外のレイヴンであったなら、間違いなく殺されていただろう・・・。
   ・・・それから数年後、俺は当てもなく生きて来た。ロキは新たなる戦いを求め、世界中の
   アリーナを移動しているらしい。

サイドワインダー社員「敵襲です!」
サイドワインダー社員長「迎撃に回れ!」
マッシュ「・・・へいへい。」
   過去の回想から現実へ戻った時、輸送隊が何者かに襲撃されたようだ。俺はモニターと全方位
   レーダーを確認、複数の反応がある。これはACか、ACならまず勝ち目はない。
   だが・・・俺は逃げない。それに恐怖心というものは、ディーアが死んだ後・・・もう何も
   感じなくなった。むしろ・・・死に場所を求めているのかもな・・・。

   だが・・・この後の彼らの戦闘後、素晴らしい人物だという事が分かった。若くして最強の
   レイヴン、マスターオブアリーナになったアマギ君の仲間達。
   そしてここからが・・・、俺の本当の戦いなのだ。ディーアの無念を晴らす為もある戦い、
   彼等の行動はディーアの考えていた事と同じに近い。
   “困っている人は助けなきゃね”、ディーアのよく言っていた口癖。
   “卑怯な戦いはしたくない、正々堂々全力を持って闘いたい”、ロキの口癖と信念。
   アマギ君達が行っている行動は、2人の理念と殆ど合点が合う。正に2人は俺をこの場に導き
   出してくれたかのように。

   “ディーア。お前の願い、必ず叶える”、俺の最愛の妻ディーア。
   俺の優秀なパートナー、心の支え。彼女から生きる喜びを学んだ。
   “ロキ、素晴らしい人物と出会えたよ”、俺と対戦する筈だったレイヴンのロキ。
   俺の命の恩人でもある彼。彼と対戦しなかったら、俺は彼らと出会えなかっただろう。

   “ありがとう、ディーア。そしてロキ、必ず闘おうぜ!”俺はそう心に誓った。俺の大切な
   妻と戦友へ・・・。
〜スペシャルサンクス アビスさん(パイロット&AC提供)〜

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

戻る