〜第2話 蒼い地球〜
   デュウバと再開してから約1週間後。俺達はアイザック・シティガードから依頼を受け、月面
   基地へと向かう事になった。かつてムラクモ社が所有していた月面基地が何者かに占拠された
   という連絡が入ったからだ。今となっては全く使う事がなくなった月面基地。何でも大破壊の
   引き金となった超巨大レーザー砲ジャスティス、これを建造するための物資運搬中継基地と
   して利用していたようだ。そのジャスティスは先の大戦でアマギ達ロストナンバーレイヴンズ
   が破壊し、既に無き物であるが。
エリシェ「宇宙空間ですか。」
レイス「ええ。私は何度か行った事がありますが、とても居心地がいい場所ではありません。」
   月面基地へ向かう事になったのは俺とレイス・エリシェ・ガイレスの4人。レイスは当然と
   して、エリシェはサポート・ガイレスは弾薬補給役としての参加である。
ガイレス「確かにな。宇宙空間は空気がねぇ、宇宙服を着用しないと確実に死ぬ。AC自体も機密性
     は高くないし、正しく誰も助けに来れない空間だな。」
   ガイレスが自分を含む4人分の予備弾薬などを最終チェックする。ここはアイザック・シティ
   宇宙港。今ここでは平西財閥の力を使い、宇宙用大型スペースシャトルの発射準備に取り
   掛かっている。全世界に子会社や分身企業・参加企業がある平西財閥、当然コネは大きい。
   宇宙用大型スペースシャトルをチャーターする事など朝飯前といった所であろう。さすがは
   最強の企業。こういった巨大な力が善をバックアップすれば、ミッションなどの依頼は確実に
   成功する。
ユキヤ「リーダーはガイレス、参謀役はエリシェに任せる。」
ガイレス「おいおい、あんたがやった方がいいんじゃないか?」
ユキヤ「俺は陰だ、光であるお前達の方が相応しかろう。それに戦術などを練るのはガイレスに
    向いてそうだからな。」
   そう、ガイレスはかなりの戦略家。先走らない・大きく物事を見る・人命を最優先する、
   アマギやトム・ゼランといったやり手レイヴンに続く優秀な人材。さすがは年の功か。
ガイレス「分かった。あんたがそこまで言ってくれるのなら、喜んで引き受けさせてもらうよ。」
エリシェ「兄さん、私は何をしたらいいのですか?」
ユキヤ「主に通信士をしてくれ。後で固有の通信チャンネルを教える、それを通して目的の場所や
    敵の情報を逐一連絡してくれ。」
エリシェ「分かりました。」
   今では妹達の纏め役として頑張っているエリシェ、しっかり者の姉的存在だ。また1年前と
   大きく変わり、お淑やかになりつつある。これはレイスが大きく影響しており、さすが皆の
   姉御だなと思った。
ユキヤ「暫く外す、ゴウに連絡しておく事があったから。」
ガイレス「了解、全てのチェックを済ませておくぜ。」
   俺はガレージの端にあるコンピューター端末へと向かい、平西財閥大型ガレージへとアクセス
   した。アクセス先はガレージ地下に待機するシェガーヴァである。
シェガーヴァ「どうした?」
ユキヤ「留守中皆の事を頼む、まあ大丈夫だとは思うが。」
シェガーヴァ「了解した。奴らが攻めて来た場合、命に代えて皆を守ろう。」
ユキヤ「よろしくな。」
シェガーヴァ「お前こそ気を付けろ。サイボーグである私でも何か嫌な予感がする。私の悪の化身が
       どう出るか、自分でも分からない。」
ユキヤ「ああ。」
   シェガーヴァ自身は生前の人間の心を取り戻した。またコンピューター同士であれば相手の
   思考を大体の予想で読む事が可能。だが人間の思考では読む事は難しい、俗に言う不測の事態
   というものだ。だが今のシェガーヴァには弱点がない。人としての善の心を完全に取り戻した
   彼は人間の思考と心、そして機械の鋭く的確な判断力がある。これら2つを持ち合わせた
   シェガーヴァは完全無欠と言っていいだろう。唯一の欠点は、今までの悪行を自分の罪と重く
   感じている所。だがそれは人間と同じく、一度人を捨てた彼が再び人に戻った事が現れている
   のではないだろうか。
   通信を終え、俺は3人の元へ戻る。既にスペースシャトルへの運搬・物資の搬入は終わって
   おり、後は俺がシャトルへ乗り込めばいいという事である。3人は既に宇宙服を着て俺の事を
   待っていた。合流するとタラップを利用し、シャトル内へ搭乗する。
エリシェ「何だかワクワクしますね。」
ユキヤ「暢気なものだな。」
   指定の座席へと座り、メカニック達に対衝撃用のシートベルトをこれでもかという位にきつく
   締められる。当然か、大気圏突入時に外れでもしたら死ぬ可能性がある。それにこれだけの
   大質量シャトルだ、打ち上げる時のかかる重力の度合いも凄まじいものがあるだろう。
メカニック「準備完了しました、お気を付けて。」
レイス「ありがとう。」
   全ての準備は整った、後は正真正銘のシャトルの打ち上げだ。管制員から内部通信が入り、
   シャトルのエンジンが始動する。だんだん強くなっていく機体全体の揺れ、何度こういった
   場を体験した事か。俺は僅かな間、過去に浸りだす。その最中カウントダウンが終わった
   シャトルは宇宙港から発射、一路月面基地へと向かって行った。

   過去に浸っていた間に、既にシャトルは大気圏を抜け宇宙空間へと出た。後は月面基地へと
   向かうだけである。エリシェは興味身心に丸い窓から外を見つめている。彼女は宇宙は初めて
   だったな。レイスとガイレスも彼女の肩越しに外を見つめていた。
ガイレス「あれが俺達が住んでいる地球。青く美しい星だろ。」
エリシェ「凄い・・・、やっぱり地球って丸かったんですね。」
レイス「フフフッ、そうね。」
エリシェ「・・・なんで地球で争い事がなくならないんでしょうかね。あんなに美しく宇宙で人間が
     住める星を汚すんでしょうか・・・。」
ユキヤ「それが人間だ、つまらぬ感情を抱くと争いが起こる。全てに始まった事じゃないが、
    過去を振り返ればそれが紛れもない真実。」
   座席で天井を見つめながら、エリシェの問いにそう答える。ただ単につまらぬ感情を抱くのは
   いい、要はその人物が力を持っているかどうかだ。一企業の人物がそのような感情を抱けば、
   戦争になりかねない。かつて人類を地上から地下へと移住させざろうえない状況になった
   大破壊も、人間のエゴから始まった事だ。こればかりは振り返り、決して忘れてはいけない。
エリシェ「だから頑張っているんですね、私達は。」
レイス「そうよ。私達が頑張らないとまた同じ事が起こるかも知れない、そうならない為にも私達が
    頑張る必要があるのよ。」
エリシェ「はい。」
   エリシェにとって今回の宇宙へ上がった事は、何よりの体験となっただろう。今の地球に住む
   全人類にも自分達が住む地球を見せてやりたい。そうすれば多少なりとも争いを起こす事は
   少なくなると思う。
操縦士「そろそろ月面基地です、座席へお座り下さい。」
   内部通信を通して、操縦士から連絡が入る。3人は座席へと座り、基地到着を待った。所要
   時間はざっと約1時間といった所か。シャトル全体が制動に入り、身体に重力がかかる。
   その後軽い衝撃と共に、シャトルは月面基地へと到着した。
操縦士「敵側は基地内にいる模様です、お気を付けて。」
   俺達は座席から立ち上がると、格納庫へと向かう。そこには機体安定用の補助ブースターが
   取り付けられた愛機が4機、静かに待機していた。それぞれに愛機に乗り込むと、コンソール
   の電源を入れる。ジェネレーターが低い唸りをあげて起動。振動がAC全体に響き渡る。
   宇宙は空気がない、ゆえに音は全く伝わらない。振動は直接でなければ伝わらないし、助けの
   声をあげても通信手段を使わなければ絶対に聞こえない。正しく宇宙は孤立無援の暗き世界。
   自分の身は自分自身で守らなければならないのだ。
ユキヤ「聞こえるか?」
レイス「大丈夫です。」
エリシェ「OKよ。」
ガイレス「感度良好。」
ユキヤ「リーダーはガイレスだが、俺が作戦内容を説明する。俺とレイスは月面基地内へ侵入、
    エリシェは入口付近で待機。ガイレスはシャトルを守りつつ、補給を担当してくれ。もし
    敵がシャトルに近付いてきたら、エリシェも護衛に回るように。」
3人「了解。」
   遠隔操作でシャトル後方のハッチを開き、俺達は月面基地へと向かった。外は何もない世界。
   あるのはクレーター群と砂丘、そして闇であった。
エリシェ「怖い所ですね・・・。」
ユキヤ「宇宙だからな。」
   エリシェが普段以上に話し掛けてくる。心境は相当恐怖で一杯なのだろう。だがこれも大切な
   体験、俺は聞き役に徹していた。補助ブースターで移動しながら進むと、正面に月面基地の
   大型ゲートが見えてくる。ゆっくり着地すると、レイスはハッチの開閉を始めた。ロックは
   されておらず、更にすんなりハッチが開いた。つまりは敵が内部にいるという事である。
ユキヤ「困った事があればガイレスに連絡しな。」
エリシェ「分かりました、気を付けて下さいね。」
ユキヤ「ああ。」
   俺とレイスは月面基地内部へ侵入した。配置は前方を俺が、後方はレイスがキープする。
   レイスの機体構成は遠距離構成、後方支援に徹してくれた方が俺には動きやすい。
レイス「静かですね・・・。」
   長い通路をブースターダッシュで駆け抜ける最中、レイスが内部通信にて話してきた。確かに
   敵が占拠しているのであれば、何らかのトラップや迎撃があってもおかしくはない。それに
   誰かがいた形跡があってもおかしくない筈だ。
ユキヤ「レーザーに反応は?」
レイス「向かって2時の方向に1つ。」
ユキヤ「とにかく置くまで進んでみよう。」
   俺とレイスは基地中央部まで愛機を進めた。その最中でもトラップや迎撃などはない。俺達は
   点がある場所まで慎重に進む。
レイス「ここですね。」
   俺の愛機のレーダーでも捕らえている、敵らしき機影が1つ。しかも全く動こうとしない。
   俺は目の前のゲートの開閉を試みる。だが以外にもすんなり開いてくれた。
レイス「?!」
   ゲートを進み内部で目撃した機影、それはかつて存在したレイヴンズ・ネストが管理する人口
   AI搭載型のACナインボールであった。あのシルエットだけは忘れまい、赤い悪魔の異名を
   持つ、最強ランカーAC。
ハスラー・ワン「・・・・・イレギュラー、・・・排除する。」
ユキヤ「そう来るか。」
   ナインボールは右腕武器のパルスライフルを連射してくると、その場に跳躍。こちらの背後を
   取ろうとしてきた。俺はレイスに壁端まで後退するように話すと、ナインボール目掛けて
   レーザーブレードを一閃した。その行動は無駄に見えるが、ブレードの斬撃時の加速力は
   どんなブースターを使用したダッシュより凄まじい。つまり前方へ進み出る事が可能な訳だ。
   俺が愛機にブレードを振らせたおかげで、ダークネススターとの距離が大きく離れる。そこに
   ナインボールが着地してくる。それを確認すると、レイスは既にレーザーキャノン発射体勢に
   移行していた。最大までチャージし終えたレーザーキャノンをナインボール目掛けて放つ。
   高圧縮されたレーザー光弾が着地したナインボールの上半身を吹き飛ばした。今となっては
   ハスラー・ワンのロジックはロストナンバーレイヴンズの操作技術には到底及ばない。それに
   1対1で真価を発揮するナインボールだが、2機のACを相手では成す術がない。上半身を
   吹き飛ばされたナインボールは、電気系統のショートを引き金に粉々に吹き飛んだ。
レイス「甘いあまい。」
ユキヤ「もうナインボールなど過去の遺物に過ぎない。むしろ奴等を知り尽くした人間のレイヴン
    こそが、最大の敵であろう。俺達みたいのな。」
レイス「そうですね。」
   直後エリシェから内部通信が入った。回線は常にオープン状態であるため、ナインボールの
   爆発音を聞き慌てて何があったかと心配してきた。
エリシェ「大丈夫ですか?!」
ユキヤ「大丈夫、俺達は無事だ。だが厄介な事にナインボールがいた。気を付けろ、そっちにも
    来るかも知れないぞ。」
エリシェ「分かりました、ガイレスさんの所へ行きます。」
   さすが機転が上手いエリシェ、ナインボールの弱点をしっかりと知り尽くしている。連携を
   取れば、何体ものナインボールが来ようが勝利できる。女の子が女性レイヴンとなった事に、
   俺は嬉しく思った。
レイス「どうします、戻りますか?」
ユキヤ「まだ奥がありそうだ、行ってみよう。」
   俺とレイスは更に基地の最深部まで向かった。ナインボールが出てくるとなれば、誰かしら
   待ち受けている可能性がある。それが4人の鬼神なのかどうか、又は悪心のシェガーヴァで
   あるのか。先程以上に慎重に愛機を進める俺とレイス。

   俺とレイスがナインボールを撃破した時、地球の平西財閥では同じナインボールが10体出現
   していた。奴等の目的はもちろんアマギ達の消去の何ものでもない。迎撃に出たのはキュム・
   ゼラン・テュルム・ルディス・ユリコ・ユキナの6人である。
キュム「なんでナインボールが現れるの?!」
ゼラン「敵さんに聞いてくれ。」
   キュムとゼランは見事なコンビネーションで次々とナインボールを破壊していく。その手際の
   良さは他の4人に行動をさせないぐらいだ。出現した10体のうち既に4体を撃破している。
テュルム「やはり・・・敵の目的は、私達の消去なのでしょうか・・・。」
ユリコ「絶対そうですよ。理由は敵が攻撃を止めない事。」
ルディス「とにかく降りかかる火の粉は払い除ける事!」
   ルディスの愛機フィーンヴェナスはナインボールに体当たりを見舞う。反動で体制を崩した
   ナインボールに、ユリコとテュルムのレーザーブレードコンビネーションアタックを同じく
   見舞う。これによりナインボールは機体を3つに引き裂かれ、大爆発を巻き起こす。
ユキナ「ユウジさんの大切な財閥、命に代えても守ってみせる!」
   ユキナの愛機トゥルースは右腕武器のレーザーライフルを射撃する。放たれたレーザー弾が
   ナインボールのヘッドパーツを貫く。そこにキュムとゼランがレーザーブレードコンビ
   ネーションアタックを行い、切り刻まれたナインボールは粉々に飛散した。
ユキナ「敵の真の目的は一体・・・。」
キュム「危ないユキナさんっ!!!」
   ユキナが敵の目的を考えだした隙に、ナインボールがレーザーブレードを発生させ突撃して
   くる。キュムが内部通信を通して警告するが既に遅く、トゥルースはナインボールの斬撃を
   受けそうになった。不意打ちにユキナは死を覚悟したが、攻撃を仕掛けてきたナインボールは
   直後粉々に飛散する。
シェガーヴァ「余計な事を考えるな、今は敵を破壊する事だけを考えろ。」
   危ない所をシェガーヴァに助けられたユキナ。ヘル・キャットは右腕武器のレーザーライフル
   をナインボールのジェネレーターに放ち、一撃の下に破壊したのだ。これはかなりの熟練した
   腕を持つレイヴンしかできない射撃精度で、さすがはサイボーグであろう。ユキナは彼の
   突然の登場に驚き、行動が止まっていた。だが残りの3機のナインボールは、既にキュム達に
   撃破されていた。最強と謳われたナインボール、その10体が呆気なく敗れ去った。
ゼラン「ふぅ〜・・・。」
キュム「大丈夫ですかユキナさん?」
ユキナ「え・・ええ・・・。」
   ユキナは愛機のヘッドアイから送られてくるヘル・キャットの画像を凝視し続ける。目の前に
   いるACは、約1年前俺が撃破した敵ACヘル・キャット。ユキナは何がなんだか分からなく
   なっていた。
ユキナ「あ・・・貴方は・・・シェガーヴァ・・・?」
シェガーヴァ「そうだ。ウインドに悪心を消滅させてもらい、お前達の力になるように言われた。」
   シェガーヴァは全く動じない言動で対応する。もっとも相手の思考を読んでの行動であり、
   ユキナが自分を理解すると分かっていたからだ。
ユキナ「・・・まずはお礼を。先程はありがとうございました。」
シェガーヴァ「本来はウインドが行うべき行動を私が行ったまでだ。別に気に留める事ではない。」
ユキナ「では本題です。貴方は敵ですか、それとも味方なのですか?」
   簡単かつハッキリした質問だ。敵か味方か、それを知る事が第1条件である。だが自分を
   助けてくれた事を考えると、ユキナはシェガーヴァの答えが分かってはいた。
シェガーヴァ「紛れもない味方だ。真の敵は己の悪心の塊。先程のナインボールは私の悪がここに
       攻めさせたのだろう。これは私の責任だ、すまなかった。」
   シェガーヴァは普通に詫びる。そう自分の悪がこのような事をしたのだ。自分にも責任は
   十分あると思っていた。だから一件関係なさそうではあるが、シェガーヴァは悪の自分の立場
   から詫びたのだ。
ユキナ「い・いえ・・・。貴方が味方だと分かればいいのです。こちらこそ敵だと思い、このような
    行動をしてしまって申し訳ありませんでした。」
   ユキナも自然と詫びる。社長になってからの彼女は人一倍一途な性格になった。それゆえに
   しっかりと詫び錆びの行動を弁えるのである。
シェガーヴァ「フフッ、ユキナはしっかり者になったな。これならば財閥は未来永劫栄え続けるで
       あろう。住人の圧倒的な支持を受けていれば、栄えない方がおかしい。」
ユキナ「あ・ありがとうございます・・・。」
   シェガーヴァの現実も見定める目は鋭く的確だ。未来も予測できるその千里眼は、相手の善や
   悪をも見抜ける。もっともそういった事が本当にできては化け物だ。アマギ以上の鋭く的確な
   洞察力と直感があってこそできる技であろう。
キュム「ところでさ・・・シェガーヴァさんはどこから来たの?」
シェガーヴァ「財閥の地下最下層、ジャンクパーツが保管してある場所だ。そこでウインドに再構築
       してもらった。」
ルディス「灯台下暗しってやつですね。」
ユキナ「シェガーヴァさんはこれからどうされるのですか?」
シェガーヴァ「決まっている。ウインド不在の今、お前達ロストナンバーレイヴンズを命に代えても
       守る事。それが私の使命。何か困った事があれば話してくれ、出来る限りの力には
       なるつもりだ。」
   シェガーヴァはヘル・キャットを財閥の正面に待機させると、物言わぬ巨人へと変わる。
   その行動に不思議そうな表情を浮かべるユキナ達だが、俺と同じ行動で語るという事がよく
   分かった。
シェガーヴァ「さあお前達の役目を行うのだ。私は皆が帰るべき場所を死守しよう。」
ユキナ「シェガーヴァさん、ありがとうございます。」
   ユキナ達はそれぞれの役目に戻っていった。今のナインボール戦でシェガーヴァが参戦した
   事は、ロストナンバーレイヴンズ全員に知られる。だが俺が信じた者だと分かると、自然と
   同志と認める。一時は敵であったシェガーヴァ、それを簡単に味方だと信じる彼らも凄い。
   俺の存在が彼らにどれだけ大きいものなのかがよく分かった。

   一方月面基地では、俺とレイスは最下層まで愛機を進めていた。最下層に向かえばむかうほど
   強い殺気が俺を捕らえる。おそらくレイスも感じ取れているであろう。電源システムは死んで
   はいなく、ゲートの開閉はすんなり行えた。むしろ態とそうしてあるように感じる。
レイス「こ・・・この殺気は・・・。」
   レイスの声が震えている。この殺気を感じ取り、コクピット内で震えているようだ。熟練者
   であるレイスがこれだ、俺も嫌な予感が強く感じられる。
ユキヤ「レイス、シャトルまで戻れ。後は俺がやる。」
レイス「そ・そうはいきません、最後までお付き合いします。」
ユキヤ「行ってくれ・・・。」
   俺はこの強い殺気以上の感情が込められた発言をし、レイスをシャトルまで戻そうとした。
   俺の感じた事のない強烈な殺気にレイスは恐怖し、渋々シャトルまで戻っていった。その最中
   内部通信を通して訳を話しかけた。
ユキヤ「すまないな。だかこれだけは分かってくれ、敵は今まで以上に強いという事。俺とお前が
    戻れなかった場合、誰が地上の2人を助けるんだ。俺はともかくお前達には未来がある。
    陰の戦いは俺に任せろ、お前達は俺の意思を継いでくれればいい。」
レイス「・・・はい。」
   彼女は泣いているようだ。これを今生の別れと感じ取ってしまったからだろう。だがレイスが
   そう感じ取っても、俺は死ぬ気がしなかった。彼らを残して死ねる筈がない。だが今はこの
   方法が最善策だと俺は思う。俺はそうレイスに告げると、愛機を最下層へ向かわせた。

ユキヤ「ここか・・・。」
   俺は今まで見た事がないような大型ゲートの前に立っている。この規模は元クローム社製の
   巨大MT、デヴァステイターが歩行できるぐらいの大きさか。俺は開閉システムを操作し、
   大型ゲートを開いた。地鳴りと共に巨大なゲートが開きだし、内部の様子が伺えてきた。
悪のシェガーヴァ「来たか。」
   内部には予想通りの物があった、デヴァステイターだ。その両隣にはファンタズマが2機。
   これを1人で破壊するのは難しいか。
ユキヤ「本体じゃないな。」
悪のシェガーヴァ「当たり前だ、私自身は地球にある。できそこないの私がお前をサポートしている
         ようだが、何の役にも立たん。屑鉄にすぎない。」
   俺は無意識に愛機のレーザーライフルを射撃、レーザー弾は向かって右側のファンタズマの
   プラズマキャノンに当たり大爆発を巻き起こす。爆発で機首が粉々に砕け散るファンタズマ。
   だが戦闘には差し支えなさそうだ。
ユキヤ「彼を侮辱するのはやめろ。貴様こそがゴミなんだよ、イレギュラーが!」
悪のシェガーヴァ「そうすぐに感情を爆発させる、それが人間の愚かな所だ。」
ユキヤ「機械の貴様には分かるまい、これが人間だ。元人間とは思えんな。」
悪のシェガーヴァ「私は人を超え、機械を超えた者だ。だからこそそういった考えをおこすクズを
         排除する必要があるのだよ。」
ユキヤ「よく言う、鉄屑が。」
悪のシェガーヴァ「何とでも言え、ゴミが。さあ死ぬがいい。」
   遠隔操作で動かされているデヴァステイターとファンタズマ2機が動き出そうとした瞬間、
   俺の後方からレーザー弾やミサイル弾が3体に向けて発射された。それらは相手側の足元に
   着弾し、爆炎を巻き起こす。
エリシェ「間に合った。」
ガイレス「この状況は確かに不利だな。」
   内部通信を通してエリシェ・ガイレスの声が聞こえてきた。そしてレイス自身も。
レイス「嫌われてもいい、でも私は貴方を死なせたくはない。貴方こそ今の世界に必要な人材なの
    です、私は貴方と共に戦い生きます!」
   レイスらしい、これが彼女が出した答えなのだろう。彼女には頭が下がる思いだ。
レイス「ウインドさんを殺す者は私の敵、絶対にぶちのめすっ!!!」
   レイスは愛機をレーザーキャノン発射体勢に移行させると、チャージを待たずに光弾を発射。
   発射されたレーザー弾は爆炎から進み出たデヴァステイターの右腕に着弾する。そして僅か
   ながらのエネルギーを使用し、レーザーキャノンを連射するレイス。効率は非常に悪く武器を
   傷めるが、即効性に長ける行動だ。レイスの行動を確認すると、ガイレスも愛機の武装を放ち
   応戦する。俺とエリシェは愛機を前に進ませ、左右から同時に右腕武器のレーザーライフルを
   射撃する。先程の爆炎は消え、デヴァステイターとファンタズマ2機がこちらへゆっくりと
   進んで来た。
ガイレス「ウインドとエリシェちゃんは動きの遅いファンタズマをやってくれ。俺とレイス嬢は的が
     大きいデヴァステイターをやる。」
エリシェ「了解!」
   ガイレスの指示に従い、俺とエリシェは負傷したファンタズマから片付ける事にした。先程の
   援護射撃の殆どが負傷したファンタズマに着弾し大破寸前の状態だ。俺達は煙を上げている
   機首部分にレーザー弾を放ち続けた。連続で着弾するレーザー弾の威力に機体が耐えられず、
   火花を上げた瞬間大爆発する。一方ほぼ無傷の状態であるもう1機のファンタズマは、機首の
   プラズマライフルを正確に射撃してくる。その射撃率はシェガーヴァ並だ、さすが悪の奴が
   仕立てた事だけはあるな。それに射撃をしている最中に垂直発射ミサイルランチャーを連射
   してくる。コンピューターに連続攻撃をさせるロジックを扱いさせるのは非常に難しく、この
   ファンタズマはかなりの強さを誇ると直感した。
ユキヤ「焦るなエリシェ、敵の一瞬の隙を付くんだ。」
エリシェ「分かりました。」
   だがこちらは百戦錬磨のレイヴンだ。しかも機械より遥かに優れた考えを持つ。これは絶対に
   機械には真似できないだろう。更には人間には生きる希望や強い意志がある、機械にはこれが
   全くない。唯一機械を越える機械は、人間の良心を合わせ持つ善心のシェガーヴァであろう。
   俺とエリシェはブースターダッシュを併用しながら、ファンタズマの周りを旋回する。その
   最中に俺は機雷発射装置を、エリシェは小型ロケットランチャーを射撃。機雷弾は射撃距離が
   ゼロ距離射撃に近く、ファンタズマに着弾し続ける。小型ロケット弾は連続でファンタズマの
   垂直発射ミサイルランチャージョイント部に直撃、勢いでジョイント部分がもげ落ちる。
エリシェ「もらったぁ!」
   エリシェはウインドフェザーを突進させながら左腕武器のレーザーブレードを発生させる。
   そしてファンタズマに勢いよく突いた。ブレードは機体脇腹部分を貫き、ジェネレーターに
   直撃する。直後機体各所から炎を噴き出し、エリシェが離脱後大爆発する。赤い機体が細かい
   破片となり、地面へと降り注ぐ。
   一方のレイスとガイレスはデヴァステイターを火力勝負で対峙している。ガイレスのACは
   走行系、ゆえに回避行動がし辛い。そこをレイスがサポートし、デヴァステイターの攻撃を
   自分に向けさせていく。だがレイスのACは2足型、機動力は俺のACより上だ。相手から
   放たれる攻撃は全く当らない。
ガイレス「ウインド・エリシェちゃん、背後から奴のジェネレーターを狙撃してくれ。」
   ガイレスの指示を聞くと、俺は愛機のブースターを解放。凄まじい勢いでデヴァステイターに
   突撃する。その際にレーザーブレードを発生、正面に向けて構えた。ウインドブレイドが
   デヴァステイターの腹部まで近付いた瞬間、俺はレーザーブレードを一閃させる。もちろん
   この時のブレードの火力は5倍モードだ。通常より長くなった刀剣は、相手の胸部と脚部の
   ジョイント部分を真っ二つに切断。直後デヴァステイターは木っ端微塵に吹き飛んだ。その
   爆発に巻き込まれる愛機だが、爆発が止んだ時には無傷で床に立っていた。
レイス「す・・・凄い・・・。」
ガイレス「これが風の剣士の実力か・・・。」
ユキヤ「さあどうする屑鉄、貴様の手駒は消え去ったぜ。」
悪のシェガーヴァ「なるほど、遠隔操作では無理があったか。では次回は我が分身を直接相手にして
         もらうとするか。逃げずに地球まで殺されに来い。」
   悪のシェガーヴァの音声が止むと、再び静寂が辺りを包んだ。
ガイレス「陰気な奴だな、地球まで殺されに来いとは。」
エリシェ「ここで殺した方が手っ取り早いのに。」
ユキヤ「それだけ苦しめという事だ。時期彼らも財閥に集結してくるだろう。ミッションは終了と
    いう事になるな。」
レイス「では帰還しましょう。」
   俺達は最下層の部屋から地上へと向かった。基地全体のシステムはダウンしているのに、
   ゲートの開閉システムはダウンしていない。全く奴ほどのお節介はいないだろうな。
   基地外に出ると、月面システムの全機能が停止。悪のシェガーヴァによって月面基地は完全に
   死んだといっていいだろう。このミッションは奴が仕掛けた試練だったのかも知れない。

ユキヤ「・・・・・。」
   俺はシャトルの窓から月面基地を眺めていた。何もない世界、そこにはただ静寂さと孤独が
   あるだけだ。だがいずれ人類は再びこの宇宙に来る時がある。近い将来に・・・。エリシェと
   ガイレスはシャトルのコクピットへ向かい、どんな様子なのかを探っている。興味津々なのは
   いい事だが、あんまり先走らない事を願おう。
レイス「何をお考えですか?」
   ふとレイスが話し掛けてくる。宇宙遊泳を楽しむかのように、浮かびながら俺の肩を掴む。
ユキヤ「人類は再び宇宙に出る時が来る、俺はそう確信している。」
レイス「そうですね。」
ユキヤ「だがそうなると、色々と忙しくなる。今は地球だけで手一杯だがな。」
レイス「ウインドさん・・・。」
   レイスが深刻そうな表情で話してくる。俺は何かしらの決意があるように感じた。
ユキヤ「何だ?」
レイス「先程の月面基地内部での発言、あのような事は絶対に言わないで下さい。一人だけで全てを
    背負う必要はありません。私達同志がいるじゃないですか。皆で力を合わせて乗り越えると
    仰ったのは貴方じゃないですか。」
   涙ぐみながら熱弁するレイス。俺は彼女の肩を軽く叩き、徐に話しだした。
ユキヤ「確かにな。だが誰かがその役をやらなくてはならない。このような辛い使命の重圧に、
    お前は耐えられるか。友と呼べる者をこの手で殺す事もできるのか?」
レイス「そ・・それは・・・。」
ユキヤ「俺もこんな嫌な役目なんかしたくない。だがこの行動で救われる者がいるのなら、それ
    こそ俺の罪滅ぼしなんだよ。そう・・・シェガーヴァ以上のな。」
レイス「・・・私も、デュウバをこの手で殺しました。私もこのような役目が合っています。貴方
    だけ苦しい立場にはしたくない。」
ユキヤ「そのデュウバは帰ってくる、彼女なりの罪滅ぼしをしにな。だが俺の罪はもっと深い。
    大破壊を起こしたのは・・・俺みたいなものだ。」
レイス「そ・それはどういう事ですか?!」
   レイスは驚愕しながら、俺を見つめた。何か善からぬ行動などを聞き出すと、レイスは黒い
   魔女へと変わる。
ユキヤ「実はな・・・シェガーヴァとは同世代の付き合いだ。大破壊前、俺は彼と一緒に新たなる
    システム作りに没頭していた。その彼が、ある発明をしたんだ。レイヴンズ・ネストの
    メインコンピューターとなるシステムコアを完成させた。その途端彼は変貌する。その
    システムを強奪し姿をくらました彼は、全世界の軍事拠点にハッキングを試みた。そして
    あの忌まわしき大破壊を巻き起こしたんだ。」
レイス「待って下さい。シェガーヴァさんとは同世代の付き合いだと仰いましたよね、でもそれは
    どう考えても有り得ません。シェガーヴァさんの生前は大破壊前なのですよ、サイボーグ
    ならともかく・・・生身の人間がそこまで生きられる訳がありません。」
ユキヤ「俺は既に死んでいるんだよ、その大破壊と同時に。だがシェガーヴァ自身が俺をクローン
    として転生させた。そして今に至る訳だ。」
   レイスは再び驚愕する。俺の出生を他人に話すのは彼女が初めてだろう。アマギでさえこれを
   話した事はない。
レイス「で・・・では、ウインドさんは大破壊前の人間・・・と?」
ユキヤ「ああ、人間の年齢ではゆうに200歳を超えている。俺はいてはいけない存在なんだ。」
   暫く沈黙した雰囲気が続く。レイスは何も言わず、ただ俯いているだけであった。
ユキヤ「俺が物事に詳しかったりスキルが優れていたりするのは、全てを見てきたからだよ。
    人類が地下へと移り住み、そして作業機械の効率化を向上させるためにMTを作った。
    もっともそのMTとなる基盤を作ったのはシェガーヴァだがね。それが発展したのがAC
    だ。」
レイス「・・・私の人知を超えていますね、これでは助けてあげる事もできない。」
ユキヤ「そんな事はない、現にこうやって俺の事を気に掛けてくれているじゃないか。それだけで
    充分に力になってくれている。どれだけ癒された事か・・・。ありがとうレイス。」
   再び泣き出すレイス、俺は彼女をそっと抱きしめた。これには色々な意味が込められている。
   先輩としての・男性としての・親としての・・・。俺は長く生き過ぎたのかも知れない。
   だが自分は生きている。生きている以上、人々を助けるのが俺の使命。そして罪滅ぼし。
   彼らの支えになれる事が、俺の小さな幸せでもあるんだろうな・・・。
                               第3話へ続く

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