〜第4話 再会〜 ユウジと会ってから3日後、ついに相手側が動く時が来た。これは昨日デュウバから教えて もらった事で、明日の正午に全軍を以って攻めて来るとの事。平西財閥では戦力増強を含めた 事を急ピッチで進めている。敵は間違いなく大軍勢で攻めて来る。いくらこちらの団結が奴等 より優れていたとしても、数の方は断然少ない。それを解決させたのが、同じ人工知能を 用いた無人ACの量産である。約1年前の大戦でアマギ達が作成した人工知能ヴァスタール、 これをシェガーヴァが改良したヴァスタール改。インプットの第一思考は仲間が死にそうな 場合は身を盾にして守り通せ。これがヴァスタールのコアプログラムである。 トム「量産は第3段階に入ったぜ。後は起動テストなどをしないとな。」 ゴウ「シェガーヴァが考えたプログラムだ。失敗は絶対にない。」 ユキナ「そうですね。」 シェガーヴァの活躍は、レイヴン達に希望を与えた。彼らがシェガーヴァと久し振りに会った 時、その責任の重さが痛いほど解かったと言っていた。そのシェガーヴァが変わったのだ、 周りは明るくならない方がおかしい。今のシェガーヴァは悪のシェガーヴァより断然強い。 それは進むべき道が明確にしかも明るく見えたからだ。 ユリコ「これでいいんですね?」 シェガーヴァ「ああ。」 シェガーヴァ指示の下、ヴァスタール改のシステムコアを新たに組み直したACに搭載して いく。その担当はユリコとレイカである。 レイカ「こちらも終わりましたよ。」 シェガーヴァ「了解した。これで第2段階のフィンバスタールは完成した。テストはアマギ達に 任せて、我々は第3段階分の準備に入ろう。」 ユリコ「分かりました。」 言動が人間へと戻ったシェガーヴァ。合成音だが、その一言ひとことが暖かみを帯びている。 ヴァスタール改のシステムコアを積み終わった機体を、アマギ達が動作確認をしていく。その 連携は凄まじく、これなら確実に奴等に勝てると確信している。 デュウバ「いよいよですね。」 ユキヤ「ああ。」 俺は再びデュウバと会っていた。明日の最終決戦、どうやって悪のシェガーヴァ軍を叩くかを 考えている。 デュウバ「以前話した通り、敵は悪のシェガーヴァ・デヴァス・ゼラエル・ミオルム・リルザー。 こちらはデェルダさん・ジェイズ・デヴィルさん・ブレナン・ビィルナ・リルガスさん・ ディーアさん・ユウジさん・私の9人です。」 ユキヤ「混乱しなければいいが、アマギ・スミス・マッシュ・ユキナ・ユリコが。」 デュウバ「どうしてですか?」 ユキヤ「ブレナンが転生したのはキュムは知っている。だがアマギは知らない。彼はブレナンに 家族を殺されているんだ。吹っ切れていたとしても、何らかの一念は抱く筈。スミスと マッシュもどう出るか分からん。リルガス・ディーア・ジェイズが転生したんだからな。 ユキナはアマギ=デヴィル、ユリコはレイス=ビィルナ。」 デュウバ「大丈夫だとは思いますが・・・。」 いきなり死んだ者が目の前に現れる、その現状に5人は耐えられるか。もしかしたら戦闘に 支障をきたす恐れもある。だがここは歴戦のレイヴン達を信じよう。 デュウバ「明日で全てが終わる・・・。」 ユキヤ「その逆だ、全てが始まる戦いでもあるんだ。だから何としても勝利しないとな。」 デュウバ「そうですね。」 ユキヤ「明日よろしくな。」 デュウバ「こちらこそ。ではまた。」 デュウバは悪のシェガーヴァ達がいる基地へ帰還し、俺も財閥へと帰還した。 悪のシェガーヴァ達の基地へ帰還したデュウバ。愛機をガレージに待機させると、そのまま デェルダ達がいるブリーフィングルームへと向かう。 デェルダ「お帰りなさい。」 リルガス「どうだった?」 デュウバ「しっかり知らせてきました。後は明日の決戦を待つだけです。」 ブレナン「そうですか・・・。」 デュウバを含む、8人は深く溜め息をつく。それはそれぞれの思う人に会う事であった。 デュウバとデェルダはレイス・ミリナ・ミウリス。レイス妹はユリコ。ジェイズ・リルガス・ ディーアはスミス・マッシュ。ブレナンはキュム・アマギ・トム。アマギ弟とユウジは ユキナ。それぞれが思いを入れる大切な人になった。そして死んで償う事は出来ない事も9人 は自覚している。 アマギ=デヴィル「正直言って、ユキナに会うのが怖いです。」 ブレナン「俺だってそうさ。お前の兄のアマギ、それにキュム・トムに会うのがメチャ怖い。」 ユウジ「ですが避けられない道でもあります。今は明日の決戦を勝利する事だけを考えましょう。」 ユウジの発言に8人は頷く。9人の中で彼らに一番詳しいのはユウジだ。それに彼はユキナに 会う事を恐れてはいない。むしろ嬉しいといった雰囲気である。 レイス=ビィルナ「何だか嬉しそうですね。」 ユウジ「ええ。成長したユキナさんをこの目で見たいですから。そして陰ながら支えるつもりです。 ですが彼女を支えるのはアマギ=デヴィルさん、貴方しかいません。」 アマギ=デヴィル「・・・そうですね。あの時、自爆した自分。その時の様子をお聞きすると、相当 悲しんだと考えられます。今度こそ守ってあげたい、それが自分の罪滅ぼし。」 ディーア「マッシュ、元気かな。」 ジェイズ「兄貴の元気な姿が見たいぜ。」 やはりそれぞれが希望を抱いている。これは過去の自分達には絶対ありえない事であろう。 ユウジ「とにかく明日が全ての決着です。全力で頑張りましょう。」 ユウジの言葉に一同は大きく頷いた。それぞれの思う人を守る前に、悪を滅しなければ全てが 無駄になってしまう。自分達が今の時代に転生したのも全て運命。それを確認しつつ、9人は 静かにその時を待った。 レイス「ウインドさん、入りますよ。」 俺は自室で仮眠中。そこに元気よくレイスが入室してくる。だが俺の寝る姿を見て、すぐに 口を閉ざした。 レイス「す・すみません・・・出直します。」 ユキヤ「何かトラブルか?」 レイス「い・いえ、個人的なもので・・・。」 この発言に俺はある事を確信。考えようによっては俺を気にしての事だと思う。だが決戦が 近づいている今、彼女の中ではデュウバとデェルダの事が気掛かりな筈だ。 ユキヤ「明日の事が気になるか。」 レイス「・・・はい。」 レイスは徐にベッドで寝ている俺の頭の側に座る。その仕草からも彼女達の事を気にしている のがしっかり伺えた。 レイス「デュウバとデェルダさんが帰ってくると、ミリナさんとミウリスさんは本当の妹になるので しょうか・・・。」 ユキヤ「死んだデェルダとデュウバの代わりに、自分がミリナとミウリスの面倒を見ると言って いたよな。ならそうなるのが当たり前だろう。」 レイス「何だか私の出番がなくなる気がして・・・。」 ユキヤ「大丈夫だ、気にするな。それに・・・お前は一人じゃない、アマギと同じもう一人の自分 がいるんだからな。彼女はどうするんだ、彼女こそ孤独な存在ではないか。」 レイス「妹にはユリコさんがいます。」 ユキヤ「だが同じ血を持つのはお前しかいない。彼女は実の妹なんだよ。」 レイス「私に・・・本当の妹・・・。」 同じ事を呟き続けるレイス。今の彼女の中ではデェルダとデュウバ、そして自分のクローンで あるレイス=ビィルナの事で一杯なのだろう。 ユキヤ「お前そっくりの女性か。ある意味怖いがな。」 レイス「そ・それはどう言う意味ですかぁ?!」 俺の頭を軽くどついてくる。だが今の発言が自分を励ますものだと直感したレイスであった。 ユキヤ「大丈夫さ、全てうまくいく。そして・・・これからが勝負だ。」 レイス「そうですね・・・。」 俺は再び寝に入った。それを見たレイスは静かに退室する。俺の悩みの点は今後をどうするか に絞られていた。やはり困っている人々を助け回るのが俺の使命。皆には悪いが、流浪の旅路 へと出る事にした。まあ今は深くは考えないでいよう。明日に支障をきたす恐れがある。 暫くして俺は完全に寝に入っている。そこに再びレイスが訪れた。今回は本当に悩みがある らしく、深い眠りに入っている俺を起こす。 レイス「ウインドさん。」 ユキヤ「・・・ん、何だ・・・敵襲か?」 レイス「いえ、先程のご相談の続きなんですが・・・。」 俺はベッドから起き上がり、その場に座る。レイスは近くにある椅子に腰をかけ、俺の方を 見つめてきた。 ユキヤ「で、何なんだ。」 レイス「決戦前である今日、デュウバ達を皆さんに会わせてみてはどうでしょうか?」 意外な事を話してきた。確かに今会っておけば明日の決戦に支障をきたす恐れはない。だが 総勢9人の言うなれば亡霊戦士をどうやってここに連れて来るかだ。 ユキヤ「それは構わないと思うが、悪のシェガーヴァがどう出るかだ。」 レイス「それは大丈夫だと思います。デェルダさんはそういった隠蔽工作は得意らしく、デュウバも 同じ事ができます。」 自身有り気に答えるレイス。確かにデェルダやデュウバを一番よく知っているのは、俺では なくレイスだ。これなら会わせる事は可能だと思った。 ユキヤ「そうか、それなら大丈夫だな。紫の魔神と華の剣士の実力、拝見させてもらおうか。なら 俺に態々話さなくても、自分で実行すればよかったのに。」 レイス「ウインドさんは大先輩です。それに私達の進むべき道をしっかり見定めています。その方の 許可なく無断に行動はできません。」 ユキヤ「あのなぁ・・・俺は影だぜ。表立っての行動はしない。全てお前達に任してある。俺の 役目は助言などだ。」 レイス「そうでしたね。分かりました。」 今回は以外にも素直に受け入れたレイス。この心構えなら、絶対に成功すると確信した。早速 レイスはデュウバ達に連絡を入れる。もちろん個人携帯端末だ。これはさっきデュウバと会話 した時に俺が進めた事である。今更コソコソしても悪のシェガーヴァは知っているだろうし。 これに対してデュウバ達はすんなり承諾する。明日の決戦までに決着を着けたいのだろう。 俺はレイスやデュウバ達の行動をただ黙って見つめているだけであった。 それから数時間後の正午過ぎ。一同は大型ガレージへと終結している。俺はガレージの隅で 静かに目を閉じて待っていた。レイスはアマギ達に会わせたい人がいると告げ、ここに集わせ たのである。もうじき大型車両で9人の戦士達が還って来る。 ユリコ「一体何なのかしら・・・。」 ミリナ「とにかく待ちましょう。」 キュムはレイスの行動に事情が飲み込めた。それにアマギとアマギ弟も何となくそれが読めた ようだ。それ以外の者達は全く飲み込めていないらしい。まあ関係者はここにいる全員では ない。 シェガーヴァ「来たようだ。」 シェガーヴァがガレージの外部モニターを見つめ、そう話してきた。直後車両のエンジン音が しだし、ガレージの外で停止した。 シェガーヴァ「戦士達が還って来たぞ。」 そう話しながら、シェガーヴァはガレージのハッチを開く。大型ハッチがゆっくり開きだし、 外の光が内部に差し込む。入口の前には9人の戦士達が並んでいた。それを見た彼らを知る 者達は今まで見せた事のない驚いた表情を浮かべる。 ミリナ「?!・・・お・・お母さん・・・。」 マッシュ「ディーア・・・、お・・お前なのか・・・。」 スミス「・・・・・。」 ユキナ「あ・・あ・・・・・。」 関係者達は今だ驚きの表情を浮かべ、ただ呆然と相手を見つめている。9人はそれぞれの思う 人の前に向かいだす。 ディーア「帰ってきたよ・・・。」 マッシュ「・・・・・。」 マッシュは目の前にいるディーアを無言で抱きしめ、静かに涙を流す。目の前にいるのは過去 に死んだ筈の最愛の妻。マッシュは感無量であった。 ジェイズ「兄貴、帰ってきたぜ。それにリルガスも一緒に。」 リルガス「暫く見ないうちに老けたね。」 スミス「・・・当たり前だろ。」 スミスは大泣きし、2人の手を握りしめた。その暖かい手は過去に触れた感触と同じであり、 目の前の人物は実在しているのである。スミスは冷静さを保とうとするが、感情が爆発して ただ泣き続けるのであった。 レイス妹「お久し振りですユリコさん。」 ユリコ「あ・貴女だったのね・・・、会わせたい人って・・・。」 ユリコはレイス妹の両手をしっかりと握りしめる。頬には涙が流れる。かつて友と思った人物 が目の前にいるのであった。 ブレナン「久し・・振りだな・・・。」 ブレナンはキュム・トム・アマギ兄の目の前に行く時点から泣いていた。殺人鬼となっていた ので分からなかったが、ブレナンは本当は類を見ない熱血漢。それに涙もろい所もあった。 トム「心配かけやがって・・・。」 キュム「ブレナン〜っ。」 トムはブレナンを軽くどつくと、彼の右手をしっかりと握りしめる。トムの頬には一筋の涙が 流れる。キュムは大泣きしながらブレナンに抱きつき、その胸の中で泣き続ける。そんな彼を 見つめるアマギとアマギ弟2。 ブレナン「アマギ・・・。」 アマギ「深い事は気にするな。今がこのような結果になったんだから、俺は絶対後悔していない。」 ブレナン「・・・ありがとう。」 アマギは泣かなかったが、その話の内容は泣いているように思えた。それはブレナンを擁護 しているようにも聞こえたからだ。 ユキナ「アマギさん・・・。」 アマギ弟1「ユキナさん・・・。今まで申し訳ありませんでした。ですがその償いはしっかり行わ させてもらいます。この命、貴女の為に使います。」 顔を涙で一杯にしながら、ユキナは彼に抱きついた。アマギ弟1はユキナをそっと抱きしめて あげる。そして自分も泣くのであった。 デェルダ「大きくなったわね・・・。」 デュウバ「元気そうで何よりです。」 ミリナとミウリスはデェルダが来る前に彼女の側に向かっていた。そして2人で十数年振りに 母に抱きつくのである。2人は大泣きしながら母の温もりを久し振りに味わう。感動の再会を 見たその他の仲間達も貰い泣きし、彼らを暖かい瞳で見つめた。 ユウジ「シェガーヴァさん、今回はありがとうございました。」 シェガーヴァ「気にするな。私なりの罪滅ぼしだ。だがこれからが大変だからな。」 ユウジ「心得ています。」 ユウジはシェガーヴァに今までの礼を述べる。もっとも彼らを転生させたのは悪の彼だ。だが 彼ら2人は見えない絆で結ばれているのだなと、ユウジは無意識に直感するのであった。 俺は彼らを見つめると、ガレージの外へと出た。何となくこの場の雰囲気には馴染めない。 だが心は充実感で満ち溢れていた。そして彼らがいれば俺抜きでも頑張って行ける事も確信 する。俺は決戦が終わった後、旅立つ決意をした。 デェルダ「初めまして、紫の魔神ことデェルダ=ドゥヴァリーファガと申します。」 リルガス「リルガス=ナグィルファントーアといいます。」 ディーア「初めまして。ディーア=リーヴェンリーガです。夫がお世話になりました。」 自己紹介をしていない、又は初対面の人物が皆に挨拶をする。デェルダは俺とシェガーヴァ・ トム・ガイレス以外は初対面だ。リルガスとディーアは関係する者以外は初対面。 アマギ兄「今後ともよろしくお願いします。」 一同を代表して、アマギ兄が頭を下げる。皆の表情は笑顔に満ち溢れていた。これなら明日の 決戦は大勝利する事間違いなしだ。 デェルダ「初めましてウインド様。」 デェルダが俺に丁寧な言動で話し掛けて来る。さすが最強のランカーレイヴン。だがその行動 に俺は困った表情をした。それはまるで神を拝んでいるように見えるからだ。 ユキヤ「そんなに畏まる事はない。」 デェルダ「いいえ、させて下さい。貴女が今まで行ってきた行動は、我々レイヴンや人類にとって とても大切なもの。尊敬に値します。ご丁寧に娘達の面倒も見て頂いたそうで。本当に 感謝の意で一杯です。ありがとうございました。」 深々と頭を下げるデェルダ。俺は何とも言えない気分だったが、デェルダの母としての存在感 だけは脱帽であった。自分の子供や育ての子供だけではなく、全ての者を子供のように見て いる。これは並大抵の者では到底できないだろう。 デェルダ「ウインド様はハンサムで素敵ですね。私の夫を思い出します。最強のレイヴンでもあり ました。」 それを聞いたゴウは顔を背ける。俺は直感した。ゴウがデェルダの夫なのだと。だがなぜ今の 今まで隠していたのか。それは分からなかった。 レイス「デェルダさんの旦那さんのお名前は何て仰るのですか?」 デェルダ「岡林剛です。旅に出ると言ってそれっきりですが・・・。」 直後ゴウを知る者は彼を凝視した。ゴウは分かったといったジェスチャーをし、彼女の元へ 近づいて行った。 ゴウ「・・・今まで黙ってて悪かった。」 デェルダ「はい・・・?!」 ゴウの顔を見るなり、デェルダは驚きの表情を浮かべた。ゴウは申し訳なさそうに頭を掻く。 デェルダ「・・・変わられましたね。声まで変わっていらっしゃいます。」 ゴウ「本当にすまない・・・。」 デェルダ「気にしないで下さい。旅立つ前、こう仰られていたじゃないですか。男は旅に出るのが 性分なんだと。一期一会だと思えって。」 ゴウ「お前が死んだ時、名乗りを上げて駆けつけたかった。だが・・・。」 ゴウが話す所に、デェルダがそっと手を口に当てる。そして首を横に振った。 デェルダ「過去の事は気にしないように、先の事を考えろ。そうも仰っていましたよ。だから気に なさらないで下さいね。」 ゴウ「あ・ああ、分かった。」 そう言えば過去にゴウが、自分には妻と娘が4人いると言っていた。それはこの事だったん だな。彼女達の事が気掛かりだが、メカニックとしての修行も積みたいとも言っていた。 ユキヤ「前に娘が4人いるといっていたのは、デュウバ・レイス・ミリナ・ミウリスの事だったん だな。今は美女5人の父親だぜ。」 俺はレイス妹を見つめそう呟いた。どんな形であれ、彼女もゴウの娘である。 レイス妹「ありがとうございます。」 ユキヤ「・・・何か可笑しいよな、レイスが2人いるのは。アマギは3人だし。」 同じ姿をした者が2組になった。アマギは兄・弟1・弟2、そしてレイスは姉・妹と。しかも クローンゆえに、双子ではない所が不思議だ。絶対に有りえない組み合わせである。 ユキナ「アマギさんは以前と変わられましたね。暗い印象が強かったのに、今ではご本人より明るく なっています。」 アマギ弟1「色々と苦労しましたから。ですが兄貴には敵いません、それに弟にも。」 アマギ弟2「そんな事ありませんよ。私よりしっかりしています。さすが私の兄さんですよ。」 アマギ兄「俺だけだな、場外れの性格なのは・・・。」 同じ顔をした3人が、まるで過去に実在した漫才師のように熱弁している。今度彼らには名前 を変えてもらった方がよさそうだ。 デュウバ「こうレイスが2人いると、何とも言えない雰囲気ですね。」 デュウバも2人の同じレイスを見つめ、不思議そうな表情を浮かべる。まあ仕方がないか。 ユキヤ「さてよ、これからどうする。一旦戻るか?」 デェルダ「そうですね。」 9人を代表して、デェルダが答える。直後デュウバが何かに気付いたらしく、徐に口を挟む。 デュウバ「不思議な事がありましたよ。悪のシェガーヴァに外出許可を求めたんですが、簡単に許可 が下りたんです。」 シェガーヴァ「もしかしたら徐々に悪心が消え失せていっているのかも知れないな。」 シェガーヴァが呟く。彼の言葉には嘘偽りはなく、それゆえに真実だと一同は直感した。 トム「となると、敵はゼラエル・リルザー・ミオルム・デヴァスの4人か。」 アマギ兄「ウインド、デヴァスは俺達3人に任せてくれないか。俺ら4兄弟の中で唯一悪の道から 出られない可哀想な奴だ。俺達でケリを着けたい。」 ユキヤ「構わんぜ、気が済むようにしな。唯一言わせてもらうとすれば、後悔はしない事だ。」 アマギ兄「心得ているよ。後悔はしない。」 3人を代表してアマギ兄が答える。あとの2人も同じく頷いた。 ユキナ「ウインドさん。ゼラエルはそんなに強いのですか?」 ユキヤ「アマギ並だが、精神的にはお子様だ。そこを突けば弱者だろう。」 ユキナ「ではゼラエルは私にやらさせて下さい。強い者と対戦して、もっと強くなりたいのです。 そうしなければユウジさんやアマギさんを超えられませんから。」 今のユキナの力量はアマギの次に強いかも知れない。諦めず果敢なる挑戦、その意欲だけは アマギを超えている。当然ゼラエルよりも彼女の方が上だ。 キュム「はいはいは〜い、ミオルム対戦を希望しま〜す!」 ユリコ「ずるいわよキュムちゃん。私もランカーと刺しで勝負したいわ。」 トム「リルザーは俺がやってもいいかな。」 あとの2人で大騒ぎするレイヴン達。エリシェ達はそんな彼らを見つめ、笑い合っている。 ここにいる皆は、まだまだ子供だな。 それから暫くした後、デュウバ達は基地へと戻っていった。9人を見送る家族達、その表情 には笑顔が浮かんでいる。これで明日の決戦にこれらの感情は現れないだろう。 エリシェ「心の広い方々でしたね。」 ユキヤ「そうだな。」 大型ガレージ端にあるテーブルで、お茶を飲み合いながら会話する。ある意味俺の方が緊張 していたのかも知れない。 リュラ「でも強かったね。レイヴンのレベルはお兄ちゃんクラスだよ。」 半年前にユウカ・アキナ・リュラはレイヴンとしての道を歩みだす。エリシェ達同様、短期間 で技術を習得する。これには俺も驚かされている。 ユウカ「明日は私達姉妹も戦います。」 テュルム「ユウちゃん達をサポートしないとね。」 ミュナ「楽しみっす!」 こちらも明日に対しての意欲は凄まじい。その闘気がよく感じられた。彼女達の力量は今や アマギ達に匹敵するようになっている。 レイス「あら皆さんでお茶会ですか?」 アキナ「いぇ〜い!」 デェルダやデュウバ・レイス妹と会ってから、お淑やかになりつつある。レイスはエリシェ達 にとって姉のような存在だ。彼女を見つめるその表情ですぐ分かる。 レイス「皆さん、お兄さんをお借りしていいですか?」 エリシェ「いいですよ。」 俺はレイスと一緒に、ガレージの外へと出て行った。エリシェ達は続けて話し合っている。 ユキヤ「これで満足したろ?」 レイス「はい、おかげさまで。」 ユキヤ「あとは明日の決戦のみ。皆で団結すれば勝利は確実だ。」 レイス「そうですね。」 レイスが俺の右手を掴む、そして徐に両手で包んだ。 レイス「貴方には何とお礼を言っていいか・・・。」 ユキヤ「気にするな。皆を幸せにする事が、俺の深い罪滅ぼし。嬉しい限りだよ。」 レイス「以前流浪の旅へ出ると仰っていましたよね。本当は私も一緒に行きたいのですが、皆さん を守る事に決めました。エリシェさん達の事は私が責任を持って面倒を見ます。安心して 他の困っている人々を助けてあげて下さい。」 涙を流してレイスが答える。彼女の心境が手にとって分かるようだ。だがその表向きの表現 とは裏腹に、表情は笑顔に満ち溢れていた。彼女は全ての悩みに打ち勝ち、本当の自分を取り 戻したようである。 ユキヤ「お前には感謝している。俺に何度となく声を掛けてくれたり、人並み以上に気配りもして くれた。ありがとな。」 レイス「お褒め頂き光栄です。誠心誠意、頑張っていきます。」 その後俺とレイスはガレージへと戻った。そこで目立つのは、シェガーヴァと会話をしている エリシェ達であった。数日前からの付き合いだが、彼女達は実の父のように彼と接している。 エリシェ達も薄々と感じているようだ。俺が旅立つ決意を固めている事を。1年前の彼女達で あれば、引き止めたであろう。だが成長し、俺の役割をしっかりと理解してくれている。 とにかく今は、明日の決戦を控えるのみであった。 第5話へ続く |
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