〜第2話 お転婆娘〜
   エリシェを助けてから1週間が経った・・・。彼女の素質には驚かされる、レイヴンになって
   僅か3日で俺の操作技術に近くなった。それに俺は彼女の動く姿を見ていて嬉しくなる、
   エリシェがどんな理由であれ希望を持ちはじめたからだ。人間、希望を持てば表面上に現れる
   もの。希望を持っていない奴は死んでいるようなものだ。
エリシェ「勝ちましたよユキヤさん!」
   ACから降りると真っ先に俺の元へ駆けつけてくる。今日のサブアリーナバトルで30勝、
   新人レイヴンにしては断然早い方である。だが彼女自身まだレイヴンとしては自覚がない、
   言動や行動があまりにも幼すぎる。・・・この思考はまるで父親みたいだな。
ユキヤ「よかったなエリシェ。」
エリシェ「ありがと・・・。」
   はにかみながらエリシェは俺を見つめる。本当に子供のようだ。
ユキヤ「それにしても・・・。」
   俺はエリシェが組み上げたACを見て不思議と思う、それは俺と同型の機体だからだ。
   さすがに武装は同じではない、そのレイヴンによって武装が変わるのは当たり前だからだ。
ユキヤ「なぁエリシェ、お前さんのAC・・・なぜ俺と同じ機体なんだ?」
エリシェ「エヘヘッ、ユキヤさんを憧れてですっ。」
   エリシェはまたはにかみながら語る、よほど俺の事を気に入っている様子。もっと自分流の
   考え方で組み上げればいいのに・・・。
ユキヤ「あのなぁ〜、名前まで俺と似ているしな。もう少し自分の考えたAC名にしろよ。」
エリシェ「だからですよ、憧れている方を模して組み上げれば自然と愛着が湧きますからね。」
   ウインドフェザー、エリシェが愛機に名づけた名前。俺はウインドブレイド、エリシェは
   ウインドフェザー。つまり直訳すると俺は風の剣、彼女は風の羽根となる。何ともまあ不思議
   なものだ。俺とエリシェはバトルが終わるとガレージへと戻る。と同時にメカニック長から
   仕事の依頼があったと話してきた。
メカニック長「お〜い2人とも、仕事の依頼だぜ。」
   急ぎメカニック長の元へ駈け付ける。仕事の依頼は4日振りだ。またエリシェにとって初の
   仕事となる、何事も経験だな。
エリシェ「どこからですか小父様?」
メカニック長「アヴァロンバレーガードからだ、テロリストを撃破してほしいそうだ。」
ユキヤ「ふ〜ん・・・考えてもらちがあかないな。とにかく行ってみるか。」
メカニック長「それとエリシェ・・・その小父様という呼び名、どうにかならないか?」
   メカニック長は困った顔をしながらエリシェに話す。エリシェは不思議そうに答える。
エリシェ「えっ・・・ダメですか?」
メカニック長「恥ずかしいんだよな・・・、今までに言われた事ないから。」
ユキヤ「ハハッ、いいじゃないか。俺達は家族みたいなものなんだからな。恥ずかしくも何とも
    ないよ、俺にとってもメカニック長はオヤジなんだからな。」
メカニック長「・・・まったく、困ったガキ達だな。」
   そう語りながらもメカニック長は嬉しそうな顔をしている。俺達は血は繋がっていないが家族
   同然な関係だ。メカニック長が依頼承諾のサインをコンピューターに打つと、俺とエリシェは
   愛機に乗りガレージを後にした。

   ・・・アヴァロンバレー・・・、何度か足を運んだ事のある地下都市。俺は過去にあった
   出来事を振り返りながら先を進んでいると、エリシェから通信が入った。
エリシェ「ユキヤさん、ユキヤさんはミッションは何回目です?」
ユキヤ「分からないな、それだけ多くこなしている。でなければ今の操作技術や資金は持って
    いない。」
エリシェ「そうですよね。」
   どうやらエリシェは緊張している様子だ、通信内容で分かった。まあ初ミッションだから
   当たり前ではあるがな。俺の初ミッションはもう何年前になるか。再び過去を振り返ろうと
   した時、エリシェから通信が入る。
エリシェ「あれ・・・前方に見えるのはACですよね。」
   不覚だった。過去を振り返る事に気を取られ、ACのレーダーに気付かなかった。もしこれが
   厳しい戦場だったら確実に死んでいるだろう。俺も外部センサーユニットでコクピットから
   確認する、確かにACがいる。だが不思議と相手が敵ではない事を感じる。相手側はこちらに
   気付くと通信を入れてきた。
ACパイロット「あなた達もこのミッションに雇われたレイヴンなの?」
ユキヤ「そういうあんたはどうなんだ。」
ACパイロット「見ての通りよ、ここにはテロリストも何もいないわ。まったくバカにして。」
   通信内容からすると女性レイヴンだろうか。それと同時に相手が嘘をつく者には考えられ
   なかった。過去の経験からの答えである。
エリシェ「あの〜・・・あなたは?」
ACパイロット「あ・・ごめんね、私は諏川テュルム。テュルムでいいわ。」
   テュルム・・・彼女もどこかで聞いた名前だ。過去に一体どこで出会ったのだろう・・・。
エリシェ「私は三島エリシェです。こちらは平西幸也さん。」
ユキヤ「よろしくな。」
テュルム「よろしくね。」
   不思議だ、会話がスムーズに進む。エリシェと同じく明るい女性だ。
テュルム「それよりどうしようか・・・。」
エリシェ「帰還した方がいいと思いますが。」
   2人が会話している時、俺は気配を感じた。かなりやり手のレイヴンの気配が・・・。直後
   コクピットレーダーにACらしき点が映し出される。
ユキヤ「本命のご登場かな・・・。」
   エリシェとテュルムもその気配を感じ、相手側を向いた。ACがブースターダッシュを使い、
   こちらにやって来る。機体は元クローム社製のスウィフトをカスタマイズした機体だ。
相手パイロット「これは警告だ、これ以上依頼を受けるのはやめろ。つまらぬ結果になるぞ。」
   声の主は男性、中年齢ぐらいか。見た感じのAC操作技術は結構上手い。
ユキヤ「ご丁寧に、だが貴様に言われる筋合いはない。俺の道は俺自身で決める。」
テュルム「そうよ、レイヴンは自由な職業。何かに縛られる事はあってはいけない。」
相手パイロット「・・・後悔するぞ。」
ユキヤ「レイヴンになった時点で後悔はしている。だがレイヴンになったからこそ、こいつらや
    貴様に出会えたんだ。俺はこの道を進む、それが俺の正義だ。」
相手パイロット「・・・では好きにするがいい。だがこれからこの道は熾烈を極める、気を付ける
        事だ。縁があったらまた会うだろう。」
   相手はそう話すとACを反転、その場を去って行く。エリシェとテュルムは相手レイヴンの
   話に不信を抱いていたようだが、俺は少なくとも奴の話す事がこれから起こる事を裏付けて
   いるかのように聞こえた。俺の直感である。
エリシェ「何だったのでしょうか・・・。」
テュルム「さあ・・・。」
   やはり2人は気付いていない、だがそれでいいと俺は思う。先が分かってしまうと後が辛く
   なる。こういう考えは俺ぐらいで十分だ。
ユキヤ「さてと・・・本命が来たぞ、仕事といきますかね。」
   コクピットレーダーに複数の点が現れる、これが本命のテロリストどものようだ。だが話が
   上手すぎる、スウィフトが去ってからテロリストが出現。まるで誰かが仕組んだ罠のようだ。
テロリスト1「来たな!」
テロリスト2「邪魔する奴等は皆殺しだ!!」
   アイザック・シティ住人の所に来た連中達より性質が悪そうだ。だが俺はこいつらなら初陣の
   エリシェにも倒せそうだなと思う。テュルムもいる事だしな。
ユキヤ「中古MTのビショップか、エリシェとテュルムは独断で行動してくれ。これら以外にも
    いる筈だ、俺はそれを叩く。」
エリシェ・テュルム「OK!」
   ウインドフェザーとテュルムのACは散開、ビショップを撃破していく。テュルムの操作は
   かなり上手く、相手の頭上から攻撃する戦術をとっている。逆にエリシェは初陣だけあって
   行動がぎこちない、だがレーザーライフルによる射撃やレーザーブレードを使った斬撃には
   正確さがある。サブアリーナ戦で30勝もしていれば、ここまで操作技術が上手くなるのも
   当たり前か。俺はそう思いつつ、近付くビショップを迎撃しながら本命を待った。

   ・・・数分後、ビショップ隊は全滅。俺が動く間もなく、エリシェとテュルムだけで簡単に
   テロリストを撃破してしまった。さすがはレイヴンといった所か。
テュルム「フフッ、MTなんてザコよね。」
エリシェ「そうですね、これで仕事は終わりっと。」
ユキヤ「・・・来たぜ、本命が。」
   そう話した後、小型ミサイル2発がこちらに向かってくる。だが2発ともウインドブレイドの
   コアユニット迎撃機関銃によって撃ち落とす。直後コクピットレーダーに急速接近する点が
   1つ。
敵パイロット「死ねっ!」
ユキヤ「陽炎か、まだ残っていたとはな。」
   陽炎は元ムラクモ・ミレニアム社製のAC、相手はムラクモの残党だろうか。俺は陽炎が
   ウインドブレイドにギリギリまで近付くのを回避しながら待つ。この行動の意味を知ろうと
   せず、陽炎は突撃してくるだけである。俺は陽炎と擦れ違う瞬間、相手の突進力を利用。陽炎
   のFCS(火器管制制御システム)ユニットをレーザーライフルで撃ち抜く。
敵パイロット「な・なに・・・ロック機能が・・・。」
ユキヤ「消えな。」
   突然起きた出来事に対処できないのか、陽炎はその場に立ち止まる。この瞬間を見逃さず、
   俺は陽炎にウインドブレイドをブースターダッシュで突撃させる。今だ立ち止まる陽炎に
   レーザーブレードを発生させ、ジェネレーターに突き刺しなぎ払う。俺が離脱後、陽炎は
   ジェネレーターの破壊による爆発と共に粉々に吹き飛んだ。
テュルム「す・すごいっ!」
エリシェ「さすが先輩!」
   俺の行動にエリシェとテュルムは驚いているようだ。という事はテュルムも新人なのか。
ユキヤ「関心はいいが、他にMTの残党はいないか?」
テュルム「大丈夫、残っていたMTはエリシェさんと一緒に片付けておいたわ。」
   どう、といったようにテュルムが語る。大人に聞こえる声だが、本当はまだまだ幼いかも。
ユキヤ「そうか、分かった。」
エリシェ「戻りましょう。」
   俺とエリシェ・テュルムは自分達のガレージに引き上げる。その最中不思議に思った、
   “いつの間にかテュルムを信じているな”と。レイヴンの性格上、他人との干渉はタブーと
   されていた。というか自分の中でレイヴンの性格を利用して、人とのコミュニケーションを
   避けていたのかもな。変わっていく自分に驚いた、人と接するとここまで変わるものだなと。
   帰還途中エリシェはすっかりテュルムと仲良くなり、AC間通信を使用して会話をしている。
テュルム「えっ・・・157Bのガレージって・・・、私が使っているすぐ隣じゃない!」
エリシェ「そうなのですか?!」
   どうやらテュルムの使用しているガレージは、俺達が使っているすぐ隣らしい。
ユキヤ「フフッ、灯台下暗しとはこの事か・・・。」
テュルム「そうですね。」
   会話もスムーズに進む、これが当たり前なのかもしれない。それとも心の中ではこうなる事を
   願っていたのかも・・・、俺はそう思った。依頼目的地までの移動にかなりの時間がかかった
   のに、いつの間にかガレージの側まで到着していた。会話とは時を忘れさせてくれると思わ
   ざろうえない。

メカニック長「よう、お帰り。」
   俺達はガレージ内にACを待機させるとメカニック長が出迎えてくれた。帰る所があるのは
   いいものだな、俺はふと心の中でそう呟く。
テュルム「こんちわおじさん。」
メカニック長「なんだテュルムも一緒だったのか。」
エリシェ「お知り合いなのですね。」
   それもそうだろう。隣接ガレージにいるレイヴンの事などここいら一帯のガレージを統括して
   いるメカニック長なら顔馴染に違いない。
メカニック長「ここの隣のガレージを使っているレイヴンだよ、言わなかったっけか?」
ユキヤ「もう本人から聞いたよ。」
メカニック長「そうか。」
テュルム「ねぇおじさん、ここのガレージ空いているでしょう。こっちに移ってもいい?」
   テュルムが俺とメカニック長の会話に割って入った。それもここに移ると言っている。まあ
   テュルムが隣のガレージだったと聞いた時からこうなるだろうなとは思ってはいたが。
メカニック長「それは俺じゃなくユキヤに言ってくれ、ここのガレージ一帯の所有者はこいつ
       なんだから。」
   それを聞きテュルムがお願いといった目つきで俺を見る、まったくまだまだ子供だなと思う。
ユキヤ「ダメだと言っても無理矢理移る気でいるんだろう、構わんよ。」
テュルム「フフッ、ありがと。」
   ・・・本当に珍しい、人を信じるなど。だがこれが本来有るべき姿なのかもしれない。
   今日から新たにお転婆娘テュルムが仲間になった。
                               第3話へ続く

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

戻る