〜第7話 新たなる旅立ち〜
   最終決戦から2日後、俺は吉倉財閥内の医療ベッドで横になっていた。3人に撃たれた6発の
   弾丸による傷がかなり酷く、松葉杖を使えば歩けるが横になっている時間が多かった。3人は
   あの後ここで精密検査を念入りに受ける。アマギの分身ともいうべきアマギ=シャドウは、
   クローンから誕生したもう一人のアマギ自身。彼の彼女達の事を思い、検査を実行したので
   ある。エリシェ達は検査が終わったユウカ達とコミュニケーションを取っている、自分達に
   とって妹な存在。お互いを分かり合う為に行動をしていた。3人の方も自分たちを気遣って
   くれるエリシェ達を姉と慕うようになった。俺はその話を聞いた時、嬉し泣きをする。5人が
   3人を、3人が5人を。新たに3人の妹が仲間になり、俺の妹達は総勢8人となった。
ユキヤ「・・・・・。」
   俺は医療室の窓から外を眺めていた。と言うか殆ど動けない俺にとっての気晴らしがそれで
   ある。アマギ達は財閥で休憩中だそうだ。もっとも破壊神ゼラエルとの決戦、休む暇なく
   俺達の加勢に出撃。疲れるのも無理がない、皆には頭が下がる思いであった。

   俺がそう思いつつ外を眺めている時、医療室のドアが開きレイスが入室してくる。外観は
   美人な大人の女性だが、まだまだ遊び足りない女性といったところか。それを間近で
   話したらどつかれそうだ。
レイス「具合はいかがですか?」
ユキヤ「何とかなと言った具合だ。」
   俺が医療室に入った時点からレイスが面倒を見てくれている。頼れる姉御と言った存在だ。
ユキヤ「すまないな、面倒をかけちまって。」
レイス「いいんです、私の勝手ですから。それに2日前に助けていただいた事を考えると、当然の
    事だと思いますよ。」
   明るくレイスは言う、まったくエリシェ並な思い入れようだ。何でも彼女は強化人間から
   人間へ戻ったらしく、俺が考えるには未知の領域に近かった。強化人間レーダー摘出がそれ。
   今の企業の医療技術では、人間の脳を切開してレーダーを取り出す事は不可能に近かった。
   だがここは医療技術が世界一らしく、レイス・アマギクローンの強化人間レーダー摘出成功
   から飛躍的に技術が進歩したようだ。今では他の強化人間レイヴンからの手術依頼が後を
   断たないらしい。さすがだなとつくづく思う。
レイス「・・・・・。」
ユキヤ「何だよ、俺の顔を見つめて。」
レイス「不思議ですね、何とも言えない魅力が貴方にはあります。強い胸の高鳴りを覚えますよ。
    それとどう見ても私より年下には見えないです。私より4・5歳年上でも全然おかしくは
    ありません。」
   ニコニコしながらそう語る。何で俺は異性に好かれるのか、分からないな・・・。
ユキヤ「レイスはレイヴン暦は何年だ?」
レイス「16の時にレイヴンになりました、今は24です。」
ユキヤ「8年か、俺は6歳の時にレイヴンになった。かれこれ14年レイヴンをやっている。」
レイス「凄い・・・6歳でレイヴンになれたのですか?!」
   やはりといったようにレイスは驚く。6歳という年齢はどう見てもガキだ、レイヴンになれる
   筈がない。俺でもそう思うぐらいだからな。
ユキヤ「当時レイヴン集めをやっていた所に出くわしたんだ。主催者側は年齢問わずやる気のある
    者が欲しかったらしい。死に物狂いでテストに合格したよ、それしかその時は生きる術が
    なかったから。その後数々のミッションをこなした、数え切れないほどにな。11年後、
    ミッション中に裏切られたレイヴンがいた。それがアマギとの出会い。それから半年から
    1年ぐらい一緒に行動したよ、彼の心の傷を癒す為にな。そして今に至る訳だ。」
レイス「そうだったのですか・・・、色々と辛かったでしょうに・・・。」
ユキヤ「フフッ、ありがとよ。さすが黒い魔女、レイス=シャドウだな。」
レイス「私の異名までお知りなのですか?!」
ユキヤ「当然だろう、当時アリーナに君臨する黒い魔女といったら皆が知っていた。だがどこか
    悲しい感情も感じ取れたよ、それが何だかは分からないが。おそらくお前の戦友である
    デュウバ=ドゥガが関係しているだろう。義母のデェルダ=トシダもな。」
   レイスはもの凄く驚いた表情で俺を見つめる。そこまで情報通だとは思っても見なかったの
   だろうな。
レイス「デュウバはともかく、デェルダさんをご存知とは・・・。」
ユキヤ「彼女は列記としたレイヴンだったぜ、紫の魔神・デェルダ=トシダ。彼女の異名だ。子供が
    生まれるまで凄腕のレイヴンで活躍していた。確かミリナとミウリスだっけか、彼女の
    子供は。」
レイス「そうです、私達と一緒にいますよ。」
ユキヤ「デェルダはさぞ嬉しいだろうな、育ての子供のレイスに見守られている事を考えると。」
   俺はレイスを見つめそう話す。彼女は嬉し泣きをしていた、よほど今の言葉が心に響いたの
   だろう。
レイス「ありがとう・・・ありがとう・・・。」
ユキヤ「構わんさ。」
   俺はベッドから起き上がり、松葉杖を使い医療室を出る。レイスは俺の事を気遣って右腕を
   支えてくれた。
レイス「どこにいかれるのですか?」
ユキヤ「エリシェ達の所に行く、俺なりに妹達が心配だからな。」
   俺はレイスに支えられながら、エリシェ達の部屋へ向かった。エリシェ達の部屋は上階の階段
   側にある。おそらく今も3人とコミュニケーションを取っているに違いない。

   俺達がエリシェ達の部屋へ入室すると、5人が俺の事を気遣って近付いてくる。レイス同様、
   優しい女性達だ。
エリシェ「大丈夫ですか?」
ユキヤ「ああ、こいつらの事が心配になってな。」
   俺はユウカ・アキナ・リュラを見つめそう話す。3人は俺を見て申し訳なさそうな表情を
   浮かべていた。
ユキヤ「まだ気にしているのか?」
ユウカ「・・・私達がお兄ちゃんにそのような怪我をさせてしまったのですから。」
アキナ「ごめんなさい・・・。」
リュラ「・・・・・。」
   本当に落ち込んでいる。結果がどうあれ彼女達を救えたんだ。俺は構わないと話すが、彼女達
   の心の傷は深そうだ。もっとも俺がシェガーヴァの心意気を気付かなかった事に原因も
   あるがな。
テュルム「もう、そんなにしょんぼりしないの。」
ルディス「そうですよ、私達と話していた時は明るかったじゃないですか。」
ユキヤ「まあそう言うな、3人が全て悪いわけじゃない。俺にも責任がある。そう気にするな。」
   俺はレイスに支えられたまま、3人の頭をそれぞれに撫でた。3人は少しだけ微笑み、俺を
   見つめる。そんな俺の行動を見て、レイスは憧れの視線で見つめていた。
レイス「本当に優しい方ですね。」
エリシェ「フフッ、レイスさんは相当兄さんの事を気に入られたようですね。」
レイス「これほど優しい男性は他にいませんよ。憧れます、ウインドさんは。」
ティム「あの・・レイスさん、兄さんの本当の名前は・・・。」
レイス「ええ、ご存知です。ですがあえてウインドさんと言っているのです。レイヴンの過去は
    干渉しないのがルールですから。私はウインドさんと呼びますよ。」
   しっかり者だな、レイスは。いくらお互いを分かり合い、友情を作り上げるといっても過去は
   詮索されたくない。その点はしっかり弁えている。
アマギ「お〜い、大丈夫か?」
   とそこにアマギ達が入室して来た。エリシェ達の部屋は更に賑わいだす。
ユキヤ「ああ、何とかな。」
   俺はアマギを見つめそう話す。彼もゼラエル戦時、右肩と右腕を撃たれている。俺と同じく
   右腕を吊るしながらの姿だ。
アマギ「まったく俺の先輩だ、同じ格好がよく似合う。」
   俺の姿を見てアマギが語る。お前も同じだなと心の中で呟く。
アマギ弟「初めましてウインドさん、アマギ兄さんの分身です。兄さんを助けていただいて本当に
     ありがとうございました。」
   アマギのクローンがそう話す、アマギ自身と瓜二つ。違う点は性格か。エリシェ達もこの姿を
   見て顔を顰めている。
エリシェ「・・・本当に瓜二つ。」
ミュナ「何だか怖いですね・・・。」
ユリコ「でしょ、よく間違える時があるわ。」
キュム「お兄ちゃんが2人いて参っちゃうよ。」
   アマギの恋人と妹的な存在の女性2人がそう話す。もっともそう分かるのはアマギを見つめる
   視線が他の人物より違うからではあるが。

ユキヤ「そろそろ引き上げるとするか、ここに長く居座っていてもアマギ達が困るだろうし。」
アマギ「そんな事ねぇぜ、いつまででもいて構わないよ。」
レイス「何ならここで一緒に暮らしませんか、エリシェさん達も一緒にどうです?」
エリシェ「うわぁ〜嬉しいです、ですが・・・。」
   エリシェ達は全会一致で賛成と決めているらしいが、俺を見つめ同意しろという視線で黙視。
   まったく、俺も彼女達の手の内で踊っているに過ぎないのかな・・・。
ユキヤ「・・・その視線やめろよ。」
エリシェ「兄さんはどうなのですか?」
ユキヤ「俺はどちらかと言うと1人の方が気が楽だ。」
アマギ「俺もそうだったよ、だがみんなと過ごしていくうちにだんだん楽しくなってきてな。今では
    この時間が一番楽しい時だ。ウインドも今は団体行動が苦手と言っているが、過ごしていく
    うちに楽しくなってくるさ。」
   自身有りげに語る、おそらくアマギ自身の体験談からの感想だろう。これも宿命かな・・・。
ユキヤ「・・・分かったよ、お前達の言葉に従う。だが別館を建築してくれ、ここには9人も
    住めないだろうから。」
ユウジ「分かりました、早速手配します。」
レイス「フフッ、ウインドさんと一緒にいる時間が出来て幸せ・・・。」
   レイスの発言で部屋中は笑いの渦に巻き込まれた。まったく・・・面白い連中だ・・・。
   俺は吉倉財閥別館へ移動を決意した。エリシェ達も皆と一緒にいれば嬉しいだろうし、俺自身
   変わりつつある自分にも正直嬉しい。アマギ達には感謝しないと、さすが世界が認めただけ
   ある。俺は今後彼ら全員を守る決意も固める、俺の心の支え・俺の癒しの場・・・。これが
   俺自身が心の底から求めていた、本当の幸せなのかもな・・・。
                                        完

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