フリーダムハート 自由なる勇将ヴィアラシュア 暗黒皇帝ディーラの野望 〜第2話 ルッド港襲撃1〜 ・・・次の日。アシリアとゼランは部屋中に立ち込めるいい匂いに気づき、ゆっくりと目を 覚ます。そして気付く、部屋のキッチンには見知らぬ女性が朝食を作っている様子。2人は この宿屋にそんなサービスがあるんだなと思った。 アシリア「おはようございます・・・、朝食を作って頂いてすみません。」 アシリアが女性に朝食の礼を述べる。だがゼランがアシリアを引き止める、カシスが寝袋に 寝ていなかったからだ。まさかと思い、2人は恐る恐るキッチンの女性の所へ近づいていく。 そして驚愕する、女性と思っていた人物はカシス本人であったからだ。 カシス「おはようアシリア・ゼラン。」 アシリア「え・・え・え?!」 ゼラン「お・・お前・・・本当にカシスか?!」 カシス「おいおい、まだ寝惚けているのか。早く顔を洗って朝食を食べよう。」 2人は目を点にしてカシスを見つめる。カシスは寝ぼけているのだと思いつつ、朝食の最終 準備を続ける。彼等はカシスの今の身なりの事を説明した。 一通りの行動を終え、それを聞いたカシスは自分自身の事ではあるが呆れて大笑いをする。 カシスは普段から後ろ髪をバンダナで束ねている。それが寝ている間に取れたようだ。それ ゆえカシスは女性と見間違う程の容姿をしている。その姿に本人は今まで気づいていなかった ようだ。 ゼラン「し・・しかし驚いたなぁ〜・・・。」 アシリア「それにすっごくステキ・・・。」 カシス「ずいぶん髪が長くなったな、散髪なんかまったくした事がないからな。今度散髪をした方が よさそうだ。」 アシリア「そんな事ないですよ、今のままでも十分ステキです。」 まるで女性と話しているかのようなアシリア。カシスは呆れるばかりであった。 カシス「それより早く顔を洗いな。お前達の分もちゃんと作っておいたからよ。」 アシリアとゼランは顔を洗い、身支度を済ませると食卓に着いた。そして食卓に並べてある 朝食の凄さに驚く。そこには一人前の料理シェフでなければ作れないものがあったからだ。 ゼランは朝食の凄さに瞳を輝かせながら話しだす。 ゼラン「こ・これ・・・全部お前が作ったのか?!」 カシス「ああ、こんなの朝飯前だ。」 アシリア「ど・・どこで料理を習ったのですか?」 アシリアもゼラン同様、目の前の朝食の凄さに驚いている。カシスは後ろ髪をバンダナで結び ながら答えた。 カシス「料理など一度も習った事なんかない。」 ゼラン「そ・・それじゃ・・・独学でここまで?!」 アシリア「す・・凄いなぁ〜・・・。」 カシス「早く食わないと冷めちまうぞ。」 カシスも食卓に着き、2人よりも先に食べだす。それにつられ2人も食べだした。 アシリア「それじゃあいただきま〜すっ。」 アシリアとゼランはカシスの手料理を口にして再度驚く。見た目だけでなく味の方も一品で あった。まるで高級料理を口にしている気分になる。 アシリアは美味しいと何度も呟きながら食べ、ゼランは目の前の食事を片っ端から平らげて いく。それを作ったカシスは嬉しそうに見つめる。 カシス「どうだ、俺の手料理は?」 ゼラン「最高っす!」 アシリア「美味しいですっ!」 話しながらも食べるのを止めないアシリアとゼラン。まるで子供のようである。 ゼラン「いいよなぁ〜、毎日こんな料理を食べられたら・・・。」 アシリア「ゼランさん、毎日食べたら飽きますよ。」 ゼラン「いやいや、美味しければ何だっていい。それが俺の主義だ。」 カシス「また食べたい時は言ってくれ、好きなだけ作ってやるよ。」 ゼラン「よっしゃぁ〜っ!!!」 更に食べ続けるゼランが大声で叫ぶ、相当食事好きな大食漢だとカシスとアシリアは思う。 アシリア「ゼランさんったら。」 カシス「フフッ・・・。」 その後ゼランはカシスの手料理を残さず平らげ、満足そうにコーヒーを飲む。その行動に2人 はただただ呆れるだけであった。 ゼラン「ふう〜っ・・・ごちそうさまでした〜。」 アシリア「よ・・よく平気ですね・・・。」 ゼラン「これが俺の基本だよ、もっと食える時もあるぜ。嬉しい時なんかは尚更。」 カシス「まったく・・・、先が思いやられるよ。」 そうは言ったものの、心の中では正直嬉しいカシスであった。コーヒーを飲み終わると、徐に 立ち上がり出発の準備をしだす。 ゼラン「よ〜し。たらふく食った事だし、そろそろ行こうぜ。」 アシリア「いいんですか、休まなくても?」 ゼラン「大丈夫っす、慣れてますから。」 カシスとアシリアにウインクしながらそう答える。2人は彼の行動に微笑ましくなった。 カシス「2人は村の外で待っていてくれ、俺は村長に別れの挨拶をしてくる。」 カシスは一足先に村長邸に向かい、遅れてアシリアとゼランは村の出入口に向かった。 村長「そうか・・・、分かった。」 カシス「もしかしたら手を借りる事になるかもしれない、その時はよろしく頼む。」 村長「と言うと?」 カシス「・・・風がおかしい・・・。近いうちにどこかで戦争が起こる、そんな気がするんだ。」 村長「ふ〜む・・・分かった。カシス殿の頼みなら喜んで協力させてもらうよ。気をつけてな。」 カシス「すまない、それじゃまた。」 カシスは村長に頭を下げ、家を後にした。 “風がおかしい”、彼が何らかの戦乱が起こる時に呟く言葉。これにはハズレがなかった。 それゆえに尚更気になるのである。これは彼の持って生まれた天性であろう。 それに気になる事が一つあった。もし戦争が起これば、今回の戦いは長く過酷なものになると いう事。これは彼の天性ではなく、鋭く的確な洞察力から考えた結果であった。 アシリア「どうしたんですか?」 ゼラン「そうだよ、考え込んだりして。」 カシスが出入口にいるアシリアとゼランの元へ向かった後、何らかの悩みを抱えている事を 見抜く。 カシス「・・・風がおかしい・・・。」 ゼラン「別におかしくないぜ。」 カシス「そういう意味じゃない、風と土の精霊が落ち着かない様子だ。」 アシリア「それが一体どうしたのですか?」 カシス「近いうちにどこかで戦争が起こるかもしれない。過去にこれと同じケースが何度もあった。 その度に戦乱が起こったからな。」 カシスの真剣な表情、2人は本当なんだなと直感する。今まで見た事がない表情だからだ。 ゼラン「考え過ぎだと思うんだが、お前の発言にはキレがあるからな。」 アシリア「注意しておきます。」 3人はギズ村を後にした、次の目的地は港町ルッド。その道中お互いコミュニケーションを とる事を忘れず、話しながらの移動であった。 港町ルッド・・・、ギズ村から南東に位置するグフォーラス大陸で1・2位を争う巨大港。 この港町は世界への玄関口としても有名な大型商業町である。1日に数百隻もの商船や客船が 入港・出港している事から、ここの大きさも自ずと窺えるだろう。町や港の規模はギズ村の 約10倍近く、商業の他に工業も盛んである。商店の数も多く、目移りしそうな品物が多い。 この町では約2年前に自警団が設立されたが、船団の護衛等に付き添う人員が多く不足気味で あった。町長は解決策に人員を雇おうと募集を呼びかける。それがカシスが宿で見たチラシで あった。 3人は1時間ほど歩き、ルッド港へ到着する。だが話し合っての道中だったので、僅か30分 足らずしか経っていないと思っていた。 ・・・港町ルッド・・・ アシリア「うわぁ〜・・・。」 ゼラン「でけぇ港町だな〜・・・。」 カシス「世界の玄関口と言われている。ギズ村とは暖かさはないが、活気に満ち溢れているな。」 カシスはルッドの事は知っていたが、アシリアとゼランは見るもの全てが新鮮に映っていた。 カシス「さてと、俺は道具やに行ってくる。お前達はどうする?」 アシリア「一緒に行きます。」 ゼラン「俺も同じく。」 カシス「分かった。だが欲しい物があっても自分達で買えよ。」 カシスは2人に念を押し、道具やへ向かった。2人は思っていた事を見抜かれ、舌打ちする。 道具屋へ到着すると、カシスは3人分の食料と2つの寝袋一式を購入しようとする。2人は カシスに何で買うのかと聞いた所・・・。 アシリア「何で私とゼランさんの分まで買うのですか?」 カシス「これから野宿をする機会が多くなる、テントもいいが寝袋も結構便利なんでな。備えあれば 憂いなし。」 ゼラン「へぇ〜・・・何だかんだ言っても、ちゃんと俺達の事を考えているんだな。」 カシス「当たり前だ、仲間にはそれなりの事はしないとな。」 アシリア「仲間思いなんですね。」 カシス「ほらほら、話してないで気に入った物を選びな。この後武器屋に行くぞ。」 アシリアとゼランはお気に入りの寝袋を選び、カシスは日持ちのいい食料3人分を数日分購入 した。 そして今度は武器屋へ足を運ぶ。2人はカシスに何を買うのかと聞いた所・・・。 アシリア「今度は何を買うのですか?」 カシス「お前達の武器だ。」 ゼラン「それはまた何でだよ、別に買う必要なんかないぜ。今の武器で十分だよ。」 カシス「2人とも武器をよく見てみな、理由が分かる。」 アシリアとゼランは言う通りにそれぞれの武器を見つめる、直後2人はその訳が分かった。 それぞれの武器は所々腐食していて、酷い所は刃が欠けている所もあったからだ。 ゼラン「な・・何なんだこれは・・・。」 カシス「洞窟でフォーススケルトンどもと戦っただろ。モンスター・・・特に不死属系を斬ると質の 悪い剣や斧ではすぐに刃こぼれするんだ。」 アシリア「ひょっとして・・・私達が戦っていた時、既に気づいていたのですか?」 カシス「ああ。あと2・3回ぐらい斬り付けていたら壊れていただろう。」 カシスの発言に2人は驚いた。一瞬見ただけで武器の耐久度を当てる事は、相当のやり手で なければ不可能である。 ゼラン「・・・すげぇな〜、一瞬見ただけで分かっちまうなんて。」 カシス「これを見極めるのに6年以上かかった。それに見極めるまで使い続け、今までに折った剣の 本数は・・・約600本ぐらいだな。」 ゼラン「マ・マジかそれ?!」 アシリア「凄い・・・。」 カシス「そして・・・今までの経験から考えて、俺に最も適した剣がこれだ。」 カシスは鞘から白銀の剣を抜き、2人に手渡した。その刀身は傷一つなく、まるで骨董品の ような雰囲気を思わせる。それに見た目は超重量大型大剣であるが、それを思わせない重さ。 アシリアとゼランはそれぞれ手に持つと、驚きの声をあげる。 ゼラン「すげぇ〜全然重くない・・・。」 アシリア「それに不思議と手に馴染みます。」 カシス「普通の武器は錬金等から作るが、これは魔法を掛け合わせて作ったオーダーメイド仕上げ。 俺だけのオリジナルソードだ。」 アシリア「オリジナルかぁ〜・・・。」 白銀の剣を見てそう呟くアシリア。この時アシリアの中で何らかの考えが浮かんだようだ。 それにアシリア自身、武器を見る目がゼランより全然違う。 カシス「それより自分達に一番合った武器を選びな、これは俺の実費でいいから。」 アシリアとゼランはここで買える最も強い武器を選ぶ。アシリアは鉄の剣より更に攻撃力が 高い鋼鉄の剣を、ゼランは鉄の斧より破壊力がある鋼鉄の斧を選んだ。そしてカシスは話した 通り、それらを実費で購入する。その後3人は武器屋を後にし、本命のルッド自警団事務所へ 向かった。 アシリア「ありがとうカシスさん。」 ゼラン「てっきり自分の武器は自分で買えと言うかと思ったよ。」 カシス「今回だけだぜ、後は自分達でしっかり買いなよ。」 武器屋を後にすると、3人はルッド自警団事務所まで向かった。そこまでの道のりで目に映る のは、その圧倒的数の商店である。 先程訪れた道具屋・武器屋、そして防具屋・飲食店・魔法研究所・雑貨屋・衣類屋・食料店 など。場所によっては同じ品物の価格が2倍近い差があり、激安店の方が繁盛している。 だが価格が高い店ほどいい品物を扱っており、玄人向けの店でもある。 価格はどれも1リールヴから高くて500リールヴの範囲。衣類や食品・道具・雑貨関係は 前者で、武器防具・魔法講師料金関係は後者まで。 一戸建ての家を建てる額や土地権利料も含め、最大で3000リールヴ前後。ギズ村で村長 から貰った3000リールヴという金額がどれだけ多額かが伺えるだろう。 それにカシスが所持している軍資金15000リールヴ、向こう10年間は遊んで暮らせる 多額金。またこれだけ短期間で稼いだカシス自身も凄い人物であろう。 第2話・2へ続く |
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