フリーダムハート 自由なる勇将ヴィアラシュア  暗黒皇帝ディーラの野望
    〜第3話 アシリアの生い立ち1〜
   港町ルッドを出発したカシス達は、一路北の軍事国家グリーエに向かう。
   表向きは旅芸人風に振る舞う。この行動の発案者はカシスだった。もしディーラ達の仲間に
   見つかった場合、要らぬトラブルが発生しやすいと考えたからである。旅芸人なら無視して
   くれるに違いない。まあ相手の出方が分からない以上、この作戦が効くかどうかは考えもので
   はあるが。
   その最中、アシリアはどうも落ち着かない様子であった。カシスはアシリアの過去にグリーエ
   が関係していると直感する。
   “エルフを庭園で見かけた”。この発言を聞けばどう考えてもそれしか思えなかった。
メイ「グリーエかぁ〜・・・、どんな町なんだろう。」
   無邪気そうにメイが話す。カシスは簡単にグリーエの説明をしだした。
カシス「ルッド港よりも更に大きい場所だ。なんたって国家なんだからな、軍事レベルも全世界で
    最強らしい。パラディン部隊やガルーダ部隊、他国を凌ぐ兵士の数。ディーラが気に留める
    訳がよく分かるよ。」
イザルス「確かに・・・。グリーエが最強の国家なら、敵に回したら厄介な事になりますからね。」
ゼラン「でもよ〜、ルッドに攻めてきたモンスターどもの前線基地計画だが・・・。ルッドが仮に
    前線基地になってたとして、その後グリーエに攻めたとするぜ。だが最強の軍事国家なら
    どう考えても返り討ちに遭うのがオチだ。」
グレス「そうですね。そこまでして何故ルッドを攻めたんでしょうか・・・。」
   イザルス達は頭を捻る、まるで難しい問題を解こうとしている学生のようだ。だがカシスは
   その訳が何となく分かる気がしていた。
カシス「もし・・・ルッドに攻めたのが前線基地にするのではなく、ディーラ達の時間稼ぎだったら
    どうなる・・・。」
アルビス「・・・他に本命の作戦があるとでも?」
カシス「仮説に過ぎんがな・・・。ディーラがかなりのキレ者だったら、この作戦を考えるだろう。
    それに俺がディーラの立場だったらそうする。相手の心理や弱点を突くのは基本中の基本。
    しかし奴等の本命の作戦が何だかまでは知らないが・・・。」
   カシスのキレのある発言にイザルス達は驚いた。まるで今後の進展を読めるかのように。
メイ「あ〜っ、町が見えてきたよ〜!」
   そんな雰囲気の中、メイが大声でそう話す。まるで何も分かっていないかのように。一同は
   そんな子供のメイを羨ましく思った。
   彼女が話した通り、前方には軍事国家グリーエが見えてきた。距離はまだまだ遠いが、地平線
   左右にかなりの長さをしている。つまり実物は相当の大きさという事になる。
   その後カシス達は話しながらグリーエを目指した。

   港町ルッドを出発してから2時間、カシス達はようやく軍事国家グリーエに到着した。そこは
   ルッドの比ではなく、町の規模が10倍近い。カシス以外はその圧倒的なスケールに驚く。
   だがアシリアだけは懐かしそうな表情を浮かべていた。
ゼラン「すっげぇ〜・・・。」
イザルス「グリーエがここまで大きいとは・・・。」
メイ「ルッドより大きいね!」
   商店の数も凄まじく、同じ武器・防具・道具・雑貨・食料・衣類・魔法研究所等の店が複数
   ある。これだけの商店があるのだから、当然競合率は高いだろう。その競合率が商店を活性化
   させ、城下町を繁栄させるに至る。またルッド港では少なかったが、娯楽施設も複数ある。
   カジノや公園など、ルッドのそれより数が多い。これもグリーエを陰から支える柱でもある
   のだろう。
カシス「まずはどうする。このままグリーエ城へ向かうか、それとも一日休んでから行くか。」
アシリア「当然・・・。」
ゼラン「昼食に決まってるぜ!」
   一同が城に向かうと話そうとした瞬間、ゼランが先に話しだす。彼の発言に一同は呆れるが、
   それも一理あるなと納得するのであった。
グレス「まあいいじゃないですか、先に休憩しましょう。」
ゼラン「先に飲食店へ行ってるぜ〜。」
   一足先に飲食店に向かうゼラン。カシス達もゼランを追いかけるように後を着いて行く。

   その途中民家の路地裏から言い争う声が聞こえてきた。カシスは何だという表情でそちらへ
   向かう。そこにはメイと同じくエルフの少女が不良じみた連中に絡まれていた。
少女「何なんですかあなた達は?!」
男性1「な〜に手間は取らせない、チョッとの間だけ俺達と付き合って欲しいだけだよ。」
少女「嫌です、誰があなた達なんかと・・・。」
男性2「そう言わないでさぁ〜、付き合えよ。」
   男性が強引に少女の手を掴む、それを振り払おうと動く少女。カシスは有無を言わず鞘から
   白銀の剣を抜き、無理矢理に少女の手を掴む男性の首に着きつけた。
カシス「やめな、嫌がっているだろ。それともその娘の考えを見抜けないほどの馬鹿者なだけか?」
男性1「何だ貴様は、邪魔すると痛い目を見るぜ。」
カシス「フ・・・それはどうかな・・・。」
男性3「やっちまえっ!」
   男性3人はカシスに襲い掛かってきた。男達はパンチでカシスを殴ろうとするが、カシスは
   踊っているかの如く避けていく。
   カシスは白銀の剣を鞘にしまい、それで男達にみね打ちを放った。みね打ちを受けた男達は
   その場に倒れこみ、改めて相手の強さを知るのである。
男性2「こいつ強い・・・。」
男性3「お・・俺達はただ単に・・その娘と一緒にお茶を飲もうとしただけだよ・・・。」
男性1「か・・勘弁してくれ〜・・・。」
   男達はみね打ちを受けた場所を手で抑えながら、その場を去っていく。カシスは大きく息を
   吸うと少女に話し掛けた。
カシス「大丈夫か?」
少女「あ・・ありがとうございます・・・、助けて頂いて・・・。」
カシス「気にするな。俺は困っている奴を見るとついつい助けちまう質なんでな。」
少女「本当にありがとうございます・・・。」
   カシスは路地裏から町の中央通りに少女を連れて行く。その場にいたのでは再びあの連中に
   絡まれる可能性があるからだ。
カシス「今度は気を付けるんだぞ、じゃあな。」
   カシスはゼラン達の後を追って再び飲食店に向かう。だが少女はカシスの後を恐る恐る着いて
   来る。カシスはどうして着いて来るのかと聞いた所・・・。
カシス「なんだ、何で付いて来るんだ?」
少女「またさっきの人達が話し掛けてくるのを考えると・・・怖くて・・・。剣士様と一緒にいれば
   安心しますから・・・。」
   呆れた表情で少女を見つめるカシス。どうやら簡単には諦めそうにないと思った。
カシス「まったく・・・、名前は?」
少女「私はディールといいます。」
カシス「俺はカシス。しょうがないから付いて来な、後で家まで送ってやるから。」
   カシスの言葉に悲しそうな表情を浮かべるディール。その後徐に答えだした。
ディール「・・・帰る家はありません。今まで旅をしていて、今日グリーエに辿り着いたんです。」
カシス「・・・すまない、そうとは知らず・・・。」
ディール「あの・・・カシスさんのお住まいは?」
カシス「俺は傭兵、家などない。主に野宿をしながら生きている。」
ディール「・・・あの・・・。」
カシス「・・・着いて行っていいか・か?」
   心中を見抜かれたディールは小さく頷く。カシスはやれやれといった表情をするが、彼女の
   間の空かない会話を垣間見ると諦めそうにないと感じた。
カシス「仕方ないな、一緒に来な。」
ディール「あ・ありがとうございますっ!」
   嬉しそうにディールは叫ぶ。まるで初対面のアシリアが着いて来たいと言った時と同じだなと
   カシスは思う。メイとは大差ない年齢であるが、言動がしっかりしている分大人びた雰囲気を
   している。
   その後ディールと共に飲食店へ向かった。

   その頃飲食店ではゼランが最初に注文した食事を食べだしていた。それを呆れながら見つめる
   イザルス達である。
ゼラン「お先に〜。」
イザルス「どうしようもないですねこれは・・・。」
アシリア「ええ・・・。」
メイ「私も早く食べたいよ〜。」
イザルス「もうすぐできるから我慢するんだ。」
メイ「はぁ〜い。」
   次々に運ばれてくる食事を食べるゼラン。そこに遅れてカシスとディールが駆け付けてきた。
   複数ある飲食店内にいる彼らを見抜いたのは、やはりゼランの食事に対する気迫であろう。
アシリア「どうしたんですか、途中でいなくなって。」
   アシリアが心配そうにカシスを見つめる。その後隣にいるディールを見てどうしたのかと話し
   だした。
アシリア「その子は一体?」
   カシスはディールとの経緯を皆に話しだす。それを聞いた一同はなるほどと納得する。
ゼラン「相変わらずだなカシスは。」
アシリア「よろしくねディール。」
ディール「よろしく・・・。」
   初対面の一同にディールは引っ込み思案気味であった。そこに同じ種族のメイが元気よく話し
   かける。
メイ「初めましてディールさん、私はメイといいます。友達になってください。」
ディール「初めまして・・・ディールです。よろしくお願いします・・・。」
イザルス「メイにも友達ができたな。」
   イザルスはメイがディールと話しているのを見て微笑む。更にそれを見つめるカシスも笑みを
   浮かべた。
                               第3話・2へ続く

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