フリーダムハート 自由なる勇将ヴィアラシュア 暗黒皇帝ディーラの野望 〜第4話 理想の国への夢3〜 カシス達が就寝してから約4時間後の事。 逆奇襲により退却したディーラ軍は、レルバルド城で緊急作戦会議を開いていた。相手側には 物凄く切れる人物がいると考え、襲撃作戦そのものを変更する必要があったからだ。 ラーサーは逆襲撃を受けた時、相手側がどのような戦術だったかを詳細に話す。 ラーサー「突然でした、城下町に入ると当時に襲撃が開始されて・・・。」 ラーサーなりにはやはり悔しかったのだろう、話す言葉に悔しさの念が込められていた。 だが心の片隅では一安心していた。それはデェルダがこの作戦自体を望んでいなかったから。 彼なりに襲撃が失敗に終わった事は、悔しいと同時に嬉しかったのである。 ディーラ「分かった、とにかく無事でなによりだ。」 ガードン「それにしてもよく逆奇襲ができましたね。どう考えても向こう側からのスパイはいないと 思いますが。」 ラーサー「確かに・・・。」 ディーラ達は味方の中にスパイがいると考えた。だが殆どが雇った傭兵やならず者。争いを 好む狂戦者が、態々敵側に知らせに行くとは考えられない。 またグリーエまでの距離は、河川から船で向かっても約半日。徒歩では約1日掛かる。馬など の移動手段を使えばもっと早くなるが、それにしても唐突すぎた。 それにグリーエを襲撃すると決めたのは約1日前、どう考えても知る事が不可能だと思った。 更には相手側は世界最強の軍事国家であり、軍を動かすとなるとそれなりの動きがある筈だ。 つまり短期間で軍を動かせるとは到底考えられない。 これらを踏まえて彼等が導き出した結論はこうだった。相手側にはグリーエの上層部、参謀 クラスを簡単に動かせられる程の器の持ち主がいるという事だった。 撤退してきた傭兵から情報を聞き出し、ディーラの元へ駆けつけて来るグランデス。 グランデス「ディーラ様、分かりました。敵側にはあのカシスがいるそうです。」 グランデスの発言を聞いたディーラ達は驚愕する。それもその筈、常勝剣士カシスと言われて いるカシスがいたのだ。ディーラ達は国家事情には詳しくないが、傭兵関係事情には人一倍 精通していた。つまりカシスの過去の行動を知る者達でもあった。 ラーサー「ま・・まさか・・・あの・・・。」 ディーラ「フフッ、逆奇襲される訳だ。」 ラーサーは今だ驚愕、ディーラは苦笑をする。別の所でカシスの存在は、よく知られている ようだ。 ラーサー「これからどうしますか?」 徐に今後の行動をディーラに聞くラーサー。ディーラは直には答えを出さなかった。 ディーラ「・・・暫く待とう、それからでも遅くはない。」 ディーラは落ち着いた物言いで話す。それを聞いたラーサーは頷いた。間を置いての発言を する彼を見つめ、直ぐには動けないと直感するのである。 ディーラ「ところで、デェルダの姿を見なかったか?」 ラーサー「デェルダ様なら、ジェイズとデュウバと一緒に寝室へ向かわせました。丁度出撃前です。 それがどうしましたか?」 ディーラ「いないんだよ、寝室に。あいつの事だから、ふてくされていると思っていたんだが。」 ラーサーはデェルダ・ジェイズ・デュウバの3人がいない事を知る。そしてある事が脳裏を 過ぎる、それはデェルダ達がスパイだという事に。だがその考えは間違ってるとラーサーは 頭を振り忘れようとした。 だがそこに待っていたかのようにジャオグが現れる。 ジャオグ「ディーラ殿、確かどこかに伝える事があると話していましたよ。」 ディーラ「本当か?」 ジャオグ「はい。確かに聞きました、戦の流れを変えると・・・。」 ラーサーは胸が締め付けられる思いだった。愛する人が自分達を裏切った事を知って。更には 実の兄をも裏切った事にも悲しかった。 ラーサーはその場にいてもいられず、グリーエ城へ単独で向かいだす。本心を聞きたい、ただ この事だけを胸に秘め。それを察知したディーラは止めに入るが、ラーサーの耳には入らな かった。ディーラはグランデスに彼の後を追うようにと頼む。 そしてディーラは両手で顔を覆い、深く溜め息をつく。 ディーラ「・・・まさかそう走るとは・・・。」 それを聞いたジャオグは、不気味な笑みを浮かべる。そう、この会話内容は偽りであった。 普通ならこうは考えはしない所ではあるが、逆奇襲により彼等は精神的に参っていた。だがら デェルダが裏切った事を本気で信じてしまったのである。 女「どうだい、上手くいったかい?」 ジャオグがディーラ達の所から去り、あの地下室まで戻る。デェルダ達を殺した例の地下室。 ジャオグ「成功だリウス、デェルダがディーラ達を裏切ったと思い込んだ。」 男1「これであの作戦が実行できるな。感謝するぞジャオグ。」 ジャオグ「礼には及ばんよガゥイ。」 ジャオグ達は不気味に笑いあう。まるで悪魔が宴を始める前触れが如く。そしてそれを黙って 見つめている物言わぬ灰。デェルダ達の亡骸であった。 その頃グリーエ城は、朝の8時を迎えようとしていた。 夜襲で無理矢理起こされた仲間達はカシスを除いて今だ睡眠中。夜勤守備に付いていた近衛 兵士達も、早朝から早朝守備の兵に代わってもらい睡眠に入る。城下町は今朝方の奇襲が嘘の ように賑やだ。 カシス「・・・・・。」 カシスは大食堂で朝食を食べながら、あの時感じた念の者を考えていた。一体何者達なのか、 この事だけしか思いつかなかった。 しかし追々考えると、今言える事はディーラ達の襲撃を知らせてくれた事である。 アシリア「考え事ですか?」 物思いに耽って朝食を取るカシスに、アシリアが話し掛けてきた。どうやら彼の次に起きて きた者のようだ。 一点を見つめ放心状態で食事を取る彼を見れば、悩みがある事は一目瞭然であろう。 カシス「ちょっとな・・・。」 アシリア「早朝の奇襲前の、あの不思議な念ですか?」 カシス「・・・鋭いな。」 アシリアの直感に、カシスは驚いた。まあ仲間達の中で彼を誰よりも一番思っているのは、 他ならぬ彼女自身。当たり前なのかなとカシスは心中で呟く。 アシリア「誰だったのですか?」 カシス「3人の念、無念にも思えるもの。その中で1人だけが強かった。誰までかは分からない。」 カシスはコーヒーを飲みながらそう語る。アシリアは厨房から注文した朝食を受け取り、彼の 隣で食べだす。 アシリア「もし困っている事があれば相談に乗ります。何でも話して下さいね。」 カシス「ありがとよ。」 3人の念、カシスはこれが誰なのかが一番知りたかった。だが何となくだが分かる気がした。 それは3人の念が届いた直後、ディーラ軍が奇襲を仕掛けてきたという事。つまりこの奇襲を 望まない者のものだという事が考えられる。 アシリア「あの、カシスさん。」 カシス「何だ?」 再び物思いに耽っている時、不意にアシリアに話し掛けられる。 アシリア「カシスさんは、ディーラの軍を倒されたらどうなされるのですか?」 カシス「そうだな・・・、再び流浪の旅路に出ようと思っている。」 その話を聞いた瞬間、アシリアはなぜか切なくなる。アシリアの中でカシスの存在は、かなり 大きなものとなっていた。できる限り平然さを装い、明るく答え返す。 アシリア「そ・そうですか・・・。」 だがその言葉には不安や悲しみが込められていた。それを感じ取るカシス。 カシス「・・・専属の護衛は必要か?」 カシスのこの言葉にアシリアは一瞬戸惑う。だが次の瞬間、笑顔と共に意味を理解する。 アシリア「は・・はいっ、ぜひともっ!」 相当嬉しいらしい、声が裏返った返事だった。カシスは内心呆れると同時に、これも定めかと つくづく思う。 カシス「フフッ、お前らしい。だが今はまだだ、やる事が残っているからな。」 アシリア「はい、お待ちしています。」 笑顔で応対するアシリア。その笑顔を見ればどれだけ嬉しいか、誰であろうが理解出来るで あろう。またそれを物語るのは彼女の朝食摂取スピードが物凄く速いからもある。それを見て 嬉しそうな表情をするカシスであった。 その後おかわりをするアシリア。その摂取量はゼランに匹敵する。当然心配そうに見つめる カシス。 カシス「大丈夫かそんなに食べて。」 アシリア「大丈夫ですよ、私って意外と食べる方なんです。」 カシス「初耳だな。」 アシリア「でもゼランさんには負けますけどね。」 ゼランの食い方・食う量は、今やグリーエ大食堂のナンバーワンとなっていた。もっとも彼は 一回の食事に5人分の量を食べないと気が済まない体質。当然ではあるが・・・。 その後も食べ続けるアシリアを横目に、カシスは今までの事を徐に呟きだした。 カシス「・・・俺はこの数日で大きく変わったと思う。皆の行動や話す言葉、これに接する事で少し ずつだが変わりだした。特にアシリア、お前には感謝している。」 アシリア「な・何を言いだすのですか。」 慌てるアシリア。そのような返し方を突然されて、驚かない奴はいない。特に相手は自分に とって大切な人だ。 カシス「ありがとうという事だよ。」 アシリア「だ・だったら最初からそう言って下さい。」 再び慌てるアシリアであった。そんな行動を見ると、前にも見た事がある気がするカシス。 カシス「・・・数日前からの付き合いだが、以前に会っている気がしてならない。」 アシリア「・・・私もですよ。カシスさんとは初めてあった気がしないんです。」 カシス「・・・・・。」 カシスは暫く考え込み、暫くしてから徐に話しだす。 カシス「・・・運命・か。」 アシリア「えっ?」 カシス「お前と出会ったのは運命だったのかもしれない。キラーハウンドになっていたお前、そこに 依頼で出会った俺。まるで誰かが意図的に導いた気がしてならない。」 アシリア「・・・運命でも偶然でも、私はこの数日間幸せでした。そしてこれからも・・・。」 カシス「そうだな・・・。」 2人とも思っている事は同じであった。だからあえて口には出さず、沈黙を以て答える。 そんないい雰囲気なその場に、勢いよくメイ・ディール・ファエルのエルフ三人組が現れた。 メイ「おはようございま〜すっ!」 ディール「早いですねお2人さん。」 ファエル「アシリア様も早いですね。」 3人の登場にアシリアは案の定慌てる。まあ当然の事であろう。だがカシスは平然である。 カシス「おはよう、まだ眠いだろ?」 メイ「ううん、平気よ。」 ディール「大丈夫です。」 明るく会話するメイ・ディール・ファエル。さすが10代前半と思わざろうえない。2人に 挨拶を済ますと、足早に朝食を取りに行った。 暫くしてグリーエ大食堂の大食らい、ゼランが登場。隣には昨日の祝賀会で知り合ったセレア がいた。 ゼラン「よ〜し食うぞ!」 セレア「もうっ、ゼランったら。おはようございます、カシスさんアシリア様。」 カシス「おはよう。」 エルフ三人組以上に、足早に朝食を取りに行くゼラン。その後を恥ずかしげに追うセレア。 そんな姿を微笑ましく見つめるカシスであった。 朝食を終えたカシスは、城下町へと足を運んだ。 城下町は昨日来た時よりも賑やかで、人々の往来が激しさを増している。さすが世界最大の 城下町、カシスは心中で呟く。 カシスは城下町公園まで向かい、公園の中央にシンボルとして配置してある大木の横に座る。 早朝だというのに、公園には家族やカップル等が多く集まっていた。 そんな中、ふと自分の見る先に不審な人物が立っていた。それはここが明るい場なのに、黒い ローブを着用しているからだ。その人物は徐にカシスの側へ近付いて来る。 カシス「俺に何か用か?」 その場に座りながら先に話すカシス。相手の人物は物言わず、カシスの隣へ座り込む。その 行動からして、相手は女性だと判断した。 黒ローブ「捜したわよ、カシス。」 カシス「・・・ディーラとは無縁らしいな。」 カシスはとりあえず、相手がディーラの回し者でない事を確認した。だがそれが余計に気に なる。考えようではディーラ以外にも敵がいる事になるからだ。 黒ローブ「ええ。」 カシス「名前は何て言えばいい。お前は俺の名前を知っているが、俺はお前を黒ローブとでも言えば いいのか?」 黒ローブ「ごめんなさい、私はヴィアラシュア。」 その発言に驚愕するカシス。ヴィアラシュアとはかつて存在した、伝説の英雄の名前であった。 しかし凡人ならそう言われて全員が信じるとは思えない。だがカシスが驚愕し、本人だと認識 した理由。それは彼女から発せられる闘気そのものにあった。 第4話・4へ続く |
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