覆面の風来坊外伝
〜三国志遊戯〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝3 〜三国志遊戯〜
    〜第1部・第05話 横暴の暴君〜
    コウシとナンチュウを制圧した俺達。とは言うものの、制圧と言うのは名だけである。用は
   モウカク氏とシュクユウ嬢の理解を得られればよかったのだ。

    その役を買って出てくれたのがリョフ氏。一騎打ちの殴り合い勝負にて、モウカク氏に俺達
   の生き様を伝えてくれた。今のリョフ氏の存在は、俺達の生き様を戦いで具現化してくれる
   存在だと言える。それに感化されたのがモウカク氏達、南蛮ファミリーである。


    今はモウカク氏の居城にお世話になっていた。家族当然の仲間達を処断せずに好待遇して
   くれた事への、正式な恩義という事らしい。まあこちらは殺戮が目的じゃないしな。

    また彼らも俺達の生き様に感化されたようで、共闘を申し出てくる人物が数多くいた。王妃
   たるシュクユウ嬢もである。ただモウカク氏はどこか引っ掛かるようで、黙ったままなのが
   何とも言えない。まあその気持ちは十分理解できるが。



ソンケン父「では形では制圧ですが、同盟という事でよろしいので?」
シュクユウ「ああ、そうだね。でもこの同盟はただの同盟じゃない。家族当然のものさ。これだけ
      色々と面倒見てくれたんだ、それに報いなければ南蛮の名が廃るってもんさな。」
ソンケン父「了解致した、感謝しますぞ。」
    飲み会に発展しているこの場。元来から南蛮の方々はフレンドリーな性格なのか、この様な
   飲み会は日常茶飯事との事である。だから家族としての結束力が強い訳だわ。

デストロイア「あー・・・マスター、飲み会の席ですみません・・・。」
ミスターT「・・・ブリョウとチョウサが落とされた、か?」
デストロイア「・・・ええ、その通りです。」
    突然現れた隠密ハーズダント部隊のデストロイアが語る内容に、ソンケン父氏達は驚愕の
   表情を浮かべだした。そして顔を青褪めだしてもいる。

    チョウサは彼らの中心地であり、家族がいるとも思われる。そこが攻め込まれては安否が
   気になる所だろう。これは彼らが出立の際に、家族も一緒に連れてくればよかったか・・・。

リヴュアス「あ、その点なら問題ありません。隠密部隊にソンケン父様方のご家族や縁の方々を保護
      させてあります。もう時期こちらに来ると思いますよ。」
ミスターT「あらま・・・見事な手並みで・・・。」
ビィルガ「私の発案ですよ。ソンケン父殿方が居城とされる場所から離れれば、敵の目は確実に向け
     られると判断してました。自分ならそう攻めますからね。よってチョウサとブリョウに
     いらっしゃる・・・リヴュアス嬢が仰る通りですが。」
    葉巻を吸いながら語るビィルガ。彼の先見性溢れる千里眼は、アルエキファイタの頭脳と
   言わしめるだけはある。こういった先読みは実に見事なものだ。
ソンケン父「すまない・・・本当に恩に着ります・・・。」
ビィルガ「いえいえ、同じ武人として当然の事をしたまでです。」
ミスターT「お前さん、武人だったのか・・・。経営者じゃなかったのかね?」
ビィルガ「マスター・・・せめてこの場は華を持たせて下さいよ・・・。」
   俺の茶化しにビィルガの落胆話で周りは笑っている。確かに彼は武人よりも経営者そのもので
   ある。アルエキファイタ本編や風来坊本編では、プロレス団体を引っ張るリーダーだからな。
   まあリュウジN達と同じく口調が武人っぽいので、その言葉は的を得てはいるが。

ミスターT「ビィルガやシェガーヴァを敵には回したくないものだわ。間違いなくソウソウ氏と同じ
      属性だから、覇道に転じるのは言うまでもない。」
シェガーヴァ「確かにそうですな。しかし、我らはマスターがなければ存在もできません。主からの
       離脱など考えられませんからね。」
ソンケン父「ふむ、お2人から感じられる力はそれでしたか。実際にソウソウ殿にはお会いしてない
      のですが、かなり危ない存在とも聞いています。」
ミツキ「覇道への道は形的には統率は優れていますが、結果的には独裁政権そのものです。それでは
    何にもなりません。かといって王道では脆い部分が存在しているのも事実。となれば何にも
    組しない中道の生き方、つまりソンケン父さんの生き様が天下に相応しいのですよ。」
    突然、真剣な口調で語り出すミツキ。この真面目な一面は滅多に見せないため、彼女をよく
   知らない面々は驚きの表情を浮かべている。この時ばかりはリアリティに富んでいるため、
   一切のユーモラスさは含まれていない。

モウカク「俺様ならなぁ・・・纏めて面倒見てやるんだが・・・。」
シュクユウ「アンタは動機が不純なんだよ。まだソンケン父殿の方が潔い生き様を刻んでいるさな。
      アンタはただ暴れたいだけだろうに。」
モウカク「そ・・そりゃあねぇよ母ちゃん・・・。」
ミツキ「まだまだ甘いわぅね。」
    シュクユウ嬢には全く頭が上がらないモウカク氏。カカア天下とは正にこの事だな。しかし
   この一念を抱いた瞬間、寒けが走るほどの殺気を感じた。案の定、シュームとナツミYUに
   痛烈な殺気を帯びた視線で睨まれている。このタッグはシュクユウ嬢を2倍にした物凄さと
   言えた。

ミスターT「まあともあれ、ソンケン父氏なら一切を任せられる。規律に関しては群を抜いていると
      確信しているからの。」
リョフ「そうだな。それに屈強の戦士が数多い。大陸を制覇したら、一度手合わせをしたいものだ。
    その時はよろしく頼むぞ。」
ソンケン父「ハハッ、了解致した。」
ミスターR「というか誰もリョフ氏に勝てなさそうっすけど・・・。」
ミツキ「勝負する事にこそ意義があるわぅよ。それをリョフちゃんは理解してるわぅ。」
    ミスターKとミスターAKの手料理を満喫しているミツキ。この2人は実際に料理ができる
   とあって、その腕前はトムMなどの料理人と互角である。経験に関してはトムMの方が上手
   とも取れるが、この場ではその限りではない。


シュクユウ「それで、あんた達はこれからどうするんだい?」
ミスターT「チョウサとブリョウが落とされたからな。ここは東のナンカイを進むか。」
オウイン「ソンケン父殿のご家族の合流を待ってからですな。」
ミスターT「そうだの。」
    直ぐに悄気るモウカク氏を放っておき、シュクユウ嬢が今後の行動を尋ねてきた。既に戻る
   地域は存在していない。ならば新たに開拓するしかないだろう。
シュクユウ「何かあったら直ぐに言ってくれよ。あたい達の精鋭軍団を送るからさ。」
ミスターT「いや、今は自国の守りを強化してくれ。俺が推測するに、セイトとブリョウから侵攻が
      あると思う。今度は実際の武器による殺し合いになる。」
シュクユウ「やっぱそうなっちまうねぇ・・・。まあとにかく、防戦に徹するという事だね。」
   厳しい表情をしだすシュクユウ嬢。彼女も薄々感じていたようだわ。先の報告でブリョウと
   チョウサが制圧された事により、こちらに侵攻して来る事は十分想像できる。また相手の勢力
   も強大なため、防御面を堅固にしないと厳しい。

ビィルガ「マスター、奥の手として不死身の精鋭軍団を配置しておきますか?」
ミスターT「だなぁ・・・。ナンチュウとコウシに隠密状態で一個連隊を配置しておくか。」
ディルヴェズ「了解しました。では私達は暫くこの地に留まり、軍備が済んだら駆け付けますね。」
ユキヤN「最優先事項は南蛮の皆さんの厳守、という事ですね。了解致しました。」
    正に有言実行とはこの事。不死身の軍団の創生に取り掛かる、ディルヴェズやユキヤNの
   創生軍団だ。ヴァスタール達はユキヤNや彼縁の面々が、ヴィアシールとハーズダント達は
   ディルヴェズ達や彼縁の面々が創生を行ってくれている。時間魔法や空間魔法を駆使する事
   により、無限大に創生が可能になるという荒業だ。

    これは流浪人本編でも行われている荒業であり、やはり魔法という超絶的な力でしか成し
   得ないものだろうな。空間を構築し時間を止めて無限大に創生する。正に神そのものと言える
   だろう。

ミスターT「そうだ、モウカク氏にシュクユウ嬢ね。俺は一度首を突っ込んだら、最後までトコトン
      付き合い続ける性質なんだわ。だから一切心配しなさんな。貴方達を絶対に見捨てたり
      なんかしないから。」
モウカク「・・・すまねぇ。」
シュクユウ「もう少しまともな感謝できないかねぇ・・・。」
ミスターT「ハハッ、それも彼の味というものさ。ともあれ、それぞれのできる行動をするぞ。」
シュクユウ「分かったよ、お前さん達を大いに信頼してるからね!」
ミツキ「暴れてやるわぅー!」
    そう言いながら十字戟を背中に背負い突っ走りだしたミツキ。慌ててナツミA達が付いて
   行く姿は通例である。しかも会食の場を中断しての行動とは、本当に猪突猛進とはこの事で
   あろう。何ともまあ・・・。


    ミツキの突っ走りを合図に、それぞれに動き出した。モウカク氏達はナンチュウとコウシの
   守備を厳守と伝え、今は耐えるように促した。不死身の精鋭軍団を護衛に着けたので、敗退
   までは至らないだろう。それに彼らには南蛮特殊部隊もいるからな。

    俺達はソンケン父氏の地盤を固める事にした。チョウサとブリョウが落とされたのだが、
   逆に北側からの脅威はなくなったと言っていい。

    リュウヒョウ氏軍団は俺達の超絶的な力を目の当たりにしているため、これ以上の追撃は
   ないとも思える。まあ来たら最大限のお持て成しをしてあげるがな・・・。



    俺達がナンカイに進軍しだした頃、ソンケン父氏達の縁ある者達が合流してきた。祖国とも
   言えるチョウサが落ちたため、彼らの身の安全が最優先でもあった。それを見越してか、隠密
   ハーズダント軍団のリーダー・リヴュアスが先手を取ってくれていた。当然発案者はビィルガ
   である。

    また保護してきたメンバーは全く知らない面々だが、彼らが何れ呉の名将の両親などになる
   のは言うまでもない。彼らを守らねば誕生すらしなくなるのだから。ここは徹底的に厳守と
   いきたい所だ。


    今の流れからすると、お世話になる事はないかも知れない。ソンケン父氏とソンサク氏が
   最前線で指揮を取っているからだ。

    本来ならソンケン弟氏達が呉を引っ張るのだが、今の流れでは元祖たる父と長男だろう。
   まあこれも仮想三国志たる醍醐味なのだろうな。本来は戦死している流れなのだから。





ソンサク「よしっ、このまま一気に押し切るぞ!」
ミュティヌ「らじゃー!」
    ナンカイに到着すると、颯爽と進軍を開始するソンケン父氏達。俺達は彼らの補佐に回って
   いるのが現状になりだしてる。まあ彼らに天下を取って貰う流れで行くため、バックアップに
   回った方が無難だろう。

ソンケン父「ここの君主はオウロウか。」
ミスターR「そうっすね。何れ魏に帰順する形になりますぜ。」
ミツキ「ショカツリョウちゃんと対決して、悔し負けで憤死するわぅけど。」
コウガイ「そんな事が起こるのですか。」
ミツキ「まあそれはわた達が知っている話わぅけどね。実際はショカツリョウちゃんを立たせるため
    の演出らしいわぅ。まあここではその流れになるとは限らないかと思うわぅけど。」
ミスターMI「三国志演義では、蜀を立たせる話ばかりですからね。」
    恒例の如く格闘術で相手を倒していく面々。武器は相手の武器を防御するのに使い、攻撃は
   素手による格闘というのが何とも言い難い。しかしこれなら相手を殺さずに征する事ができ、
   完全に無血革命そのものであろう。まあ負傷者は数多く出るのだが・・・。

ソンサク「親父、四の五の考えるより突き進んだ方が無難だぜ。お嬢達が言うのは別の結末。俺達が
     掴み取ろうとしている現実は、もっと有意義な天下だと確信している。」
リョフ「そうだな、ソンサクの言う通りだ。戦う事にこそ意義があり、そこに自ずと結果が付いて
    くるのが通例だ。」
    ソンサク氏の背後を守るリョフ氏。モウカク氏との一騎打ちで更に変化があったのか、彼の
   他者を敬い労う精神が更に強くなっている。それはもう揺ぎ無いものと言えた。この強さで
   慈愛の精神が据わるのだから、本当に敵無しとはこの事だろう。

リョフ「フッ、これが戦いの醍醐味か。自分1人では成し遂げられない達成感。やはりお前達が知る
    俺とは相容れられぬわな。他者を見下す生き様など、今の俺には考えられん愚策だ。」
ソンサク「俺には詳しい事は分かんねぇが、リョフが自分の生き様を偽って生きるような武人では
     ない事ぐらいは分かるぜ。それは俺達全員が知っていると思う。それにあの嬢ちゃんが
     一番理解してると思ってるわ。」
    ソンサク氏が指し示す先は、リュリアの影響を受け筆架叉を使い出しているチョウセン嬢。
   サブに多節鞭という真逆の流れになっているのが何とも言い難い。まだ7歳なのに獅子奮迅の
   動きをする姿には脱帽するしかないわ。

ミツキ「筆架叉はセイリョウはオウイちゃんの獲物わぅけどね。リュリアちゃんの獲物が正にそれと
    同じわぅから、扱い易いんだわぅよ。」
オウイン「まさかチョウセンが前線で戦うようになるとは思いもしませんでした。」
ソンケン父「ハハッ、そうですな。子供は親の考えを超越する動きを見せますからな。」
ネデュラ「難しいものですわ・・・。」
    オウイン氏・ソンケン父氏・ネデュラの3人が、それぞれの子供達を見つめて深い溜め息を
   漏らしだす。子育ては大変だと言わんばかりの父親の心境だろう。特にオウイン氏とネデュラ
   は娘である。より一層気苦労が耐えないのだろうな。


シェガーヴァ「ソンケン父殿、向こうに見える居城にオウロウ氏がいるそうですぞ。」
ソンケン父「分かった、一気に突撃を開始する!」
リョフ「一気に攻めるぞ!」
ソンサク「いくぜぇ!」
    粗方敵兵士を張り倒し、残るはオウロウ氏が構える居城となった。そこに一軍で総攻撃を
   開始しだした。先陣を切るのはソンサク氏とリョフ氏、それに続くミツキや俺達。ただ何か
   嫌な予感がしてならない。ここは背後から急接近できるように準備を開始した。


    居城の扉を特殊ハーズダント部隊が破り、そこに押し込む俺達。すると凄まじい矢が飛び
   出して来た。それを身体を張って受け止めるハーズダント部隊。胸を重点的に守る装備をして
   いるため、致命傷の一撃とはならないのが凄いものだ。

    その合間を縫って大量の弓矢が四方八方から放たれてくる。何時ぞやのソンケン父氏を奇襲
   した戦法に近い。そこで少々反則気味だが、時間系最強魔法ヴァルディーヴタイムを使う事に
   した。

リョフ「・・・うぉ?!」
ソンサク「な・・なんじゃこりゃ・・・。」
ミツキ「ありゃ、時間魔法を使ったわぅか。」
    紫色の稲光が舞い、俺達を異空間のような場所へと誘う。目の前まで接近していた弓矢は
   空中で静止していた。というか俺達が超絶的な速度で動いているため、矢が止まっている様に
   見えるだけである。
ミスターT「あまり使いたくない手段なんだがね。だが戦死者がでるぐらいなら、俺はどんな力でも
      使ってやるさ。」
ビィルガ「よし、目の前に迫る矢を片っ端から撃墜するぞ。それと伏兵が配置されている場所だけを
     確認し、再度同じ場所に戻るようにしてくれ。」
コウジュン「・・・ははぁ〜、なるほど。了解、お任せ下され!」
   ビィルガが語った内容に俺達は理解したが、三国志の英傑達はコウジュン氏だけが理解した
   だけのようだった。

    俺達は目の前に迫る矢を片っ端からその場に撃墜していく。また四方八方から放たれた弓矢
   の出所が何処なのかも調査しだした。

    驚く事に居城の周りに堀を作り、その中に奇襲部隊が潜伏していたのだ。事前に準備して
   いなければ成し得るものではない。この流れだと、リュウヒョウ軍勢辺りが来た時の切り札と
   していたのだろうな。


コウガイ「おーしっ、粗方済みましたぞ!」
コウジュン「怖ろしいっすね、四方八方に罠を巡らせていたのは。」
チョウリョウ「場所は全て把握したので、後は・・・。」
    不気味に微笑むチョウリョウ氏にミツキが同調して微笑む。致命傷とも成りかねない弓矢を
   放った相手の驚愕する姿が目に浮かぶようだ。これは俺にもその微笑みの意味が理解できた。
リョフ「堀の背後に兵士の配置も完璧だな?」
リヴュアス「問題ありません。相手が気付いたと同時に逆奇襲をする事にします。」
ソンサク「こりゃあ・・・面白い事になりそうだぜ。」
   リヴュアスが語る逆奇襲の準備まで終えて、後はヴァルディーヴタイムの効果が切れるのを
   待つのみとなった。というかこの魔法、任意で止める事も可能なんだが・・・。

ミスターT「あー・・・任意停止もできるんだが・・・。」
リョフ「構わんよ、自然停止するまで待つのも一興だ。」
ミツキ「・・・にゃらば、態と遊んでいる姿で意表を突くわぅね!」
ソンケン父「・・・ハハハッ! それも一興ですな!」
ソンサク「やってやるか!」
ミツキ「という事で・・・トムMちゃん、紅茶頼もー!」
トムM「な・・何ともまあ・・・。」
    ヴァルディーヴタイムの効果が自然に切れるまで寛ぐ事にした俺達。この死活問題の戦場
   では絶対考えられないものである。しかし逆を考えれば、これこそ相手の意表を突く奇襲の
   何ものでもない。特効薬とは正にこの事だな。

    トムM・ミスターK・ミスターAKが用意した寛ぎティーセットで一服しだす俺達。完全に
   場違いもいい所である。しかしその瞬間の一服は本当に安らぎを与えるものになった。


リョフ「・・・本当にお前達を敵に回したくはないわ。」
ミツキ「おりょ、ならリョフちゃんにはわた達の敵に回るような野心がお有りわぅか?」
リョフ「フッ、そんな愚策など持ち合わせはいない。ただ・・・これだけの力を持つ存在に、俺は
    恐怖と同時に好奇心が沸いて仕方がないわ。」
    その場に座りコーヒーを啜るリョフ氏。傍らではチョウセン嬢が上品に紅茶を啜っている。
   オウイン氏の躾の賜物だろう。他の面々もお茶や茶菓子で安らぎの一時を満喫中だ。
ソンケン父「リョフの言う通りだな。お前達には底知れぬ恐怖を抱かざろう得ない。しかし同時に
      興味が沸々と湧いてくる。危険と興味は隣り合わせ、正しくその通りだろう。」
ミスターH「本来ならば三国志の世界は殺伐としていて、この様に和気藹々とは参りません。ですが
      この場限りなら何でも可能なのでしょうね。」
ミスターAK「その場の戦いを大いに楽しむ。純粋無垢の一念に立てば、殺戮ではなく試合となって
       いくのは言うまでもないですよ。プロレスの道こそが純然たる勝負の世界に投じれる
       と確信しています。」
ミスターRY「戦いとは常に己自身と向き合うもの。そこに殺戮が入ると、自分自身を見失っていく
       かと思います。いや・・・それが戦争なのでしょうね。」
オウイン「そう考えると、天下安寧とは非常に難しいものですな。」
   戦場での一時で、戦いとは何かを語り出す俺達。殺戮だけなら何も考えずに修羅の道に進む
   だけで済んでくる。しかしそこには憎悪の連鎖が続き、もはや人外の道へと進んでいくのは
   言うまでもない。

ミツキ「でも諦めなければ0%にはならないわぅよ。諦めた時点で全て潰えるわぅ。」
リョフ「そうだな。だからこそ我武者羅に高みを目指し続ける。お前達が知る俺自身が貫く最強の武
    への頂、その生き様だけは共感できるわな。」
    純粋に生き様を貫き続ける無双世界のリョフ氏。その生き様には、今この場にいる彼も同調
   できるようだ。確かに純粋無垢故に何者にも縛られないという一念が出てくるのだろうから。
ミツキ「その他の人ならざる生き様は?」
リョフ「ふん、絶対に同調などするものか。もし出会う事があるなら叩き潰してやる!」
ミツキ「ふふり、流石リョフちゃんわぅ♪」
   しかし裏切りの常習犯・他者を見下す姿、この生き様を取る俺達が知る自身を否定する本人。
   自分の事なだけに凄まじいまでに怒りを露にしている。これならば今の彼が間違った道に進む
   事はまずない。

リョフ「それにな、何度も言うがコイツの悲しむ姿を見たくはない。」
    茶菓子を頬張っているチョウセン嬢の頭を優しく撫でる。満面の笑みを浮かべで見つめ返す
   姿に、リョフ氏の本当の生き様があると確信できた。
オウイン「そこまでチョウセンの事を思って頂けるのなら、私としては思い残す事はありません。
     天下安寧とチョウセンの行く末、これが達成できれば感無量です。」
ソンケン父「しかし乱世とは一筋縄ではいきませんからな。常日頃から努力して研鑚し続ける事、
      これを後継者に継がせたいものです。」
ソンサク「勉学は・・・苦手なんだがなぁ・・・。」
ミスターR「うっしっし、男は誰でもそうですって。」
シューム「あら、なら女は誰でも勉学が得意じゃないといけない訳ぇ?」
ナツミYU「その所を詳しく聞きたいですねぇ〜。」
ミスターT「・・・何故Rさんじゃなく、俺に向けて言うんだ・・・。」
   切り出した人物はミスターRなのに、会話の矛先を俺に向け出したシュームとナツミYU。
   ミュティナから頼まれ、髪留めを調整していた所への見事な横槍である。ちなみにミュティナ
   もミツキと同じ、左右にボンボンを付けたタイプのヘアースタイルだ。

ミュティナ「それだけマスターの事が大好きなのですよ。チョウセンさんがリョフさんを好かれて
      いるのと同じです。」
リョフ「恋愛感情云々は良く分からないが、チョウセンを思うこの気持ちこそがそうなのだろうな。
    ただ今の俺には少々荷が重過ぎる。」
    女心は複雑だと苦笑いするリョフ氏。確かに武勇一辺倒だった彼には、少々荷が重いものと
   思われる。俺でさえ今だに悪戦苦闘しているのだから・・・。
ミスターR「恋路は絶えず挑戦の連続ですよ。でも相手を思うからこそ、長く一緒に居たいと思うの
      ですからね。そこは昔も今もこれからも変わりありませんぜ。」
ミスターS「Rさんの言う通りですよ。自分は職業柄、死と隣り合わせに近い戦いを行っています。
      相方が常に言うのは、心配だけは掛けさせないでくれと何度も言ってきますから。」
シューム「そう言う事なのよ、分かったかい!」
ナツミYU「もっと相手を思いやるのですよ!」
ミスターT「だから・・・何故俺に振るんだ・・・。」
   ミュティナの髪留めを完成させて一服をしていると、そこに烈火の如く突っ込んでくる2人。
   これは間違いなくミュティナにしていた行動のヤキモチの何ものでもない。それを見た周りは
   小さく笑っていた。

ミツキ「このタッグに掛かったら、Tちゃんなんかテクニカルノックアウト間違いなしわぅね。」
ミスターT「その前に即死しそうな気がするがね・・・。」
シルフィア「何度も言うけど、女を甘く見ない事ね。」
    毎度ながら即死級の一撃を放ってくる女性陣にはタジタジだわ。それを言うとシルフィア
   から、女性を舐めるなと強く嗜められる。まあその部分は過去に恩師で痛感しているから、
   否が応でも理解しているつもりなんだが・・・。
チョウセン「・・・貂蝉(チョウセン)を守る挑戦(チョウセン)をする・・・むふっ♪」
   ボソッと呟きだすチョウセン嬢。それに俺達は驚愕してしまう。滅多な事では喋らないため、
   意表を突かれた形になった。またそのダジャレはどこから出てきたのか。そして自分で言って
   自分で笑っていれば世話がない。何というユーモラスに溢れる言動なのやら・・・。

    ただ不覚にも、彼女のダジャレで笑ってしまう。その俺の笑いに釣られて笑い出す面々。
   この姿、まるでミツキの生き様がそこにあるようだわ・・・。


    暫くするとシルフィアが動き出す。座りながら紅茶を啜りつつ、リョフ氏や俺と同じ獲物の
   方天戟を徐に持ち出した。どうやらヴァルディーヴタイムの効果切れが迫っているのだろう。
   それを行動で教え出してくれた。

    俺達も一服を終えて戦闘の準備をしだす。魔法の効果が切れた直後、相手の出方によっては
   迅速に動かないと危険に曝される。今度は油断しないようにしないとな。



    数分ほど経過した頃だろうか。紫色の稲光がフッと消える。ヴァルディーヴタイムの効果が
   切れたようだ。そして敵兵士達は案の定、今現在の現状を見て驚愕しだした。

    放った矢が全部叩き落されており、相手側はその場に座って寛ぎ状態。そして自分達の背後
   には夥しいハーズダント・ヴァスタール・ヴィアシールの面々が待ち構えている。これを驚愕
   しないでどうするのだろうか。

ミツキ「おー、お疲れ様わぅー。」
リョフ「お前達が姑息な奇襲なんぞ仕掛けるから寛いでいたぞ。」
ソンサク「強者なら正々堂々と正面からぶつかって来やがれ。」
    啖呵を切りながらも完全寛ぎ状態の面々。その彼らに再び攻撃を加えようとするも、背後に
   待機済みの不死身の精鋭軍団が一斉に襲い掛かりだした。当然打撃による完全な捕縛である。
ソンケン父「居るのだろう、オウロウよ。奇襲など仕掛けずに、堂々と出てきたらどうだ?」
ネデュラ「再び姑息な真似をしようものなら、今度は全力で潰しに掛かるぞ!」
   父親という間柄、何時の間にか意気投合しているソンケン父氏とネデュラ。オウイン氏も同じ
   流れなのだが、彼は武勇派ではなく知略派だからな。ビィルガ達と一緒に後方支援に回って
   いる。

オウロウ「・・・何という軍勢か。一体何処からその様な力を持ち得たのだ、ソンケン父よ。」
ソンケン父「フッ、遥か遠い世界からの盟友達だな。生き様が全く同じだったのでね。」
    徐に現れるオウロウ氏とその配下達。その彼に語りつつ、俺達を見つめウインクしてくる
   ソンケン父氏。この流れはリョフ氏が同じ流れをしたのと酷使している。そう言えば自分が
   知る限り、ソンケン父氏は気さくな熱血漢とも取れるわな。
ソンケン父「さて、この地を賭けて勝負といこうか。」
オウロウ「ふん、何を言うか。侵略してきたのはお前達の方だ。この地を欲するなら、私を倒して
     からものを言うんだな。」
ソンケン父「だから、その勝負だろうに。」
オウロウ「殺し合いに勝負もない。大切な存在という下らないものを抱えていては、成せるものも
     成せぬままだ。それを理解できない輩には、この地を束ねる資格などない!」
   オウロウ氏の言葉にムッとする面々。しかしそれ以前に、奴は俺の触れてはならない逆鱗に
   触れてしまったようだわ・・・。これは完全に宣戦布告と取っていい。


    ゆっくりと前へ進み出る俺。それに怪訝そうな表情を浮かべ出す相手側。場違いの身形が
   それを誘発させるのだろう。かつてテイゲン氏達がそうであったように。

    だがそんな事はどうでもいい。肝心なのはオウロウ氏がタブーに触れたという事実。それに
   最大限の反論をするかね。

ミスターT「・・・大切な存在という下らないものを抱えていては、成せるものも成せぬか・・・。
      それは一般武将風情の貴様が痛みを知らないから言えるんだよ。まあカスには分から
      ない物事だがな。」
オウロウ「な・・何だと?!」
ミスターT「激怒するぐらいなら最初から言うな、カスが。同じ事を言われて不愉快に思う存在を
      理解しないから、そう言い切るんだろうが。貴様がどう足掻いても、ショカツリョウ氏
      に勝てない理由が痛感できた。これでは絶対に無理だわな。それが例え仮想設定のもの
      だとしても雲泥の差だ。」
    恒例の殺気と闘気の心当てと同時に、ソンケン父氏の生き様を愚弄した事に激怒で返した。
   これはウエスト達が現実で愚弄された事と同じもの。痛みを知らないから平然と言い切れる。
   痛みを知っているのなら、言う事はできないものだ。

ミスターT「俺は今の今まで、三国志の英傑は全てが気高く素晴らしい存在ばかりだと思っていた。
      心から敬意を表し、苦楽を共にしたいと願っている。しかしだ、世の中には貴様の様な
      カスは存在するんだな。つくづく痛感させられたわ。」
オウロウ「ぐっ・・・何を偉そうに・・・。」
ミスターT「ならテメェは誰よりも偉いのかね。今の今まで縁の下の力持ちの存在を忘れていて、
      その大切さに気付き悔い改めた存在より偉いというのか。また数々の激戦を最前線で
      真っ向勝負で戦ってきた強者達より、居城で踏ん反り返って何もしなかった貴様の方が
      偉いというのか。」
オウロウ「ぐぐ・・・。」
ミスターT「反論さえできまい。それは貴様が反論できる様な、他者を敬い・労い・慈しむ事をして
      こなかった何よりの証そのもの。その行動をしてきたのなら、少なくともテメェの一念
      を誇示できる筈。そんな痛みを知らぬカス同前の貴様が、俺の盟友達を愚弄する事は
      絶対に許さんっ!」
    怒りを織り交ぜた極限状態の殺気と闘気の直撃。そして図星を突かれた心境に顔を青褪め、
   白目を向いて気絶するオウロウ氏。周りの配下の面々も顔を青褪めているが、反論しない所を
   伺うと事実だったようである。また同様に仲間達も顔を青褪めていた。


ミスターT「・・・貴方達も奴と同じ様に、痛みを知らない存在なのかね。確か・・・グホン氏に
      シュウキン氏だったか。」
グホン「私はそこまで愚者ではない。ただ主が主なだけに、返答が難しい所だ。」
シュウキン「私は同調も共感も全くできんな。」
ミスターT「そうか・・・ならどうするね、この場で雌雄を決するか・・・。」
    俺がそう述べた瞬間、シュウキン氏の目の前に颯爽と現れるウエスト。相手にボディブロー
   を打ち込み、そのまま喉元を掴んで地面に叩き付けるチョークスラムを放った。ボディブロー
   自体が結構な威力を誇っていたようで、追加のチョークスラムで完全に気絶している。

ウエスト「先生、これ以上の戯言など無用よ。同調以前に共感すらできないのなら排除するまでだ。
     そこまで慈愛を持つ必要はないわな。」
ミスターT「何ともまあ・・・。」
ウエスト「先生の最後のチャンスを棒に振った、その時点で相手は自滅の道を辿った訳だ。なら一切
     の情けは無用、徹底的に叩き潰すまで。」
    ウエストも多分、ソンケン父氏への愚弄が過去に受けた屈辱とダブったのだろう。表情には
   出していないが、内心凄まじい怒りを溜めているのが分かる。彼の場合は俺より率直に動く。
   交渉決裂の場合は、最早相手を敵として見るだけだからな。


リョフ「・・・これがお前達が知る俺の姿に近いのか。」
ミツキ「そうわぅね。でもわた達が知るリョフちゃんは、己の生き様だけを貫く存在わぅ。だから
    こうやって簡単に激情に駆られる事はないわぅよ。」
リョフ「ふむ・・・後味悪い結末だな・・・。」
    感情の左右で戦闘が終わった現状を窺い、表情を曇らせるリョフ氏。また他の三国志の英傑
   達も同様だった。ただこれが戦闘、なかんづく戦争である。そこにはお互いの絶対的正義、
   大義名分が飛び交うのが戦いというものだ。全てが思うように丸く収まる事などまずない。

ミツキ「でで、グホンちゃんはどうするわぅか。確かに拾って貰った恩義はあるとは思うわぅが、
    その相手が忘恩に近い事をしているのなら話は異なってくるわぅよ?」
グホン「・・・そうですな。主から離れるのは辛いものですが、かといって民を労れない主にも同調
    できなかったのも実状。ここは降伏して、貴殿らに全てを任せます。」
ミスターT「・・・グホン氏の心意気を汲んでいないのは、俺の方なのかも知れないな。」
グホン「何を仰る。貴殿の啖呵は正しいものでしたぞ。ただ私も主への恩義がある手前、表立っての
    反論はできませんでしたが。」
ミスターT「・・・すみません、お気遣いありがとうございます。」
    俺はグホン氏に深々と頭を下げた。史実と無双の彼はどういった人物かは分からないが、
   今の彼は切実に物事を見定めている。君主への恩義には報いたいが、かといって民を蔑ろに
   する事はできない。それは彼自身の心の善意そのものであろう。


    グホン氏への一礼から頭を上げた瞬間、右胸に槍が突き刺さる。投げられた方向を伺うと、
   先程白目を向いて気絶したオウロウ氏。彼が手近にあった手槍を投げてきたようだ。

    俺への攻撃に周りは驚愕しだす。俺はというと、その場にダウンするしかなかった。暢気に
   語るものだが、この一撃は滅茶苦茶痛い・・・。

ソンケン父「な・・何という事をっ!」
オウロウ「・・・貴様なんぞに・・この国をくれてやるものかぁ!」
ソンサク「こ・・この野郎ぉ!」
リョフ「・・・カスが・・・。」
    薄れゆく意識の中で、仲間達の罵声がオウロウ氏に向けられていく。だが今の俺には為す術
   はなかった。無理矢理にでも動けそうだったが、ここは任せて今は休もう・・・。もちろん、
   ここで倒れる訳にはいかないがな・・・。



    どれぐらい気を失っていただろうか。仲間の声が聞こえ出し、徐に目を開ける。それに気付
   いた彼らが一斉に沸きだした。

リュリア「おぉ〜、目が覚めたじぇ!」
ソンケン父「風来坊殿、大丈夫か?」
ソンサク「かぁ〜、魔法ってのは便利なものっすなぁ・・・。」
リョフ「一時はどうなるかと思ったが、本当に便利なものだな・・・。」
    傍らでシルフィアに支えられながら、右手で自分の右胸を触る。先程、槍が突き刺さった
   場所は見事に癒えていた。しかし一帳羅の服に見事な穴が開き、周りに凄まじいまでの血痕が
   付着している。それだけ致命的な一撃だったという事だな。
ミスターT「・・・まさか自分の息子や娘達に助けられるとはね。」
ディルヴェズ「上手い具合に急所を避けていたので問題ありませんでした。まあ致命傷でも回復魔法
       なら全く問題なく癒せますけど。」
   自慢気に語るディルヴェズ。確かに魔法の概念が根付くのなら、あのタブーとされる死者の
   復活でさえ可能だ。それに彼も全ての魔法を取得している大魔法使いそのもの。この程度の
   負傷など全く問題なさそうだわ。

ミツキ「Tちゃん、凄かったわぅよ。あの後ね、リョフちゃんが凄まじいまでに激怒してたわぅ。
    オウロウちゃんを滅多打ちのボッコボコに殴り付けていたわぅから。」
リョフ「あのぐらいはさせろ。お前が心から慕う風来坊が倒されたんだ、激怒して当然だろうに。」
    表情には出していないが、今でもかなりの怒りを抱いているのが分かる。となるとオウロウ
   氏を殺害した可能性が高いか・・・。
ミスターT「まさか・・・殺害はしてないよな?」
ミツキ「そこは弁えたわぅよ。でもわたも便乗して死なない程度にボッコボコにしたわぅけど。」
リョフ「テイゲンでさえ、あそこまで愚かではなかったがな。覇道には動いたが、そこには全ての
    民を纏めようとする部分は感じられた。だがオウロウは違った。どうしてそうも無謀に走る
    のか、今の俺には全く理解できん。」
   言葉とは裏腹に、一際心配してくれているリョフ氏。それに感無量になるしかない。あの彼が
   他者を気にしている姿は、今までの行動が間違っていなかった何よりの証だわ。

ソンケン父「ですが風来坊殿への攻撃は決して無駄ではありませんでしたよ。オウロウの見境なく
      動いた事により、彼の部下達が離反してね。グホン殿は完全に見切ったそうだよ。」
グホン「それはそうでしょう、いくらなんでも酷すぎますぞ。主がどこでどう間違ったのかは分かり
    ませぬが、完全に間違った行動だったというのは事実です。」
    あのグホン氏ですら怒りを露にしている。恩義に報いようと最後まで貫いていた彼が、だ。
   そこまで何振り構わずの行動は、周りを敵対させるには十分だったようだな。
ミスターT「まあ・・・それぞれに大義名分はあるからね、彼が完全悪という事ではないが。」
ウエスト「解り合えない阿呆は捨て置けに限る。先生が常に貫いている一念じゃないか。気にする
     事じゃないぞ。」
ミスターT「まあねぇ・・・。」
   敵には容赦するな、ウエストの凄まじい一念が何とも言えない。かく言う俺も敵に対しては
   凄まじい対応をするため、人に言えた立場ではないが・・・。

リョフ「今回の一件で、俺達が殺戮を求めていない事。この一念をナンカイの面々は理解してくれた
    ようだ。そこが唯一の救いとなったと言えるな。」
グホン「それは痛いほど理解しています。ナンカイに侵攻してきた時も、私達の仲間を殺さずに気絶
    などでの対処で乗り越えられてきた。そして手当などの行動もなされている。普通なら絶対
    に行わないものですから。」
チョウリョウ「風来坊殿の生き様が、相手を揺り動かした何よりの証拠ですな。」
リョフ「貪欲なまでに生き様を貫く、か。本当にお前の底知れぬ力には脱帽せざろう得ないわな。」
    俺の無事を知った面々は、正式に休憩を取りだす。ナンカイの制圧は成ったようなのだが、
   それだけでは住民が納得しないだろう。今後の誠意ある対応で理解を示していくしかない。

    ちなみに俺が気を失ってから数時間が経過していた様子。オウロウ氏は滅多打ちにされて
   捕縛したという。そのまま牢屋に繋がれたそうだ。今は彼の居城内におり、そこで一同して
   待機していたようである。

    しかし次なる行動への準備も怠っていない。何時如何なる時に戦闘が起きてもいい様に、
   万全の態勢で待機している。今の世上からすれば、油断すれば喰われるのは言うまでもない。



デストロイア「あー、マスター。皆様にはお伝えしましたが、モウカク様方がセイトとブリョウから
       侵攻を受けたようです。」
ミスターT「やはり来たか・・・。彼らは無事なのか?」
シェガーヴァ「連絡によると、完全撃退できたそうですよ。地の利を生かした戦略と、不死身の精鋭
       軍団による超鉄壁で死傷者は皆無だそうです。」
    モウカク氏達の南蛮軍団の実力を垣間見たようだ。彼らの結束力は凄まじいのは、初戦時に
   対峙して痛感している。

    俺達とは違い、相手が自分達を潰そうと来たのだ。全力で撃滅するのが正論である。それに
   何と言っても、決め手は補佐で配置した不死身の精鋭軍団だな。

    ただ、1つだけ引っ掛かる事があるが・・・。

ミスターT「・・・もしかして、その侵攻は同時だったのか?」
オウイン「そうらしいです。同時刻に攻撃を受けた様子で。唯一異なった点とすれば、モウカク殿方
     に事前に軍備を促していたからでしょう。でなければ敗退していた可能性もあります。」
ミスターT「・・・これはリュウヒョウ氏とリュウエン氏、同盟をした可能性があるな。」
リョフ「やはりお前もそう思うか。俺達の方も同じ見解に至ったぞ。」
ソンケン父「ナンチュウをリュウエンが、コウシをリュウヒョウが得る裁断で手を結んだと思うよ。
      でなければ取り合いになるのは間違いない。」
    その場で軍議を開きだす。大陸の地図を広げ、リョフ氏恒例の将棋の駒の配置をしていく。
   今は南の大陸での戦いとなっているため、北の勢力は考えないでいるようだ。

ミスターT「・・・ミツキ達さ、超広範囲の意思の疎通念話は可能か?」
ミツキ「可能わぅよ。モウカクちゃん達と話すのわぅね。」
ミスターT「ああ、頼む。あとこの場の全員にも聞こえて、相互に話せるようにもしてくれ。」
ナツミA「了解です。」
    流浪人の設定にて、彼女達は超広範囲の意思の疎通こと念話という荒業ができる。それを
   この場でも行って貰う事にした。言わば長距離電話そのものだ。



ミスターT(モウカク氏、聞こえるかい?)
モウカク(う・・うぉっ?!)
シュクユウ(な・・なんだい・・・頭の中に声が響いてくるよ?!)
ソンサク(これが念話って奴っすか・・・。)
    俺達は意思の疎通による念話で一同に語り掛け出した。それに目の前に居る三国志の英傑達
   は無論の事、遠方にいるモウカク氏達も驚愕している。確かにこの力も人知を超えた超絶的な
   能力の1つだろう。

ミツキ(おおぅ、みんな元気そうわぅね!)
シュクユウ(ミツキちゃんじゃないかい、これは何なんだい?)
ミスターT(ミツキ達が得意としている、意思の疎通からなる念話というものだよ。俺達の間では
      何度も行っている。)
モウカク(・・・やっぱ呪い師かなんかじゃねぇのか・・・。)
シュクユウ(アンタは黙ってな、大事な話の持ち掛けなんだろうから!)
モウカク(うぇ・・すまねぇ・・・。)
    疑念を抱くモウカク氏を見事に一蹴するシュクユウ嬢。それに俺達は笑ってしまった。本当
   にカカア天下そのものだわ。

シューム(ほら、また思ったじゃないのよ!)
ナツミYU(モウカク様とシュクユウ様の事より、貴方の方はどうなのですか!)
ミスターT(そう来ると思ったわ・・・。)
ミツキ(何時もの事わぅ。)
    案の定の展開に方々(ほうぼう)から笑いが起こる。意思の疎通により一同が一体化して
   いるため、まるでその一部始終が脳裏に浮かぶようである。これは三国志の英傑達には強烈な
   インパクトだろうな。

ミスターT(まあさておき、何でも同時侵攻を受けたと聞いたんだが?)
シュクユウ(ああ、そうだね。お前さんが指摘した通りの展開に驚いたけど、予め準備していたので
      問題なかったよ。コウシの方はダンナの弟、モウユウが指揮してくれていたからね。)
    ナンチュウに到着した時はモウユウ氏はいなかったので、後々合流したのだろう。彼は大王
   モウカク氏の弟さんだ。シュクユウ嬢の義理の弟にもなる。

モウユウ(お初です、風来坊殿。)
ミスターT(おお、モウユウ氏。以後よろしく頼みます。)
モウユウ(こちらこそですよ。兄貴や姉貴、それに家族を助けて頂いたそうで。)
ミツキ(モウユウちゃんは規律派わぅからね、他の南蛮軍団とは一味も二味も違うわぅよ。)
シュクユウ(む〜・・・何かあたい達が武勇だけの猪突猛進と言いたげだねぇ。)
ミツキ(事実だから仕方がないわぅよ?)
シュクユウ(アッハッハッ、確かにそうだねぇ!)
    本来なら落胆する所を笑い飛ばすという。シュクユウ嬢の肝っ玉の強さは本当にシュームや
   ナツミYUに通ずる所があるわ。実質的に南蛮を纏め上げているのは彼女かも知れない。

オウイン(シュクユウ殿、モウユウ殿。その侵攻で何か気付いた点などはお有りですかな?)
モウユウ(やけに統率が取れていたのだけは気になりましたけど。)
シュクユウ(あたいもそれを感じたよ。殆どバラバラに攻めて来るんだろうけど、怖ろしいまでに
      纏まって動いてたねぇ。)
    未知の大陸への侵攻は、どうしても後手側に回りがちである。俺達も史実や無双の世界観
   から南蛮の気候を知っていても苦戦していた。それを同時に攻めつつ乱れないで挑めるのは
   非常に気になる。

ミスターT(大陸中の隠密部隊からの情報はどうだ?)
リヴュアス(小競り合いが続いている状態ですね。敗退すると予測していた、カシン軍団が今も持ち
      堪えていますので。ラクヨウとチョウアンも健在です。)
コウジュン(へぇ・・・やるもんだねぇ・・・。)
    今現在の状況を地図に示していく。カシン氏の軍団が敗退するかと思ったが、意外なほどに
   耐えているのが何とも言えない。むしろシンヨウで旗揚げしたソウソウ氏が動けていない現状
   には驚くしかないわ。

ミスターT(ソウソウ氏とエンショウ無双氏、それにトウタク氏の動きはどうだ?)
リヴュアス(殆ど変わりありません。今は大陸中央が活発になっている点でしょうか。)
オウイン(混沌とした情勢ですな。)
    大陸地図を見ながら模索する。覇道の長と言われるソウソウ氏、名族エンショウ無双氏の
   両雄は全く動きを見せていない。酒池肉林の王とも言うべきトウタク氏も動かず、黄巾の乱の
   首謀者たるチョウカク氏の動向も不明だ。実質動いているのは俺達ぐらいなものか。

シュクユウ(まあ何にせよ、こっちは上手くやっていくさ。あんた達も十分気を付けるんだよ。)
ミツキ(わた達は大丈夫わぅよ。ただ数時間前、Tちゃんが瀕死の重傷になったわぅけど。)
モウカク(お・・おいっ、大丈夫なのか?!)
ミスターT(お陰様で息子や娘達の力で完全復活だの。)
モウカク(よ・・よかったわぁ・・・。あまり俺様達を心配掛けさせるなよ!)
ミスターT(フフッ、ありがとね。)
    モウカク氏の口調からして、俺の怪我を物凄い心配してくれているのが分かった。やはり
   家族と認めた存在に対しては、徹底して大切にしているのだろうな。特に彼の場合はここぞと
   いう時に、本気になって心配してくれている。シュクユウ嬢が常々の気配りが得意であれば、
   モウカク氏は窮地時の気配りが得意なのだろう。

ミツキ(念話の方は常にオープン状態にするわぅから、何時でも会話してわぅ。)
シュクユウ(分かったよ。けど・・・念ずれば全体に伝わるという事だよね、普段の会話まではどう
      なんだい?)
ナツミA(そこは大丈夫ですよ。全てが筒抜けでしたら大変ですから。)
シューム(夫婦の営みすらも筒抜けよねぇ〜。)
ナツミYU(そうですねぇ〜。)
シュクユウ(アッハッハッ、本当だわ!)
ミスターT(・・・そこ、笑う所じゃない気がするが・・・。)
    シュームとナツミYUの下ネタ会話に大笑いするシュクユウ嬢。本来なら赤面して否定する
   所なのだが、それすらも笑い飛ばすのは見事としか言い様がない。彼女はミツキとシュームを
   掛け合わしたような女傑なのだろうな。


    意思の疎通による念話を終える俺達。遠方の情報が逐一把握できるとあってか、最初は驚愕
   していた三国志の英傑達も大歓迎のようである。

    この世界の流れなら、通常なら密書という形で数日掛けて連絡を取り合う。それをリアル
   タイムでの会話で済ますのだ、怖ろしいまでの連携になるだろう。

    俺達の存在は完全にイレギュラーそのものだわな。まあでもどの様な力を用いようが、俺達
   は俺達の生き様を貫いていくのみだ。



オウイン「現状はこの様な形になりますね。」
    モウカク氏達との会話を終えつつ、休息も終えた俺達。再び軍議を開き、今後の方針をどう
   するか話し合いだした。大陸地図に並べられた将棋の駒が、今現在の戦況を物語っている。
ソンケン父「ナンチュウとコウシの守備は万全だな。となると、俺達はナンカイから新たな動きを
      するのが無難か。」
リョフ「チョウサも奪還はできなくないが、そうするとリュウヒョウ一派を刺激しかねない。ここは
    コウシとの連携を取るため、ナンカイは現状維持で済ませた方がいい。」
チョウリョウ「ですな。となると、次の目標は・・・。」
ミスターT「カイケイ、だな。」
   チョウリョウ氏がナンカイにある駒をカイケイへと進めだす。ここはゲンハクコ氏が収める
   地域。地理的には北側のケンギョウからしか攻める事ができない。後は南のナンカイだが、
   ここは俺達が抑えているので問題はない。

チョウリョウ「チョウサと隣り合わせにならないのが唯一の救いでしょうか。それに今現在の流れを
       踏まえると、ゲンハクコ殿の勢力は単体のようですし。」
リョフ「ケンギョウとの同盟は成されていないのか?」
リヴュアス「今の所、その情報は入ってきていません。大丈夫だと思われます。」
リョフ「ふむ・・・よし、準備が整い次第カイケイを攻略するぞ!」
ビィルガ「了解!」
    大陸全土から送られてくる資料に目を通しつつ、安心した表情で進軍を提示するリョフ氏。
   本当に俺達が知る彼とは全く違う姿である。

    本来の彼なら猪突猛進の如く突っ走るのだが、目の前にいる彼はありとあらゆる情報を分析
   しての一歩を踏み出している。本当にショカツリョウ氏やシバイ氏泣かせの実力だわ。

ミツキ「リョフちゃん、策士わぅねぇ〜。」
リョフ「何を言うんだ、お前がそうさせてくれたのだろうに。でなければ何も考えずに真っ向勝負で
    進んでいたに違いない。」
    もうこの場合は師弟と言った方がいい。実に恐れ多い事だが、リョフ氏の師匠がミツキに
   なるのだ。ここまで生き様が変革したのなら、そう言い切ってもおかしくはない。
ミスターR「うっしっし、俺達はこれを望んでいたんですよ。俺達が知るリョフさんは、本当にどう
      しようもないぐらいの荒くれ者でね。誰からの指図も受けずに、己の進むべき道だけを
      まっしぐらに突き進む存在。」
リョフ「本当に信じられん奴だな。他者を敬わず貶して進む。挙句の果ては裏切りの連続だとな。
    どうしようもない程のカスだわ。」
ミスターT「自分で自分の事を激怒するのは何とも・・・。」
   元来からの破天荒な口調や性格の部分は据え置きだが、生き様は完全に俺達が知る彼とは掛け
   離れている。

    やはりテイゲン氏の元でいい加減な過ごし方をする前に離脱し、ミツキという楽観主義・
   楽天家・ノホホンとした生き方を享受されたのが大きいのだろうな。

    まあともあれ、今の彼の方が遥かに有意義に過ごしているのは間違いない。力は即ち優しさ
   と気付いたリョフ氏に、もはや恐怖の色など一切ないだろう。それに守るべき存在が顕然と
   いるのだから、倒れる訳にはいかない。

    たった1つの要因で劇的に変化を遂げる人間の生き様。それをリョフ氏の変革で思い知った
   俺や一同だった。


    雑談もそこそこにして、準備を整えてからカイケイへと進軍しだす俺達。ナンカイの守備は
   ディルヴェズ達とユキヤN達に一任した。不死身の精鋭軍団の創生もあるため、どこか低位置
   で待機した方が無難だろう。

    ちなみに2人はナンチュウで作業をしていたが、全て終わったのでこちらに移動している。
   他の面々も全員ここに待機済みである。

    また守備に関してはナツミツキ四天王に任せた。ミツキとナツミAがタッグで進んでいると
   あって、今は守り側に回った方がいいだろう。それにこの6人は超広範囲の意思の疎通による
   念話が可能なだけに、連絡要因としていてくれた方が助かる。

    200人の軍団が分散されだしているが、その1人1人が一騎当千の猛者だからな。これは
   要らぬ心配であろう。それにこの世界では非常識の魔法や科学、そして不死身の力があるの
   だから。





ミツキ「話にならなぐらい・・・弱いわぅ!」
    カイケイへと突入した俺達。ただここを統治する君主・ゲンハクコ氏は、侵攻される事を
   考えていなかったようだ。他に武将は彼の弟・ゲンヨ氏しかおらず、戦力的に敗退するような
   陣容と言えた。あの温厚なミツキが半ば激怒するぐらいの呆れ振りには、俺達の方も呆れる
   しかない。
ゲンハクコ「クソッ・・・しかし俺とて武将の端くれ、戦わずして負けはしない!」
リョフ「うむ、そうこなくてはな。」
ゲンヨ「それに、主達の噂は大陸中に伝わっている。一度手合わせをしたいと思っていた。願ったり
    叶ったりだ。」
ソンサク「へぇ〜、誰がそんな噂を撒いたのやら・・・。」
   ソンサク氏が態とらしく呟き、俺達にニヤリと笑みを見せてくる。どうやら大陸中に巡らせて
   いる隠密部隊が色々な工作を巡らせていたようだ。だからなのか、敵が慎重を期して動いて
   いるのは・・・。
ゲンハクコ「いざ、尋常に勝負願おう!」
ゲンヨ「行くぞ!」
ソンサク「よっしゃぁー、やってやるぜっ!」
リョフ「フッ、俺達を倒せるかな?」
   傍らにいるコウジュン氏に獲物の方天画戟を預け、両拳をボキボキと鳴らすリョフ氏。ニヤリ
   と微笑む姿には恐怖すら感じる。しかし実に嬉しそうな表情を浮かべている彼らに、見ている
   こちらも嬉しくなってくる。

    ちなみにタッグマッチとなるようで、リョフ氏の相方はソンサク氏が務めるようだ。この
   2人は異なる属性だが、根底の勝負を楽しむという部分では本当に良く似ている。

    リョフ氏・ソンサク氏とゲンハクコ氏・ゲンヨ氏のタッグマッチ。これはなかなか見応えが
   ありそうだ。居城内でのプロレス勝負か、三国志の世界でよくぞまあ・・・。



ディヴォガル「マスター、よろしいですか?」
ミスターT「どした、緊急か?」
    試合を観戦しようとした所に、颯爽と駆け付けて来るディヴォガル。表情の様子から緊迫
   した状態を物語っている。オウイン氏とソンケン父氏、ビィルガとシェガーヴァも呼ばれて
   緊急軍議に入る。

ディヴォガル「テンスイが動き出しました。何時の間にか結構な兵団を準備していたらしく、北は
       セイリョウと南はカンチュウを制圧したようです。しかも無差別による攻撃で。」
オウイン「バトウ殿とチョウロ殿はどうなされました?」
ディヴォガル「軍の筆頭は逃げ出せたようですが、主力の兵団は壊滅したとの事です。また君主の
       トウタク氏が皇帝を名乗りだしたとか。詳細は不明ですが、それで内部で権力派と
       反対派と分かれたそうですよ。反対派は軍を離脱し、潜伏されたそうです。」
    ついに悪の権化、トウタク氏が動き出したようだ。ある意味ソウソウ氏よりも危険極まり
   ない存在なだけに、今後の動向は細心の注意を払う必要が出てくる。
ソンケン父「皇帝、か。トウタクならやりそうな手段だな。だが皇帝の資質を示すには、伝説の玉璽
      が必要と言われているのだが・・・。」
ミスターT「玉璽は反董卓連合が終わった後に、チョウアンの井戸のから発見されるよ。俺達が知る
      流れでは、それをソンケン父氏が入手する流れになっているわ。」
ソンケン父「な・・なんと・・・。」
ミスターT「だがそんなものがなくとも、民を守り慈しむ一念があれば問題ない。用は心の問題だ。
      心こそ大切に、それが重要じゃないかね。」
ソンケン父「そうですな。一瞬でもその絶大な力に魅入られそうになった自分が情けないですわ。」
   リョフ氏や周りの生き様に当てられ、本来の生き様が変革しているソンケン父氏。しかし目の
   前の強大な力には魅入られるようで、一瞬でもその一念に立った自分を恥じだした。彼の場合
   なら人脈で国を建国できる力がある。正直、玉璽などただの飾りだ。


ミスターT「・・・もし、トウタク氏に態と玉璽を持たせたらどうなる?」
オウイン「それはもう、横暴の限りを尽くす事になりますな。」
ソンケン父「・・・う〜む、風来坊殿の考える事は怖ろしいですな。」
    オウイン氏は玉璽の力で更なる横暴を行うと読んだが、ソンケン父氏は俺が思った事を見事
   に見抜き出した。そう、態と持たせて暴れさせる。そうすれば潰す理由に至るからだ。
ソンケン父「トウタクに態と玉璽を持たせて、皇帝の資質を煽がせる。当然有頂天となり暴れ出す。
      それを口実に周りに潰させる、という事ですか。」
ミスターT「その通り。こちらは態々出向かなくても、周辺国は逆賊として始末に乗り出すだろう。
      あの黄巾一派でさえ乗り気になる。黄巾一派が世上に混沌をもたらす存在なのか、横暴
      の限りを行うトウタク一派が混沌をもたらす存在なのか。ここで明確に示そうかね。」
オウイン「つまりチョウカク殿が率いる黄巾党が本当に悪なのかを見定めるという事ですな。」
ミスターT「俺が知るチョウカク氏達は、確かに黄巾の乱を起こして世上に混乱を巻き起こしたと
      なっている。だがそれが民を苦しめる愚策なのか、それとも本当に民を慈しむからこそ
      起こしたのか。これによっては共闘の余地はあるね。」
ソンケン父「なるほど、全ては大陸全土の太平を見据えてのものですな。」
   ソンケン父氏の呉に天下を任せようとも思っていたが、この場合は民を慈しむ存在にこそ天下
   を任せられるとも言い切れる。ソンケン父氏は限りなく中道に近いため、善悪ではなく正しい
   のか間違いなのかで動く。チョウカク氏達が悪であれば徹底抗戦をし、善であれば共闘すべき
   存在となるのは間違いない。まあこれは俺の独断の考えなのだが。

ミスターT「考えてみなよ。もし洗脳やら云々で黄巾の乱を起こせるのなら、他の猛将達にも同じ様
      にできるだろう。完全に大陸を掌握し、反乱を無くすというものだ。ただ彼らの場合は
      多少過激な部分があるだろうが、根底は民を慈しむからこそ起こったとも思っている。
      そもそも漢王朝の腐敗は事実だろうし、それを憂いての反乱軍なら間違いではない。」
オウイン「確かにそうですな。しかし今の所は・・・。」
ミスターT「無論、様子を見てから決めるよ。オウイン氏の様に天下安寧という誓願を根底に据えて
      いるなら問題はない。もしただ単に暴れたいだけの存在なら、徹底的に潰してやる。」
    一服しながら胸の内を語った。俺自身は呉に天下を、と思っていた。しかし最終的に大陸の
   民を考えての行動に回帰するなら、呉でなくてもいい筈である。それはソンケン父氏の生き様
   からしても痛感できた。
ソンケン父「黄巾一派とトウタク軍。どちらが悪かを世上に知ら示す、か。」
オウイン「ソウソウ殿とエンショウ無双殿がどう動くかも気になる所ですが。」
シェガーヴァ「私は覇道の生き様は共感できますが、それは民を慈しんでの道筋でもあります。もし
       覇道の長と謳われるソウソウ氏が民を蔑ろにする愚策を行うのなら、彼を徹底的に
       潰す覚悟ですよ。」
ビィルガ「そうですな。王道・中道・覇道は手段であって、根底に据わる一念が問題ですからね。
     民を慈しめない長など不要、完全撃破を行います。」
   役割方、ビィルガの一度定めた一念は絶対に揺らぐ事はない。またシェガーヴァも同様だ。
   そしてこの2人も数々の模擬シーズンを経て、根底に大切な一念が据わる武人とも言える存在
   に至っている。

    民があってこその国であり、そして天下安寧なのだ。国あっての民では絶対に破滅の道に
   向かうのは言うまでもない。


ディヴォガル「あと、セイリョウから逃げて来られたという方々を保護しました。オウ・・・何とか
       という一族の方々です。」
ミスターT「あら、オウイ嬢のご一家の事か。」
    ディヴォガルが合図すると、ハーズダント達に守られて登場するオウイ嬢とその一族。史実
   と無双では一族をバチョウ氏に皆殺しにされたとあるが、どうやらその前に逃げてきたようで
   ある。これはこれで悲惨な末路に至らなくて済んだわな。

オウイ「初めまして、オウイと申します。追っ手から逃れている所を、こちらの方々に助けて頂き、
    本当にありがとうございます。」
ミスターT「ミスターTと言います。追っ手とは、バトウ一族のバチョウ氏の事かい?」
オウイ「よくご存知ですね、その通りです。一族が彼らに包囲された時、偶然にもトウタクの軍団が
    押し寄せて来だし、その混乱に乗じて逃げ出せたのです。」
ミスターT「不幸中の幸いだわな。本来ならそこでオウイ嬢以外は皆殺しに合うんだが。」
オウイ「・・・貴方のお考えは分かりませんが、やはりそうなった可能性がありますね。あの時、
    トウタク軍が来なかったら、間違いなく殺害されそうな流れでしたから・・・。」
ビィルガ「一応、トウタク氏に感謝ですな。」
    俺達が知るオウイ嬢とは少し異なる。無双の彼女は本当に闇の部分が色濃く出ており、完全
   にダークサイドそのものだ。バチョウ氏に一族を皆殺しにされれば、復讐心が出るのが当たり
   前だろう。まさかトウタク氏の行動がオウイ嬢の一族を救う事になるとは、実に不思議な流れ
   である。

ミスターT「オウイ嬢さ、どうする。ある程度落ち着くまで一緒にいるか?」
オウイ「よろしければ、ご一緒させて下さい。どの道、今は祖国には戻れません。漠然といるより、
    皆様と一緒にいれば安心します。」
ミスターT「了解、よろしく頼むよ。」
    家族と一緒にいられるとあってか、にこやかに微笑むオウイ嬢。無双の彼女とは全く異なる
   姿である。しかし心がしっかりとしているのは同じで、チョウセン嬢の様に不動の原点がある
   のだと痛感できた。まあ今のチョウセン嬢はまだまだ幼いのだが。
ミツキ「おりょ、オウイちゃんじゃないわぅか!」
ミスターR「おー、これはまた奇遇な。でも何時の間にやら。」
ミスターT「・・・またか、試合を見られずに終わっちまった・・・。」
   軍議の場に現れだす仲間達。リョフ氏も一緒とある所を見ると、どうやらタッグマッチは終了
   したようだ。また試合を見過ごしたわ・・・。


    俺達はオウイ嬢の経緯と、トウタク氏の台頭の詳細を述べた。それに一同は驚くも、その
   事変がオウイ嬢達が助かる切っ掛けになった事にも驚いている。本当にトウタク氏の行動が
   なかったら、オウイ嬢の家族はバチョウ氏により皆殺しに合っていたに違いない。

    かといって彼女達はそれを喜んではいなかった。祖国はバチョウ氏ではなく、トウタク軍に
   より壊滅している。家族は助かったが、帰るべき場所を失ったのには違いない。ただオウイ嬢
   の根底に復讐の二文字は感じられない。家族さえ生きていればいい、それが本音であろう。


    ちなみにリョフ氏とソンサク氏のタッグと対戦したゲンハクコ氏とゲンヨ氏だが、完膚無き
   までに倒されたようだ。もちろん死なない程度だが。これで満足したと言って、今はなりを
   潜めるという。

    俺が知る限りでは、この兄弟は名声が悪逆。しかしそれを感じさせなかった。しかしどこか
   不穏な雰囲気もあるため油断しない方がいい。寝首を掻かれないように注意せねばな。


    トウタク氏の軍勢が台頭した事で、世上はより一層混沌としだした。しかしこれは逆説的に
   チャンスでもある。こちらが動かずとも彼らで戦いだすのは言うまでもない。

    本来なら無血革命と行きたい所だが、これが乱世の流れ。全てをそれで進む事はできない。
   ならば目の前の戦いを勝ち越えてこそだろう。迷う事など全くない。

    今後は更に激戦になっていくだろうな。それでも己の生き様は絶対に曲げるつもりはない。
   だからこそ同調してくれる仲間達がいるのだから。

    第1部・第06話へと続く。

    後半へと続く。

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