アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝6
〜覆面の警護者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝6 〜覆面の警護者〜
    〜第2部・第1話 高々度襲撃3〜
ビアリナ「そんな事じゃないかと思いましたよ。」
ミスターT「うわっ! お・・驚かすなよ・・・。」
    何時そこに来たのかすら分からないぐらい、目の前の機体に興味と恐怖があったのだろう。
   突然のビアリナの声がして驚いた。俺の膝に強引に座ってくると、そのままエンジンを始動
   させていく。
ビアリナ「いきなり機内にシルフィア様とスミエ様、そして医療のスペシャリストが現れまして。
     後は任せろとの事です。」
ミスターT「どうやって知ったんだ・・・。」
ビアリナ「直下のレプリカ伊400ですよ。」
   発進準備をし続けるビアリナが淡々と語り出す。不測の事態を想定しての行動を、前もって
   打ってあったようだ。

    話によると、直下で監視中だったレプリカ伊400側でもこちらの襲撃を確認。内部にいた
   シルフィアやスミエの各スペシャリストを、ミュセナが十八番の転送装置で巨大ジャンボに
   飛ばしたようだ。ただ実際に襲撃を受けるとは予測していなかったようで、初めの頃は戦々
   恐々したとの事。

    またエリシェの負傷も急所を外した見事な着弾だったようで、適切な処置により命に別状は
   ないとの事だ。これには本当に安心した・・・。そして同時に、飛行兵器に更に強烈な怒りの
   一念が沸き出してくる。

ビアリナ「その怒りの一念は私も同じです。一緒に襲来者を蹴散らしましょう!」
ミスターT「ああ・・・目にもの見せてくれるわ。」
    話を伺う流れの中で、既に飛行準備が整ったレプリカTa152H。両翼は空母に搭載して
   ある時のように折り畳み式に改良されている。しかし格納庫が狭過ぎて拡げられない。ここは
   表に出てから拡げるのが無難だ。

    全車輪を固定するチェーンは自動で切り離せるとあって、コクピット内部から解放する。
   固定を失ったレプリカTa152Hに、プロペラのピッチ角度の調整で逆回転の勢いを作る。
   どうやら彼女は事前にこの機体の事を知っていたようである。

    俺達を乗せた機体は後方格納庫から落とされる形で飛び出て行く。そこで通常のプロペラの
   ピッチ角度に戻しつつ、折り畳まれていた翼を展開。見事なまでのレプリカTa152Hへと
   変貌を遂げた。

    既に高々度からの機体放出とあって、両翼への浮力は直ぐに得られる形になる。ビアリナが
   颯爽と操縦桿を引くと、解放された機体は大空へと舞い上がっていった。

ミスターT「・・・来るんじゃなかった・・・。」
ビアリナ「何を今更、もう後戻りはできません! それよりも左右後方から敵が来るか、逐一教えて
     下さい!」
ミスターT「りょ・・了解!」
    物凄い気迫に押され気味になる。完全に戦闘機乗りそのものだ。また彼女もこの骨董品は
   初めての操縦のようで、かなり焦っている感じもある。本来なら先程破壊したハリアーU改
   での戦闘を考えていたのだろうから。


    ある程度落下してから飛行を開始したレプリカTa152H。その場所から上空の状況を
   見入った。巨大ジャンボの周りに取り付く飛行兵器郡。併進している無人ジャンボにも取り
   付いており、激しい銃撃が繰り返されていた。

    直後、無人ジャンボの1機が火を噴き出す。そのまま落下を開始し、ある程度落ちた所で
   大爆発して飛散した。先の機体と今の機体、本当に無人機で良かったわ・・・。

シルフィア(T君、聞こえる?)
    シルフィアの声が脳裏に響く。この場合は無線より念話の方が効率が良いだろう。しかし
   今となっては当たり前のように使うのも何とも。
ミスターT(ご足労すみません、何です?)
シルフィア(こちらの機体はバリアとシールドを張ったから、これ以上の銃撃で破損する事はない
      から安心して。エリシェさんも聞いたと思うけど、命に別状はないから安心を。)
スミエ(三島一族は生命力の高さが長所ですからね。歴代の家系も長生きされる方々が多かったです
    ので。)
ミスターT(まるでギガンテス一族と同じだな・・・。)
   アッケラカンとした感じで語るスミエに呆れるも笑ってしまう。その口調はミツキのそれと
   全く同じだった。むしろ事が重大な程、岩の様に静かである事を実践している証拠だ。
ミスターT(他に負傷者はいるのか?)
シルフィア(エリシェさんだけね。他はみんな大丈夫よ。)
ミスターT(そうか・・・本当に良かったわ・・・。)
   ビアリナからもそうだが、シルフィアからも一同問題ないという事に心から安堵する。そして
   やはり出るのが明確な怒りの一念だ。

シルフィア(そうね、今回は君の肩を持つわ。徹底的に駆逐してやりなさい!)
ミスターT(了解! ・・・と言っても、操縦はビアリナがやるんですがね・・・。)
シルフィア(大丈夫よ、あの時も見様見真似で動かしていたし。論より実践よ。)
ミスターT(分かった。)
    俺が記憶を失った出来事の航空機墜落事変。その時は無我夢中で機体を操作したとの事だ。
   当時の記憶は失われており窺い知る事はできないが、今こうしてコクピット内に座る事で当時
   の様相が薄っすらと蘇ってくる。

    レプリカTa152Hは増速して巨大ジャンボに接近。するとこちらに気付いた飛行兵器が
   攻撃をしてきた。どうやら全方位に攻撃可能な機銃が搭載されているようだ。

    流石はギガンテス一族とドラゴンハート一族のテクノロジー、バリアやシールドにより機銃
   掃射を全て弾き返している。どうやら俺が持つペンダント以外にも、ビアリナも持っている
   同ペンダントの効果でバリアが働いているようだ。先程のハリアーU改の半壊を窺えば、この
   機体自体にはバリアはないと思われる。

    また成層圏に近い高々度だと、レシプロ戦闘機は混合気を失いエンジンが止まってしまう。
   しかしそこもギガンテス一族とドラゴンハート一族のテクノロジーか、この高々度でも低空と
   同じ機動力を発揮しているのには驚きを隠せない。

    レプリカTa152Hの様相を、以前視聴したアニメ「スカイ・クロラ」で搭乗した機体に
   照らし合わせた。劇中ではティーチャーという謎の人物が駆るスカイリィ、それがレプリカ
   Ta152Hに似ていた。しかも二重反転プロペラと空中での機動力は凄まじいものである。
   あの空中で静止して再度動き出すコブラという戦術も可能なのだ。

    更に劇中での機体は、機銃の数も凄まじいものだった。両翼に各4挺の合計8挺、機首の
   モーターカノン1挺と破格の火力を持っている。このレプリカTa152Hはモーターカノン
   に30mm機関砲、両翼の付け根に20mm機関砲を搭載するだけだ。

    ただ1つだけ異なるのは、乗り込む際に窺った追加武装である。両翼の車輪格納場所の外側
   には、背中に背負うレールガンと同じのが2挺搭載されていた。3門の機銃は牽制程度だが、
   この2挺のレールガンはイージス艦すらも一撃で破壊する威力を持っている。仮に機銃を全弾
   打ち尽くしても無力化はしない。これなら飛行兵器への対策は問題ないわな。

    俺は左右と後方の確認をしつつ、機体の操縦はビアリナに委ねた。迫り来る飛行兵器郡に
   機銃掃射を行い一撃の元に破壊していくのだ。しかも適切な射撃のみで、である。彼女の操縦
   スキルがどれほど優れているかが垣間見れた。

ミスターT「右真横に3機、背後からは4機が迫ってきてるぞ。」
ビアリナ「お任せを!」
    第2次大戦時のレシプロ戦闘機たるレプリカTa152Hでは、動ける範囲が固定されて
   しまう。スカイリィの様な二重反転プロペラなら、その場でヘリコプターのようにホバリング
   も可能だろう。しかしこの機体にはそれは無理だ。

    しかしそこは実力で捻じ曲げるのだろう。ビアリナの類希なる操縦センスは相手の接近を
   一切許さない。まるで尾翼を振り子のように振りながら、プロペラの可変ピッチを変えつつ
   その場でコブラを演じ出すのだ。

    不意を突かれ、目の前に進み出た飛行兵器に適格に機銃を放つ。見事に機体を撃ち抜かれた
   飛行兵器は爆発して飛散する。踊っているかのように機体を操るビアリナに、とにかく驚嘆
   し続けるしかない。

    幸いにも乗り物自体には滅法強いので、このぐらいの急激な動きにはビクともしない。本来
   なら飛行機酔いなどになるのだろうが、この部分だけは俺自身に感謝だわ。


    その後も従来では有り得ない動きで飛行兵器を破壊していく様は、劇中のスカイリィを彷彿
   とさせる。ただこちらの場合はバリアやシールドによる恩恵がある事から、一歩進んだ動きが
   可能だろう。弾丸に当たっても被弾しないという長所があるしな。

    目まぐるしく動き回るレプリカTa152H。俺はとにかく迫り来る飛行兵器の位置を可能
   な限り正確にビアリナに報告する。そして的確に機体を操り、一撃必殺の弾丸をお見舞いして
   いくのだ。

    本来ならハリアーU改に搭載されているレーダーにより、敵の位置を把握しつつ攻撃して
   いくのが通例だろう。しかし、レプリカTa152Hにはその様な機能はない。自分の目で
   全てを確認し、己の腕で機体を操り攻撃するしかないのだ。

    密着しているから分かるのだが、ビアリナには相当な負担が掛かっているようだ。従来の
   操縦技術以上のスキルが求められている中を、強引に突き進んでいる感じである。このまま
   だと過労で倒れかねない。


ミスターT「言わんこっちゃない・・・。」
    突然、ビアリナの身体から力が抜けた。顔を窺うと気を失っている。急激な機体操作や有り
   得ない方向への動きに身体が耐えられなかったのだろうな。俺の方は状況報告をしつつ、彼女
   の操縦をチラ見していた。臨時の操縦は可能だろう。

    高所と水への苦手から来る恐怖度は半端じゃないが、メンタル面で凌駕しだすと押し殺せる
   のは知っている。今が正にそれであり、ビアリナとは正反対に現状に非常に落ち着いて対処が
   できている。動きは彼女のを見様見真似で行っているが、素人ながらもそこそこできそうだ。

    対して今までのビアリナの超絶的な動きに順応しだした飛行兵器。それに合わせた動きを
   しだそうとした矢先、俺が機体を操縦しだした事で混乱を引き起こしているようだ。そこを
   見逃すほど俺はバカではない。

    彼女の様な超絶的な動きはできないが、ナツミAやミツキが十八番の力の出し加減の触りを
   ある程度把握している。それを利用し、相手の力が出る瞬間に併せてレールガンを射撃した。
   案の定、その場所に飛行兵器が進み着弾。爆発して飛散していく。

    かなり前に遊んだ事がある、「アーマード・コア」という作品と「ウイングアームズ」と
   いう作品の応用だ。未来位置を予測しての射撃で命中させる手法である。これらの作品や現実
   での戦いでも常套手段だが、やはりゲームの応用が強く影響し通じるようだ。特に警護者に
   とっては必須のものだろう。

    それに先程のビアリナの動きは先手の先手を狙ったものだった。対して俺は後手の後手で
   動いている。俺が得意としている後手側カウンター戦法の応用でもある。ただそれは体術を
   使った肉弾戦でこそ真価を発揮するのだが、まさか高々度の空中戦でも役に立つとは思いも
   しなかった。

    とにかく俺にできる事は限られているため、相手の隙を突いた一撃を放ち続けるしかない。
   幸いにも遺物たるレプリカTa152Hが支えてくれてもいる。恐れるに足らず、だわ。



ミスターT「お目覚めかな、お姫様。」
ビアリナ「あ・・・はっ?! 空中戦はどうなりました?!」
    意識を取り戻したビアリナが大慌てで辺りを見渡す。既に数十分前に飛行兵器は全て駆逐
   し終わった。今は巨大ジャンボの後方で併進しながら帰路に着いている。
ミスターT「安心しな、全部終わったよ。あと、お前さんの操縦方法を見様見真似でやってみた。
      レールガンを使った一撃必殺のものだったが、未来予測がほぼ全部的中してた。」
ビアリナ「何と・・・未来予測射撃ができるとは・・・。」
ミスターT「ゲームでのスキルが役立った証拠だわな。」
   既に空中戦が終わっている事を知って、再び身体から力が抜けていく彼女。しかし今度は気絶
   ではなく、安堵によるもののようだ。その彼女の頭を左手で優しく撫でた。
ミスターT「ありがとな、ビアリナ。あの白熱した空中戦は、エリシェへの言わば一矢報いる戦い
      だったのだろう。何時ものお前には感じられない怒りと憎しみが感じられた。」
ビアリナ「当然ですよ。大切な家族を傷付けられれば、誰だって激怒します。私なりの怒りの向け方
     でしたが、一矢報いたとは思っています。」
ミスターT「だな。しかしその言動は、今日で最後にしてくれよ。お前にはその姿は似合わない。
      何時もの明るくお淑やかな姿が好きだから。」
ビアリナ「あ・・はい、すみません・・・。」
   無意識のうちに激情に駆られていた自分を知ったのか、物凄く落胆している。彼女にその様な
   一面があったのも驚きだが、やはり彼女には普段の姿でいて欲しいものだ。

    雲の間から夕日が射し込めて来た。あの高々度空中戦から数時間が経過しているのには驚く
   しかない。帰路の間の束の間の一時である。


ビアリナ「・・・エリシェ様には申し訳ないのですが、こうしてダンデム操縦ができて良かった。
     夢は叶えてこそ、ですよね。」
ミスターT「そうだな。ただ・・・落ち着いて来たら、怖さがね・・・。」
ビアリナ「ハハッ・・・。」
    そう、空中戦が終わってから恐怖心が再び出始めてきた。メンタル面で全てを凌駕していた
   恩恵から、恐怖心が封じ込まれていたのは確かである。それが終われば再び恐怖心が出るのは
   事実のようだ。本当に怖すぎる・・・。
ミスターT「それでも、お前の背中は俺が守り続ける。だから安心して前だけを向きなよ。」
ビアリナ「はい・・・ありがとうございます。」
   俺の胸に寄り掛かるビアリナは、先程まで凄まじい操縦をしていたとは思えない。この華奢な
   身体の何処にそのパワーがあるのか実に不思議である。何だか彼女はエリシェに似てきだして
   いるわ。だから彼女が傷付けられて激昂したのだろうな。

    恐怖心と戦いながらも、胸にいるビアリナを支えながらの飛行は続く。地上に戻れるのは
   数時間先との事だ・・・。何とも・・・。



    数時間後、羽田空港に無事帰還した。負傷者はエリシェのみで、既に機内で適切な治療を
   施されているため問題はない。むしろ意識も戻っており、身体は負傷も気迫の方は元の状態に
   戻っている。スミエが言った通り、三島一族は実にタフネスの血筋のようだ。

    改めて巨大ジャンボを見渡す。機体各所に受けた銃痕が空中戦の凄まじさを物語っている。
   その中で後方のハッチの破損度が凄まじい。まあ後方ハッチは俺が破壊したのだが・・・。
   ただ空中戦の途中からバリアとシールドで守られていたため、それ以上の損壊は見受けられ
   ない。

    しかし凄いものだ。普通のジャンボなら銃撃を受けただけで機内の気圧が激減して呼吸困難
   を引き起こすだろう。最悪は機体が空中分解する怖れもある。対してこの巨大ジャンボはその
   堅固さを思い知らされた形であろう。

    最初にこの機体を用いたのは、ナツミYU達と一緒にアメリカに赴いた時だ。既に1年以上
   経過している。あの時に語られた通り、この機体は滅多な事では破壊されない事も痛感した。
   命を預けるには打って付けのものだわ。

    そして極め付けがレプリカTa152Hだ。バリアの効果で無傷だが、オリジナルの改良版
   としての性能を遺憾なく発揮した形か。可変ピッチプロペラにより、まさか後方に進む事も
   可能とは。これは後方ハッチから飛び出す時に一役買っている。

    更には次世代ジェット戦闘機やスカイ・クロラの劇中のスカイリィが行える、空中制動たる
   コブラすらも難なく行えた。コクピットからは右回転しかプロペラが回らないこの機体が、
   である。改良型と銘打っているだけに、それ相応の力を備えていた証拠だろうな。


    ともあれ、一応依頼は遂行できた。襲撃を受ける前に実験自体は成功しているとの事だ。
   無人ジャンボは3機中、2機が撃墜される事態に至ったが・・・。

    というか気になる点が複数あるのだが、それは後日考えるとしよう。今はこの高々度空中戦
   の余波から出ている恐怖心を薄らげたい・・・。

    第2話へ続く。

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