アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝6
〜覆面の警護者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝6 〜覆面の警護者〜
    〜第1部・第5話 カーチェイス1〜
    ブラジャー作戦ことデュリシラ護送の依頼。あれで俺達の名が知れ渡ったようで、あちら
   こちらに引っ張りだこにされる。というかブラジャー作戦で通るのが非常に下賤が・・・。

    ともあれ、かなり難しい作戦をこなせた部分は素直に感謝したい。咄嗟の判断で無事解決
   という展開は、俺でも呆れるぐらいである。


    ちなみに都心の暗殺者ことデュリシラは、ほとぼりが冷めるまで海外で生活するという。
   三島ジェネラルカンパニーかシェヴィーナ財団などの専属警護者で過ごした方がいいだろう。

    あの超軍団なら傭兵も規律正しい面々が揃っている。カムフラージュには打って付けだ。
   それに10人もの名うての警護者が揃っているのだ、恐れるに足らずとはこの事だわ。


    更に俺の活躍でエリシェとラフィナが何かに目覚めたようだ。今は9人からのしっかりと
   した戦闘訓練を受けているという。間違いなく警護者の道に進み出しているのだが、大丈夫か
   と心配になってくる。まあ周りはスペシャリストが大勢いる。向こうは向こうで任せよう。

    恩師シルフィアは今も海外を飛び回っているとの事。最強の警護者故に、その腕を買われて
   いるのは言うまでもない。またブラジャー作戦で使ったハリアーUが大変気に入ったらしく、
   専用の機体を自腹で購入したという。何ともまあ・・・。

    というか何時の間に戦闘機の操縦ライセンスを取得したのやら。まあ俺も動かせなくはない
   のだが、高所恐怖症の問題で操縦は無理だろう・・・。



ミツキ「これをこうすれば・・・OKわぅね!」
ナツミYU「へぇ〜・・・凄いですね。」
    喫茶店隅のカウンターで資料に目を通している。その背面ではゲーム筐体で遊ぶ2人だ。
   ナツミAほどの腕前はないものの、ミツキも相当な腕前を持つゲーマーである。その腕前に
   感嘆しているナツミYUだった。
ナツミA「今度、新しい筐体でも導入しましょうか。」
ミスターT「そのツテがあるなら任せるよ。」
ナツミA「フフッ、お任せを。」
   不気味なまでに瞳を輝かせる彼女。ナツミAの本業はゲームクリエイター。コンピューター
   関連の博識から、その道に走ったというのだ。これでも国内最強の不動産業の社長令嬢だと
   いうのにな・・・。

    そう言えば先日、恩師シルフィアも国内最強のホテル運営グループ会社の社長令嬢と言って
   いた。しかしその在り来たりな生活に嫌気が差して、自らゲーマーとしての道を開拓しだした
   との事だ。しかし、後の流れは警護者への道である。

    ナツミAもシルフィアと殆ど同じらしく、身内を困らせるほどのゲーマー魂炸裂だったとの
   事だ。そこに集い会ったのがミツキやナツミツキ四天王という。本当に不思議な縁である。

    そのゲーマー関連のスキルが、今ではスナイパーライフルを使わせたら右に出る者がいない
   とされる程の腕前に至るとは。ミツキも彼女に影響されて、同じくゲーマー経由でのスキルを
   発揮している。マグナムを二丁拳銃で扱うスタイルは、ゲーム内のキャラクターを模したもの
   だとか。

    また四天王の方もゲーマー経由で今のスキルを獲得したとの事。実際の重火器を扱えるまで
   の修行はウインドとダークHが担っている。まあ彼らは格闘技馬鹿とも言えるほどプロレスが
   大好きなため、重火器よりも肉弾戦の方が遥かに強いだろうな。


シューム「今度の依頼とかは分かるの?」
ミスターT「いや、今の所はないの。今見ているのは、今までの依頼の資料だが。」
    お客さんの注文を完成させるシューム。それをナツミAがトレイに乗せて運んでいく。今は
   この光景を良く見るわ。その中で俺の行動を気にして語り掛けてきた。
ミスターT「まあ資料といっても、どれも報酬が記載されたものだけどね。」
   休憩も兼ねて厨房から出てくるシューム。今度は俺が厨房を担当する事にした。その際、目視
   していた資料を彼女に手渡した。カウンターに座りながらそれに目を通しだすが、直後に硬直
   するのが何とも言えない。

シューム「・・・土地含めマンション数棟丸々買えて、お釣りが来るような金額じゃない・・・。」
ミスターT「最低限でいいって言ったんだけどね。」
    ナツミAから新たなオーダーを言われ、急ぎ調理に取り掛かる。こう見えても炊事は得意
   であり、調理師免許もしっかり取得済みだ。その中でのシュームのボヤキ。確かに記載されて
   いた金額には度肝を抜かれている。
ナツミYU「エリシェさん方が仰るには、そのぐらいのお礼はさせて欲しいとの事でしたよ。」
ミスターT「命には変えられないのにな。」
   俺が不殺生を貫いているのは、今正に語った言葉通りのものだ。相手が極悪人であっても、
   大切な命には変わりない。ただ犯罪に至ったのだから、致死に至らない程度の報いはしっかり
   受けて貰うが。それでも俺の目が黒いうちは、絶対に死者など出してなるものか。

ミツキ「Tちゃんは人命尊重を最優先に動いているわぅからね。それは正にプライスレスわぅ。」
ナツミA「ただ最低限の資金は欲しいわね。喫茶店の運営や特殊兵装の開発も馬鹿にならないし。」
ミスターT「ここの地下の改造費も相当出たからねぇ。」
    四天王が悪戦苦闘している特殊兵装開発工場は、ここ喫茶店の地下に増設した形に至る。
   既に出来上がっている建物の下に地下空間を2階も構築したのだ。ここ周辺の地価からして、
   相当の金額が飛んでいったが。
ナツミYU「お望みでしたら、私からも資金提供致しますよ。個人兵装の開発と恩恵には大変お世話
      になっていますから。」
ミスターT「ありがとね。まあ今は何とかなってるから、何れ建て替えの時は色々と頼むよ。」
シューム「ここの規模だと、相当デカい喫茶店が立ちそうよね。」
   カウンターで一服しながら語るシューム。既に何度か建て替えの案は出ているが、実際に動く
   となると別の店舗などが必要になってくる。資金はあっても動けないのが現状だろう。


ミツキ「それ以上に、Tちゃんにはご褒美がありそうわぅけどね。」
ミスターT「・・・こちらの女傑2人か。」
    ミツキがニヤニヤしながら語るそれは、ナツミYUとシュームを指し示している。顔を赤く
   する両者だが、何時でもどうぞという雰囲気を出すのが何とも言えない。
ナツミA「ご褒美も何も、自然的な成り行きな感じがするけど。」
ミツキ「若さ故の過ちわぅね。」
ミスターT「う〜む・・・。」
   2人の思いは痛いほど伝わってくる。ここまで思われる事自体が、本当に喜ばしいものだ。
   しかし俺には2人を癒せるかどうか不安なのが現状だが・・・。
ミツキ「直感キュピーンわぅ! お2人を支えられるかどうか不安わぅね?」
ミスターT「お前のそれは凄いわな・・・。」
ミツキ「図星わぅ〜♪」
   的中したと喜ぶミツキ。それに呆れるも笑うナツミA。俺の方は遣る瀬無い気分だが、実際
   には2人の考えに思い悩まされる。

    ナツミYUとシュームを癒すという部分は全く問題ない。2人を娶るとあっても、国外なら
   一夫多妻は認められている。そこに赴けば済む事だ。一応だが・・・。

    ただ俺が懸念するのは、2人の心の隙間を埋められる存在になれるかどうかの方だ。心中に
   抱く思いは相当大きいものだと感じる。

    本当に2人を支えるのなら、生半可な考えでは接したくない。心から癒されたと感じれる
   ような状態にまで至りたいもの。俺にはその役が担えるのかどうか・・・。

ミツキ「私はナツミYUさんとシュームさんの深層の痛みは理解できていません。理解しようにも、
    半端じゃない痛みに潰されると思います。貴方はそこに挑もうとしているのですから、思い
    悩むのは当然だと思いますよ。」
ミスターT「中途半端な考えでは接したくない。かといって今の俺には支えられるかどうかも不安
      になっちまう。」
ナツミA「それでいいと思いますよ。最初から答えがある道など絶対に在り得ません。手探り状態で
     進むのが人生というもの。強いては、それこそが夫婦というものじゃないですかね。」
ミスターT「夫婦か・・・。」
    ナツミYUとシュームが究極的に望む形は、間違いなく夫婦の関係だろう。今は男女間の
   間柄で接したいという一念が強いだろうけど。しかし俺の職業柄、何時死ぬかも分からない。
   パートナーになったとしても、再び未亡人には絶対にさせたくない。
ナツミYU「ナツミAさんが仰る通り、先輩や私の望む究極の形は正にそれです。しかしマスターが
      仰る通り、不安な要素が数多くあるのも現状。」
シューム「何振り構わず接する方が幸せなのかも知れないわね。でもそれで君が思い悩んでしまう
     のなら、結果的に不幸にしてしまう。それに君が思ってくれたように、私達の職業から
     何時死ぬかも分からない。」
   心中読みには驚いたが、2人が言う事は正に自分の心境そのものだった。普通の生活をして
   いるのなら、その道を我武者羅に突き進む事もできる。しかし現状はそれが許されない。

ミスターT「・・・それでも、俺はこの道を貫き続ける。テメェが決めた生き様だ。途中で曲げる
      ような無様な醜態など曝したくない。貫けないような生き様など、最初から行わなけ
      ればいいわな。」
シューム「フフッ、そこも全く同意見ね。今となってはこの道以外に生き様は考えられない。ならば
     最後まで貫き通す以外に道はないわ。」
ナツミYU「皮肉ですよね。己の幸せを得ようとすると、それ以上に他者の幸せを守ろうとする。
      それが警護者としての使命なのでしょうね。」
    3人同時に一服しだす。それを知ると笑ってしまった。何か考えに更けようとすると、この
   一服をするのは共通事項のようだ。俺達は本当に似た者同士である。
ミツキ「まあ今は青春を横臥しつつ、依頼をこなしていくわぅね。人助けに繋がっていくわぅし。」
ナツミA「裏稼業で人助けとはね。用は生き様の在り方よね。」
ミツキ「わぅわぅ。」
   一区切り着いたと判断したのか、再びゲームを興じるミツキ。ナツミAの方は俺に代わって
   厨房を担当してくれている。俺もナツミYUとシュームと共に、カウンターに座って物思いに
   更けた。


    警護者は殺人的職業になりかねない。護衛対象を守るためなら、如何なる手段を投じても
   構わない。それが俺達の業界の暗黙の掟である。それを捻じ曲げているのが俺達だからな。
   俺の不殺生の生き様は異端児そのものだろう。

    しかし俺達の生き様に感化されている警護者が多くいるのも確かである。それだけ今までが
   殺伐としてきた証拠だ。その中で偶々変革者が俺達であったというだけの話である。

    それにこの警護者は技術職でもある。戦闘技術が強ければ、不殺生の生き様も十分貫いて
   いける。むしろ不殺生を貫く事で、より一層戦闘技術が向上されてもいる。今の警護者世界の
   レベルは昔よりも遥かに高いと言われるぐらいだ。

    更には活人技である。これは格闘術になるが、生かして制する戦術になる。武器を使わない
   肉弾戦なら、致死に至るのは非常に希だ。またこの方が爽快感も相まって充実な依頼を達成
   できると絶賛されてもいる。

    今後の警護者の世界は更に変わっていくだろう。活人技たる格闘術による肉弾戦。これが
   主体になっていくのは言うまでもない。個人兵装はあくまで相手を無力化させるための手段に
   過ぎないのだから。



ナツミYU「うーん、少しレスポンスが下がってるわね。」
ミスターT「音だけで分かるのか・・・。」
    都心を疾走するランボルギーニ、ナツミYUの愛車である。つい最近カスタマイズしたとの
   事で、その納車に付き合っている。かれこれ数年は乗っているという愛車中の愛車との事だ。
ナツミYU「君と同じ28の時に買ったから、もう6年になるわね。」
ミスターT「ワイルドウーマンさながらだな。」
   彼女が指摘した不安要素を察知した。車に関して無知の俺でも、確かに変な違和感を感じる。
   経年劣化も考えられるが、それだけ乗り回している証拠だろう。
ミスターT「・・・エンジン周りか、それともサスペンションか。」
ナツミYU「ほほぉ、流石ね。私もその辺りを疑ってるのよ。」
ミスターT「搭乗者の命に関わるからねぇ・・・。」
   難しい表情の彼女。それからして相当のガタが来ている様子だ。ただ長年苦楽を共にした愛車
   を手放すのは辛いだろう。相当お気に入りの車両のようだ。

ミスターT「そうだな・・・例の報酬金で同型車をプレゼントするか。」
ナツミYU「え・・そんな、悪いわよ。」
    カウンターで見た報酬金の金額。シュームが言うように、マンション数部屋ではなく数棟を
   購入してお釣りが来るほどのもの。しかも土地付きである。ランボルギーニを購入するのも
   全く問題ない。
ミスターT「運が悪かったの、お嬢様。俺は一度決めたら徹底的に走るクチでね。今から同型車を
      見に行きますかな。」
ナツミYU「は・・はぁ・・・。」
   呆れ顔のナツミYUに笑ってしまう。ランボルギーニ自体、数千万はするという超高級車だ。
   それを簡単に購入できてしまう自分にも驚くしかないが。まあ今現在までの護衛依頼の報酬が
   相当な金額になっているため、これが罷り通るのが何とも言えない。

    ちなみに俺はスーパーカーはあまり好きではない。グローブライナーなど武骨な車の方が
   好きで性分に合う。それにこちらの方がランボルギーニよりも遥かに低価格だからな。

    ともあれ、言い出しっぺは自分である。ナツミYUには悪いが、ここは有限実行させて頂く
   としよう。


    その後、急遽目的地を変更。喫茶店に戻るはずが、今いたディーラーへと戻る事になる。
   実際にランボルギーニの調子がイマイチであり、それの報告もしなければならない。そこは
   ナツミYUに任せるとして、資金の方は俺が持つ事にした。

    俺の行動に相当焦っている彼女だが、どこか嬉しそうにするのが何とも言えない。これは
   俺が資金を出すという部分ではなく、俺と過ごせる時間ができたという部分だろう。何気ない
   行動でも彼女の癒しになれば幸いである。



ミスターT「これいいな・・・。」
    ディーラーに現ランボルギーニを引き渡し、色々なスーパーカーを物色するナツミYU。
   俺も付き合ったのだが、その中で目に止まった車種がある。
ナツミYU「パガーニ・ウアイラね。可変フラップ搭載という航空機さながらの車種よ。安定性では
      ランボルギーニを超えるとも言われてるけど。」
ミスターT「・・・価格もぶっ飛んでるわ・・・。」
   提示価格を見て驚愕した。日本円にして1億2千万とはこれいかに・・・。ランボルギーニ
   でさえここまで高額ではない。聞く所によると、職人さんによるハンドメイド仕様との事だ。
   だからこの価格なのだろう。
ミスターT「グローブライナーやハーレーが安く思えてくる・・・。」
ナツミYU「車両の車種を超えるとそうよね。でもランクではグローブライナーもハーレーも、同型
      車種の中では全く同じ高級車扱いだから。ムルシエラゴもウアイラもハーレーとほぼ
      同系列よ。」
ミスターT「ハイパーカーという流れだの。」
ナツミYU「ウアイラもスーパーカーじゃなくハイパーカー扱いだからね。」
   Ta152H時と同じく、ベストから手袋を出して着用。それで目の前のウアイラを触らせて
   貰った。車に関しては疎い俺でも、目の前の芸術品の良さは痛感できる。見事な仕上がりだ。

ミスターT「で、どうする。このウアイラにするのか?」
ナツミYU「そんなまさか。前と同じムルシエラゴにするわよ。この車種に愛着があって、今までも
      何度か乗り替えているから。」
    不調子のランボルギーニ・ムルシエラゴはまだ1代目との事。約6年乗り続けているとは
   先刻窺ったので、それからして相当愛着があるようだ。このウアイラも魅力的な車両だが、
   それでもムルシエラゴを選ぶ所に執念を感じずにはいられない。
ミスターT「分かった。全部終わったら、事務所に請求書を回してくれ。」
ナツミYU「はぁ・・・。」
   どうしても買うのかと呆れ気味のナツミYU。そんな彼女を尻目に、その後もウアイラの物色
   を続けた。この車体、まるでTa152Hの様に洗練されているわ。これなら彼女のような
   愛好家にスーパーカーが愛され続けられる訳だ。

    ちなみにナツミYUがスーパーカーへ執着しだした理由が伺えた。何でも偶々見ていた番組
   にて、ムルシエラゴを駆使したカーチェイスに憧れたのだとか。こちらの理由の方が呆れる
   しかない。

    まあムルシエラゴの最高速度は342kmとの事。この車種でカーチェイスをしようもの
   なら、相手へ速攻追い付く事は間違いないか。ちなみに物色中のウアイラは何と370km
   という。

    更には400km以上を叩き出す凄まじいスーパーカーもといハイパーカーがあるそうだ。
   それはブガッティ・ヴェイロンというそうだ。価格も超絶的にぶっ飛んでおり、日本円で何と
   2億6900万との事である。しかもこれ、厳重な審査が通らなければ買えないらしい。

    これから考えると、まだムルシエラゴやウアイラの方が手頃で買えそうだ。ヴェイロンの
   存在は、史上最強のハイパーカーと言える。それに今では車自体が航空機に近くなっていると
   言えるわな。400km以上とは・・・。

    これ、この3台でカーチェイスなんかしたらとんでもない事になるわ・・・。


    ディーラーのオーナーさんが俺がウアイラを丹念に物色しているのに気付き、色々と声を
   掛けて来てくれている。それは販売目的ではなく、純粋にこの車が好きなのだとか。俺がこの
   車種に見せる情熱を感じ、話さずにはいられなかったようである。

    確かに俺もTa152Hになると、オーナーさんと同じ意味合いに至る。その良さを周りに
   語りたくなるのは、愛好家故の性であろうな。

    今もウアイラに掛けて色々と会話をしている俺の姿に、我が事の如く嬉しがるナツミYU。
   推測だが、スーパーカーやハイパーカーに対しての話題が合う人物がいなかったのだろう。
   俺がこれらに興味を示しだした事で、新たな共通の話題が得られたという喜びだろうな。

    幸いにも地上なら乗り物に関しての怖さは一切ない。また乗り物全般に対しての酔いも全く
   ない。高所恐怖症と水恐怖症が災いして、関連する乗り物が苦手になっているだけである。

    案外、彼女に逆に買わされそうな気がしてならない。まあそれだけ、このウアイラは相当な
   魅力を感じる。スーパーカー・ハイパーカーという次元を超えた、職人技が成せた芸術品故の
   力だろうな。


    新たなムルシエラゴの納車を予約し、電車と徒歩で喫茶店に戻った。車両で戻ると思って
   いた面々は呆気に取られている。また俺がスーパーカーやハイパーカーに興味を引かれた事に
   エラい驚いていた。

    ちなみにシュームはハーレー一筋との事だ。車は乗れれば良いという解釈ゆえに、ここは
   ナツミYUとは合わないか。ただハーレーという共通の話題があるため、問題はなさそうだ。

    ミツキは何とバスが好きだという。しかも路面バスだとの事。ナツミAも同じく路面バスに
   魅力を感じているようだ。二種免許があるため、何れ同バスを入手したいとも言っていた。

    この姉妹、何から何まで逸脱しているわ・・・。まあ俺も武骨な車両派なので、路面バスは
   大歓迎なクチではある。それを言ったらナツミYUとシュームに呆れられたが・・・。



ミツキ「おおぅ、面白いニュースやってるわぅよ。」
ミスターT「どした?」
    数日後。納車が今日だとの事で、再びディーラーに赴く事になった。そんな中、ミツキが
   テレビを指し示している。流れてくる映像は、高級車ばかりを狙った窃盗事件との事だ。
ミツキ「裏で売り捌く売人わぅかね。」
ミスターT「分からんが、納車前に見たくない内容だな。」
ナツミYU「その時は奪い返すまでよ。」
   ノースリーブにミニスカートという出で立ちのナツミYU。両グローブを腰のポシェットに
   しまう姿は、ワイルドウーマンさながらである。

ミツキ「ウッシッシッ! 魅力全開わぅね♪」
ナツミYU「茶化さないで下さい・・・。」
ナツミA「対するマスターは武骨過ぎるけど。」
    俺の出で立ちを見て溜め息を付く一同。ズボン・ロング・ベスト・コート、そして頭の覆面
   と変わりない。夏場は薄着を着用するが、基本的にこのスタイルは全く変えていない。
シューム「彼女を襲わないようにね。」
ミスターT「言ってろ、じゃじゃ馬娘め・・・。」
   厨房からの茶化しで赤面のナツミYU。俺は呆れ顔で返すも、ニヤニヤしているのが何とも
   言えないシューム。ただ面白いのが、お互いにお互いを披露しようとしている点だろうか。
   恋路に突っ走るなら、お互いに奪い合いな感じが出るだろう。今の2人は全く異なる。

    また恩師との一件後、この2人は若くなった気がする。今までは俺より年齢や経験が上で
   あったからか、姉的雰囲気が色濃く出ていた。しかし今はまるで妹の様な感じで接してくる。
   むしろミツキとナツミAの方がよっぽど姉的雰囲気である。

    案外、ナツミYUとシュームは無理していたのだろう。それが自然体の極みである恩師に
   出会って、形作っていた固定概念を崩されたと取れる。逆に恩師と同じ自然体の極みのミツキ
   とナツミAがその生き様に触れて、より一層大人化した感じだろうな。

    時として子供が大人のような感じがする時がある。シュームの娘リュリアや、ナツミYUの
   双子の娘アサミとアユミ。この2人がエラい大人な感じがするのは、正に自然体でいるから
   なのだろう。

    子供と大人の境とは何処なのだろうかと思うが、多分そんなの存在しないのだろうな。


    ちなみにディーラーまでは前回同様、徒歩と電車を駆使して赴く事になる。帰りは車で戻る
   事になるからだ。

    新車のランボルギーニ・ムルシエラゴと対面できる事に、エラい喜びを示すナツミYU。
   まるで幼子のような感じがしてならない。何ともまあ。



エリシェ「あら、こんにちは。」
ミスターT「何でお前達がいるんだ・・・。」
    現地ディーラーに着いて驚いた。海外にいるはずのエリシェとラフィナがいるではないか。
   しかも展示品のウアイラと、もう1台の車種を品定めしている。
エリシェ「ミツキ様とお話しまして。何でも貴方がこちらの車種に興味があるとかで。」
ミスターT「まさか・・・買ったとか言うんじゃないだろうな・・・。」
エリシェ「そのまさかですが。」
   ノホホンとした感じで語る彼女に、俺の方が青褪めてしまった。しかもラフィナが物色して
   いる隣の車種は、同系列の車種を持たねば買えない代物だ。

    フェラーリ・エンツォ。現フェラーリ所有者でしか入手できない超貴重なスーパーカーだ。
   入手経路がとにかく限られているため、見る機会も非常に希である。それが目の前にあるの
   には驚くしかない。

エリシェ「これもいいですね。こちらは同系列車種がないと入手は不可能ですか?」
オーナー「立て前ではそうなっておりますが・・・。」
エリシェ「なら・・・あちらの同型車種と一緒に買います。手配して下さいませ。」
    エリシェが指し示す先には、これまた超骨董品のフェラーリF40がある。それと後継機の
   エンツォを買うと言い出した。焦るも商売的に万々歳といった形のオーナーさんだが、俺は
   顔面から血の気が引く思いだ・・・。
ミスターT「ど・・どうするんだ・・・スーパーカー3台も・・・。」
エリシェ「管理はナツミYU様にお任せします。」
ナツミYU「実は君がムルシエラゴの代金を払う事を知ったら、そのお返しとばかりにね。」
   実に申し訳なさそうな顔をするも、滅多に手に入らないスーパーカーを管理できるとあって
   ご満悦のナツミYUである。穴があれば永遠に隠れたい気分だわ・・・。


    手続きが完了するまで、近くのテーブルで暇潰しをする。エリシェとラフィナの紅茶を啜る
   姿は、本当にお嬢様としか思えないほど上品だ。またナツミYUも大人の雰囲気で啜る姿は、
   2人には出せない色気を感じさせるのが何とも言えない。

ラフィナ「本当は例の窃盗事件への対処なのです。」
ミスターT「スーパーカーばかり盗むアレか。」
    茶菓子を食べながら語る。ここに来る前に喫茶店で見たアレだ。高級車ばかりを狙う窃盗
   事件が頻発しているという。
エリシェ「今回の3台はこちらが入手しましたが、それ以外の車両は財閥側で確保に走っています。
     結構被害が酷く、纏め買い的な感じになりますけど。」
ナツミYU「ほとぼり冷めたら同じ金額で払い下げする形ね。」
ラフィナ「そうです。販売店からしても、売り上げ自体は成り立っていますから。同じ金額であれ、
     懐は潤う仕組みにしてあります。」
エリシェ「まあ最悪はこちらが半分負担してもいいのですが。」
   平然と語るエリシェに呆れ返るしかない。しかし現状の窃盗事件はかなり大きくなっている
   様子で、この先手を取った回収行動はディーラーにとって好都合とも言われているらしい。
   世界最大の大企業連合だからこそ成せる技だな。


エリシェ「それと改めて。先日の時限爆弾排除作戦、本当にありがとうございました。」
ラフィナ「一歩間違えば大勢の死者が出ていたかも知れません。本当にありがとうございます。」
    その場で深々と頭を下げる2人。語る内容は、あの通称ブラジャー作戦である。咄嗟の判断
   で動けたのが、結果的に多くの人命を救う形になった。
ミスターT「気にしなくていいよ。俺にできる最大限の行動をしたまでだからの。」
ナツミYU「だからこその、これら車両の手配よね。」
エリシェ「はい。物品で返すのは失礼極まりません。ですが貴方にできる事といったら、今はこの位
     しか思い付きませんので。」
ミスターT「俺としては、孤児院の資金援助があれば万々歳なんだけどね。あとはデートができれば
      願ってもないけど。」
   一服しながら3台のスーパーカーの領収書を見て度肝を抜かれた。これだけで軽く数億は至る
   超高額である。これを平然と支払えるエリシェには脱帽するしかない。

ナツミYU「・・・なるほどねぇ。無欲故に肩肘張るのを止めさせるためのデートな訳ね。」
ミスターT「む? ああ、口説きのものか。お前も前はそうだったろうに。エリシェもラフィナも
      相当内に溜め込んでいる。俺が担いたいのは、目の前の人の幸せな顔だ。それ以外に
      どんな報酬があるんだか。」
    至って真面目に答えた。相手が男性であれ女性であれ、心に悩みを抱えていては真の笑顔は
   決して見れない。俺の存在が笑顔を見れるに一役買えるなら、喜んで何でもしたいものだわ。
エリシェ「ミツキ様が仰られた通りですね。ミスターT様は本当に無欲で、他者への気配りを最優先
     に動いていると。」
ラフィナ「私達の行動には違和感を覚えられていますが、私達自体には普通に接して頂いています。
     本来なら物怖じしてしまうのでしょうに。」
ミスターT「さっきも言ったが、出身の孤児院への資金提供がどれだけ嬉しい事か。それに世界中の
      人々を陰ながら支えている。更には俺達同業者にも出資してくれている。これに応える
      には、今以上の正確無比な依頼を遂行し続けるのみだわ。」
   経緯がどうあれ、純粋無垢な生き様には真っ向勝負でぶつかりたい。己自身の真の生き様を
   示すのみでいい。それこそが生き様に対しての礼儀である。

エリシェ「諸々了解致しました。私達も警護者として動き出した手前、貴方様を師匠と位置付けて
     活動していく次第です。」
ミスターT「大企業連合の総帥と秘書が警護者ねぇ・・・。」
    決意漲る発言をするエリシェに、力強く頷くラフィナ。専属の警護者達から手解きを受け
   出していると聞いたが、今ではかなりの腕前に至っているようだ。その華奢な身体からは想像
   もできない強いオーラが滲み出ている。
ラフィナ「走り立てですが、護身術はそれなりにできますので。引けは取らないと思いますよ。」
ナツミYU「エリシェさん達11人とも、格闘術ではかなりの腕前ですから。人は応用を利かせれば
      何だって出来ますよ。」
   仲間が増えたと嬉しそうなナツミYU。この警護者自体、そんなに仲間が多い世界ではない。
   こうやって身近に現れる事自体が幸運なのだろうな。

    中半へと続く。

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