アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝6
〜覆面の警護者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝6 〜覆面の警護者〜
    〜第1部・第9話 変装の潜入捜査3〜
    その時は突然訪れた。今し方連絡が入り、トラガンの遠征中部隊が特殊部隊の襲撃を受けた
   との事だ。同伴でナツミAとウエスト・ナッツがいるが、押され気味との事。こちらも直ぐに
   部隊を編成し、彼らの加勢に加わる。

    その中で初の戦闘となるデュリシラとデュシアL・ビアリナの3人。かなり緊張の面持ち
   だが、未知との遭遇に嬉しさも抱いているようだ。この姿勢が強大な敵に立ち向かう強い一念
   になるだろうな。些細な事でもいい、それが起爆剤になるなら特効薬である。


ミスT「はぁ・・・取り越し苦労だったか・・・。」
    劣勢と聞いていたため、迅速に現地に到着する。が、俺はトラガンの遠征部隊を過小評価
   し過ぎていたのかも知れない。俺が彼らと修行を打ち出してから数ヶ月が経過していたが、
   まさかここまでレベルアップしているとは・・・。
ウエスト「殆ど俺達が加勢する事もありませんでしたよ。しかも活人技で相手を不殺で制する。」
ナッツ「危ない方のみ加勢しましたが、それは初戦闘という事でぎこちない動きからの不測の事態。
    その流れは直ぐに消え失せましたけど。」
   一服しながら一同を見守る2人。ナツミAは弾丸の補充が必要な人物に、迅速な追加作業を
   行っている。しかもトラガン遠征部隊は模擬弾、特殊部隊は実弾だというのにな・・・。
デュリシラ「なるほど、この一念が以前のミツキ様の生き様ですか。」
ミスT「ああ、敬い・労い・慈しみの精神ね。その一念に回帰すれば、相手の人間自体を責めず、
    その行動を責めるに終始できるからな。それに連中の言動は、どう見ても悪役そのものだ。
    どちらが正しく、どちらが間違っているか。火を見るより明らかだわな。」
デュシアL「確かにマスターが仰られる、裁定者とは図々しいかも知れません。しかし明らかに相手
      がおかしいなら、ここは別の調停者として制する方がいいかも知れませんね。」
ウエスト「調停者か、それ頂きですな。」
   暴れたくてウズウズしているウエストとナッツ。我慢の限界か、自然と突撃を開始しだした。
   それに同調するデュシアLとビアリナ。俺はデュリシラと一緒に、不測の事態に備えて待機
   する事にした。

    四天王の2人と女傑2人の参戦は、戦況を更に一変させた。どうやらこの数ヶ月の間の修行
   により、特殊部隊の実力と明確な差が生じている。連中は恐らく今の現状でもなると思い、
   何もせずいたのだろう。

    対してこちらはトラガンの面々と半ば激闘に近い修行を繰り返し続けていた。相手が何時
   何処に現れるか分からない以上、単独で撃破できるだけの戦闘力へ昇格させ続けた。これは
   ミツキが発案し、ナツミAが戦術・戦略を考案したものである。

    そんな修行者の中の師匠役がウエストやナッツだ。師匠が共にあると、弟子はそれだけ奮起
   しだす。その相乗効果が目覚ましく出始めだしたのだ。この場合はもはや誰も止める事など
   できるはずがない。

    ちなみにサイバーとエンルイは、地下工房で新たな得物の開発を行っている。トラガンの
   女性陣でも扱える武器を製作中との事。それを三島ジェネカンの力を使い、大量生産させる
   算段のようだ。

デュリシラ「・・・貴方様の淵源はここにあるのでしょうね。」
ミスT「彼らの生き様か。いや、俺も彼らと同じだっただけの事だよ。だから同調できた。むしろ
    ミツキ流の概念をすれば、“持ちつ持たれつ投げ飛ばす”だろうけど。」
    その概念は不思議なもの。彼らの中に俺がおり、俺の中に彼らがいる。理路整然と解釈する
   事はできないが、それは確かに存在しているのだから。そしてそれが今の世上への特効薬に
   なるのも確かである。その対極に位置しているのが特殊部隊や軍服の連中だ。
ミスT「それでも、己が定めた生き様は貪欲なまでに貫き通す。それができるのも己自身だわな。」
デュリシラ「本当に心から尊敬します。私では貫けるかどうか分かりません。仮に進んだとしても、
      右往左往しながらのものでしょうから。」
ミスT「ハハッ、右往左往は人の業だよ。シドロモドロもそうだけど。しかしそれこそが人の姿、
    人である何よりの証拠だわな。要はそれに溺れて堕落するか、糧として食らい付くかだ。
    俺なら可能な限り後者を選びたいものよ。」
   生き様とは本当に奥が深い。だからこそ人生は楽しいのだ。ここに回帰できるかどうかで、
   人としての生き様は全く変わってくる。俺もそんな中に加わりたいものである。

    ハワイの時と同じく、何処からともなく現れる特殊部隊の連中。いくら相手を圧倒している
   とはいえ、実戦経験が乏しいトラガン遠征部隊では荷が重いかも知れない。ここは俺の方も
   暴れるとしよう。幸いにもウエストがパニッシャー3挺を持参しているようだ。

    脳波で人口腕部を起動すると、恒例ながら背中のスーツを突き破って黒色腕部が姿を現す。
   重力制御ペンダントは常備しているため、背後に待機中のパニッシャー3挺をそれぞれの手に
   持った。その様相にデュリシラは驚愕している。

    俺も激闘を繰り広げている面々の中に飛び入り参加をした。ただ今回は野郎の身体ではない
   ため、幾分か動きが厳しいかも知れないが・・・。



ナッツ「ふむ、今回は黒服連中は現れなかったみたいで。」
ウエスト「単なる襲撃部隊だった感じだな。」
    物凄い戦いになると踏んでの参加だったが、専ら疲れが出始めたトラガンの面々の補佐に
   回る形になった。模造の本物パニッシャーも射撃以外に鈍器としての殴り付けや、その防御力
   を活用しての大盾にもなる。むしろ今回は盾役が目立った感じだが。
ミスT「さて、お勤めを開始しますかね。」
ウエスト「了解。今回は前回より多めに持ってきましたよ。」
ナッツ「緊急車両の到着に時間が掛かるそうで、その間は俺達で何とかするしかありませんが。」
   地面に倒れ込む特殊部隊の面々。試合が終われは全てファミリーの理の様に、急所以外を銃撃
   された彼らの治療を開始しだした。この流れはデュシアEの盟友であるビアリナのみ知って
   いるようだが、他の面々は知らないようで驚いている。

    驚いたのはビアリナが看護士と介護士の免許を持っていた事だ。しかも医師としての資格も
   取得したそうで、内科以外に外科も見れるという。更には簡単な手術も可能というのだから
   怖ろしい。デュシアEが俺達の元に彼女を送った理由が、今初めて理解できた。

ミスT「・・・ナッツもできるとは。」
ナッツ「ビアリナ嬢には敵いませんが、縫合ぐらいならできますよ。」
ウエスト「四天王中で医学に精通しているのは彼だからね。」
    これも実に驚いた。ナツミツキ四天王の中で一番ぶっきらぼうな感じのナッツが、ビアリナ
   に匹敵する医学のスキルを持っていた事に。このスキルはナツミAが病床の頃に独学で学び、
   看護士と介護士までのライセンスは取れたとの事だ。ただ実際にその道に走る事はなかった
   ようだが。
ビアリナ「私がマスターの元へ派遣されたのは、この時を見越してのものでしたね。」
ミスT「彼の先見性の目は凄まじいわな。」
デュリシラ「ああ、デュシアEですか。ディル様やアマギH様も絶賛する程の、先見性溢れる千里眼
      を持っているとの事ですよ。それはデュシアLにも備わっていますけど。」
デュシアL「何ですかね、こう先の展開が読める時があるのですよ。多分母さんが仰られるそれは、
      兄さんのも含めてのものだと思います。」
ミスT「リーダー格の存在は、誕生の頃からその星の力があるみたいだの。」
   ビアリナとナッツの力もあり、ハワイでの試合後よりも効率的に治療が進められた。更には
   トラガン遠征部隊の中にも簡単な医学ができる女傑も沢山いた。彼女達の力を借りて、負傷
   した兵士達の治療は続く。

ミスT「・・・端から見ればバカげている様に見えるんだろうな。」
ウエスト「いや、生命重視は必須だと思う。それをあの軍服連中は根幹にしなかった。だから勝てる
     試合すらも勝てないんだよ。」
ナッツ「だね。前にマスターが言っていたように、相手の人間を責めるのではなく間違った行動を
    責める。人を責めてしまった瞬間、自身も堕落するのは言うまでもないっすよ。」
デュリシラ「人としての大切な理ですよね。」
    敵兵に塩を送る行為は偽善者と取られてもおかしくない。しかし軍服連中の言動を見れば、
   特殊部隊の兵士達すら利用されているのは明白だ。言わば連中の野望達成の犠牲者でもある。
   俺達の行動に治療を受ける面々は驚愕しているが、ハワイの時と同じく人として扱われる姿に
   感動しているようだ。
ウエスト「それに、マスターのそれはミツキさん縁のものでしょうに。」
ミスT「“持ちつ持たれつ投げ飛ばす”だな。敬い・労い・慈しみの精神、でも。」
デュリシラ「その同じ精神を根幹に据えるエリシェ様方に、私も助けられた経緯がありますから。
      ミツキ様の生き様、強いてはマスターの生き様に心から同調します。」
デュシアL「あの堅物の兄が一目置くんですから、それだけ凄いものなのですよ。」
ミスT「・・・ますます頑張らねば張り合いがないわな。」
   ほぼ簡易治療を終え、後はプロのビアリナとナッツに任せた。先程の会話からナッツが呼んだ
   のだろう、緊急車両が駆け付けてくる。少なからず海外にいるエリシェの遠回しの計らいも
   あるようだ。


    ハワイの試合後と同じく、負傷した特殊部隊の兵士達は緊急車両で病院に運ばれていく。
   既に適切な治療を受けているからか、運搬は非常にスムーズかつ迅速である。救急隊員の方々
   もその手際の良さに驚いているようだ。

    そう言えばハワイ時でもそうだったが、負傷した兵士達のその後は傭兵化したそうである。
   自身の命を顧みない軍服連中に愛想が尽きるのは言うまでもない。日本で戦った彼らも同じ
   流れに至って欲しいものだが。

    ただこうやって戦闘の度に治療を行うとなると、そこを付け入られる可能性も十分ある。
   まあだからと言って、この生き様は曲げるつもりは毛頭ないが。


    後日分かる事だが、トラガン遠征部隊が今回の試合を経験した事。これが物凄い礎に至った
   との事だ。本部隊の面々とのレベル差がかなり開いたとも言っている。それだけ実戦で得た
   経験は何ものよりも凄いと言えた。更には治療の行動もである。

    軍服連中も損な事をし続けるわな。こうやって細かく攻めて来る事が、逆説的に俺達を強化
   させるに至っている。ある意味感謝感謝であろう。連中が本気でこちらを潰したいと思うの
   なら、ぶっちゃけ無人機械兵器などを大量投入すべきだな。人間同士だとこういった慈愛の
   行動で相手をプラスに覚醒させていくのだから。

    そう言えば数多くのゲーム作品も、魔王や大魔王は配下に主人公を潰させようとしている。
   その障害を毎回攻略する事でレベルアップし、ボスを潰すに至っているのだ。本気で主人公を
   潰したいのなら、親玉自らが出向くべきだわ。しかも成長する前の彼らを、である。非常に
   効率的ではあるが、その場合だと物語としては成り立たなくなるが。何とも・・・。

    まあ何にせよ、どう考えても連中の方が絶対悪である。実働部隊の兵士達にとっても同じ
   考えを浮かぶだろう。それでも悪の方が手数は上なのが世の常だ。だからこそ負けられないの
   だがな。



    トラガンと関わりだしてから半年近くが経過した。ナツミYUの最初の依頼を請け負った
   時から加算して、既に1年以上が経過している。身内の警護者としての実力は更に上がった
   感じである。

    数ヶ月振りに海外からエリシェとラフィナが戻ってきた。参謀役のナツミYUも一緒だ。
   その彼女達が目にしたのは、三島ジェネカン日本支社の様相の変化である。

    臨時の社長であれ、大役を担うからには徹底的に社長を演じ切った。社員の方々との連携を
   第一とし、1人1人を奮起させて覚醒させていった。その結果が日本支社全体のレベルアップ
   であろう。短期間でそれをモノにした事に、本家社長のエリシェや補佐のラフィナは驚愕して
   いるようだ。

エリシェ「社内の雰囲気が一変してますね・・・。」
ラフィナ「しかもこの短期間で、ですか・・・。」
ミスT「俺からすれば普段通りのコミュニケーションを優先させたんだけどね。」
    高級チェアーの座り心地があまりにも悪いため、今ではパイプ椅子に反対座りしながらの
   雑務が当たり前になっている。その状態で各部署から集められた資料に目を通すのが日課だ。

    とにかく社長が了承のサインを出すのが次へ進むステップらしく、後の雑務は全て社員が
   行ってくれるという。それがこの臨時社長を受け持つ時に交わした条件だった。まあ日本支社
   の社員の方々は物凄く優秀で、俺は社長の肩書きとして居るだけの存在で良いのだとか。

ナツミYU「はぁ・・・何か女性らしからぬ姿で・・・。」
ミスT「そうボヤキなさんなって。この姿がモチベーションアップに貢献しているらしいよ。それで
    効率が上がるなら安いものだわ。」
エリシェ「私の時はそんな流れには至らないのですけどね。」
    全ての資料に目を通したら、それらを秘書のビアリナに渡した。そこで帰還後のエリシェと
   ラフィナに重役を返却した。改めて一般人に戻る俺とビアリナ。重役の肩の荷が降りると、
   ここまで安堵するものか。う〜む・・・。
エリシェ「トラガンの方も順調そうなので、そろそろ元の姿に戻ってもよろしいかと。」
ミスT「おっ? ようやく元の姿に戻れるか。早くトイレやその他諸々の気遣いからも開放されたい
    わな。」
ナツミYU「へぇ〜・・・。」
   物凄い殺気に満ちた視線で睨まれる。この場合、異性と絡む時の流れと同じだ。つまり俺自身
   が女性化した事で、女性姿の俺が野郎の俺に接するのを良しとしない感じなのか。こればかり
   は勘弁して欲しいものだが・・・。
ミスT「さて・・・喫茶店に戻るかの。ビアリナはどうするんだ?」
ビアリナ「私はデュシアE様から貴方の補佐をするよう頼まれました。お邪魔でなければ、引き続き
     お傍にいさせて下さい。」
ミスT「分かった。喫茶店の雑務・・・まあカウンター周りだが、それを頼むよ。」
ビアリナ「了解致しました。」
   この数ヶ月、彼女と共に過ごした時間が多かった。今では姉のように慕われる間柄にもなって
   いる。特に彼女もゲーム関連が好きとあり、意外にも話題の共通性があったりする。その姿を
   見たナツミYUから、再び殺気に満ちた視線で睨まれた。今度はエリシェとラフィナからも
   睨まれている・・・。


    とりあえず当初の目的は達成した感じだ。性転換してまで潜入する必要はあるのかと思った
   ものの、トラガンに所属する女性陣の過去の経緯から正解であったようだ。それを見抜いた
   エリシェの先見性ある目は化け物だが・・・。

    今じゃ全員男性のナツミツキ四天王が訪れても全く問題ないようだ。むしろ兄貴分に取れる
   のか、エラい慕われているそうである。ナツミツキ姉妹も同様に姉貴分として慕われている。
   この6人は本当に凄まじいわ。1人の人間が6人に分かれた感じにしか見えない。

    更に6人の本気モードによる育成は、トラガンの面々を根底から叩き上げる事ができた。
   実力もさる事ながら、メンタル面の強化が顕著だろう。これなら特殊部隊の連中が現れても、
   何とかなりそうな感じである。


    というかミュティ・シスターズと9女傑はどうしたのだろうか・・・。恩師シルフィアと
   共に海外で修行をしていると聞いてから半年以上が経過している。あれから何の連絡もない。
   まあ恩師がいてくれるのだ、心配は無用であろう。相当強くなってそうな気がするが・・・。

    また9女傑とエリシェ・ラフィナの実力が開く怖れもあるため、数ヶ月前からナツミYUと
   シュームが直々に修行相手になっているようだ。シルフィアほどではないが、この2人も相当
   な腕前を持つ警護者である。その後の展開が楽しみだわ。


    戦いは始まったばかりだ。あのハワイでの一戦が発端なのは言うまでもない。しかし今は
   こうして協力してくれる面々が数多く集まってきている。俺達だけではない、ここが本当に
   助かるわな。

    それでも特殊部隊の連中の総力は今だに不明である。何処にでも現れるとなると、その場が
   戦場になりかねない。今後も油断なく進まねば・・・。

    第10話へ続く。

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