アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝6
〜覆面の警護者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝6 〜覆面の警護者〜
    〜第2部・第09話 究極の姉妹喧嘩1〜
    無人飛行兵器を駆逐し、東京湾の桟橋で休息を取っている俺達。そこに突如として宇宙船が
   出現する。ヘシュナが駆る直径13km超の宇宙船だ。そして俺達の目の前に黒ローブを纏う
   彼女が現れる。

    そこまでは通常通りな感じだが、その後に展開には驚いた。姉の出現に妹のヘシュアが凄い
   形相で対峙しだしたのだ。何時もの温厚な彼女ではない。全盛期に相当悪態を付いていた感じ
   の彼女だろう。ただ根底には総意に迷惑を掛けている姉を許せない一念、これがあるのが昔
   との違いだろうな。

ヘシュナ「な・・何故ヘシュアがいる・・・。」
ヘシュア「んー、バカ姉を戒めるために馳せ参じた訳でね。アンタ、自分がしている事を全て把握
     しているのか?」
ヘシュナ「何を言い出すかと思えば・・・。」
ヘシュア「質問に答えろ阿呆っ!」
    うわぁ・・・温厚なヘシュアが激変している・・・。総意の一念を知った彼女の心境は、
   愚行に走る姉が許せないようだ。荒々しい言葉を発する事が全てを物語っている。
ヘシュナ「では答えようか。この地球人どもは、数多くの戦乱を巻き起こし混沌の世上を引き起こす
     要因となっている。それらを排除し、自然体の地球を取り戻すために動いている。これが
     私の行動理念だ。」
ヘシュア「それが愚行だと何故分からないかね・・・。私がこの目と耳と身体と生命で感じ取った
     限りには、お前が聞いた地球人の様相と全く以て違うんだがね。大凡、先日のとある御仁
     の図星を突かれた事に対する腹癒せだろうに。」
ヘシュナ「・・・あの男か。私の考えを凌駕する事を、次から次へと読む奴だったな。私が世界を
     回って得た事では、奴こそが諸悪の根源だと言われたがね。」
ヘシュア「はぁ・・・これだから阿呆は・・・。」
   ヘシュアが挙げた御仁は俺の事だろう。そしてヘシュナは俺に対して明確な敵意を持っている
   のも窺えた。更には彼女が接触した敵対者は、俺が全ての指揮を取り仕切っていると思って
   いるようだ。見事なものだが、逆を言えば俺達の術中にハマっていると言える。

ヘシュア「・・・で、お前は何をしにここに来たのよ。まさかその御仁を捕まえ、その諸悪の根源の
     元に連れて行く算段か?」
ヘシュナ「そうだな。だが見る限り、奴はこの場にはいないようだが。男の臭さには虫唾が走る。」
    ヘシュナの言葉に周りの女性陣が苦笑いを浮かべていた。その視線の先には俺がいるのだ。
   性転換ペンダントの効果で女性化しているが、どうやらヘシュナはそれを見抜けていない。
   女性陣が考案した戦術は、見事に効果を発揮している。俺としては憤懣やるかたないが。
ヘシュア「過去に男性にからかわれた事を、今だに根を持つのは何ともまあ・・・。」
ヘシュナ「・・・お前も相当にカンに障る事を言うな。」
ヘシュア「図星だろうに。お前のその下らない言動で、どれだけの人達が苦しんでいるか分かって
     いないんだろうが。」
ヘシュナ「・・・私を本気で怒らせたいようだな・・・。」
ヘシュア「ハッ! その言葉、そっくり返すわバカ姉。こちとら既に怒髪天を超えてるんでね。」
   ・・・物凄い様相に周りの面々は呆れるしかない。見事な姉妹喧嘩だわ。しかしそれが宇宙人
   の姉妹だから性質が悪い。非力な地球人が介入しようも、とてもじゃないが無理だわ。

    そこに突然現れるはミュティナ達。更には恩師にスミエもいる。どうやら事態を収束させる
   ために駆け付けたようである。そして恐怖した。スミエの雰囲気が物凄い殺気と闘気に満ちて
   いるのだ。以前言ったあの事に至った事で、それに対しての威圧であろう。

スミエ「・・・言いましたよね、おいたをしないようにと。」
ヘシュナ「・・・ですが、実際に地球人がしてきた事を見れば当然の事です。数多くの戦乱を世上に
     放つ要因を排除する、それが何故いけないのですか。」
スミエ「どうやら貴方は本当に間違った道を歩んでいるようですね。その言葉には一理ありますが、
    限定的な視野から得たものに過ぎません。貴方は視野が狭過ぎる。」
    懐からキセルセットを取り出し、徐に一服をしだす。しかし以前見た優雅な様相ではない。
   自身を落ち着かせるための一服だと痛感した。スミエにもこの様な一面があるとは驚きだ。
スミエ「では端的に問いましょう。今後、貴方はどうされるのです?」
ヘシュナ「諸悪の根源たる、あの覆面男を捕縛する。」
ヘシュア「・・・で、御仁を真の諸悪の根源に突き出すと。その後の展開が読めるけどね。バカ姉が
     連中に誑かされ利用されたと痛感すると。」
ヘシュナ「何故そう言い切れる・・・。」
ヘシュア「返すが、何故恩人のスミエ様すらにも牙を向ける。その時点で常識を逸しているがな。」
ヘシュナ「牙を向けるも、恩師であれ間違った事には顕然と問い質せと教えられてきた。その何処が
     間違っているというのだ。」
   ヘシュナの言葉でヘシュアの雰囲気が更に一変した。その先は目に見えていたので、ここは
   こちらが介入するしかない。上手く収められれば良いが。

ミスT「お待ちなさいな。ここで無粋に言い争って何になるのです。とりあえず、今はマスターは
    いらっしゃらないのでお引取りを。事を悪化させては、貴方の信用問題にも至ります。」
ヘシュナ「・・・そうだな。見ず知らずの貴殿に戒められるのは癪に触るが、貴方の見定めた一念を
     汲むとしよう。事を荒げてしまい、大変申し訳ない。」
    サッと頭を下げるヘシュナに、妹のヘシュアも含め呆気に取られた。アレだけ己の信念を
   曲げずに断固として譲らなかった彼女が、素直に頭を下げて謝罪したのだ。これは誠意ある
   対応には誠意ある対応をするという信念の1つだろう。
ミスT「・・・そうですね、ここは私が人質になりましょう。今はマスターは不在ですが、交渉の
    テーブルに着かせるには問題ありません。あ・・失礼。私ですが、ミスTと申します。」
ヘシュナ「・・・本当によろしいのですか?」
ミスT「貴方が絶対に曲げない信念があるように、私にも絶対に曲げない一念・執念・信念が顕然と
    据わっています。それを貫くのみですよ。」
ヘシュナ「・・・了解致しました。貴方を今後の保険としてお預かり致します。全てが片付けば、
     再びこちらにお返し致しますので。」
ミスT「了解です。では参りましょう。」
   トリプルパニッシャーを近場のヘシュアに預けつつ、彼女に小さくアイコンタクトをする。
   それに大変申し訳ない表情で頷いた。周りの面々に小さく頷くと、一同も小さく頷いている。
   ちなみにこの時、近場にいたミツキのダブルトリガーを借りて腰に装着した。護身用としては
   申し分ないだろう。

    準備が整った俺がヘシュナの元に近付くと、宇宙船から光が照射。一瞬で彼女と俺を船内に
   転送した。これが宇宙人の最新テクノロジーだわな。

    現状では表の流れを把握できないが、他の面々からの意思の疎通を解して全てが分かる。
   俺達を回収した宇宙船は、転送航法でその場を去っていったようだ。船内ではそれが全く以て
   感じられない。これが重力制御の理だろう。

    しかしこの巨大な宇宙船を即座に転送させる規模となると、やはりカルダオス一族の技術力
   は侮れない。まあ衛星軌道上ではギガンテス一族とドラゴンハート一族の母船・大母船が鎮座
   してはいるが。彼女達が地球に宇宙船を入れなかった理由を、改めて痛感させられた。

    人質としてヘシュナの元に近付いたが、彼女の方は縛り上げる事も全くしなかった。自分の
   信念を貫く故の行動が如実に現れている。確かに意固地になり手が付けられない部分はある。
   それを良い方に向ければ、ある意味ヘシュアを超える存在になるだろう。まあ現状はとても
   寄り添えるような関係ではないが・・・。

    ちなみに宇宙船内部にはヘシュナと同じ種族の面々がいた。男性嫌いの彼女である、周りの
   仲間達は全員女性で構成されていた。性転換して挑んだのは間違いではなかったわな。それに
   トラガンの女性陣と修行をした結果が現れる。女性陣の中で過ごす事で、より一層女性として
   振る舞えてもいるようだ。

    俺は個室に案内され、そこで待機するよう言われた。内部は監房でもなく普通の部屋だ。
   ただ地球人からすれば、非常に殺風景としか言えない。まあ拘束されないだけマシだろう。



    どれぐらい待っただろうか。宇宙船が停止したと思われ、暫く待つとヘシュナが入室して
   きた。全ての意図を知っているかのように小さく頷く。この場合は彼女の傍らにいた方が良い
   だろう。

ヘシュナ「窮屈な思いをさせてすまない。」
ミスT「お構いなく。私も数多くの扱いを受けてきた身、このぐらい何ともありませんよ。」
ヘシュナ「そうか。」
    ヘシュアもそうだが、ヘシュナもエリシェ専属の警護者の3女傑と同じ巨女の1人である。
   俺より首1つぐらい背が高い。しかし彼女も驚いているのは、身丈に迫る長髪だろう。脛の
   部分まで伸びているそれは、本当に女性と思わせるようだ。まあ当の本人は野郎だが・・・。
ミスT「これからどちらへ?」
ヘシュナ「成果が得られなかった報告をする。貴方と共にいた面々が探している連中だ。強引に事を
     進められもしたが、それでは意味がない。」
ミスT「なるほど。まあ私は部外者、諸々の詮索は致しません。黙って従います。」
ヘシュナ「すまんな。」
   悪そうに謝罪してくる彼女。言葉はトゲがある感じだが、その雰囲気はヘシュアと全く変わら
   ない。バカ姉と言ってはいたが、もしかしたら色々と先を見越した動きをしているのかもな。

    例の転送装置の元へと向かうと、そこには複数の仲間達がいた。彼女達と合流し、地上へと
   降りる。と同時に驚いた。そこは一面雪景色だったのだ。ただ寒さは感じられない。

ミスT「・・・ここは南極ですか。」
ヘシュナ「察しがいいな、その通りだ。寒さは全く問題あるまい。バリアとシールドの効果で何とか
     なる。」
ミスT「・・・お嬢様方が私達にバリアやシールドが効かない理由を考えていましたが、今ハッキリ
    と分かりましたよ。」
ヘシュナ「ハハッ、貴方もあの男と同じく鋭い観察力だな。」
    苦笑いを浮かべるヘシュナに小さく笑う。どうやらバリアとシールド効果が働かないのは、
   彼女達に少しでも悪心があるからだ。

    前にミュティナやルビナが言っていたわ。これらの効果は善心でしか絶対に働かないと。
   ヘシュナ達がその恩恵に与れないのは、間違った道に進んでいる何よりの証である。だから
   彼女達は無人兵器群を大量に送り込んだという事になるわな。となると、この流れからして
   聞かれる心配もないという事か。

    目的地に向かう最中、恐る恐る意思の疎通による念話を試みた。相手は目の前のヘシュナに
   である。しかし伝わっている様子は全くなかった。周りの女性陣にも伝わっていないようだ。

    悪心が少しでもあると使う事すらできない、か。見事なテクノロジーだわ・・・。


ミスT(こちらバルダー。)
ミツキ(むぬっ?! ワイルドキャットから通信わぅよ!)
ナツミA(ボケないで、しっかり通話しなさいな。)
    レプリカフランベルジュでの戦闘前に、ミツキとナツミAに暗号を述べておいた。ゲームは
   “アーマード・コア”の初代、“輸送列車護衛”というミッションでの一コマだ。輸送列車側
   の名前がバルダーだったので、それを俺と定めたのだ。向こうは襲撃に訪れる敵側のAC、
   ワイルドキャットの名を挙げるようにして貰った。
エリシェ(良かった、ご無事のようですね。そちらはどんな按配ですか?)
ミスT(至って普通よ、VIP扱いな感じになるわ。それにミュティナやルビナが言っていた事が
    見事に当てはまっている。)
ミュティナ(あー、悪心の一件ですか。こうしてマスターがお話をされる事自体、正にその結果だと
      思います。でないとヘシュナ様や周りの方々に伝わるでしょう。)
ミスT(俺の五感から全て伝わっている感じか。)
シルフィア(全部伝わっているわよ。そこまでして曝け出しても、ヘシュナさんには伝わらない部分
      が見事としか言い様がないけど。)
   意思の疎通こと念話には俺の五感を触媒として、遠方の一同に全て伝わっているようだ。全て
   見えている感じである。自身の力が増せば増すほど、伝わる内容はより精密さを増し、正確に
   リアルタイムで送信されるのだ。コンピューターの世界でもこれは無理だわな。
スミエ(なるほど、ヘシュナ様は何らかの考えを抱かれているようですね。)
ミスT(俺も感じたわ。漠然と連中に加担している訳ではなさそうだ。そもそも連中の中にも野郎が
    多くいるだろう。それを考えれば、加担できる筈がない。その流れから俺への嫌悪感になる
    のだろうから。)
シルフィア(はぁ、君も苦労人よねぇ。)
ミスT(フッ、違いない。)
   周りの面々の呆れながら溜め息を付く様が伝わってくる。暫くの間は隔離された感じの中に
   いたため、彼らの存在がこれ程までに有難いのかと痛感させられる。そして同時にヘシュナや
   周りの女性陣も同じ思いだろう。孤立した中で漂う難破船のようなものだ。

スミエ(Tちゃん、ヘシュナ様をお願いします。あの子は絶対悪の存在ではありません。誰かがその
    言動を戒め、正しい道に戻すために手を差し伸べるしかないのです。)
ミスT(委細承知。俺の目が黒いうちは、誰1人として不幸になんかさせんよ。力の限り守り通して
    いくわ。それが俺の明確な生き様だ。)
ミツキ(ぬぅーん、やっぱTちゃんは男性の方が合うわぅね! ウッシッシッ♪)
シューム(本当よねぇ。エロ目線で色々と問題ありだけど、君にしかできない存在感がある。そんな
     君を私達は慕って集い合ったのだから。)
    ふと俺の両手を掴まれ、胸の中に抱かれた錯覚に陥った。現状はヘシュナ達と目的地に進む
   姿だが、念話を通して遠方の女性陣の慈愛の一念が痛烈に伝わってくる。この一念さえあれば
   鬼に金棒だ。負ける事などまずない。
ミスT(ますます以て頑張らねばな。俺が俺である実証を示し続ける。まあ何だ、ただ我武者羅に
    突き進むだけでいい。まあ言うは簡単・行うは難し、だが。)
ミツキ(むむーん、相当ストイックになっているわぅね。よく喋るのが何よりの証拠わぅ♪)
スミエ(あー、そうですねぇ。昔はよく喋りだすと途端に体調を崩していましたし。)
シューム(ほほぉ・・・それはそれは、今後の付き合いで必要な気遣いになりますね。)
ナツミYU(以前ミツキさんが仰っていた、あの概念が当てはまります。)
ミツキ(む? 敵を知り・己を知り・全てを知る、わぅか。これは戦いでの概念わぅけど、まあ実際
    のTちゃんへの言動には当てはまっているわぅね。)
ミスT(人は1人では絶対に生きていけない証拠だわな。)
   懐から煙草を取り出し、徐に一服しだした。その様相に周りの女性陣は驚愕していた。それに
   気付いたヘシュナ自身も驚いている。

    中半へと続く。

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