アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝8
〜覆面の探索者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝8 〜覆面の探索者〜
    〜第1部・第6話 魔王の力1〜
    工業都市デハラードに移動してから1週間が経過。凄腕の技術者たるオルドラの力を借り、
   妹達の武器防具は劇的に強化された。俺からすれば、彼自身は伝説の鍛冶職人とも取れるかも
   知れない。それでも、人である事には変わりなかった。

    そう、冒険者も勇者も鍛冶職人も人なのだ。そして、魔物も含め、全てが生命体と言える。
   この回帰は警護者故のものだろう。地球でも何度も回帰し続けた概念とも言えた。分かり合え
   れば、争い事などなくなる、それが身内の結論点である。

    しかし、地球でも異世界の惑星でも、その概念が通用するとは限らない。現に今も抗争が
   続いている。武力で解決するのは容易だが、それでは後に必ず遺恨を残してしまう。やはり
   対話こそが最善策なのだろうな。

    言うは簡単・行うは難し、か。身内が口癖のように言うそれは、異世界でも十分通用する。
   そして、最後は己自身に帰結する、とな。まあ、これは俺の口癖か・・・何とも。



女性1(また恒例の自己嫌悪ですか。)
    突然、脳裏に過ぎる言葉。地球からの念話である。その声は、最近多忙を極めているとの
   事だった人物からだ。
女性1(人物・・人物ですか・・・。)
女性2(正にナレーターの如く、と。)
ミスターT(茶化しはやめれ・・・。)
   恒例の如く、胸中を見透かされた。今の俺は念話経由だとダダ洩れ状態であり、直ぐに内情が
   読めてしまうとの事だ。その度に茶化しを入れられるのは、勘弁して欲しい所だ・・・。
デュヴィジェ(まあまあ、そう仰らずに。エリシェ様もラフィナ様も、貴方が異世界に飛ばされた
       事を気になされていましたし。)
ミスターT(それ、ラフィナさんの気質からして、こちらに来たいと言うのが本音だろうに。)
ラフィナ(あら、お気付きでしたか♪)
エリシェ(はぁ・・・相変わらずのヲタク気質です。)
   ナツミAとシルフィアと同じ様に、異世界事に非常に関心を示すラフィナ。また、最近だと
   エリシェもその気質が見え隠れしている。

    エリシェとラフィナ。2人は警護者界のスポンサーを勤める、大企業連合の総帥と総帥補佐
   である。

    エリシェは、地球ではその存在を知らない者はいないとされる、三島ジェネラルカンパニー
   の若き社長だ。その彼女の補佐を務めるのがラフィナだが、今では副社長を担うほどである。
   そして、2人とも生粋の警護者でもある。

    過去に数々の事変を乗り越えた盟友でもあり、俺がマデュース改を使い出したのはエリシェ
   が淵源だ。ちなみに、ラフィナは場違いなガトリングガンを扱う。両者とも、5大宇宙種族の
   重力制御ペンダント効果によるものだ。

ラフィナ(現状は皆様方から伺っていますが、そちらは大丈夫ですか?)
ミスターT(一応は何とかなっている。お前さん達の声を聞く度に、ホームシックになる事だけが
      問題点だが。)
エリシェ(あら、嬉しい事を仰りますね。冗談でも嬉しいですよ。)
    久方振りに聞けた身内の声に、本当にホームシックの感じになってくる。2人は草創期に
   知り合った間柄で、修行も担った事もある存在だ。まだ5大宇宙種族が出揃う前の話なため、
   文字通りの激闘と死闘を潜り抜けた相棒でもある。
ヘシュナ(はぁ・・・羨ましい・・・。)
ナセリス(この埋め難い間柄は何とも・・・。)
エリシェ(何を仰いますか。お2人はマスターと付かず離れずのご関係でも。)
ラフィナ(恋心云々ではなく、師弟の理そのものですからね。私達の方こそ羨ましいですよ。)
   そう、今では2人より、ヘシュナとナセリスの方が親しい間柄となっている。

    ミツキTの様に、生命の次元から接していけば、それは時間や空間を超越する事になる。
   つまり、エリシェとラフィナが経て来た時間よりも、遥かに超大な時間を接して来たとなる。
   この概念は俺も理解し難いものだったが、ミツキTが舞い戻った事により痛感させられた。

ヘシュナ(それでも、同族の間柄の部分からして、どうしても超えられない壁がありますし。)
ナセリス(偏見や差別になりかねませんが、この部分は生まれ持った宿命ですからね。)
ミスターT(宿命、か・・・。)
    彼女が語った言葉に、再度思いを巡らす。それは、この異世界の惑星での生命体の状態だ。
   特に魔物がそれに当たる。
エリシェ(・・・なるほど、魔物を殺す事に罪悪感を抱いていると。)
ミスターT(先読みどうも・・・。)
ラフィナ(まあまあ。それでも、持って生まれた宿命は、時と場合では敵か味方かに分かれます。
     淵源を辿れば、善と悪でしょうか。それに、善が善とは言えない時もあり、悪が悪とは
     言えない時もあります。)
エリシェ(魔物でも、善に等しい存在もいらっしゃいますからね。)
   俺が抱く懸念材料を、見事なまでに見抜いてくれた。2人とは、こうして胸中の不安な内情を
   語り合う事が多々ある。もはや通例事とも言えるだろう。

ラフィナ(それでも、己が使命を全うすべきです。その道筋に立ち塞がる魔物がいるなら、駆け引き
     ができない場合は倒すしかありません。)
エリシェ(倒さねば、こちらが倒されますからね。警護者になったのだから、敵には迷う事なく引き
     金を引け。貴方の口癖ではありませんか。)
ミスターT(そうだな・・・。)
    草創期の2人に語った言葉を聞けて、胸中に抱いていた蟠りが薄らいだ気がした。当時の
   彼女達は、拳銃の引き金を引く事すらできなかった。その2人に語ったのが今の語句だ。
デュヴィジェ(良かったですよ、お2方にご足労して頂いて。以前の小父様との念話で、何らかの
       悩みを抱えていたのを感じました。この場合は、数々の悩みを共に解決している、
       エリシェ様とラフィナ様でしか無理だと思いましたので。)
ヘシュナ(それらを踏まえて、羨ましいと言ったのですよ。)
ナセリス(私達の場合は、宇宙種族という観点からして、達観した域にありますし。お2人の様に
     持たない状態には至れません。本当に羨ましいです。)
   持ち過ぎる故に、何も持っていないに等しい。知り過ぎる故に、何も知っていないに等しい。
   これは、5大宇宙種族の彼らが口を揃えて語る、究極的な愚痴である。

    地球人の自分からすれば、彼らの概念は超越的なものだ。この異世界の住人すらも超越して
   いると言える。故に、既に持っているため、裏を返せば持っていないのと同じなのだ。

    学べる事、知れる事がどれだけ大切か。5大宇宙種族の存在を通して、それを痛烈なまでに
   思い知らされている。これは、俺達が生きる上での大切な概念である。

エリシェ(ともあれ、マスターはその生き様を貫き続けるしかありません。警護者の手前、それこそ
     真の戦士とも言えますし。)
ラフィナ(伺う所、まだそちらには赴けないようなので、貴方とミツキT様やメカドッグ様方の存在
     しか頼れません。ですが、必ずそちらに赴けるようにします。)
エリシェ(ラフィナ様と、貴方の背中を守ると誓い合いましたからね。)
ミスターT(・・・ありがとう・・・。)
    ただただ感謝するしかない。持ちつ持たれつ投げ飛ばす、それを返してくれている。俺が
   お節介焼きの世話焼きで貫いて来た生き様が、こうして現れている事は誇り高いものだわ。
ラフィナ(それと、デュヴィジェ様。恐らくこのプランが有効かも知れません。後で検証実験を。)
エリシェ(ラフィナ様のプランは、意表を突くものばかりですからね。案外、簡単にそちらに赴く
     事ができるようになるかも。)
ミスターT(頼むから、その時は間隔空けて来てくれ・・・。)
   俺の言葉に、瞳を輝かせる姿が脳裏を過ぎる。身内の現状からして、直ぐにでもこちらに飛び
   たいと思っているようだ。現実世界での出来事なのに、そこにファンタジー要因が絡めば、
   こうなるのは言うまでもない。この半ばヲタク達の気質には参るしかないわ・・・。



アクリス「物凄い念話でしたね。」
ミスターT「あ・・ああ・・・。」
    不意の念話であったが、定期連絡ともなったそれを終えて、工業都市へと意識を戻した。
   その俺の目の前にニヤニヤしながら座っているアクリス。他の妹達もニヤニヤしている。
エメリナ「エリシェ様にラフィナ様ですか、お会いしてみたいものです。」
ミスターT「あー・・・まあ、意気投合はするとは思う・・・。」
カネッド「凄い強者揃いと・・・楽しみですわ・・・。」
   念話を通して、身内の力強さを感じている妹達。過去の戦いからすれば、肉体面でも精神面
   でも常人からは考えられない強さを誇っている。それだけ、あの戦いが凄まじかったという
   証拠だわな。
フューリス「皆様方の戦い方は、格闘術などを中心とされているのですか?」
ミスターT「殆どが重火器による射撃戦になるんだがね。それを除けば、否が応でも肉弾戦をする
      しかなくなってくる。専らプロレス技がメインとなるが。」
ミツキT「プロレスっ! プロレスいいですよねぇ〜♪」
   突然興奮気味に語りだすミツキT。そう言えば彼女、逝去直前時は力強さに憧れを示していた
   のが懐かしい。病魔自体を各種プロレス技で蹴散らすのだと、彼女に言い聞かせた事がある。
   それからして、相当なプロレスファンになったようだ。
ミツキT「純粋な肉体同士のぶつかり合い。武器の性能ではなく、己の身体が武器になりますから。
     獲物を使うなど言語道断ですよ。」
ミスターT「はぁ・・・そうですか・・・。」
   この通りである・・・。ちなみに、今では身内の誰もがプロレス技を使えている。格闘術の
   発展型として学んだようだが、実際には護身術の1つでしかない。柔道や合気道には到底敵わ
   ないのだから。

ネルビア「と・・ともあれ、今後どうされますか?」
ミスターT「工業都市で修行をした方が良さそうかな。近場に討伐クエストができるダンジョンが
      あると聞いているから、そっちで暴れるといい。」
テューシャ「暴れるとか、何かもう無法者そのものですよね。」
ミスターT「啓示を受けた無法者達、良い名じゃないか?」
    語った言葉に一同爆笑する。凝り固まった異名よりは、変人だと思われる異名の方が遥かに
   強く見える。それに、その方が気が楽でもあったりする。
ファイサ「では、今まで通りに動きますね。」
ルマリネ「可能な限り、ランクアップはしておかないと。」
アーシスト「まあ何とかなりますよ。」
   実にアッケラカンとする妹達。しかし、それは上辺だけのものだ。根底は今でも不測の事態に
   備えて、戦々恐々としているのを感じる。故に、常に余裕を持って行動する、となる訳だ。

    まあ、今の彼女達なら、体力面で魔王や大魔王クラスでも引けを取らないだろう。問題は、
   精神面での対峙か。逆に俺とミツキTは精神面での強さなら、相当なものだと身内から太鼓判
   を押されるに至っている。実に皮肉な話である。

    個々人には得手不得手がある、か。彼女達と俺達を比べると、それが如実に現れているわ。
   それこそが、個別の生命体となるのだがな。何とも・・・。


    妹達を見送った後、オルドラ武器店から使いの者より連絡があった。何でも、新しい武器が
   できたとの事だ。早速現地へと足を運ぶ事にした。

    何だか今では、オルドラは俺達の仲間になった感じである。若かりし頃は冒険者をしていた
   との事だ。そのツテにより、工業都市の市長に抜擢されたとも言っている。人望の厚さ以外に
   実力家でもあった証拠だ。



ミスターT「信じるか信じないかは、お前さんに任せるが。」
オルドラ「ふむ・・・異世界、か。」
    獲物の見定めをしつつ、雑談を繰り広げる。その中で出たのが、俺の出身に関してだ。彼は
   こちらが只ならぬ存在である事を既に見抜いていた。
オルドラ「これは信憑性に欠けるものだが、俺の情報だと魔王と大魔王は異世界から現れた存在だと
     言われている。連中が現れるまでは、魔法という概念は存在しなかったらしい。」
ミスターT「魔王と大魔王が異世界から到来した存在、か。」
   自身も信じ切れていない雰囲気で語るオルドラ。しかし、俺の方はその信憑性を信じるしか
   なかった。俺自身をこの異世界の惑星に飛ばしたという辻褄が合うからだ。
ミスターT「と言うか、お前さんも魔王だけではなく、裏で大魔王が存在していると踏んだのか。」
オルドラ「フッ、俺達の情報網を甘く見て貰っては困る。」
   ニヤッと笑う姿に、彼の底力を痛感する。オルドラの実力は、情報網の強さであろう。これは
   ギルドや自警団、騎士団とも精通していると言う。
オルドラ「確かに魔物達の纏め役だが、何処か絶対悪に感じれない。何らかの意図があって、今の
     愚行を行っている感じがしてならない。」
ミスターT「だが、お前さんの娘さんを殺したのは、連中の配下だろうに。言わば、憎き仇だ。」
オルドラ「それなんだが・・・。」
   ミツキTの逝去の手前、どんな相手でも大切な存在を失った人物を窺うと、途端に見境がなく
   なるクセがある。それを察知したのか、静かに語り始める店主。

    オルドラの娘は、確かに工業都市を襲撃してきた魔物達に殺された。しかし、その殺した
   相手が魔物ではなく、不可解なモヤに飲み込まれたのだという。実際に彼女の遺体は存在して
   おらず、墓標だけが残っている感じらしい。

オルドラ「最初は取り乱して、魔物達を恨みに恨んだ。しかし、アイツがモヤに飲み込まれるのを、
     確かにこの目で見た。そして・・・奴がいた事もな・・・。」
ミスターT「・・・魔王か大魔王、か。」
    俺の言葉に小さく頷く。しかし、その人物が本当に該当者なのかは、オルドラ自身も全く
   分からないらしい。それはそうだ、誰も魔王や大魔王を見た事がないのだから。
オルドラ「・・・俺にはどうしても、アイツが死んだとは思えない・・・。」
ミスターT「そのモヤ自体も非常に気になるしな。」
   一服しながら思い遣る。モヤと聞いて脳裏を過ぎったのは、地球での黒いモヤ事変のそれだ。
   太陽系はおろか、天の川銀河をも飲み込もうとした当事者である。それと同系列の存在なのか
   は分からないが・・・。
オルドラ「そもそも、何もかも漠然としやがっている。何時、魔王や大魔王が現れたか、魔物とは
     何処から現れたのか、それすらも分からない。大都会の王城の連中は、過去の文献から
     魔王や大魔王の出現を予期していたと言っているが、それは王城だけの話だ。誰1人と
     して、その事を把握していない。」
ミスターT「・・・もし、王城の上層部が、魔王達と結託していたら?」
   俺の言葉に目を瞑りながら黙り込む。彼も推測していた事だと直感した。現状としては、それ
   しか考えられないからだ。問題は、それで誰が得をするかという点になる。

オルドラ「例の偽勇者共が我が物顔で暴れるのは、恐らくその秘密を知ったのだと俺は睨んでる。
     それ以外にも考えられるが、恐らく当たっていると思う。」
ミスターT「・・・更に突っ込む考えを言うなら、王城側が魔王達の秘密を知った、だな。」
    現状で思い当たる究極の答えを語る。それに俺の顔を見つめてくるオルドラ。その目線は
   自分も同意であるというのが直感できた。
ミスターT「エメリナさん達は踊らされているに過ぎない訳か。」
オルドラ「それもあるが、啓示の一件も本物だろう。それすらも、連中の本心から遠ざけるための
     道具に過ぎないとな。」
ミスターT「はぁ・・・最後の敵は人間と言う訳か・・・。」
   再度一服しながら、吐き捨てるように言い放った。この言葉に込めた概念は、地球での各事変
   での様相に当てはまる。

    惑星事変と黒いモヤ事変以外は、全て地球人が裏で糸を引いていた。5大宇宙種族すらも、
   連中に操られていたようなものだ。ヘシュナはそれに気付き、態と連中に接触して、悪役を
   演じた事もあった。

    人の闇は本当に深く醜い。しかし、全部が全部そうだとは限らない。その部分が唯一の救い
   だろう。俺達が戦える最大の理由となる。

    中半へと続く。

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