アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝8
〜覆面の探索者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝8 〜覆面の探索者〜
    〜第1部・第7話 愚者の考え2〜
    一部始終を呆気に取られて見つめていた妹達。その彼女達に気付き、それぞれの獲物を地面
   に置き、彼女達の前に跪く2人。

エリシェ「お初にお目に掛かります。私はマスターが盟友、エリシェと申します。」
ラフィナ「同じく盟友のラフィナと申します。マスターが皆様方から、大変お世話になったと伺って
     おります。」
エリシェ「本当にありがとうございます。」
    大企業連合の総帥と総帥補佐とは思えない言動をする2人。この場合は、その世界に準拠
   した人物を敬うという意味合いである。言い方はアレだが、言わば重役同士のやり取りにも
   取れる。初動の対応次第では、相手への印象がかなり変わってしまう。それを痛感している
   からだ。
エメリナ「は・・初めまして。ミスターTさんから、お噂は伺っておりました。私は・・・。」
エリシェ「勇者エメリナ様ですね、ご存知です。よろしくお願い致します。」
   彼女達とは初対面同士なのだが、全てを把握している様子のエリシェとラフィナ。これは、
   俺との念話による察知であろう。ヘシュナ達が同じ手法で現状を把握しているのと同じだ。

    2人の全く以て隙がない自己紹介に、妹達はタジタジの様子だ。無理もない、この2人の
   対人話術力は身内の中で最強である。対人力が優れるヘシュナですら一目を置くのだから。

    そして、その出で立ちが正にバトラーそのものである。同性ながらも、その言動に顔を赤く
   しているのが何とも言い難い。野郎の俺からしても、エリシェとラフィナの言動には、格好
   良さが溢れているしな。


エリシェ「デュヴィジェ様とヘシュナ様が、空間収納を更に発展化させた手法を考案されました。」
ラフィナ「地球側との空間共有ですね。」
ミスターT「マジか・・・。」
    獲物群を空間収納し、妹達と街の美化作業をしだすエリシェとラフィナ。その2人が語る
   内容に絶句してしまった。どうやら、時間と空間を捻じ曲げ、地球にダイレクトにアクセスが
   可能としたようである。
ラフィナ「ですが、そこから直接現地に戻るなどの行動はできません。今は転送装置の物質版とも。
     生身の肉体を再構築するには、まだ距離が有り過ぎますので。」
エリシェ「ですが、私達がこちらに来れたので、何れ相互移動が可能になると思います。極め付けは
     ゲートの拡張でしょう。」
ミスターT「・・・アレらを送ってくるとか言わないだろうな・・・。」
   俺の懸念にニヤケ顔で語る2人。個人や個人兵装そのものなら、力量の調整で何とかなる。
   しかし、“それ以上の兵装”ともなると、もはや異世界惑星の戦闘力を超凌駕する事になる。
   最悪は、破壊神にすらなりかねない。

エリシェ「シルフィア様が先読みされてました。もし相手側に超大な軍勢が出た場合、バランスを
     保つために巨大兵装を出して相殺すべきだと。」
ラフィナ「それに、恐らく最後の敵は魔物でも人間でもなくなると思います。マスターの脳裏からの
     現状予測からして、機械兵士や人工生命体が出るであろうと。」
ミスターT「・・・連中はあの戦いと同じのを、この地でも繰り広げるのか・・・。」
    愕然とした未来像を聞かされる。それは、惑星事変や黒いモヤ事変の前に起きた、数々の
   事変の様相だ。

    生命体が有限であり、成長までの時間が掛かるのなら、それを覆す流れを構築すればいい。
   これが地球での、悪党軍団の最後の一手であった。つまり、機械兵士と人工生命体による、
   実質的に無尽蔵に構成される軍団だ。

ラフィナ「魔王様は、この現状を読まれたのでしょう。彼女が宇宙種族であれば、転送装置などの
     技術力を持っていてもおかしくありません。現状の足止めとして、個人兵装で最強の貴方
     を召喚する。」
エリシェ「その貴方を仲間が必ず探すと判断し、その人物達に現状のパワーバランスを調整させよう
     という流れを構築する。」
ミスターT「そこまで読んだのか・・・。」
    見事な先読みである。確かに魔王や大魔王を宇宙種族と位置付ければ、俺を転送装置で召喚
   する事も容易である。王城側がそれを行った所で、現状は何の利益も発生しない。それに、
   あの偽勇者共が宇宙種族だとは到底思えないしな。
エリシェ「今後も個々人の到来はありますが、全て裏方に回る事にしました。私達はこちらに駐留、
     皆様方で先に進んで頂く形になりますね。」
ラフィナ「工業都市の防衛は全てお任せを。そのための個人兵装であり、警護者の力ですからね。」
   物凄いニヤケ顔で微笑む2人に、恐怖を感じずにはいられない。しかし、今では相当な実力を
   持つ警護者に至っているため、この2人だけでも十分防衛はやってのけるだろう。
エリシェ「貴方が地球で、私達を厳守してくれたように、今度は私達がこの惑星の方々全てを厳守し
     続けます。」
ラフィナ「一切合切お任せ下さい。」
   先程までのニヤケ顔とは異なり、今度は凄まじい気迫に満ちた真面目表情で見つめてくる。
   また、近場の妹達全員にも視線を送っていった。存在そのもので鼓舞激励をする、正にそれを
   実演しているようだ。


    街の美化作業を終えて、オルドラ武器店に戻る。すると、店内からオルドラが現れ、実に
   清々しい表情で獲物を見せてきた。携帯方天戟以外に、隕石方天戟と題した複製品だ。ただ、
   格納式ではないため、持ち運びには難があるが。

    そして、新たに登場したエリシェとラフィナに気付き、案の定驚愕している。その気迫も
   さる事ながら、携帯迅雷剣と携帯戦戈の獲物にも興味を惹かれている様子だ。極め付けの火器
   兵器は収納中なので、今は見れていないが・・・。

    同日の夜、一同で作戦会議を行った。オルドラにも2人から一部始終の流れを語り、協力を
   仰ぐ形となる。当然、一言返事で了承するのは見事だったが。今後をどうするかで悩むが、
   ここは一度大都会に戻ってみるという事で纏まった。

オルドラ「エリシェ嬢とラフィナ嬢は、ここに残るという事だな、了解した。」
エリシェ「よろしくお願い致します。」
ラフィナ「ミツキT様、ヒドゥン状態のメカドッグ様方を50人ほど具現化を。ここの守りに十分な
     人員になると思います。」
ミツキT「了解です。」
    簡単な作戦会議とは異なり、重役同士の真剣な作戦会議のこの場。オルドラ自身がこうした
   修羅場を潜っているのもあり、エリシェとラフィナとの対話は企業間の交渉の場そのものだ。
   その中で、メカドッグ嬢達の増員を決定している。担当者は引き続きミツキTである。
エリシェ「大都会に戻った後は、一応“普通の行動”をしてみて下さい。恐らく、横槍が入ると推測
     できます。」
エメリナ「例の偽勇者共とかですよね。」
カネッド「何処まで腐り続ける連中なのやら・・・。」
   今では犬猿の仲にまで発展しているため、偽勇者共の話題になるとヒートアップする妹達。
   しかし、相手の実力は確実にあるため、油断は禁物である。

ダリネム「不謹慎な事を言って良いですかね?」
ミスターT「ん? 魔王嬢が来ないか、とか?」
ダリネム「よ・・読まれましたか・・・。」
ミスターT「ふふり。」
    呆気に取られるダリネムに小さく笑ってみせる。だが、彼女が挙げたそれは、大都会の愚物
   共には相当な特効薬となる。ミツキTと語った、最初の街にラスボスが到来する、あの一件の
   それと同様である。
ミスターT「お前さんのそのプランも有効打になるが、彼女の本命は俺だろう。愚物なんざに興味は
      惹かれんよ。」
ラフィナ「んー、でもマスターが現地にいれば・・・。」
ネルビア「・・・誘引戦法、ですか。」
エメリナ「強烈なまでの餌となりますからね。」
   実に皮肉な話だ。魔王達を呼びたいのなら、俺が不用意に暴れるのが無難なのだろう。だが、
   それをした場合の被害状況が読めなくなる。俺個人ですら、この異世界惑星を壊滅させる事も
   可能なのだから・・・。
エリシェ「まあ、上手く誘引できた際は、別プランを考えていますのでお任せを。」
ラフィナ「適任は何方が良いでしょうかね。」
   うーむ、この様相は・・・。どうやら、エリシェとラフィナは、今後の展開を複数の道筋と
   して予測しているようだ。これを見越して、この2人を先に送ってきたのだろう。

    地球での身内の中では、この2人の戦術・戦略指南役に敵う存在は絶対にいない。5大宇宙
   種族の面々ですら、2人の幅広い行動には脱帽している。

    エリシェとラフィナの言動は、今の流れをゲームを楽しむかの様に動いている。確かに、
   この異世界の惑星の住人達からすれば、実に不謹慎極まりないだろう。しかしそこには、全て
   の生命を守り通すという、警護者の理が強く根付いている。本当に素晴らしい女傑である。

    如何なる手段を用いようが、己が定めた誓願を確実に遂行する。警護者魂の真骨頂だわ。


    工業都市デハラードをエリシェとラフィナに任せ、俺達は再び大都会へと戻る事にした。
   引き続き、オルドラには隕石などの鉱物を用いての、獲物製造に取り掛かって貰った。俺と
   ミツキTは構わないが、妹達の獲物のパワーアップは重要である。

    それに、魔王達を除けば、現状での脅威の存在は偽勇者共や王城となるだろう。特にその
   目標が俺や妹達であれば、工業都市に留まるのは得策ではない。そこで、エリシェやラフィナ
   に裏方の行動を全て任せる事にしたのだ。

    どうやら、俺達が考える以上に、この異世界の抗争は激化の一途を辿っている様子である。
   だが、警護者たる俺達がいる限り、真の敵にはデカい顔などさせはしない。



    約1ヶ月振りに大都会カルーティアスに戻ってきた。ヒドゥン状態のメカドッグ嬢達に警戒
   を任せていたが、特に目立った事は起きていない様子だ。例の偽勇者共も暗躍していないと
   思われる。

    ただ、大都会に戻っても、明確に何をすればよいのかが掴めていない。そこで、妹達には
   引き続き、冒険者ギルド経由でのレベルアップを行うよう提示した。俺とミツキTは、以前の
   様に酒場の屋上から監視を行う事にする。

オルドラ(おお・・・これが念話という力なのか・・・。)
カネッド(凄いっしょ!)
ダリネム(何時でも何処でも対話が可能だし。)
    ・・・各々との連絡はこの通り、念話を使う事にした。特にオルドラにも効果があった事
   には驚いたが。それだけ、心中が善心である証拠だな。一応、バリアとシールドの防御機構も
   施してある。
オルドラ(それよりも・・・この気配や雰囲気、お前さん達から伝わるものだな・・・。)
エメリナ(小父様も感じられますか。私達も以前は、不可思議としか思えませんでした。しかし、
     どうやら個々人が感じる一念を共有する事で伝わるらしいですね。)
オルドラ(なるほどな・・・。)
ミスターT(地球では常套手段の1つなんだがね。)
   5大宇宙種族が常套手段となる念話の力、それに今も圧倒されている妹達とオルドラ。俺達も
   この力を初めて知った時は驚愕したが、今では常用するほどにまで至っている。
オルドラ(・・・よくぞまあ、これだけの力を常に発揮できるものだ。そこには、善悪の力を感じる
     事だろう。胸中の一念を平常に保つのは、相当厳しいと思うが・・・。)
ミスターT(んー・・・特に意識した事はないんだがの。)
エリシェ(確かに。何時の間にか常用していましたからね。)
ラフィナ(警護者特有の、殺伐とした生き様の賜物でしょうか。)
   実に不思議である。オルドラが語るそれは一理ある。いや、そう思うのが普通だろうな。考え
   られるとすれば、異世界の殺伐とした様相が、地球の殺伐とした様相より弱いという事か。

ミスターT(この異世界では、過去にどの様な戦争や紛争があったかは分からない。地球でも、過去
      に世界大戦があったりした。恐らくだが、規模的なものや、その内容により、心構えが
      あるかどうかになるんだろうな。)
オルドラ(俺達の世界の方が、まだ残酷な戦争には至っていないという事、か。)
アクリス(一応ですが、過去に魔大戦などの、全ての種族を巻き込んだ戦いもありましたけど。)
ラフィナ(魔大戦・・・世界から魔法・・・むぐっ?!)
エリシェ(はぁ・・・。)
    何ともまあ・・・。真面目な会話の最中、ラフィナが“魔大戦”の語句から、某ゲームの
   オープニングを語り始めた。それを口を抑えて押し留めるエリシェ。ヲタク気質は健在だわ。
ミスターT(ま・・まあ何だ、その世界での順応力とも言うべきだな。)
オルドラ(・・・一応、了解した。)
   これ、彼の近場で2人のボケとツッコミが行われたのだろう。言動からして、呆気に取られて
   いるのが伝わってくる。何とも・・・。
ミツキT(まあ、念話は非常時以外は用いないようにしましょう。相手に察知される事は皆無だと
     思いますが、小父様みたいに1人でブツブツ独り言を言う様な事態にならないように。)
アクリス(端から見たら、正に変人ですからね。)
ミスターT(ふん、言ってろ。)
   念話は度が過ぎると、独り言を言っている様に見える場合がある。特に俺の場合、その度合い
   が凄まじい。以前アクリスに、ニヤニヤしながら見つめられていた事があったしな・・・。

    雑談をしつつ、冒険者ギルドへと戻る俺達。久方振りの登場に、店内のギルド職員達が沸き
   上がる。工業都市の同ギルドから情報は得ているようだが、実際に再会するとでは異なる感じ
   である。と同時に、嫌な情報も入ってきた。


    あの後、偽勇者共が姿を消し、街中に平穏さを取り戻したのは良かったらしい。しかし、
   今度は王城が臨時の徴収を行いだしたようだ。特に目立つのが、傭兵の雇い入れである。

    この行動の深い意図は読めないのだが、唯一考えられるとすれば、それは戦争しかない。
   問題は、その矛先を何処に向けるのか、という事だ。魔王軍だけなら、冒険者達だけでも十分
   何とかなる。

    それに、あの女性魔王の気質からすれば、世界を破滅に導くような存在でもない。それ以外
   に目的があるのが痛感できた。俺をこの異世界惑星に召喚したのなら、直接自分の元に送る
   のが筋である。

    どうやら、本当に混沌とした様相になって来ているようだわ・・・。

    後半へと続く。

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