アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝8
〜覆面の探索者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝8 〜覆面の探索者〜
    〜第1部・第8話 魔王と愚者と3〜
カースデビル「高等魔術を使う者・・・。」
黒ローブ1「だ・・誰だ貴様はっ!」
魔王「下郎共が、図々しいにも程があるな。」
    何ともまあ・・・。初対面時では悪役まっしぐらだった魔王だったが、今は相手の様相に
   相当ご立腹の様子である。同時に、絶対悪でない事を再度認識できた。かつてのヘシュナと
   同様、悪役を演じているに過ぎないと。
ミスターT「さて、愚物共にご質問。こちらのお美しいお嬢様は誰でしょうかね?」
偽勇者「ふんっ、貴様が呼び寄せた悪魔だろうが、何を偉そうに。」
カネッド「ふふり、怖じてるねぇ〜。」
ダリネム「見事ですよねぇ〜。」
   ニヤケ顔のカネッドとダリネムの茶化しが冴え渡る。見事なまでのものだ。

    当然であろう。この魔王の魔力は、半端ではない領域の力だ。それなりの魔術に精通して
   いる黒ローブ共やカースデビルは、その様相に相当怖気付いている。唯一感知できていない
   のが偽勇者共だろう。先程、エメリナ達が呆れ顔になっていたのは、この比較に対してだ。

    工業都市での対峙では、敵味方に分かれてのものだった。しかし今の魔王は、確実に善側に
   なっている。中立ではなく、完全に善側だ。その魔王たる堂々とした姿に、変な憧れを抱かず
   にはいられないわ。

    そして、一切の容赦をしない存在だと痛感させられた。“左手”を前に掲げると、そこから
   繰り出される魔力の波動を容赦なく相手に当てていくのだ。エメリナ達さえ怯んだその力は、
   低俗の愚物共には超絶的に有効である。動けず仕舞いになるのは言うまでもない。

カースデビル「な・・・何という魔力だ・・・。」
エメリナ「このぐらいで怯むとは話にならないが。」
魔王「フッ、そうだな。」
    その威力を身を以て体感したエメリナ。彼女が言い放った言葉に小さく笑う魔王である。
   それ相応の実力を持っている事を、改めて思い知った感じである。しかも彼女は“左手”だ。
ミスターT「んー・・・どうするね、このまま継続するか?」
カースデビル「・・・我を舐めて貰っては困る・・・。」
   魔力の渦を喰らい、動けず仕舞いの愚物共。その連中に継戦するかと尋ねると、一際闘志を
   燃え上がらせだすカースデビル。魔王の魔力の渦を掻き消すかのような、凄まじい魔力を放出
   しだした。
魔王「ほむ、それなりの実力者か。」
カースデビル「・・・消え失せろ・・・。」
   放った魔力を身体に纏い、そのままこちらに突進してくるカースデビル。

    本来ならば、魔王とカースデビルの戦いには介入しない方が良いだろう。しかし、彼女の
   役割からして、“それが利く”事は感じ取れた。そこで、あの力を付与してみた。

    魔力を込めた右手を、魔王へと放つカースデビル。それが彼女の顔に当たる寸前、見えない
   壁に阻まれて無効化される。そう、バリアとシールドの防御機構が効果を発揮したのだ。

カースデビル「何だと・・・。」
ミスターT「“仮面の魔物の加護”だ。愚物には分からない領域の力よ。」
魔王「・・・そうだな。それに、貴様の業物など話にならぬ。」
    今度は“右手”に魔力の渦を込めだし、それを目の前のカースデビルに放つ。腹部に受けた
   パンチは、相手を吹き飛ばすには申し分ない威力を誇っていた。

    魔王のジャブを喰らい、後ろへと吹き飛ばされるカースデビル。その後ろには偽勇者共が
   おり、吹き飛ばされた巨体が激突し共に倒れ込んだ。体格差により、押し潰される形の様相
   である。

黒ローブ1「お・・・おのれ・・・。」
魔王「何だ、この程度の輩か。話にならんな。」
    この美丈夫の腕力からすれば、魔力の渦が加算されなければ、相手をここまで吹き飛ばす
   事はできなかっただろう。それだけ、彼女の魔力が凄まじい証拠である。黒ローブ共が驚愕
   している姿が何とも言えない。
ミスターT「あー・・・どうする、継戦するか? 悪いが、次の攻撃からは容赦しないが。」
黒ローブ1「ぐっ・・・全軍撤退せよ!」
   呆れ顔の俺達を前に、致し方がない感じで撤退を決意する黒ローブ共。ゾンビやスケルトンの
   軍団が落胆しているのが分かるが、今は致し方がないだろう。と言うか、不死の存在でも落胆
   する姿に驚くしかない。

    そんな中、吹き飛ばされていた偽勇者が起き上がる。カースデビルの方は、結構なダメージ
   を受けたようだ。魔力が込められた拳は相当効果があった様子である。

偽勇者「貴様等・・・。」
魔王「ほむ、まだ戦うというのか。その気迫だけは褒めてやろう。」
偽勇者「この場で・・・皆殺しにしてやる・・・。」
ミスターT「これはもう、勇者とは言えない愚物だな・・・。」
    禍々しい剣をこちらに向け、そのまま突撃をしてくる。それに釣られて、撤退状態だった
   ゾンビやスケルトンも追随しだした。この状態は正当防衛が成り立つと思ったのか、妹達が
   残党掃討として対処しだしている。

    偽勇者の方は、魔王と俺の方に肉薄し、猛攻を加えだした。流石は魔王と表する事はあり、
   相手の攻撃を全て紙一重で回避している。と言うか、彼女の実力はこんなものじゃないが。

    そこで、魔王に予備武器の隕石方天戟を投げ渡す。扱えるかどうかは不明だが、丸腰よりは
   いいだろう。受け取った獲物で防戦を開始する魔王。

    こちらも左手のマデュース改を地面に突き刺し、携帯方天戟を展開。通常攻撃と題して、
   彼女に加勢する形を取った。

偽勇者「おのれ・・・貴様、魔族に加担するのか!」
ミスターT「それだが、お前さんには全ての存在が魔族に見えるんじゃないか? 悪いが、彼女は
      魔族じゃない。」
    一応はやり手の剣士だけはあり、その猛攻はなかなかの威力を誇っている。しかし、相手は
   慣れない獲物で迎撃する魔王に、様子見状態の俺である。向こうは激昂状態により、一応本気
   を出していると思っている様子だが、それでは本当の力は出せないだろう。
偽勇者「相手が誰であろうが・・・俺の邪魔をする奴は全て敵だ!」
魔王「・・・どうしようもない愚物だな。」
   いい加減、呆れた様子の魔王。隕石方天戟を上手く使い、相手の武器を弾き返す。そこに俺の
   一撃を加え、相手の獲物を吹き飛ばした。阿吽の呼吸とは正にこの事だろう。

    丸腰となった偽勇者だが、容赦ない攻撃が放たれる。隕石方天戟による一撃は、相手の両腕
   と両脚を貫き、絶叫的な悲鳴を挙げさせる。致命傷にはなっていないが、偽勇者にとっては
   相当な一撃になったのだろう。

    瀕死に近くなった相手に、今度は致死的な一撃を放って見せた。携帯方天戟を使った突き
   攻撃を偽勇者の喉元に突き刺さらない程度に当てる。一歩間違えば、喉元を貫いただろう。
   その致命的な一撃に恐怖の表情を浮かべている。

ミスターT「・・・いい加減に消えろ。貴様の存在は、全てにおいて害でしかない。ここで去るか、
      この場で殺されるか、どちらかを選ぶんだな・・・。」
魔王「・・・御仁は我より慈悲深い。殺されないだけ、有難く思え。」
    十八番の殺気と闘気の心当てを放ちつつ、偽勇者に退き際を持たせてみた。ここまで追い
   込まれても退かない場合は、ここで始末する方が良いだろう。相手の小心者たる心を利用する
   形にした。

    超劣勢に追い込まれ、致命傷を受けた偽勇者。流石に分が悪いと思ったようで、這いつく
   ばりながら去って行く。しかし、最後まで抵抗を見せた部分は賞賛に値するだろうな。

    ゾンビとスケルトン部隊は既に壊滅させられており、残ったのはならず者と傭兵軍団のみ。
   傷付いた偽勇者とカースデビルを仲間共や黒ローブ共が支え、移動魔法により去って行く。
   見て思ったが、どうやら転送装置ではないようで、別に編み出された魔法的業物だろう。


    連中が去って行くと、後方で雄叫びが聞こえだす。そちらを窺うと、戦闘の一部始終を見て
   いた冒険者達・自警団・騎士団である。避難誘導を終えた後、こちらに加勢に来たようだ。

    と言うか、大問題が残った形か。それは、黒ローブ共が現れたのが、王城だったからだ。
   今もスミエが現地で潜入捜査中だが、黒ローブ共がそこにいたのが大問題である。それに間違
   いなく、冒険者ギルドや自警団・騎士団は、この件に関して首を突っ込まないだろう。

    雄叫びを挙げるのは冒険者達や各団員であり、上層部の面々ではない。これは内部改革を
   行わないと、国自体が滅びかねないわ。どうしたものか・・・。



    諸々の後始末を終えて、冒険者ギルドへと戻る俺達。何と、今回の襲撃事変の臨時報酬が
   しっかり支払われる事になったという。それに大喜びする妹達。俺の方は遣る瀬無い感じだ。
   それよりも、喫緊の問題が山積みだ。しかも、その問題が目の前に2つほど存在している。

    1つは、この大都会の中枢である王城。一切の沈黙を守っているが、ここが諸悪の根源で
   あるのは明白である。スミエが裏より現状を報告してくれているのが証拠だ。今後、どの様な
   行動を取ってくるか警視しなければならない。

    もう1つの方は、目の前にいる人物となる・・・。

ヘシュナ「ほむ、デュネセア一族の遠縁の方でしたか。」
魔王「まさかこの地で、諸先輩方にお会いする事になるとは思いませんでした・・・。」
    そう、魔王たるこの女性である。しかし、その素性を見事に見抜いたヘシュナ。どうやら
   彼女は、デュヴィジェと同じデュネセア一族らしい。魔王たる威厳は何処へやら、ヘシュナに
   恐縮気味の姿が何とも言えない。

    ちなみに、長年の王城の捏造による、魔王カースデビルの方が認知度は高い。この女性魔王
   の事は一切知らないようである。こちらの方が真の魔王たる存在なのだが、実に遣る瀬無い
   感じだわ。

魔王「貴殿と初対峙した時、特殊な力を察知しました。それが我々のテクノロジーであったと見抜け
   なかったのは、弱体化した証拠でしたね。」
ミスターT「んー・・・お前さんが敵役で君臨していたから、仕方がなかったとは思うが。ここに
      同じ事を経験した実例がいるし。」
    一服しながら、ヘシュナの顔を見入る。それに苦笑いを浮かべてきた。彼女が悪役を担った
   時と全く同じ様相だったからだ。
エリシェ「一時的に悪心を抱くと、灯台下暗し状態に至りますからね。貴方様は長い間、その役割を
     担っておいでのようでしたし。」
ミスターT「と言うか、お前さんの名前を伺っていなかったな、申し訳ない。」
   敵対状態では、その機会を設けられなかったのも事実。改めて、各々の自己紹介を行った。
   もはや俺達の通例的な挨拶である。

    女性魔王の名はイザリア、デュネセア一族の下っ端との事だ。デュヴィジェや彼女の5人の
   娘達が王族的存在なので、その彼女達の同族という形になる。下っ端であろうが、実力は相当
   なものなのは、彼女の魔力の渦を見れば十分肯ける。

    そして、何と大魔王は彼女の姉イザデラと言うらしい。更に驚いたのが、オルドラの娘が
   2人の妹だったのだ。名前はイザネアとの事である。

ミスターT「はぁ・・・。」
エリシェ「アハハッ・・・何ともまあ。」
    どうしようもないぐらいに脱力気味になる。魔王ことイザリアが宇宙種族だとは、あの軽い
   頭叩きで感じていたのだが、大魔王やオルドラの娘と繋がりがあったとは驚くしかない。
イザリア「我々・・・いえ、私達がこの地に到来したのは、今から数万年前の事でして・・・。人気
     がない場で細々と暮らしていましたが、ある時大災害が起こりまして・・・。」
ヘシュナ「それらを鎮火させるために尽力されていた訳ですね。そして、全てが終わった時には、
     何故か魔王として君臨していたと。」
イザリア「はい・・・。今の世上は、余りにも混沌としています。私達がその様相を正し、安穏の
     世上に導ければ・・・。烏滸がましいのですが、宇宙種族としての使命ですし・・・。」
   魔王としてではなく、イザリアとして心の扉を開いている状態。その彼女の内情を察知する
   のは、ヘシュナにとって容易であるようだ。その行ってきた歴史に、即座に補足をしている。
ミスターT「あー・・・帰っていいか?」
エメリナ「何を仰るのですか。ここまで尽力されてきたイザリア様方を、放ってはおけませんよ。」
アクリス「これはもう、この世界に住む我々の問題でもあります。かつて起こったとされる、大災害
     を鎮圧してくれたのがイザリア様方。そして、今は魔王と呼ばれるも、世の中を正そうと
     尽力されている。」
テューシャ「魔王と言う位置付けは問題がありますが、それは総称的なものですからね。魔王が勇者
      と呼ばれたり、勇者が魔王と呼ばれる事もありますし。」
   吐き捨てるように語るテューシャに、一同して頷くしかなかった。その実例が偽勇者である。
   アレは今となっては、完全に魔王そのものだ。

イザリア「本当に申し訳ありませんでした・・・。遥か遠方の、同族かそれに近い存在を召喚しよう
     としましたが、貴方様をこの地に呼ぶ事になってしまったようで・・・。」
ミスターT「それは良いんだが・・・何かこう、遣る瀬無いのよね・・・。」
    今はとにかくそう思うしかない。推測の域であった事が現実となった事で、ある意味での
   安心感による疲労度の出現だろう。気張っていたのが、すっ飛んだ感じである。
ヘシュナ「これも推測ですが、恐らくマスターが黒いモヤ事変で放ったアレでしょう。」
ミスターT「ああ、イザリアさんが俺を召喚するに至ったのは、それを察知して呼んだ、だな。」
イザリア「私達の方も気付きました。あれ程の超大な存在を、簡単に消滅させたのですから。」
ミスターT「まあアレは、カルテット・キャノンあってこそなんだがね・・・。」
   あの魔王たるイザリアが、憧れの目線で見つめてくる。それは、黒いモヤ事変を攻略した事
   へのものだろう。ただし、当時は俺1人だけでは対処はできなかった。

    カルテット・キャノン。それは、ルビナ・ヘシュナ・デュヴィジェ・ミツキTによる、俺の
   殺気と闘気の心当てを増幅させる装置的なものだった。俺1人だけでは、あの黒いモヤを消滅
   させるには不可能だ。

    それに、各宇宙船や宇宙戦艦群を用いねば、天の川銀河を超える黒いモヤを消す事など無理
   である。全ての要因を集めなければ、あの事変を攻略する事はできなかったのだから。

カネッド「何か・・・とんでもない事をされてたのですね・・・。」
ミスターT「何とも・・・。」
    魔王イザリアすらも感嘆とする様相に、妹達は絶句し続けている。身内の面々ですら、少し
   前の出来事だったため、改めて当時の様相を知って驚いているぐらいだしな。
ミスターT「まあ何だ、ここに呼ばれたのも意味があるし、今後もイザリアさん達の矛と盾になり
      続けるわ。」
エリシェ「正に矛盾という事で。」
ミスターT「ふん、言ってろ、じゃじゃ馬娘め。」
   極度にストレスが溜まりそうになると、俺と同じく一服するクセがあるエリシェ。その彼女が
   俺にボヤきを入れてきた。傍らにいたため、その頭を軽くどつくと悲鳴を挙げてくる。
イザリア「あの・・・私達は今まで通りに動けばよろしいですか?」
ヘシュナ「その方が良いでしょう。真の巨悪は、あの愚物共になりますし。貴方は今まで通り、魔王
     として行動し続けて下さい。」
イザリア「了解致しました。」
   あの魔王の威厳は何処へやら、すっかり淑女的な感じのイザリアである。これはこれで可愛い
   のだが・・・。
エリシェ「へぇ・・・またエロ目ですか・・・。」
ミスターT「はぁ・・・勘弁してくれ・・・。」
   今思った内情を見透かされ、周りの女性陣から殺気に満ちた目線で睨まれる。身内は無論、
   妹達からも睨まれた。俺の一挙手一投足全てに反応しだしているようである・・・。しかし、
   イザリアの方は人として扱われた事に感謝している様子だ。


    しかしまあ・・・とんでもない感じになってきたわ・・・。

    先にも挙げたが、イザリア達が身内と同じく宇宙種族であった事。しかも、デュヴィジェの
   家系、デュネセア一族であった事。実質的に、異世界惑星を救った勇者であった事。そして、
   超絶的な力を持つ人物を召喚しようとしたのは、先の黒いモヤ事変が発端であった事だ。

    あの漠然と発生した黒いモヤ事変が、まさかイザリア達の目に留まり、異世界惑星を救う
   ために俺を呼び寄せるようになるとは。ただ、彼女の言い分だと、この地を救う人物は、同族
   なら誰でも良かったらしいが。

    それでも、俺がこの地に呼ばれたのは、それだけ使命があったからだな。でなければ、相応
   の力を持つデュヴィジェやヘシュナが呼ばれたであろう。実に不思議な縁である。



    大都会事変から翌日。再び日常が戻りだしたが、嫌な予感がしてならない。王城側の黙りが
   余りにも不気味過ぎるのだ。それに、今後の様相を踏まえると、確実に出るであろう行動が
   脳裏を過ぎりだす。

エメリナ「地位的な身分の剥奪、ですか。」
ミスターT「はぁ・・・心中読みやめれ・・・。」
    物思いに耽りつつ、色々と思考を巡らす。すると、傍らで紅茶を啜るエメリナがボヤいた。
   どうやら、心中を読んだみたいである。
エメリナ「心中読みも何も、あの軍団の様相からして、次の流れは大体読めますよ。」
ミスターT「何とも・・・。まあともあれ、考えられるのはそれだろう。」
フューリス「啓示は神懸かり的な出来事ですが、それを覆す事はできますかね・・・。」
ミスターT「それが権力者よ。連中は、己の地位や優位性が覆そうになると、ありとあらゆる手段を
      投じて潰しに掛かる。昔から全く変わらない悪党の常套手段だ。」
   吐き捨てるようにボヤく。権力者の横暴は、何時の時代も全く変わらない。特にこの大都会の
   規模を踏まえると、それ相応の横槍は十分予想ができる。
テューシャ「もしかして、貴方がランクなどに縛られないのは・・・。」
ミスターT「上辺の要らぬ力を持たぬためよ。」
エメリナ「なるほど、そうだったのですか・・・。」
   今になって、俺が冒険者ランクを気にしない一念を察知した3人。普通の冒険者なら、これら
   実力たるランク制度は、失われると相当なダメージを蒙るらしい。社会的身分を失うと言う
   方が正しいだろう。

ミスターT「とりあえず、身内の再配置は済ませてある。ネルビアさん達は近辺警護に回って貰って
      いるが、後で呼ぶ事になるだろうし。」
フューリス「となると、私達は貴方と行動をした方がよさそうですね。」
ミスターT「その方が安全だろうな。」
    今現在、危険なのは妹達だろう。特にエメリナ・フューリス・テューシャは、王城から啓示
   を受けている。一番素性が割れているしな。ネルビア達は冒険者の位置付けだが、先の大都会
   事変で顔が割れた。身内に関しては、全く以て論外なので問題はない。
テューシャ「イザリア様は魔王に戻られたので?」
ミスターT「魔王は異名に過ぎんしな。元に戻って貰って、義賊たる魔物達と共に行動をして貰って
      いるよ。向こうは問題ないだろう。」
   絶対悪でなかったイザリア達は、今は中立的な立場で動いて貰っている。つまり、魔王の大役
   を担っていると。

    それに、彼女達は宇宙種族の力により、魔物達から毒気を抜く力も持っているようだ。魔物
   特有の凶暴性を取り除き、本来の動物的野生能力を引き出す事である。魔物だろうが、動物に
   変わりはない。その彼女達は、言わば義賊そのものだろう。

    また、形なりに魔王討伐は行わなければならないため、何れ彼女達の居城に赴く事になる。
   その時はエリシェ達が考えたプランを実行するとの事だ。何処に来ても、バリバリの策士を
   演じる姿は見事だわ。

エメリナ「何だか凄いですよね。言い方は悪いですが、魔王達を手懐けてしまうのは。」
ミスターT「元から絶対悪じゃないからねぇ。それに、宇宙種族の概念が、悪の存在を絶対に許す
      事がないしな。先日会ったと思うが、ヘシュナさんがその体現者よ。」
    ヘシュナとの初対面時は最悪の出逢いだった。敵味方に分かれていたため、その姿はあの
   魔王の比ではない。それだけ、悪役を徹底して演じ切っていたのだ。
ミスターT「今のこの世界を見て、一番怒りを覚えているのが彼女だしな。まあそれだけ、身内の
      中で誰よりも優しいんだがね。」
エメリナ「フフッ、貴方がそこまで仰られるのですから、そうなのでしょうね。」
ミスターT「はぁ・・・気苦労が耐えないわ・・・。」
   小さく笑う3人を見ると、俺の方は安堵感からか気怠さが増してくる。今の所、この3人は
   勇者の啓示を受けた存在だ。その心構えは並々ならぬものだろう。となると、その言わば心の
   支えが無くなった時が危険だろうか。ここは、何か別の支えを作った方が良いかも知れない。


    ちなみに、今は大都会の酒場に駐留している。態と飲兵衛を演じている感じだ。その理由は
   複数あるが、一番の意味合いは王城に詳細な情報が漏れないようにする事だろう。

    正直、各冒険者ギルド・自警団・騎士団は信用に値しない。冒険者達や各団員はそこそこ
   信用はできるが、大元と繋がりがあるため油断は禁物である。偽勇者共を野放しにするのだ、
   裏で相当な賄賂を受け取っているに違いない。

    となれば、次の王城の出方次第では、俺達は独立戦闘部隊として動き出すしかない。これは
   地球でも用いてきたものなので、全く以て問題はないが。唯一の懸念材料は妹達だろうか。
   まあ、いざとなったら俺達だけで動くしかない。実質的には最強の力を持つも、その力を出す
   事が許されない状況だしな。

    デュヴィジェ達が良く愛読するマンガ群、最初から最強状態で進む作品だ。アレが脳裏を
   過ぎった。俺達の場合は、常にその状態が働いているため、逆に手加減をしなければならない
   のが難点だ。

    警護者故の、調停者と裁定者の役割。今はこの異世界惑星でも、その役目が必要である。

    第9話へ続く。

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