アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第1話 創生者の願い事3〜
ティルネア「ミスターT様、この3つの力だけでよろしいのですか?」
ミスターT「“力を持ち過ぎる者は全てを壊す”恐れがあるしな。このぐらいで良いと思う。ただ、
      一応の“監視役”が追随してくれると有難いが・・・。」

    ダメ元で挙げてみた。ここまで至れり尽せりの様相を踏まえれば、与えられた力の監視役が
   欲しい。つまり、創生者ティルネアに同伴を願い出るものだ。

    ちなみに彼女自身、確かに生命体ではあるが、精神体に属する存在となるとの事だ。肉体を
   持たないため、姿を消したりできるらしい。同伴してくれる場合は、非常に心強いが・・・。

    それに、彼女が少々“抜けている”部分を踏まえると、俺の方が監視役にならねばならない
   かも知れない。彼女には悪いが、今後の異世界事情を踏まえると重要だろう・・・。

ティルネア「・・・分かりました。本来ならば、貴方だけで挑んで欲しいのですが・・・、かなりの
      無理難題を提示してしまいましたからね・・・。」
ミスターT「すまない。無論、常に姿を消して貰っていて構わない。さり気無く監視をしてくれれば
      いい。」
ティルネア「監視と仰いますが・・・貴方には必要ないと思われますが・・・。」

    僅か短期間で、こちらの内情を察知してくれたのだろう。疑いの余地がないといった雰囲気
   を醸し出している。出逢い頭に誠実な対応をした効果が発揮されたと思う。

    無論、それらを期待してのものではない。何度も挙げるが、警護者自体、初対面の相手には
   誠実な対応が必須である。依頼を確実に遂行するためである。

ミスターT「何処までやれるかは分からないが、請け負ったからには最後まで貫き通す。創生者たる
      貴方の顔に泥を塗る真似は絶対にしないよ。」
ティルネア「あ・・ありがとうございます・・・感謝します・・・。」

    何度となく深々と頭を下げる彼女。その彼女の頭を無意識に撫でてしまった。俺が良く行う
   行動であり、流石に創生者に対しては失礼だったかも知れない・・・。

    だが、一瞬呆然とするも、その意図を察知してくれたのか笑顔を浮かべてくれた。年代的に
   相当な年齢差があると思われるが、そう言った概念は必要ない。

    烏滸がましい限りだが、目の前の人物に対する、対等とも言える生命体同士のやり取りだ。
   人間だろうが創生者だろうが関係ないわな。



ミスターT「あ、悪い。1つ訊き忘れたのだが、飛ばされた時から時間の経過は発生するのか?」
ティルネア「いえ、完全に分離した形になります。また、貴方の寿命と言える時間の経過自体も、
      停止させて頂きました。」
ミスターT「おー、超心強いわー。」

    棒読みで皮肉を込めて言うと、小さく笑う彼女である。恐らく、こちらの内情を読んでいる
   と思われるが、地球との時間差がなければ実に幸いだ。つまり、異世界での警護者任務に全力
   投球する事ができる。

    と言うか、時間停止とか異常としか言い様がないが、ここは無粋な考えだろうな。彼女が
   望むのは、自身が持ち得ない力に対しての遂行者である。それが俺であったという事だ。

    ならば、警護者としての生き様を通し、彼女の遂行者として行動するのみである。


    ちなみに現地言語に関しては、“自動翻訳能力”を追加してくれた。更に、相手や物品に
   関する情報を得るための“任意鑑定能力”もだ。

    これだけでも相当な力になるのだが、異世界からすれば俺の方が異世界人である。ここは、
   この力の恩恵に与るしかない。向こうに赴くも、肝心のコミュニケーションが取れなければ
   本末転倒だ。

    3つだけの能力追加と挙げたが、実際には5つの能力追加となってしまった。更には個人に
   発現されるスキルを合わせれば、実に6つの能力である。ティルネアの寛大な処置には、ただ
   脱帽である。


    その後も、時間が許す限り打ち合わせを行った。ティルネアからすれば、直ぐにでも遂行者
   として活動して欲しいと思う所だろう。しかし、準備を整えない状態での到来は、非常に危険
   となる。

    幸いにも、先にも挙がった通り、時間は十分ある。召喚される先の異世界の情報を、創生者
   たる彼女から何度も伺い続けた。彼女の方も、俺自身が納得するまで付き合ってくれている。

    しかしまあ・・・異世界への転移召喚か・・・。普通に考えれば、この白い空間に到来した
   時に大混乱しただろう。それが落ち着いていられたのは、やはり身内の各ネタ話が免疫力と
   なったのだろうな。

    当時は突拍子もなく放たれるネタに、ただ呆れて聞いていた。だが、今はそれらが超絶的に
   役立ってくれているのだから、実に皮肉な話である。


    ティルネアから挙げられた、遂行者を担って欲しいという願い事。理路整然と解釈する事は
   できない様相だが、今は信じ切るしかない。

    彼女が持つ力は本物だ。それに実際に与った事により、確信的だと思い至った。ここに来て
   まで疑いを持つのは、彼女に対して実に失礼である。

    それに、彼女の儚げな姿は、過去に同じ出来事を彷彿とさせてくる。それが何なのかは不明
   なのだが、彼女を助けるべきであると本能的に訴えてくる。

    我ながら思うが、俺は苦労のしっ放しだわ。それでも、目の前の存在を守り切れるのなら、
   俺の存在は無駄ではない。

    ともあれ、今は臨時の創生者という遂行者を担うのみである。



ミスターT「よし、得られる基礎情報は持った。そろそろ行くとするかの。」
ティルネア「はい・・・。」

    ほぼ準備万端となり、後は異世界へと赴くのみとなる。そんな決意を抱いていると、俺を
   不思議そうに見つめる彼女。時間が経てば経つほど、その表情は強くなっている。

ミスターT「・・・力を持った俺を、信用できなくなったか?」
ティルネア「い・・いえ・・・そんな事はありません・・・。ですが・・・。」

    言葉では否定してくるが、雰囲気が疑いの一念を放っている。もし俺が右往左往する存在
   だったのなら、創生者たるティルネアが主導権を握ったのだろう。だが実際には、その真逆
   となっている。

    前にも挙げたが、ここまで落ち着いているのは、最早職業病である。警護者の世界では、
   右往左往をした瞬間に即死する恐れが出てくる。常に冷静沈着でいなければ、とてもではない
   が任務遂行には至らない。

ミスターT「大丈夫よ、そのための貴方の同伴だ。もし俺が信用に足らぬ行動をした場合、殺して
      貰って構わない。」
ティルネア「そ・・そんな! その様な事は決して致しません!」
ミスターT「フッ・・・ならば、貴方の顔に泥を塗る真似はしないように心懸けねばな。」

    そう言いつつ、再び彼女の頭を優しく撫でてしまう。こうなれば最早、目の前の創生者は
   何処にでもいる普通の女性そのものだ。下手な肩書きなどに一切囚われず、一個人として見る
   べきである。

    ともあれ、これで準備は整った。後はティルネアが望む異世界へ赴くのみだ。


    そんな俺の心情を察知した彼女が、徐に俺の両手に触れて来る。そのまま胸の前に合わせ、
   静かに瞳を閉じた。

    すると、彼女の身体が眩いまでに発光しだす。しかし、それは目を背けなければならない
   程の閃光ではなかった。何処までも実に優しい、暖か味に溢れた光である。

    ただ、事の顛末を見守るのも野暮ったいのかも知れず、ここは彼女と同じく瞳を閉じた。



    どのぐらい時間が経過しただろうか。徐に瞳を開けると、見知らぬ平原に棒立ちしていた。
   微風が非常に心地良い。しかし、何処か殺伐とした雰囲気を醸し出している。

    そう、明らかに地球ではないのが理解できた。殺伐とした雰囲気は、その平原に異形の魔物
   が根付いている証拠だと直感ができる。

    即座に腰に手を回し、格納されている武器を展開した。先日、身内が試作品として提供して
   くれた、携帯方天戟なる獲物だ。ゲームを題材とした槍状の戟である。

    獲物を構えつつ、周辺の様子を探る。一瞬の油断が命取りになるのは言うまでもない。


ミスターT「・・・姿は見えないが、ティルネアは近くにいるのか?」
ティルネア(はい。こちらの世界では、私の姿は“一部を除き”見えなくなるみたいです。)

    そう言うと、俺の背後に彼女が現れる。先程までの完全体ではなく、半透明の身体だった。
   その姿に一瞬驚くが、神的存在の創生者なら可能であろうと苦笑してしまう。

    近場に彼女が居るのを確認し、再度携帯方天戟を構え直す。恐ろしいまでに、直感と洞察力
   が訴え掛けて来ている。しかしそこには、魔物と思われる存在は見て取れなかった。

ミスターT「・・・敵が居ると思ったが、気のせいだったか・・・。」
ティルネア(恐らく、死した魔物の残滓を感じ取られたのでしょう。)
ミスターT「なるほど、霊魂的な感じか。」

    流石の俺の獲物でも、魔法的な概念には対処できない。非常に不安は残るが、再び獲物を
   縮小させて腰に戻す。挙がった魔物の残滓が霊魂的な存在なら、回復魔法を魔力で放った方が
   効率がいい。

    ゲーム感覚的な感じだが、それらが十全に通用する世界に到来しているのだ。そう思うと、
   不謹慎ながら興奮してしまう。


ミスターT「・・・とりあえず、先ずは情報収集と資金確保、だな。」
ティルネア(転移先ですが、街の近くだと問題があると思い、遠方へと飛ばさせて頂きました。)
ミスターT「ああ、ありがとな。」

    正に英断、流石は創生者だわ。彼女は無論、俺は異世界人そのものだ。見慣れない格好の
   覆面と“仮面”を装着した人物が、突然街中に現れたら大変である。

    それらを鑑みて、彼女は人知れない平原へと転移させてくれた。ただし、同時にここから
   街への距離は結構あるようで、彼女の表情が若干焦っているのを感じ取れた。

    まあ、先の街中への到来よりかは遥かにマシである。街へ赴く際に、己の力を確認するには
   打って付けだろう。再び腰の携帯方天戟を展開し、静かに肩に担いだ。

ティルネア(面白い武器を使われるのですね。)
ミスターT「あー、これか。身内が製造してくれた、ゲームの中の獲物の1つよ。他にも1つ持って
      いるが、俺はこっちの方が性に合う。」

    そう言いつつ、肩にあるそれを指し示す。肩に担ぐ携帯方天戟以外に、格納式の携帯十字戟
   も持参している。こちらは背中に格納しており、背後からの攻撃を軽減させる役目も担って
   くれている。

    警護者の獲物は、大体が重火器が多い。致死性が強い獲物の方が、断然有利に運べるしな。
   何故この2つの獲物を持っていたのかだが、ティルネアにここに召喚される前、近接戦闘武器
   の試験運用を行っていた。それがこの2つの格納兵装である。

    通常の日本刀と仕込み刀との明確な差がある様に、携帯兵装は従来の獲物より強度と耐久度
   の面からして脆弱ではある。そこは身内の腕の見せ所か、相当な強度と耐久度を誇る逸品と
   なったようだ。

    異世界転移にて、その実力を窺う事になるとは。これも実に皮肉としか言い様がない。


    ちなみに、携帯方天戟と携帯十字戟以外に、日本刀を2本持っている。通常の刀以外に、
   太刀と呼ばれる巨大な刀だ。もし仲間が現れるなら、この2本の刀が役立つと思われる。

    斬り付けという分野に特化するなら、日本刀に敵う獲物は存在しない。流石の携帯方天戟と
   携帯十字戟も足元にも及ばないだろう。それでも、俺としては携帯方天戟が一番扱い易い。

    今度、身内にこれらの検証実験を語る必要がある。彼らの方も更なる獲物の製造を狙って
   いるため、良い情報となるだろうな。


    ティルネアとの軽い雑談をしつつ、そこから目に留まった街並みを確認した。結構な距離が
   あるが、道中に遭遇する魔物に期待を抱いている。

    その理由は、俺の戦闘力の確認と、魔物を倒しての素材群の確保だ。これに関しては、身内
   がプレイしていたゲームの情報が役に立った。確か、魔物狩りを主軸とした作品だったか。

    地球の娯楽作品には、本当に脱帽するしかない。フィクション的な作品が数多いが、まさか
   それらの知識や経験が異世界で役に立つとは思いもしなかった。

    そもそも、こうして異世界転移をする事自体、理路整然と解釈できる物事ではない。明らか
   に異常としか言い様がないのだ。


    それに、幾ら魔物であっても生命体には変わりない。その彼らを実験台にするなど、本来は
   あってはならない行為だ。それでも、全ては明確な目標に向けての一歩である。

    もし無害となる魔物なら手出しは無用だ。こちらに有害となる魔物のみ、対応していけば
   いい。降り掛かる火の粉を払うが如く、である。

    創生者ティルネアの願い。理路整然と解釈すれば、理不尽的にも思えるだろう。しかし、
   この異世界が現実であるなら、そこで苦痛や苦悩に苛まれる人物は実在している。

    ならば、彼女の願いを引き受けるしかない。警護者たるもの、一度受けた依頼は絶対に完遂
   させてみせる。



    街へと向かう際、初めて魔物と遭遇した。オオカミにも似たモンスターで、ティルネアが
   言うにはスピードハウンドとの事。任意鑑定能力でも、相手の様相が即座に分かった。

    その名の通り、素速さを活かした機動力がウリらしい。現れた相手の数は5体、機動力の
   問題ではこちらを圧倒している。地球であれば、かなりの驚異的な様相だ。

    しかし突然、物凄く怯えだした。その視線の先を窺うと、俺の背後にいるティルネアを見て
   いる。そう言えば、彼女からとてつもないオーラが発せられていた。

    自然界とも言うべき場を生活圏としている、スピードハウンド達。地球のオオカミ達と同じ
   弱肉強食の理が働いていると思われる。つまり、ティルネアを生命体の頂点だと認識したの
   だろう。恐怖に震え上がるのは言うまでもない。

ミスターT「・・・お前さん、相当な実力者だと再確認したわ・・・。」
ティルネア(そうですか?)

    実にアッケラカンと語る彼女に、苦笑いを浮かべるしかない。この場合、怖じている相手を
   攻撃してよいのかと悩んでしまう。まあ、この考えは異世界では通用しないだろう。

    左手に魔力を込めつつ凝縮させ、それを目の前のスピードハウンドに放つ。黒い球体が相手
   に当たると、物凄い勢いで吹き飛んでいった。ただ、今では致死性はないようである。

    ところが、俺の攻撃を目の当たりにした他のスピードハウンド達は、更に怯えだしている。
   直後、脱兎の如く去って行ってしまった。

ティルネア(そこそこの強さを持つ存在ですが、貴方からすれば雑兵そのものですよ。)
ミスターT「はぁ・・・何とも・・・。」

    憎たらしいほどに自慢気に語ってくる。ティルネアから与えられた力は、どうやら相当な
   力を誇っているようだ。それに先程挙げていた概念がそれである。地球から異世界に到来した
   際の、力の加算が後押ししているようだ。

    この場合、ネズミ算式の比ではない。難しい計算は苦手だが、その俺ですらヤバいと思う
   ぐらいの加算率だと確信が持てた。

    しかし、それに奢ってはならない。俺の基礎戦闘力は地球譲りのもののみだ。他の各力は、
   全て創生者ティルネアが与えてくれたに過ぎない。俺は何も持っていないのだから。


    不意の襲撃を受けた俺達だったが、その後も襲撃を受け続ける。別のスピードハウンドと
   思える固体は無論、初見となるサンダースライムやアーススネークなどなど。

    俺が知る限り、各作品より伺ったモンスター達とは、全く異なる生態系だと思われる。特に
   スライム自体は水属性が無難な所と思われるが、そこに相反する雷属性が追加されていた。

    それでも、一般的な雑魚モンスターの一部に過ぎないようで、軽く一蹴する事ができた。
   無論、それらの相手から得られる素材には大変感謝している。


    それに先程挙げた、魔物であっても生命体故に殺生は控えようという一念。それが無粋な
   ものである事に気が付かされた。殺さなければ殺される、それが当たり前の世界なのだ。

    弱肉強食の理が働く世界ならば、魔物達の力を使わせて貰う以外にない。実に屁理屈染みた
   考え方だが、そうでもしなければ押し潰されそうである。

    ならば最早、一切の慈悲など無用である。冷徹無慈悲なまでに“引き金を引く”だけだ。
   警護者の世界では、慈悲を抱いた瞬間に負ける。容赦ない一撃が求められるからな。


    ともあれ、街に着いてからは情報収集と戦力増強を行わなければならない。そのためには、
   資金群が必要不可欠となる。魔物達を倒した事で得られた各素材は、大変貴重な収入源だ。

    問題は、それらの素材を売却できる場があれば、だが・・・。

    俺の生き様は地獄そのものだわ。それでも、明確な目標を以ての行動だ。躊躇する必要は
   全くない。前に向けて突き進むのみ。

    後半へと続く。

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