アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第1話 創生者の願い事4〜
ミスターT「そう言えば、ティルネアは誕生してから、どのぐらい経過しているんだ?」
ティルネア(大凡・・・1万年以上だと思われます。)
ミスターT「1万年か・・・。」

    魔物の素材を“空間倉庫”に格納しつつ、彼女の境遇に思い浮かべる。

    普通から見れば、1万年以上も生きている事自体に驚愕する。しかし、それを普通に受け
   入れる事ができたのは、やはり身内の各ネタが淵源だろう。つまり、免疫力である。

    後訊きで知ったのだが、この異世界の名前はベイヌディートと呼ばれているらしい。命名者
   はティルネアだが、それを現地住人達に浸透させるのは大変だったとの事だ。

    この定着だが、人間は無論、魔族や獣族など魔物族全てに当てはまる。後者の方が直ぐに
   定着したらしいが、前者の人間側には時間が掛かったとの事である。

    それと、先程“空間倉庫”と挙げたが、素材の格納を鑑みてティルネアが追加してくれた
   “空間倉庫能力”である。俗に言う巨大なアイテムボックス、実に見事だわ。それに空間の
   規模は、ベイヌディートと同規模を倉庫として使えるらしい。何ともまあ・・・。

    超貴重な能力を出し惜しみせず与えてくれる彼女に、ある意味恐怖心を抱かざろう得ない。
   まあ、俺としてはそれらに奢る事はせず、有難く拝受させて頂く限りであるが。


ティルネア(ミスターT様は、地球で生誕されてからは、どのぐらいの時間を?)
ミスターT「地球歴で言うなら、今年28になる。まだまだ28年しか生きていない若造よ。」

    皮肉を込めて言ってみた。それに苦笑いを浮かべる彼女。相手との実年齢差は1万歳で、
   年輩も年輩の超年輩者だ。そして、各知識や能力などを保持している事を窺えば、どれだけの
   努力を積み重ねて来たか想像すらできない。

    その彼女をしても、異世界ベイヌディートでの行動には手を焼いている感じである。そこに
   住まう人物達が、独立した意思を持つ生命体であると痛感させられる。

ティルネア(そんな事はないと思います。貴方の警護者としての生き様を窺えば・・・。)
ミスターT「過大評価に過ぎんよ。警護者は所詮、人殺しに過ぎんしな。」

    己の境遇を鑑みて、痛烈なまでの皮肉を込めてボヤいた。警護者の生き様は、人殺しの繰り
   返しだ。過去に依頼遂行のため、どれだけの人間を屠ってきたか・・・。先の魔物を実験台と
   言った考えの出所は、ここにも由来してくる。

    ただ、唯一救いと思えるのは、相手が悪人や極悪人であったという点だろう。警護者が受け
   持つ依頼は、大体が弱者の立場の人物を守る事が多い。逆を言えば、権力に溺れたカス共には
   一切加担はしない。これは警護者界の共通認識である。

    故に、権力者共からは痛烈なまでに目の仇にされている。それでも、今もこうして無事で
   いられるのは、警護者が超越した存在である“痛烈なまで”の証拠だ。それに、各スポンサー
   自体が強烈過ぎるしな。

ミスターT「実際の所、“引き金を引く”事ができれば、至極簡単に解決する事ができる。」
ティルネア(・・・相手を殺害すると言う事ですか。)
ミスターT「そうなるわな。だが、私利私欲で動く事はない。あくまでも依頼を前提にしている。」

    自己満足と言われたら、それまでだと言わざろう得ない。しかし、好き好んで相手を殺害
   する阿呆はいない。少なくとも俺はそうだと思っている。

    ただし、相手が理不尽・不条理な対応をする存在なら、問答無用で引き金を引くに限る。
   躊躇する事により、更なる災厄をばら撒く事になるからだ。相手を阻止するという意味合いを
   踏まえれば、皮肉なまでの行動としか言い様がない。

    あくまで弱者のための力を振るう、それが警護者の生き様だ。ここは絶対に履き違えては
   ならない概念である。


ミスターT「ティルネアは、今までに“そういった”行動は?」
ティルネア(いえ・・・ありません・・・。ただ、誰かしらの“遂行者”を用いてならば・・・。)
ミスターT「そうか・・・。」

    直接的には手を下さないも、間接的には数多く手を下している、と言う事か。罪悪感が感じ
   られる言い回しだったが、そこに後悔の念は一切感じ取れない。創生者の役割を、徹底的に
   演じているからだろうな。

    今回の俺の転移により、間接的には彼女が手を下した事になる。だとしたら、そこに介入
   する事で彼女の負担を軽くできる。

ミスターT「分かった。お前さんの強い思いは、俺が全て受け持つ。重荷となる存在は、貴方だけ
      には絶対に背負わせない。」
ティルネア(・・・ありがとうございます・・・。)
ミスターT「フッ、お節介焼きの世話焼きだからな。」

    俺の言葉に、涙を流しつつ礼を述べてくる。創生者たるティルネアは、今後も望まぬ行動を
   強いられる。ならば、その彼女を支えてこそ、俺の警護者としての生き様が役に立つ。

    彼女に必要なのは、遂行者ではない。苦楽を共にする相棒である。もし俺以外の人物が召喚
   されていたら、この境地には至らなかっただろうな。

    ティルネアとの巡り逢いは、不思議な縁が巡ったとしか言い様がないわ。



    更に魔物達を倒しつつ、街の方へと進んで行く。ここで誤算が生じた。俺がベイヌディート
   に召喚された場所は、街から相当な距離があった事だ。

    そこで活躍したのは、“生物解体能力”と“料理作成能力”だ。こちらもティルネアより
   与った。野宿をする際に必須となる。本当に至れり尽せりだわ。

    ちなみに俺は、喫茶店の運営を行っている手前、調理師免許は取得済みだ。既に数十年と
   料理作成を行っている手前、手料理は簡単に賄う事ができる。

    今の喫茶店は、身内達が運営してくれていると思われる。それに地球からベイヌディートに
   移動した際、現地での俺の時間は完全停止をしている。つまり、向こうの事を気にする必要は
   ないだろう。


ティルネア(す・・すみません・・・。)
ミスターT「誰だって失敗はあるさ。」

    ベイヌディートに到来してから半日が経過。街に到着していないため、野宿が確定した。
   そんな中、任意鑑定能力により、食材に適している魔物を生物解体能力で解体する。

    その俺を見つつ、非常に申し訳なさそうに謝罪してくる彼女。転移場所のミスではあるが、
   コミュニケーションを取るには実に申し分ない。

    火魔法により火を熾しつつ、焚き木を作った。火魔法に関してだが、魔力に熱を込める事に
   より発生させる事ができたのだ。これには非常に驚くしかない。

ミスターT「むしろ、火魔法が使えた事に驚いてるが・・・。」
ティルネア(思われていた通りですが、魔力に一定の力を念じれば顕現できます。)
ミスターT「熱を込めれば火魔法に、寒さを込めれば氷魔法に、だな。」

    魔法という概念を、再度覆された感じである。

    前にも挙げたが、身内が言っていたのは、魔法とは予め存在している魔法を行使する事で
   顕現できるとの事だった。それが、魔力に一定の力を込める事で、各属性魔法を顕現できた。

    ただし、どうやらこれは俺だけのようである。それでも、その様な概念が異世界自体にも
   根付いているのは間違いないらしい。実際に各属性魔法が独立して実在しているようで、更に
   属神という存在もいるとの事だ。

    となると、魔力自体は実に万能的な力を言えるだろう。詳しい事は全く分からないが、万能
   である事は間違いない。簡潔に言えば、増幅力か増幅機と思える。これを身内達が知ったら、
   さぞかし羨む事だろうな・・・。


ミスターT「異世界を救ってくれと言っていたが、時間制限がないと聞いただけで安心している。」
ティルネア(確かにそうですよね・・・。言い方がおかしかったのもありますし・・・。)
ミスターT「魔王達が暗躍していたり、大災厄などが発生するとかじゃないしな。」

    この部分は本当に、大助かりとしか言い様がない。ティルネアが挙げた、異世界を救って
   欲しいと言う願いは、直ぐさま実行せよと言うものではなかった。ただし、急を要するという
   矛盾点も孕んでいる。

    この場合は、長期的にベイヌディートを救っていくという事になるだろう。例えるなら、
   マイナス面に支配されている場を、プラス面に転換していく形である。

    これに関して推測すると、その進行度合いは劇的に変わるというものではなさそうである。
   しかし、今から対策を講じなければ、確実に間に合わなくなるというのは間違いない。

    それに恐らくだが、急激にプラス面に転換すると、確実に弊害が起こると推測ができる。
   言わば治療にも言い当てられる。パワーバランスの調停は、実に難しいとしか言い様がない。

ミスターT「なるほど・・・調停者、か。」
ティルネア(そうですね。貴方の立ち位置は、遂行者よりも調停者に当てはまります。)
ミスターT「皮肉にも、警護者自体が調停者の役回りだしな。」

    己の立ち位置を再確認して、我が事だが笑ってしまう。地球だろうが異世界だろうが、俺の
   貫く生き様は全く変わりないのだ。それに心の底から安堵ができた。

ミスターT「旅路は始まったばかりだが、お前さんと共闘できる事に感謝しているよ。」
ティルネア(ありがとうございます・・・。)

    俺の言葉に、今まで見た中で一番の笑顔を浮かべてくる。創生者たる生き様を貫く彼女を
   見る限り、何処か恐々しい雰囲気だった。だが、この笑顔を窺えば実に無粋な感じである。


    ちなみに、野宿時の軽食に関しては、俺だけが取る形になった。だが傍らで見守る彼女が
   不憫に思えてしまう。すると、何と俺の身体に“付与”してくるではないか。この場合は同期
   とも言える。

    その状態で俺が食せば、同期している彼女も同じ味わいが経験できるらしい。これは過去に
   同じ様な事を行ったようだ。まあその時、相手の人物が驚愕したのは言うまでもないが。

    地球での各概念を悉く打ち壊してくれる彼女。それでも、1人の生命体である事実は間違い
   ない。神的存在な創生者という部分を除けば、何処にでもいる女性なのだから。


    この考えだが、散々身内にボヤられたのが淵源だ。彼らと出逢った頃は、俺の気質は若干の
   男尊女卑的なものだった。それが大間違いだと何度も言われ続けた。今後の世上を鑑みれば、
   女尊男卑な様相が望ましいのだと。

    ただし、それは決して男性を蔑ろにしろというものではない。あくまで重要なのは、今まで
   蔑ろにされていた女性を立てる事なのだ。その補佐が男性であると豪語していた。これにより
   男性自体も輝きを放ち出し、結果的に総じて良い方向に進むのだとも。

    これを伺った時は疑心暗鬼だったが、今はそれが大いに正しいものだと痛感できる。俺達
   男性は所詮、母たる女性から生まれ出なければ顕現できない。そして、力を持たない自身を、
   最大限の慈しみの心で見守り育ててくれた。

    孤児である俺は、孤児院の母達が該当するが、当時はその有難みを感じる事はなかった。
   今思えば、それがどれだけ愚かな行為であったか・・・。己自身を恥じずにはいられない。



ミスターT「・・・ティルネアは、母たる存在を覚えていたりするか?」

    夜食を済ませて、近くの大木に寄り掛かる。周辺への警戒は魔力を高めて渦とし、それを
   焚き木を中心として“置いて”おいた。言わば見えないバリアやシールド的な感じである。

    満腹度が上がった事により、心地良い眠気が到来して来る。その中で、先程思った母という
   存在を彼女に語った。ティルネア自身も生命体であれば、そういった人物がいたのだと思った
   からだ。

    徐に懐から煙草セットを取り出し、久し振りの一服に酔い痴れる。異世界ベイヌディートに
   到来してからは、初めての喫煙だ。非常に落ち着く事この上ない。

    ちなみに、吸い殻は携帯灰皿への投入である。そこらに放り投げる事はしない。喫煙者たる
   者の最低限のマナーである。そう言えば、身内の喫煙者の誰もが携帯灰皿を持参しているな。
   今では一種のステータス化となっている。

ティルネア(いえ・・・全く記憶にありません。恐らく、自然発生したのだと思われます。)
ミスターT「自然発生、か・・・。」

    超常的な物言いだが、彼女の存在からすれば理に適っている。生命体ではあるが、神的存在
   なのだ。俺の様な人間の物差しで測れる物事ではない。

    それでも、一生命体としての自我が芽生えているのなら、母たる存在がいたのだろうと思う
   のは不思議な話ではない。それだけ彼女が生命体らしいのだ。

ミスターT「・・・今まで大変だっただろうな。」
ティルネア(・・・ありがとうございます。)
ミスターT「・・・烏滸がましいが、当面は淋しくないとは思う。」
ティルネア(フフッ、そうですね。)

    傍らで微笑む彼女の顔が、居たであろう母親の表情に思えてきた。創生者たる存在は、この
   ベイヌディートに住まう全ての生命体の母的存在だ。そう思えるのは、一時的に俺もここの
   住人に迎え入れられた証拠だろうな。

    徐に瞳を閉じると、そのまま深い眠りに入っていく。その際、傍らの彼女が心配するなと
   俺の右手に触れてきた。その厚意に眠気が増していった・・・。

    今後の流れは、翌日の自分に委ねるとしよう。非現実な世界に到来した自分自身。何とか
   対応してきた事に対して、今はお疲れ様と言っておきたい・・・。

    キャラ視点へと続く。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

戻る