アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第1話 創生者の願い事 ティルネアの視点〜
    〜ティルネアの視点〜

    ・・・本当に不思議な方です・・・。


    私はティルネアと申します。ここベイヌディートの創生者を司る存在です。住まう全ての
   生命体を見守り、間違った行動を取る存在を戒め続けている。本来ならば、私が行うべき行動
   ではなく、彼らが自発的に律するべき事なのです。

    それでも、こちらの想像を超えた行動をする輩もいます。生命体とは、実に不思議な存在
   だと言うしかありません。それでも、彼らが可愛いのは間違いないのですが・・・。

    だからこそ、間違った行動を行う存在を戒める必要があります。過剰な行動を取れば、実力
   行使で阻止に走る必要もあります。当然、そこには相手の殺害を以て止める場合も・・・。

    過去に多くの遂行者を代理人として、その愚行を阻止してきました。ですが、その誰もが
   遂行者の力に酔い痴れ、本来の目的を見失ってしまった。その様な輩は、力と記憶を消して
   から解放しますが、内在する生命力は邪悪に至り、悪人に至る道を進んでしまう。

    痛感しました。ベイヌディートに住まう存在は、遂行者たる力には耐えられないのだと。
   そこで、異世界からの召喚者に委ねる事にしたのです。

    その初めての人物こそが、目の前で眠る彼こと、ミスターT様でした・・・。


    彼は驚く事に、召喚の間たる白色空間に現れるも、気が動転する事がありませんでした。
   常に冷静沈着であり、その目線は恐ろしいまでに据わっていた。並の人間が出せるものでは
   ありません。

    かつての遂行者達は、まず間違いなく気が動転していた。この世のものとも思えない様相に
   震え上がっていた。それが普通の言動でしょう。ですが、彼は全く違っていた。

    直ぐに彼の内情を察知すると、筆舌し尽くし難い生き様を経てきた事を痛感しました。一介
   の人間が経験するようなものではなかった。後に分かったのですが、それは警護者という役職
   が彼を昇格させ続けたようです。そう、今でも彼の成長は止まっていないのですから・・・。

    そして、現状を直ぐに察知し、自身が成すべき事を冷静に把握しだした。私からほぼ全ての
   情報を得ようと対話を試みて来たのです。


    今までの遂行者は、その殆どが私利私欲に溺れた輩のみ。こちらと胸襟を開いて対話をする
   存在はいなかった。無論それは全てではなく、一部の良識人は私との対話から全てを察して
   くれていた。

    遂行者の役割が何故必要なのか。ベイヌディートの様相を見て、それを思い知ったからだと
   挙げてくれていた。それ故に、最後まで遂行者を担えたのだと思われます。

    そんな彼らの考えを超越していた。常に悩む様に、こちらの話を窺い続けていた。まるで
   私の心中を見透かして来るかのように・・・。それは紛れもなく、恐怖そのものでも・・・。

    何故彼がそこまで徹底していたのかを、今は思い知っています。そうしなければ、自身が
   堕落する事を思い知っていたから。警護者の生き様を通して、私が経験した愚かな遂行者と
   同じ輩を、嫌というほど見て来たからに過ぎなかった。

    烏滸がましいですが、私はそれなりの存在であると自負しています。しかし、彼の前では
   幼子の様に感じてしまう。対峙した時は恐怖で一杯だったのですが、今はもう感嘆とするしか
   ありません。むしろ、創生者たる存在を、彼から思い知るかのようです・・・。


    力と言う概念にも、並々ならぬ思い入れがあるようです。今までの遂行者は、私が持つ全て
   の能力に目を白黒とさせていた。初見時は怪訝そうな表情をするも、その圧倒的な力を目に
   して媚入る様な表情に変えていった。

    人間や他の生命体が、どれだけ強欲の深い存在なのかと思い知りました。特に人間が一番
   酷かった。中には遂行者の力を使って、完全なる私利私欲に走る愚物すらいた。他者を救う
   ために与えた力を履き違え、欲望の限りを尽くし、他者に害を成す存在に至った。

    その様な存在は、流石に看過する事はできません。即座に力の剥奪行い、その存在を消滅
   させる事にしました。そう、文字通りの消滅。執行猶予として魂は残したものの、それらの
   存在は再び愚行を犯す事が多かった。二度目はない、そう告げたのにも関わらず・・・。

    その様な愚物は、魂すら消し去るしかない。何れ害に及ぶなら、致し方がなかった・・・。


    だが、彼は違った。私から全ての力の様相を伺い、その場に座り込み思慮を重ねる。時間が
   あると窺い知った事により、より一層の吟味を始めた。それだけ、私の力に真剣に向き合って
   くれていた。

    力を持ち過ぎる者は全てを壊す、彼はそう言ってくれた。かつての遂行者達は一部を除き、
   その全てが言葉通りの末路を辿っている。彼が常々懸念しているのは、愚者道に走らない事を
   心懸けているからなのだと思います。

    そして、3つの選んだ力にも驚かされました。身体超再生・状態異常無力化・回復魔法群。
   不死が不可能とあるからでしょう、人体の再生能力を高める事を行ったようです。四肢の欠損
   など、普通なら考えられないもの。それを実質的に無力化するものです。

    状態異常もそうでしょう。自身が動けなくなる事を憂慮して、常に健全である事を選んだ。
   そう、この状態異常は実の所、己自身を律するのにも役立つ。私利私欲に走る場合は、大体が
   混乱に近いものになるのですから。

    状態異常無力化は、それらの異常を一切起こさせない。つまり、彼は己を見失う事がない。
   それに、仮にこの力がなかったとしても、彼は己を見失う事はないでしょう。初見で見た彼の
   生命力が全てを物語っていた。

    回復魔法群にも驚かされました。一見すれば、自身を維持する力でもある。ところが彼は、
   それらは護衛対象となる存在を支えるためだと言い切った。彼の中では、不幸に苛まれる存在
   を支えるのは、護衛対象そのものなのだと。

    そして、彼自身が取得した個人スキル、金剛不壊。自身が死去に至る一撃を受けても、その
   一歩手前で強制的に踏み留まる。創生者たる私ですら恐怖としか思えない力に、ただ脱帽する
   しかありません。

    それでも、決して奢る事がありませんでした。むしろ、私の“ドジ”な部分を見たのか、
   生易しい目線で見つめてきてもいました。聊か腹立たしい部分はありましたが・・・。


    何処までも警護者の生き様に順ずる彼に、今はもう畏敬の念しか浮かびません。それに、
   私を心から案じてくれていらっしゃいます。創生者の生き様が、どれだけ辛いものかも確信が
   できました。

    与えるもの、奪うもの。筆舌し尽くし難い役割は、私から一個人としての自我を抉り取り、
   徐々に欠落させていった。それが彼と出逢ってからは、“直ぐに”一個人の尊厳を取り戻す事
   ができた。

    私は怖かったのでしょう、己自身を見失う事が。創生者の生き方を行う事により、自身が
   自身で無くなる事を恐れ続けていた。それを彼は一個人として接してくれた事により、一抹の
   不安や恐怖を取り除いてくれた。

    何処までも、お節介焼きであり、世話焼きなのだと・・・。


    今も眠り続ける彼を見つつ思う。今まで抱いた事がない感情が芽生えだしている。それが
   俗に言う、恋心というものでしょうか・・・。

    彼を召喚できて、本当に良かった・・・。いや、遂行者の役割を担ってくれて、本当に感謝
   している・・・。彼・・・貴方でなければ、“この道”を進む事はできないだろう・・・。

    今度こそ・・・この道を遂行させてみせます・・・。敬愛なる貴方と共に・・・。

    〜ティルネアの視点、終了〜

    第2話へ続く。

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