アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第02話 奴隷のダークエルフ3〜
    冒険者ギルドより徒歩数分後、目的の奴隷商館に辿り着いた。冒険者ギルドと同規模の店舗
   だが、雰囲気は非常にマイナス面を孕んでいる。ティルネアが悲痛な表情を浮かべているのが
   何よりの証拠だ。

    しかし、この奴隷制度自体が世界に根付いた概念であるのも事実。それは創生者たる彼女も
   弁えているようで、心を鬼にして黙認している様子だ。実に嫌な役回りだろうな。

    ともあれ、今は今後の行動に際しての戦力が必要だ。最低1人でも良いので、仲間が増える
   事ができれば幸いである。


    冒険者ギルドの様な木製の扉を開けつつ、店内へと入店する。カウンターは普通の作りに
   なるが、店舗の奥から感じられる負の感情が不気味に漂っている。恐らく、商品たる奴隷達の
   一念だろう。

    これも過去に地球にて、捕縛されていた人物と対峙した時に感じられた感情と同じだ。壮絶
   な一念を抱く彼らの様相は、筆舌し尽くし難いものだった。それでも、解放されてからの表情
   を見れば、救出に携わって良かったと何度も思う。

    今は完全に真逆の立場になりそうだが、この異世界を救う戦いには必要な行動だ。創生者の
   代理人としての心構えで動くのみである。

奴隷商「・・・いらっしゃいませ、旦那様。・・・どの様なご用でしょうか?」

    店舗の奥から現れる、みずほらしい姿の男性。しかし、何処かギラついた雰囲気を放って
   おり、油断できない感じである。奴隷商故の気質と言うべきだろうか。

ミスターT「お初にお目に掛かる。奴隷を探しているのだが。」
奴隷商「・・・かしこまりました。ご要望などはございますでしょうか?」
ミスターT「条件なんだが、できれば予算は銀貨100枚までで頼む。」
奴隷商「銀貨100枚ですか・・・。では、こちらへどうぞ。」

    予算を伺い、怪訝そうな表情を浮かべてくる。推測だが、このぐらいの資金では購入する
   事ができないのだろうな。しかし、いわく付きの人物なら見当が付くのか、俺を店舗内へと
   招き入れてきた。

    日本円での換算が10万円相当であれば、それで奴隷が購入できるのは非常に難しいとは
   思う。そもそも、言葉は悪いが、質は相当悪くなると思われる。それこそ金貨1枚以上の人物
   なら、それなりの相手と巡り逢う事ができると推測できるが。

    ともあれ、今は手持ちの予算を銀貨100枚と仮定して動くしかない。残りの資金は物品の
   購入などに当てねばならないしな。目立たずに立ち振る舞うのは、地球でも異世界でも本当に
   気苦労に耐えない。


    店舗内の奥にある、奴隷達が置かれている場所。倉庫に近く、どの奴隷達も鉄格子の檻に
   入れられている。地球人の俺には受け入れ難いものになる。見ていて居た堪れなくなるが、
   これが異世界の様相だ。

    それに大事なのは、俺が遂行者たる警護者である点だ。その行動に関して、必要な戦力を
   求める行動である。特に裏切りがないとされる奴隷ならば、今は彼らの恩恵に与るしかない。

    幸いだったのが、鉄格子に入れられている奴隷達は、それなりに対応されているようだ。
   各作品に見られる、劣悪な環境という状態ではない。むしろ、店主たる奴隷商の方が、ある
   意味で劣悪な環境だと言わざろう得ない・・・。

    案外、この奴隷商は奴隷達を大切にする存在なのかも知れない。自らの環境を差し置いて
   でも、である。まあ、檻に入れられているという実状が、何とも言い難いものではあるが。


    案内されたのは、店舗奥の倉庫の更に奥、非常に薄暗く汚い場所だった。衛生面で大丈夫
   かと思ってしまう。それでも、普通の運営はなされているのが幸いか。やはり俺が知る異世界
   事情とは異なっている。

    そして、指定の檻の前で立ち止まった。彼が指し示す先には、中で横たわる奴隷がいる。
   身体中に包帯が巻かれており、何らかの怪我を負っているのが分かった。一応の対応はされて
   いるようだが、体調の方は良くないと思われる。

奴隷商「・・・こちらの奴隷は、ダークエルフとなります。本来ならば、金貨1枚以上からの値段と
    なりますが、負傷し病を患っていますので、銀貨100枚で構いません。」
ミスターT「ふむ・・・。」

    俺達のやり取りを伺い、徐に瞳を開ける。ボサボサの長い髪の毛と、胸の脹らみからして
   女性の奴隷だと分かった。この倉庫部屋が薄暗く、遠目では男性か女性か分からなかった。

    そして彼女は、ファンタジー世界で有名なダークエルフの種族らしい。ただ、身体中に包帯
   を巻かれているため、ダークエルフの味とも言える褐色肌は窺えない。少し残念に思ったが、
   今は雑念だと振り払う。

    しかし、彼女から感じられる雰囲気は、生きる事を諦めているものではない。虎視眈々と
   その時を待ち続けているかの様子だ。それに、身体中の包帯で窺う事はできないが、非常に
   気品に満ち溢れている。

    傍らの奴隷商は気付いていないのだろうな。この気品を踏まえれば、とても銀貨100枚で
   済む人物ではない。

    ちなみに、ダークエルフの種族は、確か忌み嫌われる存在だったと伺っている。情報の出所
   は身内達だ。だが、目の前の彼女は、まるで貴族かの様に感じられた。

ミスターT「・・・分かった、彼女を仲間に招きたい。」
奴隷商「かしこまりました。また、購入後の奴隷の返品は如何なる理由でも受け入れません。」
ミスターT「ああ、了解した。」

    なるほど、奴隷商からしても厄介者を払いたい感じか。この気品を踏まえれば、それが冒涜
   に近い行いにも思えるが、今は考える必要はないだろう。

    もしかしたら、彼女の価値は価格以上の人物かも知れない。ただ、奴隷であっても、やはり
   目の前の女性を商品とは思いたくないものだ・・・。


    空間倉庫から銀貨袋を取り出し、銀貨100枚を取り出す。俺が持つ空間倉庫の存在に、
   奴隷商は目を見張ったのだが、細かい詮索はしなかった。

    奴隷自体の売買が、幾ら合法でもタブーに近い。世間体もあると思われ、要らぬトラブルは
   避けようと考えているのかも知れない。まあこちらとしては、非常に有難い対応ではある。
   それに下手な詮索をしない方が、後々の顧客になる可能性を掴めるだろう。

    タブーである合法売買だが、商人魂が感じられる。こうした奴隷制度がなくなり、彼が別の
   商売に手を付けられる世の中にできればと切なく思う。


    既に彼が持っていたトレイに、銀貨100枚を置いていく。店舗に入った際、俺が奴隷を
   必ず買うと読んでいたのだろう。サラッと出したトレイの存在が、それを物語っていた。

    銀貨100枚を数え終えると小さく頷く。腰にぶら下げている複数の鍵を手に取り、その中
   の1つを使って檻の施錠を開放した。鈍い金属音を放ちつつ、檻の扉が開いていく。

    そして、中にいる奴隷の女性を、表に招いていった。重々しい様子で身体を動かし、檻から
   出てくる女性。立ち上がって驚いたが、俺より首1つ分低いだけの巨漢こと巨女だ。


奴隷商「奴隷への対応は、どうされますか?」
ミスターT「契約だったな。」
奴隷商「はい。」

    目の前に立つ女性。虚ろな瞳で見つめてくるが、やはり内なる思いは消え去っていない。
   それどころか、並々ならぬ闘志を感じさせてくる。彼女はある意味、レスラーに近いのかも
   知れない。

ミスターT「とりあえず・・・首輪と契約を頼む。今はその状態でいい。」
奴隷商「・・・かしこまりました。」

    再び怪訝そうな表情を浮かべる彼。それもそうだろう。彼女に対しての対応が、人としての
   ものだからな。立て前としては奴隷ではあるが、俺としては普通の女性である。

    それに取り引きを終えたら、直ぐに行動に移した方がいい。彼女の身体の傷は、かなり多く
   存在するのが分かる。全身に巻かれた包帯が、全てを物語っていた。

    その後、新しい首輪を彼女に装着し、隷属の魔法を俺と彼女に施す奴隷商。小さな魔法陣が
   展開され、何らかの作用が働いたのを感じた。

    この部分は全く以て未知数だ。そこで、念話でティルネアに“解除が可能”かを伺うと、
   解除は可能だとの回答を得られる。それを聞いて、一安心と言った所である。

    ただ、今は表面上の体裁は主人と奴隷のままでいい。奴隷商館を出た後で、行動に移すのが
   無難だ。世間体の目を気にするのは、地球でも異世界でも変わらないわな・・・。


    隷属の魔法が済み、全ての取り引きが終了した。女性を連れて、店舗裏の別の入り口より
   表へと出る。どうやら店舗表の入り口は入店専用のようで、裏の入り口は奴隷と共に出るのに
   用いられているようだ。

    先にも挙げたが、奴隷の売買は合法であってもタブーに見える。それ故に、店舗から出るの
   にも人目を気にするのだろう。それでも奴隷の売買が成り立つ事から、これが異世界の仕様と
   言うしかない。

    裏口まで奴隷商に案内される。小さく会釈をしつつ、女性と共に立ち去った。彼女の方も
   奴隷商に頭を下げている。今までの恩義に対する礼なのだろう。



    暫く歩きつつ、表通りに差し掛かった。そこで、着用していたコートを脱ぎ、彼女に掛けて
   あげた。今の出で立ちでは、完全にミイラそのものだ。奴隷服を着用はしていたが、包帯の
   露出の方が遥かに多い。

    俺の行動に驚愕の表情を見せてきたが、その彼女の頭を優しく叩いた。こちらを信用して
   くれているとは思えないので、一歩ずつ信頼して貰うしかない。この手のコミュニケーション
   なら全く問題ない。

    先ずは、その足で衣服店へと向かう。彼女の体躯からして、女性用衣服よりは男性用衣服の
   方が良いだろう。俺の背丈に近い体躯だ、男装の方が似合うと思われる。


ミスターT「忘れていた。俺はミスターTという。お前さんの名前は?」
奴隷女性「・・・私の名前は、リドネイと申します・・・。ですが・・・商館では、番号で呼ばれて
     いました・・・。」
ミスターT「リドネイか、了解した。」

    なるほど、彼女の名前はリドネイと言うのか。しかし、店舗では商品と言う事で、番号で
   呼ばれていたようだ。それでも、しっかりとした名前があって良かったと思う。

    外見は弱々しいが、気品や気質を踏まえれば、かなりの強者に見て取れる。これは推測の
   域だが、もしかしたら態と弱々しく見せているのかも知れない。

リドネイ「あの・・・ご主人様、私の名前は新たに付けても構わないのですが・・・。」
ミスターT「何を仰る。リドネイと言う名前は、お前さんの親御さんが命名してくれたと思うが?
      ならば、その名前で呼ばせて貰うのが正しい行動よ。」

    彼女の言い分も確かに理解できる。奴隷の身分に至ったのであれば、既にある名前は意味を
   成さない。しかしそれは、ベイヌディートでの仕様であり、地球人たる俺の仕様ではない。

    それに、彼女の両親が命名してくれた名前があるのなら、それで呼ぶのが当たり前である。
   それに言葉は悪いが、名前の違いにより、些細な行動の行き違いを起こしても意味はない。

リドネイ「・・・ありがとうございます、ご主人様・・・。」
ミスターT「あー・・・1つ頼みがある。そのご主人様は止してくれ。」
リドネイ「・・・では、マスターと呼ばせて頂きます。」
ミスターT「ああ、頼むわ。」

    前者の呼び名では非常に落ち着かない。まだ後者の方が落ち着く。この呼び名も、異世界
   仕様と言うしかないのだろうな。俺には受け入れ難い概念である・・・。

    それでも、自身が持つ名前で呼ばれる事を承認した事で、表情が少し明るくなったと思う。
   ただ、本調子ではないのは明白だ。こちらを信用してくれるまでは、まだまだ時間が掛かり
   そうである。

    彼女が笑顔を見せた時、それなりに救えたのだと思う。ともあれ、今は彼女の身形を完全に
   解放するべきだ。

    ちなみに先刻にも思ったが、彼女の気品からすれば、結構な身分の人物だと思われる。奴隷
   に至った経緯は不明だが、今後は彼女を奴隷と見ずに1人の女性として見るべきだ。まあその
   一端を垣間見せたから、奴隷商に怪訝な表情をされたのだが・・・。

    ともあれ、今は彼女の身形を何とかしよう。簡単な対話を終えて、衣服店へと向かった。

    後半へと続く。

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