アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第02話 奴隷のダークエルフ4〜
    奴隷商館を出てから、衣服店へは数分掛かった。リドネイの外見に関して、当初は問題が
   出ると思っていた。全身に包帯を巻いており、奴隷の服を着用している状態だ。

    幸いにも、俺が着用していた黒コートが役に立っている。俺の身丈に合った一品なので、
   長身の彼女も問題なく着こなす事ができた。恐らく彼女、身長は180cmぐらいはある。

    この体躯で戦闘経験者となれば、それなりの武装を施しても問題ないだろう。後は彼女の
   適正の問題だが、まあそれは行く行く考えればいい。

    衣服店へと到着し、店内に入店する。内部に入ると、カウンターで作業をしていた女性店員
   が駆け付けて来た。


女性店員「いらっしゃいませ。」
ミスターT「お初にお目に掛かる。こちらの女性の身丈に合う衣服を頼みたい。」

    そう言いつつ、傍らにいるリドネイを指し示す。すると、女性店員の表情が曇り出した。
   黒コートを着用しているが、首元の首輪や両手や両脚に巻かれている包帯を見て、彼女が奴隷
   であると察したのだろう。

女性店員「・・・かしこまりました。こちらでご着用されますか?」
ミスターT「ふむ・・・いや、着用できる衣服を貰うだけでいい。できれば、男性用のを頼む。」
女性店員「かしこまりました・・・。」

    非常に怪訝そうな表情を浮かべている。如何わしい事をしでかすのかと思ったのだろうな。
   しかし、これには理由がある。この場で着用すると、後で宿屋などで“治療”を行う前に脱が
   なければならないからだ。

    ただ、実際問題はどうフォローするかで思い悩む。ティルネアに実体があれば、彼女に補佐
   を任せられるのだが、実際には俺しかいないのが実状だ。かといって、俺の身体に付与しての
   行動は、文字通り如何わしいとしか思えない。どうしたものか・・・。


    見繕って貰った衣服だが、長袖と長ズボンをベースに、ジャケットという男装を狙った。
   戦闘スタイルにも寄るが、女性用の衣服では肌蹴る可能性が高い。

    下着に関しては、女性用のを着用して貰う。男性用のでも良いのだが、流石にそれは彼女に
   失礼だ。汎用性の問題では、確かに男性用の下着の方が有利ではある。今の俺も着用している
   ステテコもそれだ。

    まあ、この異世界では流石にステテコは存在しなかった。オーダーメイドをすれば得られる
   だろうが、今はそこまでする必要はないだろう。ただ、行く行くは考えるべきか。


    衣服に関しては、複数着用していれば、それだけ負傷する確率が激減する。上半身は複数
   着用するから問題ないが、下半身は下着以外ではズボンだけの場合が多い。そこにステテコが
   加算されると、意外なほど守られる場合がある。

    実際に過去に足を負傷した際も、ステテコを着用していたお陰で軽傷で済んだ事がある。
   それこそ、金属性のレギンスなどを着用していれば、更に負傷率は激減するだろう。しかし、
   流石にそれは聊か実用的ではない。

    非常に動き難くなるが、ズボン2枚穿きが一番守られる。保温性も高くなるため、冬場は
   非常に重宝される。まあ、真夏の場合は地獄と化すのだが・・・。


女性店員「こちらになります。」
ミスターT「全部で幾らになる?」
女性店員「銀貨11枚となります。ですが、初めてのお客様ですので、銀貨10枚で構いません。」
ミスターT「すまない、ありがとう。」

    微笑む女性店員に小さく頭を下げる。銀貨11枚の価格で1枚の割り引きは、店にとって
   そこそこ痛手になる。それを初見特価という事で割り引いてくれた。本当に感謝に堪えない。

    ちなみに購入した衣服は、女性店員がリドネイの身体を採寸して選んでくれている。彼女
   自身が大柄なため、必然的に男性用衣服となったのは言うまでもない。ただ、先に挙がった
   通り、下着だけは女性用を選んでくれたようだ。

    衣服の購入を終えて、店舗を後にする。そして間隔空けずに、その足で宿屋へと向かった。
   時刻は夕方を迎えており、そろそろ日が暮れる。その前にリドネイの治療と着替えを済ませて
   から、夜食を取るとしよう。



ミスターT「リドネイ、お前さんだけで着替えはできるか?」
リドネイ「あ・・はい、問題ありません。」
ミスターT「了解した。」

    宿屋に向かう際、懸念していた事をリドネイに告げる。着衣に関してのフォローは、問題
   ないようである。となれば、近場にティルネアに居て貰い、フォローして貰うのが無難か。

ミスターT(ティルネア、リドネイの着替えの補佐をしてくれるか?)
ティルネア(問題ありませんが・・・大丈夫ですかね・・・。)

    今度は彼女が懸念を挙げてくる。現在のティルネアは精神体、肉体を持たない存在である。
   実体が無ければ、物理的に物体に触れる事ができない。誰かの肉体に付与こと憑依をし、その
   筐体を操って行動するしかない。

    流石に女性の着替えに、俺の筐体を用いる訳にはいかない。俺が女性だったら、全く問題は
   ないのだが・・・。ここは奥の手として、ティルネアに委ねるしかない。

    それに彼女が懸念している本当の理由は、リドネイが奴隷であるという事だろうな。彼女を
   疑うのではないが、逃げられると思われても仕方がない。幾ら首輪やら隷属魔法があれど、
   それが完全的なものでもないのが実状だ。

    となれば、リドネイ自身に最大限の信頼を抱いて貰うしかない。全ては俺次第という事に
   なるだろうな。今後の事を踏まえれば、責任重大な行動である。



    ラフェイドの大通りを、行ったり来たり繰り返す。再び、冒険者ギルドの前へと到着する。
   その真向かいに宿屋があった。多くの冒険者も用いる事から、この街での最大の店舗らしい。

    店内へと入り、カウンターに向かう。カウンター前はそこそこ広いラウンジになっており、
   冒険者ギルドと同じく冒険者達が屯している。流石に酒場の常設はなく、簡単な雑談などを
   行うだけの感じである。

    冒険者ギルドでは、ウェイス達4人と出逢ったが、宿屋では誰とも遭遇する事はなかった。
   この場合はマイナス面の行動、所謂要らぬ横槍である。それを踏まえれば、あの4人と出逢う
   事ができたのは、超絶的に幸運だったと言うしかない。


宿屋主人「いらっしゃいませ。」
ミスターT「お初にお目に掛かる。とりあえず、1日分だけ頼む。」
宿屋主人「・・・かしこまりました。」

    カウンターにて、宿屋の主人に語り掛ける。案の定、俺とリドネイを交互に見つめてくる。
   ただ、今回も深く詮索せずに対応してくれた。

    一泊銀貨1枚、日本円で1000円とは格安な感じだ。しかも連泊する場合は、その日数に
   応じて値引きされるようである。これが日本だと、一泊素泊まりで3000円以上する場合も
   ある。豪華な場所ではそれ以上だ。

    やはり異世界は、地球は日本の宿泊事情とは全く異なるわ。この点は、実に有難いとしか
   言い様がない。魔物達の素材の売却で得られた資金は、十全に活躍してくれている。

    一泊分の銀貨1枚を支払い、宿泊できる部屋を指定された。その部屋へと向かう。その中で
   緊張した面持ちのリドネイに気付いた。如何わしい事をされると思ったのだろう。頼むから、
   その考えだけは勘弁して欲しい・・・。


    指定された部屋に入室する。部屋はこじんまりとしており、ただ家具とベッドが置かれて
   いるだけの質素な感じだ。それにベッドが1つなのは、宿屋の主人がアレを想定しての配慮と
   思われる・・・。

    ただ、身内のネタによると、奴隷は床で寝る事が定石とされているらしい。つまり、ベッド
   は俺だけが使い、リドネイは床で寝させるという流れになる。流石にそれは絶対にしないが、
   かと言って一緒に寝る訳にもいかない。

    幸いにも、同室にはソファーが置かれているので、こちらを俺が使う事で済ませよう。今の
   彼女には十分な休息が必要だしな。

    ともあれ、先ずは治療だ。創生者ティルネアから託された、回復魔法が役立つ時が来たわ。

    後半2へと続く。

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