アルティメット エキサイティングファイターズ 外伝9 〜覆面の苦労人〜 |
アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜 〜第1部・第02話 奴隷のダークエルフ5〜 荷物をソファーに置きつつ、部屋の隅に棒立ちしているリドネイをソファーに座らせた。 その彼女の前に片膝で屈み、彼女の身体の様子を窺う。 着用している黒ローブを脱いで貰うと、身体中に巻かれている包帯が露わになった。実に 痛々しい様相だ。しかも全身に巻かれている事から、彼女の症状が深刻である事が分かる。 ミスターT「リドネイ、その包帯は傷と病に対してか?」 リドネイ「はい・・・。」 静かにそう呟く。どうして、そう至ったのかは語らない。もし、語ったとしても、制する つもりで構えていた。今はそれでいいだろう。 不安そうに見つめる彼女に、小さく微笑んでみせた。とは言うものの、覆面に仮面を装着 している手前、微笑みが現れたかは不明だが・・・。 ミスターT「お前さんには今後、俺と共に戦って貰いたい。その前に傷と病の対処をしよう。」 リドネイ「えっ・・・マスターは、聖職者なのですか?」 ミスターT「いや、しかない風来坊よ。まあ何だ、全て任せてくれ。」 驚愕の表情を浮かべるリドネイを前に、静かに右手を掲げる。ティルネアより託された力の 真価が問われる。体内の魔力を高めつつ、その力を右手に集約させていく。 地球人たる俺には、魔力や魔法の詳しい概念は全く以て分からない。だが、直感的にはその 力が何であるかは判明していた。先刻の魔力を放射したのがそれに当たる。となれば、俺の “師匠”たるティルネア縁の回復魔法と治癒魔法を魔力に乗せて、それを放つのが正しい選択 だろう。 この手の行動は、とにかく直感と洞察力がモノを言う。最後は間違いなく、治療対照者と なるリドネイ自身を、心から癒したいと思う一念だ。それが回復魔法や治癒魔法の真髄だと 確信が持てた。 ミスターT(癒しの力よ、この者に活力と希望を。スーパーヒーリング、ナチュラルキュア。) 創生者ティルネアより与った力の1つ、回復魔法と治癒魔法。回復魔法の最上級魔法は、 スーパーヒーリングというらしい。治癒魔法の最上級魔法は、ナチュラルキュアという。実に シンプルな魔法名と思ったが、その効果は抜群らしい。 右手から繰り出された回復魔法と治癒魔法に、ティルネア直伝の魔力が重なり合う。それが 目の前のリドネイに放たれた。淡い光が彼女の全身を覆い尽くす。本当に暖かい光だ。 彼女の症状は、恐らく重度に近い怪我だ。それらを放置した事による、感染症的な病気も 襲い掛かっていると推測できる。しかし、流石は異世界仕様の魔法様だ。彼女に渦巻く病魔を 一撃必殺の如く治療している。 包帯上や奴隷の服上からは分からないが、直感的に彼女の傷が癒えているのが感じられた。 それに、治療対象となるリドネイの表情が、先程までとはまるで違う。苦痛と不安が渦巻いて いた顔が、驚愕の表情と変わっていた。 ただ、彼女の病状期間がどれだけだったのかは分からない。そのため、体内に内在している 病魔自体を完全駆逐する必要があるだろう。これも推測の域だが、ティルネア直伝の回復魔法 と治癒魔法なら全く以て問題ない。 驚き続ける彼女を一旦無視し、今は治療を続けた。完全回復治癒を以てして、それから語り 掛けても遅くはない。 回復魔法と治癒魔法を放ち続けて、どれだけ経過したのか分からない。ティルネアより、 終了の合図が感じられたので治療を終えた。 掲げていた右手を下げつつ、目の前のリドネイの様子を窺う。今も驚愕の表情を浮かべて いるのだが、その顔には苦痛は一切感じられない。回復と治癒は成功したとみて良いだろう。 ミスターT「・・・治療はされていると思う。申し訳ないが、可能な範囲だけ肌蹴てくれないか?」 俺の言葉に小さく肯き、奴隷の服を脱ぎつつ、両腕・首回り・腹回りの包帯を取り除いて いく。胸回りは流石に見る訳にはいかないので、後で彼女自身に確認して貰うしかない。 取り除かれた包帯から現れたのは、見事なまでの艶やかな褐色肌だ。奴隷商人が話していた 通りの、ファンタジー世界で有名なダークエルフの種族である。 リドネイ「す・・凄い・・・傷が消えている・・・。」 ミスターT「傷は表面上だが、病の方が気になる。身体に痛みは感じられるか?」 リドネイ「い・・いえ・・・何の苦痛も感じられません・・・。」 目の前の現状に一段と驚愕したのか、身体中の包帯を取り除いていく。驚きの方が遥かに 勝っているようだ。と言うか、隠して欲しい場所の包帯すらも取り出しており、慌てて顔を 背けるしかない。そんな俺を見て、苦笑いを浮かべているティルネアである。 しかし、ここまで興奮している事から、回復と治癒は問題なくできたと思われる。彼女の 身体に巣食う病魔も根絶できたのだろう。リドネイを通して痛感させられたが、魔法という 超常的な力に脱帽するしかない。 リドネイ「凄いです! 傷と病が全て消え去っています!」 ミスターT「そ・・そうか・・・それは良かった・・・。」 全ての包帯を取り除いた事により、今の彼女は全裸である。その彼女が幼子のように大喜び する姿は微笑ましいのだが、大人の女性という事で顔を背け続けるしかない・・・。 実際の所は嬉しいには嬉しいが、それを現実とすると流石にシドロモドロになる・・・。 そんな俺の言動を見て、我に返っていく彼女。先程脱いだ黒ローブを手に取ると、前面に 押し当てて恥らいだした。とりあえず、秘部を隠してくれた事により、彼女に対面する事が できる。彼女が落ち着くのを、暫く待ち続けた。 落ち着いたのか、俺の方に向き直る彼女。だが直後、俺の背後を見て驚愕しだした。前面に 抱えていた黒ローブを抱くのを忘れ、その場に落としてしまう。折角隠してくれていた秘部が 露わになり、慌てて顔を背けた。 同時に、彼女が驚愕した理由を窺い知れた。それは、俺の背後に浮遊しているティルネアを 見たからだろう。俺自身は彼女の力を与る事により、精神体の姿を見れるようになっている。 その彼女をリドネイ自身も見えている証拠だ。 リドネイ「あ・・ああ・・・。」 ティルネア(え・・えーと・・・マスター、ど・・どうすれば?) ミスターT「俺に聞くな俺に・・・。」 ティルネアの姿を見て、呆然とするリドネイ。そのリドネイの姿を見て、助け船を求めて 来るティルネア。そんなティルネアを見て、俺は溜め息を付いた。正にカオスである・・・。 リドネイが落ち着くのを待ってから、ティルネア同伴の元で着替えを済ませてくれた。既に 姿が見えるとあって、何も隠し立てする事なく接する事ができる。これはこれで実に有難い。 その間、俺は一服しつつ、部屋の表で待ち続けた。何だか一気に寿命が減った気がするわ。 それでも、リドネイを救えた事は素直に感謝したい。ティルネアより与った力で、初めて他者 を救う事ができた。 これの繰り返しにより、異世界ベイヌディートの救出が可能となるのだろう。ただ、流石に 先程の様なシドロモドロ事変だけは勘弁願うが・・・。 暫くしてから、念話でティルネアよりお呼びが掛かる。室内に戻ると、男装したリドネイが 立っていた。 頭部も包帯のグルグル巻きにより分からなかったが、金髪のロングヘアーが見事なまでに 輝いている。エルフの種族でも印象的だが、ダークエルフでも印象的な尖り耳も健在だ。 そして、何よりデカい・・・。男装はしているが、その上から窺い知れる程の巨乳の持ち主 である・・・。そう思った瞬間、傍らのティルネアより殺気に満ちた目線で睨まれた・・・。 それとは別に、彼女の体躯も非常にデカい。負傷時は幾分か前傾姿勢に近かったが、今は 直立不動の状態だ。推測だが、身長は180cmを軽く超えている。それに、非常に筋肉質 だという事も窺えた。これなら、共に戦闘を行っても問題ない。 ミスターT「うーむ、見事だわ。」 ティルネア(それは・・・何処の事ですか?) ミスターT「この野郎・・・。」 改めて、素直にリドネイの体躯を褒める。すると、再び茶化しの一撃が入ってきた。傍らの ティルネアが、何と俺の左肩を力強く掴んで来るではないか。以前、俺の手を触れて来た事も あるため、その応用であろう。 流石は創生者たる彼女の力は、物凄く恐ろしい程に力強い。左肩に食い込む指に、顔を歪め つつも小さく反論した。そんな俺を見て、小さく笑う彼女である。この美丈夫は・・・。 ティルネア(とりあえず、リドネイ様の様子は把握できました。) ミスターT「治療の方は、完全に済んでいる感じか?」 ティルネア(はい、見事なまでの完全治癒です。) 力強く掴んでいた左肩をポンポンと叩いてくる。そのまま左手親指を立ててきた。彼女、 何時の間にフランクになったのやら・・・。 まあ、この言動を窺えば、先の治療事変が完全解決したと確信が持てる。創生者お墨付きの 行動だ、確信を持たねば失礼極まりない。 ミスターT「了解した。あと1つは・・・。」 そう言いつつ、直立不動のリドネイの前へと進み出る。俺を見上げてくる彼女の首元に、 静かに手を回して奴隷の首輪を外した。それに驚愕しだす彼女。 リドネイ「そ・・それはっ!」 ミスターT「最早、こんなの要らんでしょうに。」 更に追撃として、再び右手を彼女の胸の近くに掲げる。その行動を察知したティルネアが、 俺の傍らから自分の右手を重ねてきた。脳内に浮かぶのは、隷属魔法の無効化だ。 これは治療とは異なり、隷属の魔法である。ティルネアより与った回復魔法と治癒魔法は、 どんな症状や病状だろうが治療が可能だ。だが、隷属の魔法を無効化するには、別の魔法が 必要となる。 先刻、奴隷商が施した隷属魔法による契約は、一種の状態異常に属するらしい。どちらかと 言うと、支援魔法に近い感じとの事だ。確かティルネアより与った支援魔法の中に、支援の 無効化が可能なものがあった。それをリドネイに施してみる。 奴隷商が施した隷属魔法の魔法陣が浮かび上がり、そこに俺とティルネアの支援無効化の 魔法が重なっていく。直後、隷属魔法の魔法陣が木っ端微塵に砕け散った。無論、魔法陣と いう光の集合体なので、物理的な音は発生はしない。 だが、それが何を意味するのかを、目の前のリドネイが痛烈なまでの表情で物語っている。 つまり、これが成功したと言えた。 ミスターT「よし、これで完了だわ。」 ティルネア(はぁ・・・普通、絶対に考えませんよね・・・。) ミスターT「束縛は嫌いだしな、当然の事よ。」 態とらしく胸を張って見せた。その俺を見て溜め息を付くティルネア。目の前のリドネイは 茫然自失の状態である。 しかし次の瞬間、その場に土下座をしながら平伏しだした。そんな彼女の行動を見て、呆気 に取られる。それでも、彼女が抱いている思いは、痛烈なまでに感じ取れた。 リドネイ「お・・恐れ多くも・・・。」 ミスターT「今は、何も言わんで良いよ。」 俺もその場に片膝を付きつつ、彼女の上体を両手で起こし上げた。目には涙を浮かべつつ、 こちらを見つめてくる。その俺達の隣に、静かに佇むティルネア。 リドネイ「な・・何故、この様な事を・・・。」 ミスターT「俺はリドネイには奴隷としてではなく、盟友として接して貰いたい。それには、こんな 奴隷の首輪に隷属の魔法など無用よ。」 リドネイ「し・・しかし・・・。」 非常に困惑した表情を浮かべている。奴隷の身分から解放されたのは確かだが、それが逆に 彼女を束縛させているかのようである。 その彼女の傍らに静かに座りつつ、床に置かれた手に手を添えるティルネア。そちらを窺う リドネイに、小さく微笑み返した。 ティルネア(では尋ねますが、貴方は今後、マスターを裏切るつもりはあるのですか?) リドネイ「そ・・そんな事は、一切考えていません! それに・・・その様な事を行うつもりも、 一切ありません! この生命を以て誓います!」 ティルネアの問いに、明確にそう言い切るリドネイ。本来ならば、大声で叫び返したいの だろうが、既に夜となっているため声色を抑えている。見事としか言い様がない。 ティルネア(ならば、マスターの意向を汲んで下さい。マスターが望まれるのは、貴方が戦友以上の 盟友として有り続ける事です。) リドネイ「・・・かしこまりました・・・。」 ティルネア(それと、私とマスターに敬語は不要ですよ。) リドネイ「それだけはご勘弁を・・・。」 既に腹が据わったのか、ティルネアの言葉に力強く頷く。しかし、敬語無用に関しては、 逆に力強く反論してくるリドネイ。明確なまでの応対だ。それに苦笑いを浮かべるしかない。 ミスターT「直ぐには慣れないだろう。今は普通に接してくれれば良いよ。」 リドネイ「・・・了解致しました。」 ティルネア(はぁ・・・まあ良いでしょう。) 小さく溜め息を付くティルネア。彼女は無論、俺の方もリドネイの意固地なまでの一念を 痛感せざろう得ない。その据わりは尋常じゃないぐらいのものだ。 奴隷商館で感じた、気品と気質の力強さ。それに対して半信半疑だったが、今は確信を以て 彼女の強さであると痛感している。同時に思う、彼女は何処かの貴族かも知れないと。 ただ、ダークエルフの種族に貴族があるのかどうかは不明だが・・・。それに、人間社会に 溶け込むとしても、その容姿からして忌み嫌われると思われる。 更に貴族となれば、爵位を持つ事になる。ダークエルフ族がそれを得る事が可能なのかと 思ったりもするが、今現在は不明である。 ともあれ、これでリドネイを半完全に救う事ができた。外面と内面の両者である。後は、 彼女自身の境遇に関してだが、これは追い追いで良いだろう。 そして、ティルネアを除けば、異世界ベイヌディートで初めての仲間となる。先程は盟友と 謳ったが、実際に盟友の間柄に至るには時間が掛かるだろう。 彼女に心から信頼されるように、今後も誠心誠意対応をせねばならない。 視点会話へと続く。 |
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