アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第3話 昇格試験への加勢7〜
ミスターT「これで準備は完了だの。」

    防具屋での吟味時間に物凄く時間が掛かり、時刻は既に夜を回っていた。それだけ、4人の
   昇格試験への意気込みが強いという現れである。彼らの方も満足がいく防具を選んだようで、
   疲労感はあれど清々しい表情を浮かべていた。

サイジア「結構な出費になりましたね・・・。」
ミスターT「まあそう言いなさんな。後は報酬で巻き返せば問題ないさ。」

    各硬貨袋を確認するサイジア。彼が4人の財政係のようである。幾分か出費がデカかったの
   だろう、顔が引きつっているのが何とも言えない。

    俺の方も、資金は残り銀貨21枚に銅貨1000枚程度である。昨日得た銀貨315枚が、
   一気に15分の1まで減ったのは見事だわ。まあでも、必要な出費だったから致し方がない。

    それに、銀貨100枚でリドネイを仲間に迎え入れられたのだ。ここは、幸運極まりないと
   言うしかない。

    そう言えば、昇格試験でも討伐報酬は出るのだろうか。確かに討伐した魔物の素材を売却
   すれば、それなりの資金は得られるだろう。それとは別の報酬である。

ウェイス「ミスター、そちら方の報酬に関してなんだが・・・。」
ミスターT「ん? 俺達は無償で構わんよ。そもそも、こちらから踏み込んだ訳だし。」

    こちらの言葉に、深い溜め息を付く彼ら。薄々は感じていたと思われるが、実際に言われる
   と呆れるのだろう。それにこちらとしては、相手の魔物に何処まで通用するかが本音である。

    ここで出鼻を挫かれるようでは、異世界事情に対応ができない恐れが高い。再度、戦力の
   見直しが余儀なくされる。逆に、もし柔軟に対応が可能ならば、そこから更に戦力を見直して
   いく事もできる。全く問題はない。

    どちらにせよ、初戦が非常に重要だ。気を引き締めて挑まねばな・・・。



    再び、冒険者ギルドへと戻る。こちらでは飲食も可能とあるので、夜食を取る事にした。
   何でも彼らが奢ってくれるとの事だ。非常に有難い。

    すると店内に入る際、慌てて出て行く人物とぶつかりそうになる。フードを被った幼子の
   ようで、そのまま走り去って行った。その後に出てくる冒険者の面々。その面々の表情を見て
   直感する。

    どうやら、何らかの“イザコザを起こした連中”なのだと。雰囲気からして、悪人の気質が
   感じ取れる。これに関しては最早、警護者の職業病そのものだわ。

    初対面であろうが、一瞬の遭遇であろうが、相手の様相を瞬時に読み切る事が重要になる。
   これを怠ってしまえば、こちらの寝首を掛かれるのは言うまでもない。

    ヘラヘラとした様相で去って行く連中を、背後から射抜くかの様な目線で睨んでやった。
   その俺の様相に、他の5人は驚いている様子である。


受付嬢「お帰りなさい。」
ミスターT「ただいま。」

    改めて、ギルド内に入店する。そこでは箒と塵取りを使い、店内を掃除する受付嬢がいた。
   その様子を窺うと、そこで何らかの出来事があったと推測ができた。

    身内が挙げるネタを拝借するなら、間違いなくイベントの類だ。先の幼子の去り具合と、
   あの連中の表情を窺えば、容易に想像ができる。

ミスターT「・・・それ、さっきの連中か?」
受付嬢「ええっ・・・分かってしまうのですか・・・。」

    全ての意味合いを込めて、サッと一言だけ述べてみる。すると、驚愕する受付嬢だった。
   この手のトラブルは、日常茶飯事だと言わんが如くである。

    掃除を完了させ、道具を片付ける彼女。そのまま、俺達の方に近付いて来て、小さく呟く。

    何でも、先程の連中のパーティーに属していた少女に、エラい悪態を付いたようである。
   温厚そうに見えた少女も、流石に激怒したようで暴れたそうだ。

    しかし、力量の差により、未遂に終わらせられたようである。先程、受付嬢が片付けていた
   のは、休息時に飲んでいたものが入ったグラスらしい。

    他の5人に伺ったが、グラスの破壊音は聞こえなかったので、防具屋から出た後の話になる
   ようである。


ミスターT「はぁ・・・何処にでもカスはいるもんだな・・・。」
受付嬢「そ・・そうですね・・・。」

    俺のボヤきを聞き、苦笑いを浮かべる彼女。冒険者ギルドの受け付けを担う彼女とすれば、
   こうしたトラブルは日常茶飯事だろうな。ただ、俺がボヤいた部分を踏まえると、そう言った
   事を言う様な人物じゃないと思っていたようである。

    俺はこの手の理不尽・不条理な対応には、断固として徹底抗戦をするクチだ。先程の様相を
   見れば、どちらが苦しんでいるか一目瞭然である。となれば、次の助け人はあの幼子だろう。

ウェイス「フッ・・・ミスターも苦労人だな。」
ミスターT「まあ・・・褒め言葉として受け取っておくよ。」

    こちらの雰囲気を察したのか、呆れ気味にボヤくウェイス。他の3人も呆れ気味である。
   しかし、今に始まった事ではないのは確かだと、苦笑いを浮かべてしまっている。

    彼らと遭遇した流れを踏まえれば、お節介焼きに世話焼きなのは言うまでもない。それが
   俺の生き様である。昔も今もこれからも、このスタイルは貫き通していく。

    ともあれ、今は4人の昇格試験の問題が最優先だ。それに明日の戦いが、俺の今後の命運を
   分けると言えなくもない。


    その後、何時ものテーブルの椅子に腰を掛け、夜食を取る事にした。今までは彼ら4人の
   愛用の場だったが、そこに俺とリドネイも合流した形である。

    今ではすっかり打ち解けた感じになり、注文した夜食を楽しく取る事ができた。彼らとは
   昨日知り合った仲ではあるが、今では最早盟友の域に近くなっている。

    これは同じく、昨日知り合ったリドネイも同じである。主人と奴隷の身分ではあったが、
   今はその柵は一切ない。あるのは、お互いを信頼する間柄、つまり盟友の域である。

    ただ、まだまだ彼らの事を知らない面も多い。今後のコミュニケーションが重要となって
   くるだろう。

    彼らと心から信頼し合えるように、俺の方も尽力していかねばならない。



    ちなみにだが、夜食の後はトランプゲームに没頭した。以前、身内と嗜んだゲームがあり、
   “ダウド”というものである。

    トランプ自体は、異世界ベイヌディートにも存在する娯楽品と言う。だが、俺が持っていた
   一品は珍しい素材で作られていると驚いていた。

    ダウドの内容に関しては、開始する人物から若い番号順にカードをテーブルに置いていく。
   そこから順に番号が上がっていき、番号に順ずるカードを置いていく流れになる。

    当然、順ずるカードを必ず持っているとは限らない。それを周りに悟られないように置く
   のが、このゲームの醍醐味だ。その逆もあり、手持ちにあるのに態と別のカードを置く場合も
   ある。

    仕舞いには、手持ちのカード全てをドンッと置くのもあったりする。その場合は、周りから
   一斉に異議ありの言葉、“ダウド”が叫ばれるのだが・・・。

    これを初プレイした時は、身内と共に大爆笑したのが懐かしいわ。特に無策を突っ走り、
   開始と同時に態とらしく全カードを置く強者もいた。その後はダウドの大合唱である・・・。


    そして、今正に身内達と興じた流れが展開されている。最初は真剣にプレイしていた5人
   だったが、慣れてくると逸脱した行動を取り出してきた。特にナディトとエルフィが顕著で、
   不意に放たれる異議の言葉で大混乱を巻き起こした。

    堅実にプレイしているリドネイは無論、ウェイスとサイジアも馬鹿馬鹿しくなったのか、
   仕舞いにはその流れに乗り出してしまっていた。

    初めてのゲームの内容とあり、馬鹿馬鹿しいプレイ内容でも大爆笑しているのは言うまでも
   ない。こうした一時が、この異世界には非常に重要なスパイスだろう。

    娯楽の世界は、本当に奥が深い。故に、どの様な世界でも受け入れられ、浸透していくの
   だと痛感せざろう得ないわ。


    殺伐とした異世界事情に、まるで旋風を巻き起こすかのようである。そう・・・この俺達の
   余興を窺っていた受付嬢が、後に大々的にダウドを広めていった。

    これが異世界で伝染するかのように広まっていった事に、この時の俺は窺い知る術はない。

    視点会話へと続く。

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