アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第04話 追放の獣人1〜
    冒険者ギルド内の酒場。そこで俺達が興じていた通称“ダウド事変”は、周りの度肝を抜き
   続けたらしい。トランプを用いたゲームはあれど、あの様なタイプは初めて見たとの事だ。

    地球では非常に馴染み深い手法だったため、何気なく興じてしまったのだが、どうやら非常
   に印象深かったようである。特に受付嬢には相当インパクトを与えたようである。

    ちなみにその時知ったのだが、彼女の名前はテネットとの事だ。出逢って2日目に名前を
   知ったのは、何だか失礼だった気がしてならない。それを直接語ったのだが、気にするなと
   一蹴された。

    彼女もかつては冒険者だったようだが、雑務の方が性分に合うのだと引退したようである。
   しかし、その眼光は諦めた者のものではない。何れ機会があれば、返り咲く事を決意している
   ようだ。

    ともあれ、この異世界に到来してからは、実に不思議な縁に恵まれている。本当に感謝に
   堪えない。



    ダウド事変から翌日。以前の宿屋で再宿泊し、冒険者ギルドへと向かう。既に俺とリドネイ
   は冒険者となったので、問題なく行動ができた。

    特にこの宿屋は冒険者に融通が利くらしく、宿泊料を1割ほど割り引いてくれた。新米の
   冒険者に対しての配慮だったのだが、それが今では全ての冒険者に適応されている。冒険者
   ギルドの真ん前に位置している事から、こうした厚意が成り立つのだろうな。

    このラフェイドの街は、色々な狩場への中継地点として成り立っている。冒険者達にとって
   非常に過ごし易い。

    そのためか、とある出来事を目の当たりにする事になった。


    冒険者ギルドへと入店し、何時ものテーブルに陣取る4人と合流。暫く雑談をしつつ、今後
   の行動に関して打ち合わせを行った。

    そんな中、それは起こった。カウンター前にいた冒険者達が騒ぎ出したのだ。そちらへと
   視線を向けると、気になる人物がいた。

    昨日、冒険者ギルドへと入店する際に、ぶつかりそうになった幼子だ。その幼子を明らかに
   見下している他の連中。そう、あの連中だ。

    この幼子だが、昨日も今日も茶色のフードを被っており、頭は見えず表情は表面的にしか
   見えない。それでもその雰囲気は、怒りと悲しみの色が濃かった。


冒険者1「お前は全く役に立たん。よって、このパーティーを追放する。」
幼子「何をいきなり・・・理不尽すぎるじゃないですか!」
冒険者2「ハハッ、何とでも言え、役立たずが。」

    ・・・これはアレか、身内が挙げたネタの1つ、“追放モノ”の一例か・・・。

    地球にて、身内から見せて貰った作品に、ああいった追放者を題材としたものがあった。
   主人公の人物が、パーティーメンバーの連中に追放される流れである。

    それを見た時、明らかに理不尽・不条理なものであると痛感した。我が事のように怒りが
   湧き上がってもいる。実に馬鹿げているとしか言い様がない。

    しかしながら、その追放される者は、実は非常に優秀である事が通例だった。能ある鷹は
   爪を隠す、古事ならではの様相だろう。そして、追放する側の末路は悲惨なものだったが。

冒険者3「ここでお別れだな、役立たずさんよ。」
幼子「ぐっ・・・。」
冒険者4「ふん、せいぜい誰かに養って貰うんだな。」

    それでも、ネタはネタであり、今の目の前の現状は現実。それを目の当たりにし、怒りと
   憎しみが沸々と湧き上がってくる。俺はこの手の、理不尽・不条理の概念が大嫌いだ。

    無意識に動いていた。徐に椅子から立ち上がると、そのまま劣勢に立たされている人物へと
   歩み寄って行く。今はこれが最善の行動だ。


ミスターT「ふむ・・・ならば、俺が彼女を養うとしようか。」

    “元”パーティーメンバーの悪態を受けて、その場で俯き続ける幼子。その彼女の真後ろ
   へと進み出つつ、怒りと悲しみに震える小さな両肩にソッと手を置いた。

    突然の介入者に幼子は無論、他の愚者共は驚きを示している。そして痛感した。この愚者共
   の実力は、取るに足らない雑魚共であると。逆に、目の前の幼子の力に驚愕してしまう。

    もし、この力を測れずに追放したのなら、コイツ等の実力はたかが知れている。目の前の
   幼子の力は、実際の所は相当なものだと言わざろう得ない。

冒険者2「だ・・誰だ貴様は!」
ミスターT「カス共に名乗る意味はない。とっとと消えろ。」
冒険者4「なんだとっ?!」

    こちらの介入に、一気に殺気立って行く連中。ターゲットが幼子から俺へと変わった事が
   確認できた。一応、一安心と言う感じだろう。

    その俺達の真向かいのカウンターには、実に嫌味そうにニヤニヤしているテネットがいた。
   ただ、何処かしら安堵している感じでもある。直接介入してくれれば良かったのだが、彼女は
   ギルド職員なので中立を保ったのだろう。

冒険者1「勝手な事をして貰っては困るな。ソイツは俺達のパーティーメンバーだ。」
ミスターT「馬鹿も休み休みに言え。先刻、お嬢を追放すると言ったばかりだろうが。」
冒険者3「ぶ・・部外者がでしゃばるなっ!」

    これである・・・。テメェ等が劣勢に立たされた途端、今までの流れを覆してくる。カス共
   に有りがちな、その都度の理由の付け替えだ。本当に馬鹿馬鹿しい。

    そんな俺のやり取りを窺い、ハラハラしだしている幼子。ただ、先程までの怒りと悲しみは
   伏せたようである。今はこうして、彼女の背中を守れる事に、とにかく安堵するしかない。


    一触即発のその場。そこに更なる介入者が現れる。テーブルの方で一部始終を窺っていた
   リドネイと、ウェイス・サイジア・ナディト・エルフィの4人だ。

    すると、目の前の愚者共は恐れ慄きだした。恐らく、彼らの姿を見たからだろう。目の前の
   連中よりも体躯は凄まじく、荒くれ者の様相を醸し出している。それに、コイツ等より遥かに
   背丈もデカい。

    特に感じられたのが、リドネイの一念だ。俺に近い怒りを抱いている事が分かる。流石に
   憎しみは抱いてはいなかったが。4人の方も、かなりの怒りを抱いているようだ。

冒険者2「な・・何だ貴様等は・・・。」
ナディト「ハッ! 雑魚に語る名などねぇよ!」
エルフィ「そちらの目は節穴のようですからね、雑魚そのものですし。」
冒険者4「ぐっ・・貴様等・・・。」

    先程以上に暴言をぶつけてくる連中。だが俺の時とは全く異なり、相手は完全に怖じた状態
   に至っている。俺の場合は、態と“殺気と闘気”を抑えたため侮られたのだろう。

    と言うか、連中に暴言を言い放つナディトとエルフィ。その2人が何処か楽しそうにして
   いるのは何故だろうか・・・。そう言えば、身内の彼らも同じ言動をした事があった。本当に
   良く似ている・・・。

冒険者1「貴様等・・・俺達Dランク冒険者、“黒い鴉”と知っての狼藉か?」
ウェイス「“くろからす”? ハゲタカの間違いじゃないのか?」
冒険者3「な・・なんだとっ?!」
サイジア「返しますが、こちらは今日、Aランクに昇格するパーティーなのですがね?」

    ウェイスの見事な揶揄に、顔を真っ赤にして激怒しだす連中。一応、Dランク冒険者という
   位置付けらしいが、全く聞いた事もない名前のパーティーである。

    それよりも、サイジアの追撃で語った言葉に驚愕しだした。連中よりも3段階、上位に位置
   する冒険者達である。実際には、今はまだBランクではあるが、ハッタリとしては上出来な
   ものだろう。


    冒険者登録を行う際、テネットから聞かされた事がある。冒険者のランク制度に関しては、
   非常に上下関係が強いと言う。たった1ランクだけ高いだけでも、全く頭が上がらなくなる。

    ただし、その仕様に傲り愚行に走れば、即座に警告を受ける事にもなる。しかも、二度目は
   冒険者ライセンスを剥奪されるとの事だ。仕舞いには、指名手配されると言われている。

    冒険者ギルドは、罪を犯した相手に対して徹底的に攻めるに至っている。それを考えれば、
   とても悪態に走る事などしないだろう。だが、この目の前の愚物共は、それを完全に逸脱して
   いた。

    事の発端は、幼子を理不尽なまでに追放した事変だ。昨日の言動からしても、この流れは
   既に起こっていたと見て取れる。

    それに、決定的な証拠も挙がっている。それは昨日、“掃除と言う名の後始末”をしていた
   受付嬢ことテネットが、その全てを目撃していたからだ。

    あの時は何も言っていなかったが、今の彼女の表情を窺えば、執行猶予は終わっている。
   次の裁定を行おうとした矢先、俺が介入した形になったのだろうな。だから、彼女はニヤニヤ
   としていたと思われる・・・。

    中半へと続く。

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