アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第04話 追放の獣人7〜
ウェイス「ふぅ・・・恐ろしいわ・・・。」
サイジア「本当ですよ・・・特に・・・。」
リドネイ「な・・何ですか・・・。」

    そう言いつつ、傍らにいるリドネイを見つめる2人。呆れた表情に気付いた彼女は、顔を
   膨らませて怒りだした。それを見た彼らは噴き出してしまう。

    即興で行われた連携攻撃には、ただ脱帽するしかない。攻守共にマッチングしたからこそ、
   見事なまでの猛攻となったのだ。警護者界でも、ここまで凄い業物は滅多に見られない。

リドネイ「でも、叱咤激励の効果は確認できませんでしたね・・・。」
ミスターT「いや、多分命中の方に効果を発揮していると思う。」

    自身のスキルの効果を懸念するリドネイ。だが、少なくとも効果はあったと思われる。命中
   の精度が上がる事は、必然的に火力の増加にも直結してくる。先の3人の猛攻を踏まえれば、
   如実に効果が出ていた。

    それに、命中力が上がる事は、相手の回避力を無視する形にも繋がる。もし3人の命中力が
   高くなければ、ブラックハウンドは直前回避を行っただろう。それだけ、非常にシビアな状態
   だったと推測できた。

エルフィ「ま・・まあともあれ、何とか倒せて良かったですよ。」
ミスターT「本当にそう思うわ。」

    事切れたブラックハウンドを見つめ、俺達は深い溜め息を付いた。それなりの実力は持って
   いたと思われる4愚物。その連中を、物の見事に瞬殺した。

    その相手を倒せたのだ。今はただ一安心と言った所である。ただ、まだ戦いは終わっては
   いない。


    後方の憂いを絶った事を確認し、俺達は正面へと向き直る。今もナディトとトーラが警戒を
   してくれている。その先では、パワーベアー達とブラックハウンドの死闘が続いていた。

    しかし、流石のブラックハウンドも、更に湧き出てくるパワーベアーに押され気味だった。
   攻撃力と機動力で翻弄し続けてはいたが、数の暴力で戦闘力を殺いでいっている。

    そして、致命の一撃が入った。パワーベアーが放った爪の攻撃が、ブラックハウンドの左目
   に当たったのだ。その一撃で転倒すると、有無を言わさずに圧し掛かるパワーベアー達。振り
   払おうとするブラックハウンドに、数多くの爪が炸裂していった。

    後は言うまでもない、殺戮の様相である。強者たるブラックハウンドも、仲間を殺害された
   事に対しての反撃には為す術がない。パワーベアーにそこまで感情があるかは不明だが、彼ら
   の執拗な猛攻に圧倒されてしまった。

    異世界ではあるが、自然界の猛威をマザマザと見せ付けられた感じである。ここでも、弱肉
   強食の理は健在だと痛感させられた。



    真の脅威たるブラックハウンド達が沈黙。それぞれの激闘が終わると、自然とお互いに対峙
   する。俺達とパワーベアー達が真っ向から睨み合った。だが、相手の闘志や殺意は感じられ
   ない。

    推測だが、俺達の背後に横たわる、ブラックハウンドの遺体を見たのだろう。パワーベアー
   達も集団で倒した同じ相手だ。相手の強さを知っている故に、こちらを強者と取ってくれたの
   だろうな。

    その予感は一応的中する。警戒を解いて去って行くのだ。追撃をすれば、無事では済まされ
   ないと直感したと思われる。こちらとしても、そのまま攻めて来るなら全滅させるつもりで
   いた。その一念も察知したのだと思われる。

ナディト「推測なんすが、ブラックハウンドを警戒していたのかも知れないっすね。」
ミスターT「ああ、有り得る話だわ。」
エルフィ「あそこまで出現するのは、なかなかありませんからね。」

    その場から去って行くパワーベアー達を、ただ黙って見送った。既に討伐対象分の個体は
   撃破しており、これ以上の撃破は意味がない。それに、ナディトが挙げる通り、不測の事態
   たるブラックハウンドに警戒していたと思われる。

    昇格試験の戦いだったが、正に激闘と死闘そのものだった。ウェイス達だけでは、間違い
   なく達成できなかっただろう。本当に良かったと言うしかない。


サイジア「とりあえず、討伐証明だけは確保しましょうか。」
ウェイス「そうだな。彼らの方も、それを見越しての放置だろうし。」

    全てのパワーベアーが去って行った後は、森に静けさが訪れていた。そこにあるのは、先の
   戦闘で倒された彼らの遺体と、宿敵ブラックハウンドの遺体。そして、4愚物の遺体だ。

ウェイス「ミスター、連中の遺体はどうする?」
ミスターT「下手に手を出したら、要らぬイザコザが起こるのがな・・・。」
リドネイ「となると、一旦街に戻って、テネットさんにご連絡した方が良いと思います。」
ナディト「了解っす! 直ぐに向かいますね!」

    有限実行とばかりに、ナディトと付き添いのエルフィとリドネイが街へと向かって行く。
   素材入手は、引き続きウェイスとサイジアが行っている。

    本来ならば、4愚物の遺体は放置で良いのだろう。敵認定の輩に関しては、一切の感情は
   無用だ。テネットから伺った通り、連中は害悪でしかない。傍らにいるトーラも被害者の1人
   である。

    それに、酷い言い方だが、俺が直接手を下す必要はなかった。ブラックハウンドという強者
   によって倒されたのだ。油断さえしなければ、4愚物でも何とかなった相手であろう。

    一応、冒険者と言う部分からして、正確な連絡・報告はすべきである。そこで、ナディトと
   エルフィとリドネイが連絡役を買って出てくれた訳である。


トーラ「・・・あの、ありがとうございます・・・。」
ミスターT「ああ、気にするな。」

    俺の心中を察したのか、小さく感謝を述べてきた。トーラが思うのは、冒険者ギルドでの
   一連の事変だろう。こちらとしては、理不尽・不条理の概念が許せなかった事になるが。

    傍らにいる彼女の頭を優しく撫でた。それに笑顔で見つめてくる。実質的に、彼女の柵は
   全て消えたと取っていい。他にもあるだろうが、現状の壁は消え失せたと確信が持てる。

    同時に、因果応報の理があるのだと痛感させられた。己が力を間違った方に使えば、愚物共
   の様な末路に至るのだと。俺自身も、肝に銘じておかねばならない・・・。


    昇格試験の討伐証明となる、パワーベアー達の素材。それらを全て回収し終わる。また、
   2体のブラックハウンドの素材も回収しておいた。結構な高額で売れるらしい。

    パワーベアー達の素材は相当な数となった。討伐証明以外は、ウェイス達の個人財産になる
   ので、一切無駄にはならない。ブラックハウンド達は、追加報酬的な感じだろう。


    その後、ナディトとエルフィとリドネイが戻って来るまで、その場で警戒しつつ待つ事に
   した。パワーベアー達や4愚物の遺体が転がっている現状、とても落ち付ける状況ではない。

    まあ、腐敗臭が漂いだすのは翌日ぐらいからだろう。今は現状をそのままにして、実証見聞
   をして貰うのが無難だ。下手にいじっては、要らぬイザコザが発生しかねない。

    ともあれ、昇格試験の戦いは、無事終わったと思える。今は一安心と言った所だ・・・。



    数時間後、ナディトとエルフィとリドネイが戻って来た。テネットは無論、他のギルド職人
   数人に、別の冒険者達も一緒だ。その規模からして、彼らの移動手段は馬車である。その彼ら
   が現状を見て、目を見開いていた。

    ブラックハウンド2体は異常枠だったが、それ以上にパワーベアー達の数が尋常じゃない。
   50体以上はいたであろうか。それ以外にも、撤退した個体も踏まえれば、100体は居たと
   思われる。

    幸いにも、パワーベアー達は生粋の交戦的な種族ではないようで、追撃分は行わなくても
   良いらしい。むしろ、不意の来訪者たるブラックハウンド達の方が脅威だとの事だ。

    そして、4愚物の惨事の様相も語った。とは言うものの、連中を一刀両断的にしたのは、
   ブラックハウンドの超常的な力によるものだ。流石の俺でも、あそこまで綺麗に斬殺は不可能
   である。

    そのブラックハウンドの猛攻を押し留めたウェイスとサイジア。弱体化の力が掛かっていた
   としても、よくぞまあ止められたと思うわ・・・。


    魔物達に関しては、討伐証明たる素材群が証拠となる。既に素材は確保しているため、後は
   冒険者ギルドに戻って上納すればいい。

    4愚物に関しては、その場で放置で良いらしい。連中の悪行は手に負えなかったようで、
   正に自業自得で片付けられた。テネットや他の職員からの“嫌な”お墨付きである。付き添い
   の冒険者達からも、同じ様なお墨付きを貰うに至っている。

    一体どれだけの悪行を重ねれば、ここまで見放されるのやら・・・。まあでも、最後は連中
   を超越する存在に瞬殺された訳だ。上には上がいる、それが世上の理である。


    現状の様相を再確認し、正式に昇格試験は終了となった。一同して街へと戻る事にした。
   時刻は既に夕方に近い。街に戻る頃には夜になっているだろう。

    ふと、激闘と死闘を繰り広げた場所を一瞥する。先の戦闘の様に、死と隣り合わせなのが
   冒険者だと痛感させられた。地球での警護者の生き様と全く同じだ。

    それでも、この異世界を救うという意味合いでは、実に些細な戦いであろうな。今後は更に
   激闘と死闘が繰り広げられると思われる。

    そんな事を思いつつ、馬車の中から表を見つめ続けた。街への道中は、まだまだ掛かる。
   懐から煙草セットを取り出し、徐に一服をする。一時の休息に酔い痴れた。

    遂行者と言う名の警護者として、今後も気を引き締めて進んで行かねば。創生者ティルネア
   の顔に泥を塗る真似は、絶対にしないように心懸けねば・・・。

    視点会話へと続く。

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