アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜番外編 誇らしい顔1〜
    久し振りに地元を離れて旅をした。とは言うものの大切な人が大勢いるため、本当の風来坊
   へは戻れないが。数日間の旅路ならと彼女達から許可が出たためだ。

    その中で偶然と言えるのか事故に遭遇した。俺自身の事故ではなく、その事故を目撃したと
   言えるだろう。


    現状だが、車と歩行者の接触事故だ。しかも吹き飛ばされた歩行者が屋台に激突。顔に熱湯
   を被るという大惨事となった。
   車側は例の如く飲酒運転だ。しかも朝っぱらから飲むとは腹が据わっているというのか。

    ともあれ、現状は見過ごす訳にはいかない。目撃者として救急と警察に連絡をする。この時
   周りが見て見ぬ振りをする事に非常に腹が立ったが、今は吹き飛ばされた被害者の救助を優先
   するべきだろう。



ライディル(君の行く先々、何らかの出来事が起きますね・・・。)
ミスターT「それは言わないでくれ。」
    被害者の救急処置を終えると、警察機構のトップであるライディルに連絡を入れる。彼の
   言う事には一理あるが、今は現状打開を優先してもらった。
ライディル(とりあえず後始末は任せて下さい。それとできたら被害者の面倒をお願いします。)
ミスターT「了解です。」
   現場の警察官に後始末を任せて、俺は被害者と一緒に病院へと向かう。バイクで旅に出ようと
   思っていたが、彼女達に押し留められて正解だったな。

    その後、救急車に搭乗。一路病院へと向かう。現場の警察官には俺の携帯の連絡先を教えた
   ので、何かあれば掛かってくるだろう。



看護婦「暫くお待ち下さい。」
    救急治療室に運び込まれた被害者。突き飛ばされて激突し、かなりの熱湯を被ったのだ。
   生きている事自体が奇跡といえるだろうか。でもあの被り方だと・・・。
ミスターT「・・・これも宿命か・・・。」
   煙草が吸えないためガムで気を紛らわす。病院へはあまり赴いた事がないため、この雰囲気は
   非常に参る。だが今は被害者の無事を最優先に考えよう。


エシェラ「大丈夫?」
    緊急処置の時間が長いため、俺は廊下の椅子で眠りこけてしまう。いきなり声を掛けられて
   ビックリしたが、その相手は何とエシェラだった。
ミスターT「どうしてここに?」
エシェラ「丁度バイクのメンテナンスに出しに行った時、ライディルさんから連絡があって。代車で
     慌てて駆け付けたのよ。」
   確かに彼女はヘルメットを持ち、出で立ちはライダースーツを着こなしている。女らしさが
   アピールされるその姿にドキリとするが、今はそれどころじゃなかった。
ミスターT「事故を目撃してね。車と歩行者の接触事故だった。突き飛ばされた歩行者が屋台に激突
      して、熱湯を頭に被ったんだ。二次災害と言えるだろう。」
エシェラ「今は緊急手術?」
ミスターT「だろうな。気管までに熱湯が入ったとすると、呼吸困難になるからね。」
   過去に重度の火傷を負った人物を目撃した事がある。その時は風来坊として動いていたため、
   顔を突っ込んでの助けはできなかった。
   だが今は回りに多くのサポートがいる。それに彼女達に原点回帰を何度もさせられている。
   見過ごす訳にはいかない。



    隣に座ったエシェラと雑談をしていると、緊急治療室のドアが開いた。中から医師さんと
   看護婦さんが数名出てくる。運ばれた被害者が出てこない事を見ると、そのままベッドへと
   運ばれたのだろう。

    最近の病院は緊急治療室からエレベーターで他の病室に運べるらしい。何とも技術の進歩は
   凄まじいものだ。
ミスターT「ドクター、被害者の容態は?」
医師「貴方の適切な処置で助かりましたよ。しかし全身打撲に両脚骨折、顔全体の火傷が大きい。
   まだ予断は許せないかと。」
看護婦「面会はできますが、あまり負担を掛ける事はしないで下さい。」
ミスターT「分かりました。ありがとうございます。」
   俺は医師さん達に深々と頭を下げた。ただ事故を目撃しただけの存在なのに、相手の被害者に
   感情移入している。これは実に不思議な事だ。


    エシェラと一緒に病室へ向かう。俺も彼女も相手は全く知らないのに、まるで家族の見舞い
   に行くのは本当に不思議だ。これも何かの縁なのだろう。

    被害者が運ばれた病室に入ると、窓際のベッドにいた。顔を包帯でグルグル巻きにされて
   いる。今気付いたが、この被害者は女性だ。

看護婦「麻酔で眠っています。手荒な行為は控えて下さい。」
ミスターT「心得ています。」
    俺は彼女の傍らに座る。そして徐に彼女の右手に自分の右手を沿えた。ベッドの上にある
   ネームプレートには、ダーク=シャドウナイトと書かれていた。凄い名前だが、エシェラ達も
   同じような名前である。ここは素直に黙認しよう。
エシェラ「酷い・・・。」
ミスターT「女は顔が命と言うのにな。」
エシェラ「何とかならないですかね・・・。」
ミスターT「今は様子見だろう。先ずは意識の回復を待ってからだよ。」
   助かって欲しいものだが、ダークの生命力に賭けるしかない。ここは静かに祈り願うまでだ。



    後々気付いた事だが、ダークは孤児院出身のようだ。しかも俺と同じヴァルシェヴラームの
   孤児院を、出たばかりに起きた事故のようだった。

    年齢はエシェラより若い16歳。俺が働き出した頃と同じ年代だ。それなのにこの出来事は
   悲惨すぎる。これは俺が何とかしなければならないだろう。


ヴァルシェヴラーム(そう・・・ダークさんが・・・。)
ミスターT「俺の方でも面倒は見ます。だからシェヴさんは目の前の戦いを。」
ヴァルシェヴラーム(分かったわ、ダークさんをお願いします・・・。)
    携帯でヴァルシェヴラームに連絡を入れた。つい数日前に孤児院を出たばかりのダークで
   あったため、彼女はかなりショックを受けているようだ。これは俺も一肌脱がねばならない。
   ある意味ダークは妹のような存在だ。今ここで見捨てる訳にはいかない。

    電話を終えると病室へと戻る。事故から2日が経過したが、まだダークは目覚めなかった。
   これが麻酔の効果によるものかは分からないが、とにかく彼女の意識の回復を待つだけだ。



    翌日、ダークが目を覚ました。だが彼女に降り掛かった現実は、あまりにも残酷すぎた。
   辺りを見回す彼女だが、まだ現状が把握できていないようである。
ミスターT「大丈夫か?」
ダーク「あ・・・貴方は・・・?」
ミスターT「君が事故った時に、偶々通り掛った者だよ。」
   徐に起き上がろうとする彼女だが、俺は両手で彼女の肩を優しく掴んで抑制させた。今の彼女
   には絶対安静が義務付けられている。
ダーク「な・・・何なのですか・・・これは・・・。」
ミスターT「辛いだろうが聞いてくれ、実はな・・・。」
   俺は徐に今の現状を彼女に語り出した。それを呆然と聞き入るダーク。本当ならば大混乱を
   引き起こすのだろうが、彼女は目立った混乱は見せていない。

ダーク「そうですか・・・。」
ミスターT「暫く君の傍にいるよ。今は回復を優先させるんだ。」
ダーク「はい・・・。」
    彼女の心境が手に取るようにして分かる。辛い現実を目の当たりにし、認めなくないのが
   実情だろう。だがなってしまった事はどうしようもない。


    翌日から彼女と俺の戦いが始まった。今は火傷と両脚の骨折の治癒を目指す。今はまだ歩け
   ないため、病床での戦いとなる。唯一の救いは彼女が元気な所か。

    精密検査の結果も判明した。熱湯を浴びたこそあったが、頭部へのダメージは一切ない。
   全身打撲はしているものの、内臓へのダメージはなかった。
   しかし事故から数日しか経過していないので、その後どの様な症状がでるかは分からない。

    両脚の骨折はリハビリで何とかなると言われたが、問題は顔の火傷だろう。これは包帯を
   取って見るしか何とも言えなかった。


    徐々に治癒していくダーク。食欲も回復してきており、俺以上の大食ぶりには驚かされる。
   両脚の骨折はまだまだだが、顔の火傷は早い段階で治りそうである。

    問題は彼女がその顔を目撃した時、どの様な心境になるか。ここが大きなものだろう。乱心
   しなければいいが・・・。



    それから2ヵ月が経過した。俺は殆ど付きっ切りで看病した。元から旅路に出るつもりで
   いたので問題はない。急遽病院生活となったため、ここはエリシェの力を借りる事にした。

    患者との生活は本来は認めていないのだが、エリシェの計らいにより一緒にいられる事と
   なった。しかし現実面で色々と忙しいため、彼女達は病院に訪れる事は少ない。


医師「大夫よさそうだね。そろそろ包帯を取ってみようか。」
    ついにその時が来た。骨折はまだまだだが、顔の包帯が取れるようになる。普通なら数ヶ月
   掛かるのだと言うが、ダークの回復力が凄まじい証拠だろう。

    徐に医師が包帯を取り外していく。それを固唾を飲んで見守り続ける俺。見る見るうちに
   素顔が明らかになっていき、それを見た俺は愕然とした。
ダーク「・・・鏡を貸してくれませんか?」
   看護婦さんが徐に手鏡をダークに手渡す。それを受け取り、静かに自分の顔を覗き込む。直後
   彼女は硬直した。

    髪の毛は一旦全部剃られ、表情は窺う事ができないほどに腫れ上がっている。唯一の救いは
   失明をしていなかった事だが、それを通り越せば顔へのダメージは計り知れないものだった。

    声を失うダーク。今は現実を受け入れさせるしかない。それとエリシェに語っている手段も
   必要であろう。



    食欲は今まで通りだが、喋る事が全くなくなったダーク。ただ黙って呆然と表を眺めている
   だけである。顔の包帯を取り外してから1週間、ずっとこの調子である。

ダーク「・・・ミスターTさん。」
ミスターT「ん、何だい?」
ダーク「・・・何故・・あの時助けてくれたのですか・・・。」
ミスターT「愚問だな。苦しがっているお前さんを見捨てる訳にはいかなかったからだ。」
ダーク「でも・・こんな顔になって・・・生きたって・・仕方がないじゃないですか・・・。」
    やはり彼女は自分を責めている。あのまま事故死していれば楽になったのだろうと思って
   いるようだ。
ミスターT「今はとにかく体調の回復を優先しなよ。それからが勝負だ。」
ダーク「何が勝負なのですか・・・、こんな顔の女なんか誰も見向きもしませんよっ!!!」
   凄まじい声で激論するダーク。丁度病室が個室だったので問題はないが、その口調は周りに
   迷惑を掛けてしまう。しかしそれ以前の問題でもあるか。彼女の負った傷は大きく深い。

    泣き出す彼女の顔をこちらに向け、俺は静かに唇を重ねた。それに大きく驚くダーク。唇は
   腫れ上がっていたが、そこから感じ取れる意味合いは大きいだろう。
   少し念入りに口づけをしてあげた。そうでなければ彼女の心が折れてしまうからだ。


    どれだけそうしていただろうか。口づけを終えて彼女の頭を優しく撫でる。痛々しい頭では
   あるが、最大限の癒しを込めて撫で続けた。
ミスターT「俺にはどの様な姿になっても、ダークはダーク自身だ。もっと自分に誇りを持ちなよ。
      それにこの顔は誰にでも誇れる顔だ。お前の事を悪く言う奴は叩き潰してやる。」
ダーク「う・・ううっ・・・。」
   蓋を開けたかのように大泣きしだすダーク。その彼女を優しく抱きしめた。俺にできる最大限
   の慰めだ。ただただ泣き続ける彼女を、静かに抱き続けた・・・。



    更に数ヵ月後。両脚の骨折も完治し、リハビリも順調に行えている。顔の膨れも収まって
   きだしており、包帯を取り除いた時よりは断然よくなっている。
   しかし証明写真の彼女の顔を見れば分かるが、事故前の彼女とは全く別人になっていた。


    そこで予てから手配していた計画を実行する事にした。それは整形手術による顔の回復で
   ある。日本国内では受ける事ができないものなので、この場合はアメリカに赴く事になる。

    流石に仕事などがあるため、一緒には赴く事ができない。そこはヴァルシェヴラームが一役
   買って出てくれる事になった。その代わり孤児院の臨時院長を任される事になったが。


ダーク「ではいってきます。」
ミスターT「暫しのお別れだが、絶対に自分自身に負けるなよ。」
ダーク「もちろんですよ。こう見えても諦めが悪い性格なので。」
    すっかりダークは現実を受け入れられるようになっていた。今の所は俺みたいに覆面をして
   テンガロンハットを被っている。こうする事により、素顔を見せないようにしている。まあ
   顔全体を覆っているため、表情を窺う事は無理ではあるが。

    ヴァルシェヴラームと共に羽田空港へと向かうダーク。約3ヶ月間の旅路となる。事故から
   半年が経過する事になるが、この回復ぶりは凄まじいものであろう。

    その後、2人は飛行機で一路アメリカへと向かって行った。俺は臨時の孤児院長として、
   暫くの間役目を全うしなければならない。


ミスターT「感謝するよエリシェ。」
エリシェ「お気になさらずに。私達にできる最大限の事はしますから。」
    本店レミセンに戻った俺は、ウェイトレス役で動いていたエリシェに礼を述べた。彼女の
   働きがなければ、ダークはアメリカへと赴く事ができなかった。それに今回の整形手術は多額
   の資金が必要となる。ダークの現状では行えないほどのものだ。
エシェラ「マスター、覚悟して下さいね。ダークさん、貴方に心から惚れてますよ。」
ミスターT「ああ、知ってる。そうでもしなければ彼女は心が折れていただろう。俺の身で彼女が
      助かるなら喜んで差し出すよ。」
エリシェ「フフッ、貴方らしい。」
   半ば羨ましさと嫉妬心が目立つが、エシェラもエリシェも俺がした行動は理解してくれている
   ようだ。確かに恋愛に結び付くかも知れないが、全てはダークのためだ。
   それに覆面の風来坊としての生き様から、彼女を見捨てる事などできる筈がない。それこそ
   愚問というやつだろう。

    後半へと続く。

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